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南筑が2連覇達成、準決勝では素根輝がふたたび夙川学院を5人抜き・第92回金鷲旗高校柔道大会女子マッチレポート③準決勝~決勝

(2018年8月13日)

※ eJudoメルマガ版8月13日掲載記事より転載・編集しています。
南筑が2連覇達成、準決勝では素根輝がふたたび夙川学院を5人抜き
第92回金鷲旗高校柔道大会女子マッチレポート③準決勝~決勝
文責:古田英毅/林さとる
取材・撮影:eJudo編集部

■ 準決勝
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夙川学院高の配列は「打倒素根」を意識したもの

夙川学院高 - 南筑高
(先)桑形萌花 - 古賀若菜(先)
(次)金知秀 - 大沢彩乃(次)
(中)長谷川瑞紀 - 原口結(中)
(副)吉峰芙母絵 - 素根輝(副)
(大)新名寧々 - 古賀彩音(大)

昨年度の決勝カード。大方の評価通りこれが事実上の決勝と考えて間違いない、平成30年度大会最大の山場だ。

当初素根輝はこの大会に出場する予定がなかったが、メンバーを見渡せば夙川学院が具体的に「素根のいる南筑に勝つ」ことに本気で取り組んできたということが改めて骨身に染みる。最大の「壁」になりうる最重量級の吉峰芙母絵を副将に置き、中堅には副将格の78kg級の強者長谷川瑞紀を手当て。重心を大将ではなくその前の2枚に置いているのだ。

高校生が素根に勝つことは率直に言って難しい。とはいえ金鷲旗は1度大将が畳に出てしまえば引き分けでは勝負を終えることは出来ず、相手に勝利せねば帰陣かなわぬ過酷なルール。このレギュレーションにおいて絶対の大駒1枚を持つチームが圧倒的に有利な所以であるが、しかし現実的に夙川学院の選手が素根に「勝つ」ことは不可能。それでもチームが勝利を得んとすれば、素根に勝つのではなく「止める」という行為でそのまま自軍の勝利が決まる配列を組むしかない。よって、他校であれば間違いなくエースが務まる新名寧々を敢えて大将に余らせ、副将吉峰までで試合を終わらせる作戦を組んだわけだ。吉峰で引き分けて試合を終わらせる、最悪の場合でも吉峰までで素根を削りに削り、機動力がある軽重量級タイプの新名が「指導」奪取を狙う。配列順固定の金鷲旗においてスコアの体裁を整えることなど一切考えぬ、また他校を相手に万が一の苦戦を強いられる可能性などまったく無視の、完全に対「素根あり南筑」仕様のカスタムオーダーだ。今大会この方針で配列を組んだのは夙川学院ただ1チームのみ。圧倒的な戦力があるからこそ可能な作戦ではあるが、他校すべてが、自軍の戦力事情から帰納したいわば「自軍都合」の配列を組んで力の最大値を発揮し、1つでも上に勝ち上がることに目標を絞る中、夙川学院の思考は完全に「素根都合」。優勝への強い決意が感じられる配列だ。

対する南筑の前衛、ここまで力以上の奮戦を繰り広げてきたが今代最強の強豪・夙川学院の厚い布陣を前にしてはいかにも脆弱。素根出場までの経緯の複雑さから2番手・古賀彩音を大将に余らせてしまっているという事情もあり、控えめに言って不利は否めない。大型相手に粘りが利くインターハイ48kg級王者古賀若菜が1人でも止めて欲しいところであるが、夙川学院の前衛は70kg級の桑形萌花に57kg級の金知秀と、古賀の長所である軽量級の機動力が生かしにくい中量級の、それも全国優勝レベルの猛者揃い。むしろ大型が来て、絵的な有利不利がはっきりするほうが相手の焦りを引き出せるぶん戦いやすかったはずで、さすがにこれに期待するのは酷と言うところ。2人で1人を相手にするつもりで前衛3枚が戦い、なんとか電車道の3人差ビハインドだけは避けて素根に繋ぎたい、というのが現実的に到達し得る最善の結果だろう。

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準決勝、夙川学院高の先鋒・桑形萌花が南筑高の先鋒・古賀若菜から右大腰「技有」

先鋒戦は古賀若菜が左、桑形が右組みのケンカ四つ。46秒、桑形が組み付きながら右大腰。体ごと息を吐くような気合い十分の一撃に古賀吹っ飛んで「技有」。桑形は以後も組み際、あるいは組み付きながら勢いある技を放ち、巧者・古賀に組み手の減速や小細工を一切許さない。さらに背中を抱き、奥襟を叩いてと古賀を圧するが、古賀は粘り強く対峙して決定打だけは許さない。残り数秒、互いに袖を絞り込んでの膠着があり双方に「指導」。第1試合はこれで終戦。「技有」優勢で桑形が勝利を得た。

