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グランドスラムパリ2018・第1日女子レポート

(2018年2月22日)

※ eJudoメルマガ版2月22日掲載記事より転載・編集しています。
グランドスラムパリ2018・第1日女子レポート
(48kg級、52kg級、57kg級、63kg級)
文責:古田英毅・林さとる

■ 48kg級 17歳ビロディドが来た!全試合一本勝ちでワールドツアー3連勝
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17歳のビロディドはこれでワールドツアー3連勝。新たなスター候補だ。

(エントリー24名)

【入賞者】
1.BILODID, Daria(UKR)
2.KANG, Yujeong(KOR)
3.CHERNIAK, Maryna(UKR)
3.MUNKHBAT, Urantsetseg(MGL)
5.FIGUEROA, Julia(ESP)
5.TONAKI, Funa(JPN)
7.MENZ, Katharina(GER)
7.RISHONY, Shira(ISR)

ブダペスト世界選手権王者の渡名喜風南(帝京大4年)と同2位のムンフバット・ウランツェツェグ(モンゴル)を中心に、トップ選手が顔を揃えた激戦階級。

このハイレベルトーナメントを制したのは弱冠17歳のダリア・ビロディド(ウクライナ)。昨年4月、16歳で欧州選手権を制して業界をあっと言わせた、あの衝撃に迫る素晴らしい内容での優勝だった。

ビロディドは2回戦でロンドン五輪王者のサラ・メネゼス(ブラジル)を「指導3」で退けると、準々決勝では階級の門番ともいうべきサラ・リショニー(イスラエル)をこれも一方的な「指導3」連取で撃退。

圧巻は準決勝。現役世界王者渡名喜風南を相手に左引き手で袖を確保すると、嫌った渡名喜が切り離そうと一瞬下がった瞬間思い切り飛び込んで左大内刈。長身を利しての強烈な一撃に渡名喜まさしく吹っ飛び「一本」。

決勝の相手は、準々決勝でムンフバットに小内巻込「技有」で勝利とこちらも特筆すべきアップセットを演じて勝ち上がって来たカン・ユジュン(韓国)。伸びやかな柔道のビロディドに、典型的な韓国系粘戦ファイターとスタイル対照的な顔合わせとなったこの試合はカンがまず場外際の右背負投でその股中に潜り込み、腕挫十字固を狙ったビロディドをそのまま捲り落として「技有」をリード。しかし1分過ぎ、ビロディドは左内股でカンを潰すとすかさず長い脚を突っ込んで横三角。この得意技で頭をロックすると足首を抱え、崩上四方固で「一本」。これで見事優勝を決めた。

ビロディドはこれで11月のグランプリ・ハーグ、1月のグランプリ・チュニスに続くワールドツアー3連勝。若さと端正な顔立ち、モデル然とした体型からこれまでも将来のヒロイン候補として海外メディアに注目されていたが、グランドスラム・パリというスーパーメジャー大会で、それも現役世界王者に完勝しての優勝を果たした今回でついにその実力にも「折り紙」がつけられた形。力の伴った若きヒロインとして、2020年東京五輪の主役に名乗りを挙げた大会と言っていいだろう。

ビロディド最大の武器は、その長身を生かした左大内刈。これまでは17歳という年齢そのままに線の細さが否めない印象であったが、直近2大会ではガルバドラフ・オトゴンツェツェグ(カザフスタン)やマリーナ・チェルニアク(ウクライナ)といった力自慢たちを奥襟を持って真っ向から撃破しており、もはやパワーも階級トップクラスと考えるべきだろう。メジャーデビュー前には日本で修行ツアーを行っていたとの興味深い情報もあり、これからの活躍、そしてどんなエピソードが出てくるのか非常に楽しみである。

今大会もう1人の主役は決勝まで勝ち上がったカン。こちらもまだ21歳の若手、48kg級最激戦区であるアジアで3位(2017年アジア選手権)を獲得している注目株。世界選手権以降は近藤、渡名喜、ムンフバットといったトップ選手に阻まれてなかなか突き抜けた結果を残せずにいたが、今大会で壁をひとつ破ったと評して良いのではないだろうか。ジョン・ボキョンとの代表争いは非常に楽しみ。

