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グランドスラムパリ2018・最終日男子レポート

(2018年2月22日)

※ eJudoメルマガ版2月22日掲載記事より転載・編集しています。
グランドスラムパリ2018・最終日男子レポート
(81kg級、90kg級、100kg級、100kg超級)
■ 81kg級 藤原崇太郎が驚きのワールドツアー初優勝、佐々木健志は初戦敗退に終わる
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決勝、藤原崇太郎がイ・センスをケンケンで追い込み内股「一本」

(エントリー44名)

【入賞者】
1.FUJIWARA, Sotaro (JPN)
2.LEE, Seungsu (KOR)
3.DE WIT, Frank (NED)
3.TATALASHVILI, Nugzari (GEO)
5.MUSIL, Jaromir (CZE)
5.VALOIS-FORTIER, Antoine (CAN)
7.PENALBER, Victor (BRA)
7.IVANOV, Ivaylo (BUL)

上位層が大人数集団を形成して、大会ごとに勝ったり負けたりの混戦を繰り広げている本階級。今大会も、オトゴンバータル・ウーガンバータル(モンゴル)、イ・スンホ(韓国)、フランク・デヴィト(オランダ)、イヴァイロ・イヴァノフ(ブルガリア)、ヴィクトール・ペナウベル(ブラジル)らおなじみの有力選手の上位進出が期待されたが、全員がトーナメントの途中で討ち死に、なんとベスト4には1人も残れず。

もはや81kg級にあっては一種「常態」となりつつあるこの荒れたトーナメントを制したのは、19歳の藤原崇太郎(日本体育大1年)。

この日の藤原は寝技のチャンスが訪れる度にいわゆる「国士舘返し」でしつこく攻め、1回戦ではクリス・ジェンゴウ(フランス)にこの形からの横四方固「技有」優勢で勝利。さらに、続く2回戦でもグランドスラム東京大会2位のイ・スンホを同様の手順を踏んでの横四方固「一本」(2:50)で撃破する。割り切って寝技に舵を切って勝ちを重ねるうちに良い流れに乗ったのか、3回戦では本領発揮、戦術派のセージ・ムキ(イスラエル)を、巧みな組み手管理で完封して「指導3」の反則(GS1:13)で一蹴。以降は準々決勝でペナウベルに右浮腰「技有」(GS3:07)、準決勝でアントワーヌ・ヴァロア=フォルティエ(カナダ)に左体落「一本」(GS1:33)と、2試合連続のGS延長戦をいずれも投げて勝ち抜き決勝へと駒を進める。この日好調のイ・センス(韓国)を相手に迎えた決勝では、試合中盤に相手を場外にケンケンで追い込みながらの左内股で見事「一本」(1:49)を獲得。藤原、初のワールドツアー優勝を、グランドスラム・パリ大会というビッグタイトルで果たすこととなった。無名のアドバンテージがあったとはいえ、見事の一言。率直に言って驚きの結果だ。

今大会における藤原好調の要因は主に2つある。1つ目は寝技で積極的に攻めることで立技における決定力不足が補われ、同時に攻撃に良いリズムが生まれたこと。そして2つ目は、この寝技攻撃で主導権を得たことで、組み手管理で相手を封じ、相手の「出口」に投げを仕掛ける藤原本来の戦い方が展開出来たことである。準々決勝と準決勝、組み手と寝技で相手のスタミナを奪い、自分の力が十分に伝わるようになったGS延長戦でしっかり相手を投げて仕留めている。高校生時代から良くも悪くも老成し過ぎた藤原の柔道は、その「練れ過ぎている」という一点により成績に比してその伸びしろを認められることが少なかったかと思われる。しかしシニアでこの戦い方が通常するとなれば、今後の展望いきなり大きく開けたのではないだろうか。選抜体重別に永瀬貴規がエントリーせず、他に国際大会で結果を残したものが一切いないこの状況では、今夏の世界選手権出場も十分手に届くところにある。

永瀬以外の選手がワールドツアーで結果を出すのは久々。藤原の台頭は2番手不在に悩まされてきた国内81kg級にとっても非常に大きな成果といえる。藤原と強化陣の双方にとって非常に得るものの多い1日であった。

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3位決定戦、ヌグザリ・タタラシヴィリがアントワーヌ・ヴァロア=フォルティエから左大内刈「技有」

