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【バクー世界柔道選手権2018特集】リネール不在、最重量級11年ぶりの新チャンピオンはツシシヴィリ・バクー世界柔道選手権2018男子100kg超級レポート

(2018年9月27日)

※ eJudoメルマガ版9月26日掲載記事より転載・編集しています。
【バクー世界柔道選手権2018特集】リネール不在、最重量級11年ぶりの新チャンピオンはツシシヴィリ
バクー世界柔道選手権2018男子100kg超級レポート
→特設ページ・バクー世界選手権2018完全ガイド
文責:古田英毅/eJudo編集部
Text by Hideki Furuta

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100kg超級の新王者に輝いたグラム・ツシシヴィリ

アゼルバイジャンで開催されているバクー世界柔道選手権は26日、競技日程第7日の男子100kg超級、女子78kg超級の競技が行われ、100kg超級はグラム・ツシシヴィリ(ジョージア)が優勝した。

ツシシヴィリは初優勝、全試合を一本勝ちしての戴冠。今大会は100kg超級で2007年リオデジャネイロ世界選手権以降五輪も含めた世界大会すべてで優勝しているテデイ・リネール(フランス)が欠場しており、ツシシヴィリは柔道界に11年ぶりに誕生した最重量級新王者となった。決勝は今大会大躍進のウシャンギ・コカウリ(アゼルバイジャン)を破った。

3位には日本代表の原沢久喜と、準々決勝で原沢を破ったウルジバヤル・デューレンバヤル(モンゴル)が入賞した。もう1人の日本代表小川雄勢(明治大4年)は3回戦で敗れ入賞なしに終わった。

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2回戦、グラム・ツシシヴィリがダニエル・ナテアから大外刈「一本」

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準決勝、ツシシヴィリがウルジバヤル・デューレンバヤルから背負投「一本」

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準々決勝、ウシャンギ・コカウリがルカシュ・クルパレクを攻める

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準決勝、コカウリがベクムロド・オルティボエフから大内刈「一本」

前述の通り決勝に進んだのは本命と目された第1シードのツシシヴィリと、ノーシードから勝ち上がったダークホース・コカウリの2人。まずはこの2人の勝ち上がりを追うことでトーナメントの様相を振り返ってみたい。

ツシシヴィリは第1シード配置だが、初戦から準決勝まで強豪ばかりの厳しい組み合わせ。初戦(2回戦)からいきなりダニエル・ナテア(ルーマニア)との対戦となったが、「指導2」まで奪った末の大外刈「一本」で余裕の勝ち抜け。3回戦はヤキフ・ハモー(ウクライナ)を払釣込足「一本」で退け、準々決勝はロイ・メイヤー(オランダ)から「指導」2つを奪った末に延長戦で一本背負投「一本」。準決勝は前戦で原沢を破ったウルジバヤル・デューレンバヤル(モンゴル)を背負投「一本」に屠って決勝進出決定。

一方のコカウリはノーシードながらかなり戦いやすい組み合わせ。配置は激戦区のプールDだが強豪が集中した上側の山ではなく、水準以上の強豪と戦うことになるのは上側の「潰し合い」を待ち受ける準々決勝から。しかしそんな事情がどうでもよくなるほどこの日のコカウリの出来は良し、「こんなにパワーがあったのか」と呆れるほどの見事な勝ちっぷりであった。2回戦はウラジスラウ・ツィアルピツキ(ベラルーシ)を1分2秒大内刈「一本」、3回戦はマチェイ・サルナツキ(ポーランド)を2分9秒払釣込足「一本」、そして準々決勝は大激戦ブロックの覇者ルカシュ・クルパレク(チェコ)とマッチアップ。巧者クルパレクを無理やりケンケンで押し込んでの内股「技有」、さらにクルパレクの左体落をそのまま手で捩じって右前隅に投げ落とす浮落「技有」と2回ほぼ完ぺきに放って2分50秒、衝撃の合技「一本」。

準決勝では2回戦で第2シードのダヴィド・モウラ(ブラジル)を背負投「一本」で食ったベクムロド・オルティボエフ(ウズベキスタン)と対決。この日の台風の目同士によるダークホース対決であったが、格が違うとばかりに僅か25秒の大内刈で叩き落として「一本」。あっさり決勝進出を決める。

