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朝比奈沙羅が初優勝、出色の出来見せた田知本愛は決勝で力尽きる・第32回皇后盃全日本女子柔道選手権大会マッチレポート

(2017年4月20日)

※ eJudoメルマガ版4月20日掲載記事より転載・編集しています。
朝比奈沙羅が初優勝、田知本愛は出色の出来見せるも決勝で力尽きる
第32回皇后盃全日本女子柔道選手権大会マッチレポート
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開会式、国家斉唱で大会の幕が開ける

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選手宣誓は市橋寿々華(大阪府警)

※全試合詳細は別途配信します

体重無差別で女子柔道日本一を争う第32回全日本女子柔道選手権大会は16日、横浜文化体育館(横浜市)で全国の予選を勝ち抜いた精鋭37名(推薦選手3名)が集って開催された。

大会最大のトピックは、ホープ朝比奈沙羅(東海大3年)の初優勝なるか。講道館杯、グランドスラム東京、グランドスラム・パリとハイレベル大会を3大会連続で制し初の世界選手権代表入りが有力視されながら、4月初頭の全日本選抜体重別選手権ではまさかの初戦敗退。悲願の世界進出のためにはこの皇后盃でインパクトのある活躍を見せるほかはない。

その朝比奈に立ちはだかる壁は山部佳苗(ミキハウス)と田知本愛(ALSOK)の世界大会メダリスト2人。

連覇を狙う山部はリオデジャネイロ五輪以降精彩を欠いており、グランドスラム東京とグランドスラムパリの直接対決で朝比奈に連敗。選抜体重別では高校2年生になったばかりの素根輝に敗れており、今大会に復活を掛ける。田知本は周知の通り昨年この大会の決勝で膝に重症を負って敗退、片手が掛かっていた五輪代表権を逃す悲劇を味わった。今年2月のグランプリ・デュセルドルフで畳に復帰したものの、再び膝を負傷して選抜体重別は欠場。既に世界選手権代表選出は難しい状況だが、意地とプライドを掛けて再び皇后盃奪取に挑む。

■ 三回戦まで
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二回戦、鈴木伊織は袖釣込腰と大内刈で粘り強く山部佳苗を攻める

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高山莉加が山部を破る

連覇を狙う山部がベスト8にたどり着けず、三回戦で敗退。初戦(二回戦)でも鈴木伊織(環太平洋大2年)に大苦戦、試合開始当初は気合十分だったが、最大の武器である袖釣込腰を、それも掛け潰れずに大内刈と組み合わせて粘り強く仕掛けてくる鈴木の前に中盤以降は主導権を奪われてしまう。GS延長戦で2つ目の「指導」を失ってスコアの上でも並ばれると、右手を痛めて畳に座ったまま顔をしかめる場面もあり試合ぶりはさらに減速。以後は圧力と押し出しに舵を切って結果を求め、鈴木に場外の咎で「指導3」が与えられてなんとか勝利を得ることとなった。しかし試合が決まった場面は山部の「押し出し」と判定されてもおかしくなく、そもそも本戦で山部に消極的「指導」が与えられても違和感のなかった微妙な試合。以後に暗雲漂う出だしだった。

迎えた三回戦も元気なく、高山莉加(三井住友海上)の突進にまっすぐ下がってしまい開始18秒で場外「指導」失陥。以後も散発で良い技は見せるものの高山の厳しい組み手と体ごとぶつかるような骨太の攻めを捌きあぐね、結局GS延長戦1分33秒に2つ目の「指導」を失って敗退。持ち味を出せぬまま早々に大会から姿を消すこととなった。

山部は試合後「全然だめですね、自分の柔道ってなんなのかなと思っています」と第一声、「連覇の重さと勝たなければという気持ちが空回りした」と不出来に終わった2戦を悄然と振り返った。グランドスラム東京以降の3大会同様、昨年五輪を掛けたこの大会の決勝で見せた素晴らしい覚悟と気合いはまったく発揮されず。人差し指を負傷して組むことがままならなかったということだが、二回戦、相手に主導権が渡りつつある勝負どころの状況にあって顔をしかめて指を押さえて座り込む姿は王者の態度としてふさわしいものではなく、敗退の予感を濃厚に感じさせるものだった。

