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eJudo版・平成30年全日本柔道選手権予想座談会「全日本を語りつくす」(中)

(2018年4月27日)

※ eJudoメルマガ版4月27日掲載記事より転載・編集しています。
eJudo版・平成30年全日本柔道選手権予想座談会「全日本を語りつくす」(中)
二回戦
→平成30年全日本柔道選手権組み合わせ(全日本柔道連盟サイト)
→平成30年全日本柔道選手権大会公式サイト(講道館)

→全日本柔道選手権予想座談会「全日本を語りつくす」(上)
→全日本柔道選手権予想座談会「全日本を語りつくす」(下)

参加者:朝飛大、林毅、西森大
司会:古田英毅

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朝飛大
朝飛道場館長、慶應義塾大学師範。日本を代表する指導者であり、少年柔道指導の第一人者。自身も昭和60年大会に出場、世界選手権100kg級の覇者羽賀龍之介をはじめ多くの教え子を全日本選手権の場に送り込んでいる。

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林毅
もと「近代柔道」誌責任編集者。30年以上にわたって大会を直接取材し、全日本選手権プログラムの編集に20年以上携わっている。書籍「激闘の轍・全日本柔道選手権大会60年の歩み」では企画・編集を務めた。

得意の右相四つ、連覇狙う王子谷剛志の出だしに注目

古田 二巡目です。全員が登場するターンですね。まず第1シードの王子谷剛志選手と制野竜太郎選手。王子谷選手の出だしの一戦ですが。いかがでしょうか。

西森 勝敗はもう言うまでもないところだと思います。王子谷選手はこのぐらいの体重の選手を制するのが上手いですから。特に得意の相四つですし。

朝飛 逆に制野選手はケンカ四つは強いですけどね。背中を持ったらいい技出しますけど。疲れてくるともう王子谷選手がくっついて支釣込足で回して抑えるという感じではないでしょうか。しっかり相手を見てきますから。しかも制野選手は組み際にそこまで入ってきたりということもないと思いますので、彼にとってはやりやすいでしょう。

林 投げることが出来なくても、去年のように「指導」を重ねて反則で勝ちあがれるのが強みでもあります。

古田 では王子谷選手が、対右相四つの中型相手という得意のフィールドでどんな出だしを見せるかに注目ということで。選抜ではちょっと元気がなかったですので、「全日本」が得意な彼の滑り出しに期待しましょう。・・・続いて二回戦第2試合は近畿から西尾徹選手が出てきます。相手は仮想今泉雪太郎選手ということになっておりますが。いかがでしょう。

西森 西尾選手は経歴が藤猪(省太)先生と全く一緒なんですね。出身中学、高校が一緒という。まあ、西尾選手といったらなんといっても去年の体重別団体で太田彪雅選手を背負投できれいに投げたのが印象的で。重量級ですけど担ぎもありますし。力を伸ばしてきていますよね。

朝飛 地力ありますよね。強いですよ。寝技も上手くて、投げた後の処理もしっかり出来るので取りこぼしの少ない選手だと思いますね。どんな選手とやっても粘っこく戦えるという印象を受けます。

古田 左ですよね。西尾選手が勝ち上がっていくと左の担ぎタイプが王子谷選手とやることになるわけで、これは面白い。勝敗は西尾選手優位と思いますが、見どころとしてはいかがでしょう?

西森 西尾選手は学生体重別選手権と講道館杯、両方とも佐藤和哉選手に敗れているんですが、講道館杯では今泉選手と直接戦って肩固「一本」で勝っています。ですのでここは西尾選手の勝利という予測が妥当でしょう。西尾選手が次王子谷選手に挑戦するためにどういうスタートを切れるかというところでしょう。

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西森大
NHKスポーツ番組部ディレクター。業界では希代の柔道マニアとしても名高い。ドキュメンタリーの佳作・NHKスペシャル「日本柔道を救った男~石井慧 金メダルへの執念」を制作。現在は全日本柔道連盟広報委員も務める。

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司会 古田英毅
eJudo編集長。柔道六段。

業師・上川大樹の出だしは得意の「相四つ大型」

古田 では2回戦第3試合、上川大樹選手対上林山裕馬選手。全日本の好役者・上川選手の登場です。

西森 相四つでこういうちょっと大きい相手っていうのは。

林 得意だと思います。もっとも好きなタイプではないでしょうか。

西森 上林山選手はそんなに変わったことをする選手じゃないですから。お互い鷹揚に持ち合って間合いを気にしながら。

古田 一種全日本らしいクラシカルな、腰切りながら。

西森 そういう試合になる可能性が高いなと思います。

林 正面からの戦いを望みます。お互いの良い所を引っ張り出し合って、勝敗が決まるような試合をしてもらいたいですね。

朝飛 最近左の技もうまいですよね、上川選手は。ひょいっと左の大外刈で投げたりしますからね。本当に器用なんですよね。

古田 味が出てきました。西潟健太選手もそうですが、全日本で映える役者は、ベテランになると「味が出る」方向に進化しますね。そしてやっぱり上川選手の投げは全日本の花形です。東京予選でも、観客の視線の熱量が一段違うように感じました。期待しましょう。

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なかなか不調を脱せない飯田健太郎

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関東選手権では素晴らしい強さを見せた渡邉勇人

飯田健太郎vs渡邉勇人の「イケメン対決」は投げによる決着必至

古田 そしてここで飯田健太郎選手と渡邉勇人選手の対戦が組まれます。

西森 たぶん女性ファンも喜びますよね。

古田 イケメン対決(笑)

