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飯田健太郎が金メダル獲得、王子谷剛志は一発反則負けで5位に沈む・アジア大会柔道競技2018第3日男子レポート

(2018年9月3日)

※ eJudoメルマガ版9月1日掲載記事より転載・編集しています。
飯田健太郎が金メダル獲得、王子谷剛志は一発反則負けで5位に沈む
アジア大会柔道競技2018第3日男子レポート(90kg級、100kg級、100kg超級)
文責:古田英毅/eJudo編集部

■ 90kg級・優勝はガクドンハン、ベイカー茉秋は左肩負傷で精彩を欠く
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準々決勝、ベイカー茉秋が右小内刈もイスラム・ボズバエフが捌く

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ガク・ドンハンとベイカーによる準決勝はやはり消耗戦。

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終盤、ガクが加速するとベイカーは展開についていけない。

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ベイカーに「指導3」が与えられ、試合決着。

(エントリー17名)

【入賞者】
1.GWAK, Donghan (KOR)
2.GANTULGA, Altanbagana (MGL)
3.USTOPIRIYON, Komronshokh (TJK)
3.BAKER, Mashu (JPN)
5.BOZBAYEV, Islam (KAZ)
5.SABIROV, Shakhzodbek (UZB)
7.TEJENOV, Tejen (TKM)
7.ELIAS, Nacif (LBN)

リオデジャネイロ五輪金メダリスト・ベイカー茉秋が日本代表として出場も、銅メダルに終わった。

ベイカーは8月初旬の全日本合宿で左肩を負傷、ほとんど実戦練習なしでの「ぶっつけ本番」。はだけた柔道衣からは時折ガチガチに固めたテーピングがのぞく、痛々しい姿での試合となった。試合は明らかに動き悪し、それでも2回戦はファルフ・ブレクロフ(カザフスタン)に「指導3」、審判のジャッジの拙なさにも助けられた準々決勝は難敵イスラム・ボズバエフ(カザフスタン)も「指導3」で下して、宿敵ガク・ドンハン(韓国)との対決に辿り着く。

しかし、ガクは到底この状態で戦える相手ではなかった。中盤まではめまぐるしい組み手の優位の取り合い、そして「指導」の取り合いの消耗戦。ここまでは常のベイカー対ガク戦とかわらぬ様相だが、いつもなら時間が経てば経つほどベイカーが優位になっていく泥沼の粘戦から抜け出したのはなんとガク。3分18秒にベイカーに2つ目の「指導」が宣告されるとガクは加速、片手の左背負投を連発してあと1つの「指導」を取りに来るがベイカーはこれを止められず。3分49秒ついに3つ目の「指導」が与えられてベイカーの反則負けが決まった。

ベイカー、それでも3位決定戦には果敢に出場。シャフゾドベク・サビロフ(ウズベキスタン)の隅返をかわして抑え込み、銅メダルは確保した。

ベイカーはこの日、投げを1つも決めていない。突如ロケットスタートするようなあの思い切りの良い技を一度も仕掛けることなく、狙う投げは相手を固めて押し倒すようなスローモードのものばかり。緩急の「緩」のみという片肺飛行だ。組み手とリアクションの巧さでひたすら展開だけを取るという、地力だけの「貯金」で戦っている状態では、試合に「出ること」は出来ても到底「勝つこと」が出来る状態ではなかった。むしろこの状態でガクドンハンと接戦を繰り広げ、銅メダルまで持って帰ったベイカーの地力と精神力に舌を巻く。まずはしっかり怪我を治してもらいたい。

トーナメントはそのままガクが駆け抜け、念願のアジア大会初優勝を達成した。

ベイカー茉秋選手のコメント、準決勝と3位決定戦の結果、決勝および日本代表選手全試合の戦評は下記。

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90kg級メダリスト。左からガンツルガ・アルタンバガナ、ガク、ベイカー、ウストピリヨン。

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90kg級決勝、ガクがガンツルガ・アルタンバガから背負投「技有」。

