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【バクー世界柔道選手権2018特集】リネールら大物「戦略的欠場」もみどころは満載、充実陣容の日本勢は金メダルラッシュに期待・バクー世界柔道選手権2018オーバービュー

(2018年9月17日)

※ eJudoメルマガ版9月17日掲載記事より転載・編集しています。
【バクー世界柔道選手権2018特集】リネールら大物「戦略的欠場」もみどころは満載、充実陣容の日本勢は金メダルラッシュに期待
バクー世界柔道選手権2018オーバービュー
文責:古田英毅
Text by Hideki Furuta

→特設ページ・バクー世界選手権2018完全ガイド

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設営中の大会会場(IJFウェブサイトより)

柔道世界一決定戦、今年の柔道界最大のイベントである世界柔道選手権2018(9月20日~27日、アゼルバイジャン・バクー)がいよいよ目前に迫った。

この世界選手権、「柔道世界一を決める」紛うことなき最高峰大会であるが、日本から見た今大会の重要性と世界から見た立ち位置には若干の差がある。大会を楽しむため、観戦にあたっての前提条件があるとすればまずはこのあたりではないかと思われるので、ひとまずここから稿を起こしてみたい。

五輪までの中間年である今年の世界選手権の位置づけを語る上でのひとつの切り口は、「リネールとケルメンディの欠場」である。いわずもがなの絶対王者、世界選手権100kg超級8連中にして五輪の連覇者テディ・リネール(フランス)と、52kg級のリオ五輪金メダリストのマイリンダ・ケルメンディ(コソボ)という、男女の横綱がいずれも今大会の出場を見送った。

ほか、これぞという選手でエントリーリストに名前がないのは、60kg級のイェルドス・スメトフ(カザフスタン)とディヨルベク・ウロズボエフ(ウズベキスタン)に73kg級の大野将平、48kg級のジョン・ボキョン(韓国)、78kg超級のユー・ソンとマー・スースーの中国コンビなど。渋いところでは60kg級のダシュダヴァー・アマーツヴシンとガンバット・ボルドバータルのモンゴル2強、73kg級の欧州王者フェルディナンド・カラペティアン(アルメニア)、70kg級のキム・ポリング(オランダ)、78kg超級の新鋭ホマーヌ・ディッコ(フランス)、また66kg級のダヴァドルジ・ツムルフレグをはじめとするモンゴル→UAE移籍組も姿を見せていない。昨年突如躍進した81kg級2位のマテオ・マルコンチーニ(イタリア)と90kg級2位のミハエル・ツガンク(スロベニア)は以後一度も畳に姿を現さず。

ケガ、世代交代、休養など各人それぞれ事情は異なるが、ひとつ言えるのは、今年の世界選手権が「戦略的欠場の最後の機会」であるということ。毎年開催に切り替わった2010年以降世界選手権は当年の世界王者決定戦であるとともに「五輪に向けた準備(調整、ポイント獲得、観察)」の場として捉えられるようになり、ロンドン-リオ期にこの位置づけは完全に定着。階級によって事情は異なるが、東京五輪を目指す役者は新戦力も加えて昨年のブダペスト世界選手権でほぼ出揃っており(リオ五輪のメインキャストが、振り返ってみれば「陣容薄い」と言われた2013年リオ世界選手権で実はほぼ全員出揃っていたことを思い起こしてもらいたい)、既に功成り名遂げた選手たちにとっては敢えて過酷な「手合わせ」に打って出るメリットは、そのミッションの難しさに比してさほど高くない。かつ国内で1番手、あるいはそれに準ずる地位を確実にしているベテランたちにとっては、リスクを掛けて世界一に挑戦し続けるよりも、もっとも効率良く、かつハイコンディションで五輪に出場出来るスケジュールを組むことがより肝要。この観点で考えれば、結果を残すべきデッドラインは今年ではなく来年度、2019年の東京世界選手権だ。出来得ればなるべく長く潜行して体を休め、コンディションを整え、技術的な上積みを得て「2020年モード」の柔道を作り上げ、最短距離で五輪に辿り着きたいと考えるはず。

この点、国内の代表争いが激しすぎて選手が常に結果を残さねばならない日本と、他強豪国は根本から事情が異なる。日本でこの「スケジュール」を考えて調整している(そしてそれが出来る立場にある)のはおそらく大野将平ただ1人のみ。いくつかのアスペクトがある今年度世界選手権であるが、大前提としてまずはこの4年スパンにおける今大会の「位置づけ」は理解しておくべきだろう。

