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用兵嵌った天理が桐蔭学園に完勝、国士舘は隙を見せずに東海大相模退ける・第40回全国高等学校柔道選手権大会男子団体試合マッチレポート⑤準決勝

(2018年4月17日)

※ eJudoメルマガ版4月17日掲載記事より転載・編集しています。
用兵嵌った天理が桐蔭学園に完勝、国士舘は隙を見せずに東海大相模退ける
第40回全国高等学校柔道選手権大会男子団体試合マッチレポート⑤準決勝
文責:古田英毅
撮影:乾晋也、辺見真也、古賀恒夫

■ 準決勝
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第1シードの桐蔭学園高

第1試合は今年度大会の大山場。連覇を狙う第1シードの桐蔭学園高と第3シードの天理高、優勝候補同士の激突だ。
桐蔭学園は12月の冬季招待試合シリーズ出場全大会で優勝、一方の天理は桐蔭学園が出場しなかった最終戦の若潮杯武道大会を制すという「すれちがい」を経ての、これが今シーズン初顔合わせ。前日の個人戦無差別を制した超大駒中野寛太1枚を擁し、これを規律高い周辺戦力が囲んで堅陣を組む天理、一方村尾三四郎、賀持喜道、千野根有我とタイプの違うポイントゲッター3枚を擁する桐蔭学園。タイプまったく異なるこの両チームの対戦は、大会前からその実現が渇望された花形カードだ。

中野は抜き試合における「最強の手札がある場合」の王道である大将配置が濃厚だが、天理は近畿ブロック大会決勝で中野を敢えて先鋒に投入し、粘戦を図る相手の意図を挫く5人抜きの力相撲を演じた来歴もあり。「前出し」で桐蔭を抜きに抜きまくろうという作戦も考えられないではない。

一方の桐蔭学園が採るべき作戦の主眼は3枚をどう分散、あるいは集中して配置するか。前日の個人戦無差別決勝で村尾が中野にGS延長戦大内返「一本」で敗れたばかり、単に「個人対個人の戦いがそのままチームの勝敗を決める」ステージに持ち込むだけでは相当に苦しいものがある。前日の、延長戦における「後の先」の返し技決着という内容はどちらかが絶対に勝たねばならない個人戦の、それも延長サドンデスというバックグランドが大きく影響しており、ゆえに団体戦に単にその勝敗を持ち込んで考えることは妥当性を欠く。が、少なくとも「引き分けは可能だが、抜くのは難しい」とまでは解釈しておくべき。
中野に枚数を掛けるのはもちろんのこと、最後に中野を止める役が村尾、あるいは千野根しか務まらないことを前提に、まずどちらにどうその役を担わせるべきか、中野を前衛と読んで分散するのか後衛配置と考えて2人をまとめるのか。賀持の負傷と5番手戦力の脆弱さで切れるカードが少ない中、相当タイトなかじ取りが求められる。

開示されたオーダー順は下記。

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準決勝に臨む天理高。エース中野寛太を副将に置いた。

[第1試合]
桐蔭学園高(神奈川) - 天理高(奈良)
(先)高山康太 - 水上世嵐(先)
(次)千野根有我 - 植岡虎太郎(次)
(中)賀持喜道 - 池田凱翔(中)
(副)安藤健志 - 中野寛太(副)
(大)村尾三四郎 - 井上直弥(大)

両軍の布陣通じてもっとも目を引くのが、天理のエース中野寛太の配置。絶対の大駒であるこの選手を最後衛ではなく、そして近畿ブロック大会決勝で見せた先鋒投入のような前衛の派遣でもなく、1ポジションだけ前出しして副将に配置。大将には、大型の1年生ポイントゲッター井上直弥を置いた。