このままでは結局山部がキャリアの中でその実績にふさわしいパフォーマンスを見せたのは、五輪直前の1ヶ月、2016年4月の2大会のみということになってしまう。五輪メダリストとしての矜持ある戦い、後に続くものの指針となるような山部らしい柔道の復活に期待したい。

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三回戦、朝比奈沙羅が前田奈恵子から内股「一本」

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二回戦、田知本愛が日高美沙希から払腰「一本」

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二回戦、緒方亜香里が畑村亜希から内股「一本」

朝比奈は二回戦で井上愛美(JR九州)、三回戦で前田奈恵子(JR東日本)と難敵との戦いが続いたが、いずれもGS延長戦の「一本」で勝ち抜け。決して技が切れるタイプではないだけに本戦では拮抗、体が強い相手に対して得点の予感むしろ薄い試合であったが、相手のスタミナが切れたところに大技一発という朝比奈らしい内容で井上を払腰(GS1:30)、前田を内股(GS1:37)で屠り去ってベスト8入り決定。実直に汗をかき、積み上げた相手の消耗をテコに真っ向から投げるというケレン味のない柔道で序盤戦を戦い切った。

田知本は気合十分、出色の出来。本来のスタイルである両襟のみならず引き手で袖を持つこと多々、得意の足車中心ではなくリスクのある大外刈を立て続けに放つという強気の柔道でまず日高美沙希(ミキハウス)を払腰「一本」(2:07)、続いて泉真生(山梨学院大3年)を内股と小外掛で立て続けに投げて合技「一本」(1:40)の快勝。試合態度、組み立て、技の鋭さと文句のつけようがない充実の柔道でベスト8入り決定。

田知本に勝るとも劣らぬ素晴らしい出来を披露したのが28回(2013年)大会王者の緒方亜香里(了徳寺学園職)。初戦は受けの強い大型選手畑村亜希(東亜大職)を相手に奥襟を叩き、前にゆさぶり出しながら仕掛ける得意の形で豪快な内股「一本」(0:33)。そして3回戦では頂点を伺う立場の最重量級の強豪・稲森奈見(三井住友海上)を相手に前戦の戦い方を変えず、奥襟を叩いて圧力、前に引きずり出しながらまたもや内股「一本」(1:31)。あるいはキャリア最高ではという圧巻の内容で、堂々ベスト8への勝ち上がりを決めた。

激戦29試合の結果決まった準々決勝のカードは、以下となった。

髙山莉加(三井住友海上) - 藤原恵美(大阪府警)
朝比奈沙羅(東海大3年) - 山本沙羅(ミキハウス)
田知本愛(ALSOK) - 児玉ひかる(三井住友海上)
市橋寿々華(大阪府警) - 緒方亜香里(了徳寺学園職)

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二回戦、山本沙羅が吉村静織から隅落「一本」

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三回戦、田知本愛が泉真生から小外掛でふたつ目の「技有」

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二回戦、緒方亜香里が畑村亜希から内股「一本」

【一回戦結果】
梅津志悠(三井住友海上)○崩袈裟固(4:00)△石井優花(秋田県警)
山本沙羅(ミキハウス)○合技[内股・崩袈裟固](2:55)△山口凌歌(桐蔭横浜大3年)
佐俣優依(帝京大4年)○GS有効・小外掛(GS3:12)△井坂希望(千葉県警)
橋高朱里(金沢学院大4年)○肩固(2:08)△吉岡優里(札幌刑務所)
井上あかり(環太平洋大3年)○GS反則[指導3](GS1:03)△和田梨乃子(大成高3年)

