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eJudo版・平成30年全日本柔道選手権予想座談会「全日本を語りつくす」(上)

(2018年4月27日)

※ eJudoメルマガ版4月27日掲載記事より転載・編集しています。
eJudo版・平成30年全日本柔道選手権予想座談会「全日本を語りつくす」(上)
一回戦11試合
→平成30年全日本柔道選手権組み合わせ(全日本柔道連盟サイト)
→平成30年全日本柔道選手権大会公式サイト(講道館)

→全日本柔道選手権予想座談会「全日本を語りつくす」(中)
→全日本柔道選手権予想座談会「全日本を語りつくす」(下)

参加者:朝飛大、林毅、西森大
司会:古田英毅

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柔道マニア、そして「全日本選手権大好き」な陣容で座談会が行われた。左から西森大氏、古田、朝飛大氏、林毅氏。

古田 本日司会を務めさせて頂きます、古田です。あらためてよろしくお願いいたします。
eJudoでは初めての全日本選手権座談会ということで、日本を代表する柔道指導者である朝飛大先生、もと「近代柔道」誌責任編集者で全日本選手権のプログラムを長く編集しておられる林毅さん。そして長年柔道取材の最前線で活躍してこられてご自身も柔道家でもある西森大さんをお招きさせて頂きました。お三方とも私が足元にも及ばぬ柔道マニアであり、かつ「全日本選手権大好き種族」、この座談会にまさしくふさわしいメンバーと自負しております。きょうは「全日本を語り尽くす」ということで今年の全日本選手権の勝ち負けの展望、そしてそれのみならず、全日本選手権の魅力、面白さ、特に全日本選手権を観に来た方達が試合を観て思い入れられる、ここを観れば面白い、こういうものを観たいという「みどころ」を紹介できるような対談に出来ればと思います。ざっくばらんに思っていることを話してもらえればそれがすべて果たせてしまうような楽しい座談会になるんじゃないかと思いますので、ひとつよろしくお願いいたします。

朝飛西森 よろしくお願いします。

古田 私は今日はなるべく口数少なく、司会に徹したいと思います。・・・というわけで今回は全日本選手権に思い入れが高い人ばかりを呼んだと思っていますので、まずは自己紹介を兼ねて、簡単にそれぞれにとっての全日本選手権とは?というお話をしていただければと思います。まず朝飛先生お願いしてよろしいですか?

■ それぞれの「全日本選手権」
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朝飛大
朝飛道場館長、慶應義塾大学師範。日本を代表する指導者であり、少年柔道指導の第一人者。自身も昭和60年大会に出場、世界選手権100kg級の覇者羽賀龍之介をはじめ多くの教え子を全日本選手権の場に送り込んでいる。

朝飛 はい、私はですね、子供のころ、朝飛道場で柔道をやっていたころは、全日本選手権というものを知りませんでした。ある日母親が「今度の日曜日全日本選手権観に行くわよ」と言って二人で、このころはもう父は他界しておりましたので、母親と二人で見に行ったんですけども。その時の衝撃は忘れられないですね。なんだこの試合は、と、日本武道館に一つしか試合場がなくて、全員がそこを見つめていて、そして、一つの技を掛ける度に歓声、どよめき、皆のリアクションが本当に凄い。こんな試合があったんだ!という衝撃を最初に受けました。そして、その試合に父親が出ていたのを知って、「え!?」と思って、プログラムとかで朝飛速夫の名前が出ているのを見て、父親に対しての尊敬の念が一つまた出てきまして、自分もどうしても出場したいと思うようになりました。実は今でも、予選をやってあと一回勝てば全日本選手権に出れる、そういうような夢をよく見るんですよ。この歳になっても憧れているわけですね、私は、全日本選手権に。

古田 ありがとうございます。朝飛先生は、初めて親子二代で全日本選手権に出た柔道家でもあるのですよね。

西森 朝飛先生が出た時の「近代柔道」誌を資料として持ってきました。

朝飛 おお!それです!

古田 さすがですね。西森さんには本当によく相談させて頂いてるんですが、やり取りしていても数秒で資料が出てくるんですよ。

林 「近代柔道」編集部の人間よりもおそらく詳しいです(笑)

西森 朝飛先生ご自身が出場されたときは、初戦でいきなり職場の先輩と当たるという。

朝飛 親子二代の出場ということと、この組み合わせのおかげですごくマスコミに出させて頂きました。でこれは初めて全日本選手権でコンピューター抽選を導入した大会で、大学と地方を分けて入れるんですね。そしたら神奈川県警同士でいきなり初戦だったんです。

西森 朝飛先生は予選の時点では明治大学でしたから、東京代表で。

朝飛 そうです。東京の予選を勝ち抜いて。それで、御嶽(知昭)先輩は神奈川県警で関東地区代表で出ていたんですね。全日本の前に所属で、壮行会とか激励会やりますよね。そしたらそこの看板に『御嶽vs朝飛激励会』って『vs』が入っていたんです(笑)

一同:(笑)

古田 年度をまたぐ全日本選手権の妙味だったのかもしれませんが、まさに史上「その年」だけの珍事ですね。・・・林さん、お願いします。

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林毅
もと「近代柔道」誌編集者。30年以上にわたって大会を直接取材し、全日本選手権プログラムを20年にわたって編集中。書籍「激闘の轍・全日本柔道選手権大会60年の歩み」では企画・編集を務めた。

林 こと全日本選手権に関していえば私は縁があって、近代柔道編集部に入った1988年から丁度30年、すべて会場で見続けています。きょう古田さんが資料で持ってきてくださったこの『激闘の轍』の編集もさせていただきまして、やはりプログラムの製作に携わって約20年、まあ最初のころはお手伝いぐらいだったんですが、選手のバックボーンが見えてくることによって、思い入れも強くなっていきました。選手にインタビューをしてみようとか、歴代王者の話を聞いてみようとか、いろんな企画も考えてきました。

