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平成29年全日本選抜柔道体重別選手権・第1日女子4階級(63kg級、70kg級、78kg級、78kg超級)マッチレポート

(2017年4月16日)

※ eJudoメルマガ版4月14日掲載記事より転載・編集しています。
第1日女子4階級(63kg級、70kg級、78kg級、78kg超級)マッチレポート
平成29年全日本選抜柔道体重別選手権
■ 63kg級・同級生対決制し津金恵が優勝、世界選手権代表派遣は見送り
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63kg級準決勝、能智亜衣美が佐藤史織から支釣込足「一本」

【決勝まで】

嶺井美穂(桐蔭横浜大2年)が体重オーバーにより失格。ケガから復活した後は、講道館杯2位、グランドスラム東京でも日本人最高となる2位に入って今大会も第2シードの重責を担っていたが、衝撃的な形で大会を終えることになってしまった。欧州シリーズで結果は残らずも(グランドスラム・パリ7位)試合内容自体は良く、重点強化階級とされる63kg級にあってもっともリソースを注ぎ込む価値がある若手の一と目されていたが、強化陣の期待を大きく裏切ってしまうこととなった。かつて山下泰裕氏(当時強化委員長)が発した「無知によるミスよりも、(自己管理が出来ない)計量失格のほうがよほど悪質」との言葉でわかる通り、全日本強化は公的資金で育成されている強化選手が「責を果たすか」どうかを非常に重視しており、計量失格には厳罰を以て臨むはず。最低でも強化指定の解除は確実、将来有望な嶺井のキャリア自体に大きく影響する大事件であり、なかなか国際大会で結果を出せないこの階級のもどかしい現状を象徴するような大会の出だしであった。

大会は欧州シリーズで結果を残した2人が順当に決勝進出。

昨年この大会を制し、講道館杯も優勝して今大会第1シード評価の能智亜衣美(筑波大4年)は、初戦の大住有加(JR東日本)戦をGS延長戦「指導」3による反則勝ちで勝ち上がると、準決勝では前戦でGS延長5分27秒、トータル9分27秒の大消耗戦の末に鍋倉那美(三井住友海上)を小内刈「有効」で破った佐藤史織(山梨学院大3年)と対戦。この試合は序盤から組み勝って内股、大内刈、小内刈とテンポよく攻め、「指導」2を奪った後の3分40秒に支釣込足を決めて「一本」。快勝で決勝への勝ち上がりを決めた。

嶺井が失格となった反対側のブロックからは、津金恵(筑波大4年)が決勝に進んだ。まず初戦の貝沼麻衣子(JR東日本)戦は内股、大外刈などで攻め込み、3分52秒に3つ目の「指導」を得て勝利。続く準決勝では、1回戦を不戦勝ち(嶺井の失格による)で勝ち上がってきた荒木穂乃佳(兵庫県警)にGS延長1分17秒の大外刈で鮮やかな「一本」を奪って決勝進出決定。

結果決勝は昨年と同カード、能智―津金の筑波大同級生対決となった。

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63kg級決勝、同門同士の対決は互いに引き手が取れず決定打が出ない。

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試合は「指導」累積で津金の勝利に終わった

【決勝】

津金恵(筑波大4年)〇GS指導3反則勝(9:45)△能智亜衣美(筑波大4年)

津金が右、能智左組みのケンカ四つ。
手の内を知り尽くす両者、釣り手は取り合うものの引き手を持てない展開が続く。3分、津金が引き手のないまま右体落、右小内刈と仕掛けたところで能智に「指導」が与えられる。その後もともに引き手が取れないまま足技で牽制し合うのみの展開が続き、2分27秒には両者に「指導」が与えられる。後のなくなってしまった能智はここから前に出て左小外刈、左内股を掛け、小外掛で津金をうつ伏せに崩す。能智はさらに小外刈、内股と連発、津金も出足払で対応するがいずれの技も引き手がないため効果なし。形上の技はあるが得点の予感は薄く、これといった山場のないまま4分が終了。試合はGS延長戦に突入することとなる。

