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神奈川対決は逆転で桐蔭学園に凱歌、健闘の東海大相模は「大将・関根」の壁を乗り越えられず・第91回金鷲旗高校柔道大会第91回金鷲旗高校柔道大会男子マッチレポート④決勝

(2017年8月13日)

※ eJudoメルマガ版8月13日掲載記事より転載・編集しています。
神奈川対決は逆転で桐蔭学園に凱歌、健闘の東海大相模は「大将・関根」の壁を乗り越えられず
第91回金鷲旗高校柔道大会男子マッチレポー④決勝
■ 決勝
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今期2つ目の全国タイトルに王手を掛けた桐蔭学園高

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県大会決勝で敗れ続けた東海大相模はその力を証明すべく全国制覇を狙う

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決勝が開始される

新チーム結成以降、大規模招待試合を立て続けに制して世代のトップチームに躍り出た桐蔭学園。一方、世代の旗手である桐蔭学園打倒を期して成長を続け、12月の若潮杯で全国の強豪をなぎ倒して優勝を飾った東海大相模。

この時点で「いずれか勝ったほうが全国制覇」との呼び声高かった神奈川の両校であるが、その後の運命は全く異なる。1月に行われた高校選手権神奈川県予選を大将同士の対決で制した桐蔭学園は、3月の本戦ではそのまま優勝して12年ぶりの全国制覇を達成。

一方檜舞台を踏むことすらかなわなかった東海大相模は高校選手権の華々しさをよそに、これまで実施していない関西遠征を敢行。まさしく臥薪嘗胆、過酷な日程の中で逞しさを増して6月のインターハイ予選で再び桐蔭学園に挑んだが、結果は内容差で桐蔭学園がまたしても勝利。桐蔭学園はこの時点で「三冠」の権利を有する唯一のチームとして晴れがましいインターハイ出場の栄を得、東海大相模はこの金鷲旗での今代チーム解散が決まってしまった。

全国優勝を果たして史上にその名を刻んだチームと、その場に出場することすら叶わず場外観戦を余儀なくされたチーム。この差を分けたのはスコアにすればほんの僅か、高校選手権の大将対決は「指導」による僅差優勢の決着であり、敢えて言えば「0人差」。インターハイ予選も前述の通り内容差決着でこれも「1点未満」と呼ぶべきもの。東海大相模の春以降の上昇ベクトルと成長の著しさを考えれば、結果はどちらに振れてもおかしくないはずだ。

オーダー順は下記。

桐蔭学園高 ― 東海大相模高
(先)賀持喜道 ― 榎田大人(先)
(次)湯本祥真 ― 平下麟太郎(次)
(中)千野根有我 ― 笹谷健(中)
(副)村尾三四郎 ― 宮原崚汰(副)
(大)関根聖隆 ― 石川智啓(大)

ともに前戦までで駒を使い切っており、当然ながらオーダー順の変更はなし。
あまりに互いをよく知る両者の対戦ゆえ、その様相は読みがたい。盤面解読のカギは、明らかに後重心の桐蔭学園に対して、東海大相模が平下麟太郎、笹谷健とエース級2枚を並べた得点ブロックを前出ししていること。平下は神奈川県予選の先鋒対決で賀持喜道を強引に投げつけ「技有」を奪い(「一本」級であった)勝利している強者で、力はもちろん、相性、そして桐蔭学園の泣きどころであるサイズでも上を行く。関根以外のどの選手と戦っても得点が見込めるこの選手が前衛にいる意味は相当に大きい。今大会大活躍で勢いがある榎田大人がその露払い役を務めるということもあり、東海大相模の前衛はかなり重厚。これまで幾度も書いてきた通り、桐蔭学園はその個性の多彩さがストロングポイントであるが、サイズのなさ(賀持、湯本、村尾)や大型選手特有の脆さ(千野根)など弱点も抱えており、平下をはじめとした東海大相模の前衛はいずれもこの桐蔭の戦線の凹みに染み込んで得点を挙げるだけの力と適性がある。大将を務める石川の力はもちろん、防波堤として機能する副将宮原の上がっていることもあり、東海大相模としては前衛でリードを作り出し、どうにも厄介な関根を出来得れば宮原で止めてしまう、最悪でも宮原のサイズで削りに削って石川に襷を渡すというのが勝利のシナリオ。前衛の抜き役、後衛の巨漢2枚。層の厚さはもちろん、非常に野心的な布陣、攻略の難しいオーダー順だ。

