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平成30年全日本選抜柔道体重別選手権女子マッチレポート②(63kg級、70kg級、78kg級、78kg超級)

(2018年5月18日)

※ eJudoメルマガ版5月18日掲載記事より転載・編集しています。
平成30年全日本選抜柔道体重別選手権女子マッチレポート②
63kg級、70kg級、78kg級、78kg超級
取材:eJudo編集部
撮影:乾晋也

■ 63㎏級 シード4選手が全滅、能智亜衣美が2年ぶりの優勝果たす
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63kg級1回戦、工藤千佳が田代未来から左内股「技有」

昨年世界選手権への代表派遣が見送られたこの階級だが、ケガから復帰した階級第一人者の田代未来(コマツ)が、昨年12月のグランドスラム東京、さらにワールドマスターズで優勝。しかもワールドマスターズでは、2014年の世界王者であり日本選手が長年勝ったことのない宿敵クラリス・アグベニュー(フランス)を下す殊勲を果たし、歴史的な復活を遂げつつある。63kg級を「引っ張る」グループのメンバーとして日本人が世界に認められるのはまことに久々。世界選手権の代表は事実上確定という状況で迎える今大会での戦いが、注目を集めた。

しかし第1シードで出場した田代は、初戦の工藤千佳(JR東日本)を相手に内股で「技有」を失い、まさかの敗退。相手が思い切って仕掛けた技に対し、備えのない受けでまともにその威力を食ってしまった。

グランドスラム東京とワールドマスターズでともに準優勝している第2シードの鍋倉那美(三井住友海上)も、初戦でマッチアップした大住有加(JR東日本)にGS延長戦の末に隅落で「技有」を奪われて敗退。さらに昨年のこの大会を制した津金恵(パーク24)も、1回戦で昨年の世界ジュニアチャンピオンの荒木穂乃佳(兵庫県警察)得意の粘戦に嵌り「指導3」の反則負け。津金が「指導」を先取して優位に進めていたが、GSに入り失速、立て続けに「指導」2つを失う逆転負けだった。

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準決勝、能智亜衣美が工藤を攻める。左内股から小内刈に繋ぎ、崩れた相手を抑え込む。

第4シードの位置に配された昨年度講道館杯の覇者・土井雅子(JR東日本)は、昨年準優勝、今年3月のグランドスラム・エカテリンブルグで優勝を果たした能智亜衣美(了德寺学園職員)に、「指導」2つを先行された上、GSで袈裟固に抑えられて一本負け(5:04)。これにより、シード選手が全員初戦で敗れるという結果となった。

準決勝では、まず前戦で土井に勝利した能智が工藤に袈裟固で一本勝ち(5:58)。続く20歳の新鋭・荒木と29歳のベテラン・大住の対戦は、序盤は体格と得意の横三角を利して大住が優位。序盤に「指導」を先行するが、スタミナに勝る荒木が終盤になると圧倒し「指導」を取り返して本戦4分が終了。GSに入って大住に「指導2」、最後は両者に「指導」が与えられて決着。荒木がベテラン大住を破って、シニア大会で初のファイナル進出を決めた。

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決勝、能智は「ケンカ四つクロス」の左内股で荒木穂乃佳を大きく崩す

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荒木必死の反撃も能智動ぜず

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試合は「指導3」の反則で能智の勝利に終わった。

【決勝】
能智亜衣美(了徳寺学園職)〇反則[指導3](3:56)△荒木穂乃佳(兵庫県警察)

前述の通り、一昨年のこの大会で優勝、昨年度準優勝の能智亜衣美(了德寺学園職)が、3年連続で決勝に進出。能智としては国際大会の実績で上を行く田代を直接対決で破って力を見せたいところだったが、田代が初戦で敗れたため対戦自体が実現せず。決勝は国内の実績十分ながら勝負どころを落としてなかなか檜舞台を踏めなかった能智と、新進の荒木との対戦となった。

