PAGE TOP ↑

柔道1

柔道2
柔道4 柔道5

eJudoとは?情報募集・お問い合わせサイトマップ

戦略、戦術ともに噛み合った天理が27年ぶりの日本一、代表戦で中野寛太が斉藤立を破る・第67回インターハイ柔道競技男子団体試合レポート⑤決勝

(2018年8月27日)

※ eJudoメルマガ版8月27日掲載記事より転載・編集しています。
戦略、戦術ともに噛み合った天理が27年ぶりの日本一、代表戦で中野寛太が斉藤立を破る
第67回インターハイ柔道競技男子団体試合レポート⑤決勝
文責:古田英毅
取材・撮影:eJudo編集部

■ 決勝
eJudo Photo
決勝直前、国士舘は選手に念入りに訓示。

eJudo Photo
圧勝続きで決勝に勝ち進んだ国士舘高。この決勝で高校「三冠」獲得を目指す。

eJudo Photo
準決勝で桐蔭学園高を破り、今期みたび全国大会の決勝で国士館高に挑戦する天理高。

eJudo Photo
決勝が開始される

3月の全国高校選手権と7月の金鷲旗高校大会を制し、この試合で高校三冠獲得に挑む国士舘高と、両大会ともに決勝で苦汁を嘗めた古豪・天理高。第67回インターハイ柔道競技男子団体戦の決勝、シーズンを締める最終試合は予想通りの対決。東西を代表する強豪2校によって争われることとなった。

オーダー順は下記。

国士舘高(東京) - 天理高(奈良)
(先)藤永龍太郎 - 山中瞭
(次)安藤稀梧 - 植岡虎太郎
(中)酒井陸 - 井上直弥
(副)道下新大 - 中野寛太
(大)斉藤立 - 水上世嵐

副将戦における中野寛太の勝利、そして大将戦における斉藤立の1点を事前に織り込んで盤面を読むべき一番。両軍のエースはそれぞれ1点奪取確実。ざっくり言って、「前衛3枚の得点比べ」がこの決勝の第一の焦点だ。そしてバックグラウンドとして呑んでおくべきは、この1年半(斉藤立高校入学以来)の斉藤対中野の試合はいずれも斉藤が一本勝ちしており、代表戦突入の場合は斉藤有利、ということ。つまりこの「前衛3枚の得点比べ」には潜在的なハンデが1点あり、事前予測の段階の読みとしては国士舘は「最悪でもタイならOK」、天理は「1点リードで終えなければならない」との前提があると考えておくべき。

国士舘としては前衛のうちもっとも頼りになる先鋒藤永龍太郎の得点にぜひとも期待したいところ。ともに後衛に1点確実の駒を持つこの試合における先制点の重要性は論を待たない。相手方がリードを背景として引き分けを前提に戦って来た場合、これだけ競った力関係において得点を挙げるのは双方ともに容易ではなく、もし藤永が先制点を挙げれば国士舘の総得点はその時点で事実上「2」(代表戦の前述”潜在的得点”を入れれば「3」)。そして守るべきポジションは次鋒と中堅の僅か2試合のみ。試合はここで事実上「終わる」。天理がここまで2敗の井上が座る中堅ではなく、藤永に対して相性が良いと思われる虎の子の左組み大型選手、山中瞭を先鋒に突っ込んだのはまさにこの事情をよく理解するからであろう。天理としては、国士舘に先制点を与えてしまっては試合が組み立てられないのだ。

安藤稀梧と植岡虎太郎、攻撃型の2人がかちあう次鋒戦は予想困難。12月の若潮杯武道大会では安藤得意の左小外掛に植岡が右背負投をぶつけて勝利している(「技有」)カードであるが、特に安藤が得点を狙った場合、ともに攻めることでしか自己表現できないタイプのこの2人の試合が穏当に済むとは思われない。点取り制試合の決勝ステージという、互いが読み合いを尽くす舞台ではなかなか実現しがたいギャンブルカードだ。先鋒戦での先制あれば安藤が自重して引き分けの可能性が上がり、タイスコアで迎えるようならば「投げ合い」と考えておくとべきだろう。予想は難しいが、安藤の左内股と左小外掛、この選手の攻撃力のアウトプットである典型二様態に対して植岡はこれぞという試合では常に「どちらの技でも右背負投をかちあわせる」積極的対応を取って来ており、すべてを塗りつぶす形で自身の攻撃に変換している。相手の前後の反応を前提とした安藤の技に対してこれは一定の効ありとみなすべきで、安藤の側に得点を期待するのはややハードル高い印象。戦力拮抗も相性的に植岡やや有利というのが妥当な予想だろう。

