PAGE TOP ↑

柔道1

柔道2
柔道4 柔道5

eJudoとは?情報募集・お問い合わせサイトマップ

【ROAD TO 高校選手権】桐蔭学園が優勝、粘る東海大相模を村尾三四郎の一撃で振り切る・第40回全国高等学校柔道選手権神奈川県予選男子団体レポート

(2018年1月20日)

※ eJudoメルマガ版1月20日掲載記事より転載・編集しています。
桐蔭学園が優勝、粘る東海大相模を村尾三四郎の一撃で振り切る
第40回全国高等学校柔道選手権神奈川県予選男子団体レポート
第40回全国高等学校柔道選手権(3月20日~21日・日本武道館)の神奈川県予選が20日、神奈川県武道館(横浜市)で行われ、男子団体は桐蔭学園高が優勝した。全国大会代表権の2枠目は同校と決勝を争った東海大相模高が獲得した。

桐蔭学園はエースの村尾三四郎を畳に上がらせぬまま、一次トーナメント、二次リーグ、さらに決勝トーナメント準決勝までの6試合を順当に勝ち抜いて決勝進出。迎えた決勝では東海大相模の大将榎田大人に2人抜きを許して大将同士の対決まで持ち込まれたが、村尾が開始僅か20秒の大内刈「一本」で事態を収拾。圧倒的な強さで優勝を決めた。

決勝戦評、入賞者、二次リーグ戦以降のスコアと決勝トーナメントの対戦詳細は下記。

文責:古田英毅

■ 戦評
eJudo Photo
二次リーグ、桐蔭学園高の千野根有我が相洋高・長谷川隼斗から内股「一本」

eJudo Photo
準決勝、桐蔭学園の先鋒安藤健志が慶應義塾高・島田優太から大外刈「一本」

eJudo Photo
準決勝、桐蔭学園の次鋒高山康太が慶應義塾高の大将森井浩太から大内返「一本」。苦杯を喫した個人戦の借りを返す。

eJudo Photo
準決勝、東海大相模の中堅大村康太が相洋高・江畑龍生から小外刈「一本」。

決勝カードは桐蔭学園-東海大相模。この時点で両校とも全国大会出場を確定させており、この試合が神奈川県第1代表決定戦となる。

ともにここまで6試合を消化。桐蔭学園ここまでのオーダーは先鋒に奥田訓平あるいは安藤健志を入れ、次鋒以降の高山康太およびポイントゲッター3枚(賀持喜道、千野根有我、村尾三四郎)の位置は試合ごとのローテーションというもの。ここまでのスコアは、2回戦で桐光学園を五人残し(先鋒安藤)、3回戦で慶應藤沢高を五人残し(先鋒奥田)、勝ち残った8チームによって争われる二次リーグ戦では立花学園高を四人残し(先鋒安藤が2勝1分け、次鋒賀持が2勝)、日大藤沢高を五人残し(先鋒奥田)、相洋高を四人残し(先鋒高山が1勝1分け、次鋒千野根が3勝)。迎えた全国大会進出決定戦の準決勝では慶應義塾高を三人残し(先鋒安藤が3勝1敗、次鋒高山が1勝1分け)で下している。招待試合シリーズで不安定だった奥田と安藤が大車輪の活躍を見せ、準決勝までに村尾三四郎が畳に上がる機会はなし。エースを取り置いたまま圧倒的な強さで全国大会出場を決めてみせた。

東海大相模は招待試合シリーズ後半戦を負傷欠場していたエース榎田大人が戦列に復帰。おおむね順当に勝ち進んでいたが、二次リーグ戦の横浜高戦では4試合連続の引き分けで大将同士の対決まで粘られる大苦戦。中堅戦ではポイントゲッターの大村康太が新倉直哉と「技有」を取り合うなど不首尾の試合となったが、最後は榎田大人が岡田和真から内股「技有」に袈裟固「一本」と連取して収拾。準決勝では大村康太の2人抜きをテコに相洋高を一人残しで下して全国大会代表権を得た。ここまでのスコアは2回戦の舞岡高戦が五人残し、3回戦の藤沢翔陵戦が4人残し、リーグ戦は法政二・新羽高を五人残し、慶應義塾高を四人残し、横浜高を一人残し、準決勝は前述の通り相洋高を一人残し。