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直後技の効果は「一本」に訂正、ガクの初優勝が決まった。

ベイカー茉秋選手のコメント
「優勝しか狙っていなかったので悔しいです。今までやってきたことがあまり出せませんでした。(ーどんな気持ちで3位決定戦に臨みましたか?)メダルを獲るか獲らないかでは違うので、なんとしてもメダルを日本に持ち帰りたいという気持ちで畳に上がりました。優勝して東京五輪に弾みをつけたかったのですが、3位という結果に終わってしまい、また一からやっていかなければいけない。気持ちを引き締めて、次の戦いからしっかり勝ちに行けるように頑張ます。」

【準決勝】
ガク・ドンハン(韓国)○反則[指導3](3:49)△ベイカー茉秋
ガンツルガ・アルタンバガナ(モンゴル)○一本(3:45)△コムロンショフ・ウストピリヨン(タジキスタン)

【3位決定戦】
コムロンショフ・ウストピリヨン(タジキスタン)〇優勢[技有・背負投]△イスラム・ボズバエフ(カザフスタン)
ベイカー茉秋○崩袈裟固(2:13)△シャフゾドベク・サビロフ(ウズベキスタン)

【決勝】
ガク・ドンハン(韓国)〇袖釣込腰(2:23)△ガンツルガ・アルタンバガナ(モンゴル)
ガクが左、ガンツルガが右組みのケンカ四つ。ガンツルガは密着しては片襟の左背負投に、離れては右の内股と組み手の左右なく、間合いを出し入れしながら先んじて攻める。1分54秒、様子見の長くなったガクに「指導」。試合時間2分30秒にならんとするところで、ガクが組み際に左袖釣込腰。すっぽりガンツルガの懐に飛び込み、畳を蹴ってもろとも飛んで「技有」。続く寝技の攻防の中、主審技の効果を訂正して「一本」に格上げ。ガク両手を高く揚げて大喜び。

【日本代表選手勝ち上がり】

ベイカー茉秋(日本中央競馬会)
成績:3位


[2回戦]
ベイカー茉秋○反則[指導3](2:31)△ファルフ・ブレクロフ(カザフスタン)
右相四つ。ブレクロフはかなり力がある様子、引き手で袖を織り込み奥襟を得て大外刈で先制攻撃。続いて両袖を絞ってベイカーを屈させると胴を抱え「待て」。以後もブレクロフはベイカーの力を出させまいと袖を絞り続けるが、ベイカーはそれ以上にしつこく引き手で袖を折り込み、奥襟で頭を抱えてと、表情を変えずに相手が嫌がる組み手を淡々と作り続ける。1分22秒、首を抜きながら場外に出たブレクロフに場外の「指導」。続いてクロス組み手の「指導2」、最後は袖を絞り込んだ咎で「指導3」と溜まり、終戦。

[準々決勝]
ベイカー茉秋○反則[指導3](3:39)△イスラム・ボズバエフ(カザフスタン)
右相四つ。ボズバエフいきなり軸足から回転を起こし低い右背負投。ベイカー危うく体がついていき掛かるが伏せて落下「待て」。以後は片襟の右背負投とクロスの背中叩きを軸に戦うボズバエフと、粘り強く組み手を進めながら敢えてスローな大外刈や両袖を絞っての右一本背負投、大内刈で攻めるベイカーという構図。特にボズバエフの側には細かく組み手のファウルがあるが審判見極められず、おそらくは遅れて「指導」を出し、ゼスチャーが小さいため何の反則が理解しにくい状態。1分22秒、ボズバエフの片襟背負投にベイカーがついていきかかったところで、ベイカーに偽装攻撃のゼスチャーで「指導」、1分5秒と1分20秒におそらくは袖口絞りと片襟の咎でボズバエフに2つの「指導」。残り21秒、ボズバエフが片襟に入れた釣り手を振り、右背負投。ベイカー深くまたいでしまい形上危機だが、突き落として「待て」。ここで主審なぜかボズバエフにノーゼスチャーで「指導」。おそらくは片襟の反則であろうが、この「指導3」でベイカーの勝利が決まった。主審が力量足りず、おそらくベイカー強しとの予見と事象が過ぎてからやってくるインカムのアドバイスに盲目的に従い続けたゆえの混沌。理解の難しい試合。