GS開始直後、組み勝った能智が左内股、左小内刈、左大内刈、さらに内股と波状攻撃を見せると、津金にも2つ目の「指導」が与えられてスコアはタイ。ここに至って両者ようやくスイッチが入った模様で試合は加速。能智が左小外刈、左内股、左小外刈と得意の攻めを繰り出せば、津金も左内股、左小外で反撃。さらに能智は激しく攻め続け2分55秒には小外刈で津金をうつ伏せに倒す惜しい場面を作り出す。2分から4分半近くまで試合は明らかに能智ペース、しかし主審は技による決着を期待してか「指導」宣告を行わずあくまで試合を注視する。5分過ぎ、津金が右内股から押し込むと能智はなんとかこらえるも、津金がさらに釣り手だけの内股を繰り出して能智をうつ伏せにしたところで主審が「待て」を宣告。ここで、能智に3つ目の「指導」が与えられて、能智の反則負けで試合は終了。9分45秒にわたる長い決勝は津金の勝利に終わった。

昨年に続いて能智と津金の同級生対決となった決勝。約10分にわたる厳しい試合は、結局「指導」による決着に終わった。この試合に限ったことではないが、新ルールで行われた今大会の傾向として、4分の本戦で様子を見て、GS延長に入ってから勝負に出るという試合が多かったように思われる(実際に「最初から延長を意識した試合をした」とコメントした選手も少なくなかった)。この試合もその典型と言える様相で、本戦の4分は様子見、延長戦になってスイッチを入れたような印象があった。結果試合時間が長くなり、当然ながら選手の疲労も増し、まるで試合ではなく「乱取り」を見ているような印象の戦いになってしまった。

「指導」決着という結果が出た後からあらためて流れを整理し直せば、この試合は延長2分から4分に試合を優位に進めた能智の勝利が妥当。しかし審判にあとひとつの「指導」=「反則負け」を取らせる決定打がなく試合が長引いた結果、最後は、もうこれ以上試合を引き延ばせないといった雰囲気のなか、その時間帯に小さな山を作った津金の勝利として便宜上試合を「収めた」という印象だった。

前述した通り、今大会は長時間試合が多かった。女子だけ見ても全47試合(不戦勝を除く)中GS延長戦に入った試合が23試合と約半分、7分を超えた試合は5試合、最長は山部対素根の10分54秒。戦っている選手たちも苦しいはずだが、見ているファンにとってつらい試合もいくつかあった。各所で指摘されている通り、これではファンに柔道の魅力をアピールするのは難しいと思われる試合も多々。

この、見どころ少なき長時間試合の増加について少し考えてみたい。新ルールへの対応として、そもそも「最初から延長を意識する」という戦い方が果たしてベストか、という戦術選択上の問題がまず一点。「短い時間でエキサイティングな攻防を繰り広げる」のが新ルールの大ポリシーだが、まずこれに則って選手が試合を組み立てていなかったということだ。今大会で選手が勝利を考える場合にはそのほうが実際的であったということだろう。

さらにこのルールには、実力差がある場合には攻防の加速スイッチとして機能するが、競った力関係の中では必ずしもそうではないという特徴があるように見受けられる。手合わせの回数が少なく、かつ力関係の差があるものの対戦が多い国際大会では効力を発揮するが、選抜体重別の「互いを良く知り、競った力関係」という環境はまさしくその対極であった。

もう一つ。女子の特性がこれを後押しした感もある。国際大会でも女子重量級における「投げを決められないが、耐える力はある」選手同士がマッチアップしての長時間試合が物議を醸したが、この決定力のなさという平均的特徴に加え、もともと技術的に歩留まりが良くいったいに「今あるものを失うのが怖い」精神的傾向がある女子選手の試合は膠着に陥りやすい。津金と能智の試合は互いをあまりにも良く知り過ぎるがゆえのことで単純にこの構図には当てはまらない(加えてどちらも技一撃の威力は折り紙つきだ)が、北京-ロンドン期に日本の女子に積み上がった「状況を作り上げ続けて、技が決まらなかった場合でも結果だけは残す」というメソッド柔道文化の影響も大きいのではないだろうか。