ここ2年の重量級のトレンド自体を牽引して来た新・最重量級文化の旗手ツシシヴィリは間違いなく「時代」を表現する選手、もし金メダルを獲得するならば柔道史的にこれはまことに妥当。しかしこの日のコカウリの凄まじい出来と圧倒的なパワーに鑑みればこちらが「勝ってしまう」可能性も十分、とバックグランドからして手に汗握る舞台装置が揃った決勝はツシシヴィリが左、コカウリが右組みのケンカ四つ。

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決勝、試合終了直前にツシシヴィリがコカウリから左背負投「一本」

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予想される試合の構図は、得意の担ぎ技を仕掛けるため、まず相手の手首の上で袖を握り込んで拳を立てる「ツシシヴィリ・グリップ」を作らんと狙うツシシヴィリと、これを突破して背中にアプローチしパワーを生かした密着技で勝負をつけたいコカウリというもの。試合はほぼこの観測通りの組み手の攻防で進むが、中盤に入るところでついにツシシヴィリがほぼ完ぺきな形で袖を得たにも関わらずコカウリのパワーに圧せられて手が出ず「極端な防御姿勢」で「指導」を失うという衝撃的な場面が訪れる。ここからコカウリの膂力がツシシヴィリを圧倒、窮したツシシヴィリの右背負投が空振りに終わると、潰れかけた相手の顔に太腿を当てて押し込み2分37秒「技有」。残り時間も少なくツシシヴィリは絶体絶命かと思われたが、続く寝技の攻防が終わったところでこれは取り消しとなる。

これで肚を括ったツシシヴィリがリスク厭わず左右に立ったままの担ぎ技を連発すると、後の先を狙っての振り回しで応じていたコカウリ終盤ガクリと消耗。残り16秒、ついに「待て」が掛かっても開始線になかなか戻らぬところまで体力が落ちる。ツシシヴィリこれを見るや続く攻防で体をゆすって相手の手を切り離すなり、テンポを切らずに左背負投。これが見事決まって「一本」、ツシシヴィリが最重量級世界王者の座を手にすることとなった。

ツシシヴィリは2007年リオ世界選手権のリネール戴冠後初めての世界チャンピオン、2005年カイロ世界選手権におけるアレクサンダー・ミハイリン(ロシア)以来の「リネール以外」の最重量級王者となった。

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準々決勝、ウルジバヤル・デューレンバヤルが原沢久喜から一本背負投「一本」

リオ五輪の銀メダリスト、柔道史的経緯から言えばこちらも「権利者」の1人である原沢久喜は3位。初戦で無名のアンヘル・パラ(スペイン)に出足払「技有」を失うなど決してトップコンディションではなかったが、この試合を隅落「一本」で勝ち抜くと、第4シードの難敵ラファエル・シウバ(ブラジル)戦を相手のフィールドである「指導」合戦の末に競り勝って「指導3」の反則で勝利。続く3回戦も韓国の新星キム・ミンジョンも足車「一本」で退けてどうやら軌道に乗ったかと思われた。しかし準々決勝では今大会久々存在感発揮のもと世界ジュニア王者ウルジバヤル・デューレンバヤル(モンゴル)にまさかの敗退。「指導」2つを先取してあとは試合を決めるだけと思われたが、主審のやや性急な自身への「指導2」付与から焦り始め、場外に押し出されかけること2度。これを嫌って前進したところに右一本背負投を食って一本負けを喫した。以後2戦を勝ち抜いてきっちりメダルは確保、昨年の悪夢を振り払ったものの「リネール以外」の最重量級新王者が日本人でない、という事実はファンにとってはやはり重たいもの。相応に衝撃ある結果であった。

もう1人の日本代表・小川雄勢は3回戦で無名のテムル・ラヒモフ(タジキスタン)に敗戦。左大外刈で崩したところを押し込み、相手に「後ろ手」を強いた腕挫手固の形から抑え込もうとしたが、これが「肘関節以外を極めた」と判断されてまさかのダイレクト反則負けを喫した。肩関節が極まると判断したらまず「待て」を掛けるのが審判本来の仕事、さらにラヒモフは肘を抑えて負傷をアピールしておりそもそも肩関節が極まっていないことは明らか。誤審である。試合の結果はともかく、全日本柔道連盟はIJFに対してこの場面についての明確な説明と「以後もこの形は反則なのか」の見解をしっかり求めておくべきだろう。ただしこれとは別の評価として、無名選手を相手になかなか形を作れず、完全に抑え込んだ形を逃がしてもいる小川の試合ぶりは悪し。現象としての反則負けはともかく、控えめに言って評価が上がる内容ではなかった。