[準決勝]
ベイカー茉秋△反則[指導3](3:49)○ガク・ドンハン(韓国)
事実上の決勝はベイカーが右、ガクが左組みのケンカ四つ。釣り手一本の形から、双方肘をこじあげての「出し投げ崩し」、釣り手を激しく振っての牽制と繰り出し、互いにハナから粘戦を覚悟した戦法。しかしポイントが想起されるような技は出ず、陣地の取り合いがひたすら続くことになる。2分3秒双方に「指導」、そして3分18秒にも両者に「指導」が宣告されるが、ガクへの反則はすぐに取り消し。ベイカーは自分だけが「指導2」を失い後がなくなってしまう。時が来た、と判断したガクは激しく釣り手を振って片手の左背負投を連発、さらに左内股も混ぜ込んで明らかにあと1つの「指導」を獲りにくる。抗し切れないベイカーが前に出たところにガクが右一本背負投を合わせ、ここで主審が試合を止める。3分49秒3つ目の「指導」が宣告されて試合終了。

互いに粘るうちに相手の集中力が切れ、後半になればなるほど優位になっていくのがベイカーの戦い方。しかし今回粘戦から抜け出したのはガクだった。ベイカーは左肩をテーピングで固め、一貫して動き悪し。厳しいコンディションでの戦いだったことが推察される。

[3位決定戦]
ベイカー茉秋○崩袈裟固(2:13)△シャフゾドベク・サビロフ(ウズベキスタン)
ベイカーが右、サビロフが左組みのケンカ四つ。腕の長いサビロフが引き手で袖を持つと間合いが開く。ベイカーはこれをさせじと間を詰め、背中を四指で握って抱きつき、引き落とすような右小外掛を押し込む。これは取り切れずその後少々様子見で膠着、1分24秒双方に「指導」。続く展開、ベイカーが間を詰めるとサビロフ鋭い動きで隅返。間合いのないところに飛び込む良い技だったがベイカー体を捌いてかわし、次の瞬間には後襟を握って首を拘束。横四方固の形で抑え込む。崩袈裟固に連絡し「一本」。
互いに粘るうちに相手の集中力が切れ、後半になればなるほど優位になっていくのがベイカーの戦い方。しかし今回粘戦から抜け出したのはガクだった。ベイカーは左肩をテーピングで固め、一貫して動き悪し。厳しいコンディションでの戦いだったことが推察される。

■ 100kg級・飯田健太郎が日本人男子2人目の金メダル、決勝は難敵チョグハンに完勝
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2回戦、飯田健太郎がリー・フイリンから内股「一本」

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準々決勝、飯田がティル・ホジャムハメドフから内股「一本」

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決勝、飯田がチョ・グハンを内股で攻める

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延長6分を超えたところで主審ようやくチョに3つ目の「指導」。飯田の圧を受け続けたチョはフラフラ。

(エントリー17名)

【入賞者】
1.IIDA, Kentaro (JPN)
2.CHO, Guham (KOR)
3.LKHAGVASUREN, Otgonbaatar (MGL)
3.JURAEV, Sherali (UZB)
5.SAIDOV, Saidzhalol (TJK)
5.REMARENCO, Ivan (UAE)
7.DEMYANENKO, Viktor (KAZ)
7.HOJAMUHAMMEDOV, Batyr (TKM)

大学2年生の飯田健太郎がアジア大会初出場初優勝。しっかり日本代表としての責めを果たした。

この日、唯一最大の敵は決勝で相まみえるチョ・グハン(韓国)。飯田は2回戦でリー・フイリン(中国)を内股「一本」、準々決勝ではバティル・ホジャムハメドフ(トルクメニスタン)を内股「一本」、準決勝はルハグヴァスレン・オトゴンバータル(モンゴル)を地力で圧して「指導3」の反則と極めて順調。チョも準決勝でイワン・レマレンコ(UAE)を組み手と地力で封殺、相変わらず相手のやりたいことをさせない粘着柔道で「指導3」を奪って決勝に勝ち上がって来た。

