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東海大が3連覇達成、流れ掴んだ筑波大の勢いを代表戦で跳ね返す・第67回全日本学生柔道柔道優勝大会マッチレポート③決勝

(2018年7月19日)

※ eJudoメルマガ版7月13日掲載記事より転載・編集しています。
東海大が3連覇達成、流れ掴んだ筑波大の勢いを代表戦で跳ね返す
第67回全日本学生柔道柔道優勝大会マッチレポート③決勝
取材:eJudo編集部
文責:古田英毅
撮影:乾晋也、辺見真也

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東海大は13年連続の決勝進出、3年連続23度目の優勝を狙う

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3年ぶりの決勝進出を果たした筑波大

3連覇を狙う東海大は13年連続の決勝進出。エース格の香川大吾と太田彪雅が負傷明けで十分働ける状態にあらず、そして昨年のウルフアロンのような絶対的なエース不在でチームは小粒だが、この日はここまで無失点と危なげない勝ち上がり。スコアは星槎道都大に7-0、桐蔭横浜大に4-0、山梨学院大学に5-0、そして天理大に3-0。

第1シードゆえ組み合わせには恵まれ、かつ相性的にもっとも警戒すべき日本大が中途で敗れて大きな山場がひとつなくなったというアドバンテージはあったが、それにしても抜群の安定感。注目の太田と香川はここまで無理をせず、必要とされる最低限の仕事だけを淡々とこなしてきたという印象。チームが窮地に陥る場面はまだないが、いざ出動となったときにこの2人に余力があるかどうかが勝敗を分ける。

筑波大は永瀬貴規を擁して初優勝した第64回大会以来、3年ぶりの決勝進出。大会全体で見れば「明治、国士舘、筑波」の逆サイド3強を代表して王者東海大に挑むという形になる。こちらも比較的戦い易い山に配され、総力を絞り出すような試合は準決勝のみ。スコアは拓殖大に7-0、専修大に6-0、早稲田大に4-0、中央大に5-2、そして国士舘大に3-3の内容差。余力を残しながら、そして勢いに乗って、かつ同時に「山場を潜り抜けてチームが締まる」という良い卦を得て、再び日本一の座に挑む。

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決勝開始がアナウンスされる

開示されたオーダー順は下記。

東海大 - 筑波大
(先)立川新 - 佐々木卓摩
(次)松村颯祐 - 石川竜多
(五)奥野拓未 - 関根聖隆
(中)太田彪雅 - 上野翔平
(三)後藤龍真 - 田嶋剛希
(副)香川大吾 - 鳥羽潤
(大)村田大祐 - 佐々木健志

東海大は準決勝と同じメンバー、配列のみを入れ替えて布陣。前衛2枚は固定、後衛の香川と村田の登場順を入れ替え、五将から三将までの中盤3人もメンバーをそのままに配列のみを入れ替えた。入れ替えはあくまで「ブロック」内でありこれだけ見れば微調整の範囲内、ドラスティックな戦略の変更はない。敢えて言えば、おそらく代表戦の可能性を考えて香川を1列上げたことと後藤をブロック内の後衛に下げたことで攻撃の駒が寄り、総体としては後衛に「太田、後藤、香川の攻撃カードにまとめの村田」というブロックをまたいだ攻撃ユニットが形成されている。前で我慢し、このユニットで突き放す。後ろ重心の布陣である。

一方の筑波大はあるいは何かトラブルがあったか、野上廉太郎から体重128キロの上野翔平に選手をスイッチ。準決勝で野上が務めた先鋒にはこの日いまひとつ不調も前戦で健闘した佐々木卓摩を投入した。得点役が期待される石川竜多(次鋒)、田嶋剛希(三将)、佐々木健志(大将)は分散配置。この3名だけで考えると後重心だが、準決勝で劇的な決勝点を挙げて団体戦における有用さがあらためて明らかになった関根聖隆が石川と並ぶ形で五将に入り、前衛にやや重きあり。相対的にはバランスの良い2ブロック布陣である。

と両陣営の布陣を確認した上で決勝の盤面を確認。総体の戦力では東海大に分があるというのが大前提ではあるが、一見すると挑む側である筑波大にやや針が傾いた配列に思われる。東海大の先鋒立川新は組み手の巧みさと軽中量級らしい機動力が武器だが、100kg級の体躯に軽量級と見まがう機動力を搭載した佐々木卓摩はこの長所を消す可能性が十分、しかも体格差がダイレクトに反映する相四つである。準決勝ですさまじい一撃を披露した1年生松村颯祐には全日本選手権で既に上位レベルの強豪と呼吸している100kg級のポイントゲッター石川竜多が対峙、これも得点が入るとすれば石川の側と考えて良いはず。そして五将戦、圧倒的な体格と受けの強さがベースである巨漢奥野拓未に対して、「片手でも大外刈と背負投のコンビネーションで間断なく攻撃しながら一発を狙う」関根聖隆の柔道は、ロジック上は効果抜群のはず。東海大としては前衛の我慢は織り込み済みであろうし、どの試合も予想される様相は拮抗ではあるが、可能性はともかく下手をすると極論「3タテ」すらありうる危険な並びである。

