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熱戦11分「ジャカルタの死闘」、大野将平がアンチャンリン下し金メダル獲得・アジア大会柔道競技2018第2日男子即日レポート

(2018年8月29日)

※ eJudoメルマガ版8月29日掲載記事より転載・編集しています。
熱戦11分「ジャカルタの死闘」、大野将平がアンチャンリン下し金メダル獲得・
アジア大会柔道競技2018第2日男子即日レポート(73kg級、81kg級)
文責:古田英毅
Text by Hideki Furuta

■ 73kg級・熱戦11分「ジャカルタの死闘」、大野将平がアンチャンリン下し男子金メダル第1号
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大野将平はここまで全試合一本勝ち。

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この日絶好調のアンチャンリン、いよいよ待ち望んだ大野との再戦に挑む

(エントリー25名)

【入賞者】
1.ONO, Shohei (JPN)
2.AN, Changrim (KOR)
3.SCVORTOV, Victor (UAE)
3.MOHAMMADI, Mohammad (IRI)
5.RYSMAMBETOV, Bektur (KGZ)
5.KIM, Chol Gwang (PRK)
7.KHOJAZODA, Behruzi (TJK)
7.BOBOEV, Giyosjon (UZB)

リオデジャネイロ五輪金メダリスト大野将平が見事優勝、日本男子に今大会初の金メダルをもたらした

大野は3戦連続の一本勝ちで勝ち上がると、決勝では最強のライバルと目されたアン・チャンリン(韓国)を畳に迎える。

ご存知の通り、アンは、大野が圧勝で世界を震撼させた2015年アスタナ世界選手権で唯一のポイントを奪った選手。大野が内股「技有」、アンが大野の内股を返して「技有」、大野が裏投「一本」という壮絶な投げ合いとなったこの試合以後、アンはリオ五輪における大野の唯一のライバルとしてクローズアップされることとなる。2016年2月のグランプリ・デッュッセルドルフでは大野が内股「技有」で勝利も上り調子のアンは大野相手に唯一健闘。五輪における両雄の決戦が待たれることとなったが、しかし迎えたリオ五輪では極度の緊張で潰れたアンが2試合目(3回戦)で敗退。直接対決が実現することはなかった。以後アンは足首の怪我もあって低調、一方の大野も大学院修了のため休養し、緩やかに復帰も勝負どころはまだ訪れずとばかりにここまでエンジンをふかしきった試合はただの1試合もない。

そして迎えたこの日。アンは数年ぶりの絶好調、予選ラウンドで得意のは背負投を次々に決め、「待て」で相手を待つ間にも力が余っているのか思わず開始線で飛び跳ねるコンディションの良さ。一方の大野も東京五輪への道程におけるこの大会の重要度を骨身に染みて理解しており、久々「ここ一番」モードの仕上がり。

つまりこの対決は、3年ぶりにフルコンディションの両雄が相まみえる大一番。アジア大会決勝という大舞台で、リオデジャネイロ五輪で実現しなかった「幻の最強対決」が実現したということになる。

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GS延長戦、試合を決めた大野の右内股。

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この試合は大野が右、アンが左組みのケンカ四つ。アンは取り得る全ての戦術を採るとの意気込み、大野の拘束の強さを考えて帯を緩く締め、大野に引き手を持たせず右一本背負投と巴投で攻め、一方の大野は相手に圧を掛けながら一発投げんと威力ある内股を撃ち込む。両者一歩も引かぬまま試合は延長となり、大野はこれまで見せなかった右大外刈で一発勝負、さらに左背負投に一本背負投様に腕を抱えた左小内刈まで繰り出して投げに掛かり、アンもここまで取り置いた伝家の宝刀「韓国背負い」を繰り出して試合は総力戦の様相。大野の左小内刈をアンが抱分で返して会場を沸かすも大野バランス良く逃れ、大野の支釣込足あわやポイントも、押し込まれたアンが今度は必死に逃れて勝負はつかず。両者死力を尽くし、まだ試合が続けられるのが不思議なほどの熱戦11分超、大野が組み手の手順を変えてまず釣り手を片襟に差し、たぐるように引き手で同じ側の襟を持ち右大外刈。背中を抱いて耐えたアンが自身の後方にずれたとみるや乗り上げるように右内股に連絡、勢い良くアンを畳に這わせる。アンが伏せた、あるいは肩から落ちたか微妙だったが、試合が1シークエンス進んだところで主審が「待て」を宣告。この左内股に「技有」を宣告して大野の勝利が決まった。