日本代表の渡名喜は前述の通り準決勝でビロディドに敗退。3位決定戦でもムンフバットを相手に出血3回による棄権という不本意な形で星を落とし、表彰台に辿り着くことができなかった。渡名喜はグランドスラム東京大会の直接対決でライバルの近藤に敗れたものの、直後のワールドマスターズではしっかりと優勝。近藤不在の今大会に優勝して実績上の差をつけてしまいたいところだったが、抜け出すことは叶わず。負傷欠場した近藤のダメージは最小限、むしろライバルを利した形となってしまった非常に厳しい結果だった。

52kg級から階級を戻したロンドン五輪金メダリストのサラ・メネゼス(ブラジル)は、1回戦のエドナ・カリーヨ(メキシコ)戦から動きが悪く、格下相手のこの試合にはGS延長戦での「指導3」反則(GS2:15)で辛うじて勝利。前述の通り2回戦でビロディドに敗れて入賞に絡めなかった。

準々決勝以降の結果、決勝戦評と日本代表選手全試合の結果は下記。

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48kg級入賞者。左からカン、ビロディド。ムンフバット、チェルニアク。

【準々決勝】
カン・ユジョン(韓国)〇GS技有・小内巻込(GS0:41)△ムンフバット・ウランツェツェグ(モンゴル)
ジュリア・フィゲロア(スペイン)〇合技[巴投・横四方固]△カタリナ・メンツ(ドイツ)
渡名喜風南〇袈裟固(3:13)△マリーナ・チェルニアク(ウクライナ)
ダリア・ビロディド(ウクライナ)〇反則[指導3](3:26)△シラ・リショニー(イスラエル)

【敗者復活戦】
ムンフバット・ウランツェツェグ(モンゴル)〇腕緘(0:56)△カタリナ・メンツ(ドイツ)
マリーナ・チェルニアク(ウクライナ)〇優勢[技有・大内刈]△シラ・リショニー(イスラエル)

【準決勝】
カン・ユジュン(韓国)〇体落(0:40)△ジュリア・フィゲロア(スペイン)
ダリア・ビロディド(ウクライナ)〇大内刈(1:05)△渡名喜風南

【3位決定戦】
ムンフバット・ウランツェツェグ(モンゴル)〇棄権(GS1:30)△渡名喜風南
 ※出血3回による
マリーナ・チェルニアク(ウクライナ)〇GS技有・大内刈(GS0:44)△ジィリア・フィゲロア(スペイン)

【決勝】
ダリア・ビロディド(ウクライナ)〇崩上四方固(1:36)△カン・ユジュン(韓国)
ビロディドが左、カンが右組みのケンカ四つ。長身のビロディドが上から釣り手で奥を持ち、対するカンが下から釣り手を突いて距離を取るという構図。カンは下から持ったまま肘を相手の肘に乗せることで距離を稼ぎ、焦れたビロディドが場外際で前に出たタイミングで右背負投。相手の股中に潜り込むとそのまま前に走って回し切り38秒「技有」を獲得。続く攻防、ビロディドはまず右引き手で相手の左釣り手の袖を抑えてブロックを剥がすと、残った釣り手で奥襟を確保。次いで引き手を袖に持ち替えるなり、強引に腰を入れて相手を潰す。伏せたカンは慌ててブロックするが、ビロディド巧みに長い脚を差し込み「横三角」に入り込み、足を抱えて崩上四方固で抑え込む。足で完全に上体をロックされたカンは万事休す。1分36秒に「一本」が宣告され、ビロディドの優勝が決まった。

【日本代表選手勝ち上がり】

渡名喜風南(帝京大4年)
成績:5位


[2回戦]
渡名喜風南〇谷落(0:57)△メロディ・ブガニ(フランス)

[準々決勝]
渡名喜風南〇袈裟固(3:13)△マリーナ・チェルニアク(ウクライナ)

[準決勝]
渡名喜風南△大内刈(1:05)△ダリア・ビロディド(ウクライナ)

[3位決定戦]
渡名喜風南△棄権(GS1:30)〇ムンフバット・ウランツェツェグ(モンゴル)
 ※出血3回による

■ 52kg級 阿部詩が圧倒的な強さでグランドスラム2連勝、角田夏実はまたも表彰台を逃
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決勝、阿部詩が一方的にアモンディーヌ・ブシャーを攻め続ける