古田 私もそうですが、全日本選手権を現場で観戦する人たちは会場に入って、まずプログラムを読むのを楽しみにしている人がいっぱいいると思います。

林 そう言ってもらえると嬉しいですね。「全日本を彩った名選手たち」という企画を載せ始めて今回5回目になるんですけれども、昔の人ほど「全日本選手権」に対する思い入れが強くて、社会的な認知度も今よりずっと高くて、そういう全日本選手権の凄さをいかに伝えていくか、それをプログラムという媒体を通じて出来ればなあと考えて、毎年作らせて頂いています。これから(この座談会で)出てくると思いますけど、過去の多くの名勝負が全日本選手権の磁場、あの特殊な空間ゆえに生まれたものではないかと思います。やっぱり全日本選手権は世界に誇るナンバーワンの大会だなと思います。

古田 インタビュー「全日本を彩った選手たち」も、全日本選手権に出るということはどんなに凄いことか、それはどれだけリスペクトされるべきことなのかを伝えたいという思いが感じられて毎回嬉しくなってしまいます。事前取材もたくさんされておられるようですので、今日も是非そのあたりの貴重な情報をご提供くださればと思います。・・・では西森さん、お願いします。西森さんは腕利きのジャーナリストですが、中・高の全国大会に全日本ジュニア選手権にも出ておられて、選手としても相当鳴らしていました。

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西森大
NHKスポーツ番組部ディレクター。業界では希代の柔道マニアとしても名高い。ドキュメンタリーの佳作・NHKスペシャル「日本柔道を救った男~石井慧 金メダルへの執念」を制作。現在は全日本柔道連盟広報委員も務める。

西森 私も先程朝飛先生が言われたように憧れという面が非常に強くて。最初に生で観戦したのは高知から大学に受かって上京してきて1994年、金野潤さんが初優勝、決勝で吉田秀彦さんと戦った年です。あの時の盛り上がり、そして決勝の緊張感は凄かった。もちろんそれまでもテレビでは見ていたんですが、やっぱり現場で見ると全然違う。あっこれは本当にすごい舞台だということを感じまして。社会人になって鳥取に赴任しまして、やれる限り(全日本選手権出場に)挑戦しようと、そこから4年間ぐらいは全日本選手権目指して、鳥取県予選を勝ち抜いて中国地区予選に挑んでいました。

古田 ここが西森さんの凄いところです。一線の取材者で、全日本選手権にリアルに挑戦していた方でもある。

西森 まあ全日本選手権には遥かに遠かったですけれども。そこで地区の予選に出てくる地方の柔道家たちの全日本に掛ける思い、あの舞台に立つんだという思いが地方の柔道家たちの強いモチベーションになっていることを肌に感じてですね。縁があって私も今度は取材する側になって今全日本選手権に関わらせていただいているんですけれども。そういうそれぞれの思いが一堂に会する舞台だと思いますので、それをいろんな人に、優勝を狙う選手だけではなくてね、それぞれの選手に、全日本選手権に対する思いと物語があるというのを是非感じてもらえればなと思います。

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司会 古田英毅
eJudo編集長。柔道六段。

古田 思いが一堂に会する舞台、っていい言葉ですね。全日本選手権の磁場が特殊だというのは多くの方の一致した意見ですが、西森さんが以前雑誌「柔道」の大会観戦記に書いておられたように、多くの人の物語、そしてそれを見つめる人々の圧倒的な「リスペクト」の量があの独特の空気を生み出していると思います。すべての選手と、そしてこの大会は観客1人1人の物語が一堂に会して、完結する場なんですよね。

林 観客が、一度は全日本に「出る」ことに憧れた人で構成される中、前日に全国高段者大会があるのがまた良い文化ですよね。

古田 柔道ツアーですね(笑)

林 そうか、僕が子供のころに教わっていた先生も、もう亡くなられたんだけれども、僕が1988年に近代柔道に入って、そこ(高段者大会)でばったり出会って、「これが俺の一年で一番の楽しみなんだ」と仰っていて。

古田 ああ、いいですねえ。

林 高段者大会に来て、そこで旧友と再会して一杯呑んで、次の日全日本選手権を観て、それで田舎に帰る。それが本当に一年で一番の楽しみだってことで、何年か続けて連絡を頂いて。当時まだ携帯電話もないから会社に電話が掛かってきて(笑)。「おい、林君元気でやっているか。今年また行くから、ご飯食べよう」って感じでね。それが、本当に楽しいツアーなんですよね。

朝飛 いまはあるかは分からないんですけど、私らの頃は前の日に柔道衣のチェックとかを済ませた後に、選手全員集まってね、「この全日本選手権は特別な大会だから、正々堂々組んでみんなが憧れるような柔道をしましょう」って話を聞いてからホテルに戻るんですよ。そういうことを言われる大会なのか、と背筋が伸びました。

西森 どなたがそういう話をするんですか?

朝飛 その時は、うーんちょっと覚えていないんですけど、上村(春樹)先生たち強化の先生達が集まってるところで話を聞いた記憶がありますね。

古田 「正々堂々組んで皆で立派な柔道をしよう」っていうのは緊張しますね。身が引き締まる!

朝飛 緊張ですよ(笑)

古田 いろんな小、中学生の大会の開会式で「正々堂々組んで一本を狙う柔道」っていうことを言われたときに、言う方も聞く方も建前、形骸化して聞かれるところではあるんですが、それが建前じゃなくて「性根に響く」という観点からはまさしく全日本選手権の舞台以上のものはないですね。自分たちが日本の柔道の在り方を背負わされている気持ちになるのでは。

朝飛 勿論勝負は勝負ですけど、そう言われたときに、勝負を度外視してでもきちっと組み合って、真の柔道というか、そういうのを見せたいなと心底思ったんですね、私はたまたま山下泰裕先生の引退する年の大会に出られたんですね。で、通路を下から通って開会式に上がっていくんですが、その通路が見えないんですね、人が座っちゃってたもんだから。あまりにも観客がいっぱいで入れないからみんな通路に座って見てるんですよ。で私もそれを見てこれはすごい大会だと、この大会を「指導」決着とかで終わらせることは出来ないなって思った記憶はありますね。

西森 柔道家にとって一世一代の晴れ舞台ですからね。

林 その大会前日に集合した際に、部屋で一番前に座る選手が勝つと言われていたんですよ。

古田 ああ、聞いたことあります!そもそも林さんに聞いたのか。

林 講道館の方が今日は誰々が一番前に来て座っていた、と。その他大勢は後ろにだあっと座っているんだけど一番前に座る選手がやっぱり勝つんだそうです。まあ100パーセントではないんですけど。それくらいの気持ちで全日本選手権に臨む選手が強いということでしょうね。

