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【ブダベスト世界柔道選手権2017特集】【eJudo’s EYE】新ルールが混戦加速?大荒れ81kg級の解釈と消化を試みる・第4日2階級評

(2017年9月15日)

※ eJudoメルマガ版9月15日掲載記事より転載・編集しています。
【ブダベスト世界柔道選手権2017特集】【eJudo’s EYE】新ルールが混戦加速?大荒れ81kg級の解釈と消化を試みる・第4日2階級評
■ 新ルールが混戦加速?大荒れ81kg級の解釈と消化を試みる
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まさかの顔合わせとなった81kg級決勝はアレクサンダー・ヴィークツェルツァク(ドイツ)がマテオ・マルコンチーニ(イタリア)から片手絞「一本」

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ヴィークツェルツァク自身もにわかに勝利を信じられない様子

81kg級は優勝候補の筆頭格であった永瀬貴規が4回戦で膝を負傷、歩くこともままならないまま予選ラウンドで姿を消すという衝撃の展開。アヴタンディル・チリキシビリ(ジョージア)は既に90kg級に去っており、リオ―ロンドン期を牽引した絶対者2名を失ったトーナメントは迷走。シード選手8名から準決勝に進んだのが僅か1名、残った五輪王者ハサン・ハルモルザエフ( (ロシア)も準決勝で敗れ、トーナメントはワールドランキング124位のアレクサンダー・ヴィークツェルツァク(ドイツ)が同61位のマテオ・マルコンチーニ(イタリア)を破って優勝を飾るというまったく予想のつかない形で終了した。

もともと柔道に癖のあるタイプのハルモルザエフはまだ五輪の一発勝負で勝ったのみで、永瀬やチリキシビリのように継続して圧倒的な力を示し続けた経験はない。ゆえにこの選手の3位という成績単体は十分飲み込める結果ではあるのだが、1位ヴィークツェルツァク、2位マルコンチーニというラインナップはちょっと解釈不能だ。3位のもう1人が上昇傾向の見られたサイード・モラエイ(イラン)であったことはまだ理解出来なくもないが、それにしたって表彰台に上がるのがこのメンバーであることを予想出来たものはおそらく世界にただ1人もいないであろう。

大荒れの大会の原因としてひとつ「密着柔道の流行と、下位選手がこれに技術的に対応し始めたことによる、このスタイルのリスクの顕在化」という仮説を立ててみたのだが、勝ち上がりを見直してみる限り意外とその匂いも薄い。そもそも決勝で戦ったヴィークツェルツァクとマルコンチーニは担ぎ技を軸に勝ち上がって来た選手であって、勝負どころでの密着をテコに這い上がって来たわけではまったくない。これは後世(1年後くらいのスパンで)の視点からその意味を再照射して解釈しなおすしかないのではないかと思うのだが、敢えて言えばやはり、この階級の層の厚さ(敢えて注釈を入れておくが、「薄さ」ではない)がその因であると考えておくしかない。軽量級の身体能力に重量級のパワー、もともと能力の高い選手が揃っているところにメソッドの均一化(勝ち上がりを眺めても、強豪選手の持ち技と下位選手の決まり技にあまり差がない)と、超強豪が抜けた混戦状況が重なり、現行制度では珍しい大荒れ大会が現出したのではないかということ。これは同じく大荒れとなった90kg級と相似であり、現代柔道の中量級はひとつふたつの軸を抜かれると容易にこの状況になり得るくらい力が接近しているということと捉えておくべきなのかもしれない。ヴィークツェルツァクとマルコンチーニが今後も超強豪としてツアーの序列に居座る可能性は非常に低いと思われるが、現代の中量級はある程度以上の力があれば意外とアップセットが起こしやすい特性があるのかもしれない。

と考えていくと。かつてこの状況(肉体的条件が高い位置で相似という条件下に技術の均一化が加わり、力の接近した選手がダンゴ状態のレースを繰り広げた)が現われかけた北京-ロンドン期中盤に、歩留まり良く頂点に君臨し続けた選手がパワーと組み手メソッドの連携による「指導」奪取でこの状況自体に蓋をしたキム・ジェブン(韓国)であったこと、毎度上位が入れ替わる混戦の中同じく戦術性に特化したアントワーヌ・ヴァロアフォルティエ(カナダ)が安定して成績を残したこと、そして「組み合う」新ルール施行により投げる力をそもそも持たないキムが弾き出されて引退を余儀なくされたこと、さらに前述のの「組み合う」新ルールが今年「投げねば勝てない」というところまで先鋭化されたことなどを考え合わせると。

「もともと肉体的、能力的条件が高い位置で揃った中量級に、映像文化の普及と相互研究による技術の均一化が起こり、これに組み合って必ず投げねばならない新ルールが追加された結果『投げ合い』が加速され、まだ組み合ったままの防御メソッドが確立され切っていないこの時期(あるいは袖口グリップなど一方的な組み手が緩和されて弱者でも強者を一発投げるチャンスが広がったこの時期)、一時的な大混戦状態が現出した」