招待試合シリーズを全勝で終えている桐蔭学園としては、この決勝が喉から手が出るほど欲しい全国大会第1シード権獲得への最終試験。ここを勝てば第1シードはほぼ確定のはずだが、万が一にも敗れるようなことがあれば主催者が「県の第2代表」に第1シード権を与えることは考えにくい。結果にこだわって全勝してきた招待シリーズの労を無にせぬためにも、勝利以外にはありえない重要な一番。

一方の東海大相模は招待試合のタイトル獲得がなく、戦力評価的にも全国大会におけるシード権獲得は微妙なところ。しかしここで「桐蔭学園に勝っての第1代表」との称号を得れば、難しいと思われていたシード8校入りが一気に現実的なものとなる。名門・相模の生き残りを掛けた、今代における最重要ゲームだ。

ともに譲れない事情を抱えた注目対決、開示されたオーダー順は下記。

eJudo Photo
桐蔭学園は先鋒に千野根有我を起用。

eJudo Photo
東海大相模は後衛に大村康太と榎田大人をまとめて布陣した。

eJudo Photo
決勝が開始される。

[決勝]

桐蔭学園高 - 東海大相模高
(先)千野根有我 - 有馬雄生(先)
(次)高山康太 - 山本銀河(次)
(中)賀持喜道 - 谷内竜太郎(中)
(副)奥田訓平 - 大村康太(副)
(大)村尾三四郎 - 榎田大人(大)

桐蔭学園の高松正裕監督と東海大相模の水落健太監督、双方がともに相手の策を「意外」と評したオーダー順。桐蔭学園は抜き役として先鋒に千野根有我を前出し、一方の東海大相模は前衛に大村康太あるいは榎田大人といった「抜き役」を派遣する策を取らず、信頼できる2枚を後衛にまとめて布陣した。

桐蔭学園は今季急成長した千野根への信頼の高さがうかがえるオーダー。このところの千野根の出来からすれば、3人抜き1分けまでは十分想像し得る配列。これまで前衛に使っていた5番手(奥田)を後に下げたことには、出来得れば「隙」を相手に、そしてこの試合をウォッチしているであろう全国のライバルに見せず、揉める場面自体を作らぬまま試合を終わらせてしまいたいという意志も見え隠れする。

東海大相模としてはとにかく1枚でも多く選手を畳に残して、複数で村尾三四郎に当たるしか勝利の目がない。たとえ千野根と賀持に抜かれても桐蔭学園の前線の凹みである高山と奥田のポジションをしっかり突いて抜き返し、抜いて抜かれる場の「荒れ」を演出して村尾のミスの可能性を増大させたいところ。これまで何度もアップセット劇を生んできた神奈川県決勝に独特の磁場をこの日の畳にも召喚出来るかどうかに、勝負の行方は掛かる。

eJudo Photo
先鋒戦の開始早々、千野根が有馬雄生から支釣込足様の右小外刈で「技有」

eJudo Photo
千野根は同じ技で3つ目の「技有」を得る。

eJudo Photo
内股「一本」でフィニッシュ、千野根の圧勝で桐蔭学園が先制。

先鋒戦は千野根有我が開始早々に反転ステップ鋭く右小外刈。東海大相模の斬り込み役として期待された有馬雄生はこの技に一瞬で崩落、開始6秒「技有」。「一本」にならなかったことが不思議なほど切れ味鋭い一撃だった。千野根そのまま抑え込むが、有馬必死で逃れて「解けた」を引き出しこの抑え込みは「技有」。千野根は試合開始20秒強で2つの「技有」が積み上げるロケットスタート。

試合が再開されると千野根再び右技フェイントのステップを切って支釣込足気味の右小外刈。一足技の踏み込みから身を翻した先ほどと相似の一撃、右技を想起して再び左から腰を切っていた有馬はこの反応の良さが仇となって全く対応できず畳に落下、またしても「技有」。