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阿部はグランドスラム2連勝、ワールドツアーは3連勝

(エントリー26名)

【入賞者】
1.ABE, Uta(JPN)
2.BUCHARD, Amandine(FRA)
3.GNETO, Astride(FRA)
3.KRASNIQI, Distria(KOS)
5.TSUNODA, Natsumi(JPN)
5.VAN SNICK, Charline(BEL)
7.DELGADO, Angelica(USA)
7.ESTEVES, Mariana(POR)

メダリストクラスの出場は日本勢2人のみ、これを除けばトーナメントはグランプリ中位大会と見まがう陣容。

その中をグランドスラム東京大会王者の阿部詩(夙川学院高2年)が順当に勝ち上がり、全試合一本勝ち(反則含む)という圧倒的な内容で優勝を飾った。阿部はこれでグランドスラム2連勝、昨年2月のグランプリ・デュッセルドルフ大会を合わせてワールドツアーは3連勝となった。

阿部は1回戦でエレウディス・ヴァレンティン(ブラジル)を僅か9秒の右袖釣込腰「一本」で下すと、2回戦ではアナマリア・イオニタ(ルーマニア)にこれも開始10秒の右内股「一本」で勝利。ここからは階級上位に座る選手との連戦となったが、まずは準々決勝でディストリア・クラスニキ(コソボ)に右袖釣込腰と横四方固による合技「一本」(3:42)、続く準決勝もシャリーン・ファンスニック(ベルギー)を大内刈2発での合技「一本」(1:26)とパワーファイター2人を全く寄せ付けず決勝進出。

決勝では地元フランスのアモンディーヌ・ブシャー(フランス)と対戦。ここまでまだ優勝者を輩出できていない地元フランス寄りの判定のために時間こそ掛かったものの、終始相手を圧倒して「指導3」の反則(GS2:24)で勝利。格の違いを見せつけて優勝を決めた。

今大会における阿部観察のテーマは、「力」で勝つことを大前提に投げを決め続けて来た阿部が、欧州上位クラスのパワー派を相手にどの程度戦うことが出来るかの一点にあった。今回その試験対象になり得るのはクラスニキとファンスニック。特にクラスニキは女王マイリンダ・ケルメンディ(コソボ)に次ぐ階級きっての力自慢であり、この2人に、それもしっかり自分の柔道を貫いた上で勝利した阿部の出来はまさしく文句なし。まだナタリア・クズティナ(ロシア)やエリカ・ミランダ(ブラジル)ら最上位クラスと鉾を交えた経験はないが、これらのトップランカーとも十分戦える力があると見積もってまず間違いないだろう。

最後に残る宿題は「ケルメンディとやれるかどうか」。一種相手とのやりとりを拒否する「壁」を作って相手と対峙するタイプの阿部が、果たして志々目愛(了徳寺学園職)のようにケルメンディの攻撃圏内でもその懐に刃を浴びせることができるのか。可能であれば、もはや2020年に向けた代表レースで阿部に抗し得る選手は存在しなくなる。今年間違いなく実現するであろうこのカードが、非常に楽しみだ。

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3位決定戦、ディストリア・クラスニキが角田夏実の首を抱えて内股「技有」

一方、ブダペスト世界選手権2位の角田夏実(了徳寺学園職)は、準決勝でブシャーに「指導3」の反則(GS2:32)で敗れ、迎えた3位決定戦でもクラスニキに右内股「技有」で苦杯。最終成績は5位だった。これで角田はグランドスラム東京から3大会連続でメダルなしという苦境。負傷を抱えながらというエクスキューズは誰もが知るところであるが結果は結果、バクー世界選手権の代表レースは事実上ここで脱落と考えるべきだろう。

準々決勝以降の結果、決勝と日本代表選手全試合の戦評は下記。

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52kg級入賞者。左からブシャー、阿部、ネト、クラスニキ。

【準々決勝】
アモンディーヌ・ブシャー(フランス)〇合技[大外巻込・肩車](1:26)△アンジェリカ・デルガド(アメリカ)
角田夏実〇GS巴投(GS0:26)△アストリーデ・ネト(フランス)
阿部詩〇合技[袖釣込腰・横四方固](3:42)△ディストリア・クラスニキ(コソボ)
シャリーン・ファンスニック(ベルギー)〇隅返(0:23)△マリアナ・エステヴェス(ポルトガル)