一方長所と弱点の凹凸相応に激しく、かつそれを挑む側である東海大相模に熟知されている桐蔭学園の強みは、なんといっても最後に関根聖隆が控えていること。前衛がいま一段の力を発揮して東海大相模を弾き返すに如くはなしだが、現実的にはこの関根という大ゴマをどう生かして勝ちぬくかを考えるべき。関根が巨漢・石川(あるいは宮原)に対峙する際の武器はなんといっても連続攻撃。担ぎと後技を組み合わせて攻めに攻め、その中で一発を狙う関根のスタイルを切所で発揮させるためには、ギリギリまでその登場を遅らせて体力を温存しておきたい。

というわけで前衛で抜いてリードを作り出し、出来得れば宮原で関根を止めてしまいたい東海大相模、一方前衛を耐えて最悪でもタイスコア、出来得れば村尾三四郎で相手方の大将石川を削った状態で関根に襷を渡したい桐蔭学園という構図が成り立つ。盤面の並びと相性だけを考えると実は優位にあるのは挑む側である東海大相模。桐蔭学園の勝利には持てる力のさらに一段上を引っ張り出す、集中力の高さと覚悟が求められる。

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榎田大人が賀持喜道を右大外刈で攻める

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榎田が左内股、賀持が辛うじて透かし回避

先鋒戦は桐蔭学園・賀持喜道、東海大相模・榎田大人ともに左組みの相四つ。賀持が先に引き手で袖を確保、榎田は足技でこれを剥がしに掛かる。引き手が生命線と見た賀持は巧みにポケットグリップを作り出して袖を確保、主審これは見逃したものの賀持は榎田の足技の前にやや狙いすぎて技が止まり、結果30秒賀持に「指導」。

以降賀持はもろとも相手に回転を強いるトルネード型の左内股で攻め、榎田は袖釣込腰の形に両手をまとめた右外刈で攻め返す。1分32秒に賀持が釣り手を切るなり一気に持ち返し、勢いのまま榎田を大きく崩す場面を作り出す。これで一気に賀持が陣地を回復したかに思われたが、直後榎田が組み手の不利を抜け出して圧力、まともに受けた賀持は畳に潰れてしまう。主審はすぐさま反応、2分8秒偽装攻撃の咎で賀持に「指導2」。

賀持は奮起、左大内刈に支釣込足、左内股と放って逆襲に掛かるが、榎田の圧と要所で放たれる右背負投の前に山場を作り切れず、3分過ぎには戦線の様相が一進一退の構図で確定してしまう。最終盤、賀持はステップを切っての左内股から大内刈に繋いで得点の予感を生み出すが、これも榎田が捌いてタイムアップ。大事な第1戦は榎田の僅差優勢による勝利で、東海大相模の手に落ちた。

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桐蔭学園は次鋒湯本祥真が畳に残った榎田大人から大内刈「一本」、あっという間にスコアを戻す。

しかし続く第2試合は桐蔭学園の小兵・湯本祥真が大仕事。緒戦勝利の勢いを背に飛びかかってきた榎田を呼び込んでまず左内股、あわやという場面を作る強烈な先制攻撃。そして続くシークエンスでもこの技を2連発、榎田が思わず後に重心を掛けたその瞬間、すかさず大内刈に変化する。榎田が後に崩れるとまったく躊躇なくその上に乗り込み、その頭上を超える勢いで体を浴びせて鮮やか「一本」。強気の連続がチャンスを呼び込むいかにも湯本らしいこの一撃で、桐蔭学園がスコアをタイに戻す。

挑む立場の東海大相模が先制したことで一気に流れを掴んでもおかしくないところだったが、僅か20秒でそのリードを終了させた湯本の仕事ぶりは見事。引き分けてしまえば、あるいは試合が縺れればそれだけで東海大優位の流れが畳上に固定されてしまう危機であったが、これを唯一回避し得る「強気の秒殺」で試合を終わらせた使命感はさすがの一言であった。

