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三井住友海上が2年ぶりの優勝、新井千鶴と舟久保遥香が全勝でチーム牽引・第68回全日本実業柔道団体対抗大会女子第1部即日レポート

(2018年6月9日)

※ eJudoメルマガ版6月9日掲載記事より転載・編集しています。
三井住友海上が2年ぶりの優勝、新井千鶴と舟久保遥香が全勝でチーム牽引
第68回全日本実業柔道団体対抗大会女子第1部即日レポート
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開会式。会場の久留米アリーナはこの大会がこけら落としとなる。

初日の女子は最高峰カテゴリである第1部の競技が行われた。五人制体重別(57kg以下2名、70kg以下2名、無差別1名)で争われるこのカテゴリのみどころは、連覇を狙うコマツと2年ぶりの優勝を狙う三井住友海上という名門2チームによる鍔迫り合い。コマツは57kg級の芳田司に70kg級の大野陽子とレギュレーションに噛み合う2ポジションで世界選手権の第1代表を抱えており、さらにこの大会では階級落ちながら63kg級で世界選手権の優勝候補に挙がる田代未来を手札に持つ。

一方の三井住友海上には57kg枠に選抜体重別王者の玉置桃、70kg級枠には昨年度の世界選手権の覇者で今年も世界選手権代表の座を得た新井千鶴、さらに無差別枠には選抜体重別78kg級を圧倒的な内容で制した髙山莉加が鎮座。双方の抱えるメンバーは極めて強力、まさに日本一を争うにふさわしい陣容だ。

JR東日本、自衛隊体育学校を含めた4チームで行われるこのカテゴリの対戦方法は総当たりのリーグ戦方式。三巡ある対戦のうち、コマツと三井住友海上の対決は第二巡に組まれている。まずは立ち上がりの第一巡から順を追って、全試合の様子をお伝えしたい。

取材・文:古田英毅

■ 第一巡
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舟久保遥香が巧みな組み手、掌で月野珠里の首裏を抑える。

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舟久保が腕緘「一本」

[第1試合]
三井住友海上火災保険 3-1 自衛隊体育学校
(先)舟久保遥香〇腕緘(3:05)△月野珠里
(次)玉置桃×引分×金子瑛美
(中)鍋倉那美〇合技[大外落・崩上四方固](1:40)△太田晴奈
(副)新井千鶴〇反則[指導3](2:42)△平井希
(大)髙山莉加△横四方固(2:52)〇濵田尚里

オープニングゲームは三井住友海上が快勝。
先鋒戦は舟久保遥香、月野珠里ともに右組みの相四つ。舟久保は動き良く、先んじて引き手で袖を抑えると釣り手を高く晒して奥襟を狙い、大枠優位に試合を進める。具体的なポイントがなかなか生まれず1分30秒双方に「指導」が与えられたものの、舟久保の形勢優位は継続。試合時間3分に迫ろうかというところで、引き手を得た舟久保が巧みに釣り手の掌で相手の首裏を抑えると、たまらず月野は畳に屈して膝を着く。舟久保この機を逃さずあっという間に相手の右腕を腕緘の形で括り、引き込んで縦四方固。「抑え込み」の宣告からややあって、右肘の極めに屈した月野堪らず「参った」を申告。試合時間3分5秒、舟久保の見事な一本勝ちで三井住友海上が先制。

次鋒戦は玉置桃、金子瑛美ともに右組みの相四つ。前半は金子の奥襟圧力に玉置が動き良く足技と寝技で対抗、後半はペースを奪い返した玉置が奥襟を叩いて巴投からの腕挫十字固に左袖釣込腰で攻勢を取る。しかしポイントは生まれず、2分34秒に、相手の袖を握り込んだ金子に片襟の「指導」1つが与えられたのみで4分間が終了。この試合は引き分けに終わる。

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鍋倉那美が太田晴奈から大外落「技有」

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新井千鶴が平井希を攻め3つの「指導」を確保

中堅戦は63kg級の強者対決、鍋倉那美と太田晴奈ともに右組みの相四つ。鍋倉引き手をしっかり絞って横変形に構え、左袖釣込腰で先制攻撃。さらに横変形から刈り足を伸ばして右大外刈で投げに掛かること3度。このところ、右相四つの絞り合いから得意の内股を読まれてかわされ、精神的に追い込まれていくことが多かった鍋倉としては珍しいパターン。鍋倉は気を良くしたか1分33秒にはケンケンの右内股で粘りに粘って太田を崩し、極めて動き良し。どうやら完全に主導権を掌握した気配。