体格差と相手の巧さを理解し敢えてすべての過程を省略した桑形の一撃、そして古賀のあくまで一本だけは許さない必死の粘りと非常に見ごたえのある試合だった。これで夙川学院がまず1人差をリード。

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桑形は次鋒の大沢彩乃も右内股「技有」で破る

第2試合は畳に残った桑形、南筑の次鋒大沢彩乃ともに右組みの相四つ。桑形は気合い十分、実力差を確実に結果に反映すべく、まず作用足を突っ込んでおいてから動作を起こすトルネード式の右内股に打って出て22秒「技有」獲得。大沢はなんとか粘るが1分0秒「取り組まない」咎での「指導」を食って苦しい状況が続く。以降も桑形は相手を潰しての「腰絞め」、さらに組み際の小内刈と激しく攻めるが、大沢は粘り強い組み手と機を見ての寝勝負でなんとか決壊を防ぎ続ける。桑形は決着を期して釣り手を背中に回して接近、組み際の小外掛を度々放って攻めるも、大沢は必死の我慢を継続。残り21秒には立ち際に俵返の形で桑形が大沢を抱え込む場面があったが、投げ、寝技のいずれにも展開することが出来ず「待て」。そのまま試合は終了、桑形が「技有」優勢による勝利で2人抜きを果たす。

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桑形ついに中堅の原口結も下して3人抜き、副将の素根輝を畳に引っ張り出す

第3試合は南筑高の中堅原口結、畳に残った夙川学院の先鋒桑形ともに右組みの相四つ。桑形は右一本背負投、さらに奥襟を得ると軸足を回し込んでの右内股と猛攻。桑形が打点の高い右一本背負投を見せた直後の1分37秒、原口に消極的の咎で「指導」。あと1つの「指導」で勝利相当のスコアに届く桑形はここから加速、右内股、右一本背負投、さらに再度の右内股とポイント級の技を連発。これを受けた原口は2度続けて潰れ、2分27秒ついに2つ目の「指導」失陥。必死で耐えて来た原口だがこれで心折れたか、再開直後に桑形が右内股を叩き込むと吹っ飛んで豪快「一本」。桑形はこれで3人抜き、夙川学院は先鋒1人で素根を畳上に引きずり出すという完璧なお膳立て。素根の前に立ちはだかかるは、全日本カデ70kg級2位の桑形萌花、高校選手権57kg級王者で今期の世界選手権韓国代表金知秀、全日本カデ70kg超級2位の長谷川瑞紀、同優勝の吉峰芙母絵、そして全日本カデ70kg級優勝の新名寧々という強力5枚である。

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3人差ビハインドで素根が畳に上がる

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素根が桑形から左内股「一本」、まずは1人を抜き返す

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次鋒の金知秀も横四方固「一本」で破り2人抜き

迎えた第4試合は素根輝が左、桑形萌花が右組みのケンカ四つ。桑形右内股で先制攻撃を仕掛けるも、素根は揺るがず相手の背中を抱えて淡々と前に出続ける。24秒、桑形に場外の「指導」。素根は前に押し込んでの右袖釣込腰、奥襟を叩いての左内股、さらに股中に作用足を落としての左体落と冷静に技を入れ続け、守勢の桑形あるいは滑ってたたらを踏み、あるいは潰れてと苦しい状況が続く。窮した桑形は右一本背負投で流れを押し留めんとするが掛け潰れてしまい、1分12秒偽装攻撃で決定的な「指導2」失陥。1分33秒、素根は股中に体落を落とす形でいったん桑形を前に崩して屈させると、次いで作用足を突っ込んで捲り投げ、手堅く左内股「一本」。素根があっという間に桑形を畳に沈め、まず1人を抜き返す。

第5試合は畳に残った南筑の副将素根、夙川学院の次鋒金知秀ともに左組みの相四つ。素根は引き手を先に得て絞り、釣り手で奥を叩きながら激しく前進。場外際に歩を進めると釣り手を肩越しクロスに送り込んで勝負を決めに掛かるが、これを嫌った金が左大外刈の形で掛け潰れて「待て」。先手攻撃で時間を使いたい金はここから左大内刈、左背負投と技を重ねるも、技の効く間合いに入ることができず素根はまったく揺るがない。開始から1分半が近づくところで金が片襟の左背負投、はじめて素根の懐深くまで侵入するも、素根は余裕を持って立ったまま受け切る。直後の1分35秒には左大内刈を空振りして潰れた金に、偽装攻撃の「指導2」。なんとか少しでも素根の体力を削りたい金は両襟の横落に払巻込も放って粘り続けるが、まもなく残り2分というところでついに素根が動く。奥襟を得るや左に腰を切りながら圧を掛け、これを嫌った金が反応したところで一気に右に腰を切って反時計回りの浮落。崩れた相手が片膝を着くなり脇に肘を突っ込んで捲り潰し、胸を合わせて横四方固で抑え込む。金は必死でもがくも素根は動ぜず、2分18秒「一本」。素根はこれで2人抜き。