【二回戦結果】
山部佳苗(ミキハウス)○GS反則[指導3](GS5:04)△鈴木伊織(環太平洋大2年)
髙山莉加(三井住友海上)○合技[釣込腰・横四方固](1:26)△小椋香澄(旭川大1年)
藤原恵美(大阪府警)○崩上四方固(1:29)△立川桃(新田高2年)
梅津志悠(三井住友海上)○GS技有・内股(GS3:21)△小林幸奈(龍谷大2年)
朝比奈沙羅(東海大3年)○払巻込(GS1:30)△井上愛美(JR九州)
前田奈恵子(JR東日本)○GS反則[指導3](GS7:40)△ヌンイラ華蓮(了徳寺学園職)
粂田晴乃(筑波大1年)○GS指導2(GS2:49)△松田美悠(小杉高3年)
山本沙羅(ミキハウス)○隅落(GS0:12)△吉村静織(三井住友海上)
田知本愛(ALSOK)○払腰(2:07)△日髙美沙希(ミキハウス)
泉真生(山梨学院大3年)○合技[内股・横四方固](1:02)△麦田舞(松山東雲女子大3年)
後藤美和(日光警備保障)○反則[指導3](3:38)△市川香代子(仙台大4年)
児玉ひかる(三井住友海上)○優勢[技有・谷落]△佐俣優依(帝京大4年)
市橋寿々華(大阪府警)○膝車(4:39)△濵田尚里(自衛隊体育学校)
新垣さつき(国士舘大3年)○GS反則[指導3](GS0:50)△橋高朱里(金沢学院大4年)
緒方亜香里(了徳寺学園職)○内股(0:33)△畑村亜希(東亜大職)
稲森奈見(三井住友海上)○大内刈(2:52)△井上あかり(環太平洋大3年)

【三回戦結果】

髙山莉加○GS指導2(GS1:33)△山部佳苗
藤原恵美○崩袈裟固(2:28)△梅津志悠
朝比奈沙羅○GS内股(GS1:37)△前田奈恵子
山本沙羅○合技[大外刈・後袈裟固](0:25)△粂田晴乃
田知本愛○合技[内股・小外掛](1:40)△泉真生
児玉ひかる○合技[大外刈・崩袈裟固](3:03)△後藤美和
市橋寿々華○横四方固(3:07)△新垣さつき
緒方亜香里○内股(1:31)△稲森奈見

■ 準々決勝
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準々決勝、朝比奈沙羅が山本沙羅を払腰で攻める

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山本は内股で耐えさせておいての左大内刈で再三会場を沸かす

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激戦11分45秒、朝比奈の大内返「有効」で試合は決着

今大会のベストバウトがここで現出。朝比奈沙羅と山本沙羅による長く、激しい投げ合いに会場が酔いしれた。
この試合は朝比奈が右、山本が左組みのケンカ四つ。1分18秒双方に「指導」、2分2秒にも両者に「指導2」が宣告されて序盤はむしろ静かな展開だったが、ここから試合は急加速。朝比奈は相手を突き飛ばす勢いで釣り手を高く入れると右内股に払腰、山本も強気に両襟を握って左内股と左大内刈のコンビネーションで投げに掛かり、一瞬も気が抜けない熱戦が続く。朝比奈が両襟の右払腰に打って出ると山本が左内股で迎え撃ち、大きく浮いた朝比奈がしかしそのまま返しを狙うといういう激しい攻防が現出した本戦残り37秒にはその迫力に観客席から大きなどよめきと拍手が沸き上がる。双方試合を一発で決める大技があり、かつ互いに崩れれば脆いはずの重量級。これに選抜体重別では山本が大外巻込で朝比奈を投げているという来歴、そしてもし1シークエンスでも休んで相手に山場を作らせてしまえば「指導3」で即試合終了という崖っぷちの状況に何より双方の「投げて決める」という強い意志が加わり以後も互いに投げ合い、返し合う極めてエキサイティングな攻防が続く。激戦実に11分45秒、最後は山本が抱きつきながら放った左大内刈を朝比奈が引かずに前に出ながら抱く形で返し、大内返「有効」で決着。会場はこの日一番の大拍手でホープ2人の健闘を称えた。

山本は角度のないところから左内股を入れ、相手に耐えさせておいて振り向きながら左大内刈に連絡する組み立てを再三見せていた。ほとんど首を抱えながら放つこの大内刈は重量級に対する「嵌め技」、もしひるんで少しでも下がればそのまま真裏に転がってしまうこと間違いなしの危険極まりない技であったが、朝比奈は前に出て返そうとし続けることでこれをことごとく耐え切った。細部にまで攻撃精神が染みていたことの一証左であり、朝比奈の優勝に掛ける覚悟の強さが伺われる好試合であった。