【敗者復活戦】
アストリーデ・ネト(フランス)〇反則[指導3](3:46)△アンジェリカ・デルガド(アメリカ)
ディストリア・クラスニキ(コソボ)〇大外刈(1:26)△マリアナ・エステヴェス(ポルトガル)

【準決勝】
アモンディーヌ・ブシャー(フランス)〇GS反則[指導3](GS2:32)△角田夏実
阿部詩〇合技[大内刈・大内刈](2:33)△シャリーン・ファンスニック(ベルギー)

【3位決定戦】
ディストリア・クラスニキ(コソボ)〇優勢[技有・内股]△角田夏実
アストリーデ・ネト(フランス)〇反則[指導3](3:44)△シャリーン・ファンスニック(ベルギー)

【決勝】
阿部詩〇GS反則[指導3](GS2:24)△アモンディーヌ・ブシャー(フランス)

阿部、ブシャーともに右組みの相四つ。「はじめ」の声が掛かると阿部一瞬のうちに引き手でブシャーの袖を確保、次いで奥襟を叩くとブシャー嫌って膝を屈して潰れ「待て」。経過時間は10秒。続く攻防、ブシャー阿部に持たれることを嫌って左方向への横落に座り込むが阿部があっさり潰して「待て」。続いて阿部が組み際に片襟を差して右背負投を撃つとブシャーはドウと崩れて「待て」。

ここまでの僅か20秒余の攻防に、試合時間6分半に迫るこの決勝の様相は集約可能。阿部は持って仕掛け、ブシャーはその圧に耐えられず潰れ、あるいは阿部の投げを警戒するあまり横落に座り込んで潰れることを連発。ブシャー時折奥襟を叩くことに成功するも阿部がすぐに切り離して自分の形に持ち込み、かえって苦しい形に。両手で袖を絞り落としても、両袖を厭わぬ阿部は内股に袖釣込腰と大技があり、自身の攻撃には繋がらずまったくの手詰まり。全ての時間帯で立って、寝てと阿部が攻め続け、なぜ早く試合を終わらせないのか不可解な一戦は地元フランスへの配慮かそれでも延々と続けられる。1分48秒ブシャーに「指導」、2分48秒2つ目の「指導」、そしてGS2分24秒、阿部の右大外刈でブシャーが伏せたところでようやく主審が試合を止めて服装を正すことを指示。極めてゆっくり帯を結びなおしたブシャーに消極的との咎で3つ目の「指導が宣告され、ついに試合は終了となった。

物凄く控えめに評して、本戦で終わらせておくべき試合。もともと横落以外に取り味のある技がない粘戦ファイター・ブシャーには阿部に入れるべき刃の持ち合わせがなく、潰れて畳に這い、立ち上がれず主審に試合復帰を促されること数度。試合を長引かせる温情を受けたことでかえって醜態をさらすこととなってしまった。理不尽な判定で試合を続けさせられたにも関わらず、立って、寝てと一切攻めの手を緩めなかった阿部の精神力とスタミナは見事であった。


【日本代表選手勝ち上がり】

阿部詩(夙川学院高2年)
成績:優勝


[1回戦]
阿部詩〇袖釣込腰(0:09)△エレウディス・ヴァレンティン(ブラジル)

[2回戦]
阿部詩〇内股(0:10)△アナマリア・イオニタ(ルーマニア)t>

[準々決勝]
阿部詩〇合技[袖釣込腰・横四方固](3:42)△ディストリア・クラスニキ(コソボ)

[準決勝]
阿部詩〇合技[大内刈・大内刈](2:33)△シャリーン・ファンスニック(ベルギー)

[決勝]
阿部詩〇GS反則[指導3](GS2:24)△アモンディーヌ・ブシャー(フランス)


角田夏実(了徳寺学園職)
成績:5位


[2回戦]
角田夏実〇腕挫十字固(2:41)△ベティーナ・テメルコワ(イスラエル)

[準々決勝]
角田夏実〇GS巴投(GS0:26)△アストリーデ・ネト(フランス)

