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夙川学院が連覇達成、戦力充実の帝京の挑戦を団結力の高さで跳ね除ける・第40回全国高等学校柔道選手権女子団体試合マッチレポート②準決勝~決勝

(2018年5月1日)

※ eJudoメルマガ版5月1日掲載記事より転載・編集しています。
夙川学院が連覇達成、戦力充実の帝京の挑戦を団結力の高さで跳ね除ける
第40回全国高等学校柔道選手権女子団体試合マッチレポート②準決勝~決勝
■ 準決勝
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先鋒戦、村川実葉瑠が和田君華を攻める

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中堅金知秀は一方的に攻撃を積んで3つの「指導」を確保。

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吉峰芙母絵と佐藤陽子による大将戦

[第1試合]
夙川学院高(兵庫) 2-0 大成高(愛知)
(先)村川実葉瑠○優勢[僅差]△和田君華
(中)金知秀○反則[指導3](2:15)△尾﨑美玲
(大)吉峰芙母絵×引分×佐藤陽子

準決勝第1試合は夙川学院が快勝。この試合最大のポイントと目された先鋒戦の48kg級対決で、村川実葉瑠が和田君華から2つの「指導」を得て勝利。中堅金知秀も汗を掻くこと厭わず実直に技を入れ続けて3つの「指導」を確保し、この時点で早くもチームの勝利を確定させた。

大将戦は吉峰芙母絵が佐藤陽子との大型対決を手堅く引き分けて終了。結果、最終スコア2-0で夙川学院が2年連続の決勝進出を決めることとなった。

5つの「指導」をもぎ取って結果的に大差をつけたこの試合は夙川学院この日の布陣の真骨頂。スター阿部詩を欠き、ポイントゲッター金を含めた全員が決して技が切れるタイプではないが、3戦一貫して粘り強く、集中力高く攻め続けた。

一方の大成はこちらも接戦の連続をしぶとく、泥臭く戦って勝ち残って来たチームだがついにここで力尽きた。彼我の戦力差はもちろんだが、本来1つか2つに抑えるべき「ここ一番」の試合を既に幾度もこなして精神的なリソースが削られ切っていた印象あり。とはいえ今代の戦力構成からすればベスト4進出は好結果。むしろ力を出し切った、健闘を称えられるべき大会であった。

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大激戦のDブロックを制して準決勝に勝ち残った創志学園高の面々。

[第2試合]
帝京高(東京) - 創志学園高(岡山)
(先)大森生純 - 下地久美子
(中)三谷桜 - 浦明澄
(大)髙橋瑠璃 - 古賀ひより

ラインナップされた3戦6人のうち、個人戦の全国チャンピオンが実に3人という豪華対決。帝京の先鋒大森生純(52kg級)、創志学園の中堅浦明澄(63kg級)、帝京の大将高橋瑠璃(無差別)、前日日本一の栄冠をつかんだばかりのこの3人がしっかり仕事を果たすか、そしてこの3人を止めることが出来るか。非常に争点はっきりした好取組。

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中堅戦、浦明澄が三谷桜から袖釣込腰「技有」

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高橋瑠璃が古賀ひよりを攻める

先鋒戦は右相四つ。帝京・大森生純が鋭い右大内刈を軸に下地久美子を攻めこむ。大森の攻勢がいったん止んだ57秒双方に「取り組まない」咎による「指導」が与えられるが、1分28秒大森の右大内刈みごと炸裂「一本」。

中堅戦は左相四つ。リードした帝京はなんとか三谷桜が粘りたいところだが、浦は少しでも希望を持たせてはならじと三谷の気合いを根こそぎ刈り取る速攻、開始13秒の左袖釣込腰「技有」。浦は以降も袖釣込腰、左大外刈と猛攻、56秒には三谷に消極的との咎で「指導」1つが宣告される。