2分4秒、鍋倉が再びケンケンで刈り込む右大外刈。これまでの手ごたえゆえかひときわ深く入った一撃、あくまで投げ切らんと大外落に連絡して無理やり相手の体をコントロールすると太田は崩落「技有」。鍋倉そのまま崩上四方固に連絡して「一本」。これでスコアは2-0となる。

副将戦は新井千鶴にベテランの平井希がマッチアップ。新井は引き手で先んじて袖を確保、一方的な組み手を続けて平井をじっくり追い込む。53秒にこの体勢から満を持して放った左内股はノーポイントだったが、直後平井に「指導」。新井は以後も組み勝ち続け、引き出しの左小内刈に左内股、強気の左大外刈と技を積む。平井には1分52秒に偽装攻撃の「指導2」、さらに新井の大外刈に潰れた2分42秒には「指導3」と立て続けに反則ポイントが与えられて終戦。この試合は平井の反則負けで、新井が勝利を得ることとなった。

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大将戦、高山莉加がまず濵田尚里を腕緘で攻める

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濵田も腕緘でお返し、横四方固「一本」

かくして三井住友海上の勝利が決まった後ではあるが、続いて行われた大将戦が凄まじくエキサイティングな試合となる。全日本選抜体重別選手権78kg級決勝の再戦となる一番は、三井住友海上・髙山莉加、自衛隊体育学校・濵田尚里ともに右組みの相四つ。

まず試合が始まるなり、髙山が吼える勢いで右大外落。濱田の右足を止めるとそのまま座り込んで袖釣込腰に飛び込み、さらにすかさず濵田の腕を捕まえて腕緘。縦四方固の形に乗り込んでもはや完全に極めたかと思われたが、ギリリと極め上げたその絵のまま濵田が耐え切り「待て」。

次いで今度は濵田が逆襲。試合が再開するなり引込返、流れるようにお返しとばかりに髙山の右を極めて腕緘。これも「一本」に至ってもおかしくない形に思われたが、髙山が自身の襟を握って耐え切り1分28秒「待て」。

双方が腕緘を極め合ったこの試合は、やはり腕緘で決着。再開後、濵田が引き手の袖を一方的に確保して腹側に折り込むと、プレッシャーを受けた髙山堪らず潰れる。濵田すかさず寝勝負を選択、腕緘を極めながらの引込返を試み、回し切って横四方固へと繋ぐ。髙山ここで力尽きて2分52秒「一本」。濵田が選抜体重別のリベンジ達成、同時に三井住友海上に一矢を報いて最終スコアは3-1となった。

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高沢眞冴は3度抑え込みを逃れるが、最後は芳田司がっちり抑え込んで「一本」

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宇髙菜絵が柳楽祐里から右足車「技有」

[第2試合]
コマツ 3-0 JR東日本
(先)芳田司〇崩袈裟固(3:22)△髙沢眞冴
(次)宇髙菜絵〇優勢[技有・足車]△柳楽祐里
(中)大野陽子×引分×前田奈恵子
(副)田代未来×引分×土井雅子
(大)佐藤瑠香〇後袈裟固(1:57)△西田香穂

コマツも好発進。先鋒芳田司は高沢眞冴を開始早々の右袖釣込腰で崩して抑え込む。高沢は激しく抵抗、まずこれを「鉄砲返し」で返し、さらに1分半過ぎには「肩三角」から「抑え込み」の宣告を引き出した芳田の抑え込みを再び体を跳ね上げて解く。芳田はペースを崩さず右袖釣込腰から腕挫十字固、さらに縦四方固へと繋ぐが、なんと高沢これもひっくり返して逃れ「待て」。

3度抑え込みを逃した芳田だが、それでも冷静さは失わず。片襟であおって追い込むと、左体落を掛け潰れた高沢に被り、胴を抱えて変則の崩袈裟固。高沢激しく体を跳ね上げるが、芳田今度は巧みにその力を逃がす位置に体をずらし、かつ頭部への圧迫はガッチリ継続。3分22秒ついに「一本」が宣せられて、コマツが先制。