[準決勝]
角田夏実△GS反則[指導3](GS2:32)〇アモンディーヌ・ブシャー(フランス)

[3位決定戦]
角田夏実△優勢[技有・内股]〇ディストリア・クラスニキ(コソボ)

■ 57kg級 出口クリスタがグランドスラム初優勝、決勝は日本のエース芳田司を下す
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準決勝、出口クリスタが地元のエースエレン・ルスヴォを合技「一本」に仕留める

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芳田司との決勝、出口が鮮やかな内股透「技有」で先制

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出口は釣り手一本の右大外刈で2つ目の「技有」獲得。

(エントリー28名)

【入賞者】
1.DEGUCHI, Christa(CAN)
2.YOSHIDA, Tsukasa(JPN)
3.KIM, Jisu(KOR)
3.SMYTHE-DAVIS, Nekoda(GBR)
5.NELSON LEVY, Timna(ISR)
5.RECEVEAUX, Helene(FRA)
7.BERGSTRA, Margriet(NED)
7.MONTEIRO, Telma(POR)

ドルジスレン・スミヤ(モンゴル)とラファエル・シウバ(ブラジル)の両世界王者は直前で出場を回避。しかし、この2人を除くトップ選手はほとんどが顔を揃え、これぞグランドスラムというべき豪華陣容でトーナメントが組まれた。

決勝進出を果たしたのは日本代表の芳田司(コマツ)と、山梨学院大4年の出口クリスタ(カナダ)。同学年のライバルとして2013年のインターハイ決勝でも対戦した(芳田が内股「一本」で勝利)2人が、グランドスラム・パリ大会決勝という檜舞台で再び覇を競うこととなった。

この決勝は、出口が43秒に芳田の左内股を鮮やかに透かして内股透「技有」を先行するが、芳田も1分42秒に右内巻込「技有」をもぎ取って勝負を振り出しに戻す。両者一歩も譲らぬ激しい戦いとなったが、2分56秒、出口が釣り手のみを持って放った右大外刈が「技有」となって合技「一本」で勝敗が決した。

出口が獲得した2つ目の「技有」は「有効」の許容範囲ぎりぎり、敢えて言えば旧「効果」に近いもの。芳田は早くも「『技有』の範囲が上下に大きく広がり」「かつ合技『一本』が認められる」新ルールの洗礼を受けた形だ。

優勝した出口はこれで階級トップ選手の仲間入り。2回戦で昨年の本大会王者であるクォン・ユジョン(韓国)に右大内刈「一本」(0:47)、準決勝で地元フランスのエースを務めるエレン・ルスヴォ(フランス)に大内返と袈裟固の合技「一本」(0:26)と、対戦相手、試合内容ともに十分であった。東京五輪への出場を目指してカナダ国籍を選択した出口だが、国籍変更(選択)選手が以前よりも一段力を増す、ここ数年ワールドツアーで頻発するよい流れに乗ったという印象。東京五輪代表に向けて大きな一歩を踏み出した一日だった。今後の活躍にも大いに期待したい。

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準決勝、芳田がネコダ・スミス=デイヴィスから内股「一本」

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位決定戦、キム・チスがルスヴォから背負投「技有」

一方敗れた芳田だが、トップ選手として階級上位ステージでしっかり呼吸が出来ている印象。この日の出来は決して悪いものではなかった。準々決勝でテルマ・モンテイロ(ポルトガル)を左内股「一本」(1:40)、準決勝でもネコダ・スミス=デイヴィス(イギリス)を左内股「一本」(3:47)と、一時期警戒され過ぎて取り味が落ちていた左内股が再び決まり始めたことはなにより明るい材料。担ぎ技も取り味が増しており、攻略する側からすれば刃を入れるべき「隙」が次々埋められていくという印象のはず。昨年の世界選手権時より、明らかに一段高いレベルにあると観察する。

ほか、海外勢では阿部詩(阿部詩)のチームメイトである夙川学院高2年のキム・チス(韓国)が3位入賞と大健闘。ノラ・ヤコヴァ(コソボ)、モンテイロ、ルスヴォと錚々たる顔ぶれに勝利しており、敗れた準々決勝のスミス=デイヴィス戦でも終盤に惜しい場面(左大内刈「技有」が取り消し)を作るなど大きく存在感を示していた。