リオ五輪3位、現在の最重量級の担ぎ技系全盛の嚆矢となったオ-ル・サッソン(イスラエル)を投げたキム・ミンジョンの潜在能力の高さ、オルティボエフの健闘、100kg級出身の「同窓会」ブロックを勝ち抜いたクルパレクの来歴など語るべきトピックは多いが、階級全体の動向に関わるようなものは前述ツシシヴィリの優勝とコカウリの躍進、そして原沢の3位入賞とウルジバヤルの健闘、とここまでかと思われる。

入賞者と全試合の結果、メダルマッチ3試合および日本代表選手全試合の戦評は下記。

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100kg超級メダリスト。左からコカウリ、ツシシヴィリ、原沢、ウルジバヤル・デューレンバヤル。

【入賞者】
(エントリー41名)
1.TUSHISHVILI, Guram (GEO)
2.KOKAURI, Ushangi (AZE)
3.HARASAWA, Hisayoshi (JPN)
3.ULZIIBAYAR, Duurenbayar (MGL)
5.OLTIBOEV, Bekmurod (UZB)
5.KRPALEK, Lukas (CZE)
7.MEYER, Roy (NED)
7.RAKHIMOV, Temur (TJK)

【1回戦】
ダニエル・ナテア(ルーマニア)○反則[指導3](2:08)△ライヴィス・ツァクスティンス(ラトビア)
ヴィト・ドラギッチ(スロベニア)○GS反則[指導3](GS1:01)△エクトル・カンポス(アルゼンチン)
原沢久喜○隅落(2:18)△アンヘル・パラ(スペイン)
ペドロ・ピネダ(ベネズエラ)○優勢[技有・肩車]△アヤックス・タデハラ(アメリカ)
ベクムロド・オルティボエフ(ウズベキスタン)○背負投(0:41)△リアム・パーク(オーストラリア)
テムル・ラヒモフ(タジキスタン)○内股(2:58)△フレディ・フィゲロア(エクアドル)
ヘンク・フロル(オランダ)○谷落(0:53)△インベニーク・インジャイェ(セネガル)
ナイダン・ツヴシンバヤル(モンゴル)○大腰(2:30)△ベクボロト・トクトゴノフ(キルギスタン)
オレクサンドル・ゴルディエンコ(ウクライナ)○合技[隅落・縦四方固](1:09)△ダニエル・アレルストルフェル(オーストリア)

【2回戦】
グラム・ツシシヴィリ(ジョージア)○大外刈(2:45)△ダニエル・ナテア(ルーマニア)
ヤキフ・ハモー(ウクライナ)○合技[裏投・隅落](2:59)△シャカルママド・ミルママドフ(タジキスタン)
ロイ・メイヤー(オランダ)○GS反則[指導3](GS1:47)△ファイセル・ヤバラー(チュニジア)
ザルコ・クルム(セルビア)○小外掛(3:44)△ヴィト・ドラギッチ(スロベニア)
原沢久喜○GS反則[指導3](GS1:17)△ラファエル・シウバ(ブラジル)
キム・ミンジョン(韓国)○優勢[技有・背負投]△オ-ル・サッソン(イスラエル)
ウルジバヤル・デューレンバヤル(モンゴル)○腕挫脚固(1:01)△ペドロ・ピネダ(ベネズエラ)
アンディー・グランダ(キューバ)○袖釣込腰(1:23)△ユーリ・クラコヴェツキ(キルギスタン)
ベクムロド・オルティボエフ(ウズベキスタン)○背負投(2:37)△ダヴィド・モウラ(ブラジル)
イェラッシル・カジバエフ(カザフスタン)○合技[内股・小外掛](2:37)△フランシスコ・ソリス(チリ)
テムル・ラヒモフ(タジキスタン)○合技[出足払・横四方固](3:40)△ヤヴァド・マージョウブ(イラン)
小川雄勢○内股(3:59)△ハルン・サディコヴィッチ(ボスニア・ヘルツェゴビナ)
ルカシュ・クルパレク(チェコ)○小外掛(3:34)△ヘンク・フロル(オランダ)
ナイダン・ツヴシンバヤル(モンゴル)○横四方固(3:54)△ユアン・シャオトン(中国)
マチェイ・サルナツキ(ポーランド)○小外刈(2:15)△オレクサンドル・ゴルディエンコ(ウクライナ)
ウシャンギ・コカウリ(アゼルバイジャン)○大内刈(1:02)△ウラジスラウ・ツィアルピツキ(ベラルーシ)