一方、藤原とともに出場した佐々木健志(筑波大2年)は、初戦となる2回戦で強敵ヌグザリ・タタラシヴィリ(ジョージア)とマッチアップ、左大外刈「一本」(GS1:40)を失い初戦敗退に終わった。もともと73kg級の強豪であったタタラシヴィリだが、この日は以降も勝ち続けて3位を獲得、率直に「強かった」。81kg級への適応は完全に完了したようだ。佐々木はこの面倒な相手と十分以上に戦えていたが、GS延長戦で相手の力を正面から受けてしまう脇の差し合いを自ら挑んでしまい、この1つのミスによってトーナメントから弾き出されてしまった。国内であればここで決まり、という投げ際をことごとくノーポイントで切り抜けられてしまった試合内容からは佐々木の柔道的な質の良さに対するパワー不足も感じられ、今のところこれが国際大会連敗の因と分析しておくほかはない。2大会連続予選ラウンド敗退では評価の俎上に上ること自体が難しいと思われるが、佐々木の柔道自体はやはり魅力的。国際大会でこの良さを発揮するのはどんな上積みが必要か、しっかり分析して再び世界の舞台に挑んでもらいたい。

準々決勝以降の結果、決勝戦評と日本代表選手全試合の結果は下記。

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81kg級入賞者。左からイ、藤原、デヴィト、タタラシヴィリ。

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準決勝、藤原崇太郎がアントワーヌ・ヴァロア=フォルティエから左体落「一本」

【準々決勝】
アントワーヌ・ヴァロア=フォルティエ(カナダ)○GS技有・浮腰(GS2:18)△フランク・デヴィト(オランダ)
藤原崇太郎○GS技有・浮腰(GS3:07)△ヴィクトール・ペナウベル(ブラジル)
イ・センス(韓国)○袖釣込腰(1:32)△イヴァイロ・イヴァノフ(ブルガリア)
ヤロミール・ムシル(チェコ)○合技[出足払・横四方固](2:00)△ヌグザリ・タタラシヴィリ(ジョージア)

【敗者復活戦】
フランク・デヴィト(オランダ)○足車(2:00)△ヴィクトール・ペナウベル(ブラジル)
ヌグザリ・タタラシヴィリ(ジョージア)○GS合技[隅落・大内刈](GS4:06)△イヴァイロ・イヴァノフ(ブルガリア)

【準決勝】
藤原崇太郎○GS体落(GS1:33)△アントワーヌ・ヴァロア=フォルティエ(カナダ)
イ・センス(韓国)○背負投(1:15)△ヤロミール・ムシル(チェコ)

【3位決定戦】
フランク・デヴィト(オランダ)○大外刈(3:54)△ヤロミール・ムシル(チェコ)
ヌグザリ・タタラシヴィリ(ジョージア)○GS技有・大内刈(GS4:54)△アントワーヌ・ヴァロア=フォルティエ(カナダ)

【決勝】
藤原崇太郎○内股(1:49)△イ・センス(韓国)
藤原が左、イが右組みのケンカ四つ。双方しつこく引き手を争い続ける。藤原はそのさなか巧みに釣り手を操作、イを場外まで押し込み続けてプレッシャー。46秒双方に片手の咎で「指導」。以後も引き手争いが継続、藤原しっかり釣り手で相手を突いて大枠の優位は確保も片手の攻防が続くこととなり、1分27秒には再び片手の咎で双方に2つ目の「指導」。
続くシークエンス、藤原が釣り手で前襟を掴み、引き手で袖を確保する万全の形を作り出す。形の悪さに耐え切れなくなったイが釣り手を背中に巻き付けて抱きつくと、藤原は左内股。腰は切れども入れ過ぎず、前隅ではなく左後隅に押し込み、相手が落ちることを確認してから回旋を呉れて体を乗り込ます、絶対に「返されない」技法。いかにも藤原らしく手堅く、そして結果をしっかり得るこの一撃は完璧に決まって「一本」。

【日本代表選手勝ち上がり】

藤原崇太郎(日本体育大1年)
成績:優勝


[1回戦]
藤原崇太郎○優勢[技有・横四方固]△クリス・ジェンゴウ(フランス)

[2回戦]
藤原崇太郎○横四方固(2:50)△イ・スンホ(韓国)

[3回戦]
藤原崇太郎○GS反則[指導3](GS1:13)△セージ・ムキ(イスラエル)

[準々決勝]
藤原崇太郎○GS技有・浮腰(GS3:07)△ヴィクトール・ペナウベル(ブラジル)

[準決勝]
藤原崇太郎○GS体落(GS1:33)△アントワーヌ・ヴァロア=フォルティエ(カナダ)

[決勝]
藤原崇太郎○内股(1:49)△イ・センス(韓国)
※前述のため戦評省略

佐々木健志(筑波大3年)
成績:2回戦敗退


[2回戦]
佐々木健志△GS大外刈(GS1:40)〇ヌグザリ・タタラシヴィリ(ジョージア)