中堅戦。酒井陸はこの日の登場以後2試合ともに「指導」を失ったうえでの引き分けと決して抜群の出来ではないが、無理をすべきところでもなかった両試合の展開からしてこれは割り引いて考えるべき。ほぼ力通りの試合が出来るであろう。問題は井上のほうで、春以降の負傷による圧の減退、おそらくこれを因とするメンタル面の揺れにより今大会は不調。既に2敗、直前の準々決勝では一階級下の高山康太に押し切られて一本負けを喫するなど、春に見せた「元気いっぱいの大型下級生」という属性はかなり損なわれてしまっている。まして、酒井は国士舘唯一の右組み、井上にとっては圧を受けやすい相四つである。ここは天理にとっては防衛ポジション、国士舘としては「勝っていれば分け」「取る必要があれば出る」枠ということになり、酒井にこの見極めがしっかり出来るか、そしてスクランブルを掛けたときにここまで2分けの酒井にその力があるかということが争点となる。

とここまで書いて。シナリオ分岐の最重要ポイントが先鋒戦であることがあらためてよくわかる。「読み」の段階では、試合は極端に言ってしまえば実質前衛3戦のみ、その中における最重要ポイントは先鋒戦だ。いやが上にもこの試合の注目集まる中、いよいよ戦端が開かれる。

eJudo Photo
先鋒戦、始まるなり山中瞭は藤永龍太郎に組み勝ち、頭を押さえ込む。

eJudo Photo
山中の豪快な大外返に藤永危うく失点の危機。山中の圧と組み手に慣れ始めていた藤永だが、これで再度減速。

先鋒戦は藤永龍太郎と山中瞭ともに左組みの相四つ。藤永が引き手で襟を掴むが山中は引き手で袖を掴んで織り込むと、左足を相手の右膝裏に入れて牽制を呉れながら釣り手で深々奥襟を確保。ほぼ完ぺきな形を作る。藤永軽挙してはかえって事を失うと敢えて持たせたままリセットのチャンスを伺うが、山中は腰を切っての牽制に膝裏への小外刈と打って藤永の頭を下げさせ続け容易には離さず。36秒山中が左に巻き込み潰れてようやく「待て」。

続く展開は山中の奥襟狙いを端緒に左小内刈の打ち合い、藤永の蹴り崩しに山中が伏せて「待て」。以降は最序盤の轍を踏まんと藤永がまず丁寧に相手の釣り手の袖を絞り、山中がこれに応じて引き手で厳しく袖を折り込む。1分33秒双方に「取り組まない」咎による「指導」。

立ち上がりの山中の圧力を受けてここまで試合ぶり大人しかった藤永だが、職責を考えればそろろそろ取りに行くべき時間帯。2分を越えたところで組み手争いから釣り手で片襟を差しての左大外刈に飛び込むが、山中は待ってましたとばかりに自身の釣り手の肘をこじあげて大外返。吹っ飛んだ藤永は相手の引き手が襟であったことを幸い、手を着いて体を開き、なんとか腹ばいで着地し「待て」。

eJudo Photo
次鋒戦、安藤稀梧の左内股の戻りに植岡虎太郎が右背負投をかちあわせる。

eJudo Photo
引きずり出すと頭を突っ込んで投げ切り「一本」

eJudo Photo

山中のパワーと攻撃意欲を目の当たりにした藤永、以後は組み手に一層丁寧になりどうしても攻めが一段遅れることとなる。山中は引き手を織り込んでは奥襟を求めて前進、出足払も絡めてその立ち振る舞い極めて危険、藤永はきっかけをつかめない。残り27秒で双方に「指導2」。藤永、ケンカ四つであれば腰を抱いての浮腰、内股に送足払とこれまで窮地を幾度も救って来たスクランブル技があるのだが、相四つ、それも正面から危険な手順で踏み込んで来る大型選手・山中を相手にしては過程を飛ばすわけにいかず減速。