有馬は左背負投で必死に打開を図るが、千野根まったく揺るがず背筋を伸ばしたまま押さえつけてこの技を無力化。あとは仕留めるのみとばかりにじわりと前進行動を起こす。片足を挙げる軽挙を敢えて行わず、餅で包み込むように相手を詰めていく今季の千野根が得意とするこの形がひたすら続くと有馬は精神的に疲労。1分20秒過ぎには圧を受けたまままっすぐ畳を割ってしまい場外の「指導」を受ける。

直後、またしても「餅」の圧力で有馬を包み込んだ千野根が頃合い良しと切れ味鋭い右内股。スローな寄せから一瞬でギアを上げたスピードの落差に有馬ついていけず、腰を切った防御姿勢のまま作用脚が触れるなり吹っ飛び「一本」。千野根はあたかも投げ込みのように立ったまま見事に残身、相手の落下を見極めると体を浴びせてフィニッシュ。その直下には死に体で畳に埋まった有馬の体がある。まさしく斬り落としたとでもいうべき鋭い一撃に会場のどよめきしばし鳴りやまず。試合時間は1分31秒、この短い時間に、それも東海大相模期待の有馬という難敵から「技有」3つに「一本」と奪った千野根の出来は見事。まさしく圧勝であった。

eJudo Photo
第2試合、千野根はたびたび得点が想起される技を撃ちこむが、山本銀河ことごとく伏せて逃れノーポイント。

第2試合は千野根が右、東海大相模の次鋒山本銀河が左組みのケンカ四つ。山本は上から持った釣り手を突いて、引き手を争いながら時間を使う構え。千野根は肘を入れながらじわりと前に出るが、山本は引き手争いの駆け引きステージからあくまで降りず、千野根がこの防御志向の運動律に巻き込まれる形で試合はやや膠着。早々に双方に片手の「指導」。

千野根はじわりと前へ。しかし山本はあるいは肘を折りたたみ、あるいは突いて、千野根が納得できるレベルの形を決して与えない。千野根が攻めの形の完成を待つが山本がそれを作らせない、という構図で形上試合は膠着となり、双方に消極的との咎で「指導2」宣告。

奮起した千野根は右内股、さらにフェイントの右小外刈、二段の右小外刈と得点が想起される技を3つ見せるがいずれも決めの段階で山本が腹ばいに逃れてノーポイント。どれも威力は十分、ポイントに辿り着いてもまったくおかしくない一撃ではあったが、散発のため手数がまとまらず主審に3つ目の「指導」を決心させるまでには至らない。刻々時間が過ぎ、気が付けば試合は終盤戦。残り30秒で千野根が見せた大内返もポイント級の技かと思われたが、山本がまたもや伏せて得点には至らず。山本は最後まで釣り手の屈曲と進展を繰り返す守備戦術を貫徹して、この試合は引き分けに終わった。

重量級選手としては数段格の差があるカードと思われたが、山本が相対的に相手の良い形だけは作らせないという引き分け戦術に徹したこと、これに対して千野根が手数を積むのではなく「良い形を作って一発決める」ことにこだわったことがクロス、少々意外な結果となった。形さえ出来れば投げられるとジックリ試合を進めた千野根、しかしすべてを捨ててその「形」自体を作らせないことにこだわった山本の前に気が付けば試合が終わってしまったという印象だった。千野根の攻撃意志決定の喫水線ギリギリで巧みに水量をコントロールした、山本の引き分け戦術が当たった形の一番。

eJudo Photo
第3試合、東海大相模の中堅谷内竜太郎が肘抜きの背負投で高山康太を攻める。

第3試合は桐蔭学園の次鋒高山康太が左、谷内竜太郎が右組みのケンカ四つ。高山は試合が始まるなり思い切った左内股を2連発、非常に気合の入ったスタート。しかし谷内はこれを耐え切ると肘抜きの右背負投を連発して反撃開始。対照的に高山は徐々に失速、中盤には谷内の左一本背負投をまたいで受けるなど不安定さが顔を出し始める。
残り30秒、担ぎ系の相手が一発狙ってくる危険なタイミングだがここで明らかに高山の集中が切れる。桐蔭学園ベンチからは「ここ(の時間帯)で下がるな」「いま集中を切るな」と極めて的確なアドバイスが飛ぶが、高山は試合開始当初の元気の良さが嘘のように目から光が消えている。下がった末に、残り時間少ないところで抱きつき勝負を試みるなど挙動極めて不安定であったが、谷内にもここを突くだけの手札がなくこの試合は引き分け。桐蔭学園1人差リードのまま試合は進む。