という仮説はひとつ立てることが可能だ。果たして的を射た見立てかどうか後世の判断を待たねばならないが、この先の中量級ウォッチのひとつの軸として、参考にしていただければ幸いである。

■ 永瀬の負傷は誰も責められず、問われる中量級の育成方針
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王座返り咲きを目指した永瀬だが、4回戦で悲劇が待っていた。

永瀬の負傷は誰にも責められない。永瀬が東京五輪に向けたまさしく「虎の子」のワントップであった(それにしても前述の混戦状態にあってなおそもそもの体の強さ自体で他を圧し、階級の頂点に君臨していた永瀬の実力の凄まじさにあらためて戦慄する次第である)こと、大会前に膝を痛めていたことなどを考慮して「無理して出場することはなかったのではないか」という議論もあると耳にしたが、永瀬は出られると判断出来る状態だから出場を決めたのだろうし、何より永瀬のライフストーリーとしての、リオ五輪の敗北からの世界王座返り咲きという大きな目論見を無視してはならない。負傷の状況も不注意、というようなものではなかったし、あそこまで戦闘意思をあらわにした永瀬を周囲が中途で止めることが難しかったことも理解は出来る。不幸な事故と考えるしかない。

大会後1週間経ったこの時点においても正確な診断名は発表されず、ただ「簡単に治るようなケガではない」(金野潤強化委員長)であることのみが伝えられた。少なくとも1年は、日本は永瀬抜きでの戦いを余儀なくされること確実とみていいだろう。

永瀬抜き。ここでファンと識者に再三指摘されていた「永瀬のみが突出」「大苦戦していた81kg級の状況は、永瀬出現前と実は大きく変わってはいない」ことが隠しようもなく公に晒されてしまう。前述、水準以上の選手であれば誰でも上位進出の可能性がある国際的な大混戦時代に、国まるごとついていけていない状況とすら捉えられる。ここは強化に与えられた啓示と考えて、大方針である複数同時強化をあらためて真摯に進めるほかはないだろう。

当たり前であるが他選手にとってはこれは大チャンスだ。折も折、ルールは「多少の『指導』を取られても最終的には投げのある選手が強い」というここ数十年で最も日本選手に向いたレギュレーション施行下。昨年国内を凄まじい内容で制しながら再三の負傷と国際大会の組み合わせの悪さに泣いた渡邉勇人(了徳寺学園職)をはじめ、一段の奮起に期待したい。

ひとまずは来年の世界選手権。今年「代表なし」であった90kg級と並んで日本の中量級はそのポリシーをはっきり問われる。少なくとも1年が与えられたこの状況で希望の持てるラインナップを揃えられるのか、それともハッキリ割り切って人材豊富な他階級の競り合いに枠を振り当てるのか(残念ながら現況ではこの可能性が排除できない)。強化の方針と、渡邉ら有望選手の奮起に注目だ。

■ 新技次々現れる国際柔道、トレンドの最前線は「体落」
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73kg級決勝、橋本壮市が右体落を決める

81kg級3回戦、ダブラト・ボボノフ(ウズベキスタン)が第4シードのヴィクトール・ペナウベル(ブラジル)を鮮やかな右体落「一本」に屠った瞬間、ようやく脳内のコップから水があふれた。今大会は、やけに体落が存在感を発揮しているではないか。前日の73kg級では橋本壮市が2試合を右体落で勝ち抜き、ガンバータル・オドバヤル(モンゴル)も3回戦のアレクサンダー・ターネル(アメリカ)戦で非常に印象的な左体落「一本」を決めている。66kg級では非強豪相手の試合ながらユアン・ポスティーゴス(ペルー)が2回戦で見事な左体落「一本」を見せたし、この日の81kg級でもこれまた非強豪同士の対戦ながら2回戦でジャック・ハットン(アメリカ)が、モハン・スヌワル(ネパール)からいずれも体落で「技有」「一本」と立て続けに奪っている。この他、具体的なポイントに結実せずとも、特にケンカ四つの場合に体落で試合を組み立てている選手が明らかに増えている。基本技でありながら、たとえば昭和期に比べると一時競技的にはかなり存在感を落としていた技であるだけに、考えてみれば少々意外の感もある。

この体落流行の兆しには一定の理があると考える。

今大会の技の傾向を見ると、まず2013年以来の一貫した傾向である密着状態からの技術のさらなる錬磨が挙げられる。「やぐら投げ」には降り際の小外掛、抱きつきの前技には横車に抱分、クロス組み手には抱きつき大内刈に相手の腕を両腕で抱きかかえての掬投的な浮落、裏投げには小内刈や大内刈を当てるかあるいは足を抜き替えての浮落、さらには敢えて相手を呼び込んでの「セルフ内股透」と、カウンター技も相当の数が出揃い、強きも弱きも標準装備としての密着技の引き出しと練度は相当の水準に達している。