結局この試合は引き分けに終わった。山中は攻めた勢いのまま力強く一礼、藤永は苦渋の表情で畳を去る。シナリオ的には天理に大きく流れが寄った一番。

次鋒戦は安藤稀梧が左、植岡虎太郎が右組みのケンカ四つ。安藤組みつくなりまず前技フェイントの左小外掛、次いで左内股で先制攻撃。組み手不十分のまま、間合いが詰まる前にとにかく一撃先に見舞った形だったが、軸足が外にあるこの技を植岡体を開いてしっかり止めると、安藤が作用足をひっこめる動きに合わせる意外なタイミングで打点の高い右背負投。背中と背中を合わせたまま安藤を引きずる形になった渾身の一撃、重心が浮いたまま背中側に引っ張られる形になった安藤はもはや受け身を取ることでしか着地が考えられない死に体。植岡が体を折り、頭を相手の右脇に突っ込んむことで軌道を決めて転がり込むと安藤背中から畳に落ちてバウンド。主審は「技有」を宣告。

金鷲旗大会を彷彿とさせる植岡いきなりの大技。そしてここで主審は両者に服装を正すことを指示し、映像チェックを要求する。なんとか希望を繋ぎたい安藤、ほとんど顔色を変えず集中を切らない植岡、そしてしばしの沈黙ののち主審がこの技にあらためて「一本」を宣告して試合は終了。安藤はガックリ、植岡わずか31秒の「一本」で、先制点は天理が得る。

eJudo Photo
中堅戦、序盤は井上直弥に圧力で分がある気配

eJudo Photo
酒井陸、起死回生の右払巻込「技有」

eJudo Photo
酒井は崩袈裟固に連絡、値千金の「一本」

中堅戦は国士舘の酒井陸、天理の井上直弥ともに右組みの相四つ。酒井は思い切った右払巻込で先制攻撃、これを受けた井上は奥襟を得ると背筋を伸ばし、酒井の頭を下げさせる。井上が腰を切って牽制すると酒井は完全な守勢に追い込まれ、48秒「極端な防御姿勢」の咎で酒井に「指導」。もしこの絵が続いて引き分けとなれば、勝利するのは間違いなく天理である。国士舘サイドに緊張が走る時間帯。

しかし酒井、続く展開では井上の圧を掻い潜って頭を上げ、必死の抗戦。井上と互いに思い切った右払腰を打ち合って試合を拮抗まで押し戻す。相変わらず圧力では井上に分がある気配だが、酒井は鬼気迫る表情で技を仕掛け続ける。そして1分34秒、井上が奥襟を叩いたまま引き手で襟を浅くつかんだまま攻防。酒井は自由になった釣り手を大きく振り、思い切りよく右払巻込に打って出る。井上、持ちどころを探っていた左で酒井の背中を突こうとするが右を抱き込まれたままその左掌が滑り出てしまい、大きく体勢を崩す。苦しくなった井上、右膝を着いて踏みとどまり隅落を狙うが酒井が一瞬早く身体を預けて押し込み、井上ついに回転「技有」。酒井はそのまま井上の右手首を抱え込んで崩袈裟固。体勢決して万全ではなかったがここが勝負とばかりにこの手首の拘束だけは決して緩めず、巧みにバランスをとって10秒間を凌ぎ切る。1分51秒、主審が「技有」合わせて「一本」を宣告して試合終了。国士舘が1点を返し、「前衛3枚」を終えてスコアは1-1のタイ。この時点で、代表戦決着間違いなしの状況確定である。両軍エースのこれまでの戦歴から考えれば、この酒井の1勝でシナリオは国士舘サイドに再び寄った形。

eJudo Photo
中野寛太は序盤から猛攻

eJudo Photo
中野が袖釣込腰、投げ切れないが手はあくまで離さず攻防継続

eJudo Photo
中野寛太が道下新大から左内股「一本

副将戦は国士舘の道下新大、天理の中野寛太ともに左組みの相四つ。中野ややアゴを上げる独特の立ち方で接近、引き手で袖を得ると前襟を握った釣り手の肘をこじ上げて左内股。両足が宙に浮いた道下はしかし体の長さと抜群のバランス感覚を生かし、吹き飛んだのちに両足から畳に着地。攻防を継続する。中野の側もこのまま道下を潰さず、二本持ったままかえって圧を強めて前進。打点高く両袖の左袖釣込腰を放つが、右が切れてしまい不発。