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次鋒対決は東海大相模・平下麟太郎が湯本祥真から小外掛「一本」

これでスコアはタイ。続く第3試合は次鋒同士の対決、畳に残った湯本祥真に東海大相模のポイントゲッター平下麟太郎がマッチアップする。

湯本が右、平下が左組みのケンカ四つ。湯本は試合が始まるなり思い切った右内股。平下もこれを真向迎え撃って返し、湯本が大きく浮いて潰れ「待て」。
互いが明らかに投げに出たこの攻防以降、試合は比較的静かな展開。40秒に湯本が右背負投から平下を左から抜け落とそうとするが、平下体を捌いてポイントには至らず「待て」。
そして1分10秒、突如激しく試合が動く。湯本と平下が腰を入れながら激しい内股の掛け合い、平下が畳にいったん降りたところに湯本背を抱いてもう一段の投げ合いを挑む異次元の強気を挑むがこれが裏目、体格に勝る平下はここぞと湯本をいったん腰に乗せ、小外掛の形で激しく畳に落とす。両足が畳から離れ、かつ自ら望んだ密着で腰を寄せられた小兵湯本に抗う術はなし。豪快な「一本」でこの試合は決着、再び東海大相模が1人差のリードを作り出す。

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千野根有我は前半にラッシュ、平下麟太郎を内股で攻める

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平下が内股透「一本」で2人抜き達成

第4試合は畳に残った平下麟太郎が左、桐蔭学園高の巨漢・千野根有我が右組みのケンカ四つ。このところ序盤のラッシュが激しい千野根、この試合も奥襟を叩くとステップを切っての右内股、平下が体勢を崩すとすかさず押し込みに掛かってやる気十分。52秒にも思い切った右内股を放ち、垂直に浮いた平下しかし持った両手を離さずに捌き、背筋を伸ばしたまま着地して谷落を狙う。千野根は続く展開も右内股、足を挙げたまま激しくケンケンで追い込む積極姿勢を見せ、平下思わず崩れ伏せる。直後の1分27秒平下の側に「指導1」、少々平下に疲労が見え始めた印象。

しかし平下は奮起、左内股から大内刈と技を繋げる。これは千野根に抱き返されたものの、さらに1分53秒には左体落。これも掛け潰れたが、ポイント獲得の野心を取り戻したかのような技に東海大相模ベンチからは「いいじゃない!」と励ましの声が飛ぶ。

そしてこの段に至って千野根が急激に疲労、序盤のラッシュが嘘のように攻防のペースが落ちる。平下は千野根の巨体を攻略すべく肩車、こちらも疲労の色が濃く潰れてしまうが2分30秒には東海大相模ベンチから「30秒3本だぞ!」と大会直前に行われたであろうこの状況を想定した稽古を想定される檄が飛び、一段奮起を見せる。2分49秒、千野根が放った右内股を一瞬の体捌きで透かし、攻防一致の左体落。典型的な内股透の形で千野根の巨体が吹っ飛び文句なしの「一本」。会場その絵の派手さと平下の2人抜きの快挙に大いにどよめく。東海大相模、平下の奮闘によってついにリードを「2」に広げる。

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村尾三四郎が平下麟太郎から左小内刈でまず「技有」

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村尾は大外刈「一本」でフィニッシュ、見事ポイントゲッター対決を制す

桐蔭学園はここから得点ブロックのエース2枚が早くも登場。ここに至る前段の戦いはスコアから見る限り、東海大相模が勝ったと言って良いだろう。桐蔭学園が副将村尾と大将関根の残り2人で逆転しなければならないスコアは「2」、優勝にはあと3勝の積み上げが必要な状況だ。

第5試合は桐蔭学園の副将村尾三四郎、畳に残った平下麟太郎ともに左組みの相四つ。村尾いきなり左大内刈で突進するが平下は左払腰に切り返して回避、さらに右への背負投でいったん展開を切る。