【3回戦】
グラム・ツシシヴィリ(ジョージア)○払釣込足(2:41)△ヤキフ・ハモー(ウクライナ)
ロイ・メイヤー(オランダ)○合技[支釣込足・横四方固](3:04)△ザルコ・クルム(セルビア)
原沢久喜○足車(3:16)△キム・ミンジョン(韓国)
ウルジバヤル・デューレンバヤル(モンゴル)○合技[内股透・横四方固](2:46)△アンディー・グランダ(キューバ)
ベクムロド・オルティボエフ(ウズベキスタン)○縦四方固(1:54)△イェラッシル・カジバエフ(カザフスタン)
テムル・ラヒモフ(タジキスタン)○反則[DH](3:23)△小川雄勢
ルカシュ・クルパレク(チェコ)○合技[隅返・隅落](2:23)△ナイダン・ツヴシンバヤル(モンゴル)
ウシャンギ・コカウリ(アゼルバイジャン)○払釣込足(2:09)△マチェイ・サルナツキ(ポーランド)

【準々決勝】
グラム・ツシシヴィリ(ジョージア)○GS一本背負投(GS3:30)△ロイ・メイヤー(オランダ)
ウルジバヤル・デューレンバヤル(モンゴル)○一本背負投(3:31)△原沢久喜
ベクムロド・オルティボエフ(ウズベキスタン)○GS大車(GS1:34)△テムル・ラヒモフ(タジキスタン)
ウシャンギ・コカウリ(アゼルバイジャン)○合技[内股・浮落](2:50)△ルカシュ・クルパレク(チェコ)

【敗者復活戦】
原沢久喜○GS隅落(GS1:13)△ロイ・メイヤー(オランダ)
ルカシュ・クルパレク(チェコ)○肩固(2:22)△テムル・ラヒモフ(タジキスタン)

【準決勝】
グラム・ツシシヴィリ(ジョージア)○背負投(1:59)△ウルジバヤル・デューレンバヤル(モンゴル)
ウシャンギ・コカウリ(アゼルバイジャン)○大内刈(0:25)△ベクムロド・オルティボエフ(ウズベキスタン)

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3位決定戦、原沢がオルティボエフから大外刈「一本」

【3位決定戦】

原沢久喜○大外刈(3:35)△ベクムロド・オルティボエフ(ウズベキスタン)
原沢、オルティボエフともに右組み。オルティボエフはどっしり構える原沢の周りを軽快な動きで接近と離脱を繰り返し、17秒には組み際に左にスイッチしながら低い左背負投に入って先制攻撃。41秒には両袖の右袖釣込腰から右小内刈の連絡技、原沢に釣り手で奥襟を叩かれた1分45秒には片襟の右大外刈に飛び込み、先手志向で手数を積む。一方の原沢は時折引き手で袖、釣り手で奥襟を得て自分の形を作るが技出しがワンテンポ遅く、オルティボエフに懐に入られることを許し続け、残り40秒に「指導1」を失う。しかしこの「指導」で原沢は吹っ切れた模様。直後の残り26秒、引き手で袖、釣り手で奥襟を得るとケンケンの右大内刈で引っ掛けてから右大外刈に繋ぎ完璧な「一本」。原沢はリネールのいない世界選手権の王者にはなり損ねたが、銅メダルを確保して面目を保った。

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3位決定戦、クルパレクの隅返をデューレンバヤルが突っ込み落とし「技有」