状況は浦の圧倒的優勢だが、三谷それでもなんとか一本負けだけは避けんと必死の粘り。中盤戦を失点なく凌ぎ、1分55秒には浦の側に袖を絞り込んだ咎で「指導」が与えられる。抱えるバックグランドからすれば、精神的に追い詰められたのはどちらかというと浦の側。

どうしても「一本」が欲しい浦は加速、2分16秒には三谷を左小内刈に捉える決定的場面が訪れるがこれも「技有」に留まる。ここの時点で残る時間は44秒。以降も浦が猛攻、必死に凌ぐ三谷という構図は最後まで変わらずついにタイムアップ。この試合は浦が「技有」優勢で勝利、スコアは1-1、内容差で帝京のリードに変わる。

大将戦は帝京・高橋瑠璃が左、57kg級の創志学園・古賀ひよりが右組みのケンカ四つ。古賀は引き分けでは足りず勝利が必須の状況だが、高橋は隙を見せずに両足をしっかり地につけて左体落を軸に攻める。30秒過ぎにはこの技を3連発して優位確定、古賀が刃を入れるチャンスはまさしく僅少。

1分20秒を過ぎたところで高橋が左内股、これで古賀を大きく崩すと横四方固に抑え込む。古賀動けず「一本」。結果、最終スコア2-1で帝京が勝利を収めることとなった。

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準決勝第2試合は帝京の勝利に終わった。

帝京高(東京) 2-1 創志学園高(岡山)
(先)大森生純○大内刈(1:28)△下地久美子
(中)三谷桜△優勢[技有・袖釣込腰]○浦明澄
(大)髙橋瑠璃○横四方固(1:37)△古賀ひより

双方のポイントゲッターが仕事を果たした結果、ほぼ盤面から予想される力関係通りのシナリオ進行で帝京が勝利したという形の一番。帝京は大森、高橋の両チャンピオンがしっかり戦ったのみならず中堅三谷も健闘。決勝で待ち受ける夙川学院との決戦を前に良い形で締めた試合だった。殊勲者は、一撃でほぼ以後の盤面進行を確定させた大森。代表戦が「引き分け試合の再試合」であることと以後の人員配置を考えれば、創志学園は中堅戦開始の時点で実は勝利のシナリオがほぼなくなっていた。

というわけで創志学園はベスト4で力尽きたが、こちらも紛うことなき健闘。いよいよ全国上位の「常連」に完全定着したという印象だ。

結果決まった決勝カードは、

夙川学院高(兵庫) - 帝京高(東京)

となった。

■ 決勝
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決勝開始のコールを待つ夙川学院高のメンバー

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決勝に臨む帝京高の3名

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決勝のオーダー

連覇を狙う夙川学院はエースの52kg級・阿部詩を敢えて起用せず、それでも「十分優勝を狙う力がある」(松本純一郎監督)と果敢な挑戦。その言葉通りみごと決勝に勝ち残った。この日は2回戦で東北高(宮城)を2-0、3回戦で国分中央高(鹿児島)を2-0、準々決勝で桐蔭学園高)(神奈川)を2-0、そして準決勝で大成高(愛知)をこれも2-0で下しての決勝進出。中堅の個人戦57kg級の覇者金知秀を軸にしぶとく戦い続けてここまで無敗、12戦をこなして8勝0敗4分けという安定した戦いぶり。

一方の帝京高は前述の通り52kg級の大森生純に無差別の高橋瑠璃と団体戦レギュレーションそのままの階級2つで個人戦王者を抱える強力布陣。夙川学院が阿部を欠く状況にあってはもはや優勝候補の筆頭だ。この日は2回戦で広陵高(広島)を1-0、3回戦で宮崎日大高(宮崎)を3-0、準々決勝で沖縄尚学高(沖縄)を3-0、準決勝で創志学園高(岡山)を2-1それぞれで下して決勝進出。牽引車はここまで全試合一本勝ちの先鋒大森。王者2枚の保有という豪華な手駒をテコに初優勝を狙う。