能智が左、荒木右組みのケンカ四つ。釣り手を取り合った状態から能智が引き手を取ろうとするが、荒木がなかなか組もうとせず、その取り組まない姿勢に対し39秒、2分15秒と「指導」が重ねられる。能智は圧力を掛けながら釣り手だけ、あるいは「ケンカ四つクロス」の内股で攻め着々攻勢を確定。際の粘り強さが売りの荒木も、これでは持ち味を出すことが出来ない。組み手争いが続き、荒木が苦し紛れに谷落を出したところで、荒木に3つ目の「指導」が与えられて反則負けが確定(3:56)。津金、大住といったシニアのトップ選手を相手に奮闘した荒木だが、決勝は能智のプレッシャーと技術に押され、持ち味の泥臭い粘りを発揮することが出来なかった。

試合後、「先に『指導』を取ることを考えていた」とゲームプランを話した能智。たしかに、すべての試合において、前に出て先に技を仕掛け、先に「指導」を取り、自分自身は3試合でひとつの「指導」も取られていない。組み手と足技という能智の特徴が十分発揮された、評価に値する内容だったと言える。ただ、技でのポイントは、準決勝の工藤戦での袈裟固「一本」のみ。勝ちに徹した結果なのか、技数の割には効く技が出ていなかったようにも感じた。本人も「良かったのは結果だけ」と、内容に関しては満足している様子ではなかった。

優勝はしたものの、前述の通り先行するライバルたちとの直接対決は組まれず、内容的にも本人が不出来を認める通りすべての状況をひっくり返すようなインパクトまでは残せず。結果、三次予選であった欧州国際大会終了時の序列がそのまま維持され、世界選手権の代表には田代が選出されることとなった。

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63kg級入賞者。優勝の能智と2位の荒木。

【入賞者】
優勝:能智亜衣美(了德寺学園職)
準優勝:荒木穂乃佳(兵庫県警察)

【バクー世界選手権代表】
田代未来(コマツ)

能智亜衣美選手のコメント
「去年連覇できず、講道館杯でも3連覇できなかったので、今大会は結果を出したかった。いい試合ではなかったけど、優勝という結果だけは良かったと思います。先に「指導」を取ることを考えて試合しました。オリンピックの金メダリストや銀メダリストにどうやって勝つかだけを考えて、海外でも試合をしていました。世界選手権に出場して優勝を目指したい」

田代未来選手のコメント
「やってしまったなという感じ、調子は悪くなかったと思いますが、ひとつ勇気を出して攻めていけなかった。相手への対応も不十分。今のこの状態だと代表はわからない、と言われても仕方がないと思います」

【1回戦】
工藤千佳(JR東日本)〇優勢[技有・内股]△田代未来(コマツ)
能智亜衣美(了徳寺学園職)〇GS反則[指導3](GS0:44)△土井雅子(JR東日本)
大住有加(JR東日本)〇GS技有・隅落(GS1:13)△鍋倉那美(三井住友海上)
荒木穂乃佳(兵庫県警察)〇GS反則[指導3]△津金恵(パーク24)

【準決勝】
能智亜衣美(了徳寺学園職)〇GS袈裟固(1:04)△工藤千佳(JR東日本)
荒木穂乃佳(兵庫県警察)〇GS反則[指導3](GS1:58)△大住有加(JR東日本)

【決勝】
能智亜衣美(了徳寺学園職)〇反則[指導3](3:56)△荒木穂乃佳(兵庫県警察)

■ 70㎏級 好調大野陽子が再び世界王者新井千鶴を打倒、決勝は豪快「一本」
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70kg級1回戦、新井千鶴が朝飛七海から大内刈「技有」