中堅戦は太田彪雅の得点を織り込んで良いところ。そして後重心である東海大のメインブロックである以降の3枚であるが、まず三将戦ではともに試合を動かせるタイプである後藤龍真と田嶋剛希がマッチアップ。双方にとって厳しいカードではあり、かつ5月の練習試合では後藤が勝利している顔合わせであるが、動きがある乱戦であればあるほど持ち味が生きる田嶋にとってはむしろ願ったり。少なくとも極端な大型に試合を塗りつぶされるスタティックな試合よりは得点の可能性が高いともいえる。副将戦はこれも香川大吾の得点を予想するべきだが、続く大将村田大祐の後の先狙いを厭わぬ柔道は佐々木健志の「抱き勝負」を受け入れる因子を多分に孕んでおり、となれば体格差で塗りつぶすことは難しく、無傷で済む試合になるとは思えない。つまりは東海大が太田と香川のエース2枚で2点確保濃厚も、残りの5試合は可能性の高低はともかくいずれも筑波大の得点が十分イメージ可能な布陣ということになる。中量級が中心の筑波大の陣容はキャラクターにかなりの凹凸があるが、これがなかなか巧く東海大の陣形に噛み合ったという印象。筑波大としては前衛でまず勝負、ここで次々得点を重ねて東海大の動揺を誘ったまま後衛の田嶋、佐々木の一発で勝ち越すという理想の道筋がそれなりの具体性を持ってイメージ出来る布陣、一方の東海大としては前で我慢して後衛4枚ブロックで突き放すという手堅い試合進行が勝利のシナリオと考えて良いだろう。

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先鋒戦、立川新と佐々木卓摩の激しい組み手争い

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佐々木が袖をクロス捕まえて送り出すと、危機を感じた立川は早々に割り切って完全回避

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一瞬の隙を突き、立川が引き手で胴を抱いて大胆な左小内刈。

先鋒戦は立川新、佐々木卓摩ともに左組みの相四つ。100キロ級の佐々木は体格差をテコに釣り手で奥襟を狙い、一方の立川も一手目にこだわって離れるのではなくむしろ組みに掛かることでこれを防ぐ。佐々木が奥襟を確保、引き手で襟を握った立川が大内刈を放つが、佐々木は一歩下がってこれを潰す。

立川の練れた組み手にオーソドックスな手順で対峙するだけでは機を失うと見た佐々木は早々に手を打つ。右引き手をクロスに右袖を掴むと手繰り寄せて横向きに送り出す好手、しかしこのまま捕まる危険を察知した立川は判断早く背中を見せたまま潰れて「待て」。立川は引き手で襟を狙い、佐々木は奥襟を掴むと左出足払、しかし立川が左小内刈を合わせる形でこれは潰れ、立川は横三角で時間を使って「待て」。試合時間は1分12秒。

持ちたいところを持たせてもらえない印象の佐々木、引き手で襟を掴むと支釣込足で崩しながら奥襟を掴む王道の手順でほぼ形を作るが、立川は引き手側の肩をゆすってずらし、頭を下げて極端な高低差を作りいま一歩で決定的な形を与えない。ここで試合やや膠着し双方に「取り組まない」咎の「指導1」。

立川は引き手で襟を掴むと片襟の左小内刈、佐々木が思わず下がると引き手で胴を抱いて追いかける強気。これに手ごたえを得たか続く展開ではなんと3階級上の佐々木の奥襟を叩いて頭を下げさせる。これはしばし耐えた佐々木が釣り手を揚げて支釣込足、立川を前のめりに崩して「待て」。佐々木やや怒気を発し、立川が二本で引き手を絞ろうとしたところに支釣込足、さらに支釣込足から出足払のコンビネーションで立川にたたらを踏ませ、場外に逃れようとしたところに送足払を叩きこむ。立川大きく崩れて「待て」。

この時点で試合時間は2分52秒、立川に対して手順を変え、足技を絡ませと為すべきことを為した佐々木だが結果的にはこのシークエンスが最大の山場。以降試合は減速し、残り46秒で双方に「取り組まない」咎の「指導2」が与えられる。いずれかがあと1つの「指導」を狙って試合が再加速してもおかしくないところであったが、双方探りの攻防一段を経て無理をしない形で暗黙に合意した形。この試合はそのまま引き分けに終わった。

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石川竜多が長身を利して組み勝つが、松村颯祐は体を生かして前へ。

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手ごたえを得た石川は自信満々左小外掛、どうやら試合展開を掌握。

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松村が横掛風の裏投、あわや「技有」のこの一発で石川の優位はリセット。

次鋒戦は松村颯祐が右、石川竜多が左組みのケンカ四つ。高校時代に全日本選手権出場を果たしている松村は身長177センチ体重155キロの巨漢、これに対し100kg級の強者で身長183センチと上背に勝る石川は早々に引き手で袖を確保し釣り手で奥襟掌握、さらにこれを背中に回して圧を掛ける。ところが組み負けた松村がそのまま前に走り出ると石川下げられ、ほとんどまっすぐ畳を割ってしまう。予想以上の松村の圧力に思わず対応を誤った印象、15秒石川に場外の「指導」。

松村の身体的優位がいきなり明らかになった形だが、石川ここからは引き手で袖を掴み、釣り手で上から背中を叩いてしっかり距離を詰め、大枠優位に試合を進める。松村は下から入れた釣り手の肘を操作して間合いを確保しようとするが、石川にこれを潰されてしまい苦しい体勢。石川は左足車、左大内刈、左払腰に「出し投げ崩し」と繰り出して攻勢、松村の体が重くさすがになかなか投げ切ることが出来ないが徐々に感覚を掴み始めている模様。一方の松村は組み負けながらもじわりと前に出、パワーと体格でこれを押しとどめてなんとか試合を壊さず。

1分30秒を過ぎたところで展開に変化。石川が背中を深く叩き、左足車から繋いだ左大内刈で松村の体を開いて大きく崩す。さらにたたらを踏んだ松村を追い掛けると、刈り足を引っ掛けておいて体を開く得意の左大内刈をもう一撃。ポイントが想起される強烈な技に松村大きく崩れて「待て」、直後の2分9秒松村に消極の「指導」。ついに石川が松村攻略の方法を獲得した感あり。