とはいえ、大会のレベルが低いというわけではまったくない(女子52kg級のように明らかに高くない、焼け野原の階級もあるが)。「ロンドン-リオ期の強豪の生き残り度」「リオ以後の新興勢力の躍進度」の2つの項のせめぎあいがそれぞれの階級の様相を決める今大会であるが、例えばロンドン-リオ期のメインキャストの力が衰えぬままに新興勢力が大躍進中の100kg級などは階級丸ごとレベルが上がってまさしく充実期にあるし、90kg級や81kg級の混沌はいまだ先が見えず誰が抜け出してくるかわからない状況。技術の共有が容易になったことを背景に、全員の技術レベルが明らかに上がった100kg超級などは北京-リオ期の停滞が嘘のような「面白い役者」が乱立している。48kg級のダリア・ビロディド(ウクライナ)や90kg級のミハイル・イゴルニコフ(ロシア)、100kg級のニヤズ・イリアソフ(ロシア)など才能あるスター候補も多士済々。これらの階級は誇張なしに「1試合も見逃せない」域、今年も世界選手権はやっぱり面白い。

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日本代表は充実の陣容

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日本代表は充実の陣容。金メダルを「ほぼ取れる」と読んでいい階級が男子60kg級、66kg級、73kg級、女子52kg級と女子70kg級の計5階級。「勝負」の階級が男子100kg級と100kg超級、これに女子48kg級と女子78kg超級を加えた4階級。残りの5階級も十分「狙える」位置につけており、俗な言い方で恐縮だが「金メダルラッシュ」というシナリオが十分見える状況にある。特に、世界全体のレベルが下がっている女子52kg級と女子70kg級はミッションとして「それ以外」が許されない状況と言っていいほど。(余談ながら、日本女子代表の2枠選出がこの「世界のレベルが下がっている」2階級にそのまま適用されていることには、現在の「国内ランキングポイント」を前提とした女子代表選出の特徴と問題点が良く表れていると考える。これについては本来代表決定直後に一言物申すべきであったが、次の機会を待ってまとめてみたい)。日本のファンにとっては、「勝ち負け」だけでも十分楽しめる大会になるであろう。2020年の五輪に向けて日本国内の「スポーツ」全体に対する注目度が高まる中、「4年に1回しか柔道を見ない」一般総に向けていかに日本の柔道が強いか、頼もしいか、大いに見せつけて欲しい。

そして、日本選手から見た今大会の位置づけは、他国から見たそれとはくらべものにならぬほど、高い。物凄くざっくり言って、代表争いのレベルが高くかつ人材が厚い日本にあっては「勝ち続けること」「代表で居続けること」で得られるアドバンテージは決定的。というよりも、現行システムでは「代表に選ばれ続けて、勝ち続けること」以外に五輪代表に繋がる道がないのだ。新たに実施された「世界選手権で優勝した選手が同年のグランドスラム東京(※2019年は大阪開催)で優勝すれば、翌年の世界選手権代表内定」というシステムが、この「優位にあるものがより優位になる」スパイラルをさらに加速。日本代表として世界大会を戦うチャンス1回の付与、という事実はまことに重く、ごくごく1部の選手を除いて、彼らは勝つこと以外に実は五輪争いに生き残る道が残されていないのである。この世界選手権は1試合1試合が、まさしく人生の掛かった、そのまま、「いま五輪を戦っている」と規定してもおかしくない重要試合。挑戦にして、「挑む」立場にはあらず実は背水の陣。足し算の機会ではまったくない、踏み外してはならない崖っぷちの戦いなのだ。このあたりを背景として飲み込んで、ぜひ彼らの戦いに声援を送ってもらいたい。

各階級の展望、有力選手紹介は個別に詳しく掲載するが、先んじて下記にざっくり編集部の展望を記しておく。熱戦に期待である。

60kg級:髙藤直寿(日本)
髙藤の力が頭ひとつ抜けている。イェルドス・スメトフ(カザフスタン)、ディヨロベク・ウロズボエフ(ウスベキスタン)が欠場、ベスラン・ムドラノフ(ロシア)も既に32歳でツアーでは力を見せられていない。永山竜樹との準決勝が最大の山場。永山も苦手のガンバット・ボルドバータル(モンゴル)が出ておらず、対髙藤1戦に集中可能。ドローの焦点はムドラノフの位置。

66kg級:阿部一二三(日本)
他に候補が考えられない。過去の失敗はいずれもパワー系相手であり、この観点からはヴァスハ・マルグベラシビリ(ジョージア)が気になるが、阿部はミスをしっかり修正する能力にも長けており今回は手堅く戦うのでは。アン・バウル(韓国)は純実力的には対抗馬扱いとすべきだが、柔道の相性的には阿部有利が否めない。

73kg級:橋本壮市(日本)
力的には橋本、ただし周囲も充実という印象。ルスタン・オルジョフとヒダヤット・ヘイダロフの地元勢2人が力以上のものを出してくる可能性があること、アン・チャンリン(韓国)の調子が良くかつ戦術的に先手を取ってくる戦い方が出来ること、早い段階で対戦するであろうアキル・ヤコヴァ(コソボ)が躍進中であること、などが不確定要素。

81kg級 ハサン・ハルモルザエフ(ロシア)
あまりにも混戦。便宜上ハルモルザエフの名前を挙げたが、1人敢えて名前を挙げることが難しい。トップ20選手くらいが、「初戦敗退から決勝進出」までがありえる状況と考えて良いのでは。藤原崇太郎(日本)ももちろんこの中の1人である。