次鋒戦は宇髙菜絵に柳楽祐里がマッチアップ。柳楽は「やぐら投げ」よろしく腹を突き出しての左浮腰を2度連発、強気の柔道で好スタート。しかし1分48秒の組み際、釣り手を高く晒した宇髙が組む動作に混ぜ込んで右足車一撃、一瞬対応が遅れた柳楽吹っ飛んで「技有」。以降は試合の内容も完全に宇髙ペース、残り42秒柳楽に「指導」ひとつが宣せられたのみで試合は終了。宇髙の優勢勝ちで、コマツは早くも2点をリード。

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大野陽子が前田奈恵子を圧倒、場外に逃れんとする相手を引きずり戻す。

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佐藤瑠香が西田香穂から後袈裟固「一本」

中堅戦はもっか絶好調の70kg級選抜体重別王者・大野陽子に前田奈恵子がマッチアップ。大野は突進、わかっていたはずの前田だがその圧力をまっすぐ受けてしまい31秒場外の咎で「指導」。以後は接近しようとする大野の圧力を、前田が両手を突っ張っての間合い確保と「小内払い」の散弾で散らすという絵が続く。しかし2分半過ぎ、大野が片襟の左大外刈に支釣込足と深い技をまとめると前田思わず場外へ、大野はほとんど背中を向けた前田の後襟を引っ掴まえて場内に引き戻し、主審はここで前田に2つ目の場外「指導」を宣告。

試合はこのまま大野の僅差優勢勝ちで終了かと思われたが、前田が必死に技をまとめ、大野は迂闊にもやや受けに回る時間帯を作ってしまう。前田は大野が突進してくる場外に大外刈の罠を張る巧さも見せ、まさに試合終了まであと数秒というところで大野に消極の「指導」。これで僅差優勢に必要な「2差」が消滅し、この試合は引き分けとなった。

副将戦は田代未来が左、土井雅子が右組みのケンカ四つ。引き手争いを縫って両襟を厭わず前に出る田代が優勢も、土井は粘り強く巴投、座り込みの大内刈と放って拮抗を演出。地力に勝る田代が現れる局面ほぼ全てで細かく優位をとるが、全体としては差がつかないという恰好。この試合もそのまま引き分けに終わった。

大将戦は佐藤瑠香、西田香穂ともに右組みの相四つ。佐藤は引き手で袖を折り込んで前へ、西田が粘り強くこの圧に耐えるという形で試合が進み、1分5秒双方に消極的との咎で「指導」。直後試合を加速せんとした西田が掛け崩れると、佐藤冷静にこれを押し込んで浴びせ、後袈裟固へと動きを継ぐ。「抑え込み」が宣せられると西田もはや抗せず「一本」。これで試合終了、最終スコアは3-0だった。

三井住友海上1勝0敗、コマツ1勝0敗。事実上の優勝決定戦と目される両雄の対決は、続く第二巡で組まれることとなる。

■ 第二巡
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内尾真子が柳楽祐里を攻める

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前田奈恵子の圧力に太田晴奈が大きく崩れる

[第3試合]
JR東日本 ②-2 自衛隊体育学校
(先)柳楽祐里△優勢[技有・払腰]〇内尾真子
(次)髙沢眞冴×引分×金子瑛美
(中)前田奈恵子〇反則[指導3](3:33)△太田晴奈
(副)土井雅子〇横四方固(3:27)△平井希
(大)西田香穂△横四方固(1:05)〇濵田尚里

ともに0勝1敗で迎えた両チームによる第3試合は、鍔迫り合いの末にJR東日本が辛勝。

先鋒戦は自衛隊体育学校・内尾真子がケンカ四つの柳楽祐里を相手に奥襟圧力、右内股に横回転の右袖釣込腰と攻め、2分4秒までに2つの「指導」を確保。直後の組み際、内尾思い切って右払腰に飛び込むと回旋の勢いをまともに食った柳楽宙を吹っ飛ぶ。着地の体勢は微妙だったが勢いが買われたか主審の判断は「技有」、これが決勝点となってまず自衛隊体育学校が先制。次鋒戦は互いが相手の手の内を良く知る印象で、鋭い技で攻め合うもことごとく効なし、この試合は髙沢眞冴と金子瑛美の双方が「指導」2つを失ったまま終了、引き分けとなる。

中堅戦はJR東日本・前田奈恵子が左、自衛隊体育学校・太田晴奈が右組みのケンカ四つ。35秒、指を握り合わせて相手を止めたとの咎で双方に「指導」。そして1分2秒、今度は前田にのみ、同じ判断で「指導2」が与えられる。