手ごたえを得た石川は自信満々背中を掴み、腰を切るフェイントから深く踏み込んで左小外掛。体を反らして崩れかけた松村が抱きつくと左足車に繋ぎ、松村が崩れて「待て」。

完全に石川が主導権を得た形だが、ここで松村が強烈な楔。石川が片手状態から左足車を放つといちはやく動きを起こし得意の裏投一撃。相手の体が持ち上がるなり横から小外刈の形で高く刈り上げながらもろとも体を捨てる横掛風の強烈な技に、石川吹っ飛ぶ。なんとか着地で回り伏せたが、副審1人は「技有」をアピール。

合議の末これはノーポイントとなったが、この一発で石川優位に傾いていた様相が変化。以後は石川さすがに慎重になり、逆に松村は石川が上から叩き入れる釣り手に反応、大胆に背中を横抱きに浮腰、さらに体落と思い切った技を繋いで会場を沸かす。

残り15秒を過ぎてからは引き手争い、残り5秒で松村に片手の咎による「指導2」が宣告されて試合は終了。松村のパワーに石川が退き、ついで立ち直った石川が攻略法を見出して攻勢、しかし陥落寸前と思われた松村が強烈な技一発で息を吹き返し、最終的には膠着、と激しく様相が推移した次鋒戦は引き分けに終わった。盤面状況から得点必須と思われた抜き役・石川は終了ブザーが鳴った瞬間思わず顔をゆがめて痛恨の表情。東海大がさらに一段「前で我慢」のシナリオに盤面を引き寄せる。

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関根聖隆が左一本背負投も、奥野拓未の巨体はまったく揺るがず

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奥野の圧力が効き、苦しい体勢の関根が「指導」失陥。

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それでも関根は攻撃を止めず、体全体を使った担ぎ技で抵抗を続ける。

五将戦は東海大の奥野拓未、筑波大・関根聖隆ともに左組みの相四つ。関根は100kg級で決して小さい選手ではないが、奥野は192センチ150キロの偉丈夫、対峙するとその体格差は相当なもの。

奥野は先んじて引き手で袖を得、釣り手を狭く保って前へ。動きを殺された関根は右への担ぎ技のアクションで一旦拘束を剥がすが、奥野が再び奥襟を持って圧力を掛けると沈黙。奥野は前進しながら腰を切って圧力を掛ける得意のパターン、関根必死に食いついて耐えるが58秒「極端な防御姿勢」で「指導」。ここまでは関根、何も出来ず。

再開直後に関根がついに片襟の左大外刈、さらに同じ形から小内巻込に飛び込むが奥野まったく揺るがず。これまでの必勝パターンが、奥野のサイズの前に通用しない。

しかし関根の巧みな一手目の駆け引きに妥協したか、あるいはこれまでの攻防から持たせても問題なしとと手ごたえを得たか奥野が釣り手から組み手を開始しはじめ、先に引き手で襟を持つことが出来るようになった関根は組み際の左一本背負投、「一本大外」、片襟の左背負投と技をまとめ始める。相変わらず奥野の巨体は揺るがずも、突破口を得た関根は両手を前に出して組み手の手順をコントロール、先んじて引き手で襟を握っては左背負投、さらに左一本背負投と技を継ぐ。あくまで奥襟を掴んで主導権を得るのは奥野、関根は苦しい体勢を技でなんとかしのぐという体であったが、主審は手数を評価し2分32秒奥野に消極的との咎で「指導」宣告。

関根の駆け引きはまことに巧み、いつの間にか先に引き手で襟を掴むと奥野の深い懐をまず大外刈を掛けることで攻略、そこから左一本背負投に入り込んで攻撃から降りず中盤戦の主導権は関根。しかしたった1回の綻びに奥野の圧力が染み込み、3分過ぎに二本持っての拘束を受けると関根たまらず潰れてしまい、3分9秒関根に2つ目の「指導」。あと1つの「指導」で奥野の勝利決定である。

勢いを得た奥野は両襟を掴む万全の態勢で前へ、関根はあっさり畳を割り場外の「指導」を食ってもおかしくないピンチ。しかしここでギアを入れなおしたか、奥野の両襟の緩みに付け込んで左一本背負投を仕掛けて状況を流し、なんとか試合終了へとたどり着く。

まず奥野が体格と圧力を利かせて優位、次いで関根が組み手の方法論を得て攻撃、しかし再び奥野の圧力がその上を行き、最後は関根がなんとか圧を散らして負けを逃れる、とまたもや4分間の中で様相が次々変わったこの五将戦も引き分けに終わった。筑波大は石川、関根と準決勝で得点した2枚を送り込みながらいまだ勝利なし、スコア0-0のまま試合は中盤戦へと引き継がれる。

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完璧な組み手を得た太田彪雅が、上野翔平から大外刈「一本」

迎えた中堅戦は東海大のポイントゲッター太田彪雅、筑波大の上野翔平ともに右組みの相四つ。東海大にとっては得点が欲しい位置、筑波大にとっては防衛ポジション。太田が釣り手から組み手を開始し、上野が奥襟で応じ頭を下げて横変形の組み合い。上野先んじて攻める以外に生き残る術はなしと右大外刈、さらに巻き込み潰れていったん展開を切って破綻なく試合を進めるが、太田は再開されるとすかさず引き手で袖を掴み、これを離さず奥襟を狙ってまたもや攻勢。

太田は横変形ながらほぼ一方的に組み手を得て右大内刈、右小外刈と技を積み、受けが柔らかい上野は瀬戸際でこれを切り抜け、試合をなんとか流し続ける。それでも太田は一種淡々と優位を作り出しては出足払に右内股と技を積み続け、2分22秒には苦し紛れに掛け潰れた上野に「指導」。やや上野が守り疲れ、太田の圧が染みて来た感あり。

太田は技を繰り出すペースを速め、組み手の優位と相まって様相は徐々に「いつ決めるか」というステージへ。太田が釣り手を振りながら技を継ぐと上野の防壁が弱まり、残り31秒に太田が斜めから右大外刈。真裏に身体を進めて刈り込むと上野崩落、体を捩じって粘るその上に乗り込んだ太田が両手の操作を利かせて技の効果を一段高め「一本」。