この決勝は飯田がほぼ圧倒。序盤こそ組み手でやや拮抗したが、以降は組みたがらないチョを捕まえ、内股を軸に淡々技を積んで、投げ一発を狙い続ける。一方遠間から担ぎに飛び込むチョの技はほとんどまったく効かず、飯田は背を伸ばしガッチリ止め、チョはその都度あるいは掛け潰れ、あるいは膝を屈したまま飯田にひきずられてと却って状況を悪くするばかり。控えめに見ても本戦でチョに「指導」2つの付与が妥当なところであったが、しかしこの3日目はこれまで以上に審判団のジャッジのレベルが落ち、この決勝の審判も明らかに技量、経験ともに不足。国際大会ではほぼ1度も顔をみたことがない、アジア大会でいきなり大舞台を任されたのであろうこの主審が「指導」を1度も発することが出来ないまま本戦4分が終わって、試合はGS延長戦へ。試合の様相は変わらず飯田有利、観戦上の興味は飯田がどう投げるかに移った感があったが、チョは審判の迷走もうまく利用して延命。「生きている」限り何をしてくるかわからないチョが粘ることで試合はある程度スリリングなものとなったが、GS6分19秒という長時間試合の末に主審がチョに「指導3」を与えてついに幕。アジア大会初出場の飯田が金メダルを手にすることとなった。

前日の73kg級大野将平対アン・チャンリン戦の長時間試合も審判技量のなさが一因ではあったが、息詰まる投げ合いの連続に特に延長戦は介入のタイミングが難しかったこともまた事実。両者の拮抗した実力と投げ合いが長時間試合のエンジンとなったことも確かだった。しかしこの飯田-チョ戦は単に審判技量が低いから長くなってしまった試合の典型。もともと粘れるだけ粘って相手を焦らせる以外に勝ち目なしと割り切ったチョが審判の不慣れを見逃すはずもなく、掛け潰れを厭わずますます試合は泥沼化した。欲を言えば飯田に投げて決めて欲しかった試合だが、階級きっての曲者でどんなおかしなことをしてくるかわからないチョに対し、それも審判技量が信用できない状況で、しかもまかり間違ってポイントを失ってしまえば再逆転の目がないサドンデス方式が進むさなか、もはや極端なふるまいは出来なかったのだろうと推察する。一般スポーツファンにも大きく報じられたであろうアジア大会という大舞台でのスター誕生という絵を逃したのは惜しいが、しっかり結果を持ち帰ったその判断は評価されるべき。チョを問題にしなかったそのフィジカルの強さ、しっかり一段階段を登ったように感じられた。

飯田健太郎選手のコメント、準決勝と3位決定戦の結果、決勝および日本代表選手全試合の戦評は下記。

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100kg級メダリスト。左からチョ、飯田、ジュラエフ、ルハグヴァスレン・オトゴンバータル。

飯田健太郎選手のコメント
「試合をする前から消耗戦になるとわかっていたので、心の準備は出来ていました。途中で取り返されてしまったのですが、先に『指導』を2つ取っていたことが今回の勝因だと思います。チョ・グハン選手はグランドスラム東京で負けている相手。今回はなんとしてもリベンジする、絶対に優勝するという強い気持ちを持って畳に上がりました。(―延長戦でも技を掛け続けました)最後は気持ちで掛けられたと思います。選抜体重別選手権で負けて悔しい思いをしました。世界選手権にはウルフ(アロン)さんが選ばれ、大分離されてしまっている。食いついていこう、アジア大会はなんとしても優勝しなければという気持ちで臨みました。優勝出来てホッとしています。」

【準決勝】
チョ・グハン(韓国)○GS反則[指導3](GS1:32)△イワン・レマレンコ(UAE)
飯田健太郎○反則[指導3](GS1:34)△ルハグヴァスレン・オトゴンバータル(モンゴル)

【3位決定戦】
ルハグヴァスレン・オトゴンバータル(モンゴル)○大腰(2:54)△サイジャアロル・サイドフ(タジキスタン)
シェラリ・ジュラエフ(ウズベキスタン)○合技[背負投・背負投](1:55)△イワン・レマレンコ(UAE)

【決勝】
飯田健太郎(国士舘大2年)○GS反則[指導3](GS6:19)△チョ・グハン(韓国)
右相四つ。組んで勝負をしたい飯田に遠間から組み際の技を狙いたいチョという構図。飯田先に引き手で袖を得て常に自分の優位を確保しながら組み手を進める。1分1秒には右背負投を仕掛けるがこれは相手を崩すには至らず。ここでこれまで飯田有利で続いた組み手が一度リセット。直後の1分32秒、チョが組み際に一本背負投の形に腕を抱いて放った左小内刈であわやポイントという場面があったが、飯田辛うじて腹這いで逃れ、ここからは飯田が右内股、チョが左小内刈に左背負投で攻め合う攻防。一貫して飯田が優位、チョは手が詰まってきている印象。残り30秒には再度チョが一本背負投の形の左小内刈を仕掛けるが、これは飯田が余裕を持って立ったまま防ぎ、互いにポイントがないまま勝負はGS延長戦へ。

