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【バクー世界柔道選手権2018特集】意外に面白い新レギュレーション、新たな文化作りつつあるIJF TEAM COMPETITION観戦雑感・男女混合団体戦評

(2018年10月3日)

※ eJudoメルマガ版10月3日掲載記事より転載・編集しています。
【バクー世界柔道選手権2018特集】意外に面白い新レギュレーション、新たな文化作りつつあるIJF TEAM COMPETITION観戦雑感
男女混合団体戦評
→特設ページ・バクー世界選手権2018完全ガイド
文責:古田英毅
Text by Hideki Furuta

eJudo Photo
「男女混合団体戦」連覇を飾った日本チーム

IJFが五輪採用を前提に昨年から導入した新カテゴリ「男女混合団体戦」は、世界選手権2度目の実施となったこのバクー大会も日本が優勝。昨年に続く連覇で強さを見せつけた。

さて、国内においては団体戦というジャンル自体の大ファンを自認する筆者であるが、かねてよりIJFの団体戦にはそれほどポジティブな印象を抱けずにいた。そのもやもやの内容を書き連ねれば、たとえば、引き分けなしとはIJFはまったくもって団体戦の妙味を理解していない、体重別固定配列は戦略性の入り込む余地少なく団体戦でもっとも旨味のあるベンチの駆け引きを楽しむ隙間がない、「個人戦の再戦」の連続はモチベーション低下につながってせっかくの豪華カードの価値を失わせる、内容差規定に厳密さが足りず不公平、そもそも偶数のポジションで団体戦を競わせるなど「男女公平」の都合ありきで勝敗決定という観点を軽視し過ぎではないか、などなど。昨年まで見られた選手の戦いぶりのバラバラ感からも、「結局は個人戦の『おまけ』との認識を最後まで崩せない宿命にあるのではないか」とすら思っていたのであるが、どうしてどうして。「男女混合」の方式採用と、混乱厭わぬルールの改善、そして「五輪での実施」という各国力を入れざるを得ない錦の御旗の存在あいまって、日本の団体戦とは違う方向ではあるが、IJF TEAM COMPETITIONはなかなか面白い発展を遂げているようだ。もちろん改善すべきところはまだまだあるが、新たな文化が生まれつつあると言っても良いと思う。

今回のインプレッションをバラバラと、簡単に記してみたい。もっとも大きいのは、こちらが感じていた以上に「男女混合」形式は柔道普及、特に女子柔道の普及と地位向上に資するということ。

本日は、4題。
「出来立ての『新たな世界秩序』によるオールスター戦」
『男女混合団体戦』は建前でなく女子選手の地位向上に資する」
「『次代の大物』はイナル・タソエフとキム・ミンジョン」
「軌道に乗った男女混合団体戦、ファンが次に求めることは?」


前提として理解しておくべき今大会の主なルール変更点は、
・チームの勝敗が決した時点で試合終了、以降の試合は行わない
・内容差がなくなった (勝利は全て1点として扱う)
・スタート位置が毎回変わる (軽量から重量への体重順という順番は変わらず、試合のスタートポジションが毎回1つずつ後にずれる)

■ 出来立ての「新たな世界秩序」によるオールスター戦
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大会前とは一転、90kg以上枠屈指のポイントゲッターとして団体戦に臨むこととなったウシャンギ・コカウリ。

個人戦終了後の最終日に団体戦が行われるというスケジュールがすっかり根付き、大締めの「お祭り」としての地位が確立しつつあるように思われる。そして、世界選手権で年1回の「序列の再編成」が起ったまさに直後、この新たな世界観で行われる最初の試合が、ツアーではちょっと見られぬ(ひょっとして翌年の世界選手権まで実現しない)豪華オールスター戦であるということは相当に贅沢、まさに「お祭り」にふさわしい。選手間の競技力の差が狭まり個人戦で大がかりな序列の再編成が立て続けに起ったこの2年はことさらこの贅沢感が際立った。昨日定まったばかりの「新たな世界秩序」の幕開け。年度最大の大会の締めであるとともに、この日まさに新しい世界が始まったのだ、という高揚感を感じた。