オーダー順は下記。

夙川学院高(兵庫) - 帝京高(東京)
(先)村川実葉瑠 - 大森生純
(中)金知秀 - 三谷桜
(大)吉峰芙母絵 - 髙橋瑠璃

個人戦王者が3戦6人の中に3名、ポジションの重複はなし。この点準決勝第2試合と構図は相似である。双方の志向ははっきりしており、夙川学院はロースコアゲーム、一方の帝京は2点を確保しての寄り切りがそれぞれほとんど「それしかない」と言って良い勝利のシナリオ。

夙川学院としては先鋒枠と大将枠の失点を抑え、中堅・金の得点で勝ち抜けるに如くはなし。一方の帝京はこの中堅ポジションでのダメージを最小限に抑えて、先鋒枠と大将枠の得点で勝利を決めてしまいたい。

3ポジションしかない女子団体、ここまで両軍の「とりどころ」「しのぎどころ」がハッキリしている布陣であれば、盤面分析は各ポジションの戦力比較に踏み込むしかない。看板通りに考えれば適正階級で2ポジションのチャンピオンを擁する帝京が優位だが、実はこの「シナリオ」実現のハードルがより高いのはこの帝京の側。大森は52kg級の個人戦覇者だが、対峙する村川は48kg級の準優勝者。階級落ちとはいえ日本の女子軽量選手がいったいに相手の技を凌ぐ技術に秀でていること、村川が引き分けで良しと割り切って戦えるであろうこと、そしてなにより夙川学院の練れた組み手技術と先手攻撃の方法論の蓄積を考えればこれを抜くのは容易ではない。大将枠の高橋瑠璃に対峙するのも全日本カデ最重量級の覇者であり個人戦無差別3位の吉峰芙母絵という実力者、そして高橋は間違いなく強者ではあるがその保有武器は典型的な重量級選手の手札という範疇に収まり、この日の初戦で広陵・古賀早也香に引き分けを演じている通り、決して対重量選手戦において「抜群の取り味を誇る」というところまで方法論的、実力的に抜けているわけではない。しかも吉峰の方は決して技が切れるタイプではないが、こと対重量選手相手の「耐性」は抜群である。一方中堅枠で57kg級の覇者金にマッチアップする三谷は63kg級東京代表を務めるもののまだ1年生。個人戦では初戦敗退に終わっており、彼我の戦力差がもっとも大きいのは明らかにこの中堅枠。つまりは3戦通じてもっとも「1点奪取」の可能性が高いのは、他を大きく引き離してこの中堅枠、つまりは夙川学院の側だ。波乱なく順行運転で試合が進んだ場合もっとも可能性が高いシナリオは先鋒から順に引き分け、夙川学院の勝利、引き分け。ただしこの「引き分け」の2戦の勝利が夙川学園に転がりこむ可能性は低く、引き分け以外に考えられる次点シナリオは2戦とも帝京の勝利。ほぼ間違いない中堅枠における夙川学院の1点確保を土台に、これを挟んだ2戦のシナリオの「手繰り合い」が勝負のポイントということになる。

大森と高橋が個人戦王者の意地に掛けて抜くか、「阿部抜きでも勝つ」ことにまさしく一丸の村川と吉峰がこれを凌ぎ切るか。両軍の、そして選手おのおのの誇りと意地が交錯する決勝、いよいよ開始である。

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先鋒戦、開始早々大森生純が強烈な「腰絞め」で攻撃

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大森は引き手で袖を押し込み、大枠試合試合を支配し続ける

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必死に攻め返す村川実葉瑠

先鋒戦は夙川学院・村川実葉瑠、帝京・大森生純ともに右組みの相四つ。村川開始早々に袖を捕まえるなり打点高く右一本背負投を放って、やる気十分。しかし大森体捌き良く潰し、引き起こして「腰絞め」。村川が両手で肘を掴み離して耐えるがそのままガッチリ絞めあげる。しかし襟が顎に掛かっていた模様で「待て」。