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1回戦、大野陽子が柿澤史歩から崩上四方固「一本」

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準決勝、大野は新添左季から大外返「技有」を奪う

【決勝まで】

ひときわ注目を集めた選手が2人。ブダペスト世界選手権で初優勝を果たし、2017年を世界ランキング1位で終えた新井千鶴(三井住友海上)と、その新井の最大のライバルである大野陽子(コマツ)だ。大野は昨年12月のグランドスラム東京では決勝で新井を破って初優勝、2月のグランドスラム・デュッセルドルフも制してもっか絶好調。一方の新井はグランドスラム東京でのタイトル奪取失敗に続き、グランドスラム・パリでも格下のサリー・コンウェイ(イギリス)に一瞬の油断から抑え込まれて2位。捲土重来を期して迎える大会だ。今季の国際大会全勝の大野、国際大会は連続2位も前年度金メダリストというアドバンテージを持つ新井。代表争いにおける両者の立場は「タイ」、勝った方が世界選手権代表権を得られる大一番である。

新井は昨年のインターハイチャンピオンの朝飛七海(桐蔭横浜大1年)に思わぬ苦戦を強いられるも、GS 3分52秒、大内刈で「技有」を奪って初戦を突破。準決勝はグランドスラム東京3位の田中志歩(環太平洋大2年)を縦四方固「一本」で破って決勝進出を果たした。

反対側のブロックからは大野が順調に決勝進出。絶好調ぶりは今大会も変わらず、初戦で柿澤史歩(三井住友海上)を崩上四方固で下すと、山場と目された新添左季(山梨学院大4年)との準決勝も試合時間残り2秒に大外返「技有」を奪って完勝。新井の待つ決勝へと駒を進めた。

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決勝、新井が開始から積極的に攻める

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大野の豪快な右一本背負投が決まり「一本」

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【決勝】
大野陽子(コマツ)〇一本背負投(2:20)△新井千鶴(三井住友海上)

誰もが待ち望んだライバル対決、両者の対決は12月のグランドスラム東京決勝以来。その際は両者に「指導2」が与えられた後、かなり早いタイミングで3つ目の「指導」が新井だけに与えられるという、両者ともに不完全燃焼の決着だった。少なくとも、勝っていればバクー世界選手権代表の内定を得られた新井にとっては不本意な内容であったのは間違いない。ここでしっかり白黒をつけて、王座防衛戦となる世界選手権に臨みたいところ。

「指導」ひとつの差で世界選手権代表内定を逃した新井に対し、このときの勝利で欧州国際大会への進出権を得た大野は前述の通り続く2月のグランドスラム・デュッセルドルフも優勝してグランドスラム大会連勝。今季の国際大会の成績は新井をしのいでナンバーワンである。代表争いの「圏外」から一気にその真ん中へと躍り出て、この試合に勝利すれば自力での世界選手権代表権獲得が可能なところまでこぎつけた。

絶好調の大野、戴冠以降煮え切らないパフォーマンスの続く新井。試合はこの2人の描く上昇、下降カーブがそのまま現れる結果となった。

新井、大野ともに左組みの相四つ。両者気合い十分の様子で向かい合うと、最初に仕掛けるのは新井。組み合うなり躊躇なく左内股、さらに大野の出足払に対して果敢に左払腰で応戦して意欲十分。しかしやや新井優勢かと思われたこの直後、大野必殺の一本背負投が閃く。新井が一瞬動きを止めると左足を内側から払って、組み手とは逆の打点の高い右一本背負投。肩の上に相手の腕を担ぐ豪快な一撃に飛び込めば、新井の身体はきれいに宙を舞い、背中から落ちて「一本」。試合時間は1分31秒だった。

「勝った方が代表」という煮詰まった状況下で迎えたこの一番に、あまりにも明らか過ぎる決着。この結果を受けて世界選手権代表には大野陽子が選出された。28歳にして堂々初の世界大会進出。バクー世界選手権では初出場、初優勝の快挙を目指す。絶好調ぶりを大舞台に持ち込めるか、大いに期待したい。