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中堅の長谷川瑞紀が素根に畳を割らせるも、反対に押し出しの「指導」を失ってしまう。ここが勝負の分かれ目。

第6試合は素根が左、夙川学院の中堅長谷川瑞紀が右組みのケンカ四つ。ファーストコンタクト、長谷川が奥襟を叩いて軽く腰を切ると素根は意外にもあっさりと潰れてしまう。さすがに疲労したか、素根にしてはかなり珍しい絵面。長谷川の膂力は、少なくともこの消耗し切った素根には一定以上の効を発揮し得る模様。

続く展開、長谷川は先に引き手で袖を得、次いで釣り手を上から持つと、肘を中に落とし込み、脇を締めてジリジリ前進。明らかに対素根戦を想定して練習してきた形、力比べに屈する形で素根が畳を割るが、審判団は「押し出し」と判断して50秒、長谷川に「指導」を宣告。

懐に呑んで来た必殺の戦術を否定された格好の長谷川だが、以降も方針を変えずあくまでこの形を徹底。脇を締めながら圧を掛けて前に出る長谷川、押し込まれながらもその圧を利用して投げを狙う素根という構図で試合が進む。疲労激しい素根は後退してしまう局面が増えるが、それでも引き手で相手の釣り手を持っての左体落、あるいは逆技の右一本背負投と要所で効果的な技を放って譲らず、気持ちを切らすことなくいつか訪れるであろう一撃のチャンスを窺い続ける。

2分20秒、ここでこの試合最大のターニングポイントが訪れる。組み手の攻防から両襟の形をつくった長谷川が下から押し上げるようにして前進すると、素根は力なく下がってあっさり畳を割ってしまう。素根の「場外」、あるいは長谷川の「押し出し」、どちらの反則とも取れる場面であったが、試合序盤の攻防から審判団の頭に「長谷川が押し出しを狙っている」との前提があったゆえか、合議の末に主審は長谷川の押し出しを採って「指導2」を宣告。夙川学院サイドからは悲鳴にも似た驚きの声が上がる。引き分けがなくなった長谷川は怒気を発して勢いよく素根に組み付き、激しく前へ。しかし素根を投げる具体的な手立てまではなく、得点獲得の気配は感じられず。素根の側もここが踏ん張りどころと心得ており、一本背負投崩れの大内刈、相手の一本背負投を潰しての「腰絞め」と最後まで集中力を切らさない。最後は押し込んでくる長谷川を素根が押し返したところでブザー。素根が僅差の優勢で勝利を収め、3人抜きを果たした。この時点でついにスコアはタイ。

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素根が副将の吉峰芙母絵から右袖釣込腰「一本」

第7試合は副将同士の対決、畳に残った素根、夙川学院のエース吉峰芙母絵ともに左組みの相四つ。前述の通り、吉峰の副将配置は素根を引き分けで止めるため。ミッション達成への方策を十分練って来た様子の吉峰はまず引き手を手繰って袖を握り、素根が応じたことで序盤は袖の絞り合いとなる。吉峰が前に出ながら「小内払い」で蹴り崩す攻めを見せるも、以降は両者出方を窺う形で膠着、45秒、双方に消極的の咎で「指導」。

この攻防に手応えを得たか、もしくは準備していた作戦が嵌りつつあると見たか、吉峰は以降も袖の絞り合いを志向。素根は絞らせたまま片袖の左大内刈を狙うが、吉峰は腰を引いて距離を取っており、十分に効かせることができない。

吉峰が右一本背負投に掛け潰れて「待て」。この直後の1分30秒過ぎ、素根が巻き込み様に腕を抱いて左払腰。吉峰が耐えるとすかさず向き直って今度は左釣り手で袖を掴み、身を翻して両袖の右袖釣込腰に飛び込む。この技は「取る」ことを直線的に狙った極めて具体的な行動、左、右と振られて完全に体重を捕まえられた吉峰は素根の背中を勢いよく転がり背中から畳に着地。主審は高々右腕を揚げて「一本」を宣告、素根はこれで4人抜き。この試合初めて南筑がリードを得、夙川学院は反対に王手をかけられてしまう。