「新序列によるオールスター戦」という観点から象徴的に面白かったのはアゼルバイジャンチーム。大会前であれば序列に吸収された強者の一に過ぎなかったウシャンギ・コカウリが前日の個人戦100kg超級で大暴れ、これが同じ人物かと疑われるほどの圧倒的なパワーで銀メダルを獲得して見せた。これにより、他国の陣容からすればむしろ「穴」であったはずの90kg以上枠が一転ポイントゲッターポジションに転化、73kg以下枠のヒダヤット・ヘイダロフ(あるいはルスタン・オルジョフ!)に90kg枠のママダリ・メディエフ、そしてこのウシャンギ・コカウリとスター級を揃えたアゼルバイジャンは一躍優勝候補に浮上。コカウリが小川雄勢を投げ飛ばして一時は代表戦突入が有望視された準々決勝は、間違いなく王者日本をもっとも苦しめた試合であった。今後も、この「新序列によるオールスター戦」という豪華なお祭りは、世界選手権という特別な場にふさわしいガライベントとして一定の地位を築いていくものと考える。後述するが、この価値観に加わる国が増えるであろうことで、イベントとしての地位は向上し続けると思われる。しらけて静観する国(ここから目を背けてはいけない)はどんどん減っていくであろう。ベクトルは明らかに上向きだ。

■ 「男女混合団体戦」は建前でなく女子選手の地位向上に資する
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日本をもっとも苦しめたアゼルバイジャン。女子57kg以下枠にはモンゴルからの移籍選手イチンホルローを注ぎ込んだ。

前述アゼルバイジャンは男子にこれだけの陣容を揃えるが、イスラム文化が濃い国の例にもれず、女子は脆弱。78kg超級にイリーナ・キンザルスカがいることで強国の印象があるかもしれないが、この世界選手権全7階級9つの枠にエントリーしたのは彼女を入れて僅か4人のみ。この男女混合団体戦には、70kg以下枠にこれまで78kg級と兼任で過去国際大会で10戦して2勝8敗のグネル・ハサンリを、57kg以下枠にはシニアIJF大会では実質未勝利(マダガスカル選手に1勝の経歴がある)もかつてモンゴルからアジアカデ選手権に出場して優勝の記録がある移籍選手イチンホルロー・ムンフツェデフを起用して、いわば強行出場した。

率直にいってこの2名は国際大会を戦うレベルにあらず、力は「人数合わせ」の域。ところが各国とも全階級にあまねく水準以上の女子選手を並べることが難しい事情にあって、ともかくしっかり出場選手を揃えることは非常に重要。強国オランダと戦った敗者復活戦は強豪同士がマッチアップした男子枠では勝負がつかず、結果としては双方の弱点であるはずのイチンホルローとデューウィー・カルトハウス戦の勝敗がチームの運命を決めることとなった。登録選手に世界選手権のメダリスト3人を擁する男子ではなく、IJF大会入賞歴ゼロの選手同士が戦った女子が国の運命を分けたわけである。母国の名誉を背負って総試合時間12分を戦いぬいたイチンホルローの表情、達成感あり。

移籍選手を受け入れてまで女子の強化(刹那的ではあるが)を図ったアゼルバイジャンの姿勢が実った形であったが、これは男女混合団体戦で上位を狙うための明らかな「解」のひとつ。総合力重視のこのレギュレーションにあっては、男子にメダリスト級を揃えるよりも女子の強化を図る方が明らかに近道。今後もこれら「男子が強いが女子は脆弱」な国の、女子強化の取り組みが進むことは間違いない。

これまでの「国別団体戦」であれば「男子で勝つから女子は出ない」(たとえばジョージア)と済ませていたところが、女子を揃えねばそもそも参加自体が出来なくなってしまうわけだから、やはりこの制度変更のインパクトは大きい。伝統的に最軽量級と最重量級に複数の好選手を擁しながら人数揃わず今回は事実上の棄権(3枠で欠場)で試合を終えたトルコは、男子に次々移籍選手を迎え入れて五輪への野心満々であるし、前述、男子は世界王者レベルの陣容を誇りながら女子選手のエントリー0人のジョージアですら、将来的になんらか取り組んで来る可能性がある。もしそうであれば国の文化自体にインパクトを与えることになるわけで、柔道の果たす「仕事」、なんとも大きいではないか。