eJudo Photo
第4試合は賀持喜道が序盤からラッシュ、大村康太たびたび膝を屈して苦しい戦い。

eJudo Photo
第5試合、東海大相模の大将榎田大人が賀持喜道から右内巻込「技有」

eJudo Photo
榎田が組み際に賀持を担ぎ、「一本」。ついに東海大相模が一矢を報いる。

第4試合は桐蔭学園の中堅・賀持喜道、東海大相模の副将大村康太ともに左組みの相四つ、賀持は体格差のある相手にはここがポイントと常に先に引き手側から掴み、次いで奥襟を叩く手堅い組み立て。掴むなり左内股のフェイントを呉れると大村潰れ、さらに引き手と奥襟を確保すると大村右袖釣込腰に潰れ、続いて左内股を繰り出すと大村またもや潰れて耐える。主導権を得た賀持は一足の左内股に左小内刈と技を継いで快走、引き手で袖を折り込んで完全に組み手を制した直後の3分3秒にはついに大村に「指導」が与えられる。
とはいえ賀持も重量級の大村攻略は至難の業。時間を追うごとに具体的なポイントの予感は目減りしていく印象だったが、残り17秒で支釣込足、左内股、左体落と技を継ぐと圧を感じたか大村は左払巻込に潰れて試合を流す。この際両手が離れてしまい、かつ賀持の体は崩れず。これには主審も偽装攻撃の「指導2」を宣告せざるを得ず、ついに試合を決めるスコアが刻まれる。最後は大村の左内股を賀持が透かしたところでタイムアップ、一時は引き分けほぼ確定と思われたこの試合は僅差の優勢で賀持が勝利することとなり、桐蔭学園のリードは2人差に広がった。

第5試合は畳に残った賀持に、東海大相模の大将榎田大人がマッチアップ。
この試合は左相四つ。開始早々に榎田が圧力を掛けて左内股、賀持回避するもこの攻防の様子からは、相性的にパワーと体格に勝る榎田有利の予感が漂う。賀持は組み際の左大外刈と左内股で攻め返し、榎田の土俵に乗らず自身の長所である技の切れ味を生かすカンの良さを見せるが、榎田一旦離れると右内巻込を一撃。賀持が耐えるとローリングを入れ、体ごと無理やり回転させて「技有」獲得。経過時間は44秒、これがこの試合東海大相模がマークした初めての攻撃スコア。
榎田はなおも右一本背負投と奥襟圧力を交互に繰り出し、圧をまともに受けた賀持畳を割ってしまい場外の「指導」。
そして2分9秒、榎田が組み際に片袖を引っ掴んで座り込みの左袖釣込腰。組み手の防壁ないまままともにその重量を食った賀持崩れ、逆側に抜け落とされて「一本」。東海大相模が1点を返し、スコアは再び1人差に戻る。

eJudo Photo
榎田が奥田訓平から払巻込「一本」、2人抜きを果たしてスコアはタイに。

迎えた第6試合は畳に残った榎田大人に、桐蔭学園の副将奥田訓平がマッチアップ。66kg級の奥田、榎田に引き手を先に持たれるといきなり潰れてしまう苦しい立ち上がりとなるが、以後はヒットアンドアウェイで右袖釣込腰、右背負投と良いタイミングの技を連発して意欲的な戦い。榎田の股中にピタリと潜り込む怖い形も見せてペースを取り返す。あるいは奥田が4分間を耐え切る展開もあり得るかと思われたが、ここから榎田は背負投を潰してのパワフルな横三角、さらに背負投の入り際を狙った左の大外刈とじわりと奥田の手札を殺し続ける。スピード勝負の土俵に敢えて乗らない、体格と力を生かしてのプレッシャー。奥田の手が徐々に詰まりはじめ、どうやら主導権が再び榎田の移ったと思われた1分40秒、組み際を狙った榎田の右腰車がガッチリ奥田の体を捕まえる。そのまま手を流して巻き込むとまともに体重を受けた奥田一瞬で畳に埋まり文句なしの「一本」。