ただしこれはルールの欠陥というよりは、どちらかというと競技者(と審判)が対応し続けて変わっていかねばならない面であるかと思われる。短い時間に「一本」を狙って激しく攻め合うというこのルールが示唆するポリシーが競技文化というレベルまで浸透するのかどうか、以後も継続して見守っていきたい。

大会後の強化委員会で、63kg級の世界選手権代表は「派遣なし」が決まった。国際大会の実相を見る限り女子63kg級は代表を送ってトップレベルと息をしておくことに一定の意味があると思われ、率直に言って少々意外な選択。これについては代表全員が発表されたのち、評としてコメントしたい。いずれ、若手の有望選手が続々輩出され世界ジュニアを連取した有望階級であったはずの63kg級が世界選手権に堂々代表を送ることが出来ないという現状は、日本の強化にとって考えさせられること多き事態だ。海外勢との成長カーブの違い、若年世代からの集中強化の功罪とジャンルとしての女子柔道の層の薄さ、トップランナーが次の世代にしっかり襷を渡すという「継承」の重要性、示唆するべきものはまことに多い。

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【入賞者】
優勝:津金恵(筑波大4年)
準優勝:能智亜衣美(筑波大4年)

【ブダペスト世界選手権代表】
派遣なし

津金恵選手のコメント
「優勝はもちろんうれしいですけど、世界選手権代表になりたくて挑んだ試合だったので、一つの通過点を突破したと思ってホッとしています。能智には去年の選抜、講道館杯と、全部負けていたので絶対に負けたくないと思っていました。世界選手権は私が出場して勝ちたいという気持ちでやっています。たくさんの方の応援のおかげで優勝できました。これからももっと成長して強くなっていくので、応援よろしくお願いします」

【準決勝】
能智亜衣美(筑波大4年)〇支釣込足(3:40)△佐藤史織(山梨学院大3年)
津金恵(筑波大4年)〇GS技有・大外刈(5:17)△荒木穂乃佳(兵庫県警)

【決勝】
津金恵〇GS指導3反則勝(9:45)△能智亜衣美


取材・文:eJudo編集部/古田英毅

■ 70kg級・一皮剥けた欧州シリーズの出来をしっかり継続、新井千鶴が初優勝飾る
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70kg級準決勝、新井千鶴が前田奈恵子を攻める

【決勝まで】

今年に入ってグランドスラム・パリ、グランプリ・デュッセルドルフと連勝し、リオ五輪金メダリストの田知本遥(ALSOK)の抜けたこの階級の第一人者としての輝きを見せている新井千鶴(三井住友海上)が優勝候補の筆頭。国内では昨年11月の講道館杯で1回戦負け、12月のGS東京でも決勝で敗れている来歴があり、2月の国際大会で見せた実力が確かなものなのか、その戦いぶりに注目が集まった。

第1シードとして畳に立った新井の初戦の相手は、一昨年の学生体重別王者池絵梨菜(国士舘大3年)。新井は、袖口を掴んで技が出ない池に与えられた「指導」でまず優位に立つと左小内刈、左内股、左大内刈と攻め立てて快走。結果、2分22秒に奪った左内股で「技有」のポイントで優勢勝ちを果たす。続く準決勝では、昨年の講道館杯で敗れた前田奈恵子(JR東日本)と対戦、序盤に内股で崩される場面もあったが、中盤以降は出足払と大内刈で徐々にペースを掴み、終盤3分25秒に「指導」を奪ってこのリードを保ったままGS延長戦に突入。互いに技の出ない膠着状態が続いた1分46秒に両者に「指導」が与えられて試合決着、GS「指導2」による優勢勝ちで順当に決勝進出を果たした。

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70kg級準決勝、新添左季が大野陽子から払巻込「一本」

反対側のブロックから勝ち上がったのは、もう一人の注目選手・新添左季(山梨学院大3年)。昨年の講道館杯とグランドスラム東京に連勝、グランドスラム・デュッセルドルフでも3位に入るなど快進撃を見せている20歳の新鋭だ。

新添は初戦で柿沢史歩(三井住友海上) 戦をGS延長戦の末の払腰「技有」で破ると、準決勝では講道館杯の決勝で大外刈「一本」で下しているベテラン大野陽子(コマツ)と対戦。新添はまず「指導」を先取、焦った大野がこれしかないとばかりに得意の前進押し出しに打って出たところを場外際でタイミングよく払巻込に捉えて一本勝ち。わずか33秒で勝負を決める快勝で決勝進出を決めた。