■ 90kg級 向翔一郎がオール一本勝ちで戴冠、長澤憲大はアクセル・クレルジェに腕挫三角固食って5位に沈む
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決勝、向翔一郎が左背負投でベカ・グヴィニアシヴィリを「秒殺」

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負傷したグヴィニアシヴィリに肩を貸す向

(エントリー39名)

【入賞者】
1.MUKAI, Shoichiro (JPN)
2.GVINIASHVILI, Beka (GEO)
3.TRIPPEL, Eduard (GER)
3.CLERGET, Axel (FRA)
5.GWAK, Donghan (KOR)
5.NAGASAWA, Kenta (JPN)
7.KEITA, Ibrahim (FRA)
7.SHERAZADISHVILI, Nikoloz (ESP)

この日最注目階級の一。ブダペスト世界選手権王者のネマニャ・マイドフ(セルビア)は直前で出場を回避したものの、ワールドマスターズを2度制している(2015年、2017年)ベカ・グヴィニアシヴィリ(ジョージア)や、2015年の世界王者ガク・ドンハン(韓国)など、グランドスラム・パリ大会の名に恥じない豪華な面子が顔を揃えた。トーナメントのレベルは準世界選手権と呼んでも差し支えないものだ。

このハイレベルトーナメントを制したのは、なんと(と言っては失礼だが)向翔一郎(日本大4年)。それも全試合一本勝ち(反則と棄権を含む)、さらに対戦した相手はトップ選手ばかりという素晴らしい内容での戴冠だ。

この日の向は柔道勘が冴え渡っており、得意としている低い左背負投や肩車はもちろん、3回戦のガンツルガ・アルタンバガナ(モンゴル)戦では相手の脇を押して一度前を向かせてから逆に振り落とす異次元の浮落「一本」(2:54)など素晴らしい技を立て続けに披露。改めてその非凡な柔道センスを見せつけた。

準決勝のガク戦では相手が顔面の痛みを訴えて治療を受けている最中に、全く意に介さないといった様子で(駆け寄り相手を気遣った後でだが)足技の確認を行うなど、いわゆる「ゾーン」に入っているかのような集中力の高さと異次元人ぶりを発揮。顔を抑え、幾度も試合場を出入りするガクの陽動作戦に一切乗らなかった。

極めつけはなんといっても決勝。前戦でグランドスラム東京の覇者・長澤憲大(パーク24)を隅返「一本」(2:49)で一蹴しているグヴィニアシヴィリを、僅か15秒の左背負投「一本」で秒殺してみせた。礼の後には足を引きずるグヴィニアシヴィリに駆け寄り肩を貸し、この感動的な絵はIJFが柔道精神を体現したものとして試合後最大限にフィーチャー、各種柔道メディアのトップを飾った。まさに「向劇場」、この男のために大会が用意されたかのような1日だった。

向は、飄々としてとらえどころのないキャラクターと、大勝ちをする一方で考えられないような負け方もするムラ気から、曲者属性、あるいは乗るか反るかの一発屋属性で語られることが多い。この日はその「表」の目が出た際の強さを改めて示した格好だ。この日の勝利でひとつこの「変わり種」のポジションから抜け出した感もあり、次戦どんな試合を見せてくれるか大いに注目したい。

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クレルジェの腕挫三角固「一本」

一方の長澤は、前述のとおり準決勝でグヴィニアシヴィリに隅返「一本」で敗退。回った3位決定戦でもアクセル・クレルジェ(フランス)に巴投からの腕挫三角固「一本」(0:54)で敗れて表彰台にたどり着けなかった。

話は逸れるが、ここで一言。多くのファンや競技者が、横三角から足を抱えた抑込技を「三角固」と誤解し、時には記録係が平然とこれを記載するようなミスが散見される。これはあくまで俗称。正しい「腕挫三角固」はクレルジェが長澤を相手に決めた、この関節技である。

俗に選手が「三角固」と称するあの抑込技術の正式技名称は「崩上四方固」。三角の形からの関節技はこの写真の「腕挫三角固」、三角から絞めれば「三角絞」、抑えた場合は「崩上四方固」と覚えておいて欲しい。僭越ではあるが、あまりに誤りが多く目につくこと、そして、今回これ以上典型的な形はなかなか実戦では現れないだろう、というほどわかりやすい「腕挫三角固」が決まったことを幸い、ここで紹介させて頂く。

話を戻して。

弱点階級とされている日本の90kg級だが、実はこの向の優勝を以て、代表選手を派遣したグランドスラムにおいて3大会連続(エカテリンブルグ、東京、パリ)で優勝者を輩出したことになる。「世界選手権代表なし」を決断してからわずか1年でこの成果。少なくとも記録上は、日本のこの1年間の強化は「大成功」と評して良いだろう。