今大会から採用された「1試合ごとに出場順がずれる×先に4勝すれば試合が終わる」レギュレーションではこれまで以上に総合力が、より重要となってくる。1ポジション、2ポジションが強いだけではそもそもポイントゲッターを畳に送り出す前に試合が終わってしまう可能性があるし(実際に日本-モンゴル戦ではモンゴルの得点源である73kg以下枠のガンバータル・オドバヤルと57kg以下枠のドルジスレン・スミヤが畳に出る前に試合が終わってしまった)、スタート位置によっては前3戦のうち女子が2戦を占めてここで試合の大勢が早々に決してしまう場合もある。当たり前だが、男子のスターポジションと、世界的に普及率まだまだ(男子に比べれば)の女子の1枠は、まったくの等価だ。個人戦を見渡してもまだまだ層が薄く、男子に比べると魅力的な競り合いの少ない女子柔道であるが、この「男女混合団体戦」は普及的な突破口になり得る可能性があるのではないか。五輪の精神、建前にあらず。やってみるもの、である。

■ 代表戦への緊張感、比類なし。さらにクローズアップされる「総合力」
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今大会唯一の代表戦、ブラジルのソウザがキューバのオルティスを抑え込む。

引き分けなしのIJFレギュレーション、さらに今回から内容差を廃したことで、3-3のタイスコアによる代表戦突入の可能性が飛躍的に増した。この「代表戦突入」シナリオが醸し出す緊張感、各試合に掛かるプレッシャーの重さはこれまでの比ではない。代表戦は本戦の再試合、全試合からの抽選によって1試合がピックアップされる。当たり前だが、50%の確率で「負けカードの再試合」を強いられるという非常に厳しいレギュレーションだ。この点、大駒1枚を擁することで「保険」が掛けられる任意代表制、またある程度の競り合いが事前に保証される引き分けカード再試合制とは根本から性質が異なる。強いチームにとっては何が何でも本戦で4点先取して試合を決めてしまわねばならないだろうし、戦力に劣るチームにとってはとにもかくにも代表戦に持ち込めばカード次第で勝ちの目が出てくる、一発逆転の利く一種ギャンブル性の高い制度だ。

下手をすると弱点階級1つで本戦、代表戦と2連敗してチーム自体が陥落というシナリオが十分ありうるわけで(国内の代表戦ルール2種類ではいずれも、弱点選手がチームにもたらす失点は「1」のみである)、絶対に勝ちたいのであればとにかく弱点階級を1つも作るわけにはいかない。前述「女子選手の地位向上に資する」項を、この「内容差廃止」制度が大いに後押ししているわけである。

少しでも強いチームの側に論理的に勝利を与えるという精神(国内の団体戦制度はこれに近いのではないか)とはルール決定のポリシーが決定的に違うように思われる。敢えて言えば「エキサイティングな試合の創出」と「各ポジションの選手の責任の公平化」といったところか。日本国内の団体戦とはまったく違う方向性だが、IJF TEAM COMPETITIONとして独自の面白さが出て来たのではないか。個人的には、10年スパンで迷走し続けたIJF団体戦がようやくあるべき方向性を見つけたのではないかとすら感じるほどだ。この制度の熟成が非常に楽しみだ。

■ 「次代の大物」はイナル・タソエフとキム・ミンジョン
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コカウリ打倒を果たしたイナル・タソエフ。

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キム・ミンジョンがダニエル・ナテアを
投げつける。

世界選手権団体戦の楽しみの1つは、「次代の大物」がデビューする場でもあること。

特にロシアはこの団体戦の場を利用することに非常に長けていて、地方の有望選手(仄聞するにロシアは強化拠点が地方に分散しており、これをうまく統御することがマネジメント上かなり重要とのこと)に世界デビューの足掛かりを与えたり(2013年大会のレナト・サイドフや2014年大会のアンドレイ・ヴォルコフがこの枠にあてはまっていた)、また最近では次代を担う大物にシニアの世界大会を経験させることが慣例となっている。今年欧州選手権を獲り、今大会も90kg級の優勝候補筆頭に挙げられていたミハイル・イゴルニコフはまさにこの王道ルードから輩出された新たなエース、昨年のブダペスト世界選手権ではアクセル・クレルジェやヴィクトール・ペナウベルを投げ飛ばして関係者をうならせたものであった。