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70kg級決勝、新添が払腰で攻める

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新井は新添の掛け潰れを逃さず的確に反応

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新井が横四方固「一本」

【決勝】

新井千鶴(三井住友海上)〇横四方固(4:14)△新添左季(山梨学院大3年)

新井、新添ともに左組みの相四つ。12月のグランドスラム東京決勝では「指導2」対「指導1」で新添が勝利しているカード。

新井が奥襟を取って引き付けて組み勝ち、横変形にずれたところから後ろ回りの左内股で先制攻撃。新添も徐々に組み手を自分の形にしながら左大外刈を伸ばして相手を牽制する。この攻防を経て、互いが釣り手を落とし合って技が止まった57秒に両者に「指導」。

新添が前に出ながら奥襟を掴んで組み勝つや左大内刈、さらに左払腰と攻め込むと、新井も良いタイミングの左体落を放って対抗。新添が一方的に引き手を確保するも新井は背筋を伸ばして焦らず対処、試合は拮抗。しかし新添が再び引き手を一方的に掴み左大外刈、さらに相手の膝裏への膝車と技を繋ぐと新井が畳に潰れ、2分26秒新井に「指導」。

スコア上後のなくなった新井はここから奮起、強気に両襟で組み付くと左大内刈、左小内刈、さらに左大外刈と連続攻撃を見せる。新添も組み際の左払巻込で反撃、釣り手側に移動した新井を一瞬持ち上げ、会場を沸かせる。

両者の攻撃が活発になってきた残り1分、新添が片襟の左大外刈を仕掛けて潰れ掛けると、新井はいったん引き付けてその体を捕まえ、次いで押し倒してその上体に被さる。新井はこの機を逃さじとばかりにしつこく寝技を展開、下半身を制しながら新添の長い足をまたいで横四方固を完成させ、そのまま抑え切って「一本」に辿り着く。試合時間4分14秒、新井がグランドスラム東京決勝のリベンジを果たす形で選抜体重別初優勝を飾った。

新井は田知本愛との激烈な代表レースに敗れてリオ五輪の出場を逃し、再出発の大会となったグランドスラム・チュメンで優勝。しかしポスト田知本の実力を示すべき昨年の講道館杯でまさかの初戦敗退、続くグランドスラム東京でも急成長の新添に決勝で敗れて足踏み、決して東京五輪に向けて快調なスタートを切ったというわけではなかった。それが今春の欧州シリーズでは憑き物が落ちたような素晴らしい内容で、グランドスラム・パリ、グランプリ・デュッセルドルフとビッグゲームに2連勝。

両大会では積年の課題であった線の細さと「二本しっかり持たなければ技が出ない」ナイーブさを完全払拭、パワー自慢の選手たちの奥襟を敢えて受け入れ、地力で堂々渡り合って、長所である技の切れ味を引き出していた。グランプリ・デュッセルドルフ決勝では今シリーズ新添を子ども扱いして2連勝していた階級きってのパワー派マリーイブ・ガイ(フランス)を正面から弾き返す圧巻の柔道を披露、明らかに一皮むけた様子だった。

選抜体重別前日にこの豹変ぶりについて問うてみると「まったくやり方を変えた。いままでは相手に体ごとぶつかるような戦いをしていなかった。力の強い相手にも敢えて奥襟を嫌わずに叩き返してこういう戦いをしてみたら、十分出来た。」とのこと。「持つ場所にもこだわり過ぎずに掛けた」と続いた言葉には、手ごたえが滲んでいた。長年線の細さが課題とされて来た新井だが、国際大会で苦闘を続けるうちに実はこういった戦い方が出来る地力と素地が十分練れていたということだろう。