古田 旨味があるエピソードですねえ。そうだ、穴井隆将選手が勝った年に、林さんが「僕穴井選手が勝つと思うよ」ってボソッと言われたんでした。なぜならね、ってその話をお聞きしたのでした。

朝飛 ふーむ、そうですかあ。

■ 今年のみどころについて
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三連覇に挑む王子谷剛志

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復調気配の原沢久喜

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グランドスラム東京と選抜体重別に優勝、上り調子の小川雄勢

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世界王者枠で参戦の世界選手権60kg級金メダリスト髙藤直寿

古田 それぞれ早くも旨味のある話が色々出てきましたけれども、今年の全日本選手権、ご自身の中でどう位置付けていますか?一人ずつお聞きしていきたいと思います。朝飛先生からお願いします。

朝飛 重量級は毎年強化、代表選考の参考にもなります。ですので、重量級選手の戦いはまず一つ楽しみです。今年はその重量級が本当に上がって来れるかっていうぐらいレベルが高い。その中でどんな試合をしてくれるか。それともう一つ、橋本壮市選手と髙藤直寿選手が今回挑戦する、これは非常に楽しみです。以前も内柴正人選手が挑戦したり、軽量の選手が出場してきましたが、なかなか一回戦を突破するのが難しい。そういう大会なので、この二人がどこまで出来るかが楽しみです。それと、若い選手達ですね。高校生から大学生に上がる選手達、あるいはまだ高校生の選手達、あるいは大学入ってまだ1年、2年の選手達がどこまで活躍できるか。本命とされる重量級選手たちもうかうかしていられないと、そう感じてますね。

古田 なるほど。林さんはいかがですか?

林 顔ぶれ的にみると、王子谷(剛志)選手と原沢(久喜)選手、そこに小川雄勢選手が入ってきて、重量級3人、そしてちょっと力が落ちてきている感はあるけれど上川大樹選手、七戸龍選手のベテラン。いまの重量級のトップクラスの選手たちが皆いい位置に構えていて、非常にトーナメントとしてバランスが良い気はします。で、そこに朝飛先生も仰っていた橋本壮市選手と髙藤直寿選手、この2人に関しては、この前パーク24に練習を見に行ってきたんですが、非常に鼻息が荒いというか、髙藤選手は「いやもう優勝しちゃうんじゃないですかねえ」と、そういう勢いです(笑)。「優勝したら東京オリンピックの代表決めてくれるんだったら死に物狂いで優勝しますよ」と(笑)。中量級の好選手に、彼らどうしてもこの大会に出たかった軽量選手の頑張り。今回は見どころがたくさんある、良い大会になるんじゃないかと予感しています。

朝飛 以前髙藤選手が全日本選手権に挑戦したいって言ったときに大学側に止められたことがあったそうです。世界選手権があるんだから、怪我したらいけないからやめとけ、と言われたという噂でした。その年に会場で(髙藤に)会ったんですよね。それで「今年お前出るっていう気持ちがあったらしいな」って聞いたら「はい、今年は出られなかったんですけど、次の時は出ますから」ってサラッと言ったんですよね。つまり、また世界選手権優勝して次の全日本選手権出るっていうぐらいの気迫があったんですね。その時の髙藤選手の目つきを見て、さすがだなあと思いました。

林 彼は毎年世界選手権に優勝するつもりでいますからね(笑)。でも今回を逃したらチャンスがなくなるかもしれないという気持ちもちょっとあって、井上康生監督とパーク24の吉田秀彦監督両方に話したら、お前の気持ちに任せる、との言葉を貰ったとのことで今回出る決意をしたそうです。

古田 彼にとってずっとぶれない目標であったわけですね。全日本選手権にそれだけの価値を感じてくれる人が体重別の一線にいるのは心底嬉しい。

林 去年大野将平選手に話を聞いた時もそうだったんですが、小さいけど、でも弱いわけじゃない、勝てないわけじゃないという気持ちを、選手は絶対持っています。それを表現したいというところが、たぶんあると思うんです。

西森 なるほど。大野選手も、次はちゃんと予選から出たいと言ってました。

古田 おおー。また味のある事を言いますねえ。本当に恰好良い。

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73kg級の橋本壮市も世界チャンピオン枠で参戦

西森 去年ドキュメンタリーを作るためにずっと付いていたんですが、稽古だけでいうと、今回近畿代表で出ている、西尾(徹)選手とか白川(剛章)選手とかを真っ向から組み合ってボコボコ投げていましたからねえ。だから、軽い選手が勝つのはありえると思います。柔よく剛を制すじゃないけど、軽量級の選手が重量級と戦って勝つところはやっぱりみんな見たいと思っていますからね。今のルールで戦うと現実的には難しいところですけど、だけどそこのロマンに挑んでくれる選手が沢山いることは本当にうれしい。

朝飛 大野選手の話。正木(嘉美)先生が同じことを仰っていました。同期なのでいろんな情報交換をするんですが、話しているときに、「大野はどうだ?」って聞いたら、「大野はいいんだよ」って。「重量級はうちいっぱいいるんだけど、しっかり組んでしまえば・・・」と。ここまで聞いたら普通重量級が持っていくと言うと思うでしょ。その続きで「大野が持っていくんだよ」と言うんですよ。

古田 凄い!(笑)

朝飛 しっかり持ってしまえば大野が全部持ってくんだって、おいお前、それ逆じゃないか、おかしくないかって(笑)

西森 稽古見ると本当にびっくりしますよ。

朝飛 あそこに行って稽古を見た時、(乱取りで)詰めに詰めた後に、終わってから物凄くしっかりした打ち込みをやることに、二度驚かされました。

古田 では続いて西森さん、お願いします。

西森 一つはこう、ちょっとこのところ全日本選手権は毎年ルールが変わっていくのですが、その新しいルールの中で攻撃的な、魅力的な柔道を見たいっていうのはありますね。選抜体重別が全体的に反則負けが多くて低調でしたが、一方この前のカデは非常に投げで決まる試合が多かったと聞いています。やっぱりそこはルールのせいではなくて参加する選手がどういう気持ちで挑むかというところも大きいかと思います。