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素根が大将の新名寧々から左大内刈「技有」、そのまま抑え込み5人抜きを果たす。

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勝者、敗者ともに天を仰いで立ち上がれず

第8試合は南筑の副将素根輝、夙川学院の大将新名寧々ともに左組みの相四つ。この試合も序盤は袖の絞り合い、58秒、双方に消極的との咎で「指導」。ここまで12戦を戦った素根は表情こそまったく変わらないものの、「待て」の間に腰に手を当て、さすがに息を整えている様子。続く展開も袖の絞り合いとなるが、釣り手を絞られたまま投げどころを探っていた素根に1分21秒、片襟の「指導2」が追加される。たとえ両者への反則であってもあと1つの「指導」さえ奪えば勝利決定という状況が訪れた夙川学院サイドは息を吹き返して大声援、新名は冷静に袖の絞り合いによる膠着を志向。しかし、素根はこれを許さず右袖釣込腰を放って状況を散らす。意図通りに試合が進まない新名は横三角の形で素根の体力を削り、「待て」。

直後の1分50秒、新名が組み付くと素根は弾かれたように加速、左内股巻込に捉えてあわやポイントといういう場面を作る。素根はこれだけの試合数をこなしても集中力まったく途切れず、常に走り出す準備が出来ているという印象。以降も袖を絞る新名に、これをかわして技を打つ素根という構図で試合が進む。両者への「指導」でも勝利に辿り着く立場の新名は、ブロッキングと取られかねない袖の絞り込みやクロスグリップに釣り手を差し入れての圧殺とあらゆる手で反則を奪いに掛かる。しかし、素根は変則組み手に動揺を見せず、攻められても膝を着かずにあくまで立ったまま対峙。前に出ながら一撃を呉れるタイミングを探り続ける。試合時間3分間際、素根は絞られた釣り手を片襟に差すと一度たたんでおいてから大きく体を開き、必殺の左大内刈。作用足を高く上げながらケンケンで追い掛けると新名大きく崩れ、素根は飛び込んで投げ切り決定的な「技有」。素根はそのまま横四方固で抑え込み、3分25秒「一本」。熱戦ついにここに決着、5人を抜いた素根、全てを出し尽くして夢破れた新名ともに仰向けでしばし天を仰ぎ、ゆっくりと立ち上がって開始線へ。

決勝進出は南筑。壮絶な5人抜きで試合をひっくり返した素根はこれで合計12勝1引き分け。

(先)古賀若菜△優勢[技有・大腰]○桑形萌花(先)
(次)大沢彩乃△優勢[技有・内股]○桑形萌花(先)
(中)原口結△内股(2:33)○桑形萌花(先)
(副)素根輝○内股(1:33)△桑形萌花(先)
(副)素根輝○横四方固(2:18)△金知秀(次)
(副)素根輝○優勢[僅差]△長谷川瑞紀(中)
(副)素根輝○袖釣込腰(3:32)△吉峰芙母絵(副)
(副)素根輝○合技[大内刈・横四方固](3:08)△新名寧々(大)
(大)古賀彩音

夙川学院は素根を徹底研究。配列という高所の戦略はもちろん、具体的な試合運びという作戦面、これを可能ならしめる組み手と技の戦術面、もはや「箸の上げ下げ」というべきディティールにまで踏み込んだその対策レベルはこれまでどのチームも、どの選手もなし得なかった深さにあった。

結果は同じ5人抜きであるが、圧勝を5つ繋げた昨年度大会決勝とは違って今回はまさしく満身創痍、紙一重の差での辛勝。希代の大物・素根を相手にこれだけの試合を繰り広げた夙川学院には心から拍手を送りたい。そして、夙川学院の奮闘ゆえにさらに際立ったのが素根の心の強さ。相手を投げるための方法論はもちろん豊か、体力もパワーも身体能力ももはや高校生どころか女子のレベルを超えているが、そのような単なる能力値分析では測り得ない、「使命を背負って戦える」という素根の得難い資質が改めて際立った一番だった。

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準決勝、敬愛高の先鋒・野地川友里が大成高の先鋒・小林美奈から右大内刈「技有

大成高○大将同士△敬愛高
(先)小林未奈△合技[大内刈・袈裟固](1:06)○野地川友里(先)
(次)小山遥佳○崩袈裟固(0:43)△野地川友里(先)
(次)小山遥佳×引分×丸山みかの(次)
(中)松本りづ×引分×大本真琴(中)
(副)尾崎美玲×引分×松澤佑栞(副)
(大)佐藤陽子○優勢[技有・小外掛]△多田純菜(大)