桐蔭学園の側は苦しい台所事情の中、相当巧みに布陣した。この日絶好調の高山を先鋒に置いたうえで、前衛の「抜き役」に千野根有我を指名、次鋒に派遣してまず出来得る限り抜いてしまおうという作戦だ。続いて中盤の賀持と安藤で相手の駒、出来得れば想定大将の中野に消耗を強い、最後は村尾の粘りに掛けるという2ブロック作戦であり、同時に中野が前後どちらに来ても対応できる2方面作戦でもある。充実の千野根を攻撃カードに指名、怪我をしていても長所である巧さは発揮できるはずの賀持に攻撃ではなく相手を削る役を想定、シナリオ通りに進めば安藤は畳に立って粘るだけで自軍のシナリオ進行に寄与するはず。

しかし、天理の陣形がこの桐蔭学園の意図を既に相当減殺した感あり。次鋒には中量級3枚のうちもっとも信頼できる植岡虎太郎という「止め役」を置いて、村尾であっても(植岡は昨年この大会で村尾から一本背負投でポイントを奪って勝利した来歴あり)あるいは千野根が来てもここで1回止める。取り味が相性にかなり左右される植岡だが次鋒配置であれば先鋒同士での潰しあいで消えることなく、抜かれて来た展開でも確実にポイントゲッターと当てることが出来るはず。そして、なんといっても中野を1ポジション前出しした「置き大将」作戦が利いている。「中野と分けても試合が終わらない」状況は、その後の井上戦の展望どうあれ、かつかつの戦力を集中して中野に当たらんとする桐蔭学園の戦闘モチベーションを相当に削るはず。ケンカ四つながら、井上が桐蔭学園の「千野根以外」が嫌う巨漢重量選手であることも、この無意識下におけるモチベーション減殺という現象に相当寄与するのではないか。もう1ついえば、植岡と井上のうち、どちらを「置き大将」にするか、どちらを「前衛の防壁」として派遣するか、桐蔭学園の選手構成を考えれば植岡が前、井上が後というこの天理の選択は相当巧みだ。桐蔭の前衛の抜き役が期待される千野根にとっては相四つ重量級の井上は比較的戦い易く、一方村尾は大型のほうがハードルが高く、かつもし井上との対戦が実現するとすればその時点で消耗しきっている可能性が大。

とまれ、両軍の陣形最大の特徴は中野の副将配置であり、そしてこの盤面から導き出される両軍通じたキーマンは明らかに千野根。千野根が植岡という「置き石」を突破するだけでは桐蔭学園にとっては満足のいく仕事にはなりえない。何枚抜くのか、どこまでいけるか、天理にとってはどこで止めるか、どれだけ仕事をさせないかがこの試合の勝敗を分ける。

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高山康太が左内股、水上世嵐は宙を舞いながら右背負投の形で抵抗

先鋒戦は高山康太が左、天理・水上世嵐が右組みの相四つ。開始から高山がラッシュ、釣り手の肘をねじ込んで形を作ると、開始15秒に左内股、引き手で袖口を握り込むなり再び26秒に左内股、続いてまたもや引き手を確保、釣り手を巻き返して完璧な形を作るなり50秒に左内股、体ごと投げんと軸足ごと前に飛ぶ強烈な一撃を見せる。いずれも水上かわし、最後の一撃も崩れ切らずに、どころか宙を飛びながら両の手を背負投の形に操作して投げ返そうとする強気。結果水平に浮いた両者が畳に落ちる体で「待て」。

そしてこの猛攻をすべて跳ね除けたことで水上は以後むしろ余裕を持って攻防する印象。高山の「巻き返し」は右背負投を2連発して脱出、1分2秒に高山が両襟で放った左大外刈はそのまま返してあわやポイントという場面を作り、1分26秒の「抱きつき」は応じ返して抱き上げ、逆に右大腰を狙う。

以後も、高山が前に出て左内股、水上が右背負投で応じるという展開が続く。高山の技はどれも取り味十分だが、とにかく水上は揺るがない。高山の左内股3連発をいずれも右背負投に切り返し、前に出てくれば逆に抱き留め、2分13秒の左内股はもはや慣れたとばかりに前に突き飛ばす。それでも高山の攻撃意欲衰えず残り30秒にひときわ思い切った左内股もいったん浮いた水上降りるなり右背負投に切り返して攻防収束。高山続けて両襟の左内股、手ごたえを感じて決めに出るが水上に振り返されて窮地となり、ここに至ってさすがに意欲減速。最後は両袖から水上が右袖釣込腰、高山が左内股と一合刃を交えて、この試合は引き分けに終わる。

