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【隔週刊・嘉納治五郎師範のひとこと】第36回

(2017年8月21日)

※ eJudoメルマガ版8月21日掲載記事より転載・編集しています。
【隔週刊・嘉納治五郎師範のひとこと】第36回
今日のような忙しい世の中では、礼儀のため、大切な時間を取られてしまうようなことになっても困るが、礼儀は決してゆるがせにしてはならぬ。
出典:「乱取の練習および試合の際における注意」柔道6巻6号 昭和10年(1935)6月
 (『嘉納治五郎大系』3巻290頁)
 
「礼に始まり礼に終わる」。柔道を含む武道をたしなむ人に限らず、広く一般に知られた言葉です。この言葉で「武道を学ぶ人は礼儀正しい」というイメージを思い浮かべる方も少なからずいるでしょう。ただ、筆者の見た限りでは、師範がこの言葉を口にしていたという史料はありません。ですが、決して「礼儀」を軽んじていた訳ではありません。むしろ、大事にしていたというのが、今回の「ひとこと」です。

「礼儀」や「礼法」、あるいは「礼の心(精神)」というものを厳密に見ていくと、様々な見解や相違があるでしょうが、ここでは、そのような細かいことは、とりあえず置いておきたいと思います。

今回の「ひとこと」の出典となる論考が発表されたのは、昭和10年のことですが、この時代も前の時代に比べて、社会一般の忙しさが増しており、そのため、以前ほど丁寧な礼儀が実践できない状況になっているというのが師範の考えです。しかし、そんな中でもゆるがせに出来ないのが「礼儀」だったわけです。

こういった師範の考えは坐礼に見ることが出来ます。
柔道では立礼と坐礼の2種類の礼が行われます。試合や立勝負の乱取では立礼を、寝勝負の乱取や稽古の始まりと終わりの礼では坐礼を行うというのが一般的でしょう。師範の時代も立礼と坐礼があるのは今と同じですが、師範の著作である『柔道教本』(昭和6年発行)には坐礼として、足の甲を畳につけて、おしりを踵に載せて行う礼を本式として紹介する一方で、平素の乱取稽古で本式を行うのは時間がかかりすぎるので、つま先を立て、尻を浮かせた略式とでも言うべき坐礼を行っても良いと記しています。
 師範は、時間を大切にするという意味で「略式」の坐礼も考えていたと思われますが、もちろん、略式でも、ただ頭を下げれば良いというものでないことは言うまでもないでしょう。別の史料を見ても、師範は、形式を踏むことはもちろんそこに心を込めることの大切さについて度々説いています。

現在、講道館柔道の礼法は、昭和42年から実施され平成元年と平成7年に改正され現在に至る「柔道試合における礼法」(冊子「講道館柔道試合審判規定」に収録)で定められています。その中で個人試合における互いの礼は、立礼を基本とし、坐礼については「行ってもいい」と、従の扱いになっています。
講道館では現在も乱取稽古での礼は座礼で行っていますが、多くの場所では立礼の方が主となっている感がします。坐礼は正座を「する」ことにより、一呼吸を置くことが出来る為、気持ちを落ち着かせる余地が僅かでもあるでしょうが、坐礼に較べると、立礼には、そのような時間がありません。そのため、気持ちを素早く切り替えることをより意識するなどして、相手へ尊敬の念を込めた礼をする必要があるかもしれません。

もっとも、時間をとりますが、立礼より坐礼を取り入れた方が、相手への敬意を込めた礼が出来、見た目も美しいのではないか・・・等と考えるのは想像の翼を広げすぎでしょうか。


※読みやすさを考慮して引用は『嘉納治五郎大系』から行っています。

余談ですが、現在行われている左足から坐り右足から立つ、いわゆる「左坐右起」と呼ばれる様式。これは師範存命中に定められたものではなく、南郷次郎二代目講道館長の時代に定められたものです。しかも、当初は現在とは逆の右足から坐り、左足から立つ「右坐左起」とでも呼べるものだったようです(この辺の経緯については、講道館機関誌「柔道」2017年4月号の一口メモでコンパクトにまとめられています)。「左座右起」を腰に刀を差した武士の立ち振る舞いが講道館柔道に継承されたと紹介する書籍もありますが、鵜呑みにはできないようです。



著者:元 敏季(ハジメ・トシキ)
1975年生まれ。柔道は中学校から始め、大学までは競技を中心に行うが、卒業論文を機に柔道の文化的側面に関心を持ち、大学院へ進学。凡そ10年、大学院・研究機関に所属するも、研究とは異なる分野の仕事に就き現在に至る。ライフワークとして嘉納治五郎に関する史料を蒐集・研究し、その成果を柔道振興のため発信しようとしている。

※ eJudoメルマガ版8月21日掲載記事より転載・編集しています。

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