先鋒戦は大成の小林未奈が左、敬愛・野地川友里が右組みのケンカ四つ。体格に劣る小林は低く構えて陣地を構成、野地川も負けじと低く構えて圧を掛けながらジリジリ前に出る。1分間際、野地川は釣り手を下から、さらに引き手で袖を握る万全の形を作って右大内刈。小林が足を上げて耐えると腰を切った状態で体ごと押し込んで「技有」。そのまま袈裟固で抑え込み1分6秒合技「一本」、まずは敬愛が1人差をリード。

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大成の次鋒・小山遥佳が「舟久保固め」で野地川に一本勝ち

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大将対決で大成高の佐藤陽子が敬愛高の多田純菜から左小外掛「技有」

第2試合は大成の次鋒小山遥佳、畳に残った野地川ともに右組みの相四つ。小山が釣り手を肩越しに入れるとこれを嫌った野地川は展開を切ろうと畳に伏せるが、これが致命傷。小山すかさず背に食いつくと下から右手を差し込んで「腹包み」の形で相手の体を乗り越える。所謂「舟久保固め」、ガッチリと決まった抑え込みに野地川抗することかなわず43秒「一本」。大成が1人を抜き返してスコアボードは再びタイに戻る。

次鋒同士による第3試合は畳に残った小山が右、敬愛・丸山みかのが左組みのケンカ四つ。この試合は小山の右背負投と丸山の左内股による技の打ち合い。双方積極的に技を出すもポイント獲得には至らず、スコアに変化がないまま時計の針が進み続ける。立っての攻防では丸山がやや優勢に試合を進めるも、寝勝負では小山が「腹包み」に「フライパン返し」と激しく攻め、相手に傾きかけた流れを都度引き戻して総体としては拮抗。残り5秒に丸山が抱きつきの左小外掛であわやポイントという場面を作るが、ここは小山が身を捩って畳に伏せてノーポイント。この攻防が終了すると同時に終了ブザーが鳴り、この試合は引き分けに終わる。

中堅同士による第4試合は大成の松本りづ、敬愛・大本真琴ともに右組みの相四つ。松本が奥襟を得て右大外刈に右大内刈、右内股と激しく攻めるが、大本は立ち位置を体ひとつずらした横変形の形でこれを凌ぎ続ける。松本は片襟、肩越しと釣り手の位置を変えながら投げを狙うも、腰を落としてどっしり構える大本は揺るがない。この構図は4分間にわたってほぼ変化なく、この試合も引き分け。

副将同士による第5試合は大成・尾崎美玲、敬愛・松澤佑栞ともに右組みの相四つ。体格で劣る尾崎は引き手で袖口付近を握り込み、相手の釣り手を徹底封殺。松沢は袖を絞らせたまま度々右大外刈を狙うが、尾崎は大きく崩れることなく凌ぎ続ける、中盤以降は松澤がこの構図を受け入れる形でやや試合が減速。残り13秒になって守勢の尾崎に消極的との咎で「指導」が与えられるが、既に試合を動かせる時間帯ではなくそのままこの試合は引き分け。1勝1敗のあとは3試合連続の引き分けという拮抗、決勝進出を巡る戦いは大将同士の勝負に委ねられることとなる。

迎えた最終戦、大将同士の第6試合は大成・佐藤陽子、敬愛・多田純菜ともに右組みの相四つ。体格に勝る佐藤は両襟の形で右内股、右小外掛、右大内刈と威力のある技を連発して度々多田を畳に這わせて優位。しかし1分15秒、多田が奥を叩いたタイミングで佐藤が左小外掛一撃、ハンドル操作を効かせて浴びせ倒し「技有」を獲得する。そのまま足が抜ければ抑え込みが成立する形まで持ち込むが、ここは多田が凌ぎ切って「待て」。ポイントをリードした佐藤は続く展開でも奥襟を得ての右小外掛で多田を大きく崩すも、多田が立ったまま耐え切って反撃を開始。ビハインドを負った多田は状況を正しく理解、防御を捨てて奥襟を叩き激しい追撃。残り1分間際には佐藤が体を捨てて仕掛けた右内股を透かす得意の形であわやという場面を作るが、いま一歩決め切ることができない。残り28秒、多田の猛攻は佐藤への消極的「指導1」として結実するがこれでは足りず。試合はそのまま終了となり、佐藤の「技有」優勢で決着。大将対決を制した大成が決勝へと駒を進めることとなった。

結果、決まった決勝カードは

南筑高(福岡) - 大成高(愛知)

となった。

■ 決勝
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決勝カードは南筑高と大成高

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南筑高の先鋒・古賀若菜が大成高の先鋒・小林未奈を左大内刈で攻める