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千野根有我が植岡虎太郎を攻める

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植岡は右一本背負投で試合を散らしに掛かる

第2試合はこの試合のキーマン千野根有我、天理の植岡虎太郎ともに右組みの相四つ。千野根が引っ掴んだ右釣り手を植岡体重を使ってしっかり落とすが、千野根は敢えて切らずそのままジワリと体を寄せる。植岡右背負投を見せるが千野根は敢えて「させたまま」かえってにじり寄り、距離が詰まると右大外刈を狙う。植岡右小内刈、さらに29秒思い切った右背負投で1度展開を壊しに掛かるが千野根は背筋を伸ばしたまま揺るがず「待て」。

千野根、引き手で襟を掴んで体を寄せると右大外刈。植岡低く構えてやり過ごすと右小内刈を2連発、次いで思い切った右背負投。千野根これは体が乗りかかるがそれでもバランスは失わず、押し込んで返しを狙って1分4秒「待て」。千野根大枠優位も植岡が1つ抵抗を見せて橋頭保を築いたという情勢。

千野根再び奥襟を引っ掴んでジワリと寄せる。植岡首を抜いてしまうが審判はスルー、千野根はペースを上げる必要を感じたか右大外刈、次いで右内股と思い切った技を繋げて植岡は腹ばい。直後主審は植岡に消極の「指導」を宣告。経過時間は1分38秒、残り時間は1分22秒。

千野根が勝利するには最低でもあと1つの「指導」が必要。以降は植岡は一本背負投に、これまでと質の異なる組み手の「やり直し」で試合を散らしに掛かり、千野根がそれをさせまいと二本を持って寄せるという構図。波風立てることで時間を使いたい植岡、逆に圧力高く水面を荒らさず一発を狙いたい千野根。千野根が寄せては両襟で圧力、あるいは腰を切っての右内股フェイントで優位を確定し掛かると、植岡が小内刈あるいは座り込みの背負投で出来上がりつつあった千野根優位の状況をいったん攪拌してしまうという体で、気づけば試合時間は残り僅か30秒。

ここで引き分けとなればダメージを負うのは明らかに桐蔭学園。窮地のはずの千野根しかし顔色を変えず、あくまで寄せ続けて大外刈の鉈を振るうこれまでの戦いを粘り強く継続。寄せ続けると脅威を感じた植岡が思わず切り、千野根はさらに引き手で襟を掴んで前進。ここで思い切った右大外刈を放つと植岡が足を抜いて回避、後方に逃れて距離を取る。主審ここで千野根の攻勢を認め、残り13秒ついに植岡に「指導2」。

あきらめずに寄せ続け、掛け続けた千野根にこの試合は凱歌。千野根、難敵植岡を僅差の優勢で突破してまず1人抜きを果たす。

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池田凱翔が先手攻撃で千野根有我を封殺

桐蔭学園1人差のリードをバックグラウンドに行われた第3試合は、畳に残った千野根と天理の中堅池田凱翔ともに右組みの相四つ。盤面を眺めれば千野根が中野まで辿り着けるかどうかが現時点でこの準決勝最大のポイント、つまりはこの第3試合が間違いなく分水嶺だ。

千野根は引き手で襟を握って前に出るが、池田は間をおかず低い右背負投、しかもそのまま立ち上がって引き手で袖を掴むなり袖釣込腰に飛び込んでやる気十分。先に掛け、安易に潰れて展開を切らずに仕掛けを続けて投げを狙う。千野根に形を作らせぬまま終えたこの最初のシークエンス14秒を見る限り、勝利必須の使命を帯びた千野根のミッション達成は相当ハードルが高く見受けられる。