対照的に、前年世界選手権を制したばかりのはずの新井の低調は変わらず。全試合通じて組み手に難あり、技術的課題を克服せぬまま「地力をあげること」でひとまず勝ってしまったそのツケが回ってきているように感じられてならない。地力を試合内容に伝えられないまま「組み負けているはずだがなんとかなる」ハンデ戦を受け入れ、格下の相手に自身に近づく階段を与えたままのこの状態では、世界王者という序列通りの結果はなかなか得られない。1回戦で高卒新人の朝飛を相手に演じてしまった大消耗戦は、まさにその「組み手技術の巧拙で序列の差を詰められる」という、典型の試合だった。

新井は戴冠後ここまで本領を発揮した試合がただの1試合もないと言って良い状況。朝飛戦では、GS延長戦で「指導」1つを積みあげた際に「なぜ試合終了ではないんだ?」とアピールするという不可解なシーンも演じた (※1月からルールが改正され、「指導3」を得るまで試合は終わらない)。今年既に国際のビッグゲームをこなしている新井がまさかルールを知らぬわけはなく、集中力を欠いたのか、それとも思わぬ消耗戦に焦ったか、控えめに言って心身の状態あまり良好とは思えない。世界の70kg級は現在全体のレベルが低下気味で、かつ五輪翌年に当たる昨年はライバルたちが軒並みハイコンディションとは言えない状態にあった。ここで終わってしまっては、新井の世界選手権優勝という偉業は歴史的に「狭間」の王者に過ぎぬという評価に押し込められかねない。

新井は皇后盃後の強化委員会でこの階級2枠目の世界選手権代表に選出された。バクー世界選手権はキャリア上の正念場である。奮起を期待したい。

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70kg級入賞者。優勝の大野と2位の新井

【入賞者】
優勝:大野陽子(コマツ)
準優勝:新井千鶴(三井住友海上)

【バクー世界選手権代表】
大野陽子(コマツ)
新井千鶴(三井住友海上) ※2枠目として皇后盃後に決定

大野陽子選手のコメント
「1回戦から一試合一試合自分の柔道を出し切ることだけを考えて戦いました。新井選手とは何回も試合しているので、いま自分でできる試合をしようと思って戦いました。決勝の一本背負投は狙っていたわけではなく、身体が自然に動きました。バクー世界選手権で金メダルをとり、東京につなげたいと思います」

新井千鶴選手のコメント
「いつも勢いで負けていたので、先に行く気持ちを持って戦った。それは良かったと思うし、あの技は十分わかっていたが、それでもやられてしまった。世界一になるというのは、日本で勝ってこそ。2回負けているので、これでは・・・。(選抜まで)いろいろなことに挑戦しようとしていて、決して悪い感じではなかった。あとはそれを出すだけと思っていたのですが、それでも勝ち切れないのが今の自分の力なのかなと思います。」

【1回戦】
新井千鶴(三井住友海上)〇GS技有・大内刈(GS3:52)△朝飛七海(桐蔭横浜大1年)
田中志歩(環太平洋大2年)〇反則[指導3](3:48)△前田奈恵子(JR東日本)
大野陽子(コマツ)〇崩上四方固(1:11)△柿澤史歩(三井住友海上)
新添左季(山梨学院大4年)〇GS技有・内股巻込(GS1:54)△宇野友紀子(JR東日本)

【準決勝】
新井千鶴(三井住友海上)〇縦四方固(3:01)△田中志歩(環太平洋大2年)
大野陽子(コマツ)〇優勢[技有・大外返]△新添左季(山梨学院大4年)

【決勝】
大野陽子(コマツ)〇一本背負投(1:31)△新井千鶴(三井住友海上)

■ 78㎏級 髙山莉加がシード3選手をオール一本勝ちで撃破、濵田尚里とのパワー対決も合技「一本」で制す
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78kg級1回戦、濵田尚里が高橋ルイの体を巧みに制して抑え込む