準々決勝以降の結果、決勝と日本代表選手全試合の戦評は下記。

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57kg級入賞者。左から芳田、出口、キム、スミス=デヴィス。

【準々決勝】
芳田司〇内股(1:40)△テルマ・モンテイロ(ポルトガル)
ネコダ・スミス=デイヴィス(イギリス)〇優勢[技有・内股透]△キム・チス(韓国)
エレン・ルスヴォ(フランス)〇合技[小外掛・裏固]△マルフリート・ベルフストラ(オランダ)
クリスタ・デグチ(カナダ)〇大外刈(2:00)△ティムナ・ネルソン=レヴィー(イスラエル)

【敗者復活戦】
キム・チス(韓国)〇GS反則[指導3](GS4:10)△テルマ・モンテイロ(ポルトガル)
ティムナ・ネルソン=レヴィー(イスラエル)〇袈裟固(2:20)△マルフリート・ベルフストラ(オランダ)

【準決勝】
芳田司〇内股(3:47)△ネコダ・スミス=デイヴィス(イギリス)
クリスタ・デグチ(カナダ)〇合技[大内返・袈裟固](0:26)△エレン・ルスヴォ(フランス)

【3位決定戦】
キム・チス(韓国)〇GS技有・背負投(GS3:59)△エレン・ルスヴォ(フランス)
ネコダ・スミス=デイヴィス(イギリス)〇反則[指導3]△ティムナ・ネルソン=レヴィー(イスラエル)

【決勝】
クリスタ・デグチ(カナダ)〇合技[内股透・大外刈](3:00)△芳田司

芳田が右、出口が左組みのケンカ四つ。双方動き良く出足払を打ち合い、出口が巴投で先制攻撃。芳田の重心が載り掛けて場内沸くが投げるには至らず「待て」。
出口は積極的に前へ、釣り手を伸ばすと芳田はまずその袖を抑えてその勢いを減速に掛かる。しかし出口はこの誘いを一蹴、駆け引きに乗らず一息で引き手で袖の外側、釣り手で奥襟を掴んで組み勝つと前進。出口の積極性にやや気圧された形の芳田、釣り手を下から持って防御の形を整えると押し返し、吸い込まれるように左内股。
しかし引き手でしっかり袖を捉えている出口膝を締めてひらりと身を捌き、鮮やかにこの内股を透かす。芳田の作用足空を切り、出口引き手の牽引を効かせてこの上に乗り込む。46秒内股透「技有」。
以後は組み手争いが続き、リードした出口は無理をせず片手状態を許容して試合を進める。
しかしこの罰を食う形、芳田が釣り手一本から一本背負投崩れの右内巻込に体を捨てると畳に転がり落ちてしまう。旧「有効」相当ギリギリの技であったが主審はこれに「技有」を宣告。獅子時間は1分44秒、スコアはここでタイとなる。
以後は厳しい組み手の駆け引きが続き、双方なかなかチャンスなし。しかし試合時間3分に迫らんとするところで、出口が釣り手一本で右大外刈。いったん釣り手を落として相手を呼び込み、芳田が嫌って切ろうとするタイミングに合わせて飛び込んだこの一撃、引き手を持っていないがゆえもちろん不十分な技であったが、後ろに重心を移した瞬間に引っ掛けられた芳田は大きく崩れる。出口これを見逃さず押し込み、横倒しになった芳田の上に乗り上げると主審は「技有」を宣告。3分0秒、合技「一本」で芳田の勝利が決まった。

【日本代表選手勝ち上がり】

芳田司(コマツ)
成績:2位


[2回戦]
芳田司〇送襟絞(1:49)△マルガリータ・パディラ(メキシコ)

[準々決勝]
芳田司〇内股(1:40)△テルマ・モンテイロ(ポルトガル)

[準決勝]
芳田司〇内股(3:47)△ネコダ・スミス=デイヴィス(イギリス)

[決勝]
芳田司△合技[内股透・大外刈](3:00)〇クリスタ・デグチ(カナダ)

■ 63kg級 アグベニューに雪辱許すも田代未来が2位、「三強」時代ついに到来の印象
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63kg級メダリスト。左から田代、アグベニュー、トライドス、トルステニャク。