西森 やっぱり技の切れる二人だから、ここはもう「一本」で決まるのではないかと。

朝飛 飯田選手が思いっきり自分の技を表現すればいけるんですけどねえ。本当に今こわごわやってますよね、見てると。

古田 技一撃の威力は本当に魅力。東京選手権では復活の兆しが見えたかに思われたのですが。

朝飛 良かったですね。2回戦で素晴らしい内股を決めていました。

古田 担ぎも使ってきてますし。・・・先日国士舘高校にお邪魔したときに、岩渕公一先生に飯田選手の話を伺ったんです。現状の評として、例えば高校時代に丁寧にやっていた投げに至る「作り」がおろそかになっていることがある、天才だからすぐ覚えるし本当になんでも出来るけどすぐ忘れる、というのが一点。技の威力云々ではないと。もう1つは、出来ることが多いのにガチっともって跳腰内股で投げるような王道の形にこだわり過ぎている、現状に即して出来ることをもっと考えるべきだし、実際に階級のトップ選手はそこの思考量が段違いだと。本当はもっと具体的に伺ったのですが、このあたりで。東京予選ではそこでお聞きしたこともろもろがかなり払拭されていると感じた矢先の、選抜体重別での敗戦でした。

朝飛 今のお話で、思い当たるところがたくさんありますが、ひとつだけ。高校の時に組み手を、相手が警戒して組ませてくれないから非常に工夫してやっていた。相四つ相手に引き手でまず襟を持って、これをこう(実演。釣り手で相手の袖を一回抑える)してから引き手を袖に持ち直す。絶対に逃がさない。あっ、これは国士館高校でこうやれって言われていることをしっかりやっているなと思ったんだけれど、大学に入ってからは、釣り手から持って簡単にやる場面を見るようになった。組むまでの前段階のことをやらなくなってしまっているんですね。やっぱり強い技があるがゆえに、一発で持っていこうとして無意識にそうなってしまっているんでしょうけど、いまおっしゃった「作り」の部分の問題はそのあたりにも見えました。

古田 この対戦は技による決着が濃厚。ケンカ四つなんですよね。渡邉選手が一発やりそうな気もします。

朝飛 大好きなタイプだと思うんですよね、渡邉選手が。

西森 そんなに飯田選手が組み手が厳しいタイプじゃないから、渡邉選手が動くスペースを与えてしまうのではないかと。

朝飛 そう。スペースが出来ちゃうと思うんですよね。

西森 ぱっと担ぐの上手いですからね。

古田 その形だと斜めからの大外落もあります。

林 狙っていると思います。一番自分を引き立たせる相手とやれるとすら、思っているかもしれません。

古田 階級別では佐々木健志選手と藤原崇太郎選手のアピールを許してしましたからね。勝敗自体は、体重、実績を考慮して便宜上飯田選手としておくべきなんでしょうね。その上で、

西森 投げによる決着必至、渡邉選手の戦いぶりに期待と。

小川雄勢の立ち上がりに注目、寺尾拓真が持ち前の「一発」で一刀浴びせるか

古田 次戦は、小川雄勢選手と寺尾拓真選手の試合です。

西森 寺尾選手と言えば。去年の100キロ級の全日本学生3位なんですけど。それより印象に残るのはなんと言っても高校時代、福岡インターハイ準決勝で、国士館の田崎健祐選手に「有効」取られて、最後抱きついて吹っ飛ばして逆転勝ちした。

古田 近年のインターハイ団体戦でもっとも沸いたゲームだったかもしれません。

西森 やっぱり基本的に接近戦の選手なので、抱きついていって一発勝負を狙ってくるんじゃないかと思いますね。

古田 逆に小川選手に勝つにはそれしかないですよね。

西森 長時間やったら絶対にスタミナで持っていかれてしまいますから。一か八かで。

林 小川選手も勝負するこれぞという技がある訳ではないですからね。

西森 小川選手に関して言うと決め技がないという課題はあるにせよ、着実に勝って結果を出せるようになって来ています。本人曰く去年の団体戦で負けたのが自分のなかの気持ちの変化に繋がっているというのは、言っています。

林 明治大で練習しているんですよね。本当にもう夕方の練習しかしてないのでしょうか?

西森 朝に走っています。これはもう小学校時代からずっと走っているそうです。

林 インタビューでは、朝は練習していないと。それで「どれくらい(の量)をやるかじゃなくて、2時間半の練習をどうやるかでしょう」とかなり挑戦的な感じで話してくれたのですが。どうやってあの驚異的なスタミナを練っているんでしょう。

西森 乱取りも時間区切らず、例えば「一本」とったら相手変えるとかではなくて、連続して続けて、意識してスタミナを高めようとしているみたいです。

古田 スタミナというアドバンテージは十分意識してやってきていると。小川選手はグランドスラム東京と選抜体重別を獲って、いよいよ全日本選手権で具体的に勝ち上がっていくことをイメージするようになってきたと思うんですけれど、ここで歴代の全日本選手権者が語る、最後まで勝ち残ることの辛さ、体力を残せるかという課題とどう向き合うか。小川選手の長時間試合はもはや特徴と言ってもいいのですが、これが吉と出るか、どうかですね。

西森 ちなみにお父さんも初優勝は大学4年なんですよ。関根英之選手と史上初の大学生同士での決勝を戦いました。

西森 だから本人も、今年こそはと意識しているようですけどね。

古田 全日本のルールと小川選手の柔道との相性という面で言うとどうなんでしょう。

林 割合良いのではないでしょうか。

西森 少なくとも「指導3」で決まるようになったのは追い風なんじゃないでしょうか。決められなくとも攻めていれば良いわけで。小川選手の場合はむしろ次でしょうね。垣田(恭兵)選手が上がってきた場合に、去年からの成長が問われます。

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橋本の組み手の巧さは当代随一

橋本壮市vs垣田恭兵、林は断然「橋本推し」

古田 そして橋本壮市選手が登場します。おそらく垣田恭兵選手との戦いです。

林 橋本選手を推しております!