スコア上は太田有利だが、ここから前田はケンケンの左内股に奥襟圧力と加速、2分7秒に両襟を引っ掴んで圧力を掛けると太田思わず潰れ、痛恨の「指導2」失陥。双方の累積反則はともに「2」となる。この攻防に手ごたえを得た前田は再度両襟で太田を引きずり、明らかな攻勢。主審は「指導」を即断せずにこれをウォッチして試合を流し、さらに続くシークエンスで前田の片手奥襟圧力で太田が潰れた場面も継続の判断を為すが、チャンスを貰ったはずの太田が、前田が撃った左内股にあっさり潰れるとさすがに合議を招集。結果、3つ目の「指導」が宣告されて太田の反則負けが確定、JR東日本は貴重な「一本」相当の勝利を得る。これでスコア1-1も内容差でJR東日本がリード。

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土井雅子が横三角から寝技を展開、平井希から崩上四方固「一本」

副将戦はJR東日本・土井雅子が右、組み手のスイッチが利くタイプの平井希は左構えで試合をスタート。引き手争い、さらに土井が主導しての寝技の攻防と試合は進むが、2分10秒に土井が片手の咎で「指導1」失陥。自衛隊体育学校には大将に濵田尚里という強者がおり、JR東日本が勝利するには本来ここで「一本」を取るしかないところ。その大事な試合での「指導」失陥でやや先行きに暗雲ただよう。
しかし試合後半になるとスタミナ十分の土井が加速。残り1分過ぎに場外際で強引に横三角を試みると、平井の逃避がやや曖昧であったことを幸い、強引なめくりを繰り返すうちに位置を修正、ついに深く掴まえてひっくり返して展開、体に上って縦四方固に抑え込む。平井の抵抗に沿って崩上四方固に辿り着いたところで勝敗決した感あり、「一本」が宣告されて土井の勝利が決定。この時点でスコアは2-1、JR東日本の勝利が決定。

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濵田尚里は相手の腕を抱えたまま駆け引き、「指導」を失う

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濵田が西田香穂から横四方固「一本

大将戦はJR東日本・西田香穂に濵田尚里がマッチアップ。濵田肩越しに背中を叩くがそのままウォッチ、主審厳格にこれを判定して開始5秒で濵田に片襟の「指導」。
続く展開、西田ががっぷり四つの組み合いに応じると、濵田は釣り手を流して外巻込の動作。西田がその背に貼りついて抱え、濵田が腕を抱え込んだまま投げの方向を探る駆け引きが数合。しかしこれは濵田が片襟のまま投げを打たずに時間を過ごしたと解釈され、34秒濵田に「指導2」。濵田思わず首を傾げるが、判定は妥当。

しかし濵田は慌てない。右大内刈を放つと、返そうとした西田の体を制して押し込み横四方固。ややバタバタの試合ではあったが世界選手権代表の貫録を見せつけ「一本」。

これでスコアは2-2、しかし内容差でJR東日本の勝利が決まった。JR東日本は入賞を懸けて、最終節に挑む。

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大一番に臨むコマツの面々

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三井住友海上も前戦と同じ配列で布陣

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事実上の決勝戦、第4試合が開始される

[第4試合]

ついに迎えた頂上対決、開示されたオーダー順は下記。

コマツ - 三井住友海上火災保険
(先)芳田司 - 舟久保遥香
(次)宇高菜絵 - 玉置桃
(中)大野陽子 - 鍋倉那美
(副)田代未来 - 新井千鶴
(大)冨田若春 - 髙山莉加

全ポジションにおいて様相読みがたし。前衛2枠は、世界選手権でのこれまでの華々しいキャリアを考えればいずれもコマツが優位のはずだが、レギュレーションと現時点での実力の絶対値を考える限り、得点を事前に織り込んで考えることは現実的ではない。試合開始前の予想としては、コマツ若干優位も得点差はつかずと見るのが妥当だろう。70kg級対63kg級という階級をまたいだカードが立場を入れ替えて続く中堅戦と副将戦は体重差の有利と柔道的な適性を考えれば、トータルでコマツの側が若干有利のはず。まず中堅ポジションでは大野陽子と鍋倉那美がマッチアップ。大野の、良い意味での上から目線を生かしたパワー柔道を体重差というファクターは確実に加速するであろうし、一方鍋倉は本来の持ち味である投げの切れ味を発揮し得るための組み手成立の幅が存外狭く、過程を飛ばしながら遮二無二力を掛けてくる大野の柔道には相性が良くなさそう。続く副将ポジション、新井千鶴は組み手において本来長所である長い手足を持て余すようなもたつきをみせることが多くなっており、逆に田代未来は少なくとも63kg級においては大型相手でも自分の間合いを作り、状況に適した技を叩きこむことに長けている。そして大将枠、最重量級の冨田が引き分けを志向するような展開になった場合、皇后盃の出来の良さを見る限り少なくともルートを大幅に踏み外すようなことはなさそう。57kg級枠、70kg枠の両方においてコマツ若干の有利が見込め、無差別枠も差をつけることは難しい。順行運転ならコマツ有利、三井住友海上は拮抗が予想される前衛2枚で、何かを起こさないと勝利が難しくなるという印象だ。