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大成の次鋒・小山遥佳が南筑の次鋒・大沢彩乃に「腹包み」から抑え込みを狙う

南筑高○不戦1人△大成高
(先)古賀若菜×引分×小林未奈(先)
(次)大沢彩乃△優勢[僅差]○小山遥佳(次)
(中)原口結×引分×小山遥佳(次)
(副)素根輝○小外刈(1:30)△松本りづ(中)
(副)素根輝○合技[大内刈・横四方固](1:48)△尾崎美玲(副)
(副)素根輝○合技[大内刈・大内刈](3:29)△佐藤陽子(大)
(大)古賀彩音

先鋒戦は南筑・古賀若菜、大成・小林未奈ともに左組みの相四つ。小林は体重55キロの小兵だが、さらに一回りサイズの小さい古賀はよく動き回り、組み手の左右をスイッチしながら担ぎ技で先制攻撃。小林はしっかり組んでの一撃を狙いたいが、古賀が組むなりすぐに技を仕掛けるため、なかなか自分の形をつくることができない。1分間際、小林が左外巻込で潰れると、古賀は背について「ボーアンドアローチョーク」。首の決まりが弱いとみるやそのまま被さって縦四方固に変化する。あと少し体が起きれば十分抑え込める形であったが、ここは小林が凌ぎ切って「待て」。直後の1分31秒、小林が組み際に腰を切る動作を入れると古賀はバランスを崩して畳に伏せてしまい、古賀に消極的の「指導1」。しかし、続く展開では古賀が低い左大内刈で小林を畳に這わせ、あわやポイントという場面を作る。この攻防で警戒を強めた小林はやや減速。以降は両者が先手攻撃で掛け潰れ合う膠着状態が続いて試合が終了。この試合は引き分けに終わる。

次鋒同士による第2試合は南筑・大沢彩乃、大成・小山遥佳ともに右組みの相四つ。リーチで勝る小山が先に引き手を得て攻めるが、その度に大沢は左袖釣込腰や左背負投を仕掛けて組み手をリセット。小山は大沢の掛け潰れを狙って「腹包み」で激しく攻めるも、心得た大沢は容易には返らない。それでも小山優位の攻防が続いたことで、2分0秒、形上防戦一方の大沢に消極的との咎で「指導」。ここから小山は僅差勝利に必要なもう1つの「指導」を得んと攻撃のペースを上げ、残り48秒でついに大沢から消極的の咎で2つ目の「指導」を引き出す。以降、小山は無理をせずに組み手で相手を封殺したまま試合終了まで戦い切る。結果、僅差優勢で小山が勝利し、大成が1人差のリードを得る。

第3試合は南筑の中堅原口結、畳に残った大成の次鋒小山ともに右組みの相四つ。原口は左構えで試合をスタート。釣り手を絞られた原口がこの形を嫌って肩越しに手を置くと、小山はすかさず背後に回って潰し、得意の「腹包み」から抑え込みを狙う。これは入りが浅く、原口が伏せたまま凌ぎ切って「待て」。

1分25秒、原口が体を捨てての右大内刈で潰れ伏せると、小山今度は相手の下に潜り込んで、ローリングから肩固へと繋ぐ。一度は「抑え込み」が宣告されるも、これは3秒で「解けた」。決定的なチャンスを逃した小山はこのあたりから疲労の色が濃くなり、奥襟を持たれて振り回された2分24秒には偽装攻撃の「指導」を失う。しかし、これでかえって覚悟が決まったか小山息を吹き返し、55秒には「フライパン返し」から横四方固で抑え込む決定的な場面に辿り着く。これは既に審判の「待て」が掛かっており認められなかったが、以降も五分に試合を進め、なんとか4分間を戦い切ることに成功。この試合は引き分け。南筑は1人差のビハインドで副将の素根輝が出動することとなる。

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南筑の副将・素根輝が大成の中堅・松本りづから左小外刈「一本」

迎えた第4試合は南筑の副将・素根が左、大成の中堅松本りづが右組みのケンカ四つ。松本は半身に構えて引き手を持たせず、24秒、松本に片手の「指導」。さらに続く攻防で素根が圧を掛けて前に出るとあっさり畳を割ってしまい、52秒には早くも「指導2」が追加される。勝利の権利を得た素根、あとは決めるだけとばかりに片手で粘る松本を場外際まで追い詰めると、押し返してくる相手の力を利用して左小外刈。予想以上のスピードで相手が飛んだために両手のコントロールが離れてしまうが、松本はバウンドする勢いで背中から畳に落下し主審は「一本」を宣告。試合時間は1分30秒、素根、まずは1人を抜き返してこれでスコアはタイ。