古田 えっ、すごい林さん!

朝飛 橋本選手は左に対しては組み際の左の一本背負投とか一本大外刈、こういう技が得意なんですけども、垣田選手の膝には掛からないかもしれません。

林 確かに体重は違うんですけど、この前の選抜で見せてくれた通り、あそこまで隙のない試合ができる選手です。去年の実業団では王子谷選手相手にほぼ互角な試合だったと聞きました。最後は負けているんですが。

古田 うーん。割と私、林さんがこうやって確信持って言う時には、毎年すごく信用してるんですけど。これはどうですかねえ。

林 お互いに組まないとしても、見せ方でいったら橋本選手の方が上ではないかと思います。

古田 なるほど。攻勢の演出というところでは一枚上かもしれません。

林 投げられるイメージがなかなか湧かないんですよね。同階級への戦い方はもちろん、大きい選手への戦い方が凄く上手いですよ。高校、大学で団体でレギュラーで戦ってきて、重量級相手に引けをとらない試合、王子谷選手と戦って全然引けを取らない戦いが出来るってこと自体がちょっと尋常じゃないと思います。

古田 立川新選手に全く組み手をさせてもらえなかったグランドスラム東京のイメージもまたあるんですが。

林 そうですね。あれは、付き合ってしまったのだと解釈しています。

古田 いかがでしょうか.朝飛先生、その含み笑いは?

朝飛 今頭の中でイメージしてたんですけど。そうなったら面白いなあ、と思って。

林 面白いですよね。

朝飛 垣田選手は前襟をもって揺さぶると思うんですよね。それが橋本選手はいやだと思うんですよ。先にもたれて揺さぶられるのは。それを組み際どうにか捌こうとしてくると思うんですよ。

林 組ませますかね?

朝飛 そこのところでどういう風に見せるかというのが橋本選手の持ち味なんじゃないかな。ただ、橋本選手は高校時代、西山雄希選手に上から持たれて足払いでよく負けていたんです。トントン、トントンって下げられて。そういうところを垣田選手が突いてくるかなって思ったんですけどね。ただ、ちょっと隙があったら左の一本大外が来ますからね。大野将平選手も持ってかれたでしょ、左の一本大外でね。うわっ、面白くなってきた。考えてるだけで。

古田 西森さんいかがですか?

西森 基本的には垣田選手だと思います。彼は具体的に相手をイメージして作戦を練ってくるから。その「準備をしっかりやって、相手のタイプに応じてしっかり取る手立てを用意する」ということでは当代随一だと思うんですよね、やっぱり。相手が大きくても、同じくらいの相手に対してもキチンと引き出しがある。去年も吉永選手というあれだけ担ぎにくい選手を、担いで取ったわけですから。単に重量級に強いというだけじゃなくて、同じくらいの階級の選手、同体型に対しても強いというところが僕は彼の強みだと思うんですね。勝敗で言うと垣田選手かなという気がします。

古田 垣田選手、垣田選手、橋本選手と予想は分かれましたが。

林 僕は橋本選手を推します。

古田 そういって頂けると盛り上がるので大変ありがたいです(笑)。僕は司会の立場ながら垣田選手だと思っているんですけど、ただ面白いですね。

西森 次の小川選手対垣田選手っていうカードをね。

古田 そうなんですよね。

林 しかし、それこそ小川選手対橋本選手だったら、小川直也さんと古賀稔彦さんの対決みたいになりますね。

古田 本当だ!なるほど!

西森 それも言える!

古田 橋本選手は「古賀柔道」ですものね。

林 そうなったらそうなったで面白いなと。ひそかにこれにも期待している私であります(笑)。

古田 いずれ、垣田選手、橋本選手、どちらが上がっても対小川選手戦は相当楽しめそうですね。支持者が多いので、ここは仮に垣田選手としておきます。

「小川への刺客」太田彪雅の出来やいかに?

古田 次が太田彪雅選手の登場。先ほど勝敗保留の村上拓選手あるいは白川剛章選手がマッチアップします。

西森 どちらが上がってきても地力で太田選手が有利と思います。太田選手は一昨年凄く良くて、去年はちょっと低迷して。学生優勝大会で小川選手に勝った時は、これは来たかなと思いましたが、その後ちょっと元気がないですね。

古田 朝飛先生どうでしょう。

朝飛 飯田健太郎選手もそうだし、この太田選手もそうなんですど。自分の試合のことを話すと物凄く真面目なんですよね。負けたときの捉え方って色々あるんだけど、その捉え方が真面目。じゃあ、例えばベイカー茉秋選手がオリンピックの前にワールドマスターズに出ましたよね。ほかの選手が出ない中、彼だけは出ましたよね。彼は失敗してもまた肥やしになるっていう考え方が強いんですね。ポジティブです。一方真面目な人に限って、負けるとすすごく落ち込みますよね。

古田 ああー。

朝飛 飯田選手がまさに今その時期だと思うんですけど。もちろん原沢選手もそうですよね。海外の選手とトーナメントをこなしながら世界選手権にいったりするじゃないですか。この試合とこの試合出て、この大会出るんだ、だからここまではこういう戦い方をする。そういう割り切った考え方をしますが、彼らは違いますよね。二人とも。そういう真面目さゆえに強くなってるという面もあると思いますけど。そして太田選手にもそういう面があると思いますね。

古田 上水研一朗監督が、実績ではお前が上だ、そろそろ決着つけとかないとだめだよ、と太田選手を送り出したのが、学生優勝大会でしたか?

