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【ブダペスト世界柔道選手権2017特集】【eJudo’s EYE】正統派に回帰する髙藤、黄金時代迎えた女子48kg級・第1日2階級評

(2017年9月8日)

※ eJudoメルマガ版9月8日掲載記事より転載・編集しています。
【ブダペスト世界柔道選手権2017特集】【eJudo’s EYE】正統派に回帰する髙藤、黄金時代迎えた女子48kg級・第1日2階級評
■ 男子60kg級評・正統派に回帰する髙藤、思わぬレッテル背負ってしまった永山


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60kg級を制した髙藤直寿。投げ一発の魅力はもちろん、今大会は二本しっかり持った攻防への意欲が際立っていた。

髙藤直寿が圧勝V。力あり、理あり、そして運あり。文句なしとしかいいようがない素晴らしい出来であった。
60kg級は男子7階級の中でも屈指の強豪密集階級。魅力的な選手が多すぎて選手紹介の執筆にも思わず手を掛け過ぎてしまう、選手にとっては難しい階級だが、髙藤は極端に偏ったドローの恩恵を受けて決勝まで強豪との対戦はゼロ。迎えた決勝はこの日絶好調、激戦ブロックを勝ち上がって来たオルハン・サファロフ(アゼルバイジャン)から大内刈で「技有」「一本」と連取して快勝。他選手とは一段違う出来を見せて世界選手権2度目の金メダルを獲得した。

この日の髙藤の柔道から感じられたのは、リオデジャネイロ五輪後の試合の随所で匂わせていた正統派への回帰。身体能力の高さとスピード、そして発想自体から突飛でアクロバティックな投技が売りであった髙藤は、確かに今回もその長所を存分に発揮してはいた。地上波でも放送されたであろう決勝の大外刈をかわすなり飛び込んでサファロフを「棒」の状態に固定した左大内刈「一本」はもちろん、準決勝のパヴェル・ピエトリコフ(チェコ)戦での突如相手の左前隅にダッシュして引っ張り出しながら右前隅に放った隅返に、2回戦でヤーシン・モウダリール(モロッコ)をいったん大腰で引きずりながら滑り込んで放った裏投、そして真骨頂とでもいうべき準々決勝、モクリディン・ティロヴォフ(ウスベキスタン)のクロス組み手に素早く反応して、掬投では?と思わず見ている側が腰を浮かせてしまう動きで捲り放った浮腰。決め技だけを見れば、髙藤がリスクを厭わず大胆に、存分に「らしさ」を発揮したと言える1日だった。

しかし髙藤がこれらの一種「危ない」技を繰り出したのは、実は僅少、決めどころのみ。戦いの全体を時間単位で見渡すと、目立ったのは相四つ相手に二本しっかり持って、あるいはケンカ四つ相手に釣り手を鋭く振り立てて相手を崩しながらチャンスメイクを続ける、むしろ正統派の戦いであった。今大会の髙藤を象徴する場面としては上記の大技よりも、大物食いを狙うジョン・センビョン(韓国)に飛び込む準備行動となり得る間合いすら与えぬまま組み続けて、結果得意の左小内刈で転がした3回戦の中盤戦(今年のグランドスラム・パリではこの戦い方がベースだった)、あるいは一発飛び込みを狙うピエトリコフを足技で崩し続けてそもそも振りかぶることすら許さなかった準々決勝の序盤戦を挙げたい。髙藤は異次元の大技一発を懐に呑みながらも、そのリスクを理解し、正統派の戦いで相手を追い詰めながら、これを繰り出す場面を最小限に絞ってしっかり勝ち切ったと理解したい。髙藤が一か八かの大技を放つ時に出来上がる『際』を狙っていたライバルたちは、「来てくれない」どころか、攻めも守りも同じ形(二本しっかり持つ)から繰り出してくる髙藤に正面から崩され続けて、これという時にはもう動けなくなっていたという印象だ。

密着大技一発に頼るリスクはいうまでもなく返し技や自爆の可能性が高いことで、これは成績の不安定さに繋がり、そして現在の制度では成績の不安定な選手は代表には使ってもらえない。リオデジャネイロ五輪という「絶対に負けられない場」を経験した髙藤が懐に呑んだ飛び道具をそのままに、リスクを最小限に抑えたままこれを存分に生かす方法論へと舵を切った、これがこの守りと攻めを同じ形から繰り出せる正統派スタイルへの回帰ということと解釈する。