大野の勝ちぶり、さすがという他はない。「斬撃」とも言うべき凄まじい技一発がクローズアップされることの多い大野だが実は出自は粘戦ファイター、リオ五輪時に色紙に好んで書いていた座右の銘も「執念」である。久々大野もう1つの本領を見た試合であった。

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「技有」宣告で大熱戦ついに決着。

大野の執念、絶対にこの一番を譲るわけにはいかないと畳に爪を立てて踏ん張り続けたかのようなその「我慢」の源泉は、このアジア大会の重要性の、骨身まで染みた理解であろう。「わかっていた」としか言いようがない。大会直前の解説記事(http://www.ejudo.info/newstopics/003673.html)で書かせて頂いた通り、ここを落とせば戦いのステージは国際大会から一気に「国内」に縮小、地獄ともいうべき講道館杯の巨大トーナメントを取りこぼしなく勝ち上がることに、事前事後(グランドスラム大阪は僅か3週間後である)の調整も含めて多大なリソースを割かねばならない。また大野は、ここまでの1年間で五輪金メダリストの「権利」を使い切ってしまっている。昨年12月のグランドスラム東京における強行選抜は(本人は決して望んでいなかった気配だが)キャリアを途絶えさせることを危惧した強化側が一定の配慮を見せた形であり、選抜体重別の準決勝で敗退した大野がその勝者である海老沼匡を差し置いて(国際大会の結果から十分妥当な選考ではあったが)アジア大会代表に選抜されたことにも、同じ構図が見て取れる。大野がこれまで東京五輪を見据えてじっくり復帰に取り組み、エンジンをふかし切らぬ試合を続けられたのも「アジア大会に勝てばよし」という構図を理解していたから。逆にここで負けたら全てが台無し、大野はこの一番を絶対に譲るわけにはいかなかったのである。この点、前日あたかもワールドツアーを戦うかのような通常運行で思わぬ敗戦を喫した男子代表2人とは大きな差があった。

そしてアンの側にも、アジア大会に五輪なみの価値を置く韓国国内での名誉はもちろん、ここで優勝すれば兵役免除という極めて大きな糧があった。選手が、あるいは競技生活を終えて指導者にならんと帰する若者が2年間を「それ以外」に取られる損失の重さ、想像して余りある。人生の掛かった一番だったのだ。表彰式、大野の横でひたすら涙するアンの姿は胸に迫った。どちらにも勝たせてあげたい大熱戦であった。

もう1つ。大野の凄さは、こう書くと月並みだが「成長を止めない」ところである。決勝で見せた左背負投はこれまでも繰り出していた技だが、初戦で決めて見せた「巴十字」は少なくとも実戦では初見。これだけの威力ある技がある選手であれば、一撃を磨くことに酔って他がおろそかになってもまったくおかしくない(このタイプは日本の強化選手クラスに一定数、常に存在する)が、大野は技一発の強さを追求する一方、極めて冷静に「ゲーム」に勝つために、具体的な「獲れる」手立てを増やしてオールラウンダーの側面を強め続けている。芸術家肌の「一発」へのこだわりを持ちながら、究極の実利派でありどこまでもリアリスト。この人はやはり、ひとり別の位相にいる。