90kg級 ミハイル・イゴルニコフ(ロシア)
力的なナンバーワン選手はイゴルニコフではと考える。ただしまだ若く経験値のなさ否めず、戦略的、戦術的に「力を消しに来る」相手にどれだけ出来るかが課題。この観点からは対抗馬はヨーロッパのパワー派よりも、長澤憲大(日本)やガク・ドンハン(韓国)ら東アジア勢になるのではないか。

100kg級 ニヤズ・イリアソフ(ロシア)/ウルフアロン(日本)
地力はイリアソフ。負傷明けのウルフは極めて研究熱心、上位対戦であればむしろしっかり勝ち抜くのではと思われるが、滑り出しの序盤戦が心配。前述の通りこの階級は新旧の強豪たちいずれもレベルが高く、非常に面白い。ウルフはノーシード、ドローの行方が非常に大事。

100kg超級 原沢久喜(日本)
国際的に見ればグラム・ツシシビリ(ジョージア)を推すべきだが、日本国内にはこのタイプ(アスリート系で袖釣込腰を駆使する強者)でレベルの高い選手がかなりおり(たとえば熊代佑輔)、これに耐性と手立てがしっかりある原沢を推すのは筋が通っている。100kg級からの転向組が多く「動ける選手対アンコ型重量級」という大きな構図があること、そしてこういってはなんだが意外とどの選手もツアーではこのところ調子が悪い、ということが観戦の前提条件か。原沢、小川雄勢ともノーシード、ドローの結果がものすごく重要。

48kg級 ダリア・ビロディド(ウクライナ)
長く続いたアジア中心の世界観、この版図を大きく塗り替えつつある17歳、ダリア・ビロディドが優勝候補筆頭。ビロディド対「旧帝国」アジア勢というのが今大会を貫く軸。日本の渡名喜風南はビロディドとの身長差に押し切られて連敗中だが、現在とにかく調子が良い。どちらが勝っても東京五輪に向けたスター誕生、直接対決に期待。

52kg級 阿部詩(日本)
情報通りにケルメンディが出ないのであれば、日本勢の優勝以外に考えられるシナリオはほぼ皆無。阿部詩vs志々目愛が階級を貫く一大テーマになるだろう。敢えて割って入る選手を1人探すとすればナタリア・クズティナ(ウクライナ)。純実力では劣るが、メンタル的に隙を見せることが多い日本勢2人に比べると、人間的な安定感がある。

57kg級 出口クリスタ(カナダ)
ドルジスレン・スミヤ(モンゴル)、出口クリスタ、芳田司(日本)が三強と思われるが、試合や稽古を観察する限り、ドルジスレンと芳田はあまり調子が良くない印象。出口が先日喫した負けはアクシデントであり(「待て」の認識が噛み合わず絞技を食った)、ワールドツアーは実質今年度負けなしと評価して良し。勝ちぶり豪快だが、一か八かの柔道ではなく安定感があることも買い。出口に勝ったシウバは、さしたる理由なく突如本来の力を発揮することがあるが、波があり過ぎて事前予測では推せない。

63kg級 クラリス・アグベニュー(フランス)
クラリス・アグベニューの力が一段抜けている。形上は田代未来(日本)、ティナ・トルステニャク(スロベニア)との3強だが、もはや「1強」時代と考えて良いのでは。ただし、この3人に割って入る選手もまた見当たらず、「3強」はこの壁を示す言葉として一定の意味あり。もう1人のメダリスト候補を敢えて挙げるとすれば、マルティナ・トライドス(ドイツ)くらい。

70kg級 新井千鶴(日本)
現在の新井は決して良い状態ではないと考えるが、前述の通りこの階級は現在世界的にレベルが高くなく、他にこれと推せる選手がいない。大野陽子と新井千鶴の直接対決は大野が有利と思われるが、大野も海外勢には絶対の強さを誇るというわけではなく、総合的に見れば新井を推すべきかと思われる。純実力的には2連覇が現実的、負けるとすればメンタル面で問題を起こした場合。

78kg級 マドレーヌ・マロンガ(フランス)
本来大本命にあるべきマイラ・アギアール(ブラジル)がこのところ不調で、事前予測で推せる状況にあらず。濵田尚里(日本)、オドレイ・チュメオ(フランス)はともに優勝クラスの力があるが、ここ一番でのアクシデントが多いタイプで事前予測で推すには不安あり。「置きにいけば」アギアールだが、ここは最近の調子を考えてマロンガの名前を挙げておく。

78kg超級 朝比奈沙羅(日本)
迫り得る選手はキム・ミンジョン(韓国)。中国の新鋭ワン・ヤンは、朝比奈には相性的に苦しいのではと考える。イダリス・オルティス(キューバ)とマリア=スエレン・アルセマン(ブラジル)は本人次第、蓋を開けてみるまで表が出るか裏が出るかわからない。

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