GS15秒、飯田は先に引き手で袖を得ておき、釣り手を得るなり右大内刈。ケンケンで追い込んで右内股に連絡するが投げ切るには至らない。直後にチョが右一本背負投から内巻込を狙うが、飯田は手を着いてこれを防ぐ。ここからは長い組み手の攻防。両者ともに十分な形を作れないが、飯田の圧を受け続けたチョに疲労が溜まってゆく。飯田が奥襟を得て右大内刈を仕掛けたGS2分20秒、チョのみに消極的の「指導」。さらに飯田が右大外刈で攻めたGS2分53秒にはチョが左一本背負投で伏せ、これに対して偽装攻撃の「指導2」が与えられる。もはや攻めるしかなくなったチョだが、飯田が引き手から持つ丁寧な組み手を徹底するため攻めのきっかけを掴めず、組み際に技を散発するのみでなんとか延命しているといった状態。GS4分20秒には突如本気の右背負投を見せるが、既に投げきるだけの力がなく飯田は余裕を持ってこれを防ぐ。直後奥襟を得た飯田が右内股。深く入るがこれは引き手が離れてしまいポイントにはならない。飯田が圧倒的優位な状況が続くが、GS5分1秒、掛け潰れを続けるチョの技を有効な攻撃と見なしたのか、飯田に不可解な消極的の「指導」。さらに同様の形でGS5分48秒、飯田に消極的の「指導2」が与えられる。さすがにこれは意味不明。正田秀和コーチは両手を大きく開いて信じられないといったアピールを行う。直後のGS5分55秒、この「指導」ポイントは取り消し。

GS6分5秒、チョが掛け逃げまがいの左一本背負投。飯田が両襟で奥襟を持って引きずり、右大内刈で追い込んだGS6分19秒、主審が試合を止めて両者に服装を正すように指示を出し、チョの一本背負投に対して偽装攻撃による「指導3」を宣告。これでようやく決着。本来であればもっと早くに「指導3」で終わらせるべき試合であったが、最後まで集中力を切らさず丁寧な組み手を続けた飯田はさすが。難敵チョを完璧な内容で下してアジア王者の座を手に入れた。

【日本代表選手勝ち上がり】

飯田健太郎(国士舘大2年)
成績:優勝


[2回戦]
飯田健太郎○内股(1:19)△リー・フイリン(中国)
飯田が右、リーが左組みのケンカ四つ。リーは右組みを偽装して構えておいて奇襲の左内股、しかし飯田はしっかり捌く。右内股で投げかけ、体を開いて組みたがらない相手を追い詰め、組み手二本を得ると呼吸を整え右内股。1回入って上げ、相手が体を固めるともう1回入り直して鮮やか「一本」。

[準々決勝]
飯田健太郎○内股(1:23)△バティル・ホジャムハメドフ(トルクメニスタン)
飯田が右、ホジャムハメドフが左組みのケンカ四つ。飯田内股で先制攻撃もホジャムハメドフ引き手を切り、右一本背負投で反攻。しかし以後あまりに引き手を嫌い過ぎ、1分25秒片手の咎で「指導」。続く展開で引き手を得た飯田、伸びやかに右内股。綺麗に投げ切り「一本」。

[準決勝]
飯田健太郎○反則[指導3](GS1:34)△ルハグヴァスレン・オトゴンバータル(モンゴル)
飯田は右、ルハグヴァスレンは左、右と組み手を変えながら相四つの形では引き手で脇下を抱え込み、ケンカ四つでは片手の引き手争いを挑む難剣モード。飯田組もうという姿勢を保ち続け、1分にルハグヴァスレンに「指導」。ルハグヴァスレンは左内股に右背負投、さらに左一本背負投の形に腕を抱えた相手の右からの横掛と面白い技を見せて飯田の圧を凌ぐが、一貫して前に出、右内股を狙う飯田に陣地を譲ること否めず。GS1分34秒、3つ目の「指導」で試合終了。