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準々決勝、田知本愛が児玉ひかるから大外刈「一本」

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準々決勝、緒方亜香里が市橋寿々華を小外掛「一本」に仕留める

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髙山莉加が藤原恵美を攻める

三回戦まで出色の出来を見せた田知本と緒方はこの準々決勝も快調。

田知本はここまで大健闘の高卒新人・児玉ひかる(三井住友海上)を左大内刈、支釣込足、左大内刈と攻め続け、3分29秒までに「指導」2つを先行。迎えたGS延長戦1分25秒に引き手で袖、釣り手で片襟を差した左大外刈を思い切り決めて「一本」、これでベスト4進出を決めた。相四つで上背に勝る相手に対して常に強気に組み続け、放つ技はいずれも具体的に投げに掛かる危険なものばかり。そして「指導」累積で勝てる状況が出来上がったGS延長戦においてもあくまで投げにこだわっての大外刈「一本」と、出だしから締めまでこれも文句なしの一番であった。

緒方は昨年度3位の市橋寿々華(大阪府警察)と対戦。釣り手で奥襟を掴んで頭を下げさせ「指導」2つを先行すると、4分16秒焦った市橋が奥襟を叩きに来るところに合わせて釣り手で背中を掴んで思い切った小外掛一発。これが見事に決まって「一本」獲得、快勝でベスト4入りを決めた。ケンカ四つとはいえ超大型で後の先も強い市橋に奥襟を叩いて内股の大技を狙い続けた強気、そしえそれを可能ならしめるコンディションの良さが光った一番だった。

前戦で山部を破った髙山も好調継続、しっかりベスト4入り決定。藤原恵美(大阪府警)を相手に右内股、左一本背負投と着々技を積み本戦は「指導2」対「指導1」のアドバンテージを持ったまま終了。延長戦も右内股に支釣込足とあわやポイントという技を放ち続け、両袖をまとめた右大外刈で藤原を膝から畳に落としたGS1分47秒に3つ目の「指導」を得て勝利確定。初の皇后盃ベスト4を確定させた。

結果決まった準決勝カードは、

髙山莉加(三井住友海上) - 朝比奈沙羅(東海大3年)
田知本愛(ALSOK) - 緒方亜香里(了徳寺学園

の2試合となった。

【準々決勝結果】

髙山莉加○GS反則[指導3](GS1:47)△藤原恵美
朝比奈沙羅○GS有効・大内返(GS6:45)△山本沙羅
田知本愛○GS大外刈(GS1:25)△児玉ひかる
緒方亜香里○小外掛(4:16)△市橋寿々華

■ 準決勝
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準決勝、朝比奈沙羅が髙山莉加を払巻込「一本」

朝比奈沙羅○払巻込(4:47)△髙山莉加

右相四つ。髙山は引き手で前襟あるいは袖、釣り手で奥襟あるいは袖と相手の状況に応じながら的確に組み手を変え、あるいは受け入れて右大内刈に袖釣込腰の形に腕をまとめた右大外刈で攻める。一方の朝比奈は髙山の厳しい組み手に手を焼きながらも支釣込足を中心に粘り強く攻め、的確に髙山の体力を削り続ける。姿勢の良い髙山はなかなか崩れなかったが、3分26秒の支釣込足で膝を着いたあたりから朝比奈の圧が効き始めた印象。直後朝比奈が払腰で潰し、3分55秒ついに髙山に「指導」。気合いを入れ直した髙山は果敢に奥襟を叩いて引き出しながらの大内刈で攻めるが朝比奈動ぜず。4分47秒、朝比奈が釣り手を巻き返し気味に払巻込、相手の裏側に作用足を送り込むことに成功するとそのまま巻き込んで「一本」。みごと決勝進出を決めた。

髙山の戦いかたは骨太。組み手巧みながら「指導」狙いに陥る消極的展開や手数稼ぎの安易な技は皆無で、機を見て奥襟を叩いては常に朝比奈を転がす隙を伺っていた。朝比奈にとっては極めて危険な選手であり、かつこの強敵を相手に終盤までおそらく手ごたえのある投げをほとんど放てないという難しい展開であったが、ワンチャンスを生かした粘りと集中力の高さは見事。ここまで3試合の延長戦を戦っていながら尽きる気配すら見せぬその体力も素晴らしいものがあった。