大会中盤戦で感じたことだが、現在の強豪たちの技術の流れには、「一か八かの密着における『際』の技術を磨く」ことと、逆に「攻防ともに可能な形から、返されにくい技でしっかり投げる」二極がある。この中で、前者のパイオニアとでもいうべき髙藤(2013年リオ世界選手権に端を発する髙藤の「際」に活路を求める柔道は、その後全階級をまたいだトレンドとなった)が、逆に後者への比率を増やして安定感を増していることは非常に興味深い。

恐れを知らずアクセルを踏み続けることで他を凌いだ若きスピードレーサーから、常人では踏み込めないその世界を知りながらも突っ込むべき場面を的確に見定める熟練者へ。

安定感に爆発力、2013年の初優勝から4年経ち、今大会は「1周回った」髙藤がその経験に見合う位相の高い柔道を披露した大会だったと総括したい。あとはこれが、ハイコンディション時のライバルたちに通じるかどうか、あの五輪の全員が一段も二段も巻き上がった状態で周囲から抜け出す武器になり得るか。一層の研鑚に期待したい。

一方、初代表の永山竜樹は持ち味をまったく発揮できず。初戦のアシュレイ・マッケンジー(イギリス)戦、2回戦のレニン・プレシアド(エクアドル)戦と動きが明らかに硬く、勝負どころのガンバット・ボルドバータル(モンゴル)戦では相手の奥襟来襲に合わせて撃ち込んだ袖釣込腰を狙われ、隅落「技有」で畳に沈んだ。

髙藤が「一周回った」経験値を存分に生かして畳を自由に泳ぎ回ったことに比べると、永山はまさしく初出場の壁に阻まれ、呼吸困難に陥っていた印象。その柔道の詳細な分析はさておき、少なくとも、組んでも、抱いてもどこからでも技が飛び出す永山らしさはほとんど発揮出来ていなかった。動きの硬さゆえか、持ち前の「崩れた相手に対する反応の良さ」がなく、出足が遅れたことがこの一因とは解釈できるが、それがなぜかということになると、これはちょっと本人にしかわからない。個人的には柔道の構造欠陥ではなく、その運用面(当日のメンタル、あるいはフィジカルコンディション)に問題があったと解釈しているが、断言するには少々材料不足だ。
しかし、内容はともかくこれで「国際大会に強い髙藤、国内で強い(国際で勝てない)永山」という構図が出来上がってしまうことは否めない。グランドスラム・パリの予選ラウンド敗退は相手が永山同様通常の物差しでは測りがたい一発屋ディヨロベク・ウロズボエフ(ウズベキスタン)という怪物であったことで「ケガ負け」という酌量がありえたが、3大会で2度の予選ラウンド敗退という記録が残ることはなんとも痛い。グランドスラム・エカテリンブルグ大会の素晴らしい勝ちぶりからはまったく不当な評価であるし、筆者はまったくそうは思わないが、国内で髙藤直寿相手に見せた2連続「一本」の印象が比類なく鮮烈であるぶん、一般ファンにその落差が「海外で力を発揮できない」ものとして残ることは避けがたいのではないか。エカテリンブルグ大会時点では東京五輪はこの人以外なしとまで思われた永山であるが、このままいくと何回髙藤に勝っても結局代表に手が届かないということになりかねない。勝負は、次の国際大会。次の次、ではなくこの世界選手権後1回目の舞台が唯一の汚名挽回の場だ。常の勝利だけでは足らず、永山は国際大会にむしろ強いと思われるような、今大会を「事故」に押し込めて記憶の箱から取り出させないような、圧倒的な勝ちぶりが必要だ。

■ 女子48kg級評・軽量級に黄金時代到来、国内、国際ともに個性派の好役者揃う
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優勝した渡名喜風南。写真はムンフバット・ウランツェツェグ戦。

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近藤亜美は銅メダルを確保。

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得意の横三角からの抑え込みを狙うムンフバット。

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ガルバトラフ・オトゴンツェツェグ得意の裏投は今回も破壊力発揮。