千野根続いて引き手でまず袖を得るが、池田は片手の右袖釣込腰に潰れていったん回避。千野根良くない流れを感じて再び引き手で襟、敢えてそのまま持たせておいて奥襟を叩いてついに自分の形を完成。引き手を袖に持ち替えて、池田の頭を落とす。池田体を振って千野根のリアクションを誘うが千野根あくまで離さず体を寄せ続ける。試合時間1分を越えたところで池田いったん切り、背負投に潰れて「待て」。続く展開も千野根が引き手で袖を得てからスタート、試合展開を引っ張るのは千野根の側だが、池田が左一本背負投を2連発してこの形を剥がすと主審が試合を止める。下した裁定は主導権を執りつつも具体的な技の出ない千野根の消極性を採った「指導」。残り時間はこの時点で1分29秒、千野根は勝利に近づくどころか、奪うべき反則の数、挙げるべきポイントでかえってそのハードルを上げてしまう形となった。

勝負の綾を良く心得た池田、ここが大事とばかりに再開後まず早めの技出しで攻撃。まず釣り手を得、引き手で襟を掴みながら座り込みの右背負投。続いて放った片手で体を捨てての右袖釣込腰は掛け潰れが疑われかねないものであったが、中途でその危険を悟った池田はそのまま立ち上がって小内刈一発、偽装攻撃の反則を回避し攻めを継続、あくまで展開を留保。

残り1分、千野根が思い切り奥襟を叩くと池田明らかに嫌うこと2度、いったんは片手の右背負投で脱出したものの残り26秒に背負投で潰れてしまいやや情勢不穏。しかし池田、事ここに至ればたとえテクニカルファウルを2度犯しても千野根に形を作らせるリスクを負うよりは遥かに上策。続いて片手の右背負投に座り込んで偽装攻撃の「指導」を貰うが、スコアはこれで双方が「指導1」ずつ、残り時間は僅かに17秒。池田もはや「取り組まない」反則は覚悟で千野根の間合いに入らず、徹底して相手から離れて組み合いに応じず。このまま試合は終了し、大事な第3試合は引き分けとなった。桐蔭学園の1人差リード変わらず、というよりは、「天理が中野に辿り着かせずしっかり千野根を止めた」という一番。盤面はここで大きく天理の側に傾く。双方のエース登場前の「お膳立て」は桐蔭学園の不首尾、盤面を理解し切った天理の前衛3枚の奮闘により、スコア上は桐蔭学園リードも戦況は明らかに天理にあり。

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天理の副将中野寛太が桐蔭学園の中堅賀持喜道を出足払で攻める

いよいよ天理のエース中野寛太が畳に登場する第4試合は桐蔭学園の中堅賀持喜道、天理の副将中野ともに左組みの相四つ。

賀持は横変形に位置をずらして組み合うが、中野委細構わず前進して足を飛ばす。18秒、25秒とこの形から賀持が潰れること早くも2度。簡単に組み合っては不利と賀持両手を出して展開の減速を図るが、中野の前進止まらず。引き手で袖を得て奥襟を掴むとそのままの勢いで前へ、賀持下手に止めてはかえって窮地とこれを受け入れてあっさり畳を割ってしまい、39秒賀持に場外の「指導」。

このアドバンテージは試合巧者を相手になるべくリスクを冒さず勝ち抜こうと企図する中野を大きく利することになる。直後の42秒には中野の突進を賀持がまたもや両手を出して止め、双方に両手を握り合わせた咎による「指導」。2つ目の反則を受けた賀持は早くも後がなくなってしまう。

中野は前へ。掴んでは腰を切って賀持を潰すと、続いて前に出て、抱き、大外刈を仕掛け、抱いたまま場外へ賀持を運び、圧倒的な試合ぶり。続いて1分過ぎに引き手で襟、釣り手で奥襟を確保する完璧な形を作り出し、前技フェイントの支釣込足を呉れると賀持再び畳を這う。主審は中野の圧倒的な攻勢を見て試合を止め、1分31秒賀持に3つ目の「指導」を宣告。ここで試合は終了となり、中野の勝利が決定。天理が1人を抜き返した形で、ここでスコアはタイとなる。