ウルジバヤル・デューレンバヤル(モンゴル)○GS技有・隅落(GS1:39)△ルカシュ・クルパレク(チェコ)
ウルジバヤルが右、クルパレクが左組みのケンカ四つ。試合が始まるなりウルジバヤルが左方向への支釣込足でクルパレクを崩し伏せさせる。続く展開でも引きずり回して畳に這わせ、1分12秒、クルパレクに消極的の「指導」。序盤はウルジバヤルが優勢。しかし、ウルジバヤル、1分59秒に相手を引きずり回しながら自ら場外に出てしまい場外の「指導」を失って試合はタイスコア。以降は双方組み手での優位確保に腐心し、得点の予感ないまま本戦の4分間が過ぎ去る。
GS延長戦が始まると、クルパレクの圧を逸らし続けてきたウルジバヤルやや疲労した様子。クルパレクが得意の隅返を狙ったGS53秒、ウルジバヤルに消極的の「指導2」が与えられる。さらに直後のGS1分8秒、クルパレクは勝負を決めるべく再度隅返、ウルジバヤル危うく転がりかけるが、側転の要領で相手に被さり辛うじて失点を回避する。GS1分39秒、ウルジバヤルが右一本背負投に飛び込むとクルパレクこれを潰してカウンターの隅返を狙う。しかし、十分に相手の技を制していなかったためにウルジバヤルが走りながら追い込むと腰砕けで背中から転倒「技有」。好調ウルジバヤルが3位を獲得した。

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ツシシヴィリの背負投「一本」

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【決勝】

グラム・ツシシヴィリ(ジョージア)○背負投(3:56)△ウシャンギ・コカウリ(アゼルバイジャン)

コカウリは右組み、ツシシヴィリが左組みのケンカ四つ。事前に予想される構図は、相手の袖を上側で拳を立てたまま握り込む「ツシシヴィリグリップ」で捕まえて左右の担ぎ技の一発を狙うツシシヴィリ、これを狙って手先を出してくるであろうツシシヴィリの組み手の壁を突破して背中にアプローチし、パワーにものを言わせた密着技で勝負をつけたいコカウリというもの。
試合はほぼこの観測通りに進む。ツシシヴィリは手先を伸ばして袖を殺し、まず両袖。コカウリが嫌って切ると、今度はいったん左手で相手の右袖を絞り、これを背中に持ち替えながら左へ支釣込足。コカウリが大きく崩れて「待て」。以後もツシシヴィリの袖確保の有無を巡って緊迫した組み手の攻防が続き、1分20秒過ぎについにツシシヴィリが望み通りに両袖を得る。ツシシヴィリの担ぎが予想される形だが、しかしコカウリのパワーはすさまじく、背筋を伸ばして力を籠めると掴んだツシシヴィリの方がそのまま前傾して動けなくなる。結果1分28秒ツシシヴィリに「極端な防御姿勢」の咎で「指導」。これで勇気を得たコカウリは試合を動かしに出、釣り手で肩口、引き手で襟を掴んで支釣込足。振り回されたツシシヴィリがたたらを踏んで前傾すると後帯を掴んで右大腰、さらに右大内刈と迫力の攻め。ツシシヴィリ辛くもはたき込む形でこれを潰し「待て」。
ツシシヴィリは手先を絡ませて前へ。ここから両袖を得て右背負投に打って出るが空回り、コカウリは反時計回りに回り込み、両手のハンドル操作を利かせたまま半ば潰れたコカウリの顔面に太腿を当てて体を押し込み「技有」。試合時間は2分37秒。

ツシシヴィリは絶体絶命だが、これに続いた寝技の攻防が終息すると主審は開始線で両者を待たせ、映像チェックを待つ。結果コカウリの「技有」は取り消されて試合は継続となる。この時点で試合時間は2分51秒、残り時間は1分9秒。

投げるほかない、と腹を括ったツシシヴィリは右手から掴んで、立ったまま踏ん張って左一本背負投。コカウリは右で後帯を引っ掴んで振り返し、ツシシヴィリが慌てて離れて攻防はリセット。極めてエキサイティングな投げ合い。

最終盤、ツシシヴィリが左背負投。これはすっぽ抜けて「待て」となったが、コカウリついに疲労したかなかなか開始線に戻らず。残り時間は16秒。機と見たツシシヴィリ、襟を掴んで来たコカウリの右釣り手をいったん相手から離れることで切り離し、戻る動作に合わせて左背負投。釣り手で相手の上腕を押し込む形のこの技見事に決まり、「一本」。優勝候補筆頭の前評判に違わぬ戦いぶり、ツシシヴィリ世界選手権最重量級を制す。