しかし中野それでもなお掴んだ手を離さず攻防継続、残った左で右袖を確保したまま手繰り直すと、今度は右引き手で袖を折り込み、次いで釣り手でがっぶり背中を叩く完璧な組み手を完成。さすがの巧者道下も二度大技を仕掛け、しかもその都度組み手のレベルを上げてくる中野の波状攻撃に屈した形で完全な防御姿勢。道下大内刈に潰れなんとか「見逃してもらった」体で「待て」を貰う。やはり中野の強さは類なし。

続く展開ではこれまでの圧が利いたか、中野ほとんど駆け引きなくがっぶり組み手を作ることに成功。呼吸を整えると左大内刈、支釣込足、ついで左小内刈と足技を繋いで相手を揺さぶる。耐えかねた道下が釣り手側に大きく一歩離れると、袖口を握り込んだ引き手と横襟を掴んだ釣り手の連動を利かせて左内股。理合は足車、固定する位置が内腿という体のこの技にさしもの道下も死に体。体を伸ばされては自慢の長身バランスも生かせずまず左膝、ついて左肩と直線的に転がって「一本」。試合時間は1分42秒、スコアはこの時点で2-1、天理の1点リードへと変わる。

eJudo Photo
大将戦、水上世嵐は斉藤立の体力を奪うべく粘りの柔道

eJudo Photo
斉藤構わず猛攻、3つの「指導」を得る。

迎えた大将戦は国士舘・斉藤立が左、天理・水上世嵐が右組みのケンカ四つ。斉藤の一本勝ちは既定路線、その構図明らかな中でそれでも畳に向かう水上には2つのミッションがある。まずひとつめは、少しでも時間長く畳に居座り、斉藤の体力を削ること。もう1つは、足し算。派手な、国士舘サイドが勢いづくような「一本」を出来得れば避けてなるべく静かに試合を終わらせることだ。

果たすべき仕事を十分心得た水上は釣り手一本で体を開き、両手で左襟を上下にあおりだし、さらに下がりながら足を入れてとハナから粘戦志向。しかし斉藤丁寧に前に出続けて引き手を得、水上を場外際に追い詰める。35秒には水上に片手の「指導」、さらに場外に追い込まれながら片手の背負投に座り込んで展開を流した1分10秒には偽装攻撃の「指導2」と、あっという間に2つの反則ポイントが積み重なる。あとは仕留めるばかりと斉藤前に出て左大内刈、さらに組み付きながらの左内股、次いで支釣込足と次々取り味のある技を繰り出すが、「粘ること」だけを考えて動きを組み立てる水上を容易に捉えることが出来ない。しかし斉藤がひときわ相手を大きく振っての左体落を放った2分36秒、水上が畳に伏せると主審は試合を止めて3つ目の「指導」を宣告。

これで試合終了。5戦通じたスコアは2-2、全てのポイントが「一本」相当というまったくのタイスコア。平成30年度インターハイ優勝の行方は代表者1名による決定戦に委ねられることとなった。畳に上がるはもちろん主役2名、国士舘・斉藤立と天理・中野寛太の両雄である。

eJudo Photo
1戦休んだ中野寛太は準備万端、虎視眈々斉藤立をみやる。

eJudo Photo
国士舘の選手が斉藤立を励まし、最後の戦いに送り出す。

おさらいしておくと、昨年からの両者の対戦は斉藤の3戦3勝。2017年4月の全日本カデ選手権では1分4秒大内刈「一本」、今年3月の全国高校選手権男子団体決勝では1分14秒体落「一本」、7月の金鷲旗高校柔道大会決勝では3分30秒大外落「一本」。いずれも斉藤の快勝、今回も優位は否めないが気に掛けておきたいのはまず回を追うごとに決着までの時間が長くなっていること、そして金鷲旗大会では勝負がつくまで中野が斉藤の大外刈をことごとく耐え切り、近い足への支釣込足による蹴り崩しで幾度か大きく崩して2度畳を這わせていることだ。天理の立場でものを考えて中野の対斉藤戦を組み立てるとすれば、突破口になり得るのはあの足技しかない。これを中野がどう生かし、おそらくはこの手立てを予期しているであろう斉藤がどう対応するかがまず1つのポイント。もう1つは、斉藤が金鷲旗大会において度々斜めから思い切り良い大外刈に入り込みながら、最後に真裏に刈り込むあの思い切った決めがまったく見られずなかなか投げ切れなかったこと。斉藤は6月に右膝を痛め、生命線であった下半身のトレーニングが詰め切れていないとの情報、これが斉藤から「刈り込む」自信と安定感を奪っているとも観察できるが、そのただなかで迎えた金鷲旗のあの試合をどう技自体に、そして決め技の選択に生かしてくるか。