23日から始まるグランドスラム・デュッセルドルフ大会では、リオデジャネイロ五輪金メダリストのベイカー茉秋(日本中央競馬会)がいよいよ畳に復帰する。ベイカーも含めて誰がバクー世界選手権代表の座を手にするのか、ここにきて国内の代表争いが一気に加熱することとなった。

準々決勝以降の結果、決勝戦評と日本代表選手全試合の結果は下記。

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90kg級入賞者。左からグヴィニアシヴィリ、向、トリッペル、クレルジェ。

【準々決勝】
ベカ・グヴィニアシヴィリ(ジョージア)○釣込腰(3:10)△エドゥアルド・トリッペル(ドイツ)
長澤憲大○合技[内股透・横四方固](3:21)△イブラヒム・ケイタ(フランス)
向翔一郎○横四方固(3:21)△ニコロス・シェラザディシヴィリ(スペイン)
ガク・ドンハン(韓国)○優勢[技有・隅落]△アクセル・クレルジェ(フランス)

【敗者復活戦】
エドゥアルド・トリッペル(ドイツ)○外巻込(0:18)△イブラヒム・ケイタ(フランス)
アクセル・クレルジェ(フランス)○優勢[技有・巴投]△ニコロス・シェラザディシヴィリ(スペイン)

【準決勝】
ベカ・グヴィニアシヴィリ(ジョージア)○隅返(2:49)△長澤憲大
向翔一郎○棄権(0:47)△ガク・ドンハン(韓国)
 ※顔面の痛みを訴え試合場から複数回離脱、主審の勧告により試合終了

【3位決定戦】
エドゥアルド・トリッペル(ドイツ)○不戦△ガク・ドンハン(韓国)
アクセル・クレルジェ(フランス)○腕挫三角固(0:54)△長澤憲大

【決勝】
向翔一郎○背負投(0:15)△ベカ・グヴィニアシヴィリ(ジョージア)
グヴィニアシヴィリが右、向が左組みのケンカ四つ。グヴィニアシヴィリ奥襟を持つと、釣り手を下から得た向と引き手を争う。向は袖を掴んだ手を腹側に織り込み、グヴィニアシヴィリはそれに沿う形で向の釣り手の袖を抑える形で絞り込む。と、向がこの引き手をグイと引き上げるとグヴィニアシヴィリの手が切れ、一瞬完璧な組み手が出来上がる。向ここで反転して左背負投、低く入り込み、スキージャンプよろしく前に伸びあがった一撃は完璧に決まり「一本」。
グヴィニアシヴィリは開始線で足を引きずり、負傷の様子。攻防の中に怪我の要素は見つけにくかったが、苦しそうな表情を目にした向は礼を終えると駆け寄り、肩を貸してグヴィニアシヴィリを場外まで送り届ける。向のこれぞ柔道家というふるまいに、満場拍手の嵐。

【日本代表選手勝ち上がり】

向翔一郎(日本大4年)
成績:優勝


[1回戦]
向翔一郎○合技[背負投・肩車](2:51)△オウサマ=マフモウド・スノウシ(チュニジア)

[2回戦]
向翔一郎○反則[指導3](2:33)△ロレンゾ・ペヒコーン(フランス)

[3回戦]
向翔一郎○浮落(2:54)△ガンツルガ・アルタンバガナ(モンゴル)

[準々決勝]
向翔一郎○横四方固(3:21)△ニコロス・シェラザディシヴィリ(スペイン)

[準決勝]
向翔一郎○棄権(0:47)△ガク・ドンハン(韓国)

[決勝]
向翔一郎○背負投(0:15)△ベカ・グヴィニアシヴィリ(ジョージア)

長澤憲大(パーク24)
成績:5位


[2回戦]
長澤憲大○優勢[技有・隅落]△シリル・グロスクラウス(スイス)

[3回戦]
長澤憲大○合技[大内刈・内股](2:50)△エルデネフー・ムンフジャルガル(モンゴル)

[準々決勝]
長澤憲大○横四方固(3:08)△イブラヒム・ケイタ(フランス)

[準決勝]
長澤憲大△隅返(2:49)○ベカ・グヴィニアシヴィリ(ジョージア)

[3位決定戦]
長澤憲大△腕挫三角固(0:54)○アクセル・クレルジェ(フランス)

■ 100kg級 連覇狙った飯田健太郎はまさかの2回戦敗退、マイケル・コレルとチョ・グハンがグランドスラム東京大会に続いて決勝を戦う
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準決勝、マイケル・コレルがズラトコ・クムリッチから右小内刈「一本」

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準決勝、チョ・グハンがシリル・マレを左小内巻込で攻める

(エントリー31名)