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1回戦、開始早々原沢はまさかの「技有」失陥。

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原沢落ち着いて隅落「一本」

【日本代表選手勝ち上がり】

原沢久喜
成績:3位


[1回戦]
原沢久喜○隅落(2:18)△アンヘル・パラ(スペイン)
原沢が右、パラが左組みのケンカ四つ。ゆったりした引き手争いから試合がスタート。パラが体を回して左内股に入るなり自ら潰れた直後の1分11秒、両者に消極的との咎で「指導」。直後、パラが釣り手を伸ばして前襟を掴みながら出足払。まず前足にタイミングよく当てると、次いで奥足に小外刈を引っ掛けながら引き手で襟を持って相手を押すと、この二段攻撃に原沢たたらを踏んで崩れて1分23秒まさかの「技有」。
昨年の早期敗退の悪夢が脳裏をよぎる嫌な展開だったが原沢落ち着いて前進。2分6秒パラに「指導2」が与えられる。直後、パラが釣り手で背中を抱きながら左小内刈。体を捨て、手を伸ばして押し込んだ必死の一撃だったが原沢動ぜず。刈り足を当てたパラがその場に座り込むと一歩下がってその上体を伸ばし、次いで捩じり込んで畳に押し付け「一本」。

[2回戦]
原沢久喜○GS反則[指導3](GS1:17)△ラファエル・シウバ(ブラジル)
早くも訪れた大一番は右相四つ。互いに二本、襟と奥襟を持って足元を蹴り合って駆け引き。57秒、双方に消極的との咎で「指導」。原沢は引き手で襟、釣り手で奥襟の組み合わせで持つところまでは許して貰えるが、この引き手を袖に持ち替えた瞬間シウバはスイッチを押されたように切り離し、組み手をリセットする。シウバその中で片襟の大外刈を見せ、原沢の側も軸足を前に張って引っ張り出すような右内股を見せるが効き切らず。シウバの「袖だけは許さない」厳しい組み手はその後も続き、2分12秒双方に消極的との咎で「指導2」。
原沢様々な手順で引き手で袖を掴みに掛かるが、シウバは妥協せず切り続け、切っては釣り手を奥襟に戻して攻撃意欲をアピール、自らの「切る」行為を決して判定の不利に繋げない。終盤、原沢が袖と奥襟を持つ頻度が増え、これに比例して内股を仕掛けることも増加。ここで試合はGS延長戦へ。

原沢がまず両襟、シウバが奥を叩くと引き手を袖に持ち替え、これをシウバが嫌っていったん切り離す、という大枠の手順はこれまでと変わらず。しかし延長39秒から原沢が引き手の袖をしっかり相手の腹側に織り込むとこれまでと位置関係が変化。接近した原沢がまず内股、次いで両袖で絞りながら前に出て優位の気配。手ごたえを得た原沢続く展開も引き手の袖を織り込んで接近、体で押し込むことでこの確保を続けながら奥襟を叩く。シウバ嫌って袖を絞って落とし、落としたまま動きを止めて守備に専心。主審これを見て、延長1分17秒に袖を絞り込んだ咎でシウバに「指導3」。原沢、難敵シウバを突破。

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原沢がキム・ミンジョンを足車「一本」に仕留める

[3回戦]
原沢久喜○足車(3:16)△キム・ミンジョン(韓国)
原沢が右、キムが左組みのケンカ四つ。釣り手一本を持ちあっての引き手争いが続き、主審は早い判断で21秒双方に片手の咎で「指導」。釣り手を相手の肘の上から載せて圧を掛けていた原沢、1分過ぎから試合を動かし始め、まず「ケンカ四つクロス」から前に振って2度立て続けに腹ばいに崩し、続いて股中に体落を落としてみたび腹ばいに相手を落とす。以後もこの攻撃を続けるとキムが組み合うことを露骨に嫌い、2分12秒キムに片手の「指導2」。残り時間が少なくなるとキムがやや焦りはじめ、右一本背負投、これは原沢に避けられると続く展開では奥襟を叩いて左体落を打つ。初めてキムがまともに踏み込んで仕掛けた順方向の技であるが、原沢的確にこれを捕まえ、右足車。ファーストチャンスに的確な技、キム右肩を下げて綺麗に一回転「一本」。