もう一段。冷静にこの決勝を振り返れば「指導」が遅かったことをまず指摘したい。大野が投げんと迫ってアンが散らす、あるいはアンの手数で大野が1クール様子見に陥る、本戦で「指導」をきっちり与えて試合を加速すべきだった。ノーポイントではと巷で議論を巻き起こしている大野の「技有」は写真を見て頂いてわかる通り、アンの肩が内に入って肘が畳に着き、太腿側面も接地している。IJFの現在のルールを規定通りに適用すれば、ポイントはありうる範疇ではないかと愚考する。ただしその一方、試合があまりに長くなったことがこのポイント付与判断を後押ししたとのではないかとの観測も否定できないところ。投げでの決着を期待するのであれば、ひたすら待つのではなく、基準通りにしっかり早い段階で「指導」を取るべき。それまでの試合の文脈が技の効果の判定に影響するとしたら極めて非論理的だ。問題の場面とは別のところで審判技量が問われるべき一番であった。

最後にもう1つ。会場ではこの判定にブーイングが起った。ファンの感覚と実際の判定が「ずれる」、納得できない判定があるという問題は、この技の「技有」が妥当か否かとは別の位相の大きな問題。見てわかりやすい(≒観客の理不尽感を減じさせる、納得感が高い)柔道という現在のIJFが目指す方針にも反する。筆者も感覚的には「ポイントなし」に与したい。2017年の改正で適用範囲が広がった「技有」であるが、個人的には「技有」の下限は厳しく定めなおす必要ありと考える。ビッグゲームで優勝者が決まった瞬間、会場にブーイングが巻き起こるという絵は、IJFが望む方向ではないはずだ。

大野将平選手のコメント、準決勝と3位決定戦の結果、決勝および日本代表選手全試合の戦評は下記。

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73kg級メダリスト。左からアン、大野、モハマド・モハマディ、スクボトフ。

大野将平選手のコメント
「アン・チャンリン選手とは何度も対戦していますし、今回は特に研究されていると感じました。何年かぶりでしたが、苦しい厳しい戦いでした。投げられないことは想定していました。『指導』の取り合いになって不本意でしたが、気持ちの中では我慢強く粘り強く、10分でも20分でも戦ってやるぞと、稽古では負けてないぞと思っていました。ここで一度でも引いてしまったら東京五輪への道は閉ざされてしまう。どうしても退けませんでした。(ー勝利の場面について)予期せぬポイントでしたが、これも我慢し続けた結果なのかなと思います。決勝に関しては反省点しかなく、自分の良いところをすべて殺されていました。そのなかで勝ちを拾ってこれたことは自信になります。持っていないタイトルだったので正直嬉しいですし、2日後には男女混合団体もありますから、日本のために良い仕事をしたいと思います。相手ありきの柔道なので、自他共栄の精神を持ってライバルたちと切磋琢磨して自分自身を高めていきたいです。」

【準決勝】
アン・チャンリン(韓国)○背負投(3:59)△モハマド・モハマディ(イラン)
大野将平○内股(2:38)△ヴィクター・スクヴォトフ(UAE)

【3位決定戦】
ヴィクター・スクヴォトフ(UAE)○GS小内刈(GS2:21)△ベクター・リスマムベトフ(キルギスタン)
モハマド・モハマディ(イラン)○隅落(0:20)△キム・チョルグァン(北朝鮮)

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決勝、大野の右内股をアンが防ぐ

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アンの背負投を大野が回避

【決勝】
大野将平〇GS技有・内股(GS7:09)△アン・チャンリン(韓国)
大野が右、アンが左組みのケンカ四つ。アンは帯を緩く結んで前襟が容易にはだけるように柔道着を身に着け、引き手を持たせたら終わりとばかりに片手勝負を徹底。逆技の右一本背負投を中心に手数を稼ぎつつ、引き手を持たれると巴投で引き込み展開を切る。得意の「韓国背負い」はここぞという場面に取り置いている様子。一方の大野は釣り手をあるいは下から閂で差し入れ、あるいは上から持って潰すことでアン得意の左背負投を封じ、じっくり圧を掛けながら引き手を得ての必殺の一撃を狙い続ける。手数ではアンに先行される場面が目立つものの、相手の技が続いた次の展開では両襟の右内股や逆技の左背負投を放ってしっかり展開を留保。簡単に「指導」を背負うようなミスは犯さない。残り35秒に大野が左背負投で掛け潰れたところをアンが隅返風に捲り返す危うい場面があったが、これは審判が的確に寝姿勢の技と判断してポイントなし。両者一歩も退かぬまま勝負はGS延長戦へともつれ込む。