【入賞者】
1.KORREL, Michael (NED)
2.CHO, Guham (KOR)
3.MARET, Cyrille (FRA)
3.LIPARTELIANI, Varlam (GEO)
5.PALTCHIK, Peter (ISR)
5.KUMRIC, Zlatko (CRO)
7.SVIRYD, Mikita (BLR)
7.PACEK, Martin (SWE)

選手層の厚さからどの大会でも強豪多数の激戦区となる本階級。今大会もその例に漏れず、非常にハイレベルなトーナメントが組まれた。決勝に勝ち残ったのはグランドスラム東京のファイナリストであるマイケル・コレル(オランダ)と、チョ・グハン(韓国)の2名。チョが決勝を棄権したことにより、自動的にコレルの優勝が決まった。3位にはブダペスト世界選手権2位のヴァーラム・リパルテリアニ(ジョージア)と、地元フランスのシリル・マレ(フランス)が入った。

コレルの勝利は、スタミナと体の強さを併せ持つ選手が結果を出す、昨今の傾向を直截に反映したもの。この手の持久力を売りにする選手が、リパルテリアニやマレといった技の威力で勝つ選手を抑えて上位に進み続けているあたりに、現行のルール下における体力の重要性が端的に表れていると言えよう。

もう一つ。コレルは常に世界ランク上位をキープしており、シード順の恩恵に与っている部分が大きい。一度シード順が下がってしまうと序盤戦でトップ選手と対戦せねばならず、世界ランクを高く保ってよい組み合わせを引き続けることは、このレベルの選手にとっては非常に重要な意味を持つのだ。(事実、プールCでは準々決勝で早くリパルテリアニとマレによる潰し合いが発生している。)大会皆勤、そしてパワーを前面に押し出した戦いぶりと、コレルがそのタフネスぶりによりこの日の優勝を勝ち取ったことが良くわかるであろう。

一方、「指導」累積で勝利するタイプだったチョが「投げねば勝てぬ」現ルール下でも結果を出せているという、一見矛盾するこの結果にも一言触れねばなるまい。グランドスラム東京大会決勝のコレル戦や、今大会準決勝のマレ戦を見ればわかることだが、チョは試合後半になっても手数を出し続けられる並外れたスタミナを有しており、前述の「タフさ」の要件を実はしっかりと満たしている。また、新ルールによって指導差での決着がなくなったとはいえ、反則までに必要な「指導」の数は4から3に減っており、時間さえ掛ければ十分「指導」累積で勝利することも可能だ、実際に、2回戦のジョルジ・フォンセカ(オランダ)戦と、準々決勝のマーティン・パチェック(スウェーデン)戦では、どちらも「指導3」の反則(2回戦がGS0:20、準々決勝が3:35)で勝利を収めている。さらに、近頃チョは投げの威力もアップさせており、相手が消耗する試合終盤に投げを決めて勝利することも多い。

もう1つ。100kg級はアスリート体型の選手が多く、チョのように低身長で重心の低い選手が少ない。戦闘スタイルの面でもチョのような手数重視の選手はあまりおらず本格派揃い、この希少性が対策を困難にしているとも考えられる。いずれにせよ、今後もチョは階級随一の曲者として、一定の存在感を示していくことだろう。

日本代表で2連覇を狙った飯田健太郎(国士舘大1年)は、まさかの2回戦敗退。中堅選手のペテル・パルチク(イスラエル)との試合において、左大内刈からケンケンで追ったところを透かされて「技有」を失陥。このポイントを取り戻せないまま試合終了を迎え、不本意な結果で試合場を去ることとなった。

高校3年生でこの大会を制した、あの輝かしいパフォーマンスはその影もなし。あるいは1年間にわたる不調から脱するきっかけになるかと思われたビッグゲームだが、低落傾向に歯止めは掛からなかった。

飯田に関して2つ指摘したい。まず1つは過去の飯田との比較。現在の飯田の技からは、高校時代に技を成功させていた所以である「作り」が抜け落ち、単にその技の形をなぞることで性急に結果だけを得ようとしているという印象を受ける。透かされた大内刈も相手に外側から肩を抱かれた不十分な体勢から引き手で脇を持って仕掛けており、しかもあの背筋を伸ばしての素晴らしい追い込みが見られず、早く投げようと自らの頭を下げて軸を失う悪手。相手を制するためのツール(袖)を持たず、相手に制し返された際に抗する手段(背筋の制御)を捨てた。ポイント失陥は当然の帰結であると言わざるをえない。