渡名喜風南の初出場、初優勝で幕を閉じた48kg級は、事前評に違わず非常に面白かった。

まずその内容。「相手の反則だけでは勝てない」新ルール試行後初の世界選手権、そして初日。とかく力の差が勝敗に反映されにくい(特に日本国内では)最軽量級ということもあり、退屈な試合の3つ4つはあってしかるべきと覚悟していたのだが、結果はトーナメント全試合を通じてGS「指導」(指導1か指導2)で決まった試合が僅か2試合、GSあるいは本戦の「指導3」決着も僅か3試合のみ。あとはダイレクト反則負けが1つあるだけで、残りすべてが攻撃ポイントで勝敗が決するという、旧ルールを考えればちょっとあり得ないほどのテンポの速い、エキサイティングなトーナメントだった。ムンクバット・ウランツェツェグ(モンゴル)の腕挫十字固、ガルバトラフ・オトゴンツェツェグ(カザフスタン)の片手絞、渡名喜風南の小内刈に近藤亜美の小外刈と、主役たちが次々決めた魅力的な技がこれに寄与していたことは、言うまでもない。

個人的なことを言わせてもらえば、この試合を見たのが全国中学大会の直後であったことも、この「エキサイティング」という印象に大きく寄与してはいる。この大会の女子個人戦では特に軽量選手が投げる力を練れぬまま、仕込まれた「負けない」メソッド通りに盲目的に行動し、つまりは新ルールのフィールドに日本の女子柔道指導のベースである2000年代前半から組みあがった旧いポリシーで立ち向かい、結果GS「指導」でようやく決まる超長時間試合が続出していたのだ。ゆえにこの世界選手権48kg級の面白さはまさしく際立った。指導文化の差か、シニアゆえの対応力の高さゆえか、これは稿をあらためて書かせていただきたいと思うが、とにかく予想以上の好ゲーム続出であった。

渡名喜は優勝にふさわしいパフォーマンス。近藤が払腰一撃を以て世界を制した2014年チェリャビンスク大会のときのようなわかりやすい看板はないが、見た目以上の体の強さはもちろん、組み手、足技、投げに寝技と全てにおいてレベルが高く、なにより、相手の組み手や投げに対して必ず対抗する手立てを持ち、これを繰り出すことで常にその一歩先を行く方法論の練り上げとカンの鋭さは見事の一言。これは日本の48kg級の黄金時代であった北京-ロンドン期の強者たち、たとえば福見友子や浅見八瑠奈に連なる系譜と言えるのではないか。浅見の引退で近藤一強、ガクリと層が薄くなったと言われていたこの階級だが、キャラクターの異なる渡名喜の台頭で一気に豊かになった感がある。

実はこの階級、開幕直前に行われたユニバーシアードでは梅北眞衣(山梨学院大1年)がリオ五輪銀メダリストのジョン・ボキョン(韓国)と銅メダリストのガルバトラフ・オトゴンツェツェグの2人をともに抑え込むという素晴らしい内容で優勝を飾っている。ジョンは今世界選手権不出場だが、なぜかユニバーシアードを重視する韓国の文化からするとおそらく本気、本番を一週間後に控えたガルバトラフの調整が「弛んでいる」可能性も低く、トップコンディションのこの2人に連勝したとなれば既にその力は国際級。梅北の体の強さは選手間、強化陣の間では既に広く知られており、そして固技中心のこのスタイルは近藤や渡名喜とは明らかに異なる性質のもの。天才肌の近藤、48kg級正統派に連なる渡名喜という2人の世界チャンピオンに固技の強者梅北と、実に面白い勢力図が出来つつあるではないか。

トーナメント全体を見ても、五輪の金銀メダリスト(ポウラ・パレトとジョン・ボキョン)という大看板2枚を欠きながら、今回も抜群の強さとその競技力以上の存在感を放ったムンフバットにガルバトラフ、キャラクターの違う日本勢2枚に「日本キラー」になり得るステファニー・アリサ・コヤマ(ブラジル)と個性派の役者が揃っている。競り合う水準点が高く、凌ぐ合うライバルが多ければ多いほど輩出されるチャンピオンのレベルが上がるのは競技の常。かつて以上の活況を取り戻した48kg級は、今後も非常に面白いはず。渡名喜は今大会のパフォーマンスを支えた貪欲さの維持が、近藤は勝利の方法論の引き出しを増やすことが以後のカギとなるかと思われる。

文責:古田英毅

※写真は権利者の許諾を得て掲載しています

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