GS9秒、ここでアンがこの試合で初めて伝家の宝刀「韓国背負い」を放つ。しかし大野は揺るがず、相手をぶら下げる形で耐えて「待て」。勝負技を防がれたことでアンは以降手数勝負の傾向をさらに強め、担ぎ技の連発に本気の右一本背負投を混ぜ込むという、一種アンらしくない典型的な韓国選手の戦い方を選択する。GS1分9秒には右一本背負投でひときわ深く潜り込み惜しい場面を作るが、これは大野が反応良く抱き止めて防ぐ。ここからやや試合が膠着、GS2分4秒、両者に消極的の「指導」。さらにGS3分45秒には左小内刈を出しながら激しく煽るアンを少々長く見すぎた大野に消極的の「指導2」が追加される。この試合で初めて両者の間に差がつくこととなり、勝負どころと見たアンは加速。なりふりかまわず掛け潰れの左背負投を連発して3つ目の「指導」を奪いに掛かる。しかし、大野はこれを許さず、GS4分15秒には組み際にこの試合初めての右大外刈、次いで掛け倒すような左小内刈を仕掛ける。これは多少強引な形となり抱分のカウンターを狙われるが、相手に被さるようにして失点を回避。GS5分5秒には釣り手で背中の低い位置を持っての支釣込足でアンを大きく崩しあと一歩でポイントという場面を作る。ここでアンにも消極的の「指導2」が宣せられ、両者のポイントは再びタイに。どちらも「指導2」で後がなくなり、双方激しく疲労しながらも試合はさらに一段加速することとなる。

GS5分20秒、アンが横移動からの右一本背負投。危うく乗りかけるも大野腰をずらして防御。大野、直後の5分30秒には相手が左背負投で伏せたところに右内股でのカウンターを放ち、すぐにやり返して一歩も譲らない。GS5分50秒には両手で袖口を持った左内巻込でアンを大きく崩し、どうやら大野はここに来てさらにギアを上げた様子。ここからは1分近くアンが組み際に攻防一致の低い右背負投を放ち、大野が右内股に左小内刈と技を打ち返す攻防が続く。

GS6分55秒、大野は組み手の手順を変えてまず釣り手を片襟に差し、たぐるように引き手で同じ側の襟を持ち右大外刈。あと一歩踏み込みが足りず刈り切れなかったが、背中を抱いて耐えたアンが自身の後方にずれたとみるや乗り上げるように右内股に連絡、勢い良くアンを畳に這わせる。ポイントが想起される一撃だったがアンの背中は畳に着いておらず、肩が着いたか微妙ながらも試合は続行される。直後にアンがケンケンの左大内刈で大野を場外まで追い込むも、ここは大野が伏せながらカウンターの右足車を狙い「待て」。続く展開でアンが右背負投を仕掛けたところで主審が試合を止める。大野は場内の大歓声のためにこれが聞こえなかった模様ですぐに右小外掛で刈り倒して抑え込みに移行するがこれは無効。両者に服装を正すように指示が出され、前段の大野が仕掛けた右内股に対して「技有」が与えられる。試合時間11分に及ぶ死闘がここに決着。決勝点こそ微妙な判定だったが、大野に勝利するために考えうるあらゆる手段を用いて過去最も肉薄したアン、それを真っ向から投げを狙うことで弾き返した大野と両雄が死力を尽くした素晴らしい試合だった。

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準々決勝、大野の右内股「技有」

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準決勝、大野の右内股「一本」

【日本代表選手勝ち上がり】

大野将平(旭化成)
成績:優勝


[2回戦]
大野将平○腕挫十字固(0:48)△チン・ダガ(中国)
右相四つ。長身のチンは奥襟を叩いて左背負投、巴投と見せるが大野は揺るがず、表情を変えず前へ。両襟を掴むと相手をゆすって間合いを整え巴投一撃。相手が膝を折ると流れるように腕挫十字固、「一本」。