西森 その時珍しく小川選手が投げられました。

朝飛 今回の選抜体重別の対戦でもいい大内刈が一つありましてね。小川選手がどんっと膝から落ちて何とか腹這いになりましたけど。あの大内刈は小川選手に掛けやすいんだろうなって思いますね。

西森 だから小川選手にとっては垣田選手、太田選手と来るとちょっと嫌かなと。負けたことのある選手と続けて当たるわけですから。勝ち上がるためには試練があるという感じですね。

林 小川選手自身はこれで去年より自分がどれだけ強くなってるか分かる、という言い方をしていました。

西森 王子谷選手に過去3戦3勝と相性が良い。だから準決勝までいけば決勝まで行く可能性は高いですよね。

古田 話を先に進めてしまいました。この2回戦は太田選手としておきますね。

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2017年金鷲旗大会準決勝、山口貴也対村尾三四郎。この時は山口が払巻込で村尾を投げている。

「次代の大物」山口貴也と村尾三四郎の対決再び

古田 ここで山口貴也選手が登場します。一応さっきは村尾三四郎選手が上がってくることにしているのですが。

林 面白いですね!

古田 文句なしに面白いですね。どちらも次代の柔道界を担う大物です。そして、高校時代までの様相では山口選手が有利です。

朝飛 この間の選抜体重別の試合を見ると、山口選手は本当に強いですね。非常に良く攻める。村尾選手も本当に強いですけど、ちょっとジュニアの試合とか見ると、ちょこっと力が上の人に対してまだ上手く捌き切れない。同じくらいの力の人になら完璧に強いなとは思うのですが。

西森 山口選手、選抜体重別では西山大希選手と戦いました。まだ柔道がオーソドックスで素直だから、これはまあ地力の差が如実に出ますよね。真っ向勝負すればまだ西山選手の方が強い。でもポテンシャルは高いですよ。この時点で、西山選手と真っ向勝負であれだけやれるというのは凄い。

古田 左相四つ。村尾選手は左の大型に奥襟を叩かれるのを嫌う傾向がありますが、それを桐蔭学園の高松(正裕)監督に伺っているとき、例として出されたのが、この山口選手との戦いでした。ただ、春に「本人が気づけたんだから、これから克服していける」とも仰っていました。村尾選手の個人史的には一つの試金石ではある。・・・現時点では山口選手も将来、全日本選手権制覇を狙うような選手になるかもしれないと勝手に思っていてですね。その中では若い大物同士の早い段階での潰しあい、ちょっともったいない顔合わせだなと感じています。

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2011年大会1回戦、森下純平対岩上真琴。数少ない「軽量選手に典型的な重量選手」がマッチアップした好取組だった。

「全日本あるある」、今年も「似たもの同士」の対戦多し

西森 わりと今回属性が似た選手同士の対決が多いですよね。

古田 この村尾-山口戦といい、垣田-長尾戦といい。

西森 ちょっともったいないですね。熊代-石川-郡司グループもそうですね。

古田 全日本選手権ではありがちではありますよね。強豪がバランスよく散らされた結果、色気や旨味のある選手が似た属性同士で当たっちゃうというのは。

西森 持田達人さんと吉鷹幸春さんが初戦で当たるという非常にもったいないこともありました。

林 せっかく吉鷹さんが全日本選手権に出てきてなぜここで持田達人さんとやらなきゃいけないんだという(笑)

西森 1試合だけ次元が違うスピードで動いていましたよね。

林 全日本選手権に軽量級が出てきた時に重量級じゃなくて中量級ぐらいの選手と当たるケースは多いですよね。

西森 吉鷹さんは園田雅明さんと当たって思い切り横掛を食らったこともありました。

一同:懐かしい(笑)

西森 本当は森下純平選手が出て岩上真琴選手とやるみたいな。ああいう絵が良いんですけどね。

古田 あれはあれで、面白いけど極端過ぎる、内股系の森下選手では少々難しいのではとヤキモキした組み合わせでありました。ファン視点はどこまでも贅沢です(笑)、

西森 内柴正人-飛塚雅俊戦もありました。彼は2回目も軽重量級の選手と当たって勿体なかったですね。

古田 ではここは山口選手の勝ち上がりとしておきます。次戦は七戸龍選手と佐藤和幸選手の対戦です。

西森 地力的には七戸選手。

古田 七戸選手は国際舞台からちょっと下がってしまいましたけど。全日本の合宿とか見ると本当に良い稽古しています。パッと目が行くのは代表ではなく、七戸選手だったりしますから。

朝飛 佐藤選手も凄いですね。31歳になって、ここでまた3回目の出場ですから。柔道が本当に上手いです。

西森 成績もコンスタントにこのところ、出しています。警察大会とか、東アジア柔道選手権とか。全日本は、一昨年は上川大樹選手と初戦で、去年は丸山剛毅選手とやって、今年も七戸選手となかなか毎回厳しい当たりではあるんですが。

古田 東アジア選手権はオーラ出ていましたよ。体落、大外刈、内股と柔道はオーソドックスです。

朝飛 七戸選手の技を受けてしまいそうですね。

西森 七戸選手も相手が変則の場合、性格的に警戒して見てしまうところもあるんですけど、オーソドックスな相手だったらもう思い切っていけますから。

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高校選手権無差別を圧勝で制した中野寛太

古田 七戸選手らしさが出せそうな試合ですね。ここは七戸選手の勝ち上がりを推しておきます。・・・次戦が中野寛太選手登場ですね。中野選手と山下魁輝選手、これは好カードですね。

朝飛 高校選手権を見ると、中野選手は組み手が上手い人とか動きが速い人に付き合わないんですよね。(実演しながら)こう反対の手を入れたり、こっちの手を入れたり、反対の脚から入れたりするんですよね。右脚、右手が出るだけじゃなくて、左も出るし、遠くの手を抑えながら、変な脚の動きをしたりするんですよね。右も左もやるんですよ。その強みがあるんですよ。でもまあ高校生相手と山下選手相手だと違いますから。面白い試合にはなると思います。