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1回戦、高山莉加が梅木真美から反時計回りの浮腰で「技有」

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準決勝、濵田尚里が和田梨乃子を横四方固で抑え込む

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準決勝、高山が佐藤瑠香を縦四方固で抑え込む

【決勝まで】

第1シードに昨年のグランドスラム東京優勝の濵田尚里(自衛隊体育学校)、第2シードに2月のグランドスラム・デュッセルドルフ優勝の佐藤瑠香(コマツ)、第3シードにブダペスト世界選手権2位の梅木真実(ALSOK)と実績十分の階級トップ3が配され、さらにグランドスラム・エカテリンブルグでマイラ・アギアール(ブラジル)を倒して優勝ともっか絶好調の髙山莉加(三井住友海上)が加わってこの階級は大激戦。

まず1回戦。濱田がかつては階級のトップ争いの一角を担った高橋ルイ(ヤックス)をわずか54秒横四方固「一本」で下すと、佐藤も鈴木伊織(環太平洋大3年)を圧倒しGS56秒で3つめの「指導」を奪って快勝。

初戦で顔を合わせることになった髙山ともと世界選手権金メダリスト・梅木の試合は、高山が圧勝。ケンカ四つの梅木を下からの腕挫十字固、右小内刈、右内股にケンケンの大内刈と圧倒、抗した梅木の左大外刈はタイミングよく右小内刈に切り返し、続いての左小内刈も奥襟を掴んで振り返してと一方的な試合。体の力で完全に負けている印象の梅木は腹をくくって左内股で勝負に出るが高山動ぜず右の浮腰で振り投げて「技有」、そのまま横四方固に抑え込んで一本勝ち。結果からディティールに至るまで高山のパワーが染みわたり、梅木にはなす術がなかった。国際大会での不出来から僅かな復活の可能性に掛けた梅木をまっこうから叩き伏せた、高山の強さが際立つ一番だった。

残る1試合は、今春大成高校を卒業して社会人となった和田梨乃子(三井住友海上)が、学生チャンピオンの泉真生(山梨学院大4年)を「指導3」の反則で破って準決勝進出を果たした。

準決勝はまず濵田がまたもや抜群の強さを発揮。もっか急成長中の和田をまったく寄せ付けず、寝技を警戒する相手の立ち際に隅返に滑り込んで「技有」を奪うとそのまま横四方固に抑えて合技「一本」の快勝。

準決勝もう1試合は髙山が世界選手権出場4回、昨年も日本代表を務めた佐藤瑠香と激突。高山が佐藤を振り回し、そのまま引込返を狙う形で腕をロックすると佐藤はそのまま無造作に立ち上がる判断ミス。寝姿勢から立ち姿勢の攻防が認められる新ルールに佐藤が想定した「待て」のタイミングが噛み合わなかったか、高山労せず巻き込みに連絡して転がし、上から腕緘状に佐藤の腕を完全ロック。そのまま巧みに体を捌いて横四方固、縦四方固と繋いで「一本」に辿り着いた。パワーが売りで、かつ毎年上半期は凄まじい試合を披露する佐藤にまったく柔道をさせぬままの一方的な試合。これまた高山の強さ際立つ、迫力の一番だった。

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決勝、開始早々に高山が濱田の大外刈を返して「技有」

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高山続いて右大外刈

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濵田必死にこらえるが「技有」で決着

【決勝】
髙山莉加(三井住友海上)〇合技(大外返・大外刈)(1:46)△濵田尚里(自衛隊体育学校)

濵田、髙山ともに右組みの相四つ。開始早々、気迫を前面に押し出す濵田が場外際に押し込みながら右大外刈に飛び込むと、髙山は後ろに下がりながらもとっさに濵田の右腕を抱え込んで反時計回りに身体を捌く。払腰様に仕掛けたこの大外返見事に決まって「技有」、ここまでの試合時間僅か9秒。