[準々決勝]
大野将平○合技[内股・大内刈](1:44)△キム・チョルグァン(北朝鮮)
大野が右、キムが左組みのケンカ四つ。キムは引き手を持たせず低く体を沈めての小外刈で攻撃。大野は左足を内から払い崩して両襟を確保、場外際で内股を仕掛けるが揚げきれず「待て」。1分13秒、間合いを整えると引きずり出すように右内股、自身もろとも相手を舞わせ、空中でバランスして乗り込み「技有」。続く展開、窮したキムが胴を抱いて捨身技を放とうとした刹那、先んじて大内刈で叩き落とし2つ目の「技有」。

[準決勝]
大野将平○内股(2:38)△ヴィクター・スクヴォトフ(UAE)
大野が右、スクヴォトフ左組みのケンカ四つ。スクヴォトフは引き手を持たせまいと巧みにこれを切り離すが、釣り手の良く動く大野は粘り強く寄せ続ける。1分過ぎに間合い十分で右内股に飛び込むも、スクヴォトフ足を高く揚げて股中で凌ぎぎり「待て」。大野2分7秒には引き手を得るなり右内股、スクヴォトフが体捌き良く透かして「待て」。
この2つの内股が伏線となって勝負は決着。大野はみたび右内股、スクヴォトフがまたもや脚を高く揚げて凌ごうとするとその中で飛び込み直す二段攻撃。軸足が深く入り、腰で押し込むように倒し鮮やか「一本」。片足バランスのまま腰を寄せられたスクヴォトフはなす術がなかった。

【決勝】
大野将平〇GS技有・内股(GS7:09)△アン・チャンリン(韓国)

※前述のため戦評省略

■ 81kg級・佐々木健志は「自爆」2連発で5位陥落、佐々木破った新鋭ハムザが優勝浚う
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準決勝、佐々木は背負投「技有」を先行して快調。

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帯取返で自滅、「一本」で万事休す

(エントリー21名)

【入賞者】
1.KHAMZA, Didar (KAZ)
2.MOLLAEI, Saeid (IRI)
3.ZOLOEV, Vladimir (KGZ)
3.OTGONBAATAR, Uuganbaatar (MGL)
5.SASAKI, Takeshi (JPN)
5.LEE, Seungsu (KOR)
7.GAO, Haiyuan (CHN)
7.BOLTABOEV, Sharofiddin (UZB)

優勝候補の筆頭格と思われた佐々木健志(筑波大4年)が陥落。順当に一本勝ちを重ねてこの日は絶好調、準決勝もディダル・ハムザ(カザフスタン)を相手に素晴らしい連絡技を披露。小内刈から巴投、立ち上がって背負投に繋ぎ早々に「技有」獲得。以降も一方的に攻めを積み続けたがここでとんでもないミス。長身の相手に無理やりクロスで背中を叩いて密着の右大内刈。相手が背筋を伸ばして耐えると、体が伸びた体勢のまま帯取返(ハバレリ)の大技に打って出る。揚げた脚が空振り、相手の体を胸で受け止めることになって自爆してしまう。これに「一本」が宣告されて万事休す。

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3位決定戦、佐々木はまたもや捨身技を失敗して一本負け。

なぜ「技有」リードで、しかも体格で劣る相手に悪い体勢からそんな大技を仕掛ける必要があるのか率直に言って理解に苦しむところ。しかも、迎えた3位決定戦ではウラジミール・ゾロエフ(キルギスタン)を相手に密着ないまま遠い間合いから横車の大技、かつ失敗して相手の前に横棒となって倒れ込んだにも関わらず横分で投げ切ろうとする、前戦以上のギャンブル技。これを捩じり落とされて「一本」で畳に沈んだ。