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開始6秒、中野が安藤健志から「技有」

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中野は左内股「一本」に安藤を静め、2人抜き達成

第5試合は副将同士がマッチアップ。畳に残った中野に、桐蔭学園の5番手選手安藤健志が挑み掛かる。

試合が始まるなり中野組み手争いなしに袖を引っ掴んで左袖釣込腰、内股様に足を挙げて回旋をフォローして投げ切り「技有」。ここまで僅か6秒、少しでも長く畳に居残りたい安藤のモチベーションをいきなり削ぎ落す速攻。安藤左一本背負投を繰り出してなんとか攻防を成り立たせんと図るが中野は背筋を伸ばしてまったく揺るがず。安藤が右大外刈を仕掛けて自ら潰れた22秒、偽装攻撃の「指導」。

中野は一種鷹揚に、しかし密度の高い攻撃への圧力は一切緩めずフェイントの支釣込足に左内股と試合を決めるべき技を1度、2度と断続的に叩き込む。安藤は左一本背負投に掛け潰れて時間を使うのがやっと、ちょっと畳に立っていられない印象。

44秒、安藤が右体落を仕掛けると中野はこれを引きずり出して左内股。体を前隅に完全に崩された安藤一瞬でグシャリと崩落「一本」。

これで中野は2人抜き。天理は目論見通りここで逆転、この試合初めて1人差のアドバンテージを作り出す。後がなくなった桐蔭学園は大将村尾三四郎が登場、ここに前日の個人戦無差別決勝カード、中野寛太対村尾三四郎のビッグゲーム再現なることとなった。

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村尾三四郎と中野寛太、個人戦無差別の決勝カードが再現。村尾は片襟を駆使して巧みに攻める。

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村尾の大外刈を中野が抱き返し、裏投を試みる。

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村尾は巧みな組み手と組み際の技で、前日とは一味違った戦いぶり。

桐蔭学園の大将村尾、天理の副将中野ともに左組みの相四つ。村尾は勝利が必須、中野は引き分ければチームの勝利が決まる立場。

村尾は両袖を確保、ここから釣り手で奥襟を得ると引き手で袖を折り込んでほぼ100-0で優位な形を作りだす。中野ここは撤退がベストと判断したか、自ら潰れて「待て」。

村尾は組み際の左大外刈を一撃、さらに引き手でまず襟を掴んで中野をゆすり出そうと試みる。中野が嫌って腕を下げるとそこに左大外刈、さらに左背負投と技を継ぐ。中野その立ち際に出足払を呉れていったん体勢を立て直す。経過時間は43秒、村尾は前日の対戦から学んだが、かなり戦い方を変えている印象。組み際の技、左右の片襟のコンビネーションを生かした組み手、足技、連続技に左右の動き。

村尾は相手の肘を殺しておいての左大外刈、さらに良いタイミングの左内股を放って攻勢。相手をゆすり出しながらの左大外刈は中野が読んで呼び込み返さんとしたが、これに怖じずに引き出しの左小内刈に片襟を差しての上下の煽りと攻め続けると組み手の手がかりを失ったままこれを受けた中野が畳に潰れる。続くシークエンス、村尾が組み際に片襟の左背負投、さらにその形のまま左大外刈に打って出る。中野が抱き上げて返し、これに村尾が被り返すというエキサイティングな攻防が生まれたが、ここで主審は形上受けに回った中野に消極的との咎で1つ目の「指導」。経過時間は1分55秒、残り時間は1分5秒。

引き分け前提で自分から波風立てることなく試合を進めて来た中野だが、さすがにここは攻めを繰り出さざるを得ない。2分34秒、引っ掛けるような左大外刈を見舞うと村尾下がりつつ良いタイミングで大外返を狙い「待て」。村尾さらに片襟の大外刈、同じ形からの左背負投と組み際の技を2連発するが、中野は潰して寝勝負に持ち込む。

試合巧者の中野がこれでしっかり時間を使い、「待て」が宣告された時には残り時間僅か11秒。村尾は一本背負投の形に腕をまとめた左大外刈を2連発、やや疲労した中野がこれを捌いたところで熱戦3分間が終了。この試合は引き分けに終わり、スコア一人残しで天理の決勝進出が決まった。

