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【バクー世界柔道選手権2018特集】【eJudo’s EYE】やはり強かったビロディド、女子柔道界にニューヒロイン誕生・女子48kg級評

(2018年9月20日)

※ eJudoメルマガ版9月20日掲載記事より転載・編集しています。
【バクー世界柔道選手権2018特集】【eJudo’s EYE】やはり強かったビロディド、女子柔道界にニューヒロイン誕生
女子48kg級評
→特設ページ・バクー世界選手権2018完全ガイド

文責:古田英毅
Text by Hideki Furuta

女子第1日の評は下記3題。

「やはり強かったビロディド、女子柔道界にニューヒロイン誕生」
「渡名喜は作戦遂行力に課題、能力の高さ見せつけるも明確な戦術的上積み見いだせず」
「ゆらぐ王国、問われる育成、日本の48kg級に未来はあるのか?」

■ やはり強かったビロディド、女子柔道界にニューヒロイン誕生
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17歳ビロディドは優勝候補一番手のプレッシャーを乗り越え、みごと優勝

女子48kg級は本命と目された17歳、ダリア・ビロディド(ウクライナ)が優勝。レポート記事でお伝えした通り、1993年ハミルトン世界選手権で谷(当時田村)亮子が優勝した18歳を超えて、世界柔道選手権最年少優勝である。

170センチを超える身長を利した伸びやかな柔道とその勝ちぶりの素晴らしさは、ワールドツアーと変わらず。この日の優勝はじゅうぶん予想されたものであったが、ツアーとは違うものが何か見えたとすれば、「スター性」として機能する、観衆の感情移入を呼び起こす剥き出しの人間味ではなかったかと思われる。

百戦錬磨の強者が集う世界選手権、いかに優勝候補筆頭といえど、いや優勝候補筆頭と騒がれたからこそ、畳の上に現れた高校3年生のビロディドは緊張し切っていた。難敵ディストリア・クラニスキとの2回戦はその気負いや緊張がはっきり試合ぶりに現れ、この人らしからぬ、壊れてしまいそうな危うさを感じさせるものだった。実際に終わってみればこの試合がこの日一番の苦戦であったわけだが、ゆえにその後立ち直って披露した絶対的な強さ、そして、渡名喜風南を大内刈で叩きつけた直後、審判を見やったまま「一本」を確認したまま凄まじい圧から解放され、堰を切ったようにあふれ出した涙には、心を揺さぶられるものがあった。

ビロディドの強さはすさまじかった。ガルバトラフをおもちゃ扱い(大内刈「技有」から横三角に繋いで崩袈裟固で抑え込む)し、現役世界王者の渡名喜風南を正面突破の大内刈でひっくり返して今季「3タテ」という強さはまさしく異次元、48kg級世界の常識平面を飛び越えてしまっている。これだけでも今後階級の絶対王者として君臨すると評するに十分であるが、前述、投げ終わって相手に被ったまま審判をみやって涙をこぼすというような印象的な「絵」を作ることが出来る選手には、ざっくり言って「スター性」がある。毎年確実に階級に1人輩出される単なる「世界チャンピオン」ではない、単なる「美女柔道家」の枠に収まらない存在になるのではないか。

谷亮子以来、日本の「お家芸」であった48kg級だが、おそらく以後史上最大のエマージェンシーが起りつつある。これまでスポット的に王座を譲り渡しては奪還した、強豪選手との「やりとり」の歴史とはレベルが違う、時代をまるごと塗りつぶされてしまうピンチだ。ちょっと国内にはこの選手に「器」で対抗できる存在が見当たらない。「ビロディドの時代」到来を、48kg級王国の座を連綿繋いで来た日本がどう防がんとするのか。注目である。

■ 渡名喜は作戦遂行力に課題、能力の高さ見せつけるも明確な戦術的上積み見いだせず
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ジュリア・フィギロアを抑え込む渡名喜

渡名喜風南は2位。準決勝ではムンフバット・ウランツェツェグに「技有」を奪われながらも密着作戦に舵を切って「指導3」で逆転するクレバーさを見せたが、戦略面で高く評価できるのはほぼこれのみ。決勝はビロディドに、2月のグランドスラム・パリとほぼ同じ形、引き手で袖を制されたまま、遠間から釣り手を降らせつつ仕掛ける左大内刈を止められず畳に叩きつけられた。

いちばんやってはいけない形を許し、来るとわかっている技での正面突破に屈したわけである。なんらか対策はあったのだろうが、この試合からはその片鱗すら感じとることが出来なかった。まさしく完敗である。この日の渡名喜の戦いを総括するとすれば、一貫してその潜在的な能力に頼り過ぎ、戦術的な引き出しが不足していたのでは、ということになる。コンディション的は絶好調であったとのことだが、前年度の世界チャンピオンが徹底的に研究されているであろう大会に臨む、というその立場と状況を考えると少々物足りなさを感じた。