古田 なるほど。

西森 本当に柔道家にとっては晴れ舞台で、乾坤一擲の大勝負をするという、自分の最高の柔道をするという気持ちで挑んでほしいなと。そういう気持ちで攻め合う試合を見たいと思います。あとちょっとマニアックな見方で言うと、だいぶ勢力図が変わってきてですね、去年まで健在だった百瀬(優)選手とか、西潟(健太)選手とか優勝も狙える実力者が抜けていって。いわゆる門番として存在感のあった青山(正次郎)選手とかも今回は出ないということで。もちろん優勝争いは超級のオリンピックを狙う選手が中心になってくると思うんですけれど、その中で全日本選手権独特の存在感を発揮する選手が現れてきてほしいなというのが希望ですね。

古田 言われてみれば、「門番」的な顔ぶれがざらりといなくなりましたね。

林 百瀬選手、西潟選手はまだ出来るだろうというところで辞めてしまった。惜しいですよね。

古田 「巨人」による一時代を築き掛けたときもありましたが、残念です。

西森 門番的な役割では、熊代(佑輔)選手なんかが今年もまだまだいけるんじゃないかとは思いますよ。

■ 注目選手
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飯田健太郎は初出場

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上川大樹は悲願の初優勝を狙う

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稽古では健在ぶりを存分に発揮している七戸龍

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今年も関東選手権を圧勝、2度目の優勝を狙う加藤博剛

古田  さて、もうすでに何人か具体的な名前が挙がっていますが、あえて何人か注目選手を挙げていただくということでお願いしたいのですが。朝飛先生いかがでしょう。

朝飛 はい、重量級の優勝を狙う人以外で挙げるとしたら、私の個人的な期待になってしまうんですが、飯田健太郎選手ですね。いまたぶん精神的なところで苦労していると思うのですが、彼と一緒に遠征行ったりしてみると、本当にやさしい人なんですよ。こちらが勉強になるほどの、やさしさ。ただ彼にも直接言ったことがあるんですが、勝負の時に変われ、って、もう鬼になるんだぞと、やっぱりそのあたりです。彼が、その「やさしさ」を越えてどこまで自分の力を表現することが出来るかですね。それから高校生二人、中野寛太選手と村尾三四郎選手がどこまでやれるかですね。中野選手はあの足技といい、非常に技の切れ味がありますから、シニアにどこまで対抗できるか。楽しみですね。

古田 ありがとうございます。林さん、いかがでしょう。

林 オーソドックスに話すと、王子谷選手、原沢選手に小川雄勢選手というところに落ち着いてしまうのですが、全日本選手権というのは引退直前の人が素晴らしい輝きを見せたりする。佐藤(宣践)先生もそうでしたが、もうこれで終わりにしようという大会で優勝する選手もいたりするんですね。それで、私がずうっと優勝させてあげたいなあ、勝たせてあげたいなあ、と思っている選手が上川大樹選手と、七戸龍選手です。

古田 そう思っているファンは多いと思いますよ。全日本選手権優勝させたいランキングをとったらかなり上位に来るふたりだと思います。

林 この二人が今回実は、どうしても枠があってプログラムのインタビューから漏れてしまって話を聞けなかったんですが、僕としてはそれは凄く残念で。この二人がそれに奮起する形で勝ってこないかなと心の中で期待している部分があるんです。上川選手、七戸選手は王子谷選手や原沢選手を相手にこれまでも歴史に残る名勝負を演じてきているんですが、今回も良い試合をしてくれたらいいなと思っています。もちろん王子谷選手と原沢選手にも頑張ってもらいたいですが、今回上川選手と七戸選手が勝ったとしても、僕はこれは「全日本選手権」としては、ものすごく良いことなんじゃないかなと思います。

朝飛 七戸龍も本当に良い人。やさしい人だよ。

古田 西森さん、お願いします。

西森 すでに名前が挙がっていない中で言うと、今年もやはり加藤(博剛)選手ですかねえ。

古田 楽しみですね!

西森 そして(加藤選手と)初戦で当たるのはもったいないんですが、東京予選で飯田選手に勝っている日大の木元拓人選手も非常に楽しみです。金野潤先生が早くから、木元は伸びる、原沢級になると高く評価していた逸材です。彼は高校時代全国大会出ていないんですね。それが日大に入って早くも、高校時代であれば全く歯が立たなかったであろう飯田選手に勝つくらいまで伸びてきている。ですので木元選手にも注目しています。

朝飛 木元選手は明倫館杉崎道場出身ですね。

古田 千葉の名門。そうすると少年時代からしっかりやり込んできた選手でもあるんですね。

林 加藤選手。一昨日話を聞いたんですけど、前回優勝したのが5年前、5回目の出場で優勝したのかな。今回は10回目なんで区切りがいいのでもう一回優勝したい、と意気込んでいました。

朝飛 去年もウルフ選手を投げているんですよね。最後は疲れてしまいましたし、やっぱり、ウルフ選手が素晴らしかったですが。

林 投げたのがちょっと時間的に早すぎたかもしれませんね。

古田 毎年関東選手権の凄まじい勝ち方がその後の選抜体重別や全日本にそのまま出ていない気がします。関東を観ていると今年も全日本選手権取っちゃうんじゃないの、と毎年思うんですけど。

林 体重別とどっちが面白いか、と聞いら、それぞれ面白いけど無差別の方が好きだとは言っていました。全日本選手権に関していえば自分にとってはお祭りのような感じで、快感があると言っていましたよ。

古田 快感!噴き出てますよね、試合ぶりから。

朝飛 それは見ていて分かりますね。

西森 組み合わせもいいんですよね、今回の加藤選手は。

■ 一回戦
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昨年度大会開会式。今年も聖地・日本武道館に猛者が集う。

「第1試合でその年の全日本選手権が決まる」

古田 それでは具体的にトーナメントを見ながらそれぞれの試合についてお話を伺っていきたいと思います。全試合について簡単に触れていただきます。勝敗定かならぬ試合がたくさんあると思うのですが、進行上「仮に」でも便宜上勝者を決めて、決勝まで追いかけていきましょう。1巡目。オープンニングゲームは北海道・高田大樹選手と、関東・今泉雪太郎選手の対戦。どちらも初出場同士です。