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桐蔭学園は2連覇ならず。この準決勝で姿を消すこととなった。

天理高(奈良)○一人残し△桐蔭学園高(神奈川)
(先)水上世嵐×引分×高山康太(先)
(次)植岡虎太郎△優勢[僅差]○千野根有我(次)
(中)池田凱翔×引分×千野根有我(次)
(副)中野寛太○反則[指導3](1:35)△賀持喜道(中)
(副)中野寛太○内股(0:44)△安藤健志(副)
(副)中野寛太×引分×村尾三四郎(大)
(大)井上直弥

まず冒頭書いた通り、天理の作戦勝ちという側面が強い一番。桐蔭学園は相手方のエース中野が前に来ても後に控えても対応出来る2ブロック作戦を採ったが、副将前出しという天理の策にまずその意図を削がれた感あり。エースの副将配置は長い「抜き試合史」の文脈の中では十分ありえる策ではあるが、少々意外な用兵であった。これは直前インタビューなどから推察する限り、両軍指揮官の井上直弥に対する見積もりの温度差が出たという印象あり。齋藤涼監督の井上に対する信頼の高さが、高松正裕監督の見積もりを上回った、スクランブル時にはもう1回中野に繋ぐ仕事を託すだけの評価を天理サイドが下していたということであろうし、また、「置き大将」作戦を考えたときに、おそらく前衛で抜き役を担うであろう千野根に、巨漢相四つで学年が下の井上が「噛み合ってしまう」ことを避けたとも観察できる。もし井上が派手に取られるような事態があれば、桐蔭学園を勢いずかせてしまうはず(同監督は近畿ブロック大会時も、試合の「流れ」にかなり気を配って布陣を考えていた)。であれば人数が掛かっても中量選手が「サラミスライス戦術」的に千野根の肉を少しずつ削り取ってベンチまで下げる策を採ったほうがいい。齋藤監督が「ポイントゲッター3枚」と評する中野、植岡、井上のうち、前衛に派遣したのが植岡、置き大将に井上という配置にはこのあたりの心情が非常に匂いたつ。齋藤涼監督、見事な用兵であった。

桐蔭学園は、村尾が戦い方を変えて中野を攻めこむなど、最大の山場と思われた頂上対決で善戦。これを考えれば賀持が負傷中のこの状況でもやり方次第でなお勝利の可能性はあったが、この並びであればやはり千野根にもうひと働きがないと厳しかった。植岡相手に誠実に、しつこく寄せ続けて試合を流させず勝利をもぎとった働きは見事であったが、チーム事情からすればなお足りない。ミッション達成とは評せぬ不完全燃焼であった。

少々評が散らかってしまったので、簡単に整理してもう少し書きたい。なにしろこの対戦は今大会の花形、用兵上の旨味がいっぱいなのだ。

まず、なぜ千野根と村尾を並べて起用しなかったのか。もっとも威力を増す作戦の一つであり、後衛中野を想定するのであれば大駒で連打して消耗を強いるこれは有力な策。というよりも、中野攻略のみを考えれば実はこの2枚連打以外に採るべき策がないくらいのものだ。千野根が削って、村尾が抜く。あるいは千野根が止めて、以降を村尾が引き受ける。

まず1つ、「前で中野」の可能性が残る以上桐蔭学園はこの用兵に舵を切ることが出来なかったのではないか。近畿ブロック大会で中野を先鋒に起用し、オーダーの柔軟性を見せつける策に出ていた天理の「作り」が、桐蔭学園に2方面作戦を強いた、それゆえの戦力分散であったと考える。もう1つ言えば、賀持負傷のこの状況では、千野根と村尾を後衛にまとめた場合、前衛に後半戦まで試合を持ち込むだけの攻撃戦力が決定的に足りない。失点、あるいは精神的にダメージをもたらす「悪い流れ」でのスタートを、忌避せざるを得なかったかと推察する。