2度目の世界選手権代表権獲得はまったく妥当。東京五輪への好スタートを切ることが出来るか、ブダペストでの戦いに大いに期待したい。

一方の新添は地力の高さ明らかも、昨年末までの凄まじい勢いを考えれば明らかに失速。欧州シリーズで見せつけられた新井との格の差を、ついに直接対決というわかりやすい形で示されてしまった形だ。高校時代まで積んだ伸びやかな柔道そのままに結果を残して来た2年間であったが、次はどのような方向で上積みを得るか。素質明らかな新添の今後は、毎年有望選手を大量に獲得している山梨学院大の、育成機関としての力量を問う上での重要観察ポイントでもある。以後も注目して見守りたい。

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【入賞者】
優勝:新井千鶴(三井住友海上)
準優勝:新添左季(山梨学院大3年)

【ブダペスト世界選手権代表】
新井千鶴(三井住友海上)

新井千鶴選手のコメント
「(選抜体重別は)決勝に上がっても勝てないのが2年続いていたので、優勝出来て本当に嬉しいです。(リオ五輪に出られず)苦しい日々が続いていました。今日の決勝は、絶対に負けたくない、とにかく勝ちたいという気持ちで戦いました。優勝できてやっとスタートラインに立てたところ、これから目の前の試合、一つひとつを大切にし、しっかりと戦いたいと思います」

【1回戦】

新井千鶴(三井住友海上)〇優勢[技有・内股]△池絵梨菜(国士舘大3年)
前田奈恵子(JR東日本)〇GS反則[指導3](4:37)△中江美裕(筑波大2年)
新添左季(山梨学院大3年)〇GS技有・払腰(4:13)△柿澤史歩(三井住友海上)
大野陽子(コマツ)〇崩上四方固(GS2:02)△宇野友紀子(JR東日本)

【準決勝】

新井千鶴(三井住友海上)〇GS指導2(GS1:46)△前田奈恵子(JR東日本)
新添左季(山梨学院大3年)〇払巻込(0:33)△大野陽子(コマツ)


【決勝】

新井千鶴(三井住友海上)〇横四方固(4:14)△新添左季(山梨学院大3年)



取材・文:eJudo編集部/古田英毅

■ 78kg級・梅木真美が好内容で優勝、欧州シリーズに続いて実力示す
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78kg級1回戦、佐藤瑠香が高橋ルイから「技有」

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準決勝、濵田尚里が佐藤瑠香から逆転の腕挫十字固「一本」

【決勝まで】

国際的には苦戦が続くこの階級だが、事前評的にはなかなか見どころ多し。

まず2015年のアスタナ世界選手権で優勝しながら、リオ五輪では初戦敗退、グランドスラム東京でも優勝を逃し(3位)、キャリアの行く末に陰りが見せていた梅木真美(ALSOK)の復活なるか。2月のグランプリ・デュッセルドルフでは好内容で優勝を飾っており、その兆しは十分見えている。

昨年の選抜体重別、講道館杯、そしてグランドスラム東京と連続で優勝し全盛期の輝きを取り戻しつつある佐藤瑠香(コマツ)は、しかし2月のグランドスラム・パリ決勝では状況を読み切れず場外への押し出しに固執して「指導3」で敗れるミスを犯したばかり。力を証明することはもちろん、持ち前の「ポカ」を払拭して強化陣の信用を取り戻すことがこの大会の目当て。また、皇后盃予選で圧巻の出来を見せた寝技のスペシャリスト・濵田尚里(自衛隊体育学校)の戦いぶりも注目に値する。

第1シードの佐藤は、初戦で髙橋ルイ(ヤックス)と対戦。中盤までは互角の展開だったが、2分37秒、髙橋の内股を透かして「技有」を奪うと、そのまま上四方固に抑えて「一本」。まずは無難なスタートを切る。

続く準決勝では、初戦で緒方亜香里(了德寺学園職)をGS延長戦の末、内股返「技有」で破って勝ち上がってきた濵田と対戦。佐藤は払腰、大外刈、支釣込足など立ち技で濵田を圧倒して「指導2」を奪い、1分57秒には大内刈で「技有」を奪取。ほぼ勝負は決まったかと思われたが、残り1分を切ったところで濵田が一瞬のチャンスをものにし、裏投で「技有」を奪うと間髪入れずに腕挫十字固に極めて「一本」(3分8秒)。濵田は真骨頂の勝ちぶり、好調佐藤は大量リードを守れぬ「ポカ」をまたもや繰り返した形で無念の敗退となった。