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舟久保遥香が芳田司から右小内刈「技有」

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舟久保は組み手巧みに進退、芳田にあるべき間合いを与えない。

先鋒戦はコマツ・芳田司が左、三井住友海上・舟久保遥香が右組みのケンカ四つ。試合が始まるなり応援席から両陣営の大声援、これまでとは位相が違う戦いであることが良くわかる盛り上がり。

舟久保両袖を厭わず前へ、芳田は左体落で応戦。55秒、芳田がおそらくは左大内刈を放たんと組み付くが、一瞬早く舟久保が反応、右小内刈を閃かせる。一瞬腰が浮きあがったタイミングで足元を鋭く刈られた芳田堪らず真裏に崩れ、舟久保淀みない動きで制動を利かせて乗り込み「技有」。

ビハインドの芳田必死に前に出るが、舟久保はリーチの長さを存分に生かして芳田に攻撃の間を与えない。あるいは背中を抱いて「サリハニ」に近い形のまま右前隅に崩し、あるいは手先を絡ませて距離を作り、芳田が欲しいはずの間合いを決して与えず巧みに試合を進める。芳田は幾度か踏み込みながらの出足払を試みるが間合いが噛み合わず舟久保は崩れず。最後は芳田の右一本背負投を舟久保が「肩三角」に捉えんとしたところでタイムアップ、この試合は「技有」優勢で舟久保の勝利に収着。三井住友海上が貴重な1点を得る。

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宇髙菜絵と玉置桃の次鋒戦

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玉置が掛け潰れた宇髙の右袖を「後ろ手」に確保

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玉置が崩上四方固「一本」

次鋒戦はコマツ・宇髙菜絵、三井住友海上の玉置桃ともに右組みの相四つ。思わぬビハインドに宇髙やや怒気を発して前に、しかし両袖で双方膠着することとなり39秒双方に消極的との咎による「指導」。玉置続いて奥襟を叩いての右大内刈に、片手で奥襟を掴む「サリハニ」に近い形で攻勢権を獲りに出る。宇高は珍しい横落を見せるが投げ切れず潰れて「待て」。

玉置が右小外刈で前に出ると宇高ケンケンで場外に出てしまい、1分39秒痛恨の場外「指導2」失陥。しかし直後の1分51秒には玉置にも「指を握り合わせた」咎で「指導2」が与えられスコアはタイとなる。

直後、玉置が組み際の左袖釣込腰。低い位置からの跳ね上げに威力があり主審は「技有」を宣するが、ケアシステムによる映像検証の結果このポイントは取り消し。

直後、玉置が両袖を絞って下方向への圧力。膠着を作り出したのは玉置に見えたが、既に「指導2」を失っている状況に宇髙やや気持ちが急いたか、釣り手低いまま斜めから右大外刈、そのまま前に反転して展開を動かしに掛かる。玉置はすかさず反応、宇髙が潰れると後ろ手に残した右袖をすかさず左手から右手へと持ち直して背中越しに制し、コントロールを手放さず寝技へと移行。その体を乗り越えて崩上四方固に辿り着くと、3分16秒「一本」が宣せられて玉置の勝利が確定。なんと三井住友海上は2連勝、この時点でスコアは2-0となる。