[決勝]
飯田健太郎(国士舘大2年)○GS反則[指導3](GS6:19)△チョ・グハン(韓国)
※前述のため戦評省略

■ 100kg超級・絶好調キムスンミンが優勝、王子谷剛志はダイレクト反則負けで5位に沈む
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キムスンミンと王子谷剛志が組み合うと、王子谷の頭が下がる

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腕を押さえたままキムが転がると王子谷抑え込むが、主審は試合を止める。

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主審が王子谷の反則負けを宣告。

(エントリー11名)

【入賞者】
1.KIM, Sungmin (KOR)
2.ULZIIBAYAR, Duurenbayar (MGL)
3.OLTIBOEV, Bekmurod (UZB)
3.MIRMAMADOV, Shakarmamad (TJK)
5.MAHJOUB, Javad (IRI)
5.OJITANI, Takeshi (JPN)
7.YIN, Yongjie (CHN)
7.TOKTOGONOV, Bekbolot (KGZ)

日本期待の王子谷剛志は5位陥落という意外な結果。準決勝で衝撃的な「ダイレクト反則負け」を喫した。

問題の場面は試合時間が2分半に迫ろうかという中盤戦に現出。キム・スンミン(韓国)に片手の左袖釣込腰を仕掛けたところ、腕を伸ばされた形(右腕を左肩上に抱え込まれた形)になったキムが肘を押さえ、悲鳴を上げて畳に転がる。王子谷動ぜず崩上四方固に抑え込むが、主審は試合を止めて「肘関節を極めながら体を捨てて技を仕掛けた」との咎で、王子谷のダイレクト反則負けを宣告。王子谷はこれで次戦(3位決定戦)を戦う権利も失い、この時点で5位終戦となった。

「実際には極まっていない」(その通りである)、「キムの過剰アピールだ」と議論沸騰したシーンであるが、筆者は現場で、これは致し方なし、王子谷の側に責ありとまず感じた。この場合実際に極まっているかどうかはあまり問題ではない。理由は以下4つである。

まずはこの「関節技を仕掛けながら技を施す行為」についてここ数年来IJFが非常にナーバスになっていること。特に片手の袖釣込腰の形で伸ばした相手の腕を体にひっかける「この形」についてはツアーでもほぼ一律と言っていいほどの厳罰対処が打ち続いている。

2016年12月のグランドスラム東京ではアン・バウル(韓国)が橋口祐葵の腕が極まる形で袖釣込腰を仕掛けた際に、即刻反則負けが宣告されたことがあった。厳密に言えばルール上の条文は「腕挫腋固のような技を掛けるか、又は掛けようとしながら、畳の上に直接倒れる」でありこの状況の適用は難しいはずのだが(この際筆者は関係者に「どの条文を適用したのでしょうか、と質問して「危険な行為からは選手を守るということではないか」との答えを得た覚えがある」)「危険なものは危険」とここ2年間はアン-橋口ケースのように露骨なものでなくても、同種の技(片手の袖釣込腰で相手の腕を伸ばして体に引っ掛ける)行為は、ツアーでは非常に厳しく裁かれている。「厳しすぎるだろう」という反則適用事例を目撃したのも一度や二度ではない。IJFが今年から「立ち関節」自体を反則条項に加えたのも、この流れに連なる措置であることと考えるべきだろう。選手を守る、柔道が危険なスポーツであると認識される可能性を避けるというのは、いま業界のプライオリティとしては、敢えて極端に言えば、試合1試合の勝敗の妥当性よりも実は遥かに高いのだ。

2つ目は、相手が韓国選手であること。ご存知の通り、韓国チームはもともと勝つために「なんでもやる」集団、いわばグレーゾーンのスペシャリストである。前述アン-橋口戦などは、橋口を投げきれないことに苛ついたアンが突如「腕折り」の暴挙に出たものであるが、アンは反則裁定を当然のように受け入れて顔色ひとつ変えずに畳を降りていた。韓国チームが普段から何が反則で、何が「そうとは言い切れない」ケースかを常に考えて稽古していることが生々しく伺われたシーンであった。当然ながら審判団の泣きどころ(胴元のIJFなり審判委員会がナーバスになっているポイント)も熟知しているであろう。そのチームの選手相手に、しかも敵から自分が良く見えている相手有利の試合展開のさなかに、まさにいま審判が気にするもっとも「旬な」(危険と認識されるという意味で)カタチで、技に入り込むのは控えめに言ってとても良策とは思えない。キムの過剰なアピールは当然だ。塀際のスペシャリストが踊っているその塀の上に、無防備に踏み込んだところをそのまま突き落とされたというのが今回の現象ではないか。