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田知本が左大内刈

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緒方が返しを狙ったまま横倒しとなりこの技は「有効」

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素晴らしい出来も緒方はここで敗退、3位に終わった

田知本愛○優勢[有効・大内刈]△緒方亜香里

この日絶好調のベテラン2人による対決は左相四つ。田知本がワンハンドの支釣込足で緒方を潰した1分57秒緒方に2つ目の「指導」。田知本は以後も左大外刈を連発して積極的に攻め、2分35秒には大内刈を押し込んで猛進。体勢を崩した緒方がしかし歯を食いしばって返しを狙いつつ畳に落ちたこのエキサイティングな攻防は、映像確認の結果田知本の「有効」とジャッジされる。田知本はリードに満足せず直後釣り手を奥襟に入れながらの左大外刈、しかし緒方も怖じずに足を絡み返して田知本が潰れるというこれまた非常に見応えのあるな攻防があり、試合は以後も迫力ある攻め合い。双方まったく退かぬまま5分を戦い切った激戦は結局田知本の「有効」優勢による勝利に終着した。

健闘及ばず敗れた緒方は直後ミックスゾーンで涙。緒方のキャリア上のベストパフォーマンスは2013年皇后盃(優勝)ではなかったかと思われるが、間違いなく以後最高の仕上がりだった。同年に膝を手術して以来受けの脆さが目立つようになっていたが、今大会は強気の組み手と早い攻めでこれを払拭。78kg級の選手ながら超級選手ばかりを相手に3試合連続の一本勝ちを見せ、田知本戦ではその「受け」でも久々緒方らしい逞しさを見せてくれた。健闘に心から拍手を送りたい。

結果決まった決勝カードは、

朝比奈沙羅(東海大3年) - 田知本愛(ALSOK)

となった。

■ 決勝
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田知本と朝比奈による決勝戦

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「指導」ひとつをリードされた田知本が大外刈で反撃

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最終盤、朝比奈の払巻込が「有効」

朝比奈沙羅○優勢[有効・払巻込]△田知本愛

決勝は朝比奈が右、田知本が左組みのケンカ四つ。足技の蹴り合いを経て釣り手の位置争い、次いで引き手争いと短い時間であるべき手順が的確に踏まれ、40秒に朝比奈が内股巻込に潰れて「待て」。続いて1分0秒に朝比奈が放った内股巻込は両手が完全に切れてしまい得点の匂い漂わず。以後朝比奈の技が田知本に通用するとは思い難い厳しい攻防であったが、しかし朝比奈はめげずに払腰、払巻込と仕掛け続け2分24秒には田知本に消極的との咎で1つめの「指導」が宣告される。

田知本は奮起、再三両襟の左大外刈を狙うが朝比奈も腰を切る良い作りを入れての鋭い右内股で対抗。決めで巻き込み潰れてしまったため得点には至らなかったが、この一撃で田知本の逆襲をいったん押しとどめた格好、双方の動きが止まった3分27秒には両者に消極的との判断で「指導」が与えられる。

ここから田知本が再度逆襲。左大外刈に左内股と迫力の連続攻撃を見せ、さらに大内刈で猛進。朝比奈ペースを変えずに内股巻込で対抗するが取り味は薄く、GS延長戦に向けて展望が開けているのは技の威力に勝る田知本ではと思われた。

しかし残り20秒、朝比奈が右払巻込を仕掛けると作用足がいままでどうしても届かなかった田知本の右脚裏に深く入る。朝比奈間髪入れずに体を捨て、123キロの質量をまともに食った田知本耐え切れず転がりこれは「有効」。

「待て」が掛かったところで残り時間は13秒。事実上の敗北を悟った田知本はしばし正座し厳しい表情で沈思。このまま試合はタイムアップ、朝比奈が「有効」優勢で勝利して初の皇后盃制覇を決めることとなった。