敵方のエース級相手に勝利必須という難しいミッションを求められる村尾だが少々意外なほど落ち着いて試合を進め、50秒には左内股。ケンケンで追ってほとんど背負投というところまで腰が深く入ると、状況を冷静に見極めすかさず左小内刈に連絡する。平下叩き落されてこれは「技有」。

平下の疲労を見て取った村尾、ここに至って明らかに早めの決着を志向。膝車を仕掛けると回された平下がついてくることを確認、そのまま振り回して歩数を消費させると勢いを利して引き出しの左内股。受けた平下は一瞬膝が伸びて棒立ち、その状況の危うさを自覚したか一瞬左大外刈に入ってしまおうという動きを見せるが、村尾はその先手を打って左大外刈。村尾が深く呼び込む形になった、作りの利いた一撃は見事に決まって「一本」。相手が3戦目とはいえ、ポイントゲッター同士の対決で抜き返したこの勝利の価値は比類なし、いよいよ畳に上がった桐蔭の得点ブロックの強さを見せつけたこの一本勝ちで、スコア差は「1」まで縮まる。

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村尾三四郎が左大外刈、逃れた笹谷健の背に食いついて裏投狙う

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村尾の大外刈を笹谷が切った、この攻防を以て試合終了。

第6試合はこれもポイントゲッター同士の対決。畳に残った村尾三四郎、東海大相模の中堅笹谷健ともに左組みの相四つ。平下先に引き手で袖を得るが村尾が剥がし、序盤は組み手争いによる陣地の取り合いに終始して41秒双方に「指導」。

笹谷鋭い左内股に一本背負投と技を繋ぐが、これを受けた村尾が前のめりに攻撃。左大外刈で追い込み、笹谷が拘束から逃れて背中を見せると裏投で食いつく激しい攻めを見せる。続いて引き手で袖を一方的に掴む決定的に近い状態を作り出す。笹谷自ら一回転してこれを剥がしにかかるが村尾はあくまで掴み続け、そのまま釣り手をクロスに入れて攻勢継続。しかしこの「組み手で圧する」意思が強すぎたか圧を掛けたまま数秒止まってしまい、2分14秒片襟の「指導」。

その後は村尾の大外刈、笹谷の内股と技を出し合うが双方組み手が作れておらず、なかなか決定打が出ない。

残り1分から村尾が攻勢。左小内巻込で詰め、「一本大外」であわやポイントという場面を作ってラッシュ開始。東海大相模ベンチからは「30秒1本!」とまたもや激しい檄が飛ぶが村尾は残り15秒からトルネード型の左内股、そして残り5秒には釣り手を叩き入れながらの左大外刈に一段深く踏み込んで主導権を譲らず。この技はここぞで手が離れてしまって投げ切れなかったが、村尾が攻めたままの形で試合は終了。この試合は引き分けとなり、スコア差「1」のまま勝負は桐蔭学園の大将関根聖隆が姿を現す第7試合へと引き継がれる。

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関根聖隆が宮原崚汰から一本背負投「一本」

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第7試合は桐蔭学園の大将関根聖隆、東海大相模の副将宮原崚汰ともに左組みの相四つ。身長185センチ、体重130キロの宮原に対し、関根は引き手で左袖を得ては担ぎ技を仕掛ける自身の戦い方を変えずにラッシュ。20秒に左一本背負投、30秒に左の「一本大外」、さらに56秒に左一本背負投と思い切った技を仕掛け続け、直後宮原に「指導1」。

関根は片手技ばかりではないとばかりに直後左大外刈の大技一撃、さらに先に袖を得ての左大外刈、左一本背負投とその攻撃は止まらず。左小内巻込から一本背負投に繋いだ直後の1分55秒、ついに宮原に「指導2」が宣告される。