この攻防で大森得意の寝勝負のプレッシャーが存分に掛かった印象、以後は時間を掛けさせんと袖を抑え、離れ、担ぎ潰れてとあらゆる手段で時間の消費を図る村川に対し、大森が引き手の袖を折り込んでは奥襟を叩き、圧を掛けて前に出るという構図。大枠試合を支配するのは大森、あとは具体的なスコアにこれを結実させられるか、村川が凌ぐかというところ。

1分6秒、村川に「取り組まない」咎で「指導」。大森は以後も右大内刈、村川の右一本背負投の掛け潰れを引き起こしての右大外刈に右小外刈とよく攻めるが、村川の粘りの前になかなか決定打が打てず。

村川は釣り手を絞り込まれてもそのまま右背負投を撃つリスクを冒して、必死に攻防の拮抗を維持。しかし、大森の釣り手の袖を両手で握り込み、そのまま右背負投に掛け潰れた2分16秒、袖口を絞り込んだ咎で村川に「指導2」。一気に状況が煮詰まる。

あと1つの「指導」でミッション完遂の大森は加速。引き手で袖を確保すると得意の右大内刈一撃、村川が大きく浮いて伏せるとそのまま横三角を狙う。しかし村川頭をロックされたまま体を決して伸ばさず、半ば中腰で耐えきって「待て」。さらに担ぎ技と巻き込み技を断続的に積んで、大森にもう一段の攻めの機会を与えない。

残り13秒、村川持つなり右の巻き込みに潰れて試合を流し、さらに大森の奥襟襲来を左で受け止め、袖を掴むと右一本背負投。この攻防が終息したところで終了ブザーが鳴り響き、先鋒戦は終了。「指導2」を得た帝京・大森が僅差の優勢でこの試合に勝利、しかし1階級上の王者相手にあくまで一本勝ちを許さなかった村川が、ひとつチームの勝利に歩を進めさせた形の試合であった。

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中堅戦、金知秀が三谷桜から大内刈「技有」

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金は一本背負投で2つ目の「技有」を追加

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金の猛攻を三谷が耐え続ける

続く中堅戦は夙川学院・金知秀、帝京・三谷桜ともに左組みの相四つ。開始するなり金敢えて右で組み、左手で袖を絞り込む。得意の袖釣込腰で早期決着を期していることは明白、相当な気合い。ここから流れた形で金が左一本背負投、さらに左の大外巻込。逃れた三谷が腕緘の形で引込返を狙ったところで「待て」。

金は気合十分、44秒には左一本背負投フェイントの左大内刈一撃。完全に背負投方向を向いたまま放った強烈な一発に三谷一瞬で後方に転がり「技有」。ここを勝負どころと踏んだ帝京ベンチからは「二つ持たないからだ、二つ持て!」と必死の指示が繰り出される。

金は片襟、前襟と釣り手の位置を変えながら猛攻、内巻込に外巻込と放って加速すると1分42秒には再び一本背負投フェイントの左一本背負投。三谷吹っ飛んだがなんとか腹ばいで着地、一時宣告された「技有」は取り消しとなる。

三谷に1つめの「指導」が宣告された直後、2分9秒に金今度は左一本背負投。「打点の高い内巻込」という体で腕を抱え込んだこの技で三谷を肩から畳に叩きつけて2つ目の「技有」を得る。

金の圧倒的優勢だが、しかし大将に高橋瑠璃が控える状況の三谷は心折れず、一本勝ちだけは避けようと必死の進退。組んでは金の担ぎと内股の放列を凌ぎ続け、残り14秒で2つ目の「指導」を失ったものの、このままタイムアップまで畳に居座る殊勲。

「技有」優勢で勝利し内容差の逆転を果たした金、決して「一本」だけは許さず最終戦に襷を繋いだ三谷、双方が仕事を半ば以上果たしたという形でこの試合は終了。試合は1-1、内容差で夙川学院リードで大将対決へと引き継がれる。