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大野陽子の思い切った左払巻込に鍋倉那美大きく崩れる

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大野は巧みに鍋倉の体を制して崩上四方固「一本」

中堅戦はコマツ・大野陽子が左、三井住友海上・鍋倉那美が右組みのケンカ四つ。大野は試合が始まるなり釣り手で後帯を引っ掴んで左釣腰の大技、持ち上がった鍋倉なんとか降り際に抜け出して窮地を脱する。鍋倉右大内刈で攻め返すも大野は大内返を試みて譲らず、50秒からのシークエンスでは先んじて引き手で袖を一方的に制して圧力、反時計回りの動きを作り出して相手を呼び込むとタイミングの良い左払巻込を見せる。これは耐えた鍋倉が横三角につないで「待て」。大技を連発する大野、次は選抜体重別決勝で見せた打点の高い右一本背負投を狙うが、心得た鍋倉相手の右を制して回旋を許さず、タイミングの良い右内股を放って対抗。続いて大野が左小内刈で突進、場外まで追って「待て」。

ここまでは大野が大技を立て続けに狙い、鍋倉がなんとかこれをかわして攻め返すという構図だったが、大野の鉄球をぶつけるような痛打の連続が鍋倉の耐性の閾値を超えた模様。鍋倉やや安易に右内股に掛け潰れてしまい、すかさず襲い掛かった大野はローリングから横四方固へと繋ぐ。大野の寝技というもう1つの長所がここで生きた形、捕まえられた鍋倉必死で抗うも果たせず2分52秒「一本」。コマツが1点を返し、これでスコアは2-1となる。

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田代未来が妙技を披露、引き手で袖口を握り込んでの払巻込「技有」

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新井千鶴の鮮やかな浮落「一本」

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この一撃で三井住友海上の勝利が確定

副将戦は世界選手権代表同士による豪華対決、コマツ・田代未来に三井住友海上・新井千鶴がマッチアップ。この試合は左相四つ。新井定石通りに、先んじて引き手で相手の袖を確保。しかし田代がここで妙技を披露、まず両手でしっかり袖を絞り、引き手で袖口を握り込む。そのまま引き手一本の状態で体ごと退いてバックステップ、この動作と腕の屈曲を連動させて新井を前に引き出し、相手がついてくるとみるや左払巻込一撃。一瞬体が前に伸ばされていた新井抗することかなわず転がり、27秒「技有」。

ビハインドを負った新井必死に前へ。左大外刈に加えて珍しい右袖釣込腰、意外な鋭さのこの技から再度の左大外刈と技を積み、2分3秒田代に「指導1」。

これを受けた田代は続く展開の組み際に左小内刈で突進。下がった新井を追いかけておそらくは二の矢の左大内刈に連絡を試みるが、新井巧みに体を捌いて反時計回りの浮落。「足を当てない支釣込足」の形で入ったこの一撃、自身の突進と空振った刈り足の勢いで弾みがついた田代の体はこれに抗えず弧を描いて宙を舞い、次いで背中から落下。一瞬で斬り落とした、という体のこの技はもちろん文句なしの「一本」。新井の劇的な逆転勝利でスコアは3-1、この時点で三井住友海上の勝利が決まった。

大将戦はこの決着に毒気を抜かれた印象で、見た目の動き激しくもやや静かに試合が進む印象。髙山莉加が開始早々の左一本背負投から抑え込むが5秒で「解けた」。以降は髙山の左袖釣込腰、右背負落に巴投、そしてそこから繋がれる固技攻撃にきっちり富田が対処するという形で時間が経過。2分3秒に「指導」1つが冨田に与えられるが以降スコアが動くことはなく、この試合は引き分けとなる。結果、スコア3-1で三井住友海上がこの大一番を制することとなった。

三井住友海上火災保険 3-1 コマツ
(先)舟久保遥香〇優勢[技有・小内刈]△芳田司
(次)玉置桃〇崩上四方固(3:16)△宇高菜絵
(中)鍋倉那美△崩上四方固(2:52)〇大野陽子
(副)新井千鶴〇浮落(2:14)△田代未来
(大)髙山莉加×引分×冨田若春

試合を決めたのは新井の劇的「一本」だがなんといっても前衛2試合、特に舟久保の勝利が非常に効いた一番。相手が作り出した膠着でありながら耐え切れずに攻めに出た次鋒宇髙、「技有」リードながらも突進した中堅田代と、コマツ側の失点には盤面上のビハインドという前提条件が非常に大きかったように見受けられる。互いがその実力を認める強者同士の対戦だからこそ、以後に構える布陣の拮抗を理解できるからこそ、一度出来た流れが変えられずにスコアは彼我の戦力差以上の大差となる。団体戦の妙味と怖さが詰まった一番であった。