古田 中野選手は技術的な引き出しが本当に多い。彼の組み立ては、相手に時間を使わせないんですよね。組ませたまま勿論投げることも出来るし、相手が止めに来て仕掛けてきた組み手をそのまま自分の作りに変えてしまうような、引き出しに攻防一致の面白さがある。

西森 これという形からしか技が出ないというのではなくて、いろいろな形から技が出せる、重量級では珍しいタイプの選手です。袖釣込腰とか担ぎ技も使えます。

林 山下選手は地力があるとはいえ、中野選手も日々大学で練習しているでしょうし、奈良県予選、近畿予選の勝ち上がりを見る限り天理大学のレギュラークラスとやれる力は十分ある。

朝飛 この間の試合見ちゃったら、中野選手と斉藤立選手はどんな選手に成長するんだろうって楽しみになっちゃいますよ。

古田 重量級の二強時代というまた幸せな時代が来るんじゃないかと。それだけのインパクトと将来性がある柔道ですよね。

西森 この対戦、山下選手より体重もあります。20キロぐらい。

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原沢は重量選手を苦にしない。写真は2015年大会2回戦、原沢が橋本憲宗から内股「一本」。

古田 ここは中野選手を推しましょうか。全日本選手権、高校生勝利。そしていよいよ原沢選手が登場します。原沢久喜選手対田中大貴選手です。

林 東京選手権では原沢選手の出来が非常に良かったですよね。

古田 良かったですね。・・・田中選手が重たくなっていることは原沢選手に利する気がするのですが。

朝飛 原沢選手より10何キロ大きくなってるんですか。それは原沢選手はやりやすくなってるんじゃないですか?

古田 僕もそう思います。動ける中型の相手より、大きい相手の方が彼はやりやすいと思います。

林 前に橋本(憲宗)選手を内股で投げましたが、相手は160キロあったと思います。髙橋和彦選手も内股できれいに投げました。

朝飛 そうですね。初戦としてはちゃんと組んでやれるのかなと。まあ、田中選手の組み際の足車、そういう飛び道具に気をつけていれば間違いはないでしょう。田中選手は本当に足車のタイミングうまいですよね。虚を突いてというか前置きがないというか。・・・原沢選手は左組みの相手に対して、前までは必ずと言っていいほど、足を上げてましたよね、それが選抜体重別では、相手が来たらまず体落でひねるという形を必ずやるようになっていました。影浦選手に対しては何回も足を上げて透かされて背負投に入られているので、きちんと考えたんだと思います。良い小外掛も掛けていて、パターンが増えているな、左に対しての対策も練っているなと感じました。

古田 東京選手権で影浦選手に勝った時は、まさしくお二人が仰るように、足を上げずに股中体落の形で捻じって相手の頭を落として、内股に行くときも必ずそこからという風にしてずっと主導権を取ってたんですよ。原沢選手隙なしとみておきましょう。

西森 原沢選手に関していうと、選抜での決勝の対小川選手戦で、序盤は勝っていたのにだんだん後半スタミナが切れていきました。稽古量でいうとまだ一番良い時と比べると積むことが出来てないのかなという気がします。まあ初戦のレベルでは問題にはならないと思いますけどね。

古田 今回も原沢選手は右側の山で。決勝戦は試合が連続になる。

林 第1シードがどうしても有利なんですよね。

古田 僕らには本当に与り知らない高いレベルのところですけれども、本当に大きいらしいですね。この山がどっちかっていうのは。

西森 準決勝でパッと一本勝ちとかして、スタミナ温存できないと、なかなか厳しいです。

林 上川(大樹)選手が決勝で負けたとき、畳に上がってくる顔がもう相当疲れていましたね。後から写真をチェックしてこれは相当に消耗しているなと。

朝飛 山下(泰裕)先生が合宿の時に、もと立ちをやるじゃないですか。5分10本とか、それで疲れた顔でやりたくないって言って、控室で新しい柔道衣に着替えてくるんです。新しい道衣でやると疲れが減るって言って、着替えてまたもと立ちにたつんですよね。絶対に疲れた顔を見せない。さすがだなと思いました。俺たちは一着しか持って来てませんって(笑)。

一同:へえー

古田 これも旨味のあるエピソードですね。

西森 そこまで考えてやるんですねえ。

朝飛 新しい気持ちで挑戦するんだと言ってましたね。

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熊代佑輔対石川竜多戦は全日本選抜体重別で実現したばかり。この際は熊代が勝利した

古田 次の試合は熊代佑輔選手と、石川選手か郡司選手のいずれかです。さっきは石川竜多選手が上がる予想でありましたが。

西森 選抜体重別とどう石川選手が展開を変えることが出来るかですよね。しかし、むしろそのままで押し切ってもいいのか。

朝飛 ゴールデンスコアで熊代選手が取ったんですね。石川選手も力がついていましたね。でも熊代選手も強いなあ。

古田 東京選手権では「世界」を作っていましたからね。結果だけ見ていくと熊代選手ということになると思いますが。

朝飛 実際に強くなっていますよね。この間本間(大地)選手が、熊代先輩は逆の袖釣込腰もその形での大外刈もやりますけど、よくそんなたくさん逆技をやれますねって聞いたそうなんですけど、そしたら、なんで?逆の脚掛けるだけじゃん、と答えたそうなんですよ。あっ、そうかと。普通の柔道選手は固定観念があって右の回転をしてきた人は左の回転は難しいと捉えがちですが彼はそうじゃない。出来るんじゃないか、と思いながらやるのと、出来ない、難しいと思いながらやるのでは入り方も違ってくるんじゃないかと思いますね。で、年間一つは新しい技を身に着けていくんだと言っていたらしいんですよ。もう30歳なのにまだ違う技とか、違う掛け方で相手を投げたりしてますよね。(羽賀)龍之介も小内刈で投げられてるし、袖釣込腰でも投げられてるし。そう考えると凄いなと。