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素根が副将の尾崎美玲から左大内刈「技有」

第5試合は素根が左、大成の副将尾崎美玲が右組みのケンカ四つ。尾崎も前戦の松本同様、引き手を相手に与えぬよう、半身に構えて素根と対峙。素根はこの試合も圧を掛けて場外際に追い詰めると、腰を切り、前方向にいなしての「小内払い」で尾崎を畳に伏せさせる。続く展開で素根が奥襟を持って前にあおると尾崎またもや潰れてしまい、49秒に偽装攻撃の「指導」。以降も素根は詰将棋よろしく冷静に相手を追い詰め、1分30秒には奥襟を持っての左大内刈で刈り倒し決定的な「技有」獲得。そのまま横四方固で抑え込み1分14秒に合技「一本」。素根は2人抜き、ついに連覇まであと1人のところまでたどり着く。

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素根が大将の佐藤陽子から左大内刈「技有」

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同様の形で左大内刈「技有」を追加して勝負を決める

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南筑高が2連覇を達成

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決勝のスコア

第6試合は素根が左、大成のエース佐藤陽子が右組みのケンカ四つ。3戦目に至っても素根はまったく表情を変えず、大型の佐藤を相手に一種淡々と試合を進める。上から肘を入れて相手の釣り手を殺し、圧を掛けながら前に出てチャンスを窺い続け、1分33秒には左大内刈。一瞬前を向いてから釣り手を背負投様に畳んで仕掛ける得意の形、この一撃みごと決まって「技有」。以後も2分14秒には左体落で佐藤を畳に這わせ、展開、スコアとも試合の主導権を完全掌握。

もはや満場の関心はこれが16戦目の素根がどのような形でゴールするかに移る。「一本」決着を期待する大観衆が固唾を飲んで見つめる中、3分29秒に素根ふたたび腕をたたんで押し込む左大内刈。佐藤耐え切れずひっくり返り、「技有」。

会場をどよめきが包む中素根が大きくひとつ息を吐き出し、合技「一本」で試合終了。この瞬間南筑の金鷲旗制覇と大会2連覇が決まった。

大会を通した素根の成績は15勝0敗1引き分け。副将配置としては異様なほどの試合数である。気持ちを前面に出して戦った準決勝を受けたこの決勝は一転、あとは仕事を果たすだけと言わんばかりの静かな戦いぶり。どこか「ゾーン」に入っているような、そして独り醒めて位相の違う高所から自身の戦いを俯瞰しているかのような、凄み漂う試合ぶりだった。

既にシニアカテゴリでも大活躍、今春は皇后盃を制して「日本女子柔道選手最強」の称号まで手に入れた素根だが、たとえ高校生が相手であっても、完全に挑まれる側として、かつ「個」対「複数」で、そしてチームの命運という背景を背負って戦わねばならないこの大会の勝利はやはり特別。いつか世界を制する日が来たときに、多くの人々が昨年、そして今年の金鷲旗大会を振り返って素根の凄さを語ってくれることだろう。

今年の素根は急遽の出場。プログラムに名前がない、あきらかに出るつもりも出すつもりもなかった状態からの緊急出場の裏には、地元福岡の星として負わねばならないさまざまな事情があったものと推察する。

その状況にあって18歳になったばかりの高校生3年生が全ての事情を受け入れ、飲み込み、完璧な仕事を果たしたその凄さは、15勝無敗で2連覇達成という数字だけでは到底測り得ない。凄まじいまでの人間力である。素根は単に試合に勝ったのではない。一生懸命稽古を積んで試合の場での力比べに集中すればそれでいいはずの高校生本来の競技活動とはまったく位相が違うところで戦い、しかも誰にも文句を言われない、言い訳なしの最高の結果を残して見せたのだ。

昨年決勝での5人抜きという史上に残る偉業の末に母校を優勝に導いた素根が、今回の大会で新たに得られるものは率直に言って、何もない。ミッション失敗で自身の凄まじいキャリアと今の勢いに傷がつく、あるいはアジア大会を前にしての思わぬ怪我を負うという「失うもの」だけが賭場を行き来する、モチベーションの維持すら難しい状況だったはず。

1か月後に人生を左右するアジア大会を控えて万が一にも怪我をするわけにはいかない。相手の無理な技に絶対につきあわず、自身も目を瞑って体を捨てて120%の力を出すようなリスクを決して冒すわけにはいかない。しかも全ての相手が素根に「勝つために」ではなく、止めるために、投げさせないために、少しでも時間を使わせて決着を引き延ばすためにだけに全てのリソースを割いて群がってくる、階級別高校王者までもが「素根と引き分けた」という勲章を得るためだけに食い下がってくる状況を突破して、怪我を負うこともなく、母校を優勝に導かねばならないそのミッションの難しさ、「高校生」という枠を外して考えたとしても、いったい素根以外の誰がこれを受け入れられるというのか。