宮原は組み手が出来上がる前に関根に技を仕掛けられ、攻撃面が手詰まり。しかしここで最後まで立ち続けることが仕事とばかりに背筋を伸ばし、意気消沈の気配は薄し。関根がその後も左一本背負投、左小内巻込と打ち続け、しかし宮原が敢えて図太く立ち続けたまま残り時間は1分となる。ここで関根、直前に思い切り打ち込んだ小内巻込の残像を利かせつつ、組み際にひときわ高く左一本背負投。やや関根の低い技を受け慣れていた感のある宮原、一段投げの志を強めたこの技に反応が遅れてその巨体は立ったままの関根の背に完全に乗ってしまう。関根片足を挙げて一段高さを補強、そのまま腰を切って思い切り投げつけ「一本」。

宮原の巨体が高々宙を舞ったその絵面の迫力と、「指導」狙いではなくあくまで投げ切った関根の発想の格の高さに場内はどよめき。ここに至ってついにスコアはタイ、勝敗の行方は大将同士の対決に委ねられることとなる。

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石川智啓が圧力を掛けて大内刈、頭の下がった関根聖隆に「指導」

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関根得意の一本背負投も石川がしっかり止め、返し技に打って出ることが続く。

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後半、関根の技が深く入り始める

決勝は桐蔭学園の関根、東海大相模の石川智啓ともに左組みの相四つ。関根は100kg級で、石川は100kg超級で神奈川県インターハイ代表を担う強者。両者はインターハイ神奈川県予選の団体戦決勝でも対戦して関根が「指導2」の僅差で勝利しているが、現在実力急上昇中の石川の圧力と一発の恐怖は相当なもので、少なくとも関根が投げによって勝利するという出口は見えにくい一番であった。熱戦必至である。

490チームが集った第91回金鷲旗高校柔道大会の長きにわたる戦いは、これがいよいよ最後の一番。関根聖隆と石川智啓はともに左組みの相四つ。関根、相手の予見など関係ないとばかりにいきなり得意の左一本背負投、しかし石川は相手が体を回す前にガッチリ止めるとこれをきっかけに釣り手を得て圧力、背筋を伸ばしたまま小内刈で蹴り崩す。関根は攻撃の体勢を作ることすら出来ず、開始35秒関根に「極端な防御姿勢」の咎で「指導1」。

関根奮起して左小内巻込に飛び込むが、予期した石川一歩踏み込んで投げの威力を殺すと振り返して返しを試みる。さらに両手で圧力を掛け、関根が左一本背負投に打って出ると明らかに待ち構えて返し、あわやポイントという場面を作り出す。

ここまでの経過時間は1分。石川の圧が効き、関根の技はことごとく止められ、どころか後の先によるポイント失陥が想起される場面も多々。「指導1」というスコア面からも、内容面からも以後の展望は石川の側に開けた感あり。

しかしこの「待て」の直後、関根はひときわ深く左の「一本大外」、投げ切ってもおかしくないところまで思い切り体を乗り込ませる。このあわやポイントという強烈な一撃の印象冷めやらぬ直後の展開、さらにこれも取り味抜群の左一本背負投を放って一気に畳上の空気をもとに戻してしまう。

以後は石川の圧力と、これをかいくぐりながらチャンスを探す関根が一進一退の攻防。2分過ぎから再び試合が動き始め、関根の鉈を振るうような左一本背負投を石川が「ハンドル投げ」で返し、石川の奥襟奪取を関根が左一本背負投に切り返して股中に腰を入れるところまで潜り込むという、双方に得点が想起される攻防が連続する。しかしこれらの攻防で常に先手を取るのは関根、当然ながら流れはこちらに傾き始め、左「一本大外」で大きく石川の体勢を崩した直後の2分44秒にはついに石川に「指導1」。これでスコアはタイとなる。

関根は左一本背負投、しかし石川の揺るぐことのない圧力の前に入りきれず、技が止まってしまう。この時点で残り時間は1分4秒、場の沸騰ぶりにいずれかの決定的なポイントを予感したか、桐蔭学園ベンチからは「左手のガード!」とこの戦いの生死を分ける石川の釣り手、あるいは関根の引き手確保を見据えてその手順に必死の指示が飛ぶ。

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関根聖隆が石川の抱きつき小外掛を押し返し、小内刈「技有」

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関根は左大外刈から左背負投となおも大技の矛を収めず。さらに左一本背負投を仕掛けると石川が返しを狙ってもろとも崩れ、直後ついに石川に2つ目の「指導」。