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熊代佑輔選手。キャリアのスタートはなんと高校。

キャリアの多様性確保が大事、少年、中学、高校、どこからでも始められる柔道世界を

西森 さきほど猪又選手が中学から本格的に始めたという話がありましたが。熊代選手に至っては高校から。柔道いつから始めたかというところで測ると年齢の割にまだ経験自体は短いから、本人自身まだ飽きてないし、まだ伸びしろがある。結構熊代選手の存在は今の日本の、小学校からガッチリやるっていう構造へのアンチテーゼになっていますね。十分やれるんですよと。高校から始めても遅くないんですよと。

林 大学2年の時に体育系大会で優勝して、お、この子という感じで目を付けられるようになって、3年から団体戦レギュラーになっていくというような普通より遅いデビューですね。両膝なんかもう靭帯ないそうですけど、東京選手権で原沢選手に遠い間合いから、ガーって大外刈掛けましたよね。靭帯がない状態でなんであの大外刈いけるのか(笑)

古田 あれはびっくりしましたね。凄い度胸でした。始めるのが遅かったゆえの、朝飛先生がおっしゃった技術に対する心理的ハードルの低さは特筆すべき特徴ですよね。固定観念にとらわれずに取り組むことが出来る。

西森 小学生からずっとやっているっていうのを否定するわけじゃないのですが、中学高校、なんだったら大学からでも、入りやすい、入れることにしていくことが、広い目で見ていくと柔道に対してプラスになる。小学校からやってきたようなタイプの選手はきっと熊代選手みたいにはならない。そういう意味ではキャリアの多様性をもっと確保できればいいなと思います。

朝飛 ヨーロッパでは高校の年代から試合やトーナメントがスタートするわけですよね。かといって、下から上がってきた選手は下から上がってきたなりの巧さというのも持ってますし。そういうのが融合して強くなっていけたらいいんですよね。

古田 あんまり競技を先鋭化していくと確実に入ってきづらくはなってくると思うので。僕は、小中は競技を突き詰めるのではなく、大人が賢く我慢して子どもに鷹揚な「枠」を設定する時代、どこまでだれが強いのかまだ分からない、賢いブラックボックス状態を作っておいて欲しいなあ、と考えています。

朝飛 そういうところで言うとですね。少年柔道で疲れないでほしいんですね。早くに成績が出た選手たちが高校時代に追いつかれたりすると、失速する人もいますけども。それも楽しみの一つだと考えて欲しい。周りが強くなってきたから次は何すればいいかなと考えれば、逆にそれが伸びしろになるなと考えちゃえばいいと思うところもあるんですよ。自分が恥ずかしいなと思ったことなんですけど。持田達人さん、彼は世界選手権準優勝してるんですが、彼がある時、すごいですね、世界選手権も準優勝して柔道を究めた人ですねって言われた時に、いえ、優勝とか世界選手権出たとかも修行の内の通過点です、そして私はまだ今も修行してますってあっさり言い返したんですよ。いやあ、そういう考え方じゃないといけないと感動しました。回りに追いつかれたらだんだん私は柔道が向いてないんじゃないかと思うんじゃなくて、追いつかれたら追いつかれたで、また自分が修行すれば違う面が見えてくる。課題も見つけられる。現役が終わってもこの考え方で柔道を究めていけばいい。持田さんも、海外で指導したり、その教え子がまた指導者になったりと、「柔道の修行」はこうやって続いていくんですね。

古田 感動しました。私、先日久しぶりに自分の稽古をしてあまりの衰えに泣きたくなって、このあとどうしていけばいいか実は今日は凄く悩みながら来たのですが、そうですね。またそこから新しい自分の柔道を考えればいいんですね。すみません、話が飛びました。・・・石川選手も少年柔道からやってましたが、良い意味で粗削りな選手ですよね。

朝飛 中学、高校でまだ僕がカデの面倒を見ていたころ彼は地方合宿とかに来ていたんですよね。本当にほわーんとしていて、ガツガツしている子ではなかった。こちらが煽ってもと立ちに指名すると「ぼく2回目ですから」って、「いいからやれえ!」なんて言うとへへへへって笑いながら出てくる、そういう子でした。この子は大所帯じゃなくて、マンツーマンで先生とやれるところに入ったほうがいいなって思ったんです。大所帯のところ入ると埋もれちゃうかもしれないなあ、って。

西森 筑波大は彼にあっていたんでしょうね。

朝飛 あっていますね。本当に強くなりました。でもまあ、勝ち負けとしては熊代選手だと思いますね。

古田 うまさで熊代選手に対抗するのは難しいでしょうから、ゴリゴリ行った方がいいでしょうね。

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東京選手権、木元拓人が飯田健太郎から大外返「一本」。

二回戦屈指の好カード、業師加藤に大物・木元が挑戦

古田 そして次は加藤博剛選手と木元拓人選手の試合です。

朝飛 ここで当てるのはもったいない好カードです。木元選手は強くなった。日大マジックというか。

西森 体幹が強くなりましたよね。

朝飛 本当にそう思います。高木(長之助)先生の、組む、組んで手首立てて胸張ってという教えが、どの学生にも生きていますよね。受けて体幹の力もつけながら、自分の力のある技も出すっていう、あそこの典型みたいな育ち方をしていますよね。