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大将戦、吉峰芙母絵は脇、あるいは片襟を巧みについて間合いを確保

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吉峰は思い切った左払腰を掛け続け、これを持て余した高橋瑠璃は山場を作れず

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大将戦は夙川学院・吉峰芙母絵、帝京・高橋瑠璃ともに左組みの相四つ。吉峰は引き手で襟を突いてしっかり距離を取る作戦、一方の高橋は引き手でまずはしっかり袖の確保を狙い、ここから釣り手で奥襟を叩くというオーソドックス手順を志向。

19秒、吉峰が釣り手の肘を上げて左払腰。立ったまま反転して掛け、拮抗ののちに戻り、ここで高橋の圧に潰される。巻き込み潰れではなく「掛け切る」見せ方に長けたこの仕掛けにこの試合の様相端的、吉峰は引き手で襟を突いて高橋の奥襟を剥がしてはこの技を掛け続け、巧みに攻勢を演出。弱気に巻き込み潰れれば審判の印象が悪いだけではなく高橋の隅落の好餌であるが、立って掛け続ければ保有技がオーソドックスな高橋には後の先の技がなく、かつ審判にはしっかり吉峰の攻勢印象が刻まれる。

高橋は左大外刈に左払腰と散発ながらも思い切って取り味のある技を入れるが、その都度返し矢で放たれるこの「立ったまま体を捨てず、掛けの形を続ける」吉峰の腹を括った払腰を捌きあぐねたことで、「指導」に至るような攻勢権の確保にまったく手が届かない。技をまとめることがほとんどできない状況。

「思い切り掛ける、潰れない」という極めて単純、しかし度胸は必要というこの技1つに、しかし明確な対処の手立てがないことで高橋の手が詰まる。吉峰はこの技で攻勢権を回復するとその都度しっかり引き手で脇を突いて距離を取り、着実に時間を消費。

クロージングを意識した吉峰に「取り組まない」咎による「指導」ひとつが宣告されるが、この時点で残り時間は僅か38秒。高橋は前進、手順を飛ばして釣り手で奥襟を叩くがこれを襟をしっかり突いてくる吉峰に切られると、焦ってしまったか左の巻き込みに潰れる悪手。吉峰しっかり時間を使い、タイムアップ。吉峰が引き分けをもぎ取った形で、最終スコアは1-1。内容差で夙川学院の優勝が決まった。

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優勝決定の瞬間、喜びに沸く夙川学院ベンチ

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殊勲の吉峰を村川と金が出迎える

夙川学院高(兵庫) ①-1 帝京高(東京)
(先)村川実葉瑠△優勢[僅差]○大森生純
(中)金知秀○優勢[技有・大内刈]△三谷桜
(大)吉峰芙母絵×引分×髙橋瑠璃

戦略通りのロースコアゲームで夙川学院の完勝。先鋒戦と大将戦は投げの決まる可能性少なき「指導」の取り合いという客観的には「わかりにくい」と評されても仕方のない内容であったが、最終関門である無差別王者・高橋の存在を軸に非常に緊張感ある、戦術的興味に溢れた試合。村川が粘り、金が取り、そして吉峰が粘るという夙川学院のシナリオをベースに進んだ、率直に言って非常に面白い3戦であった。吉峰の頑張りはもちろん、この選手がもっとも得意とする「粘る、耐える」という職掌に目的を絞らせた、前衛2枚の戦いぶりも大いに讃えられるべきだろう。自身が何をすべきかが選手にしっかり染み込んだ、そして阿部詩不在ゆえにその「仕事」がさらに明確になった、夙川学院の勝負に掛ける意識の高さとチームワークの良さが存分に感じられた決勝であった。