eJudo Photo
開始早々中野の支釣込足が閃き決定的な「技有」。

eJudo Photo

eJudo Photo

斉藤、中野ともに左組みの相四つ。斉藤はまず引き手を襟から持ち、釣り手で横襟を得るなり左大内刈。中野はこれを凌ぐと、いったん間合いを空けて背筋を伸ばし、頭を上げてがっぷりと組み合う。そして斉藤が引き手を袖に持ち替え、攻撃せんと伸びあがるように前に出た瞬間、中野必殺の支釣込足が閃く。常の斉藤ならしっかり締まっているはずの釣り手が開いており、その肘を下からこじ上げて崩した渾身の一撃に身長190センチの巨体一瞬で崩落。斉藤右手を畳に着いて必死に逃れるが中野はその引き手をほとんど「後ろ手」の形に固めて体ごと押し込む極めて強い理合で回避を許さず、これは「技有」。経過時間は30秒、今年度初めて見せる斉藤の失点に歓声、悲鳴、驚嘆の声入り混じって会場は揺れんばかり。中野、体を回して「後ろ手」に固めていた斉藤の脇に腕を差し替えて横四方固を狙うが、危機を察した斉藤いち早く体を起こして対処、「待て」。

斉藤は「技有」ビハインド。しかしこれまで3戦3勝、金鷲旗大会でも「一本」決着の前に一方的に「指導2」まで奪っている斉藤にはまだ3分以上の追撃の時間が残されており、中野が今度はこの長時間斉藤の攻撃を凌ぎ切れるかという新たな課題が課される形となる。

斉藤は前へ。中野は横変形にずれつつも退く姿勢を見せれば全てを失うとばかりに背筋を伸ばし、奥を叩き返して堂々これに対峙。しかし斉藤の段重ねで首の拘束を強めてくる圧力をさすがに嫌気、この釣り手を両手で振り落とそうとすると斉藤はその戻りに合わせて思い切り左大外刈。一段、二段と刈り込んで会場を大いに沸かすがしかしやはり最後の真裏への踏み込みがなく、中野はこの減速を予期したかのように釣り手方向に体を開き、技を受け切る。斉藤は刈り足を戻してそのまま圧力を継続、さらに左大外刈、次いでにケンケンの左大内刈と大技を続けて繰り出すと、さしもの中野も組み続けることが苦しくなり、払巻込に潰れて「待て」。直後の2分1秒、中野に偽装攻撃の「指導」。

eJudo Photo
ビハインドの斉藤は左大外刈を連発、中野の堅陣に迫る

eJudo Photo

勝負どころとみた斉藤、組み際に引き手で襟を掴むなり大きく踏み込んで左大外刈。2度、3度と刈り込みに掛かるが耐えた中野が大きく左足を引くと支えを失い、体落に連絡する形で前に腕を振ったまま倒れて「待て」。息詰まる攻防に、観客席からは得点シーンに勝るとも劣らぬ大歓声、そしてため息が降り注ぐ。

斉藤の投げは決まるのか。決まらずとも「指導3」の蓄積の可能性はあるのか。見守る誰もが畳と時計を同時に視界に捉えて手に汗握って見つめる中、斉藤はやや散発ながらも取り味のある技を見舞い続ける。中野は頭を下げられ、下げられては上げなおして必死の防戦。敢えてリアクションを控え、場を荒らさず最低限の行動で時間を使う。2分37秒、斉藤が腰を切って牽制すると圧を受けた中野が畳を這って「待て」。そして3分0秒、斉藤がひときわ深く大きく左大外刈。釣り手が中野の頭を乗り越えたぶん体が深く裏まで進出、今度こそ決まるか、と思われたが中野が左足を引くと釣り手の拘束がはがれ、斉藤左前隅に倒れ伏せて「待て」。立ち上がれば残り時間はついに残り50秒。直後の3分13秒、中野に2つ目の「指導」。

eJudo Photo
中野が反攻の左大内刈、斉藤驚異的なバランスで大内返に切り返す

eJudo Photo
壮絶な打ち合いがついに終息、斉藤が伏せると残り時間はもはや7秒のみ

残り時間は47秒。斉藤続いてがっぷり組むことに成功するが、このままでは全てを失うとばかりに中野が突如牙をむき、左大内刈。斉藤の体を伸びあがらせて場外際まで追い込むが、信じがたい身体能力を誇る斉藤の体にはなんとまだ余裕あり。外に出ながら一瞬でバランスを回復、時計回りの大内返に切り返す。下げられた両足をデンと踏ん張り、素晴らしい柔らかさで腰を切る大技。さしもの中野もついに崩落、と思われたが引き手が切れて中野は顔から畳へ、失敗を悟った斉藤は残った腕一本で中野をべしゃりと潰して仁王立ち「待て」。