eJudo Photo
村尾三四郎が猛ラッシュ、大内刈「一本」でチームの勝利を決める

試合はここでついにタイスコア。勝敗の行方は大将同士の対決にもつれ込むこととなる。

畳に残った榎田、そしてこの日初めて畳に上がる桐蔭学園の村尾三四郎ともに左組みの相四つ。村尾「はじめ」の声とともに前進、一方的に引き手の袖を得ると左大外刈、さらにケンケンの左大内刈と技を継ぐ。榎田これはなんとか残したが、その態勢の詰まりに村尾の左大内刈が容赦なく襲い掛かる。榎田の体が宙を舞うと躊躇なく体を乗り込ませ、回旋を増して畳に埋め込み「一本」。

この間僅か20秒。村尾が凄まじい強さであっという間に事態を収拾、この瞬間桐蔭学園の優勝が決まった。

eJudo Photo
試合終了直後、選手に訓示する高松正裕監督。

eJudo Photo
二次リーグ、相洋戦の千野根。2人を抜いた3試合目、小外掛で相手が崩れるとすかさず押し込み直して抑え込みに繋ぐ。

桐蔭学園高〇一人残し△東海大相模高
(先)千野根有我〇内股(1:31)△有馬雄生(先)
(先)千野根有我×引分×山本銀河(次)
(次)高山康太×引分×谷内竜太郎(中)
(中)賀持喜道〇優勢[僅差]△大村康太(副)
(中)賀持喜道△袖釣込腰(2:29)〇榎田大人(大)
(副)奥田訓平△払巻込(1:40)〇榎田大人(大)
(大)村尾三四郎〇大内刈(0:20)△榎田大人(大)

予想以上に揉めた試合だが、結果自体は順当。桐蔭学園が実力をしっかり結果に反映したと総括すべきであろう。

全国大会に向けて見せた上積みは、相変わらずの村尾三四郎の強さと、なんといっても千野根の成長。決勝の2試合目は思わぬ引き分けを演じてしまったが、むしろこれも千野根が「組んで、投げる」ことに自信を感じていたゆえと見る。相手に隙を与える片足状態、あるいは手数志向の「無駄撃ち」を最小限に、餅で包むように柔らかく圧を掛け続け、寄せられ続けた相手が嫌気するや否やスピードアップして取り味のある技を撃ちこむ。崩しさえすれば素早い寝技で獲り切るという手堅いシナリオ分岐の用意もある。前代、2試合目ともなれば肩で息をして隙だらけ、装甲の薄い横腹を晒した「病める巨艦」ともいうべき場面も多かったあの千野根とはもはやまったくの別人だ。勝負師高松監督がこの大一番でなんと先鋒の重責を託したという事実が、何より雄弁に千野根の成長を物語っている。新チームになってからまだ一線の重量級と試合をしていないという評価上の空白域は残るものの、今代の桐蔭学園チームのもっとも大きな上積みと考えておいてよいだろう。

逆に見せた弱点の一は、大型選手を苦にせぬところまでその技術を洗練させたかに思われた賀持が、再び重量選手に隙を見せたこと。洗練された組み手で武装した強者であれば逆にその「組み手」という装甲同士をかちあわせることで十分優位に試合を運べるが、このプロセスを経ずにいきなり体重をまっすぐ掛けてくる選手には意外な脆さがある。