ついにスコアボードに得点が刻まれ、スコアは1-0。東海大が先制点を得た。

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双方得点を期待される三将戦、後藤龍真が田嶋剛希を内股で攻める

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田嶋が左背負投で攻め返す

三将戦は双方得点を期待される強者が激突、後藤龍真が左、田嶋剛希が右組みのケンカ四つ。後藤が左内股で先制攻撃、田嶋は両襟でがっちり組んで担ぎ技のチャンスを狙うが後藤は以後も大内刈と内股のコンビネーションで良く攻め、田嶋はなかなか技に入れない。1分26秒に田嶋が右背負投を見せるが後藤が振り戻して効かず。釣り手の上下に関わらず取り味のある内股を飛ばしてくる後藤を田嶋が攻めあぐねているという印象。打開を図った田嶋2分に右大内刈を見せるが後藤待ち構えたかのごとく鋭い反応でこれを返し、田嶋が伏せて「待て」。2分16秒には釣り手の駆け引きの結果、前に出たはずの田嶋が自ら畳を割ることとなってしまい田嶋に場外の「指導」。

担ぎにこだわっては機会を失うと見たか、直後田嶋引っ掛けるような右内股で勝負に出るが、後藤は頭を下げたまま股中で捌いて動ぜず。状況決して有利ならざるも抜き役としての自分の仕事を良く心得た田嶋は刈り足を突っ込んでから開く右大内刈、残り6秒の組み際には刈り足を大きく伸ばしての右大外刈で勝負に出るが投げ切ることは出来ずタイムアップ。この試合は引き分けに終わった。シナリオを引き寄せたのはまたしても東海大の側で、筑波大は石川、関根、田嶋と抜き役3人を繰り出していまだ無得点。スコアは1-0、東海大リードのまま動かず。

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副将戦、香川大吾と鳥羽潤が引き手を争う

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形勢不利の鳥羽が思い切った右大腰で香川を大きく崩す。この一撃が効いて鳥羽は4分間を戦い切って見事引き分け獲得。

副将戦は東海大の主将・香川大吾が左、筑波大の鳥羽潤が右組みのケンカ四つ。香川は身長180センチ体重140キロ、一方の鳥羽は81kg級で体格差は明らか。実績にも大きく勝る香川が勝利すればその時点で東海大の優勝が決まるこの試合、鳥羽はなんとか引き分けて大将戦に希望をつなぎたいところ。

引き手争いに引き続き香川が両襟を握って前へ、鳥羽が場外で潰れて30秒「待て」。香川の圧力を4分間耐え切るのは率直に言って厳しい、と思わせる出だしであったが、以後の鳥羽は厳しい組み手管理に早い判断の巴投で巧みに時間を使い、なかなか決定的な形を作らせない。しかし1分10秒、引き手を求めた香川がはたき込むような形で相手を潰すと、畳に屈した鳥羽に偽装攻撃の「指導」。

これをきっかけに試合は加速するかと思われたが、自軍のリードを背にした香川は負傷明けという事情もあってかアクセルを踏みこまず。鳥羽も巧みにこの状況を利して引き手争いに持ち込み、出足払に右背負投、巴投で着実に時間を消費。2分過ぎには香川が引き手で袖を一方的に掴むこれ以上ない形が出来上がるが、じっくり相手を見るうちに鳥羽が巴投に飛び込んでチャンスは潰える。

しかしこの自らの「見逃し」に香川さすがに奮起したか、続く展開では奥襟を得ると相手の右背負投に反応しての左大内刈、さらにステップを切っての左大外刈と取り味のある攻撃。続いて釣り手で奥、引き手で袖という完璧な組み手を作り出すと危機を察知した鳥羽が「巴十字」で試合を流すこととなり、主審見逃さず偽装攻撃の咎で「指導2」宣告。一気に試合が煮詰まる。あと1つ鳥羽に「指導」が入ればその時点で東海大の優勝決定である。

続いて香川が釣り手で背中を抱えると、鳥羽はなんと背中を横抱きにしてこれに対峙。距離ほぼゼロのノーガード、誰が見ても体格に勝る香川の大チャンスとなるギャンブル組み手であったが、しかし鳥羽は腰を入れて右大腰の大技一発。大歓声の中で腰に乗りかかった香川がなんとか伏せて「待て」。香川は負傷ゆえか、それとも悪い流れを断ち切るためか敢えてゆっくりと開始線に戻り少々雲行き怪しい情勢。

香川は釣り手一本で、手首を立てて前へ。しかし具体的な技は出ず、最後は香川の左大内刈を鳥羽が右内股に切り返したところでタイムアップ。この試合は鳥羽が使命を果たした形で引き分けに終わり、勝敗の行方は大将戦へと引き継がれる。

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佐々木健志が裏投、村田大祐は胸から畳に突っ込み「待て」。

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佐々木が立ち技から素早い連携、引込返から腕を抱えて村田を抑え込む。

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手を離してしまった村田は、佐々木に抱えられたまま立ち、伏せと回避の方向を探る

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村田が前に体重を掛けた瞬間佐々木の横車一閃、「一本」。

スコア1-0、東海大の「一本」ひとつリードで迎えた大将戦は村田大祐、筑波大の主将佐々木健志ともに右組みの相四つ。佐々木組み合うと体をゆすって調子を合わせ右背負投、これは両手が離れてしまったが潰れずそのまま立ち上がって相手を追いかけ、やる気十分。