■ 第三巡
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舟久保遥香が高沢眞冴から横四方固「一本」

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玉置桃が柳楽祐里から隅返「技有」

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新井千鶴が前田奈恵子から大外落「技有」

[第5試合]
三井住友海上火災保険 3-0 JR東日本
(先)舟久保遥香〇横四方固(4:00)△髙沢眞冴
(次)玉置桃〇合技[隅返・横四方固](1:39)△柳楽祐里
(中)鍋倉那美×引分×土井雅子
(副)新井千鶴〇崩上四方固(3:46)△前田奈恵子
(大)髙山莉加×引分×西田香穂

大一番を乗り越え、この試合に勝てば優勝決定の三井住友海上がぶじミッション達成。

ここまで2連勝で勢いにのる先鋒舟久保遥香は高沢眞冴を小外刈で崩しては得意の寝技へと繋ぐ。序盤に相手の巴投をパスして捉えた横四方固は高沢得意の「鉄砲返し」で解かれてしまうが、最終盤に相手を大きく煽って潰すと、「肩三角」で相手をロック。久々見せたこの「舟久保固め」から横四方固に連絡して安定を増して抑え切り「一本」。

次鋒玉置桃は柳楽祐里に「指導1」を失うが、直後の1分21秒には組み際に隅返を決めて「技有」、そのまま横四方固に抑え込んで一本勝ち。

中堅鍋倉那美はしぶとい土井雅子を相手に手堅く引き分けを獲得。そして迎えた副将戦では新井千鶴が左相四つの前田奈恵子との攻め合いから抜け出し、残り38秒に左大外刈を引っ掛けると、あくまで投げ切らんと粘り切って執念の左大外落「技有」。そこからしぶとく崩上四方固に抑え込んで3分46秒「一本」。これで三井住友海上の勝利が確定。

大将髙山莉加はもはや無理をしない印象。右相四つの西田香穂を破綻なく攻め、2分44秒双方に「指導」1つが与えられたのみでこの試合は引き分け。ここで三井住友海上2年ぶり8回目の優勝が決まった。

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金子瑛美が芳田司から小外掛「一本」

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宇髙菜絵の片手絞はルール改正の典型的な形「指導」となる

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宇髙が月野珠里から大外刈「一本」

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大野陽子が太田晴奈から袈裟固「一本」

[第6試合]
コマツ 4-1 自衛隊体育学校
(先)芳田司△小外掛(2:10)〇金子瑛美
(次)宇髙菜絵〇大外刈(2:55)△月野珠里
(中)田代未来〇優勢[僅差]△池田ひとみ
(副)大野陽子〇袈裟固(0:58)△太田晴奈
(大)冨田若春〇合技[浮腰・袈裟固]△濵田尚里

傷心の一番の余波ゆえか、コマツの先鋒芳田司は精彩を欠いた。金子瑛美を相手に左大内刈、内股巻込、飛び込みの左内股と放つがいずれも浅く投げ切れず。2分過ぎの組み際には左の前技への反転を見せるもののその戻りのエアポケットを金子に突かれ、抱きつきの小外掛への侵入を許す。金子は抱いたまま芳田の体を完全に制し、着地点まで距離の出た一撃に、ほとんど物体と化した芳田抗えず意外なほどあっさりと落下。バウンドする勢いで決まった一撃はもちろん「一本」。

コマツにとっては極めて悪い流れだが、ここでベテラン宇高菜絵が踏みとどまる。右相四つの月野珠里を相手に得意の右大外刈で粘り強く攻めて攻勢権確保。2分35秒に見せた「ボーアンドアローチョーク」は、新ルールの「相手の脚を過度に伸展して施す絞技」の項に触れたか合議の末「指導」を貰ったが、この中断で月野の集中力が下がった直後の展開を見逃さない。試合が再開されると、組み際に得意の右大外刈を叩きこんで鮮やか「一本」。これでスコアは1-1のタイとなる。

中堅戦は田代未来に、32歳のベテラン池田ひとみがマッチアップ。序盤は田代の奥襟圧力と足技に、池田が得意の一本背負投の形に腕を抱えた小内刈で対抗。しかし中盤を過ぎると田代が加速。相手をゆすり出すような小内刈に大内刈とよく攻め、池田には2分13秒、3分38秒と2つの「指導」が累積。このまま試合は田代の僅差優勢勝ちに終わる。スコアは2-1、コマツが勝ち越し。