どちらかが勝つまで続く「金鷲旗の大将戦」。少なくともあと1つの「指導」を得ずば敗戦が決まってしまう石川は腹を括り、勝負どころはこことばかりに思い切って組み際に釣り手肩越しに背中を叩く。パンと乾いた音を立てた釣り手の襲来をしかし関根は回避せず、釣り手で奥襟深く、引き手で背中を抱えて迎え撃つ。石川の圧に抱き着いて耐える形にも思われたこの関根に対し、石川は密着したまま突進して右で背中を抱えて右小外掛。しかし関根は一歩下がりながら左大内刈で迎え撃ち、石川の突進が止まるとみるや左小内刈に連絡する。石川の巨体は引っこ抜こうと踏ん張った形のまま後方に吹っ飛び、劇的な「技有」。

この時点で残り時間はわずか25秒。こうなれば組み手と間合いのコントロール巧みな関根を前に石川がチャンスを掴むことは難しい。その突進の前に関根に偽装攻撃の「指導2」が与えられるがこの時点で残り時間は3秒。大勢は動かず、この試合は関根の「技有」優勢で終了。同時に桐蔭学園の全国高校選手権に続く「二冠」達成が決まった。

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優勝決定の瞬間を迎える桐蔭学園ベンチ

桐蔭学園高〇大将同士△東海大相模高

(先)賀持喜道△優勢[僅差]〇榎田大人(先)
(次)湯本祥真〇大内刈(0:20)△榎田大人(先)
(次)湯本祥真△小外掛(1:13)〇平下麟太郎(次)
(中)千野根有我△内股透(2:49)〇平下麟太郎(次)
(副)村尾三四郎〇大外刈(1:16)△平下麟太郎(次)
(副)村尾三四郎×引分×笹谷健(中)
(大)関根聖隆〇一本背負投(3:06)△宮原崚汰(副)
(大)関根聖隆〇優勢[技有・小内刈]△石川智啓(大)

両軍がともに持ち味を発揮した試合。

東海大相模は強かった。ポイントゲッターブロックを前出しした作戦も当たり、勝敗の争点と思われた前衛の戦いで得たリードは実に「2」。終盤戦まではむしろ東海大相模の試合であったと言って差し支えないであろう。チーム上昇の因であった平下麟太郎の2人抜きは、逞しさを増した今季の東海大相模の象徴であった。

しかしそれでも桐蔭学園の後衛2枚を乗り越えられず。なんといっても大将関根の活躍が圧倒的だった。大将同士の最終戦は、仮に互いが互いの力を8割がた出し合う順行運転の戦いであれば石川の「指導」差による勝利があるべき落としどころであるかと観察されたが、関根は今回もこのシナリオを峻拒。あくまで具体的な大技連発を狙うことでこの「普通のルート」をひっくり返してしまった。前戦、このまま「指導」差の勝利でも星勘定が変わらない状況であくまで、それも会場がどよめくほどの豪快な一撃で巨漢宮原を投げつけたその絵の衝撃と貪欲さがこの試合に影響したことは言うまでもない。攻める姿勢がさらに攻め易い状況を生む、好スパイラルを自ら作り出していたと評するべきだろう。走るルートの整備に始まり、燃料も、エンジンも、すべてが「投げを狙って攻めること」。1人だけで状況を作り、東海大相模の大型2枚をいずれも投げて抜き去ったその精神的なスタミナは異常であった。

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大将対決で力尽きた東海大相模は肩を落とす

敗れた東海大相模は前衛2枚で抜き、宮原が削り、石川で仕留めるという今大会の必勝パターンが関根1人に崩されてしまった。水落健太監督の「関根選手1人にやられた」との率直なコメントは、客観的にみても正しい観察であるかと思われる。