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決勝、クラリス・アグベニューが田代未来から大外刈「一本」

(エントリー27名)

【入賞者】
1.AGBEGNENOU, Clarisse(FRA)
2.TASHIRO, Miku(JPN)
3.TRAJDOS, Martyna(GER)
3.TRSTENJAK, Tina(SLO)
5.NABEKURA, Nami(JPN)
5.RENSHALL, Lucy(GBR)
7.BALDORJ, Mungunchimeg(MGL)
7.FRANSSEN, Juul(NED)

大会第1日最大の激戦区にして、最注目階級。

トップランカーが一同に会したトーナメントはまさしく「超」の字のつく豪華さ。クラリス・アグベニュー(フランス)とティナ・トルステニャク(スロベニア)の「二強」はもちろんのこと、12月のワールドマスターズでアグベニューから歴史的勝利を挙げた田代未来(コマツ)、さらにマルティナ・トライドス(ドイツ)や鍋倉那美(三井住友海上)、バルドルジ・ムングンチメグ(モンゴル)といったトップ選手が揃ってエントリー。世界選手権と見まがうばかり、これぞグランドスラム・パリというべき華やかな陣容だ。

このハイレベルトーナメントを決勝まで勝ち上がったのは、田代とアグベニューの主役2名。田代は準決勝でトルステニャクに大内返「一本」(GS2:27)で勝利しており、ここでアグベニューにも2連勝となれば、一気に階級の頂点の座を手に入れることになる。会場に集まったフランスの観衆をはじめ、世界中の柔道ファンが息を呑んで見守る大一番だ。

しかしワールドマスターズの雪辱を期す「本気のアグベニュー」はやはり格が違った。1分22秒、田代が大外刈の仕掛け合いから降りて攻防が終息したかに思われたところで、アグベニューだけは意識を切らず。動きを止めずに段重ねの大外巻込に飛び込んで「技有」奪取。さらに2分44秒には真っ向からの左大外刈で「一本」を奪い、圧勝でワールドマスターズのリベンジを果たしてみせた。

田代は完敗。ワールドマスターズではアグベニューを圧倒したが、この絶対王者に狙うべき「ターゲット」に定められて、なおこれを乗り越えるまでの力はまだ養えていなかったと捉えるしかない。

とはいえ田代。昨年のグランプリ・フフホト大会での戦線復帰からここまでワールドツアー4大会をこなし、この試合まで海外勢に16連勝。この間アグベニューに勝利したばかりか、同じく階級のリーダーであるトルステニャクからも2勝を挙げている(2013年から5連勝中)。序列第1位の座こそお預けとなったが、アグベニュー、トルステニャク、そして田代による「三強時代」の到来なると見てまず間違いないだろう。上野順恵が畳を去って以来、実に6年ぶりに日本選手が63kg級を引っ張る時代の復活である。

もうひとりの日本代表である鍋倉は、準々決勝でマルティナ・トライドス(ドイツ)と対戦、試合時間9分に届こうという消耗戦の末に「指導3」の反則(GS4:55)で敗退。敗者復活戦を勝ち上がったものの、3位決定戦でもトルステニャクに「指導3」の反則(GS0:33)で敗れ、表彰台には手が届かなかった。この日の鍋倉の戦いぶりには冴えなし。得意としている右内股が掛からないことで自家中毒に陥った感あり、単に目の前で起こることにオートマティズムで対応するシークエンスを繋ぎ続けるだけで、まったく展開に起伏を作れず。自分の柔道を見失っていたように見受けられた。一時混沌としていた国内の63kg級であるが、田代がいよいよ走り始め、どうやら「一強」という形でいったん収束しそうな気配だ。

準々決勝以降の結果、決勝と日本代表選手全試合の戦評は下記。

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準決勝、アグベニューがマルティナ・トライドスから大外刈「一本」

【準々決勝】
ティナ・トルステニャク(スロベニア)〇GS技有・一本背負投(GS4:25)△ルーシー・レンシャル(イングランド)
田代未来〇優勢[技有・大外落]△バルドルジ・ムングンチメグ(モンゴル)
クラリス・アグベニュー(フランス)〇反則[指導3](2:07)△ユール・フランセン(オランダ)
マルティナ・トライドス(ドイツ)〇GS反則[指導3](GS4:55)△鍋倉那美