[準々決勝]
原沢久喜△一本背負投(3:31)○ウルジバヤル・デューレンバヤル(モンゴル)
右相四つ。原沢組み付かんとするとウルジバヤルは手先を絡ませながら前へ。原沢が引き手で袖、釣り手で奥を掴むがこの形を得る間にもウルジバヤルは抱きついて前進継続。原沢良い形で組んだまま下がって畳を割ってしまい、18秒場外の「指導」。
原沢は組みあうことを求めて前へ。嫌うウルジバヤルは手先を絡ませ、あるいは掌を前に出して距離を取り、原沢が釣り手で襟を掴むと都度切り、切っては抱きつくチャンスを狙う。1分3秒、見かねた主審が介入。ウルジバヤルに「取り組まない」咎で「指導」。原沢前に出続け、1分40秒には引き手から先にまず袖を取り、奥襟を叩いて右内股。直後ウルジバヤルに2つ目の「指導」。原沢は引き手で襟、釣り手で奥襟を叩いて内股、さらに大内刈を仕掛けてほぼ完全に主導権を掌握。2分25秒の支釣込足は崩れたウルジバヤルが背負投に切り返してあわやと思われたが、原沢崩れず、ウルジバヤルだけが膝を伸ばして前に倒れ「待て」。
どうやらあとは決めるだけの状況まで歩を進めた原沢、下がるウルジバヤルを見て釣り手を片襟に差し、あおりながら小内刈で数度蹴り崩す。しかし主審は慌てたように試合を止め、3分5秒原沢に片襟の「指導2」。

この反則裁定から流れが変わり始め、原沢にやや焦りの色あり。ウルジバヤルが前に出ると支釣込足を仕掛けながら場外に出てしまいあわや場外の「指導」失陥の危機。さらにウルジバヤルが前進すると押し込まれ、回り込むもまた押し込まれる。ここで失敗するわけにいかない原沢、下がることだけはならじと手を前に出して前進。しかしこれを待っていたウルジバヤルは右背負投を合わせて迎撃。自身の前進の勢いもあって前にのめった原沢、右足を右前隅に踏み出して一瞬踏ん張る。しかしウルジバヤルの抱き込みが深く、右肩が下がるとこれに逆らえずグルリと回転「一本」。

原沢、ここで敗退。リネール君臨以後初の最重量級王者の夢は、ここで潰えた。

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敗者復活戦、原沢がロイ・メイヤーの一本背負投を引っこ抜き返し「一本」

[敗者復活戦]
原沢久喜○GS隅落(GS1:13)△ロイ・メイヤー(オランダ)
右相四つ。メイヤーやる気十分、試合開始が宣されるなり一息に両襟を掴み右大内刈、そのまま自ら釣り手を切ると返す刀で片襟の右背負投、さらに体ごと飛び込んで踏ん張っての右一本背負投に打って出る。打点の高い「立ち背負い」、一瞬の拮抗のあと原沢の巨体が完全にメイヤーの背中に乗って担ぎあがり、場内にはどよめき。メイヤーそのまま投げ落とすと原沢辛くも落ち際に身を捩じり、腹ばいで「待て」。思ったよりも高く担ぐことが出来てしまい、その高さゆえメイヤー戸惑い、かつ技術的には決めの難易度が上がったという印象。原沢は命拾い。しかしメイヤーは払釣込足、原沢の足が浮くとそのまま横落に飛び込んでと機関車ラッシュ。
態勢を立て直したい原沢は敢えて釣り手から持ち、「ケンカ四つクロス」の形で相手を前に大きく振る崩し技を3連発。いったんこれで試合の減速を図ると、メイヤーの「無敵タイム」はここであっさり終了。以後は組んで右内股を狙う原沢と、時折組み手を切って右一本背負投を狙うメイヤーという平常運航で試合が進むようになる。メイヤーが残り30秒で放った右一本背負投の形に腕を抱えた支釣込足はかなりの取り味があったが、原沢たたらを踏んで耐え切る。
最終盤、原沢が釣り手で片襟を掴んで右大内刈。おそらく勝負を決めにいった技、そして十分決められる形であったが、追い足が効かず意外にも原沢数歩追ったところで膝を着いてしまい「待て」。試合はGS延長戦へ。
原沢ここに至って加速。引き手で袖口を握り込んで右内股、これは投げ切れなかったがさらに前へ。メイヤーは原沢の懐の中で体を回して変則の左背負投に飛び込むが潰れ、原沢は相手を前後に動かしながら右大内刈、足を戻して右小内刈と足技を繋いでメイヤーを伏せさせる。
ここで不利を悟ったメイヤーは一発逆転を狙って右一本背負投。打点高く投げ切ろうと踏ん張るがこれが致命傷、原沢は体を固めたメイヤーを抱いて後隅にもろとも落下。メイヤー吹っ飛んで「一本」。
序盤のラッシュを凌ぎ切り、メイヤーの体力が尽きてから勝負に出た原沢の粘り勝ち。メイヤーは力いっぱいのラッシュと燃料が切れての「後の先」被弾という、この人の定番ルートで惜敗。最序盤にGS延長戦と同じ形で2度放った「打点の高い右一本背負投」の帰結にその特徴が凝集されていた。