西森 やっぱり日大と天理大は印象的です。そこが育つのは。

古田 加藤選手は変幻自在。この段階では翻弄されてしまうのではという観測もあります。

西森 たぶん全くやったことがないというわけではないと思います。加藤選手もよく日大に出稽古するので。

林 加藤選手も木元選手のことは力の強い良い選手だとは言っていました。

朝飛 ・・・今の加藤選手の「良い選手だ」ってコメントですけど。そう言っているということはもう対策はしてるでしょうね。

古田 なるほど。

西森 木元選手は、初出場の大舞台ということで持っているもの以上のものを出す、そういう戦い方をしないとですね。いつもの試合のような入り方をしたら、「加藤ワールド」に飲み込まれて、あっという間に気が付いたら巴投で舞っていましたということになりかねない。

古田 この試合の見立ては、今の西森さんの言葉がすべてですね。

西森 木元選手の潜在能力は凄く高いと思うので、それがちょっとでも見られたらと思います。

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選抜体重別後の全日本合宿のひとコマ。髙藤が高木海帆と乱取り。

髙藤直寿登場、ここで「全日本選手権のルール」を考える

古田 次は髙藤直寿選手登場。この座談会では仮想・大辻康太選手ということになります。両者左組みの相四つ。

古田 髙藤選手が大きい選手と稽古しているのを僕は実はまだ実際見たことがないんですよね。物凄く強いという情報だけは上がってきていますが。

朝飛 僕もあまり見たことないですね。東海大相模高のときもレギュラーで絶対出さなかったですからね。

西森 相四つの方が髙藤選手にとってはいい気がします。ケンカ四つで石内選手とやるよりは、大辻選手と相四つでやる方が、髙藤選手らしさは出しやすいのではないでしょうか。

古田 横変形に構えて、小内刈を入れながらという感じでしょうか。

林 以前のようなルールだったら。髙藤選手にももっと分があったでしょうね。ただ、今のルールであっても、本人に聞いたら普段から重量級の選手と稽古しているんですよと。僕全然重量級の選手と出来ますよ、とコメントしてくれました。

古田 ここでルールの話をしたいと思うんですけど。無差別の全日本選手権にIJFのルールをリバイズして使っているっていう大きい問題があるわけですけれども、そのあたりはどう思われますか?

西森 選考から独立して、全日本選手権は体重無差別として日本一を競って欲しい。で、さらにいうと、まずは「講道館柔道」がその魅力を発揮できる大会にすべきだと思います。つまり講道館柔道で認めている技はすべて使えるようにすべきです。足取ったらダメとかはなしにしてね。そして次はルールのラインをどこに設定すべきかという話なのですが、もうすこし軽量級でも勝ちやすいルールにしたほうが良いとは思います。ポイントを取るまで延長でやるとなると、これは軽量級はなかなか勝てないので。まあ、ありていに言えば小川直也さんと古賀稔彦さんが決勝で戦った時は、古賀さんは旗判定があったから決勝までいけたという面が確実にあるので。

朝飛 しかもあれが試合時間10分じゃなかったら、また勝敗も分からなかったですからね。

林 去年の大野選手の試合もそうですね。

西森 本戦6分とか4分で区切ってやれば、大野選手の勝ちになっていた可能性もあります。ちょっといま全体的に大きいものに有利なルールにはなってますよね。ですので、独自の体重無差別の大会としての価値観を出すのであれば、ルールは見直すべきだとは思います。

林 そうしたときに、今の強化レベルの選手がこぞって出ようと思うかという問題があります。

古田 それは僕は、こぞって出ようと思ってくれているうちにやるべきだと思っています。全日本選手権というものにみんなが魅力を感じているうちに。もうオリンピックとは切り離して。全日本柔道選手権にはそれだけで立っていけるだけの魅力が十分あると思います。また、現状講道館試合審判規定がいかに面白いかをプレゼンする機会がもうないので、それこそ世界に向けて、講道館試合審判規定、講道館柔道がこんなに面白いんだっていうのをアピールする場でもあればいいかなと思うんです。さきほど、日大の稽古の話の中で「組み合って強くなる」という話が出ましたが、これと朝飛先生がおっしゃった「全日本選手権の前日、組み合って正々堂々と戦おうという話に背筋が伸びた」話。こうやったほうが伸びる、こうやったほうが面白い、柔道とはこうあるべきだ、それを実際に「魅力的な試合」という説得力あるツールを以て示す場であってほしい。IJFルールに対して「本当の柔道はこうじゃない」などと言葉で難癖をつけるのではなく、それを示す、誰もがうらやましくなる模範の大会であって欲しい。

西森 中谷(雄英、1964年東京五輪軽量級金メダリスト)先生が自宅にこの写真を飾っていらっしゃるんですが(資料を取り出す)。全日本選手権に出て、岩釣(兼雄)先生の大外刈を「楔」で止めている写真です。この写真からはまず、五輪金メダリストの中谷先生が「誇り」に思うのが体重無差別の全日本選手権であったということ。そして、実際に大きいものと組み合って、止める技術があったということがわかります。

朝飛 楔で止めるなんて今じゃ見ないですよね。私の父親も162センチ、68キロぐらいで髙藤選手よりちょっと大きいかぐらいなんですけど。ビデオ見ると組んでますものね。極端に小さいですけど。入場行進とかみると、一人だけちょこちょこって出てきて、こんな小さい人も出るんだなって思ったくらい。そしたら、試合では組んでるんですよね。組み手を切って柔道をやるっていう発想がそもそもなかったんでしょうね。

古田 逆説的ですけど、組んでるからそこまで強くなったのかもしれません。・・・朝飛先生はルールについては、どうでしょうか?