西森 高田選手は去年の秋以降調子がいいですよね。2月の全国体育系学生大会の100kg級で3位に入って、そのまま3月5日の北海道予選で2位ですから。若さもあり、伸び盛り。スケジュールがタイトな中ですが、ゆえにぐっと成果を出しているんでしょうね。去年9月の全日本学生体重別は1回戦で早稲田の瀬川選手に「技有」で初戦敗退ですから。

古田 それで今波に乗ってきたと。北海道予選は今年もエントリー171名の巨大大会、そこを勝ち抜くのは単純に凄いことです。

西森 今泉選手の方も、去年の警察大会では準々決勝で愛媛県警の影野(裕和)選手に勝って、準決勝で長崎の藤原(浩司)選手と、どちらも全日本選手権に出ている選手に勝っています。決勝は兵庫の木下(泰成)選手に「韓国背負い」から抑えられていますが、上り調子ですかね。

林 大東大出身者というのは久しぶりですね。

西森 2004年の深井(茂和)さん以来ではないかと思います。

古田 初出場同士で、こういっては何ですが、全日本選手権で1勝を上げる大チャンスですね。

林 このオープニングゲームっていうのが全日本選手権ではものすごく大切だと思うんです。過去ずっと見てきていて、第1試合が「一本」でバーンと決まると、大概そこから良い試合が続くんですよ。

古田 それは物凄く感じます。林さんの隣で「第1試合なんだから!」とハッパを掛けながら見守った年がありましたね。

林 逆にこの試合がちょっとだらっとした感じになってしまうと、その後何試合かはつまらない試合が続く傾向がある。

古田 初出場らしい、イキの良い柔道を期待といったところですね。勝敗の展望的にはいかがでしょう?

西森 ここはキャリアと体格を推して今泉選手有利と僕は見ます。ただ、高田選手が右で、今泉選手が左とケンカ四つなんですね。

古田 体重20キロ差がありますが、ケンカ四つだとうまくごまかされる可能性もありますね。それでも全日本選手権らしい試合を期待したいところですね。・・・第二試合は、中国・清山一樹選手と関東・渡邉隼人選手との試合です。

西森 清山選手は学生時代は81kg級だったんですよね。ただ上級生になってからは7人制のメンバーで出ていますから無差別でも相当やったということでしょう。それで今は95キロまで増えていると。やっぱりコツコツと努力するタイプの選手だということですね。

古田 岡山商科大の出身ですね、30歳で初出場です。

朝飛 すごいですねえ。

古田 渡邉選手は膝に爆弾を抱えているものの関東、選抜とすごくいい試合をしています。選抜は藤原崇太郎選手に敗れましたけれどもどっちが勝ってもおかしくない試合でした。

朝飛 地力がありますよね。投げ方見てもうまいですし、右と左で同じように回転できますよね。

林 良い選手ですよね。大学でもレギュラーに入っていましたし、もっと上に来てもおかしくない選手と思います。

古田 永瀬(貴規)選手の次に座ってもおかしくないですよね。彼はずっと怪我をしていて自分の実力的にあるべき場所に立てていないという鬱屈があるはず。全日本選手権は存在感を示すにはまたとない場ですから、かなりの覚悟をもって臨むのではないでしょうか。

西森 30歳での初出場というのは、本当にすごいことだと思いますけど。

古田 夢に見てしまいますね。

林 うれしいでしょうねえ。30歳までやってきて。

古田 清山選手は予選にはずっと出ていたんですか?

西森 まず岡山県予選を勝ち抜かなければいけないんです。岡山県警と岡山商科大の選手がいる中で勝ち上がって、それで初めて中国予選ですよ。岡山県でまず4位に入らないと中国予選にも出られない。それで言うと、そんなに何回もチャンスがある訳ではないはずですね。ついこの前まで、菊川(顕)選手に香川(義篤)選手と二人の強い先輩がいたからチャンス自体がそんなになかったんですね。そう意味ではようやくつかんだ、という感じだと思いますね。パワーバランス的には、膝が悪くなっていなければ、渡邉選手が優位だとは思います。

古田 30歳ではじめて日本武道館の晴れ舞台に立つ。清山選手の活躍に期待ですね。

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昨年度大会の長尾翔太。粘り強い戦いで体重170キロの青山正次郎に勝利した。

“曲者対決”は垣田恭兵の試合プランに注目

古田 第3試合がこれまた色気のある試合、垣田恭兵選手対長尾翔太選手となります。

西森 ええ、いい表現ではないですが、「曲者対決」ですよね。

古田 癖のある面白い役者同士が初戦で潰しあい、少々もったいない気もしますがいかがでしょう。

朝飛 垣田選手の度胸の良さがもう、全日本選手権では余すところなく発揮されていますよね。5年前の、平成25年の大会では原沢選手から「技有」とって、去年は背負投で吉永(慎也)選手をきれいに投げて、小川選手にも勝って。大舞台になればなるほど良い技を繰り広げているなあと思いますね。長尾選手もそうですよね、全日本選手権には出てくると何かするんじゃないかって観客の期待が凄い。普通に試合しているとなんか物足りなそうな感じに見ていたりしますから(笑)

西森 どちらも大きい選手と対戦すると魅力を発揮するタイプです。ほぼ同体型なんですよ。身長は長尾選手173センチの垣田選手174㎝、体重も長尾選手100キロに垣田選手95キロということで、さあどうなるかということですね。ただ垣田選手は九州大会を制していますから。やっぱり好調を維持しているんでしょう。

古田 垣田選手は無差別で輝くタイプですが、同体格を「攻め落とす」詰将棋的な柔道も得意です。曲者同士が当たると格がそのまま反映されるということが結構ありますので、順当にいけば垣田選手勝利ではないかと考えます。

西森 そうですね。心配なのは試合時間が長くなるんじゃないかということですね。

古田 どちらも作戦遂行能力が高い選手ですから、それも双方のプラン次第でしょうね。特に長尾選手が泥試合に持ち込もうとするのか、先に一発行かねば勝ち目なしと踏むのか。長尾選手の「ダンス」に期待というのは、これは言わないほうがいいんでしょうか(笑)