というわけで選手全員が使命感に満ち溢れた夙川学院の辛勝、巨大戦力を誇った帝京の惜敗という形で第40回大会女子団体戦は幕。

ここでいったん試合評を終えて、この決勝を起点に女子重量級のありように思いを巡らせてみたい。この決勝は間違いなく面白い試合であった。ただし「互いが凌ぐことに長けるゆえになかなか勝負がつかない軽量級」「保有武器がオーソドックスに過ぎ、対重量級戦に意外に取り味が発揮できない重量級」という日本の若年世代の女子柔道の弱点2つ、特に後者が強く感じられた試合でもあった。

ひとつ思考を飛躍させて問題を提起したい。ちょっと唐突に思われるかもしれないが、入り口は国際大会。eJudo編集部内では常々、国際大会をウォッチする中で「なぜ女子重量選手は捨身技に舵を切らないのか」という疑問が語られている。自身の体重を生かせ、また前技に潰れる選手が多く、かつ大型の割に足元が危うく「弾みがつくと飛んでいく」体型の選手が多い国際の女子重量級の中では、例えば横車や浮技、隅返の保有は決定的な武器になるはずだが、意外にこれに取り組む選手が少ない。とはいえ女子重量選手いったいの適性や周囲の状況的にこの手札の保有が優位につながることは明らかで、古くはイダリス・オルティス(キューバ)、近年ではニヘル・シェイキロウホウ(チュニジア)らこの技術を習得した選手が急激に地位を上げるという現象が度々みられる。効果的であることが確実なのに、取り組む選手が非常に少ないのだ。

ここで、女子重量選手はいったいに技術習得への貪欲さに欠けるのでは、という疑問がひとつ生まれる。スカウトに熱心な大学に大量に入った有望女子重量選手が、保有技を増やさぬまま、高校時代とスタイルを変えぬまま狭い世界の序列を受け入れて伸び切らぬままキャリアを終えるさま(頻発していると観察する)にはこれを感じぬでもないが、問題はそれ以前にあるのでは、とも考えられる。ひとつ理由として思いつくのは、女子の重量選手の数が決定的に少ないこと。各地に点在する有望女子選手は、対重量級戦を突き詰めて考えられるほどの環境に恵まれていない。男子とは草の根から競技者構成が違うわけで、であればちょっと飛躍するかもしれないが、例えば若年世代からの集合的な活動、定期的に海外選手と触れ合う機会を持つような活動を考えるべきではないだろうか。点在する強豪校に強化拠点を任せるという方法のみでは、絶対数が圧倒的に少ない重量級の育成には限界があると感じる。

もう1つの仮説は、希少種であるがゆえに女子重量選手はまず何をおいても団体戦の戦力として計算され、大きい選手を投げることよりも自分より小さい選手を追い詰める方法論の習得に時間を割かれているのではないか、選手としての可能性を広げるべき貴重な時間をそこに消費してしまっているのではないかということだ。
(とはいえ、「敢えて伸びしろを残して大きい柔道のみで大学カテゴリに送り出した」はずの重量選手がその仕組まれたはずの空白域になんら新しい技術を盛らぬままキャリアを終えることはまた別の問題。これは自己責任、あるいは以降のカテゴリの問題だ。)
(捨身技の習得に関していえば、女子重量選手がいったいに大人しく、怖がりであるということも要因として見逃せない。そして一般論として「誰もがリスクをとらない世界」では結果的に守る側が有利になっていく。女子重量選手の試合に「この世界」を感じるファンは多いのではないか)

これは一般論であり、この試合の大将枠で戦った2人に向けられた評ではない。あくまで、この試合をきっかけに巡らせた思考をたまたまこの場で書き連ねているに過ぎない。とはいえ、吉峰の「思い切り掛けて、戻らず捨てずに立ち続ける」様は、シニアの国際大会であれば例えば横車の好餌ではと感じるし、そしてほぼこの方法一本槍で状況を突破せんとした相手に対して高校日本一の選手が手立てがなかった、という状況は、日常国際大会を見続けた感覚からはやはり違和感があった。