斉藤にとっては惜しい場面であったが、中野が思い切って攻めたことでここまでの斉藤の攻勢印象はいったんリセット。明らかにこの攻めで対価を得たのは自身の攻撃という贄を以て数十秒の「猶予権」を獲得した中野の側である。試合時間はあとわずか、実に39秒を残すのみ。

斉藤珍しく怒気を発して前へ、凄まじい突進力で左大外刈を放つがやはり釣り手の引き締めがなく、中野はその肘をこじあげてずらし、拘束を剥がして耐える。投げ切れぬことを悟った斉藤、釣り手に食いついて付いてくる中野を邪魔だとばかりにいったん振り払って背中を向けさせるとそのまま走り出でた中野を追い掛けて左大外刈。しかし中野は釣り手を剥がすなりここが勝負どころとばかりになんと大外返で迎え撃つ。間違いなくこれが最後の攻防、斉藤は退かず釣り手を上げなおして一瞬で間合いを整え再度左大外刈の大技。斉藤が刈り、中野が凌ぐと追い掛けてさらに刈り、中野が刈り返し、斉藤がさらにもう一段刈り返すというすさまじい大外刈の打ち合い。しかし中野が前傾して上体を預けたまま、釣り手を制したまま一歩左足を引くと斉藤の体が前に倒れてこの攻防は収束。

両手が離れてしまった斉藤の体がスローモーションのように腹ばいに倒れ、時間の流れが常に戻るとタイマーが指す残り時間は僅か7秒。

中野はこれがまとめとばかりに両手を前に出して組み合いに応じ、斉藤が最後の一撃に身を躍らさんと動作を起こしたその瞬間ブザーが鳴り響き、熱戦ここに決着。

中野、「技有」優勢で勝利確定。この瞬間、天理高校27年ぶりのインターハイ制覇が決まった。

eJudo Photo
優勝決定、ついに打倒国士舘を果たした天理ベンチが沸く。

天理高(奈良) ②代-2 国士舘高(東京)
(先)山中瞭×引分×藤永龍太郎
(次)植岡虎太郎〇背負投(0:31)△安藤稀梧
(中)井上直弥△合技(1:51)〇酒井陸
(副)中野寛太〇内股(1:42)△道下新大
(大)水上世嵐△反則[指導3](2:36)〇斉藤立
(代)中野寛太〇優勢[技有]△斉藤立

開始線に戻って一礼する中野と斉藤の2人に、まさしく万雷の拍手が浴びせ掛けられる。超高校級2人がケレン味なく投げ合った熱戦それ自体に、攻略不可能と思われた斉藤からこれしかないというここ一番で見事投げを決めて見せた中野の勝負強さに、この上ないプレッシャーの中ライバルの挑戦をまっこう受け止めた斉藤の健闘に、そして何より、ついに復活を果たした古豪・天理の偉業を祝福するために。まさしく鳴りやまぬこの拍手こそ、平成30年度インターハイ男子団体戦決勝への評価として何よりふさわしい。史上に残る大熱戦であった。

冷静に試合を分析すれば、この試合自体のポイントはやはり先鋒戦。得点力豊かながら実は上位対戦における「1点確実」な駒を斉藤以外に持たぬ(どの選手もここぞで追い掛けて無理やり取るタイプではない)国士舘にとって、自分で試合を動かして一発取れる型の実は虎の子の駒・先鋒藤永の1点は喉から手が出るほど欲しかったはず。冷静に、ここに「藤永キラー」として左相四つで機動力のある大型、かつ休養十分で良いコンディションにあった山中を送り込んだ天理の采配はひときわ光った。綻びを見せていた中堅ポジションに送り込んで総体戦力を上げることで形上の安心を得るのではなく、ここを分水嶺と読んで国士舘勝利に至る水路を「押さえた」冷静な采配が最後まで盤面を支配し続けたと言える。敵将・岩渕公一監督をして「春は出ていなかったあの選手が強くなった、この試合の立役者は彼」とまで言わしめた山中の活躍なくしてこの試合は語り得ない。