なぜ千野根の配置は次鋒だったのか。1つには、中野前衛派遣の場合に、中野との対戦確率を上げるため。もう1つは、中野が後衛を務める場合の天理の先鋒を植岡と読み、高山と心中させて千野根の負担を軽減するつもりだったのではないだろうか。ここにも、天理の「植岡次鋒」の巧みさが再確認出来る。

とまれ、総合力では天理が上であったと総括すべきだ。勝利に至る道筋と布陣のパターンをそれぞれの側で考えていくと、天理勝利のシナリオ数が桐蔭学園のそれを大きく上回る。中野の存在をテコにほぼほぼ順行運転で試合を進めれば勝利に手が届く天理に対し、桐蔭学園の側は用兵と筋書きが狭い範囲にピタリと嵌らねば勝利が覚束ない印象であった。惜しむらくはやはり賀持の負傷で、この選手が絶好調時のような体格差を跳ね返す働きが出来る状態であれば、控えめに言って桐蔭学園が採り得る戦略はかなり増えたはず。天理の中量級勢がことごとく賀持にとって戦い易いケンカ四つであったこともこの「たられば」観測を加速する。本来賀持は天理の中量級勢を抜くべく配される攻撃の駒として機能すべきであったし、あたかも素駒であるかのように形上試合を消費することが仕事になったこの配置はチームにとっても本人にとっても酷。三枚ポイントゲッターを擁する強豪対超高校級の重量級エースを擁する2チームという近年稀な構図の豪華大会の妙味が、大会前に削がれてしまっていた感あり。勿体ない事態であった。

桐蔭学園にとっての好材料は高山の活躍。賀持負傷という待ったなしのスクランブルが土壇場でこの選手の意識を大きく上げたように見受けられる。「3枚以外」の底が上がればやはり桐蔭の戦力は魅力的。新入生に重量級の強豪選手加入の報もあり、夏に向けてもうひと勝負掛けられるだけの伸びしろはまだまだ十分だ。奮起に期待したい。

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混戦ブロックを制して準決勝に辿り着いた東海大相模高

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先鋒戦、谷内竜太郎が藤永龍太郎を肘抜きの右背負投で攻める

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藤永は都度しぶとく寝技で攻めこみ、谷内は徐々に手が詰まる印象

[第2試合]
国士舘高(東京)○二人残し△東海大相模高(神奈川)
(先)藤永龍太郎○優勢[技有・小外刈]△谷内竜太郎(先)
(先)藤永龍太郎×引分×山本銀河(次)
(次)安藤稀梧×引分×大村康太(中)
(中)道下新大×引分×成澤登夢(副)
(副)斉藤立○横四方固(2:18)榎田大人(大)
(大)酒井陸

準決勝第2試合は国士舘高が快勝。トピックは今大会初めてエース斉藤立が畳に立ったことだ。

国士舘は前戦と相似の布陣、道下新大と酒井陸の位置のみを入れ替えて配置したが大枠の戦略意図は変わらず。一方の東海大相模はこの試合も大将にエース榎田大人を置いてこの大一番に臨んだ。

先鋒戦は藤永龍太郎が左、谷内竜太郎が右組みのケンカ四つ。藤永は巧みな組み手と左内股でまず主導権を確保、一方戦力差を考えればまずここで一撃呉れて試合を掻きまわしたいはずの谷内は肘抜きの右背負投で攻める。しかし潰れたところをことごとく藤永にしぶとく寝技で攻められて窮地、徐々に手が詰まる。それでも最終盤まで辿り着いたが、引き分け濃厚と思われたこの時間帯に藤永得意の足技が閃く。残り15秒、谷内が股中に右体落を落とす「崩し技」に出たところを左小外刈に切り返し鮮やか「技有」。これで第1試合は国士舘の手に落ちる。

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第2試合、山本銀河が左内股巻込も藤永は揺るがず

第2試合は藤永が、左相四つの山本銀河と対峙。序盤はがっぷりの組み合いが頻発、上背に勝る山本が一見有利。クロス組み手と左内股で主導権を握り掛けるが、藤永は柔らかい受けと巧みな組み手で対抗、中盤以降はリスクをとらず手堅く試合を進める。粛々自身の仕事である「リードしたまま畳を降りる」ミッション達成を目指して巧みに試合を流し、1分45秒、山本に片襟の「指導」、続いて2分5秒藤永に消極的との咎で「指導」が与えられたのみで、この試合は引き分けとなる。