健闘の東海大相模、欲を言えば笹谷にもう一段の奮起が欲しかったところ。初戦で足元の定まらなかったチームが次鋒交代以降いきなり締まったことでわかる通り、このチームの芯は平下。そしていかに石川が伸びたとはいえ、この平下とともにチームを牽引せねばならぬのは新人戦期からエースを張ってきた笹谷である。笹谷がもともと立ち振る舞い大人しく、その強さの割に周囲への威嚇が利かぬタイプであることがこれまでも東海大相模の「線の細さ」という印象を作り出すことに一役買っていたわけだが、この決勝でもこの大人しさがチームに最後の一山を超えさせることを阻んだという印象はどうしても残る。1点差リードで稀代の大物・村尾三四郎を相手にした引き分け確保は間違いなく正しい仕事であるが、1学年下を相手にした名門・東海大相模の主将がこれをあっさり受け入れたことが、端的に桐蔭学園との差を示しているように思われてならない。体重130キロの宮原を、それもスコア的に勝利自体は決まっているにも関わらず「高い背負投」で投げつけて抜き、普通に試合をすれば引き分けあるいは指導差敗北が濃厚、勝てる可能性として手数攻撃を選んでも文句を言われないはずの石川戦でそれでもあくまで投げて抜くことにこだわった関根。この主将2人の「自分の力の一段上」を目指す意地の有無、自分を高く買う良い意味での思い込みやプライド、そして表に出した意地と闘志の差に、勝敗の因を求めることは一つ可能だ。これは単に関根と笹谷という「個」の差に帰するべきではなく、これを生み出したチーム力全体の端的な表出と考えるべき。これをそのまま決勝分析の総括としたい。

しかしここ数年、明らかに低落傾向にあった東海大相模が繰り広げた今年の軌跡は実に見ごたえがあった。名門の「名前」に頼らず、桐蔭優位の立場を受け入れたうえでなおも這い上がろうとする、ハングリーな迫力があった。試合終了直後、肩を落とす選手たちに「いい試合だった、お前たちに感謝してる」と語りかけた水落監督の姿には、名門復活云々を超えて良いチームを作って全国に挑もうという東海大相模のこれまでにない一体感が感じられた

戦後、前述の通り東海大相模・水落監督は関根の凄さを率直に認め、敗戦を受け入れた。桐蔭学園の側も高松正裕監督が「神奈川県予選が一番きつかった」と幾度も語り、大会直後には主将の関根が「相模がいたからここまでこれた」とツイートしている。役者を揃えた桐蔭学園の強さはもちろんだが、これを際立たせた敵方としての東海大相模との因縁、ぶつかり合う意地と誇り。王者・桐蔭学園のこの1年間を照射するにもっともふさわしいフィルターは実は「東海大相模越し」にこそあるのではないか。まことに見ごたえあるライバル関係、そして最終対決としての金鷲旗決勝の場であった。

入賞者と桐蔭学園・高松正裕監督と東海大相模・水落健太監督、桐蔭学園高・関根聖隆選手のコメントは下記。


文責:古田英毅

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12年ぶりの優勝を飾った桐蔭学園高

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カメラの求めに応じて拳を突き上げる桐蔭学園の面々

【入賞者】

優 勝:桐蔭学園高(神奈川)
準優勝:東海大相模高(神奈川)
第三位:長崎日大高(長崎)、延岡学園高(宮崎)
優秀校:足立学園高(東京)、崇徳高(広島)、大成高(愛知)、大牟田高(京都)

優秀選手:関根聖隆、村尾三四郎(桐蔭学園高)、平下麟太郎、榎田大人(東海大相模高)、山口貴也(長崎日大高)、羽田野竜輝(延岡学園高)、上領教史郎(足立学園高)、神垣和他(崇徳高)、東部直希(大成高)、森健心(大牟田高)