今年のロシア、この枠に嵌るのは20歳のイナル・タソエフ。昨年の世界ジュニア選手権100kg超級を制し(日本代表の香川大吾からも肩車「技有」に腕挫十字固「一本」と連取して僅か20秒で勝利を収めている)、ワールドツアーデビューとなった3月のグランプリ・アンタラヤをいきなり全試合一本勝ちで優勝を果たした大器である。個人戦代表で出てくれば表彰台すらありえたのではと思われるが、ロシアは100kg超級に選手を送らず(3階級に2枠派遣の権利を行使)タソエフを「取り置き」。来年の本格デビューに備え、いまやエースの王道ルートになりつつあるこの団体戦の畳を、敢えて踏ませたと考えて間違いないだろう。
タソエフ、この日は不戦勝(カザフスタン戦)、「指導3」勝ち(イギリス戦、対ウェズリー・グリニッジ)を経て迎えた準々決勝のドイツ戦でまず大仕事。100kg級のもと銀メダリスト、カール=リヒャード・フレイから支釣込足で2つの「技有」を奪って会場を驚かせた。これだけでも十分過ぎる戦果であるが、3位決定戦ではなんと前日の個人戦で銀メダルを獲得したばかりのウシャンギ・コカウリから大内刈と袈裟固の合技「一本」で勝利。ロシアが誇る大物の「世界デビュー」戦として申し分のない戦いぶり、新年度の台風の目となる予感十分である。

もう1人挙げておきたいのは韓国の高校3年生、100kg超級のキム・ミンジョン。覚えておられるであろうか、7月の金鷲旗大会で村尾三四郎(桐蔭学園高)から肩車「技有」を奪った(延長戦の結果「指導3」で逆転負け)あの選手である。

前日の個人戦でもリオ五輪銅メダリストのオール・サッソン(イスラエル)から背負投「技有」で勝利して周囲の度肝を抜いたが、この日の戦果は比類なし。まず2回戦のルーマニア戦でダニエル・ナテアを一本背負投「一本」に屠り、準々決勝のオランダ戦ではなんとロイ・メイヤーからもGS延長戦肩車「技有」で勝利。3位決定戦のドイツ戦でもスヴェン・ハインルから背負投「一本」で勝利して母国の銅メダル獲得に貢献した。個人、団体戦とも原沢久喜に退けられたが、サッソン、ナテア、メイヤーと倒した選手をそのまま序列に当てはめるなら、既にその力はメダリスト級である。いまだ現役の31歳キム・スンミン以来、韓国は10年ぶりにワールドクラスの最重量級を手に入れたと断言して良いだろう。

高校生の大物となれば、気になるのが一学年下の斉藤立(国士舘高)との対比。斉藤は大外刈や内股を駆使する典型的な重量級王道タイプ、対するキムは一本背負投、肩車を駆使する対重量選手向けの担ぎ技タイプで、その柔道はまさに対象の妙。この若さにして既に「やれることをなんでもやる」型で育っているキムに比べて斉藤のほうが伸びしろは豊かだが、相性的なかみ合わせから粘戦、苦戦は十分に考えられるところ。アジアを代表する有望若手2人がどのような戦いを繰り広げてくれるか、初対戦が非常に楽しみだ。

■ 軌道に乗った男女混合団体戦、ファンが次に求めることは?
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男女混合団体戦は、五輪に向けてついに様相見えた感あり

どうやら軌道に乗った男女混合団体戦。次に求めることがあるとすれば「とにかく早く決めて欲しい」という一事に尽きる。混乱を厭わず改革を進め(スマッシュヒットと評価したい「登場順をラウンドごとに変える」は日本提出の案だと聞いている)面白いレギュレーションに辿り着いたことには敬意を表するしかないが、大会ぎりぎり、下手をするとドロー当日までルールの全貌がわからないというような事態は今回で最後にしてもらいたい。個人戦に見られるような厳しい態度で実験、そしてルール決定の期限をしっかり切って事を進めてもらいたい。五輪における初の団体戦実施まで残り1年と10か月、「期限ありきより面白さの追求」というステージは、もうここで終わりにせねばならないはずだ。

観戦上最大の不満は、これまでのIJF団体戦同様、対戦中に試合の進行順や現状のスコア、配列(対戦カードを)知る手段が薄いこと。日本では会場の掲示板に対戦配列が掲示されるが、専用のビジョンを設けてもよいくらいのものではないか(アジア大会では唯一の情報源である、個人戦と共用のスコアボードに実際のルールと異なる計算のスコアが表示されて混乱に拍車を掛けた)。「見る」スポーツとしての進化を前面に掲げるIJF、この部分の整備は必須のはずである。

ほか、レギュレーションが変わっても変わらず機能する団体戦の法則、その国の体格的特性がはっきり表れる体重別レギュレーション、など感じたこと、語りたいトピックは多々あるが、きりがないのでいったんこのあたりでまとめさせて頂く。いずれ、新レギュレーションの採用で一気に展望開けた感があった「IJF TEAM COMPETITION」であった。

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※ eJudoメルマガ版10月3日掲載記事より転載・編集しています。

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