孤軍奮闘でチームを勝利に導いた素根は実にあっぱれ。去年が素根輝と阿部詩というスター2人の競演であったとすれば、今大会はまさに史上に残る「素根の大会」。この評を総括として、筆を置きたい。素根の凄さと、人間としての懐の深さに心から拍手である。

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優勝の南筑高

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試合終了、チームメイトと優勝を喜ぶ素根

【入賞者】
(エントリー165チーム)

優 勝:南筑高(福岡)
準優勝:大成高(愛知)
第三位:夙川学院高(兵庫)、敬愛高(福岡)
優秀校:広陵高(広島)、創志学園高(岡山)、帝京高(東京)、桐蔭学園高(神奈川)

優秀選手:素根輝、大沢彩乃(南筑高)、佐藤陽子、小山遥佳(大成高)、桑形萌花(夙川学院高)、多田純菜(敬愛高)、吉田智美(広陵高)、古賀ひより(創志学園高)、熊木悠花(帝京高)、野沢知莉(桐蔭学園高)

南筑高・松尾浩一監督のコメント
「(試合を終えて)ホッとしています。昨年とは比べのものにならないプレッシャーでしたし、私もそうですが、素根にはものすごい重圧がかかっていたと思います。1か月後にアジア大会があって本当はそちらに専念させてあげたかった。『出なくていいんだぞ』と、3回、本人の気持ちを確認しました。最後に話し合ったのが6月末、もう覚悟を決めていました。本当に頼もしい選手です。正直なところ最後の頼みは素根でした。準決勝は非常に厳しい試合内容で、タオルを投げ入れようかと思うほど疲労困憊していました。よく勝ってくれたと思います。素根以外も本当に頑張ってくれました。去年よりもオーダーは厳しく、小柄な選手ばかりで、先鋒の古賀が48kg級、次鋒の大沢が52kg級、中堅の原口も本来は57kg級の選手です。それでも最後まで諦めず力の限り戦ってくれました。今回素根は南筑高校という名前で戦いましたが、これからは地元である久留米市、福岡県、そして日本を代表して戦うことになります。名前の通り世界一輝くよう、正々堂々一本を取る柔道で頑張ってほしいです。」

南筑高・素根輝選手のコメント
「相手も研究してきていたので、個人的には難しい試合ばかりでした。結果としては優勝できて良かったです。他のメンバーも一生懸命私に繋げようと頑張ってくれたので、私もそれに応えようと頑張りました。優勝できたことは良かったですが、試合のなかで課題がたくさん見つかりました。次の試合に向けて克服できるように頑張りたいです。(-金鷲旗について)三大大会のひとつでみんなが優勝を目指している大会だと思います。連覇することができて良かった。(-今後について)まずはアジア競技大会で優勝することです。それが世界選手権や東京五輪に繋がると思います。一つひとつを大切にして、最終的に東京五輪でメダルを獲れるように頑張ります。」

夙川学院高・松本純一郎部長のコメント
「素根選手は歴史に残る選手。普通じゃない。彼女がいるときに勝って名を残したかったですが、残念です。(―長谷川選手の試合は惜しかったですね?)特に2つ目の『指導』は非常に微妙な判定でした。彼女が勝つために選んだ作戦はまったく悪くなかった。ただ1度『押し出し』で反則をもらっているのに、同じことを2回やったのは課題にすべきだ、と本人には話しました。勝機もあったが、私の責任です。素根選手に敬意を表します。」

【5回戦】

夙川学院高(兵庫)○不戦1人△藤枝順心高(静岡)
広陵高(広島)○不戦1人△淑徳高(東京)
創志学園高(岡山)○不戦2人△名張高(三重)
南筑高(福岡)○不戦1人△富士学苑高(山梨)
帝京高(東京)○不戦1人△比叡山高(滋賀)
敬愛高(福岡)○不戦1人△東北高(宮城)
大成高(愛知)○不戦3人△八千代高(千葉)
桐蔭学園高(神奈川)○不戦1人△新田高(愛媛)

【準々決勝】

夙川学院高○不戦2人△広陵高
南筑高○不戦1人△創志学園高
敬愛高○大将同士人△帝京高
大成高○大将同士人△桐蔭学園高

【準決勝】

南筑高○不戦1人△夙川学院高
大成高○大将同士△敬愛高

【決勝】

南筑高○不戦1人△大成高

※ eJudoメルマガ版8月13日掲載記事より転載・編集しています。

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