3つ目は審判団の技量がまったく低かったこと。インカム修正の言いなりの彼らが、「アジア大会という大舞台で絶対起こしてはならないこと」「絶対守ってもらいたいこと」として、「選手を守るように」「危険行為には厳然と対処するように」と厳しく言い含められているであろうことは想像に難くない。前回の仁川大会が反則(噛みつきや殴り合いまであった)の応酬で審判のコントロールが及ばぬ場面が多々あった反省があるであろうことからも、おそらくこれは当たりだろう。そしてこれはどちらかというと不運の範疇であるが、技量の低い集団はポジティブな目標よりも「禁止ライン」を守ることにナーバスになりがち。過剰反応にはこの背景もあるのではないか。黒かどうかというより、この形、IJFが寄ってくれるなと度々警告を発していた「グレー」に近づいたこと自体が王子谷のミスだ。

4つ目。色々書いてきたが、王子谷の「座り込んで片手の左袖釣込腰」という選択が、戦術展開上実はもう負け戦であったことも指摘しておきたい。捨身技や変化技は「自身が有利な状況で行う」のが勝負の鉄則。相四つ本格派同士の奥襟のたたき合いで頭を下げられ、メインステージで陣地を譲った王子谷は既にこの時点で半ば負けていた。自身最大のストロングポイントであるはずの圧とパワーで負けた、その次策としての座り込みの片手逆袖釣込腰という選択は、控えめに言って、積極的打開策とは評価しにくい。苦肉の策だ。キムは、筆者が見る限りロンドン五輪以降最高の仕上がりで動き良し、一方の王子谷の出来は決して良くなかった。がっぷり組み合い、頭を下げられ、以降このまま戦ったとして果たして勝ち目はあったのか。現場で見る限り展望は決して明るくなかった。この選択を為した時点で勝負の行方はほぼ見えていたとすら感じた。ひょっとするとキムは力負けする王子谷を見て「次は例の袖釣込腰が来るだろうから、(反則アピールの)チャンスがあるかもしれない」くらいには思っていたかもしれない。

というわけで、気の毒なアクシデントではあるが王子谷は完敗。順位はそのまま今大会の評価としてまっすぐ捉えられるべきだと考える。

優勝はキム・スンミン。前述の通り31歳にしてキャリア最高の出来、念願のアジア大会初優勝を飾った。

決勝では、ウルジバヤル・デューレンバヤル(モンゴル)から鮮やかな払腰で「技有」を奪って勝利。2018年度現在、常のツアーで、双方が平均的な出来で対戦した場合にキムがウルジバヤルを投げることはちょっと考えられない。作用足の膝を鋭く揚げて相手を牽制しながらの追い込みなど、かつては巻き込み中心でむしろ鈍重であったキムとしては信じられないような躍動感すらあり。よほどこのアジア大会に合わせてコンディションを整えて来たのだろう。全選手並べて観察して、キムの金メダルはまことに妥当であった。

王子谷剛志選手のコメント、準決勝と3位決定戦の結果、決勝および日本代表選手全試合の戦評は下記。

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100kg超級メダリスト。左からウルジバヤル・デューレンバヤル、キム、ミルママドフ、オルティボエフ。

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100kg超級決勝、キム・スンミンがウルジバヤル・デューレンバヤルから払腰「技有」。

王子谷剛志選手のコメント
「極めた感覚はありませんでした。ただ、そのような解釈をされたことは受け止めたいです。アジア大会はほかの国際大会とは違って勝つことが大事。結果として負けてしまい情けないです。明日は団体戦がありますから、気持ちを作り直していきたいです。」