ここ一番の植岡の勝負強さも凄まじい。今大会2度の引き分けを記録しているこの選手が、大成、桐蔭学園、国士舘とこれぞという一番では常に一本勝ち、金鷲旗とインターハイいずれも決勝では「秒殺」の一本勝ちをマークしている。その働きまさしく特筆すべき。そしてこの植岡-安藤戦と斉藤-中野戦の2試合に、両軍のここに至る来歴と今季最終戦における天理の「逆転」の背景が良く表れていると感じた。

関係者の証言から推測すると、国士舘サイドはこの次鋒ポジションに「重石」として機能する安定カードの酒井陸の投入を考えていた模様。このレポートの冒頭「配列分析」で書かせて頂いた通り、金鷲旗大会での酒井と植岡の対戦は、相四つ重量級の酒井の奥襟を植岡が嫌気し、「首抜き」に近い形での回避癖を見せている。当然これは狙うべきところであろう。

しかし長谷川碧の不調により、本来試合を見て選べるはずであった酒井の投入位置が中堅に限定されてしまった。山中、酒井という手駒の投入位置の探り合いにおいて「先出し」をせざるを得なかったこと、そして安藤-植岡というギャンブルカードに賭けざるを得なくなってしまったことはやはり痛かったはず。

また、斉藤。負傷による下半身の安定感欠如と金鷲旗大会で見せた釣り手管理の甘さによる「隙」は国士舘サイドも十分認識していたとのことだが、「斉藤が結果的に勝っていたことでよしとしてしまった。斉藤は大丈夫だから、それよりまわりを鍛えなければとそちらに集中してしまった」(岩渕監督)とのこと。

こういった事情が背景にあったわけだが、これはつまり「総体のチーム力」ということに収束して考えるべきだろう。長谷川が綻び、チーム全体の「水漏れ」を複数ケアせねばならぬこととなったのは個人の出来不出来というよりも今代国士舘のチーム力が顕在化した現象と考えるべき。これが正味総体のチーム力に他ならない。そしてその隙をしっかり突くだけの準備と戦力の備えが、天理の側には十分あったということだろう。今代、高校柔道の中央シーンに天理高校が登場した若潮杯以降一貫して「大人のチーム」と評させて頂いていたが、その印象は間違っていなかった。規律高く、繰り出すべきときにしっかり力を出すための準備と判断力、そしていざ走り出したときの爆発力を養っていた天理の総合力が、国士舘のそれを上回ったと考えるべきだ。超高校級のエース中野寛太を軸に、無類の勝負強さを発揮した植岡虎太郎、度々鮮やかな内股透で会場のため息を誘った業師・水上世嵐、斬り込み役として獅子奮迅の活躍を見せた池田凱翔、「次代の大物」ロールを担ってチームに一段上の迫力を与えた井上直弥、チームの勢いを加速せんと驚きの高校選手権個人制覇を成し遂げた中村洸登、そして最後の最後に「夏に向けて、周囲の予想以上に一段上がる選手1枚が要る」というインターハイ制覇の法則に則り、急成長で最後のピースを埋めた山中瞭。27年ぶり日本一という偉業に名を刻むにふさわしい、素晴らしいチームであった。心からその偉業を称えたい。

そして天理高校、国士舘高校をはじめ、熱い戦いを見せてくれた全ての高校柔道選手、指導者に感謝と尊敬の念を表明して、この稿を終えさせて頂く。今年も、インターハイは、熱かった。

eJudo Photo
優勝の天理高

eJudo Photo
準優勝の国士舘高

eJudo Photo
第三位の白鴎大足利高

eJudo Photo
第三位の桐蔭学園高

【入賞者】
優 勝:天理高(奈良)
準優勝:国士舘高(東京)
第三位:白鴎大足利高(栃木)、桐蔭学園高(神奈川)
第五位:作陽高(岡山)、名張高(三重)、九州学院高(熊本)、鹿児島情報高(鹿児島)