一方引き分けでチームの勝利が決まる立場の村田は、本来ファイター型のこの選手には珍しくいったん距離を取りさすがに慎重。釣り手から持ってきた佐々木に応じて引き手で袖を掴み、次いで釣り手で奥襟を叩くと佐々木は待ってましたとばかりに右から背中を抱いて食いつく。村田がややこのまま躊躇すると佐々木は両足を踏ん張って裏投一発、持ち上がった村田は佐々木の頭を超えて胸からまっすぐ畳に突っ込み「待て」。佐々木の大技に武道館大いに沸く。

村田両手を前に出していったん佐々木の組み手を減速。しかし軽量の佐々木は村田に敢えて奥を叩かせることで引き手で袖を得ると、釣り手で肩越しに背中を掴んで大内刈、次いで素早く右一本背負投に飛び込み、村田が伏せると右腕を抱え込んでの引込返でひっくり返してあっと言う間に抑え込みの形に持ち込む。これは主審が早々に「待て」を出してしまっており認められなかったが、主導権は完全に佐々木。体格が上の相手に敢えて組ませることで一発のチャンスを作り、大技を次々繰り出して素早く寝技に繋ぐ。状況をよく弁えた行動であるが、そもそもこの後のないスクランブル状態が本人の柔道の特性にマッチしているという印象。ノーガードの殴り合いを自ら作り出す佐々木の吶喊柔道の前に、さしもの村田もやや後手を踏んでいる印象。

村田横襟を掴んで組み合い、右小外刈で前に出るが佐々木はこれに巴投をかち合わせ、脚で持ち上げて「待て」。ここで村田に消極的との咎で「指導」が与えられる。試合時間は1分16秒。

佐々木は前へ。村田は下がりながらいったん手四つで佐々木の前進を押し返し、ついで一息で奥襟を持つ。佐々木が村田の釣り手の袖を引き手で掴んで握り込むと、嫌った村田は釣り手を奥襟から離して肩越しに背中を狙い、次いで巻き込み様に腕を流しながら斜めから浅めに右大外刈。

一発狙いの佐々木は待ってましたとばかりに背中に食いつく。慌てた村田は巻き込み潰れて展開を切ろうとするが、佐々木はこれを許さず、刈り足をまたいで外すとガッチリ胴を抱え込む。村田は両手を離したまま背後の相手の抱え込みを耐えるという対佐々木戦としてはまさしく最悪の形、佐々木は後に体重を掛けて放り投げようと図り、耐える村田と一合、二合力の掛け合い、方向の探り合い。佐々木はここで右足を相手の前面に送り込んで必殺の横車一発。もし後方向への裏投であれば体重を前に掛ける村田を引っこ抜くことは難しかったはずだが、このあたりは投げ勘抜群の佐々木の真骨頂。遠心力が掛かり、耐える方向と投げの方向を合わされた村田の巨体一瞬で吹っ飛び豪快「一本」。

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「じゃんけん」の勝者は佐々木、筑波大の面々は笑顔で主将を送り出す

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東海大は太田がスタンバイ

やはり優勝大会は簡単には終わらない。東海大は大会5戦目、最終戦の35試合目で今大会初の失点。劇的と呼ぶしかない佐々木の一発でスコアは1-1、第67回大会の優勝の行方は代表者1名による決定戦に持ち込まれることとなった。

東海大は事前に指名されていた模様、中堅を務めた太田彪雅が畳前にスタンバイ。

そんな中、場内にどよめきがあがる。筑波大サイドをみやると、大将戦に出たばかりの佐々木を中心に行われているのはなんと「じゃんけん」。学生カテゴリの最高峰大会、歴史ある全日本学生優勝大会決勝、日本一を決する畳に出場する代表選手を選手自身が、しかも「運」に委ねて決める。いかにも選手の個を貴ぶ気風の筑波大らしい選択。結果、主将の佐々木が登場することになった様子。周囲の選手に肩を叩かれ、意気揚々と姿を現す。追いついた筑波大の勢いは、この「じゃんけん」でさらに一段加速した感すらあり。

代表戦は太田彪雅、佐々木健志ともに右組みの相四つ。太田が引き手で袖を得て形を作り掛けるが、佐々木早々に右一本背負投に飛び込んでリセット「待て」。

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太田が右内股、佐々木が先に降りると膝を突っ込んで押し込む

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太田の「腰絞め」を先に回って外した佐々木はすかさず抑え込みに掛かる

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引き手で袖をガッチリ掴んだ太田、完璧な組み手から右大外刈。

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佐々木刈り足を外したが、太田は内股様に体を押っ付けて投げ切る。

以後は組み手争い。太田は先んじて一発で、あるいは襟から持ち替えてと手堅く引き手で袖の確保を狙うが、袖を持つと佐々木はすぐさま切り、太田になかなか形を与えない。業を煮やした太田は両襟で右内股。大きく崩された佐々木は胴を抱えて横車を狙うが、太田が背筋を伸ばしたまま作用足を持ち上げて残り、タイミングのずれた佐々木の技は空転し先に畳に降りてしまう。太田は作用足を相手の膝の内側に突っ込んだまま素早く押し込んで捲りに掛かりあわやポイント。場内大歓声の中太田は間髪入れず相手の足を抱えて「腰絞め」で絞めあげる。

このまま決まってもおかしくない形であったが、佐々木は先に回って太田の足を掴んでひっくり返し逆に上四方固で抑えに掛かる。「抑え込み」宣告直前、太田が慌てて腹ばいに逃れ「待て」。太田の威力ある内股、これに怖じない佐々木の横車、太田の極めて素早い絞技への移行、これを逃れたばかりか逆にチャンスとばかりに抑え込みに掛かる佐々木の強気。太田の体格的優位と戦術性の高さ、そして佐々木の常識では測りがたい「危険さ」があらためて明らかになった攻防。場内はどよめきが鳴りやまない。