ビハインドの濵田は怒気を発して立ち技、さらには寝技で激しく攻め込むも、髙山しっかりと防御し「待て」。国内国外問わず「まともに入りさえすれば誰でも吹っ飛ばす」立ち技、「寝れば必ず極め切る」寝技と、パワーをテコに「一本」を量産した濱田が、まさしくその長所であるパワーと寝技で高山に弾き返されてしまった印象。

再開後、濵田が組み手を組み変えようと腰を引いて身体を起こしたところに、高山がタイミング良く右大外刈に入れば、濵田は必死に身体を捻るも「技有」。1分46秒合技「一本」で試合は決着、髙山が階級トップ3全員に一本勝ちを果たすという素晴らしい内容で見事優勝を果たした。

今大会は、とにかく髙山の出来の良さに尽きる。所属の三井住友海上の関係者が「あんな髙山見たことない」と驚きの表情を見せたほど、この日の強さは際立っていた。所属で稲森奈見、児玉ひかるら重量級の猛者と組み合い続けることで培われてきた地力がいよいよわかりやすい形で発揮されて来たという印象。「一本」を取れる技があることも非常な魅力だ。

長年梅木、佐藤ら同じ顔ぶれの世界選手権常連が引っ張って来たこの階級だが、濵田の本格台頭で楔が打たれた勢力図は高山の急成長でさらに一段変化。この2人が決勝で演じた「怪物対決」とでも呼ぶべき、日本人離れしたパワフルな試合は日本の78kg級に新時代到来を思わせるものだった。ケイラ・ハリソン(アメリカ・引退)が引っ張った78kg級の「パワーの時代」のインパクトが、時間を掛けてついに日本に到達したとの感すらあり。


バクー世界選手権の代表には、今期の国際大会の成績から濵田尚里が選抜された。

東京五輪を争う世代でもっとも成績を残しているのは世界選手権の金メダリスト梅木真美、世界大会に派遣され続けているのは佐藤瑠香だが、現時点で国内の序列最上位を争うのは濱田と高山。この階級は激戦が続く。まずは濱田が念願の世界選手権という大舞台でどんな戦いを見せてくれるのか、注目である。

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78kg級入賞者。優勝の高山と2位の濱田。

【入賞者】
優勝:髙山莉加(三井住友海上)
準優勝:濵田尚里(自衛隊体育学校)

【ブダペスト世界選手権代表】
濵田尚里(自衛隊体育学校)

髙山莉加選手のコメント
「いつもどんな時も応援してくださる会社の応援団の気迫に負けないように、気迫を持って、身体が動くままに戦いました。(世界選手権代表に関しては?)私はいつでも準備できているので、宜しくお願いします」

濵田尚里選手のコメント
「試合を迎えるまでは決して良い感覚ではなく、それでも1回戦と準決勝を戦って『良いな』という実感はあった。相手の技出しが早いので先に攻めていこうとは思っていたが、残念。(高山は)何回も戦っている相手で、そのたびに『強くなっているな』と感じていた。1つ1つの試合を、大切にして世界選手権もしっかり戦っていきたい」

【1回戦】
濵田尚里(自衛隊体育学校)〇横四方固(0:54)△髙橋ルイ(ヤックス)
和田梨乃子(三井住友海上)〇反則[指導3](2:47)△泉真生(山梨学院大4年)
佐藤瑠香(コマツ)〇GS反則[指導3](GS0:56)△鈴木伊織(環太平洋大3年)
髙山莉加(三井住友海上)〇合技[浮腰・横四方固](3:35)△梅木真美(ALSOK)

【準決勝】
濵田尚里(自衛隊体育学校)〇合技[隅返・横四方固](2:04)△和田梨乃子(三井住友海上)
髙山莉加(三井住友海上)〇縦四方固(0:59)△佐藤瑠香(コマツ)

【決勝】
髙山莉加(三井住友海上)〇合技[大外返・大外刈](1:46)△濵田尚里(自衛隊体育学校)