こういう状況になると密着勝負の特性である「一か八か」のギャンブル要素は格段に上がる。これはもともと勝ち目の薄い「持たざるものたち」にとっては望むところの状況だが、確実に勝たねばならない強豪たちにとっては利が薄い。どんなに力関係が上でもこれをポッと出のパワーファイターに無力化されかねない密着勝負は、リスクが大きすぎるのだ。

ここで体落である。しっかり釣り手を持つので一定の間合いが保て、相手をコントロールしやすいため返し技を食いにくい。初心者に体落の利点を説明するときに語られるところの「足を二本踏ん張って掛けられるから力を籠めやすく、返されにくい(前述の、力関係の反映のしにくさの解消)」「幾度も続けて掛けられる(常に攻めねばならない現代柔道への適性がある)」という2点はもはや言うまでもなし。

この先も競技柔道の技術トレンドは、「一発勝負の密着技術を磨く」方向と、「力関係を生かすべく、しっかり持って返されにくい技を仕掛ける」二極で展開されていくのではないだろうか。第1日評で書かせて頂いた髙藤直寿の正統派回帰傾向と合わせて、後者の萌芽がわかりやすく見え始めた2017年度大会であったと考えたい。

■ ビースト化さらに加速、日本の「代表なし」には納得感薄し
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63kg級決勝は予想通りのカード。クラリス・アグベニューとティナ・トルステニャクという2人の「ビースト」が相搏つ形となった。

大荒れ81kg級とは対照的に、女子63kg級は大枠手堅い展開。2番手グループのトップに躍り出るのではと期待されたカトリン・ウンターブルツァハー(オーストリア)の早期陥落、同じく躍進中のマルゴ・ピノ(フランス)が組み合わせに恵まれず早期敗退、ヤン・ジュインシュア(中国、5位)の寝業師傾向加速にマルティナ・トライドス(ドイツ、5位)の復活、アガタ・オズドバ(ポーランド)とバルドルジ・ムングンチメグ(モンゴル)の3位入賞と中間勢力内での変動はあったが、「クラリス・アグベニュー(フランス)とティナ・トルステニャク(スロベニア)が決勝を争った」という一事を以て、この階級の序列にはさほどの変動なしと総括して良いだろう。

アグベニューが苦手のトルステニャクを破ったことは事件だが、トルステニャクは明らかに不調。負傷で稽古が積みきれなかった模様(準決勝のヤン戦のGS延長戦で、必要以上にスタミナを消費したことが直接的な敗因かと思われる)だが、それでもトルステニャクの勝ち上がりの因がスタミナとパワーを掛け算した持ち前の連続攻撃にあったという事実は、この2人のモノの違いをよく表しているかと思われる。パワー派2人が幅を利かせてこれに周辺勢力が追随する63kg級の「ビースト化」傾向はさらに加速したと解釈しておくべきだろう。

というわけでさほど語るべきことの多くない63kg級であるが、ひとつだけ。強化にとっては耳の痛いところであろうが、やはり日本代表はこの階級に代表を送るべきだったということは意見として言っておきたい。誰か、出しておくべきだった。

ひとつは前述の通り2位以下が混戦状況の中、チャンスがまったくの皆無ではなかったということ。もう1つは、もともと対戦相性が勝負の様相を左右することの多いこの階級にあって、かつ各選手がそれぞれの方向で着実に上積みを為している中で、少しでも対戦サンプルは多くあるべきだということ。(複数同時強化を為す中で、海外選手に対する相性次第では純粋な力関係を超えて田代未来のライバルになる選手が現われた可能性もある)。少なくとも現時点でもっとも海外選手が本気になってくる世界選手権という場で、現在の競技トレンドと呼吸を続けておくべきだった。そしてこれは他動的な要因だが、63kg級を「代表なし」にする代償として、いの一番に枠を振り向けた形の78kg級の佐藤瑠香のパフォーマンスが、到底その犠牲に見合うようなものではなかったということ。これは施策上の失策として正面から総括されねばならないはずだ。

のっけに「誰か」と言ったがこれがこの階級の選考の難しいところで、どの選手にも決定打はなく、大抜擢に応え得るような戦いを示していた嶺井美穂は計量失格という最悪のミスを犯して強化選手の権利自体を失ってしまっていた。匙を投げたくなるような状況であったことは間違いないのだが、少々安易な選択であったし、その後の世評に対する対応を観察するに、ちょっと事態を甘く見ていた感は否めない。男子100kg級の成功体験に依って、強化が「派遣なし」という選択の心的ハードルを下げてしまっていたのではないか。エクスキューズとして為した団体戦への2人投入がなくなってしまった(男女混合団体戦の採用により)という不運もあったが、貴重な機会を失ってしまったとの評価は甘んじて受け入れるしかないだろう。

この上は、世界選手権1大会ぶんの喪失に見合うだけの積極強化を期待したい。派遣大会の増加か、単独武者修行なのか、目に見える形、周囲を納得させ得る具体的な施策が必要なはずだ。

文責:古田英毅

※写真は権利者の許諾を得て掲載しています

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