続く攻防、組み手争いの中で太田が引き手を襟から持ち替え、この試合初めて袖をガッチリ握る。この形が危険であることを熟知した佐々木はいったん腕を曲げて引き寄せ、次いで右片襟を握って小内刈を打ち、再度手元に戻して2度、3度と鋭く上下に振り、さらに引き手を襟に持ち替えて組み手のバーターを誘い、さらに右一本背負投に入り込み、とあらゆる手段で切りに掛かるが、太田はこれが生命線と腹を括っており、ガッチリ握り込んだまま決してこの袖を離さない。佐々木が太田の引き手に気を取られたこのやりとりの間に釣り手はついに、ガッチリ奥襟。

そしてどうしても切れない佐々木の手立てがついに終息し一瞬の間が出来た刹那、太田が刈り足を大きく伸ばして右大外刈。佐々木は大きく崩されながらも胴を抱え、自護体に脚を張って後の先狙い。太田の刈り足を外して横車様に高く左脚を揚げて回旋をつけようとするが、太田は右内股の形で体を押っ付け、跳ねるように押し込んで巧みな決め。

右足着地の瞬間を押し込まれた佐々木グシャリと頭から畳に落ち、追い掛けるように胴体が落下。投げが放たれた瞬間は「一本」級、着地の体勢は「技有」でもおかしくなかったが、それとも佐々木の体勢がブリッジと判断されたか、大歓声の中主審は高々右手を上げて「一本」を宣告。

試合時間は1分37秒、代表・太田の鮮やかな一本勝ちで東海大の全日本学生柔道優勝大会3連覇が決まった。

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太田の「一本」で試合決着。

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大健闘の筑波大はあと一歩及ばず。

東海大 ①代-1 筑波大
(先)立川新×引分×佐々木卓摩
(次)松村颯祐×引分×石川竜多
(五)奥野拓未×引分×関根聖隆
(中)太田彪雅○大外刈(3:37)△上野翔平
(三)後藤龍真×引分×田嶋剛希
(副)香川大吾×引分×鳥羽潤
(大)村田大祐△横車(1:36)○佐々木健志
(代)太田彪雅○大外刈(1:37)△佐々木健志

東海大の作戦遂行能力の高さ、そしてぬかりない「準備」が筑波大の勢いを押し返した一番であった。

三将戦まではただのひとつも道を踏み外さぬ完全な東海大ペースも、本来の格であれば得点確実の香川の安全運転と鳥羽の健闘、さらに引き分ければ優勝という状況で慎重になった村田に吶喊小僧佐々木の一発が噛み合っての「一本」で、勝負の行方は代表戦へ。

現場の畳で起こったことだけを見るなら、東海大はむしろ「食われる卦」にあった。準決勝まで一切苦戦がなくゴール直前のこれが最初の躓きであったこと、負傷あがりとはいえ大黒柱の主将香川が試合を加速させ切らず一種「楽に勝とう」としたことで、次戦の佐々木の一撃を呼び込んでしまったこと、そしてこの2戦で「追い掛けられる側と逃げ切る側」という構図を確定させてしまったこと、さらに追い掛ける側の筑波大が「じゃんけん」という型破りの形で代表者を選び、挑戦者ゆえの勢いを加速させて東海大はいやおうなしに「受けて立つ」側に立たされてしまったこと、加えて3年前に東海大の連覇を止めたのがまさしく筑波大との代表戦、畳に立った選手が今回も81kg級の主将(この時は永瀬貴規)で、東海大の側には嫌な記憶が呼び起こされているであろうこと。「これは筑波が勝つ流れだな」と思ったのは筆者だけではないだろう。

順風満帆に勝ち上がって来た、それも連覇という使命を負った「例年より小粒」なチームがゴール直前で躓くのは、先に書いた通りかなり悪い卦。

これをもう少し詳しく書くと。戦力ある王者チームの必勝パターンは、なんと言っても先制して試合を優位に進めること。「スコア的(あるいは配列的)優位の背景を作り続けて、常に『1回は失敗してもOK』の状況でその瞬間を過ごす」ことを精神的な拠りどころとして実力を発揮、さらに得点を重ねてこの状況を強め「個」のメンタルタフネスに頼り過ぎることなく、チーム総体としては実力以上の力を発揮していく。一方の相手方はビハインドが続くことで「王者」という相手の立場を都度精神的に追認することとなり、モチベーションを細かく削られ続ける中で実力が出し切れずにますます差が開く。これが「強いものがますます力を発揮する」団体戦必勝の構図である。加えて、今代の東海大はウルフアロンや影浦心、ベイカー茉秋といった大駒を複数揃えたこれまでのような戦力の絶対値の高さはなく、例年に比べると小粒なチーム。精神的な寄る辺となり、かつ一発逆転のカードである「絶対的な個」が存在しない状況にあってはこの「背景の状況の良さをテコに戦い続ける」ことの重要性はいや増す。

これを崩されて1試合の勝敗がそのままチームの運命を決める、アドバンテージなしの状況を作ってしまったことはただでさえ厳しい。しかもゴール直前の35戦目で起こしてしまったこれがこの日初めての蹉跌で、かつ賭場に掛かるのは「日本一」「連覇」という究極の札。追いかけられ、相手が勢いづく状況で、本来であれば実力を発揮するどころか、度を失わずに試合をすること自体が容易ならざるミッションのはずだ。

しかし太田は意外なほどに落ち着いていた。これは太田個人の力は勿論だが、東海大というチーム全体のここまでの備えの良さがもたらしたものと考えたい。上水監督は戦後「常に最悪のシナリオを考えろと言って来た。『どうやったら勝つか』ではなく『どうやったら負けるのか』という考え方もさせてきた」と語ったが、慌てること自体が相手を利するこの状況にあっての東海大ベンチ全体の一種異様な「動揺のなさ」はこの台詞を聞けばなるほどと納得出来る。太田には東京学生終了時から代表戦時の出動を申し渡してあったとのこと。腹を決め、中堅起用で十分休養を得、「バタバタしなければ勝てる」と送り出された太田は、勢いを利して場を荒らしに来る強者佐々木を前に一種淡々と為すべきことを為し、しっかり「一本」に辿り着いた。