■ 78㎏超級 ホープ素根輝が朝比奈沙羅に初勝利、大会連覇を達成
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1回戦、朝比奈沙羅が児玉ひかるから払巻込「技有」

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準決勝、素根輝が稲森奈見から大内刈「一本」

【決勝まで】

最重量級の選手にとってこの選抜体重別は、世界選手権の最終選考会第一弾(第四次選考)。続く22日の皇后盃全日本女子選手権と合わせてこの時点でまだ2つの選考会が控えているわけだが、現行の選考基準に照らし合わすと、昨年ブダペスト世界選手権で準優勝、世界無差別選手権で優勝を果たし、さらに12月のグランドスラム東京、今年2月のグランドスラム・デュッセルドルフでも連勝している朝比奈沙羅(パーク24)の世界選手権代表は既にほぼ確定と思われる状況。今大会の見どころは、朝比奈を猛追するホープ・素根輝(南筑高校3年)が、どのような試合を見せるのか。そして朝比奈が素根の挑戦を、どのように受け止めるのかにある。

第1シードの朝比奈は、初戦の児玉ひかる(三井住友海上)に、なかなか効果的な攻めが見せられず苦戦するもGS延長戦1分0秒、一瞬の隙をついた払巻込で「技有」を奪って準決勝に進む。

迎えた準決勝では昨年の皇后盃で11分45秒の大激戦(大内刈「有効」で朝比奈が勝利)を演じた山本沙羅(福井県スポーツ協会)と再戦。互いに大技を繰り出し、返しあった前回対戦とは一転両者は慎重、互いに攻めあぐね、同時に「指導」を宣告される消耗展開となったが、結局、最後は山本にのみ偽装的攻撃の「指導」が与えられて「指導3」で決着。結果としては順当に、朝比奈が決勝に進むことになった。

反対側のブロックからは地元・福岡で連覇を狙う素根が決勝へ進出。第2シードで大会をスタートした素根は1回戦で冨田若春(コマツ)とマッチアップ。「指導3」の反則でこの試合を勝ちあがると、準決勝では稲森奈見(三井住友海上)をGS延長戦の末、下から釣り手を突き上げての豪快な大内刈で屠り「一本」。勢いを背に、朝比奈の待つ決勝へと駒を進めた。

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決勝、序盤は朝比奈が圧力と場外際の攻撃でスコアリード

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GS延長戦2分半を過ぎたところから素根が反撃開始。立て続けに2つの「指導」を得てタイスコアに持ちこむ。

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終了直前、素根が左大内刈で朝比奈を大きく崩す

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【決勝】
素根輝(南筑高3年)〇GS反則[指導3](GS7:56)△朝比奈沙羅(パーク24)

順当に決勝まで進んだ両者。前戦のグランドスラム東京決勝では、朝比奈が素根の「指導3」反則負けで優勝しており、試合展開消極的なるもまだまだ力の差が感じされる内容だった。果たして、この決勝はどんな展開になるのか――。

朝比奈が右、素根が左組みのケンカ四つ。朝比奈は身長174センチ体重128キロ、素根162センチ108キロ。

体格に優る朝比奈が両襟を掴んで右出足払を放つと、素根もすぐさま左小外掛で応戦。朝比奈が両襟を掴みながら圧力を掛けると、素根が下がり気味に場外に出てしまい1分17秒「指導」。朝比奈が右払腰、支釣込足と繰り出せば、素根も左大内刈、右一本背負投などで対抗、しかしお互いにポイントに繋がるほどの決定的な技はなくあっという間に本戦4分が終了。試合はGS延長戦へ。

GS2分28秒、素根が左払巻込を放った際、引き手が切れて自滅する形になり「偽装的攻撃」との判断で素根にふたつ目の「指導」。試合展開自体は拮抗も、素根はスコア上後がなくなってしまう。今回もこのまま3つ目の「指導」を取られて反則負けになるかと思われる展開だが、ここから練習量豊富な素根のスタミナがものをいう。