もう1つ。この1年間、飯田の柔道に技術的、あるいはスタイル的な上積みがほとんど見られないことが気にかかる。現在の柔道競技において「進化を続ける」ことはトップ選手の必須要素。飯田のライバルであり現役世界王者であるウルフアロンは、自己の研究と改造を間断なく行っており、仕掛ける技はいずれも彼の身体的特性を生かした独特なもの。相手に応じた試合の組み立ても非常に濃やかで、相手の研究と、なにより自己理解が明確であることに驚かされる。

その中にあって、飯田の現在の柔道は周囲の状況(パワー派が自身を危険な選手と規定して警戒に警戒を重ねてくる)と噛み合っていないように思われる。ただでさえ線の細い飯田が、「がっぷり組んで相手を圧し、王道の一発技で正面から粉砕する」というスタイルにこだわるのは、少なくとも現時点では無理があるのではないだろうか。飯田はその持ち技の多彩さや作戦遂行能力の高さでわかるとおり非常に器用な選手。現在のスタイルの上に新たな枝を継ぐことは十分可能のはずだ、高校時代、飯田自身が学年が進むごとに左出足払、やぐら投げと取り味のある技を積んでいったことを思い出してもらいたい。最終的にはその研鑽、生やした新しい「枝」こそが、彼の幹である王道スタイルを生かすことになるのではないかと愚考する。

間違いなく日本を背負ってくれる、日本が目指す柔道を体現してくれるはずと思いを掛けた天才・飯田が日を追うごとにオーラを失っていく、この状況はファンにとって切なく、耐えがたい。

飯田の復活を切に願う。ウルフとの差は肉体的なそれに起因するものではなく、間違いなく柔道に掛けた思考量の差だ。2018年はぜひ、天才・飯田健太郎の新たな姿を見せて欲しい。

準々決勝以降の結果、決勝戦評と日本代表選手全試合の結果は下記。

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100kg級入賞者。左からチョ、コレル、マレ、リパルテリアニ。

【準々決勝】
マイケル・コレル(オランダ)○GS反則[指導3](GS0:34)△ミキタ・スヴィリド(ベラルーシ)
ズラトコ・クムリッチ(クロアチア)○GS出足払(GS0:14)△ペテル・パルチク(イスラエル)
シリル・マレ(フランス)○小外掛(2:41)△ヴァーラム・リパルテリアニ(ジョージア)
チョ・グハン(韓国)○反則[指導3](3:35)△マーティン・パチェック(スウェーデン)

【敗者復活戦】
ペテル・パルチク(イスラエル)○GS反則[指導3](GS2:46)△ミキタ・スヴィリド(ベラルーシ)
ヴァーラム・リパルテリアニ(ジョージア)○釣込腰(1:10)△マーティン・パチェック(スウェーデン)

【準決勝】
マイケル・コレル(オランダ)○小内刈(1:05)△ズラトコ・クムリッチ(クロアチア)
チョ・グハン(韓国)○一本背負投(GS1:56)△シリル・マレ(フランス)

【3位決定戦】
シリル・マレ(フランス)○足車(GS0:42)△ペテル・パルチク(イスラエル)
ヴァーラム・リパルテリアニ(ジョージア)○合技[隅落・崩袈裟固](3:47)△ズラトコ・クムリッチ(クロアチア)

【決勝】
マイケル・コレル(オランダ)○不戦△チョ・グハン(韓国)

【日本代表選手勝ち上がり】

飯田健太郎(国士舘大1年)
成績:2回戦敗退


[1回戦]
飯田健太郎○優勢[技有・内股]△エフゲニース・ボロダフコ(ラトビア)

[2回戦]
飯田健太郎△優勢[技有・内股透]○ペテル・パルチク(イスラエル)

■ 100kg超級 アスリートタイプの躍進顕著、影浦心が優勝を飾る
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決勝、影浦心がキム・スンミンを左小内刈「一本」に仕留める

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準々決勝、グラム・ツシシヴィリがモハメド=アミン・タイエブから左袖釣込腰「一本」

(エントリー22名)

【入賞者】
1.KAGEURA, Kokoro (JPN)
2.KIM, Sungmin (KOR)
3.KRPALEK, Lukas (CZE)
3.VAKHAVIAK, Aliaksandr (BLR)
5.MEYER, Roy (NED)
5.TUSHISHVILI, Guram (GEO)
7.TAYEB, Mohammed Amine (ALG)
7.SARNACKI, Maciej (POL)

参加選手の顔ぶれ自体は他の3階級と比べて一段落ちる印象。とはいえ、昨年のワールドマスターズ王者グラム・ツシシヴィリ(ジョージア)や、ルカシュ・クルパレク(チェコ)といった今が旬のアスリート体型の選手が複数顔を揃え、レベルの割に非常に見どころの多いトーナメントとなった。