そして、最大の弱点である「4番手以下の薄さ」は本番2か月前のこの段階に至ってもやはり払拭出来なかった。この日大車輪の活躍を見せた奥田は軽量でもあり、決勝で見せた「吶喊攻撃の末に重量選手の一撃に屈する」展開は、言ってしまえば単に1点失点という数字以上のダメージはない。他選手のメンタルや試合の流れに与える負の影響は最小限に留まるかと思われる。難しいのは4番手が確定している高山だ。前述の通り、団体戦という条件下でやってはいけないミスが非常に多い。個人戦で敗退した相手にこの日勝利するなど意地も見せたが、3枚が比類なき得点力を誇るこのチームにあっては、ボーナス的に得る1点よりもミスで失う1点のほうが局面に与える影響が遥かに大きい。ベンチは都度的確に指示を出しているのだが、それでも同じミスを繰り返すタイプの選手であることが試合展開の計算を非常に難しくしている。下がる、集中を切る、ラッシュのあとに露骨な失速の時間帯を作る。この日、二次リーグの相洋高戦では残り数秒で打って出た抱きつき勝負に大内刈を合わされて、映像チェックの長い合議を引き出してしまった。結果自滅と判断されてノーポイントだったが率直に言ってこの判定は非常に幸運なもので、失点の断が下されてもまったくおかしくなかった。そして直前にこのような場面があったにも拘わらず、引き分けが見えてもはやリスクを冒すべきではない決勝の第3試合の最終盤、まるで試合が始まった当初のミッションを急に思い出したかのようなイチかバチかの抱き勝負に出た判断はまったく不可解。「取って取られて」こそを最も警戒すべき戦力的に自軍優位の力関係の中、それもアップセット磁場の到来をもっとも忌避すべき「神奈川県大会決勝」という特殊な戦場で、しかもリードを背にして引き分けが見えた試合最終盤でのこの判断はちょっと理解しがたいものがある。どうやら桐蔭学園が高校選手権2連覇を目指す上でのキーマンは高山。絶好調の黒潮旗大会ではチームを鼓舞する一発を決め続けた来歴もあるこの選手の挙動が当日表と出るか裏と出るかが、「3枚」の力をスコアに反映できるかどうかに直結することになるのではないだろうか。

敗れた東海大相模。彼我の戦力に圧倒的に劣りながら一人残しまで勝負を持ち込んで意地を見せたという形だが、言ってしまえば「意地を見せた」のは榎田のみ。勝負意欲旺盛で斬り込み隊長役になり得ると目される有馬が千野根に幾度も投げられて意気消沈したか、以降は榎田抜きで戦った若潮杯同様、大枠緩やかに敗北を受け入れるような消極的順行運転の試合が続いた。前代のような才能あふれるチームではないがその分必要とされるのは泥臭い戦いと、なんとしても相模は勝たねばならぬという良い意味での思い込み、高いプライドのはずだ。全国大会に向けていま一度の奮起を期待したい。

eJudo Photo
優勝の桐蔭学園高

【入賞者】
優 勝:桐蔭学園高
準優勝:東海大相模高
第三位:慶應義塾高、相洋高

※1位校と2位校が全国大会進出

桐蔭学園高・高松正裕監督のコメント
「(-招待試合シリーズにこの日の県予選と全勝、結果的には満点では?)いえいえ、全然満点じゃないですよ(笑)。ただ、今日5人目、6人目の成長が見えたのは収穫でしたね。まだまだなんですが、今日は頑張ったと思います。(-決勝、スコア的には接戦になりましたね?)うまくいけば三人残しというようなスコアもありえたと思うのですが、そもそも東海大相模さんとこういう風な試合になるというのは想定内です。簡単にはいかない。しっかり結果を残したことが大事だと思っています。(-千野根選手の成長が著しいですね?)精神的に大人になりましたね。我慢の限界量が増えたし、技術的にも高くなりました。あと2か月、今度は持久力が課題と思っています。(-村尾選手については?)いるだけで相手にとってはプレッシャー。大きな存在です。最後は国士舘高の斉藤立選手との勝負になると思うので、大型選手に負けないだけの筋力をつけさせたい。(-全国大会に向けて一言?)生徒に話していることをそのまま言いますと、『三冠』のどの大会も全部連覇が掛かっていると。2年連続の『三冠』という目標は大きすぎるから、連覇を積み重ねることで最後にここに辿り着くんだと。1つの大会、1試合の勝利を確実に積み重ねることを考えろということですね。これを徹底して、頂点まで勝ち抜きたいと思います。」

