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【隔週刊・嘉納治五郎師範のひとこと】第34回

(2017年7月24日)

※ eJudoメルマガ版7月24日掲載記事より転載・編集しています。
【隔週刊・嘉納治五郎師範のひとこと】第34回
私は柔道の修行を始めてから四十余年、その間絶えず攻撃防禦の百般につき工夫し、ついにそれらの間に一貫した原理があってしかもそれは精力の最善活用にあるということを確信するにいたった。
出典:「精力の最善活用」大勢 1巻1号 大正11年(1922)4月
 (『嘉納治五郎大系』9巻4頁)
 
<「あなたが見たのはこんなものだったかい?」と、そばやが顔をなでながら言うと、そばやの顔は卵のようになった。と同時に灯りが消えた・・・>

暑い季節につきものの怪談ですが「のっぺらぼう」でおなじみのこの話(原題は「狢(ムジナ)」)の作者ラフカディオ・ハーン(日本名・小泉八雲)。彼には日本を題材とした多くの著作がありますが、その中に熊本在住時の体験を記した「柔術」という名の小文があります。

熊本の第五高等中学校(熊本大学前身の1つ)で教鞭を執っていたラフカディオ・ハーンが、当時の学校長の説明を受けながら、柔術の稽古を見た経験を記しているのですが、その中で、彼が驚嘆しているのは「相手の力に逆らわずその力を利用して相手を制する」というものでした。ギリシャという西洋圏に生まれた彼にとって、この思想とそれを体現する技術は、日本のすごさとして受け取られたようです。

嘉納師範は「天神真楊流」「起倒流」という二流派の柔術修行を中核にして、講道館柔道を創始しました。その時期は明治15年(1882)とされていますが、当時はまだまだ柔術色も強く、試行錯誤の時期が、しばらく続いていたようです。それが少しずつ旧来の柔術と異なるものとして独自のカラーを出していくわけですが、技術面に比べると精神面の確立はだいぶ遅れ、「精力善用」「自他共栄」という二大テーゼが概ね完成し、発表されたのは大正11年(1922)のことでした。

さて、師範にとって、柔術から続く修行の中で、1つのテーマは<技における一貫した原理は何か?>ということでした。個々の技に一貫した原理の追求、さらにその原理により、様々な技の良し悪しを判断しようとするのですが、こういった試みは、非常に西洋的かつ合理的です。そして、この一貫した原理として、最初にたどり着いたのが「柔の理」と呼ばれるものでした。

これは、相手の力に逆らわず、相手の力を利用して制するというのもので、小さな力で大きな力を制するいわゆる「柔能制剛」の根幹となる原理といえるでしょう。ラフカディオ・ハーンが熊本で実見し、驚嘆したのはこの「柔の理」だったわけです。以後、師範は講道館柔道を「柔の理」を中心とした定義づけを行いますが、満足のいくものではなかったようで、原理は考究が続けられました。

少し考えたら分かりますが、相手の力に逆らわないということは、相手の動きがないときは何も出来ません。また、相手から拘束(師範は後ろから抱きかかえられたこと等を例としてあげています)された場合、これに逆らわないというのも難しいということです。相手の力に逆らわず利用するというのは、技を施す、ある局面の説明としては非常に良いのですが、全ての技に一貫した原理とは言いがたいわけです。技の理合いを示した形においても、「投の形」の内股などは「柔の理」で説明出来ませんし、固技や当身技についても同様です。

そういった中、師範が新たに考え出した原理が大正4年(1915)に正式に発表された「心身の力を最も有効に使用する」であり、さらに、それをすすめたのが大正11年(1922)に発表された「精力の最善活用」「精力善用」でした。「精力善用」は柔術修行から40年以上行われた試行錯誤と思索の結晶と言えるでしょう。

なお、教育家としてもしられる嘉納師範は明治22年から明治24年まで行われたヨーロッパ視察の後、熊本の第五高等中学校長に就任しています。ラフカディオ・ハーンが「柔の理」を教わった校長は、嘉納師範だったわけです。


※読みやすさを考慮して引用は『嘉納治五郎大系』から行っています。


著者:元 敏季(ハジメ・トシキ)
1975年生まれ。柔道は中学校から始め、大学までは競技を中心に行うが、卒業論文を機に柔道の文化的側面に関心を持ち、大学院へ進学。凡そ10年、大学院・研究機関に所属するも、研究とは異なる分野の仕事に就き現在に至る。ライフワークとして嘉納治五郎に関する史料を蒐集・研究し、その成果を柔道振興のため発信しようとしている。

※ eJudoメルマガ版7月24日掲載記事より転載・編集しています。

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