決勝に勝ち上がったのは、日本代表の影浦心(東海大4年)と、ベテランのキム・スンミン(韓国)。影浦は2回戦から登場すると、まずは巨漢のヴラダト・シミオネスク(ルーマニア)に左背負投「技有」優勢で勝利。続く準々決勝ではロイ・メイヤー(オランダ)を消耗戦の末に大外返「一本」(GS2:30)で破り、ベスト4へと駒を進める。最大の山場と目された準決勝の相手はツシシヴィリ。戦闘スタイルが似たタイプの強者同士によるこの対決は激しい担ぎ技の応酬となるが、GS1分過ぎに「待て」と勘違いして力を抜いたタイミングで技を掛けられたツシシヴィリが逆上し、伏せた影浦に寝技の攻めに偽装した膝蹴りを連発。ツシシヴィリの柔道精神に反する行為による反則負け(GS1:09)という意外な決着で、この大一番は幕を閉じた。

対するキムも2回戦からのスタート。アンドリー・コレスニク(ウクライナ)に体を捨てながらの右方向への支釣込足「技有」優勢で勝利すると、準々決勝ではマチェイ・サルナツキ(ポーランド)の小外掛を返して繋いだ横四方固「一本」(2:04)で圧勝。キムの勝ち上がり上の山場も準決勝にあり、迎える相手はクルパレク。最近の成績からはクルパレク勝利が濃厚と思われたが、キムは相手が奥襟を叩いて来るタイミングに裏投を合わせて「技有」を奪取、そのまま逃げ切って実に2015年のグランプリ・チェジュ大会以来となるワールドツアー決勝進出を果たす。

決勝は組み手争いによって57秒までに両者に「指導」2つが累積。以降は影浦が動き良く担ぎ技を仕掛け、キムが相手の体を固定しての一発を狙うという展開が続く。試合はGS延長戦へともつれ込むが、影浦に危ないという印象はなく、むしろどこかで投げるだろうという楽観的な予感さえ漂う試合運び。結局、GS2分間際に影浦が左一本背負いの形で相手を引き出しての左小内刈「一本」(GS1:52)を奪い、昨年のグランプリ・デュッセルドルフ大会に続くビッグタイトル獲得を果たした。勝負を決めた小内刈はそれまでの担ぎ技の撒き餌が効いた一撃。影浦の戦術派としての一面が強く表れた一番だった。

一方のキムも今大会は久々に生き生きとした柔道を見せており、パワフルだが器用というキムの長所が存分に発揮されていた。昨年不調であった男子韓国チームだが、今大会では7階級中の4階級で決勝に進出、準決勝で敗れた73kg級のアン・チャンリン(韓国)と、90kg級のガク・ドンハン(韓国)もそれぞれ持ち味を十分に出した戦いを見せており、どうやらチームとしての低迷期から抜け出しつつあるようだ。

グランドスラム東京大会王者の小川雄勢(明治大3年)は2回戦で同大会で決勝を争ったクルパレクと対戦。決して悪い戦いぶりではなかったが、反対に際立ってよい部分もなく、「指導3」反則(GS0:42)で敗れた。

小川を破ったクルパレクは頭を丸めて相当に気合が入っている様子だったが、前述のとおり準決勝でキムに敗退。3位決定戦でメイヤーを内股透「技有」(GS1:13)で破って表彰台は確保した。

今大会にはキムやアリアクサンドル・ヴァハヴィアク(ベラルーシ)、ファイセル・ヤバラー(チュニジア)といった、ひと世代前に階級の中心を担った大型選手が多く参加しており、結果のうえでもキムとヴァハヴィアクが表彰台に上がるなど健闘。しかし、トーナメントで目立っていたのはむしろ、新しい世代の代表である、アスリート体型の動ける選手たちの方だ。影浦やツシシヴィリ、メイヤーといった担ぎ技を手札に持つ選手はもちろんのこと、近頃はクルパレクやサルナツキタイプのような本格派タイプも存在感を増している。アスリート体型の選手が大型選手よりも優位だなどという短絡的な見解を述べるつもりはないが、今後ますますこの「アスリートタイプが重量級で輝く」という傾向は加速していくのではないだろうか。

準々決勝以降の結果、決勝戦評と日本代表選手全試合の結果は下記。

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100kg超級入賞者。左からキム、影浦、クルパレク、ヴァハヴィアク。

【準々決勝】
グラム・ツシシヴィリ(ジョージア)○袖釣込腰(0:11)△モハメド=アミン・タイエブ(アルジェリア)
影浦心○GS大外返(GS2:30)△ロイ・メイヤー(オランダ)
ルカシュ・クルパレク(チェコ)○GS技有・大外落(GS1:11)△アリアクサンドル・ヴァハヴィアク(ベラルーシ)
キム・スンミン(韓国)○横四方固(2:04)△マチェイ・サルナツキ(ポーランド)