朝飛 今言われた通りなんですけれど、この大会は現状、重量級の最終選考に入っているんですよね。だからルールを国際大会に合わせてるんだろうなと考えてるんですが、強化の先生の中にも、これを強化の最終選考にするのをやめようと言われてる先生はいらっしゃるんですよ。そうしたら先生方もやりやすくなるんではないかと思います。体重無差別には、軽量級にとっても勉強になるし、どう戦おうかと考えることで具体的な軽量級の「動き」の発展になるのかなと思います。世界の舞台と関わらない試合をやるのも一つの手かなと。

古田 林さんはいかがですか?

林 そうなると、選抜体重別の在り方とかも巻き込んだ話になります。時期も変えなければいけない、そういう問題は出てきます。

古田 仰る通り、すべてのスケジュールと選考システムを考え直すことになると思います。

西森 まあ、ロンドン五輪とリオデジャネイロ五輪に関していえば、全日本選手権の結果というのは、選考に関係していませんでした。

林 昔は、日本一を出さなくてもいいのかと論争があったわけですが。

西森 北京五輪までは、ちゃんとその年の優勝者が選ばれていたんですが。ロンドンから後はそこすらちょっとずれてきていますからね。

古田 今は昔の感がすでにありますよね。もはや「そういえばそうだった」というファンも多いのでは。

林 たとえば、選抜で選考から漏れた100kg級の選手がこの全日本で優勝したから、代表に追加されるということは絶対にないわけです。

西森 ないでしょうね。いまの選考基準では。

朝飛 垣田選手が3位に入った時には、強化選手には入りましたけどね。原沢選手から「技有」を取って、取り返されて負けたときに、それまでは強化選手じゃなかったのにシニアの強化に入りました。

林 強い選手を正当に評価するという意味では、その範囲のアドバンテージは許されているわけですね。

古田 まあ、いずれほぼ論点出た気がするので話を戻させて頂きます。ではその髙藤選手の「全然やれますよ」との言葉に期待、凌ぎやすいケンカ四つではなく、組み合う形が増える相四つの大辻選手相手にぜひ彼らしい戦いを見せて欲しいですね。では勝者は?

林 え、また私だけが・・・?まあでも髙藤選手にはロマンを感じてしまいます。

朝飛 髙藤選手には本当に期待感があるんですよねえ。

古田 そうなんですよ!

西森 ではロマンを採用しますか?(笑)

古田 本当に?そうすると、次戦は加藤選手と髙藤選手になります(笑)

林 でも加藤選手本人は「髙藤もある」と言っていましたよ。強いって。

古田 その言葉は重みがあるなあ。

西森 どこまで本心ですかね。

古田 そこも、畳の上だけでなく言葉の「ワールド」を持ってる二人ですからね。

林 加藤選手は、「髙藤は嫌だ」とまで言ってたんですよ。

西森 当然場内は髙藤を応援しますからね。

林 それもあるし、動き回られてしまいますからね。簡単には組めないと思いますし。

西森 巴投は透かされる可能性もありますね。

林 下手に巴投狙ったらかわして取られるでしょう。だから、意外に攻めようがなくなってくるかもしれません

西森 最近の加藤選手は取り味のある技が巴投に限定されてきた感もあります。

朝飛 加藤選手対髙藤選手、楽しみだなあ!

林 そこはもう対戦自体に夢があります。

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影浦心の、柔らかく低く潜り込む背負投。国際大会ではこの技で「一本」を連発している。

古田 先に三回戦の話をしてしまいましたけど、ではここは便宜上髙藤選手の勝利と仮定して、次に行きます。影浦心選手対、地崎亮祐選手か神垣和他選手です。

林 これはまあ、影浦選手でしょう。どちらが来ても勝利自体は動かないと思います。

西森 影浦選手は、今世界選手権の候補として挙げられる4人に入っています。王子谷選手、原沢選手、小川選手、影浦選手。

古田 対国際という面で言うと影浦選手は疑いなく強いですよね。

西森 彼は非常に柔らかい。重量級のなかでは比較的非力だからああいう体捌きになると思うのですが、国際大会では相手はやりにくいんでしょうね。

朝飛 そうですね、王子谷選手とか原沢選手とかは当たりますからね。というか、あれだけずっと入りっぱなしっていう人は海外にはいないだろうから。

西森 そうですね、フニャフニャって入ってきますからね。

林 身長低くて、体が柔らかくて、内股を透かすのもうまい。

西森 斉藤立選手といっしょで釣り手の使い方がうまいんですよね。釣り手で間合いを取るのがうまい。

古田 一瞬そこに釣り手が存在しないかのような技の入り方をします。得意は低く潜る背負投ということでいいのでしょうか?

林 タイミングを見て潜る背負い、高くぐわっと投げる背負い、どちらもやりますよね。

朝飛 原沢選手との試合では高い背負投もやっていました。海外の人とやるときはひざ下を狙ってるとは思いますね。日本選手は低い背負投に対して強い選手が多いんですよね。上村(春樹)さんがよく、自分の良い所を知って試合をする奴は強いんだよと仰っていますが、まさにそのタイプです。

古田 では影浦選手勝ち上がりで。そして、西山大希と猪又秀和選手。これは西山選手の勝ち上がりと見ておくべきでしょうか。

西森 100kg級に上げても全然変わらないというか、むしろ怖くなっている感じはありますね。

古田 そうですね。2010年とか2011年の時みたいなガシッと当たれる強さが出てきたなと思いました。

西森 1回ベスト8に入っている実績も持ってますし。

朝飛 本郷(光道)選手に負けたんですよね。本郷選手の気の強さにほれぼれした試合でした。


(つづく)

→全日本柔道選手権予想座談会「全日本を語りつくす」(上)
→全日本柔道選手権予想座談会「全日本を語りつくす」(下)

※この座談会は4月17日に行われました

※ eJudoメルマガ版4月27日掲載記事より転載・編集しています。

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