[3位決定戦]
原沢久喜○大外刈(3:35)△ベクムロド・オルティボエフ(ウズベキスタン)
※前述のため省略

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2回戦、小川雄勢がハルン・サディコヴィッチを内股「一本」に仕留める

小川雄勢(明治大4年)
成績:3回戦敗退


[2回戦]
小川雄勢○GS内股 (GS1:17)△ハルン・サディコヴィッチ(ボスニア・ヘルツェゴビナ)
小川が左、サディコヴィッチが右組みのケンカ四つ。小川ひとまず片手の内股で先制攻撃、次いで奥襟と袖を掴んで圧を掛ける。サディコヴィッチは引き手を切って逃れ、57秒片手の「指導」。以後小川は片手の左内股、さらに自らの両足を開くような遠間からの左内股、組み手の確保による圧力とじわじわ、粛々攻勢を積むが得点の予感は漂わず。2分57秒には双方に消極的との咎で「指導」。以後も小川が組み手に圧力と緩やかにアクセルを踏み続けるが、決定打はなし。しかし残り時間数秒、GS延長戦が予感されたところでサディコヴィッチが片襟を差して近づきこれまでの形を崩す。これは明らかに軽挙、小川引き手で袖口を掴むなり左内股一撃、消耗して体に力が残っていなかったサディコヴィッチ、初めて近い間合いで小川の技をまともに受けるとまったく耐えられず、吹っ飛んで「一本」。

[3回戦]
小川雄勢△反則[DH](3:23)△テムル・ラヒモフ(タジキスタン)
小川、ラヒモフともに左組みの相四つ。ラヒモフは小川の圧殺を警戒、組み手のやり取りの中に左小内刈、右出足払を混ぜて小川の意識を上下に分散させて対峙する。ラヒモフの思惑に嵌って小川はなかなか自分の形を作れず、最初の1分間は互いに組んでは切り、切っては組み直すという形で膠着。均衡を破ったのはラヒモフ、1分過ぎに左釣り手で奥襟を得ると、右引き手で脇を差して右内股、さらに1分16秒には再び釣り手で奥襟、引き手で脇を得て左、右へとハンドルを切る形で小川を崩す。試合のペースはラヒモフ。ここまで押され気味の小川は次の展開、じわじわ釣り手を上げてようやく自分の形を作ると場外際で支釣込足、これでラヒモフを伏せさせるとそのまま横四方固で抑え込む絶好のチャンスを得る。しかし、小川はこれをあっさり逃がしてしまい、悪い流れを断ち切る機を逸する。残り55秒、小川が再び場外際で攻撃、支釣込足でラヒモフを蹴り崩すと膝を着いた相手に対して左大外刈で追い打ちを掛ける。ラヒモフが右腕を身体の外側に出したまま伏せると、小川はその右腕を「後ろ手」に極めて体重を乗せる。これは関節技もしくは抑え込みに移行できるか、というところで審判が「待て」を掛け試合は一時中断、ラヒモフは右肘を押さえてアピール。ビデオ確認による審判団の判断は小川のダイレクト反則負け。小川がラヒモフの右腕を「後ろ手」で体重を掛けたことで肩関節が極まり、肘関節以外に対して関節技を仕掛ける危険行為とみなされた模様。しかしこれは形としては腕挫手固、仮に肩関節が極まる可能性があるとすれば主審が「待て」を掛けて試合を止めるべき場面である。そもそもラヒモフは肘を抑えて痛がっており、肩関節が極まった可能性などほぼ皆無。小川は決め切れるところで取り切れなかった報いを受けたともいえるが、納得のいかない判定で反則負け。3回戦で初の世界選手権の舞台から姿を消すこととなった。

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文責:古田英毅/eJudo編集部
Text by Hideki Furuta

※ eJudoメルマガ版9月26日掲載記事より転載・編集しています。

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