天理高・齋藤涼監督のコメント
「最終的には、うちは中野で勝負するしかない。皆がそこまで繋いで、最後は中野が勝ってくれて。思い通りの試合でした。(―優勝の瞬間、拳を突き上げて思わず観客席を振り返っていましたね?)これまで長い間勝てていなくて、ずっと応援して頂いて、支えてくださった天理のOBの方々になんとか喜んでもらうんだという思いが強く、思わず体が向いてしまいました。(―山中選手の先鋒投入がズバリ当たった形でしたね?)金鷲旗の(池田選手と)藤永選手の戦いを見て、相性的に少々厳しいと感じていました。相手(国士舘)が先に動いてオーダーが固まったこともあり、先鋒に入れようと決断しました。最後まで我慢して見極めた甲斐がありました。副将中野は決めていましたが、山中を取り置いたことについては、中村洸登が強くなって、池田や井上を加えた3人が『誰でも戦える』状態、入れどころを選べる戦力になっていたことも大きい。どこでもいける二段構えでした。そして、決勝は山中が引き分けてくれたことが本当に大きかったと思います。さらになんといっても植岡、彼のここ一番の勝負強さは本当に凄い。最初の2試合で流れが掴めましたね。井上もずっと怪我を抱えて来た中で最後まで我慢して本当によくやってくれたと思います。(-早い段階から代表戦が想定される展開になりましたね?)大将の水上には『とにかく動かせ、消耗させろ』と言って送り出しました。彼の頑張りが代表戦に生きたと思います。(―代表戦、中野選手の支釣込足は金鷲旗の対戦がヒントになりましたか?)金鷲旗の戦いを見る限りでは、一本の(近い足への)支釣込足が効果的だとは思っていました。それを中心に考えてやってきました。(―あらためて、27年ぶりの優勝の感想は?)痺れた。今日の戦い、本当に痺れる戦いでした(笑)。」

中野寛太選手のコメント
「(―今の気持ちは?)最高です。代表戦は中堅が取られたところから意識していました。先生に『頼むぞ』と送り出して頂いて、全てのOBの思いを感じた気がして、気合いが入りました。金鷲旗での手ごたえから、自分の一番良いところである足技で勝負しようと考えました。死に物狂いで戦いました。(―金鷲旗と違って横変形にずれなかった?)あれは防御姿勢なのでダメです。まっすぐ勝負にいったことで足技も生きたと思います。個人戦も連覇を目指して、頑張ります。」

国士舘高・岩渕公一監督のコメント
「斉藤は下半身、下半身と言われ続けて伸びて来た選手ですが、怪我でちょっと追い込みが甘く、脚に不安定感があった。それを自覚しながら、それでもどうしても取りに行くんだと攻めに出て腕に力が入ってしまった。取ってやろう、と思って、釣り手を締めずに上から被さっていったところにあの支釣込足を食ってしまいましたね。普通はひっくり返らないけど、投げようという気持ちが裏目に出た。大外刈は(引き手で)襟を取ると、中野君が釣り手で首を持って防いでいるから投げ切れない、げんこつ1つ分落としてから行く、という話をしていたのですが、まさにこれが出来ぬまま、上から持って伸びあがったところにポンと一発食ってしまった。それでも下半身が出来ていれば良かったんですが、脚が伸び切ってしまいました。中野選手が見事でしたね。力関係を考えればじっくり入る手もあった試合ですが、取ってやろうという気持ちゆえ。仕方のないところもあります。釣り手と下半身、この隙は金鷲旗でも見せていたのですが、結果として勝っていたこと、またそれ以上に私が、斉藤はよしとして他を鍛えなければいけないと、一種安心して他の5人の稽古に気を取られていたこともあります。私が甘かったですね。私の責任です。こういう展開をもっと意識させた上で稽古を積ませるべきでした。(―先鋒戦の引き分けが大きく勝敗に影響したのでは?)あの選手(山中)は金鷲旗から入った選手で、春からみれば凄く強くなった。藤永が取れば7割がたこちらが勝ったかな、と思える展開の中で、見事でした。立役者は間違いなく彼ですよ。今の2年生はまだ体が出来ていない。パワーももう1つ。経っても寝ても獲り切れる、国士舘の柔道が出来るようにまた鍛えなおして、頑張ります。」

※ eJudoメルマガ版8月27日掲載記事より転載・編集しています。

→eJudoトップページに戻る
→「ニュース・マッチレポート」に戻る
→「書評・DVD評」に戻る




supported by KAYAC 運営会社サイトポリシー  RSS copyright (c) 2005 ejudo all rights reserved.