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第3試合、安藤稀梧は巧みな組み手と足技で大村康太に隙を見せず

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道下新大が成澤登夢を大内刈で崩す

第3試合は国士舘の次鋒安藤稀梧が、東海大相模のポイントゲッター、中堅の大村康太と対峙。攻撃力の一方で危うさのある安藤だがこの試合は大過なし。組み勝って足技という手堅い組み立てを軸に、得意の内股で勝負に出る場面もきっちり組み勝った場合のみ。かつ後の先を喰らわぬよう、技の効きを見ては矛を収めていったん展開を切り、大村に追撃の橋頭保を与えず着実に時計の針を進める。チャンス自体が僅少の大村は深く技に入ることが出来ず、2分2秒、大村に偽装攻撃の「指導」が与えられたのみでこの試合も引き分け。国士舘の1人リードは揺るがず。

第4試合は国士舘の中堅道下新大に東海大相模の副将成澤登夢がマッチアップ。戦力的にも試合展開からももはや国士舘の勝利は既定路線、ここまで試合が進むと興味は国士舘のエース斉藤の登場なるかに移った感あり。道下は左相四つの成澤を相手に危なげなく試合を進め、1分54秒成澤に消極的との咎で「指導」1つが与えられたのみでこの試合は引き分け。国士舘は準決勝にして、ついにエース斉藤を畳に送り出すことになる。

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国士舘はエース斉藤立が出場。榎田大人が背負投を仕掛けて粘る。

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斉藤の左内股に榎田が吹っ飛び「技有」

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斉藤が上四方固「一本」。これで国士舘の決勝進出が決まった。

第5試合は国士舘の副将斉藤立、東海大相模の大将榎田大人ともに左組みの相四つ。初めて日本武道館の畳に立つ1年生・斉藤の動きはやや硬く、榎田の組み手と担ぎ技の放列の対応に時間を費やしてしまい具体的なポイントないまま試合は終盤へ。しかし残り1分にならんとするところで斉藤は左大内刈を差し込み、榎田に近い間合いで耐えさせるとここから間をおかず左内股へと繋ぐ。入りを確実に、決めを大きく。運動能力高い榎田だが斉藤が体ごとみずから跳ね上がったその一撃の強さ、そして素早い乗り込みに回避することかなわずこれは「技有」。斉藤そのまま上四方固に固めて「一本」、試合時間は2分18秒だった。

これで全5戦が終了。スコア二人残しで国士舘の勝利が決まった。

国士舘はほぼ文句なしの戦い。勢いをつけること、上位対戦への助走としてチームの雰囲気を醸成することが課題であったこれまでの3戦からシフトチェンジ、優勝というゴールが見えて来たこの段階で「しっかり勝つこと」に舵を切ったように見受けられた。

東海大相模は、4つのブロックの中ではもっとも混戦、しかし絶対的な強者がおらず相対的な戦力が低いDブロックからの勝ち上がり。戦力差を考えればむしろ良く戦ったというスコアではある。しかし5人全員が1試合のみで畳を降りる一方的な結果であったことは事実、ここまで国士舘に激しく抵抗した各チームの頑張りと比較すればやはり残念。どこか総体の敗北を受け入れたような内容と評されても仕方がないところ。一刀浴びせて試合を荒らす、伝統校らしいプライドと覚悟を見せて欲しかった。榎田大人以外が大人しい試合に終始した招待試合シリーズで課題となった、周辺戦力の気迫はこの試合やはりもう一段足りず。春に加入する新戦力に充実が伝えられる東海大相模であるが、夏、そして続くシーズンの戦いに課題を残した一番であった。

結果決まった決勝カードは、

天理高(奈良) - 国士舘高(東京)

となった。

※ eJudoメルマガ版4月17日掲載記事より転載・編集しています。

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