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1回戦、梅木真美が吉村静織から袈裟固「一本」

反対側のブロックでは、第2シードの梅木が順当な勝ち上がりを見せた。梅木は初戦の吉村静織(三井住友海上)に対しては、組み勝って優位に進めて「指導」2つを奪ったあと、大内刈「技有」からの袈裟固で完勝。準決勝では前戦で髙山莉加(三井住友海上)を大内刈「一本」で破って乗っている泉真生(山梨学院大3年)に対し、両襟を掴んで引き付けて圧力をかけ、泉が苦し紛れにかけた払腰を潰すとそのままあくまで立たせず。腕緘を極めながら横四方固に抑えてる完璧な形で2分52秒「一本」、危なげなく決勝進出を果たした。

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78kg決勝、梅木が払腰「技有」

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梅木は後袈裟固に抑え込んで一本勝ちを果たす

【決勝】

梅木真美(ALSOK)〇後袈裟固(2:56)△濵田尚里(自衛隊体育学校)

梅木が左、濵田が右組みのケンカ四つ。
今大会好調の梅木が先に組んで左内股で攻めれば、濵田も負けじと出足払から左内股を掛けて反撃。しかし、長身の梅木が奥襟をとって組み勝ち払腰、足車、さらに払巻込と攻めて、濵田は徐々に守勢となる。1分36秒、袖口を掴む濵田に「指導」。その後、奥襟をとって払腰を仕掛ける梅木に対し、濵田が組み負けながら小外刈で返しを狙うも、梅木は心得てかわし危なげなし。明らかな梅木優位の構図は2分32秒ついに具体的なポイントとして結実、腰の差し合いに勝利した梅木の払腰が決まって「技有」。梅木はそのまま濵田を後袈裟固に抑え、2分56秒「一本」。梅木がオール一本勝ちという素晴らしい内容で選抜体重別初優勝を飾った。

平成27年のアスタナ世界選手権、昨年のリオ五輪と、2度にわたり日本代表になっている梅木だが、意外にも選抜体重別での優勝は今回が初めて。厳しい言い方になるかもしれないが、アスタナ世界選手権での優勝は運に恵まれたところもあり、「世界一」と呼ぶに相応しい実力の持ち主とは言い難かった。本人も世界王者の称号と実力のギャップに押しつぶされたか、リオ五輪では前年に世界チャンピオンになった選手とは思えないほど自信なさげで、何も出来ぬまま初戦敗退に終わっている。世界選手権奪取者にふさわしい力を身に着けるかどうかはここからが勝負というところであったわけだが、梅木は今年に入って憑き物が落ちたかのように迷いのない柔道を披露。グランプリ・デュッセルドルフ、そして今回の選抜体重別と2大会連続、オール一本勝ちで優勝を果たした。復調というよりは、着実に地力が付き始めたと言って良いだろう。今後の戦いも大いに期待が持てる。

一方の佐藤は、素晴らしい強さと戦い方の幅の広さを見せながらまたもや詰めを誤った。準決勝はスコア、内容とも圧倒していたが、佐藤の戦いぶりを良く知る者であれば「最後までわからない」とまったく安心出来なかったのではないだろうか。良くも悪くも佐藤らしい、振れ幅の大きすぎる戦いぶりだった。

世界選手権の代表には、優勝した梅木とともに佐藤が選出され、この階級から2名の出場が決まった。佐藤は国際大会で実績を残せど課題である戦術面でのミスを繰り返してきた来歴があり、かつこの選抜体重別は同根の失敗で準決勝敗退。「2枠」という貴重なリソースの投入の価値があるかとなると少々疑問だ。少なくとも63kg級の「代表なし」裁定に比べるとかなり甘い判断であり、昨年早々に五輪代表候補から外して物議を醸した履歴とのバランスを取ったかのような、少々意外な選択であった。

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【入賞者】
優勝:梅木真美(ALSOK)
準優勝:濵田尚里(自衛隊体育学校)

【ブダペスト世界選手権代表】
梅木真美(ALSOK)
佐藤瑠香(コマツ)