西森 まあ、期待はしなくていいんじゃないですか(笑)

朝飛 ・・・たぶん、そういうことをしてきた時にも垣田選手は黙っていないで何かすると思いますね。去年もそうなんですけど、試合の合間に彼と話すと、次の試合はこういう風にしてというプランが明確にあって、実際その通りに試合が進むんですね。考えるし、それだけでなくものすごい心臓が強いタイプなんですよね。戦いの進め方のシナリオをたくさん持っていて、実際にそれのどこかに嵌めていく。すごいなあ、と思いますね。

古田 経験とシナリオ分岐の保有の多さで垣田選手、ですね。続いて村上拓選手に白川剛章選手という対戦が組まれております。

林 村上選手、最近試合を見てないから私はなんとも言えないです・・・。

西森 前回出場の時と比べて15キロ大きくなっているんです。130キロ。

一同:それはでかい!

西森 前回出場の時は長尾選手に負けているんですけど。その時は115キロでしたので。まあ、それをどう見るかですね。

林 (写真を見て)確かに顔のシルエットが違っていますね。地方に行って大きくなって西潟選手みたいになれば、それはそれで面白いですね。

朝飛 小学校の時はどっちかというとすらっとしていましたよね。本吉塾でね。

林 今年は東海予選で優勝。

古田 ということは大きくなったことが柔道にいい影響を与えているというか。スタイルにポジティブな変化を与えている可能性はありますね。

西森 一方の白川選手はもう、天理大で連日重量級と稽古していますからね。

朝飛 攻撃的で面白いですよね。すごくいい柔道で。大内刈がきれいですよねえ。

西森 大きい柔道ですよね。

林 学生時代にもう少し個人のタイトルを持っていてもおかしくなかったですよね。ジュニア時代までの実績と内容からすれば。

西森 去年は全日本学生2回戦で優勝した安達(健太)選手に「技有」取られて負けてしまったんですよね。まあちょっと組み合わせの部分もあるかなと思います。

古田 かつて白川選手が高校選手権を獲ったときの決勝カードでしたね。・・・これはちょっと難しい試合ですね。あの重量級の圧をするりとかわすような投げが効けば白川選手なんでしょうけど、それを村上選手が弾き返すような柔道になっていると、もつれるという感じなのでしょうか。

西森 そういう意味でここは真っ向からの試合を期待ですね。ここは勝敗は保留でもいいかもしれないですね

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昨年のインターハイ90kg級の覇者村尾三四郎。高校3年生で全日本選手権の畳を踏む

「村尾の攻めと近藤の巧さ、村尾の大内刈をめぐる攻防がみどころ」

古田 そして続く試合は村尾三四郎選手と近藤拓也選手が戦います。この第5試合いかがでしょうか。

西森 近藤選手は筑波大が2013年で学生体重別団体優勝した時のレギュラーで、羽賀龍之介選手を止めて、それが筑波優勝の勝因になりました。体格とかは高校生の頃と変わらないんですよね。

朝飛 そうですね。中学の時から変わってないですね。この大きさが適正なんですね。彼は試合が本当にうまい。だから村尾選手の技を徹底して止めるということが出来るんだろうなと思いますね。村尾選手もよく攻めますのでチャンスは多くあるだろうけども隙も多くできるだろうと。それが高校生らしくて面白いんですけど、そのあたりが試合のポイントかと。

西森 まあ、近藤選手の方が環境的に稽古を十分に積むのは難しいところがあると思うので、そういう意味で長引いてゴールデンスコアとかになってくるという展開はあると思いますが。どっちにしろ村尾選手がどんどん攻めるでしょうから、朝飛先生が仰る通り得点の予感はかなり漂います。それで村尾選手が決めるのか、近藤選手が裏を取るのかだと思います。みどころの多い試合にはなると思いますね。

古田 相四つですよね。体格はそんなに変わらない中で、村尾選手は相四つの大きい選手に奥襟を叩かれると少し嫌うところが見受けられますが、そのあたりはいかがでしょう。

朝飛 村尾選手は相四つになると大内刈をよく掛けるんですよ。でその大内刈が高くなると返されやすくなる。中野(寛太)選手とやった時(高校選手権個人戦無差別決勝)がそうでした。村尾選手には大内刈から次の技を狙うというパターンがあるんですけど、そこを近藤選手が狙ってくると思うんです。しかし村尾選手もここまでそれを返されるケースが何回かあったので、全日本選手権にはピシッと合わせて、対策してくると思います。

古田 一つそこは面白いみどころですね。

朝飛 村尾選手は性格が優しいので、高校生であの舞台に立ってびっくりするんじゃないかと思いますけどね。ただ3月にあの舞台で中野選手と戦っていますから、それは強みになるかな。

古田 勝敗予想というのも野暮な感じはするんですが。一応言うとどうでしょう?

林 村尾選手ですかねえ。近藤選手が環境的にどれだけ練習できているかが良くわからないのですけど。

古田 北信越予選はどういう試合ぶりだったんでしょう。

西森 早い段階で猪又(秀和)選手に敗れて、そのあと敗者復活をずっと勝ち上がりました。

林 変則的なトーナメントなんですよね。力がないと上がれないトーナメントではあります。

西森 (資料を見ながら)まあ5試合ぐらいしてますね。1回勝って2戦目で猪又選手に敗れて、敗者復活に回って1,2…

朝飛 ああ、五十嵐(遼介)選手に勝ってるんですね。

西森 全部で6試合戦っていますね。

林 北信越予選は大変ですねえ。一抜けしないと本当に大変なことになってしまう。

古田 これまた読みがたい。

西森 近藤選手にすれば、元気だけど隙の多い村尾選手、山口選手に対して勝ち上がるチャンスも十分ある。

朝飛 うーん難しい。まあ一応、返されなければ村尾選手かなあ。

古田 まあ、仮にですから。この段階では村尾選手にしておきましょう。

「初出場25人、節目の大会」「地方予選改革を一考すべき」

古田 続いて、四国・河坂有希選手と、東京・国士舘大の山下魁輝選手が戦います。いかがでしょう?