桐蔭学園高・高松正裕監督のコメント
「東海大相模は最大のライバル。こういうきわどい試合になるのはわかっていたので、最後の1秒まで気持ちを切らすな、繋ぐ試合をしろと言い聞かせていました。関根を温存してどこまでいけるかが今日の最大のポイント。他の選手がそこまでの試合で頑張ってくれたことが大きかったと思います。ひと昔前はベスト32からベストオーダーを注ぎ込まないと戦えなかったけど、今は厳しいながらも、それでもベスト16くらいまでは我慢できる。選手層が厚くなったし、春を獲って選手の気持ちの中に良い意味での余裕が出て来たのも大きい。先行されても自分たちの柔道をやれば勝てるという自信を感じました。そして、今日は特に関根が踏ん張ってくれた。『逆転しないといけない状況で回ってくる可能性が高いから、しっかり準備をするように』と話してあったので心配はしていなかったし、なにより関根の強さを信頼していました。相手が普通の高校生であればもう、まず負けません。関根への信頼は選手も一緒で、全員で関根に繋ごうという意思統一が出来ていたことが何よりの勝因だと思います。関根はもともと決して気持ちが強い子ではなくむしろいつも決勝では負けていたのですが、特に精神面で本当に成長しました。(-チーム構成、メンバーについてお願いします)賀持、千野根は関根に頼っている部分があって精神的にまだまだ。インターハイが終わってチームを引っ張っていく立場になってからが勝負でしょう。村尾はその点も心配していません。また、私が軽量級出身だから言うわけではありませんが、湯本のような軽い選手が1人いるとチームが非常に締まる。最近優勝しているチームも、全部が大きい選手ばかりのチームではない。関根が引っ張って、湯本が締めて。現2年生が良いと言われてスタートした代ですが、実は今年のほうがよいチームかもしれませんよ(笑)。インターハイでもしっかり戦って三冠を目指します」

東海大相模高・水落健太監督のコメント
「選手たちが躍動していた。褒めてあげたいです。高校選手権とインターハイに出場できず、なんとかこの大会で優勝することで力を証明したかったのですが、またしてもかないませんでした。関根君の戦いにはいつも驚かされます。尽きることのない精神力、彼にいつもやらている。平下、笹谷を並べて思惑通りにリードして、良い流れを引き寄せ、戦いながら『やれるんじゃないか』と手ごたえがあったのですが、やはり関根君に一歩及ばなかった。(-初戦でうまくいかず、不安はなかったですか?)ありました(笑)。選手には『良い流れで来ることのほうが少ない。悪い流れになったときを想定して中身の濃い稽古をしてきたんだし、思惑通りにいかなくても動揺せずに戦おう』と話しましたが、私のほうが不安でした(笑)。立ち直ってくれてよかったです。(-平下選手の次鋒投入と、榎田選手の先鋒起用について?)平下は前で抜き役を務めてもらうつもり、これは彼にしかできない仕事だなと思っていましたし、しっかりやってくれました。榎田は日体大荏原戦で思わぬ一本負けをしましたが、ひたむきで、手を抜かない。ここ一番でやってくれるという信頼がありました。(-久々の全国大会決勝進出、『相模復活』の手ごたえがあったのでは?)いや、優勝してこそのチームなので、まだまだこれからです。あくまで全国制覇を目指して頑張ります」

桐蔭学園高・関根聖隆選手のコメント
「前の選手が頑張ってくれた。自分としても攻めるスタイルを貫けて良かったと思います。まだインターハイがありますので、気を抜かずに頑張りたい。真剣に東京五輪を目指しているので、まずは団体戦で三冠をしっかり獲りたいです」

【六回戦】

桐蔭学園高(神奈川)〇不戦1人△東海大静岡翔洋高(静岡)
足立学園高(東京)〇不戦1人△埼玉栄高(埼玉)
崇徳高(広島)〇大将同士△国士舘高(東京)
長崎日大高(長崎)〇不戦1人△福岡大大濠高(福岡)
大成高(愛知)〇大将同士△北海高(北海道)
東海大相模高(神奈川)〇不戦1人△日体大荏原高(東京)
延岡学園高(宮崎)〇不戦3人△新田高(愛媛)
大牟田高(福岡)〇不戦2人△国東高(大分)

【準々決勝】

桐蔭学園高〇不戦一人△足立学園高
長崎日大高〇大将同士△崇徳高
東海大相模高〇不戦一人△大成高
延岡学園高〇大将同士△大牟田高

【準決勝】

桐蔭学園高〇大将同士△長崎日大高
東海大相模高〇大将同士△延岡学園高

【決勝】

桐蔭学園高〇大将同士△東海大相模高

※ eJudoメルマガ版8月13日掲載記事より転載・編集しています。

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