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残り時間13秒、敗北を悟った田知本はしばし立ち上がれず

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皇后盃に続いて優勝旗が朝比奈の手に渡る

朝比奈がこの日戦い切った5戦の総試合時間は34分39秒。その体力はもちろん驚嘆すべきものがあるが、むしろ称えられるべきは精神的なスタミナだろう。山本と常に投げが決まる可能性がある綱渡りを12分近く戦い切った準々決勝はもちろんのこと、5戦一貫して試合序盤では朝比奈の一発が決まる可能性は高くなかった。相手が背筋を伸ばしたまま朝比奈のみが縦に潰れるというこの時間帯に頻発した画を外から見る限りでは、技術的に見切られていると以後本人の気持ちが折れてもおかしくないと思われるほどであった。しかし最終的に残ったのは5試合すべてで攻撃ポイント獲得、3つの「一本」を獲得するというこの画の印象と真逆の素晴らしい戦果。あきらめず着々技を積んで最終的には投げ切ってしまう貪欲さと己を信じる力はなにより賞賛に値する。決勝も互いが消耗した終盤戦という朝比奈が望んだ土俵にあってなお技が決まる可能性はむしろ薄く感じられ、前述の通り攻撃ポイントの獲得が想起されたのはむしろ田知本の側。朝比奈勝利の可能性はGS延長戦にステージを移しての「指導」以外にないのではと思われたが、そこで獲り切ってしまう信念は素晴らしい。とかく自己評価の低い選手が集まりがちな女子最重量級にあって、朝比奈の「己を高く買う力」を源泉として自身の力を引き出す能力は、高く評価されるべきだろう。

準優勝の田知本、敗れたとはいえその戦いぶりは見事であった。昨年の悲劇を知らずとも、その肚を括った柔道にはそれ自体に観衆の胸を打つものがあった。負けてなお、さすがは田知本と柔道家としての評価を一段確実に上げた大会だったのではないだろうか。心からその健闘を称えたい。

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閉会式。特に後半は例年以上にエキサイティングな試合が続いた大会だった。

大会の総評として、まずルールに関して述べたい。朝比奈、田知本、緒方、そして山本らMVP級の活躍を見せた大物たちの奮闘によって大いに盛り上がった皇后盃であったが、この背景に「投げずば勝てない」新ルールのエキスが強く作用したことは間違いない。大会序盤はハナからGS延長戦を意識した選手、あるいは投げるべき技のない「歩留まりの良い選手」による長時間試合も多々あり、かつ新旧いずれのルールでもない「折衷ルール」の理解自体への混乱も相まって決して見る側にとってエキサイティングな大会とは言い難い面もあったが、後半になってこの様相は急転。畳に残った役者たちの質の高さやそれぞれが抱えた退くことの出来ないキャリア上のバックグラウンドもちろんだが、女子の大会としてはちょっと稀なほど双方が激しく投げを志向しあった今大会の様相にルールが果たした役割は大きいと見る。

折衷ルールということで当初中途半端との印象を拭えなかった今大会の「限定ルール」であったが、大会を終えてみると実はこれはIJF新ルールと旧ルールの長所を採用した「いいとこどり」の好仕切りとなっていたのではないだろうか。少なくとも現時点では、筆者はそう考え始めている。

IJF新ルールからインポートしたアドバンテージとしては「判定決着を廃する」「攻撃ポイントによる勝者決定を大原則とする」「攻撃によって決まらずば延長戦ではペナルティ決着を認める」「指導3で反則負け」という攻め合いを推奨する各種の枠組みと、「「攻める気持ちのないものは早々に畳から去らせる(≒攻める姿勢があれば45秒注視)」運用面。旧ルールからは攻防の時間を担保する長時間(5分)試合の継続採用と、攻撃ポイントの中で投げの威力をスコアの優劣に反映すべく「有効」を残したこと、日本が主張したであろうところの、武道的観点から見た「2度決定的なダメージを負ったら死」との価値観を満たす合技「一本」の継続。

さらに無差別という観点から。IJFの新ルールは技による決着の推奨と便宜上であっても必ず勝者を決めるという2つの目的を満たすため、「指導」を2つ貰っても投げさえすれば勝利することが出来る本戦と、攻めを積むこと自体でペナルティ勝ちが認められるGS延長戦という二段構えを敷いている。そして実はこの2つのルートは体格が劣る選手が大型選手相手に描く勝利のシナリオとしても噛み合うのではないか。あとは技術的な仕切りを整備する、例えば「足取り」を認めればかなり「全日本向き」のルールが出来上がるのではないだろうか。