西森 山下選手の方が勢いはありますね。

古田 彼も乗るタイプですから。大舞台でやってやろうという気持ちは十分持っているでしょうね。

西森 東京予選の1回戦が一色(勇輝)選手だったんですね。それが一色選手の欠場による不戦勝で一気に長島(啓太)選手、吉永(慎也)選手、北野(裕一)選手に勝って代表になって。

古田 このメンバーに勝ってきたのは凄い。一癖、二癖ある選手ばかりです。

朝飛 山下選手の試合を見ていると競った時に上手いというか。審判が「待て」を掛けるときは山下選手が技を掛けて終わっているイメージが強いですね。彼が掛けられて「待て」が掛かっている印象がない。

林 印象を作るのがうまいですね。

朝飛 高校選手権の決勝も蓜島(剛)選手が「指導」を取られていて、最後技で取られて負けているんですね。やっぱり蓜島選手の方が強いかなあと思いつつ、実は試合自体はずっと山下選手のペースで流れていた気がするんです。本当にうまい。また、試合巧者の吉永選手に勝つということは、相当頭の中の整理ができていないと難しいですから、かなり考えて柔道をしている選手だと思います。

西森 相手の河坂選手は29歳で初出場。松山大学出身、実は四国選手権に出たのも初めて。

一同:へえ

西森 高校が宇和島東高校で、中学校時代は60kg級で全国大会も出たこともなく。高校入ってからも、監督がとにかく太れ太れと数時間ごとに納豆とかプリンとかを食べさせて。で高1の終わりくらいで81kg級になって。それで高3は90kg級で四国大会出場と。

朝飛 いいですねえ。そういう話。ちょっと話外れますけど。

古田 どうぞどうぞ

朝飛 地方の選手の活躍は本当に良いですね。もちろん中央にきて大人数の稽古で強くなるのもいますけど。地方でそういう先生方の熱が詰まって詰まって、出てきている子っていうのは分かりますよね。掛け合いの言葉とかを見ていても。

古田 河坂選手のキャリアは夢がありますよね。最高の舞台でありながら、辿り着く道が一つでないというのが、全日本選手権の夢のある部分だなと。それを体現している選手の一人だなと思います。意外と今回はそういう選手が多いですよね。

西森 さっきの岡山の清山選手とかもそうですし。

古田 本当に夢がありますよね。

西森 初出場が多いんですね、今回。

林 25人います。

古田 凄い!(資料を見て)本当だ。「初」がずらーっと。実は中堅以降の勢力図がガラッと変わった大会でもあるんですね。なるほど、節目の大会でもあるんですね。

林 若い選手も多い!

西森 現状で言うと、東京一極集中という状態ですね。東京予選のレベルが突出して高いので、考え方として、国体のように中学高校の出身県から予選に挑むことを認めるのも全日本選手権のさらなる活性化という意味では面白いと思います。ただ、そうすると今地方で頑張っている選手にとってはますます夢の舞台は遠くなるなという思いもあります。まだまだこれから議論の余地がありますね。

古田 現場の選手達はひしひしと感じているのに、意外と話題に上らない話ですよね。

林 最近結構、出てきていますよ。雑誌「柔道」の「全日本選手権座談会」(プログラムにも掲載)でも提起されていました。

古田 中央の強豪が地元から出れば、それはそれで地方予選も盛り上がると思うんですよね。

西森 まあうまくいけばですね、そういう刺激になると思うんですけど。・・・20年ぐらい前ですとね、超級の学生王者が地方に戻って県警からでたら予選勝てなかったなんて例もありました。

朝飛 ありましたねえ!すごく有名な話が一つあって。

林 ・・・名前が出しがたいですね。

一同 (笑)

林 学生時代に中央にいたけど、就職で地方に行って、頑張った人は何人もいましたよ。でやっぱり全日本に出てくると、一癖も二癖もある面白い柔道になっているんですよね。自分の柔道に磨きをかけて、極めていく柔道家。中村均先生とか。

西森 近い所で言うと九州電力の江上(忠孝)さん。

朝飛 ああー!すごかったなあの柔道は。

林 袖を持たれたら最後でしたね。本当に強かった。

古田 続く試合も、地方から勝ち抜いてきた初出場選手が登場。東北の福島県警察・増子雄太選手が、近畿・田中大貴選手と戦います。増子選手は田村高から鹿屋体育大。この選手も大学時代に大活躍したというタイプではないですね。

西森 学生体重別は九州代表で出ているんですが、初戦で東大の田上(創)選手に敗れています。去年の全国警察大会は初戦で五十嵐選手に敗退。

古田 東北予選で、制野(龍太郎)選手を破って優勝しているのが凄い。田中選手は実力者。勝敗的には田中選手でしょうか?

朝飛 田中選手が強いと思います。

林 間違いなく強い選手と思うのですが、今のところ、全日本選手権の舞台ではそんなに輝けていないのが不思議です。

古田 地区予選の戦いぶりを聞くと毎回相当やるだろうと期待するのですが。

林 大学1年か2年で大けがをして、3年のときに体育系大会で復活して、大学時代の終盤はとても良かった。

古田 それこそ「門番」みたいな人になれるかもしれないなあ、と思っています。

西森 うん、門番級の活躍を期待したいです。

朝飛 ちょっと大きくなっているみたいですね。前まで115キロぐらいで、今130キロぐらいですか。

古田 田中選手が135キロは結構イメージが違いますね。田中選手は切所の技が切れる選手なので、大きくなってもそれが出るかはこの試合で見たいところではありますね。

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石川竜多。選抜体重別では熊代佑輔と激戦を繰り広げた。

古田 ・・・そして、石川竜多選手と郡司拳佑選手の試合。これはまた魅力的な対決です。

朝飛 郡司選手は慶應の私の教え子です。旭化成にいってですね、身体も10キロぐらい大きくなって。いい体になってます。中村先生に聞くと、よく攻めるようになって、前まではムラのある選手だったんですけど、今は力をつけてきたということで。破壊力はありますね。うまく組み立てるということは難しいかもしれませんが、大外刈で一発持っていく力はあるかなと思いますね。石川選手もこの間の選抜体重別では熊代選手と非常に良い試合をしていました。先に「指導2」を取っていたんですね。最後は逆の一本背負投で投げられたんですね。

古田 ケンカ四つですが、どちらもわりとケレン味なく大技を仕掛けていくという印象です。

朝飛 そうですね。たぶん郡司選手の方が下から持って跳ね上げていくんじゃないかな。石川選手もかわしながら、この間良い技入っていたんで。

西森 ここも好試合が期待できるところですね。体格、体型的にも同じぐらいですし。

古田 どちらもパワーありますしね。郡司選手がその、こちらがまさしくちょっと弱点かなと思っていたムラ気と線の細さというのが解消されたという点で大いに期待したいですね。石川選手はむしろ昔から異常な体幹をベースに勝ってきた人ですが、好試合に期待ということで。勝敗は仮にですがどうしましょうか?