ここでひとつ、あらためて良策と感じられるのが、今大会から採用された「代表戦は引き分け試合の再試合」レギュレーション。各チームには総合的にチームを作らねば、というミッションとともに、まさしく「大型のエースが、大型相手から得点する」方法論の錬磨が求められる。以降の状況の変化に期待したい。

話を戻して。帝京は3ポジションのうち2つで日本一の選手を擁するという絶好の代を迎えながら大旗に手が届かず。昨夏のインターハイでは素晴らしい采配で優勝候補南筑を破り2位入賞、そして今回は強豪2選手を擁して決勝進出といよいよ機は熟したとも思われたが、大魚を逸した大会であった。

「個」に責任を求めることは難しい試合展開。が、高橋に関していえば、小、中、高と一貫して世代のトップに伍して戦って来た今代重量級の「顔」の1人であるこの選手が、控えめに言ってやや評価を落とした一番であるというところまでは言えるだろう。確かに吉峰は頑張った。高校王者相手にここまで勇を鼓して「潰れない技」で勝負したこの選手の覚悟と奮闘が大将戦の勝敗帰趨における最大の要因であったことは疑いない。とはいえ、高橋の戦いぶりが王者として物足りないものであったことにも、異論を唱えるものは少ないだろう。繰り返すが、高橋は(素根輝の不出場という形ではあったが)この世代の無差別王者、高校日本一の選手である。チームメイト2人の必死の頑張りを受けて畳に上がったこの試合、「手が届く範囲」の平均値を超えるような攻め、体に眠るまだ見ぬ力を引っ張り出すような奥行きある闘いを見せて欲しかった。日本のトップ選手たちはこういった「バックグランドに対する感能力」をテコに、おのが眠れる能力を引っ張り出すことで成長を続けて来た。団体戦という日本特有の文化が、結果的に世界に誇るべき絶対的に強い「個」を生み出してきた所以である。このあたり、高橋が次のステージに進むための新たな課題になるのではないだろうか。

とまれ、優勝した夙川学院の戦いぶりは見事だった。純戦力的観点での総合力、そして敢えて阿部詩を外したゆえの団結力の高さと、戦術遂行力の高さ。夙川学園の戦いぶり、連覇の栄を得るにふさわしいものであったと評して、この稿を終えたい。


取材:eJudo編集部
文責:古田英毅
撮影:乾晋也、辺見真也、古賀恒夫

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優勝の夙川学院高

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準優勝の帝京高

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三位の大成高

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三位の創志学園高

【入賞者】
優 勝:夙川学院高(兵庫)
準優勝:帝京高(東京)
第三位:大成高(愛知)、 創志学園高(岡山)
第五位:桐蔭学園高(神奈川)、桐蔭学園高(神奈川)、沖縄尚学高(沖縄)、東海大静岡翔洋高(静岡)

最優秀選手:金知秀(夙川学院高)
優秀選手:村川実葉瑠(夙川学院高)、大森生純(帝京高)、浦明澄(創志学園高)、佐藤陽子(大成高)

夙川学院・松本純一郎監督のコメント
「今日は阿部がいないので、いつも以上に団結力を重視。皆で団結力を強くして戦いました。
連覇ということは考えずにひとつひとつの試合を勝ち抜く、その結果頂点に辿り着けた。選手が本当に素晴らしい活躍をしてくれましたし、それを支えてくれた親御さんたちに感謝の気持ちでいっぱいです。」

【準々決勝】

夙川学院高(兵庫) 2-0 桐蔭学園高(神奈川)
大成高(愛知) ①-1 敬愛高(福岡)
帝京高(東京) 3-0 沖縄尚学高(沖縄)
創志学園高(岡山) 1-0 東海大静岡翔洋高(静岡)

【準決勝】

夙川学院高(兵庫) 2-0 大成高(愛知)
帝京高(東京) 2-1 創志学園高(岡山)

【決勝】

夙川学院高(兵庫) ①-1 帝京高(東京)

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