各校が「持てる力を最大限に発揮する」「チームの最善シナリオを考え、自軍の最大値の力を敵にぶつける」ことでおそらく手一杯、というよりそれを究極目標に据えて戦うしかないであろう学生優勝大会において、(しかも戦力自体は絶対でないにも関わらず)「まず最悪のシナリオを考える」チームは東海大の他にはないだろう。試合後のコメントからも畳上のパフォーマンスからも、そして選手個々の成長ぶりからも、「上水東海」は、もはや過去どのチームにもない位相の育成組織に進化しているのではないかと感じた。

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東海大、スタンドから降りた部員を交えて大陣容での記念撮影

他校は、少々東海大に勝たせ過ぎた。上水監督就任からしばらくの間の東海大にはまだまだ隙があり、育成力や長期戦略には長けるものの、勝負どころにおける選手配列など現場での戦術に育成的な視点が入り込み過ぎて隙を見せることも多々あった。(2012年の5連覇達成時、決勝で日本大に一時0-3とされた「性善説オーダー」などは忘れがたい例だ(http://www.ejudo.info/newstopics/001061.html)。しかし持ち前の育成力の高さで育てた選手がこれを常に収拾、勝利を重ねるうちに方法論が着実に進化。結果スカウト論、育成論、組織論、勝負論、そして現場での戦術論と、それぞれが過去どのチームも達したことのない位相に上り詰めることとなった。この日の試合後コメントした「勝ちたいと思い続けた3年前は自分にキャパがなかった。勝っても良し、負けても良し、という態度が大事」との言葉などには、もはや一周回った「違う世界の人」の迫力すら漂った。強豪各チームにそれぞれ長所あれど、総合的な育成環境で東海大に比肩しうる組織はもはやない。上水研一朗という個が、国内のトップ選手集う東海大というこの上ない実験場をベースに試行錯誤を重ねて過去類のないステージまで上り詰めた、そのアウトプットがこの「育成機関としての東海大の独走」だ。この先、3年前の筑波大、あるいは原沢久喜を擁してあと一歩と迫った日本大のような力と勢いのある選手を揃えたチームがスポット的に東海大を凌ぐことはあるだろうが、上水体制続く限り「王者東海大に挑む他校」という大枠の構図は変わるまい。もはや議論の焦点は打倒東海大には何が必要かではなく、むしろ例えば一強構図は柔道界にとって良なるや、あるいはこの期間に東海大が獲得した育成論をどう日本の柔道界に生かすべきか、と一段上の位相でものを語るべき状況と考える。

そして打倒・東海ならざる限り日本一はなしというこの状況は、確実に日本男子の競技力向上に資しているとも考える。進化を続ける東海大を団体戦で凌いで優勝するに必要なことは何かと考え、試行錯誤すること自体が、確実に大学カテゴリの柔道のレベルの維持と向上に繋がっている。指導者の世代感覚もあろうが、日本大、筑波大、国士舘大、天理大らの強豪はかつてに比べてよりきめ細かい指導を期していることが、試合を見ているとよくわかる。もはやかつての、成績を残した高校生の中から大学のカラーに向いた選手をスカウトして単に道場に放り込み、画一的な指導の中で伸びてくる選手を起用するというような昭和的なシステムでは大学柔道を勝ち抜くことは難しくなっている。この点タイトルの獲得の有無が、育成機関としてのレベルの高さを証明するフィルタとして機能しているということであり、大学男子カテゴリはこの点健全、幸せな状態にあると言える。上水体制の充実期が、ロンドン五輪後の日本男子の再上昇期と重なることも、単なる偶然では片づけられないのではないか。

大会MVPは代表戦で勝利を決めた太田ということになるわけだが、個人的にはここにもう1人、後藤龍真の名前を挙げておきたい。東京学生優勝大会の活躍に続き今大会は3勝1分けと文句なしの成績と内容、決勝では筑波大の核である田嶋剛希に仕事をさせなかった。後藤は高校2年時に比類なき技一撃の威力で注目を集めながら、徹底マークを乗り切る方法論と組み手技術に欠けるがゆえ最終学年で失速した感のある選手であるが、この後藤が技の威力をそのままに、むしろ試合を見る目や相手を詰める技術などの戦術性で相手の上を行く様は圧巻だった。ツェツェンツェンゲルオドフーを完封した上で仕留め、アップセットに沸く天理大の勢いを根こそぎ削いだ準々決勝の一番は今大会の白眉。その仕事ぶりはもちろん、東海大の売りである高い育成力をあらためて示した、ということでファンの方々にはこの後藤の名前もぜひ心に留めておいていただきたい。

大熱戦は東海大の3連覇で幕。偉業達成の東海大、中量級チームながら優勝に値するパフォーマンスで大会を盛り上げた筑波大をはじめ、この権威ある大会に出場の栄を得た全ての選手に敬意を表して、この稿を終えたい。

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優勝の東海大

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準優勝の筑波大

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第三位の天理大

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第三位の国士舘大

【入賞者】

(エントリー62校)

優 勝:東海大
準優勝:筑波大
第三位:天理大、国士舘大
優秀校:山梨学院大、日本体育大、明治大、中央大

優秀選手:太田彪雅、村田大祐(東海大)、佐々木健志、関根聖隆(筑波大)、白川剛章(天理大)、飯田健太郎(国士舘大)、長谷川優(山梨学院大)、藤原崇太郎(日本体育大)、田中源大(明治大)、岩崎恒紀(中央大)