あまりの絶好調ゆえか、それとも思い切りの良さという自身の長所を発揮せんとする気負いか裏目に出たか。若さゆえの「攻めての失敗」その意気は買うが、しかし前述大野将平のような、あるいは前回仁川大会の秋本啓之が披露したような「五輪に出るためには絶対に負けてはならない大会」「自分の人生で絶対に落とせない1日」というマインドセットがあったがあったかどうか、若手とベテランという立場の違いを超えて、これは大いに問われるべきだ。軽挙に過ぎるという評価は甘んじて受けねばならないだろう。

幸い佐々木はまだ若く、数少ない「講道館杯からのやり直し」が栄養になる立場。これを奇貨として引き出しを上積み、将来事を成し遂げたときに「あのアジア大会がターニングポイント」と振り返ることができる、そんな成長を期待したい。

試合は準決勝で佐々木を破ったハムザが優勝。ハムザは21歳、昨年は減量して73kg級で世界ジュニアに参加し3位入賞した選手。しかし81kg級でのツアー表彰台がまだないまったくのダークホースだ。「誰が勝つかわからない81kg級」という世界全体の構図がそのまま当てはまる大会となったと言える。

佐々木健志選手のコメント、準決勝と3位決定戦の結果、決勝および日本代表選手全試合の戦評は下記。

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81kg級メダリスト。左からモラエイ、ハムザ、オトゴンバータル・ウーガンバータル、ゾロエフ。

佐々木健志選手のコメント
「すみませんでした。なかなか自分の思ったように行かないというか…自分の甘さが出たのかなと思います。(―2試合とも際どいところでの敗戦でした)準決勝も今の試合も、攻めたつもりでしたが…いまはちょっと考えられないです。自分の試合の展開の作り方の甘さなどが出てしまったのだと思います。自分の調子は良いと思っていて、今日は絶対に優勝するという気持ちで挑みました。それがうまく噛み合わず、結果が出せなくて本当に悔しいです。(―今後について)自分がどう思っていても結果が出てしまったので…しっかり反省して次は絶対勝ちたいと思います。」

【準決勝】
サイード・モラエイ(イラン)○肩車(2:55)△イ・センス(韓国)
ディダル・ハムザ(カザフスタン)○隅落(2:27)△佐々木健志

【3位決定戦】
ウラジミール・ゾロエフ(キルギスタン)○隅落(1:44)△佐々木健志
オトゴンバータル・ウーガンバータル(モンゴル)○優勢[技有・谷落]△イ・センス(韓国)

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決勝、モラエイが得意の肩車で「技有」先行。

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試合終了かと思われたが勝敗逆転

【決勝】
ディダル・ハムザ(カザフスタン)○反則[指導3](4:00)△サイード・モラエイ(イラン)
ハムザが右、モラエイが左組みのケンカ四つ。引き手の探り合いが続き、25秒、両者に片手の「指導」。42秒にはモラエイの左への肩車をハムザが浴びせ倒し、ベンチからは「技有」というアピールの声が上がるが、ポイントは与えられずに試合が続行される。ここから再び引き手争いが続き、1分34秒、両者に片手の「指導2」。これで双方後がなくなり、焦ったハムザが引き手を得ようと前傾した2分0秒、モラエイが左方向の肩車にとらえて「技有」。リードを得たモラエイここからは無理をせず、肩車を放ちながら相手の技にカウンターを狙い、残り40秒には寝技で相手を横方向に引き込んで抑え込みかける場面も作る。モラエイが巴投で引き込んだところで残り時間は僅か15秒。このまま勝利ほぼ確実かと思われたが、しかし、残り2秒に奥襟を持たれたモラエイが自ら畳に伏せてしまう軽挙。一度はそのまま試合が終わったものの、ケアシステムによる確認の結果モラエイに偽装攻撃の「指導3」が与えられなんと勝敗まるごと逆転。イラン柔道史上2つ目のアジア大会金メダルは露と消え、ハムザの逆転優勝が決まった。