桐蔭学園高・村尾三四郎主将のコメント
「去年の三冠チームが、選手権に第2代表で出るわけにはいかない。しっかり勝とうと話し合って試合に臨みました。チームはまだ決して完璧ではない。5番手、6番手を色々変えて試合をしてきましたが、まだ団体戦の経験が浅いので苦しいところもあります。ただ、前だったら引き分けたり負けたり、取れなかったりしていたところで今日は取って来たり粘ったり、自分の役割をやり切ろうとするしぶとさが出て来たなと頼もしく感じました。(-村尾選手自身の役割は?)自分は主将で、この中では一番強いと思うので『最後は自分に任せておけ』と。いつもそう思って試合に臨んでいます。(-大会に向けて一言お願いします)個人戦でまず勝って、団体戦でも勝ちます。国士舘も天理も、重量級に強い選手がいる。その強い選手を皆で止めることが勝負のポイントだと思っています。あくまで勝つことにこだわって、優勝します。」

東海大相模高・水落健太監督のコメント
「この代は、自分が就任したときの1年生の代。例年に比べると力は落ちますが、なんとか最強世代の桐蔭学園を倒そうとひたむきに稽古しています。いままでの技が切れる相模ではないかもしれないけど、意地を出して、泥臭く戦っていきたい。今日も頑張ってくれました。桐蔭学園に勝つには、最後にどうしても村尾選手を倒さなければいけない。倒すことは奇跡に近いと言われるかもしれないですが、2か月しっかりやりなおして、ワンチャンスに掛けられるところまで持っていきたいと思います」

【二次リーグ戦】

※予選トーナメント勝者8チームによる。各ブロック1位校と2位校が全国大会代表決定戦(準決勝)に進出。

[Aブロック]

桐蔭学園高〇四人残し△立花学園高
桐蔭学園高〇五人残し△日大藤沢高
桐蔭学園高〇四人残し△相洋高
相洋高〇一人残し△立花学園高
立花学園高〇三人残し△日大藤沢高
相洋高〇三人残し△日大藤沢高

[Bブロック]

東海大相模高〇五人残し△法政二・新羽高
東海大相模高〇四人残し△慶應義塾高
東海大相模高〇一人残し△横浜高
慶應義塾高〇三人残し△法政二・新羽高
慶應義塾高〇代表戦△横浜高
横浜高〇二人残し△法政二・新羽高

【準決勝】

桐蔭学園高〇三人残し△慶應義塾高
(先)安藤健志〇横四方固(2:10)△吉田豪(先)
(先)安藤健志〇大外刈△島田優太(次)
(先)安藤健志〇払巻込(0:32)△小野佑眞(中)
(先)安藤健志△横四方固(3:22)〇森井浩太(副)
(次)高山康太〇大内返(0:32)△森井浩太(副)
(次)高山康太×引分×秦七伎(大)
(中)村尾三四郎
(副)賀持喜道
(大)千野根有我

東海大相模高〇二人残し△相洋高
(先)谷内竜太郎×引分×長谷川隼斗(先)
(次)成澤登夢×引分×木村大紀(次)
(中)大村康太〇小外刈(1:42)△江畑龍生(中)
(中)大村康太〇優勢[技有・払巻込]△吉田陽翔(副)
(中)大村康太×引分×荒井竜河
(副)山本銀河
(大)榎田大人

【決勝】

桐蔭学園高〇一人残し△東海大相模高
(先)千野根有我〇内股(1:31)△有馬雄生(先)
(先)千野根有我×引分×山本銀河(次)
(次)高山康太×引分×谷内竜太郎(中)
(中)賀持喜道〇優勢[僅差]△大村康太(副)
(中)賀持喜道△袖釣込腰(2:29)〇榎田大人(大)
(副)奥田訓平△払巻込(1:40)〇榎田大人(大)
(大)村尾三四郎〇大内刈(0:20)△榎田大人(大)

※ eJudoメルマガ版1月20日掲載記事より転載・編集しています。

→eJudoトップページに戻る
→「ニュース・マッチレポート」に戻る
→「書評・DVD評」に戻る




supported by KAYAC 運営会社サイトポリシー  RSS copyright (c) 2005 ejudo all rights reserved.