東海大・上水研一朗監督のコメント
「選手は本当によく頑張った。しかしそれ以上に他の大学が本当によく戦ってきたなというのが戦い終わっての最初の感想です。特に決勝の筑波大学さんにはこちらが戦う姿勢を逆に学ばせて頂いた。それほどファイティングスピリットのある、素晴らしい試合だったと思います。国士舘大学さんのほうが力的には上だったのではと思いますが、筑波大学は一体感があり、団体戦の戦い方をよく知っていた。選手には、筑波の戦い方に学べ、と言いたいですね。(―代表選手をじゃんけんで決めていましたね?)あの勢いと一体感が怖いんです。3年前のトラウマが心をよぎりました。香川と太田が万全であれば自信が持てましたが、2人とも怪我。代表戦になるようであれば正直厳しいなと思っていました。2人とも負傷あけで、後ろ、あるいは責任あるポジションを任せられる状態じゃない。負けることも想定していました。ただ『勝っても良し、負けても良し』の境地です。3年前の自分は『勝ちたい、勝ちたい』とばかり考えていてキャパがなかった。負けることを考えてやるのは学生の教育のためにもいいんじゃないかと思います。エース2人が怪我でどうにもならない、それでも容赦なく決戦の日はやってくる。連覇を続けて、うちは丸裸にされて狙われている、一方こちらは的を絞ることは出来ない。その中では常に最悪のシナリオを考えて準備をするしかない。どうやったら勝つか、ではなく、どうやったら負けるのかという考え方をしてきました。日本人は実はこれはなかなか出来なくて、言霊信仰というか、悪いことを口にしてはいけないという傾向がある。それでは対応出来ないものがやっぱりあるんです。(―決勝、個々のマッチアップについて。筑波大が頑張れる組み合わせになったと思うのですが、試合のポイントかと思われる後藤-田嶋戦、松村-石川戦、香川-鳥羽戦について?)三将戦に関しては意図通りで、5月の練習試合で後藤が田嶋選手に完勝している顔合わせ。次鋒戦の松村も問題なしと踏んでいました。香川は、4月に膝の靭帯を断裂したばかりで軸足が踏み込めない。あれが目いっぱいだったと思います。(-後藤選手の急成長に驚かされました。高校時代の弱点がむしろ強みになっていると思うのですが、どんな指導を?)もともと技をしっかり持っているのだけど、持っていき方、技に至るまでのきめ細かさが少し足りなかった。こちらは釣り手の運び方や組み手など『公式』と言えるようなことを教えて考えるきっかけを作ったまでです。後藤は、将来的には絶対的なエースになってくれると思っています。(-毎年カラーの違うチーム、異なる課題を持ったチームを作って勝利を続けています。どうやってチームの指導方針を決めるのですか?)まず観察から入ります。どういうチームなのか、どういうやつがいるのか、意識、傾向、じっと見ていると見えてくるものがあります。学年が上がると人は変わります。自覚が出てくる選手もいますし、のぼせあがってパフォーマンスが下がる選手もいます。そこで何をすべきかを常に考えていますね。どこがチームの長所で、どこが弱点か、個性や性格を見極めて、あとは11年やってきたノウハウで(笑)、毎年違うアプローチを心掛けています。今回は『負けても良し』が最終的には勝利に繋がったかなと。選手が本当に頑張ってくれたと思います。」

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東海大の胴上げ、香川大吾主将の巨体が綺麗に宙を舞う

【1回戦】
星槎道都大 4-2 埼玉大
桐蔭横浜大 7-0 新潟大
慶應義塾大 4-0 大阪体育大
國學院大 4-0 仙台大
鹿屋体育大 5-0 松山大
山梨学院大 4-1 関西大
名城大 3-1 駒澤大
日本大 5-0 流通経済大
帝京大 7-0 旭川大
天理大 5-1 東洋大
弘前大 3-1 日本文理大
日本体育大 5-2 清和大
岡山商科大 2-1 中京大
北陸大 ②-2 東海大九州
同志社大 5-1 武蔵大

東北学院大 ③-3 甲南大
関東学園大 5-0 東亜大
福井工業大 ②代-2 大東文化大
国士舘大 7-0 平成国際大
福岡大 7-0 北海学園大
帝京科学大 3-1 愛知大
順天堂大 3-1 龍谷大
筑波大 7-0 拓殖大
専修大 3-1 皇學館大
早稲田大 3-0 大阪産業大
上武大 ①代-1 熊本学園大
中央大 2-1 近畿大
金沢学院大 2-1 札幌大
法政大 ②-2 東日本国際大
国際武道大 6-0 徳山大

【2回戦】
東海大 7-0 星槎道都大
桐蔭横浜大 3-2 慶應義塾大
國學院大 3-2 鹿屋体育大
山梨学院大 3-1 名城大
日本大 6-0 帝京大
天理大 5-0 弘前大
日本体育大 4-1 岡山商科大
同志社大 4-1 北陸大
明治大 6-1 東北学院大
関東学園大 6-1 福井工業大
国士舘大 6-0 福岡大
順天堂大 4-0 帝京科学大
筑波大 6-0 専修大
早稲田大 6-0 上武大
中央大 5-2 金沢学院大
国際武道大 3-1 法政大

【3回戦】
東海大 4-0 桐蔭横浜大
山梨学院大 2-1 國學院大
天理大 ②-2 日本大
日本体育大 6-0 同志社大
明治大 6-1 関東学園大
国士舘大 4-0 順天堂大
筑波大 4-0 早稲田大
中央大 3-2 国際武道大

【準々決勝】

東海大 5-0 山梨学院大
天理大 ①-1 日本体育大
国士舘大 2-1 明治大
筑波大 5-2 中央大


【準決勝】

東海大 3-0 天理大
筑波大 ③-3 国士舘

【決勝】

東海大 ①代-1 筑波大

※ eJudoメルマガ版7月13日掲載記事より転載・編集しています。

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