【敗者復活戦】
ルーシー・レンシャル(イングランド)〇△バルドルジ・ムングンチメグ(モンゴル)
鍋倉那美〇GS技有・小内刈(GS2:30)△ユール・フランセン(オランダ)

【準決勝】
田代未来〇GS技有・大内返(GS2:27)△ティナ・トルステニャク(スロベニア)
クラリス・アグベニュー(フランス)〇大外刈(2:28)△マルティナ・トライドス(ドイツ)

【3位決定戦】
ティナ・トルステニャク(スロベニア)〇GS反則[指導3](GS0:33)△鍋倉那美
マルティナ・トライドス(ドイツ)〇反則[指導3](GS1:31)△ルーシー・レンシャル(イングランド)

【決勝】
クラリス・アグベニュー(フランス)〇大外刈(2:44)△田代未来
アグベニュー、田代ともに左組みの相四つ。双方極めて動き良し、互いに引き手で袖を狙い合う攻防からアグベニューが左大内刈。空振りして膝を屈するとすかさず田代が絞めを狙い、脚を差し入れて展開させたところで「待て」。直後アグベニュー、引き手で袖を折り込むと素早い動きで左背負投。投げ切れなかったがその動きの鋭さと得点の予感に観客大いに沸く。田代は片襟の左大外刈で抗し、展開は譲らず。

アグベニューが田代の釣り手を抱き込むと、田代は肘を上げて対抗。アグベニューは圧を掛けるのではなく、切り、組み直すやり取りの中で引き手で袖を得んとするもっとも得意とする戦術で、運動量を上げて田代に迫る。

このやりとりの中からアグベニューはクロスグリップで田代の背中を確保することに成功、ここから左大外刈。田代頭を離して大外返、場外際でこの投げ合いはいったん終息したかに思われたが、アグベニューはあきらめず場外に出た田代を追いかけて段重ねの左大外巻込。これには田代たまらず崩落1分25秒「技有」。

失点した田代だが釣り手を高く上げ、支釣込足で大きく相手を崩して意気阻喪は感じさせず。反時計回りに回って間合いを整えるが、アグベニューの動き極めて良し。すかさず支釣込足で田代の出籠手を抑えて大きく跳ねさせ、技の作りを一切許さない。

得ては与え、与えては得る組み手の交換が続く中、2分40秒を過ぎるところで、アグベニューがついに引き手で袖を掴み、かつ釣り手をフリーで中空に漂わすもっとも得意とする形が出来上がる。アグベニューは釣り手を奥襟に叩き入れながら左大外刈一撃、首を抱かれた田代抗せず畳に埋まり「一本」。

両手で顔を覆う田代、観客席の大歓声に両手を広げて応えるアグベニュー。アグベニューの圧勝であったが、攻防のレベル高く、そして両者のプライド激しくぶつかりあった、終始緊迫感の途切れない非常に見ごたえのある試合であった。

【日本代表選手勝ち上がり】

田代未来(コマツ)
成績:2位


[2回戦]
田代未来〇片手絞(1:21)△ステファニー・トレンブレイ(カナダ)

[準々決勝]
田代未来〇優勢[技有・大外落]△バルドルジ・ムングンチメグ(モンゴル)

[準決勝]
田代未来〇GS技有・大内返(GS2:27)△ティナ・トルステニャク(スロベニア)

[決勝]
田代未来△大外刈(2:44)〇クラリス・アグベニュー(フランス)

鍋倉那美(三井住友海上)
成績:5位


[2回戦]
鍋倉那美〇優勢[技有・内股]△カタリナ・ヘッカー(オーストラリア)

[準々決勝]
鍋倉那美△GS反則[指導3](GS4:55)〇マルティナ・トライドス(ドイツ)

[敗者復活戦]
鍋倉那美〇GS技有・小内刈(GS2:30)△ユール・フランセン(オランダ)

[3位決定戦]
鍋倉那美△GS反則[指導3](GS0:33)〇ティナ・トルステニャク(スロベニア)

※写真は権利者の許諾を得て掲載しています

※ eJudoメルマガ版2月22日掲載記事より転載・編集しています。

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