【準決勝】
ウルジバヤル・デューレンバヤル(モンゴル)○一本(3:57)△ヤヴァド・マージョウブ(イラン)
キム・スンミン(韓国)○反則(2:27)△王子谷剛志

【3位決定戦】
ベクムロド・オルティボエフ(ウズベキスタン)○優勢[技有・背負投]△ヤヴァド・マージョウブ(イラン)
シャカルママド・ミルママドフ(タジキスタン)○不戦△王子谷剛志

【決勝】
キム・スンミン(韓国)○優勢[技有・払腰]△ウルジバヤル・デューレンバヤル(モンゴル)
右相四つ。両者ともに左構えで試合をスタート。キムは先に引き手で襟を得てから奥を狙う接近戦志向、一方のウルジバヤルは引き手で前襟を持ち突っ張るようにして距離を取る。この形で組み合っての膠着が続き、53秒、両者に消極的との咎で「指導」。直後の1分10秒、同様の攻防から場外際でキムが釣り手で背中深くを持つ万全の形を完成させ、1分25秒には軽快なステップから得意の右払腰を放つ。腰を引いて防御姿勢を取っていたウルジバヤルだがキムのステップに反応して体が伸びた瞬間をとらえられてしまい、勢い良く吹っ飛び「技有」。リードを得たキムは中途半端に距離を取るのではなく、最も安定した両襟での圧殺でウルジバヤルに反撃の隙を与えず、ラスト2秒に消極的の「指導2」を失ったのみでぶじ試合を終える。キムはアジア大会初優勝。ウルジバヤルは常に間合いを詰められ、得意の担ぎ技を散発するも十分に効かせることが出来なかった。

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準々決勝、王子谷剛志がベクムロド・オルティボエフ(ウズベキスタン)から大外刈「一本」

【日本代表選手勝ち上がり】

王子谷剛志(旭化成)
成績:5位


[準々決勝]
王子谷剛志○大外刈(1:23)△ベクムロド・オルティボエフ(ウズベキスタン)
右相四つ。担ぎの得意な相手に対して王子谷は奥襟を押さえて頭を下げさせる。捩じり込む支釣込足、思い切りよい大外刈と攻めるがオルティボエフが伏せて「待て」。オルティボエフは袖口を絞り込んで担ぎ一発を狙うが、ほぼピストルグリップの形になって「待て」。主審はテクニカルファウルではなく消極的とのゼスチャーで、1分21秒オルティボエフに「指導」。続いて1分59秒、圧を掛けたまま相手を固定した王子谷にブロッキングの「指導」。直後、奮起したオルティボエフが左背負投を2連発、しかし王子谷体を捌くとその戻りに右大内刈をねじ込んで押し倒し「技有」。あとがなくなったオルティボエフは思い切り上から背中を叩き、3分41秒王子谷に防御姿勢の「指導2」。オルティボエフあと1つの「指導」を得んと再び上から背中を叩くが、王子谷もがっぷり迎え撃つ。ついに望みの近距離戦に辿り着いた王子谷は右大外刈。思い切り刈り込み、腰を切って投げて「一本」。

[準決勝]
王子谷剛志△反則(2:27)〇キム・スンミン(韓国)
右相四つ。王子谷が釣り手から持つとキム腕を抱えて外巻込「待て」。以後はがっぷりの組み合いが続くが、1分18秒頭の下がった王子谷に防御姿勢の「指導」。奮起した王子谷思い切り右大外刈に飛び込むが両者はじけ飛んで投げ切れず。以後も組み合うと頭が下がるのは常に王子谷で、苦しい状況が続く。2分27秒に窮した王子谷が片手で左の袖釣込腰。しかしキムの右腕を伸ばして左肩に引っ掛けて抱き込む形になってしまい、キムはチャンスと見て肘を押さえて「痛めた」アピール。王子谷そのまま崩上四方固に抑え込むが、主審は試合を止めて、関節を極めながら技を仕掛けた咎で王子谷にダイレクト反則負けを宣告。意外な形で試合が終わった。王子谷は次戦の出場権も失い、この時点で5位が確定。

[3位決定戦]
王子谷剛志△不戦○シャカルママド・ミルママドフ(タジキスタン)
※王子谷がダイレクト反則負けで以降の試合を戦う権利を失ったため、試合は行われず。ミルママドフの3位が決定。

※ eJudoメルマガ版9月1日掲載記事より転載・編集しています。

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