【敗者復活戦】
ロイ・メイヤー(オランダ)○反則[指導3](3:33)△モハメド=アミン・タイエブ(アルジェリア)
アリアクサンドル・ヴァハヴィアク(ベラルーシ)○支釣込足(2:04)△マチェイ・サルナツキ(ポーランド)

【準決勝】
影浦心○GS反則(GS1:09)△グラム・ツシシヴィリ(ジョージア)
 ※柔道精神に反する行為によるダイレクト反則負け
キム・スンミン(韓国)○優勢[技有・裏投]△ルカシュ・クルパレク(チェコ)

【3位決定戦】
ルカシュ・クルパレク(チェコ)○GS技有・内股透(GS1:13)△ロイ・メイヤー(オランダ)
アリアクサンドル・ヴァハヴィアク(ベラルーシ)○不戦△グラム・ツシシヴィリ(ジョージア)

【決勝】
影浦心○GS小内刈(GS1:52)△キム・スンミン(韓国)
影浦が左、キムが右組みのケンカ四つ。引き手争いが続き27秒に双方に片手の「指導」。
と比較的静かに始まった試合であるが以降は激戦。キムがクロスグリップで圧を掛けると影浦は抱きつきの大内刈で転がし、再度のクロスグリップに思い切り後回り捌きジャンプの左背負投を仕掛けると、今度はキムが振り戻る動作に合わせて迫力の右払腰。いったんこの攻め合いが止まった3分3秒双方に「指導2」が与えられると、後のなくなった両者はさらに鬼気迫る攻防を繰り広げる。影浦が背負投を叩き入れ続け、キムは奇襲の左外巻込やがぶりながらの右小外掛で一発を狙う。試合は両者譲らぬままGS延長戦へ。

キムは引き手で高く襟を持ち、奥襟を叩いて払腰で影浦を伏せさせ、34秒には影浦が背負投でキムの懐に潜り込み、抱かせたまま転がってあわや「技有」、ビデオチェックを引き出す。1分18秒、影浦が後回り捌きに座り込んだ背負投をキムが抱き返そうと試み、影浦を懐に抱いたまま自ら背中から畳に劣る。キムが影浦の背負投に慣れ始めている印象だが、影浦は以後も釣り手の肘を開けては閉め、背負投への野心を隠さず。

そして1分50秒、組み立てを変えてまず引き手で袖を持った影浦が、フリーの釣り手を叩き入れながら一本背負投フェイントの左小内刈。背負投を予期したキムの巨体は一瞬剛体となり、次いで真裏に激しく倒れて畳に埋まる。もちろんこの技は「一本」。激戦ついに決着する。

影浦の小内刈の作りとして、背負投の撒き餌が効いていたことは言うまでもない。そして、凄み漂うのは撃ち続けたその背負投のすべてが手数を稼ぐ技ではなく、思い切り投げを狙ったものであること。重量選手の影浦にここまでやられては対戦相手はたまったものではなかろう。加えて準決勝でツシシビリに冷静さを失わせたあのしつこさ、いま世界の強豪が「重量級で対戦したくない選手」ナンバーワンは影浦ではないだろうか。

ベテランのキムも、この面倒な影浦相手に集中を切らさず素晴らしい試合を披露した。重量級の新興勢力である担ぎ技ベースのアスリート系と、旧来の最重量級典型タイプがともにその持ち味を存分に見せてくれた好試合であった。

【日本代表選手勝ち上がり】

影浦心(東海大4年)
成績:優勝


[2回戦]
影浦心○優勢[技有・背負投]△ヴラダト・シミオネスク(ルーマニア)

[準々決勝]
影浦心○GS大外返(GS2:30)△ロイ・メイヤー(オランダ)

[準決勝]
影浦心○GS反則(GS1:09)△グラム・ツシシヴィリ(ジョージア)

[決勝]
影浦心○GS小内刈(GS1:52)△キム・スンミン(韓国)

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1回戦、ジャン=セバスティアン・ボンヴォワザンと対戦する小川雄勢

小川雄勢(明治大3年)
成績:2回戦敗退


[1回戦]
小川雄勢○合技[内股・体落](1:32)△ジャン=セバスティアン・ボンヴォワザン(フランス)

[2回戦]
小川雄勢△GS反則[指導3](GS0:42)○ルカシュ・クルパレク(チェコ)


※写真は権利者の許諾を得て掲載しています

※ eJudoメルマガ版2月22日掲載記事より転載・編集しています。

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