副将戦は大野陽子が太田晴奈を圧倒。左大腰に、腕緘にロックしての引込返と攻め続け、早々に左大腰で相手を崩すとそのまま袈裟固に固めて58秒「一本」。これでスコアは3-1、コマツの勝利が確定。

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濵田尚里は冨田若春の技を受け損ね、負傷したかぐにゃりと頽れて「技有」失陥。

大将戦は意外な決着。冨田若春が濵田尚里の奥襟を捕まえて腰を寄せると、濵田は背中を抱えて密着。しかしここであるいは膝を負傷したか不自然な形で自ら崩れる。冨田は首を抱えて反時計回りに回旋を呉れ、浴びせて「技有」奪取。そのまま袈裟固「一本」、スコアは1つ伸びてコマツが4-1で勝利することなった。コマツはこれで2位が確定。

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第5試合終了時、優勝決定を喜ぶ三井住友海上ベンチ。

優勝は前述の通り三井住友海上。柳澤久監督は「今年10月から部の創立30年に入るという節目であったこと、そして世界選手権に代表を1人しか送り込めなかった悔しさが勝利の要因」と試合を振り返った。

三井住友海上には玉置、髙山ら上り調子の選手の勢いがあったが、それ以上に舟久保と新井が発していた危機感、切迫感が印象的であった。舟久保は社会人デビューの昨年度大会で思わぬ負けを喫し、これが1年間の出遅れを生んだという経緯もあってかまことに集中力高し。このところ不調の新井は柳澤監督の主将指名策が当たり、気持ちの強さを体の内奥から引っ張り出して、一段上のパフォーマンスを発揮していた。選抜体重別で優勝してアジア大会代表に選ばれて今が旬の玉置桃にも、「乗っている」というよりもこの勢いを消すまいとの切迫感があり、この一段高い集中力が優勝、そして結果としての大勝の原動力であったと感じられた。

入賞者と試合結果、および柳澤監督、新井千鶴選手と舟久保遥香選手のコメントは下記。

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2年ぶり8度目の優勝を成し遂げた三井住友海上

【入賞者】
優 勝:三井住友海上火災保険
準優勝:コマツ

優秀選手:舟久保遥香、新井千鶴(三井住友海上)、大野陽子(コマツ)

【試合結果】
三井住友海上火災保険 3-1 自衛隊体育学校
コマツ 3-0 JR東日本
JR東日本 ②-2 自衛隊体育学校
三井住友海上 3-1 コマツ
三井住友海上火災保険 3-0 JR東日本
コマツ 4-1 自衛隊体育学校

三井住友海上・柳澤久監督のコメント
「10月で柔道部創立30年に入ります。その記念ということもあるし、世界選手権の代表を1名しか出せなかったという悔しさ、この2つが選手の大きなモチベーションになりました。『団体は必ず勝とう』と話し合っての、きょうの舞台でした。舟久保、玉置と前に座った若い2人はこのところガンガン良い稽古をやっていて、これから伸びると思っていた矢先。頑張りましたね。新井の主将指名は昨年から決めていました。考えすぎて自己アピール不足のところがあったのですが、これを打開してほしかった。田代選手との試合(逆転勝ち)は『主将としてしっかりやらなければ』という気持ちが良く出ていたと思います」

新井千鶴選手のコメント
「(田代未来選手に)取られた場面は、正直覚えていない。ただ、あのあと、もう自分から攻めるしかないと必死に前に出たことが結果に繋がりました。これは今後の糧になります。精神面で遅れをとるのが、自分に欠けていたところ。世界選手権で勝っていたときはこれが出なかったけど、その後、世界王者として負けるわけにはいかないと気にし過ぎてしまい、悪い循環に嵌っていた。とにかく前に出て、気持ちをむき出して戦う、そういう試合をしなければと思っていますが、そのきっかけになる戦いだったと思います。世界選手権も強気で相手にぶつかっていきたいです。」

舟久保遥香選手のコメント
「今日は先輩たちが元気づけてくれて、緊張感なく戦えました。去年は負けて迷惑を掛けた大会。1年経って社会人の柔道に慣れて来ましたし、今日は最後に自分の形で勝つことも出来て、良かったと思います。この大会から始まった去年1年間の出遅れを取り戻したい。講道館杯で勝って、グランドスラム東京に勝って、一気に世界に出たいです」

※ eJudoメルマガ版6月9日掲載記事より転載・編集しています。

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