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2回戦、佐々木健志が内股「一本」。

【日本代表選手勝ち上がり】

佐々木健志(筑波大4年)
成績:5位


[2回戦]
佐々木健志○内股(0:37)△ザヘル・サーワイ=ムハマド(アフガニスタン)
右相四つ。佐々木は長身の相手の奥襟を叩き、ゆすり出して間合いを図る。頃合い良しとみるや右内股、座り込んで左足を伸ばしたサーワイ=ムハマドの谷落が浅いとみるや入り直し、作用足でその左を高く跳ね上げる。サーワイ=ムハマド、両足裏を天井に向けて吹っ飛び「一本」。

[準々決勝]
佐々木健志○袈裟固(1:41)△シャロフィディン・ボルタボエフ(ウズベキスタン)
佐々木が右、ボルタボエフが左組みのケンカ四つ。ボルタボエフが右肩を抱く形で背中を叩くと佐々木は応じて背を抱え、密着勝負に応じて後の先狙い。相手の左内股、さらに左体落を隅落で崩して寝勝負を狙うが、相手の警戒強く獲り切れず「待て」。1分過ぎにボルタボエフが思い切った隅返、佐々木余裕を持ってかわすが主審は直後の1分15秒佐々木に「指導」を宣告。これで手ごたえを得たボルタボエフは再度の隅返、しかしこれは佐々木得意の「隅返殺し」の餌食。狭い間合いの中で極めて軽快な体捌き、ボルタボエフが畳に体を落とした瞬間には既に相手の頭側をとっており、ボルタボエフはなす術なし。佐々木なんなく抑え込んで袈裟固「一本」。

[準決勝]
佐々木健志△隅落(2:27)○ディダル・ハムザ(カザフスタン)
右相四つ。ハムザは相当上背があるが佐々木まったく怖じる様子なし。釣り手を相手の首に食い込ませて横変形で寄せる。相手の体落を待ち構えて得意の横車、高く放り投げるが尻餅で落としてしまい「待て」。
佐々木、1分過ぎから素晴らしい連携。横変形から右小内刈で足を揚げさせ巴投、そのまま立ち上がって右背負投、深く入り込んだこの一撃は「技有」。以後も組み手の手順を入れ替えながら自在の進退、右小内刈に巴投と一方的に攻め続ける。しかしあまりの優位ゆえか、釣り手を肩越しに入れてくいつくと、なんと帯取返(ハバレリ)の大技。しかし上がったハムザの胴体を胸の上で受け止めることになってしまい自爆、主審は「一本」を宣告。映像チェックの間、佐々木ジェスチャーで自身の技だとアピールするが判定は覆らず。大逆転負けで、日本勢の連続決勝進出はここで途切れた。

[3位決定戦]
佐々木健志△隅落(1:44)○ウラジミール・ゾロエフ(キルギスタン)
佐々木が右、ゾロエフが左組みのケンカ四つ。佐々木が前襟を内から突き、ゾロエフが外から背中を抱く形で組み手をスタート。佐々木は引き手を得ると右内股を2発、さらに潜り込むような右小外掛、さらに右背負投と技を繋いで好調な滑り出し。この流れが終わった36秒には早くもゾロエフに消極的との咎で「指導」が与えられる。1分過ぎにはゾロエフに背中深くを抱かれて密着される場面も見られたが肘抜きの右背負投で引き剥がし、柔道着をずらしながら間合いを確保して動き良く巴投に飛び込む。ここまでは完全に佐々木のペース。しかし、直後の1分44秒、相手に脇を浅く差されて間合いが遠い状態にもかかわらず、無理やり横車を狙うミス。相手の前に直角に寝そべる形で背中から落ちてしまい、横分に連絡して投げ切ろうとしたがそのまま相手に浴びせられてしまう。慌てて腕挫十字固に移行するも既に万事休す。「待て」と同時に主審がケアシステムでの確認を要求し、ゾロエフの「一本」を宣告。佐々木はまたしても得意の捨身技を自爆しての敗戦。がっくりと肩を落として畳を降りる。

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