西森 まあ実績的には石川選手で良いのではないでしょうか?

林 朝飛先生としては郡司選手ではないですか?

一同:(笑)

朝飛 良くなっているのをここで見たいというのはありますね。

古田 そして、石内裕貴選手に大辻康太選手というこれまた渋い対戦となります。

西森 石内選手は九州で七戸選手に勝ったんですよね。七戸選手が手首を痛めて両膝をついたままタイムをアピールしたところをパッと絞めて勝ったんですよ。

朝飛 七戸選手は相変わらず人が良いことやっていますね。・・・石内選手の右の小外刈ですか。胸付けて入ってくるあの技は強いですよね。天理っぽいなあって思います。凄くセンスが良いですよね。

古田 天理っぽいセンスある柔道の石内選手に対して、試合巧者の大辻選手という構図で宜しいでしょうか。

朝飛 大辻選手は高校入学してきたころは、そんなに力もなくてなかなかレギュラーになれなかったんですが、結果的に一番強くなりましたよね。動いて動いてよく練習するうちに身体もだんだん大きくなってきて。

古田 学生体重別で優勝したのは4年生でしたか。

林 4年生ですね。あの頃は81kg級ですが、いまは90kg級。練習は桐蔭横浜大でやっているんでしょうか?

朝飛 桐蔭横浜の練習に行くとよくいらっしゃいますね。学生より練習してるんじゃないかな。

古田 大辻選手も卒業してから、関東選手権で優勝したり、続けて実業に出たり、意欲満々な柔道人生ですね。

朝飛 大辻選手は毎年よくなっているんですよね。

林 しかも近畿から出て来ているんですよね。近畿から全日本に出てくるのは本当に大変ですよ。

古田 倉橋(功)選手に勝って来ているのだからすごい。倉橋選手も右、石内選手も右。大辻選手がうまいことやってしまう可能性も十分にあると思うんですよね。石内選手の破壊力が勝つか、ケンカ四つで担ぎも効く大辻選手の試合巧者ぶりが勝つか。

西森 どっちもまだ上がり目で力を伸ばしているところですから、なかなか予想もしがたい。

林 難しいですが、大辻選手が二回目ということで場慣れの分があるということでどうでしょう。

古田 では、大辻選手予想で行きましょうか。次は大学1年生、神垣和他選手と関東・地崎亮介選手の対戦。

林 やっぱり地崎選手がうまく戦う気がします。

古田 この試合はケンカ四つ。神垣選手は担げますが、割とパワー勝ちが前提の印象もあります。どうでしょう。

西森 出足払とか小外刈がうまいですね、神垣選手は。

朝飛 うまいですね。前に行くふりしての足払い。

西森 とはいえ、地崎選手には厳しいでしょうか。

朝飛 地崎選手の揺さぶりがきつそうですね。神垣選手は綺麗で面白い柔道しますけど、コロッと転ぶときもよくありますのでね。

古田 地崎選手は警察の一線、その経験と地力を買ってということですね。

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3度目の出場となる一戸勇人

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猪又秀和は11度目の出場

古田 一回戦最終戦は北海道・一戸勇人選手と北信越・猪又秀和選手ですね。

西森 やっぱりこれは味わい深い。一戸選手はいわゆる上鍵(泰弘・全国少年大会個人戦連覇、全国中学校大会団体戦・個人戦優勝)世代。北海道の子なんですけど大阪の米田道場に行って。小学校の時から全国的に有名な選手で。その頃は相対的に大きかったんですよね。で国士館に進んで、高校時代は団体戦の6番手くらい、金鷲旗では先鋒で抜いて、でも決勝は出ないみたいな立場でした。大学も最後は全日本学生体重別1回戦で負けています。それでも北海道警察に戻って続けて、なんと全日本選手権に3回出ると。小学校時代から長く見てる人ほど感慨深いと思いますね。彼は小学校時代に非常に強かったので、逆にある意味どこで心折れてもおかしくない。そういうキャリアという面もあると思うんです。しかし、全日本選手権の晴れ舞台に3回出てくるわけです。今回は悲願の初勝利を目指しての戦いです。

朝飛 それで、対戦相手の猪又選手は反対ですよね。中学から始めて、中学2年生か3年生の時に専門の柔道の先生が来たんですよ。その時がターニングポイントで、よし柔道やるっていって。やっぱり持ってるものが良いものだったので、強くなりましたよね。

西森 11回目ですからね。息の長い選手になりましたよね。

朝飛 いやあ、11回は出れないなあ。

林 一回途絶えているんですよ。その時にもうダメかなとも思ったのですが、また頑張って出てきてくれました。嬉しいですね。

西森 猪又選手も小さい選手を捌くのが上手いですからねえ。足が効くから、内股フェイントの小内刈とか。

古田 勝敗的には猪又選手でしょうか?

西森 でも一戸選手の過去2回も決して悪い柔道ではなくてですね。序盤「指導」とってリードして、とても惜しかったんですね。

古田 覚えています。心の中で応援していた試合でした。・・・では仮に猪又選手ということにしておいて、一戸選手の奮闘に期待しましょう。


(つづく)

→全日本柔道選手権予想座談会「全日本を語りつくす」(中)
→全日本柔道選手権予想座談会「全日本を語りつくす」(下)

※この座談会は4月17日に行われました

※ eJudoメルマガ版4月27日掲載記事より転載・編集しています。

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