シラ・リショニー戦は相手が深く背を抱えて来たところを小外刈に捉えて「技有」を奪ったが、この「深く、浅く」を繰り返す相手を取り切るロジックに欠けて「一本」奪取には至らなかったし、カン・ユジュン戦で食った内股や大内刈と小外刈、ムンフバットに食い掛けた隅返は「なぜこれで転ばないのか」渡名喜の体の強さとバランスの凄さを感じさせるものだったがそもそもが入らせてはいけないものであったし、寝勝負と判定されたジュリア・フィギロアの谷落は仕掛けた本人がアピールの気合いの声を上げた通り「立ち→寝」の直後の怪しいタイミングのものであった。目の前に起こってしまった事象に対処するだけの運動性能や体の強さは抜群だが、戦術的なシミュレーションやこれを可能ならしめる技術的な引き出しに不足があるのではないだろうか。

筆者は昨年、グランドスラム東京の事前番組に呼んで頂いて渡名喜の魅力を問われた際に「凄まじい必殺技などのわかりやすい特徴がないオーソドックスな軽量級スタイルだが、若さや勢い、運動性能など全てのタイミングが噛み合って頂点を極めた」「おそらく渡名喜が将来絶対的な強者になるときには違う手立てを見出し、今のスタイルとは異なる戦い方をしているはず」「“旬”ゆえの、デビューしたてのアイドルか出せないような、今しかできない柔道と勝ち方をしている。熟練の女優には二度と出せない魅力がある。だから、『今』の渡名喜を、今年のグランドスラムの会場に見に来てほしい」と訴えた(カットされてしまったが)。しかし現状はドラスティックな変化は見られず。オーソドックス軽量級スタイルを高い水準で揃えて高い運動性能を積んだ、そのままの方向で大会に臨んだと捉えて良いのではないだろうか。ビロディドの台頭にしてやられた形になってはいるが、大局的に見れば「狙われてそれでも勝ち切るだけの上積みが出来なかった」と考えるべきではないだろうか。

ビロディドが他選手に見せた圧倒的な強さを考えれば、ツアーでの渡名喜はむしろ「やれていた」。が、これはロジックではなくやはり渡名喜の潜在能力。「圧倒的に小さい」がゆえに、普段から奥襟を叩かれてのやりとりに対する耐性があったゆえと考える。この点、普段圧殺をまずベースとするガルバトラフがはるかに大きいビロディドに対しそれでも奥襟を叩き、結果まったく通用せずに敗れたこととは好対照。しかし「やれてしまう」を超えるものは結果として何も見いだせなかったのである。この点、技に入られても刹那的に解決出来てしまうというそれまでの戦いぶりと内容はあまり変わらない。

成長を続けることが国際柔道におけるトップ選手の必須条件。渡名喜がどの方向に成長を見出すか、ビロディドという明確な目標が生まれた今後が楽しみである。

■ ゆらぐ王国、問われる育成、日本の48kg級に未来はあるのか?
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「王国」日本の48kg級はアジア大会に続いて表彰台の2番手に終わった。

一番手である渡名喜が同一選手に3連敗を喫して、V逸。かつて「王国」と称された日本の48kg級は前述の通り大きな岐路に立たされている。

とはいえ、そもそも「王国」はギリギリの事情で繋がって来たものだ。2010年1月、第1回ワールドマスターズの表彰台を福見友子、山岸絵美、浅見八瑠奈、近藤香で独占した頃はまさしく「王国」の名にふさわしい質と厚みを誇った日本の最軽量級であったが、ロンドン五輪後に1人でこれを背負うこととなった浅見が休養すると突然「誰もいない」状態に。近藤亜美という才能1個が現れたことでこれが救われ、リオ後に今度は「1人しかいない」ところに渡名喜が出現したことで辛うじてバトンを繋いできたが、この間現れた若手有望選手がことごとく育成の波に乗れず伸び切らず。今年はトップ2を注ぎ込みながらアジア大会と世界選手権もいずれも獲れず、ビロディド出現という事態に対して「あいつなら」と頭に浮かぶような潜在的な大物も見当たらない。

そもそも論として。名門ブエノスアイレス大学を卒業して医師の資格を持つ五輪王者パレト、親子で数年間世界を経めぐり続けて腕を磨いて来た新世界王者ビロディド、世に出るために母国を捨てて国籍変更することでトップ選手に駆け上がったガルバトラフ、こういった濃いキャラクター、人間的に豊かな人材と、日本の部活動におけるメソッド柔道で目先の勝ち負けを仕込まれることで上がって来た日本の女子選手がこの先伍していけるのだろうか。カテゴリ内の視野に埋没している学生カテゴリの選手たちに、彼女らと伍するようなキャリア感覚は身に着くのだろうか。伍するのであればどのような育成が必要なのか。黄金時代に期待された若手が伸び切らず、浅見、近藤、渡名喜とスポット的な才能の出現によってなんとか「王国」の体裁を続けて来た日本の女子最軽量級だが、実はまさしく砂上の楼閣。ジャンル全体の浮沈を考えねばならないレベルの、構造的な大ピンチである。

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