デメリットは試合時間が長くなることだ。TV放送時間までが枠からはみ出た大会進行の遅れと、1~2回戦で現れたGS延長戦を織り込んで戦うがゆえの見せ場少ない長時間試合による観客席の弛緩はやはり見逃せないものがあった。攻防の時間を確保するのは大事だが、例えばGS延長戦までを考えて本戦の時間を短縮するという選択は検討されて良いのかもしれない。

いずれ、IJFルールの折衷という形ではなく、この試行をきっかけに、「全日本柔道選手権」カスタム、あるいは国内向きの専用ルールの確立を考えてみても良いのではないだろうか。「無差別で投げ合う」試合審判規定の整備に向けてひとつ面白い材料が提供された大会であったと総括しておきたい。

もう一つ、制度上の問題に関して。選抜体重別を制した新星・素根輝の姿が大会にないことは世界選手権代表選考という実務上からも、大会の盛り上げという一般社会へのアピール視点からも非常に勿体ない事態であった。世界選手権代表選考会にその俎上に上がる選手が参加すら出来ないということをどう考えれば良いのか。素根は九州予選で敗退しているが、これには同地区のレベルの高さとともに欧州遠征の直後でベストパフォーマンスを発揮しようがなかった過密日程が一役買っていると考える。男子においても同様の事態(欧州シリーズで優勝した影浦心と飯田健太郎が帰国直後の東京都予選で敗退)があったが、欧州国際大会で一定以上の成績を残した選手にはなんらかのアドバンテージがあっても良いのではないだろうか。大会の権威と柔道界の利益、双方のバランスを考えて適切な施策を望みたい。

文責:古田英毅
Text by Hideki Furuta

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優勝の朝比奈沙羅

【入賞者】

優 勝:朝比奈沙羅(東海大3年)
準優勝:田知本愛(ALSOK)
第三位:髙山莉加(三井住友海上)、緒方亜香里(了徳寺学園職)
第五位:藤原恵美(大阪府警)、山本沙羅(ミキハウス)、児玉ひかる(三井住友海上)、市橋寿々華(大阪府警)

朝比奈沙羅選手のコメント
「ここで負けたら世界選手権代表はないと覚悟を決めて戦い、それが結果になりました。(-選抜体重別での敗退について?)負けてすっきりした部分もあります。まだまだ自分はチャレンジャーだと思いました。(-今日の試合を振り返って?)決勝は組んだ時に相手が守りに入っているなと感じました。今日のテーマは攻めの柔道。守らず攻め続けて、ひたすら前に出る柔道が出来たかなと思います。所属に帰って反省点など見直したいと思います。(-山本沙羅戦について?)向こうも対策を練って来ていましたが、2度連続で負けるわけにはいかないと思っていました。選抜では自分の柔道ができずに負けましたが、今回は組み手の研究など対策をして試合に望みました。最後の方は目も霞んできていましたが投げた後にGSであってもしっかりと抑え込みに入れたのは良かったと思います。 (-世界選手権に向けて?)長身の選手や体の大きい選手の対策が課題です。「朝比奈頼むぞ」と言ってもらえるような選手になりたい。所属で男子選手を相手に対策を練りたいと思います。世界選手権の代表に選んでもらえたら、優勝を狙います。東京五輪でも金メダルを目指します。」


田知本愛選手のコメント
「1試合目から決勝のつもりで、すべてを出し切るつもりでやりました。去年ああいう形に終わってしまったので、自分の柔道にリベンジしたいと思っていました。結果は去年と同じでしたが、やって来たことも、弱いところも出せた大会だと思います。決勝は体よりも気持ちの切り替えがうまく行きませんでした。この1年本当に色々なことがあったし、もう1回この畳に上がれるのかと下を向いていたこともあった。その時に声を掛けてくれ、サポートしてくれた妹に感謝したいです。この先は、まず目の前にある試合を1つ1つ戦っていきたい」

※ eJudoメルマガ版4月20日掲載記事より転載・編集しています。

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