試合時間が6分半を超えると朝比奈は手数が減り、反応も鈍り始める。ここで素根が左大内刈、左体落、さらに左小内刈と果敢に攻め込むと、様相は徐々に変化。朝比奈は時折出足払や右払腰で形上反撃するだけのガス欠状態に陥る。朝比奈はGS3分47秒に1つ目の「指導」が与えられた後もなかなか技を出すことができず、素根の攻撃の合間にときどき力ない技を繰り出すのみ。技の止まった朝比奈に、GS7分0秒には2つ目の「指導」。

ついにタイスコアに持ち込んだ素根は以後も思い切った技を仕掛け続け、左大内刈で朝比奈が前に崩れ落ちるシーンも創出。素根がここぞとばかりに左背負投、右一本背負投と思い切って技をまとめると、ついに朝比奈に3つ目の「指導」が与えられて試合終了。総試合時間11分56秒にわたる消耗戦の末、素根が初めて朝比奈に勝利し大会連覇を成し遂げた。

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連覇達成、初めてライバル朝比奈を下した素根は涙を見せる。

グランドスラム東京での対戦からわずか4カ月で、大きな成長を見せた素根。「制服の上着のサイズが合わなくなった」と言うほど、腕、肩回りに筋肉がつき、足腰の安定感もさらに増した。コメントを聞く限り自身の柔道が客観的に見えており、課題設定も明確。決して恵まれた練習環境にあるとは思えないが、練習の量と質、そして周囲の人たちの協力で、着実に力をつけていることがわかる。第一人者の称号はまだ朝比奈が持つと言えるが、今回の初勝利によって本人たちの中では意識が変わり始めているはず。素根に残るは海外での実績のみ。東京五輪に向け、2人の戦いはますます熾烈を極めることになりそうだ。

朝比奈は悪い癖が顔を出した。会場は完全に素根の味方だったが、これは地元という事情や、常に年若のヒーローを要求し続ける判官びいきの群集心理のみにその因あらず。体格差を押して具体的に投げにいった素根と、前戦の内容を踏襲して「指導」奪取でゲームとしての勝利を得てしまおうとした朝比奈のどちらが柔道ファンの期待の依り代足りえたかという、戦う姿勢の差と考える。世界選手権決勝で半ば勝利を手にしながら審判の「指導」を待って大魚を逸した朝比奈、以後は覚悟ある試合を見せ続けていたが今回は「守る」立場が悪癖を呼んだか。不完全燃焼の一番だった。

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78kg超級入賞者。優勝の素根と2位の朝比奈。

【入賞者】
優勝:素根輝(南筑高3年)
準優勝:朝比奈沙羅(パーク24)


素根輝選手のコメント
「朝比奈さんとは何回か対戦していましたけど、ずっと負けていたので、今回は全体に勝ってやろうという気持ちで試合に臨みました」

【1回戦】
朝比奈沙羅(パーク24)〇GS技有・払巻込(GS1:00)△児玉ひかる(三井住友海上)
山本沙羅(福井県スポーツ協会)〇合技[大外刈・横四方固](1:17)△井上あかり(環太平洋大4年)】
素根輝(南筑高3年)〇GS反則[指導3]GS0:48)△冨田若春(コマツ)
稲森奈見(三井住友海上)〇GS反則[指導3](GS2:30)△井上愛美(JR九州)

【準決勝】
朝比奈沙羅(パーク24)〇反則[指導3](3:15)△山本沙羅(福井県スポーツ協会)
素根輝(南筑高3年)〇GS大内刈(GS2:37)△稲森奈見(三井住友海上)

【決勝】
素根輝(南筑高3年)〇GS反則[指導3](GS7:56)△朝比奈沙羅(パーク24)

※ eJudoメルマガ版5月18日掲載記事より転載・編集しています。

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