梅木真美選手のコメント
「(選抜体重別は)今まで優勝したことのない大会だったので、優勝できてホッとしています。今日は自分から前に出て、自分の柔道をすることができて、結果が出たので良かった。オリンピックで負けて、ゼロからのスタートだと思って試合に臨みました。前に出て攻めることが自分の良いところだと思っているので、今後も、そういう柔道をしたいと思っています」

【1回戦】

佐藤瑠香(コマツ)〇上四方固(3:09)△髙橋ルイ(ヤックス)
濵田尚里(自衛隊体育学校)〇GS技有・内股返(GS0:14)△緒方亜香里(了德寺学園職)
梅木真美(ALSOK)〇袈裟固(2:59)△吉村静織(三井住友海上)
泉真生(山梨学院大3年)(三井住友海上)〇小外掛(2:48)△髙山莉加(三井住友海上)

【準決勝】
濵田尚里(自衛隊体育学校)〇腕挫十字固(3:08)△佐藤瑠香(コマツ)
梅木真美(ALSOK)〇横四方固(2:52)△泉真生(山梨学院大3年)

【決勝】

梅木真美(ALSOK)〇後袈裟固(2:56)△濵田尚里(自衛隊体育学校)


取材・文:eJudo編集部/古田英毅

■ 78kg超級・朝比奈と山部が次々陥落、高校2年生の素根輝が初優勝飾る
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優勝候補筆頭と目された朝比奈沙羅は1回戦で敗退

【決勝まで】

昨年11月の講道館杯で優勝し、その後、グランドスラム東京、グランドスラム・パリと連勝して絶好調の朝比奈沙羅(東海大3年)が優勝候補筆頭だったが、初戦で山本沙羅にまさかの敗退。朝比奈は身長180センチの長身・山本に左奥襟を取られ、かつ先に技を仕掛けられてなかなかペースを掴むことができず。2分49秒には山本に大外巻込で「技有」を取られ、以後必死の攻撃も効なし。反抗は「指導」1つの追加に止まり、そのまま終了のブザーを聞くこととなった。戦後朝比奈は「追う立場から追われる立場になってルーティーンが飛んでしまい、自分らしい試合が出来なかった」「一番手と言われていたが、まだまだ挑戦者と思った」とコメントしたが、客観的にはそこまでの絶対的なアドバンテージがあったとは言い難く、精神的な自縄自縛に陥っていたことが明らか。有力視されていた世界選手権の代表権獲得には2週間後に控える皇后盃での活躍が絶対条件となるが「一発逆転しないといけない危機感を感じている」ときっぱり語った本人の覚悟に期待したい。

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78kg超級1回戦、稲森奈見が後藤美和から払巻込でまず「技有」

朝比奈を破る金星をあげた山本は続く準決勝でも、稲森奈見(三井住友海上)を相手に払腰、内股、大外刈などで積極的な攻めを見せて快調、しかし一瞬のスキを突かれ背負投で「技有」を奪われここで敗退。稲森は初戦で田知本愛(ALSOK・負傷のため直前で欠場表明)の代打出場となった後藤美和(日光警備)を小外掛で一蹴しており、この日好調。昨秋以来の不振を吹き払う久々の決勝進出となった。

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1回戦、山部佳苗が冨田若春から払腰「技有」

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準決勝、素根輝が得意の大内刈で山部を攻める

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素根が山部から「技有」

逆側のブロックの最有力選手はリオ五輪銅メダリストの山部佳苗(ミキハウス)。ただし、山部は五輪以降、グランドスラム東京、グランドスラム・パリと2大会連続で朝比奈に敗れており、この大会でさらに黒星を重ねることになれば、第一人者の地位自体が危うくなる。後のない大会だ。

山部の初戦の相手は、19歳の新鋭・冨田若春(コマツ)。体格で優る山部は序盤から圧力をかけて追い詰め、冨田から場外の「指導」2つを奪う手堅い攻め。終了間際に袖口の「指導」を失うも、GS延長戦1分39秒に払腰で「技有」を奪って優勢勝ち。まずはしっかり勝利を得た。

準決勝では講道館杯2位、グランドスラム東京2位、そしてグランドスラム・デュッセルドルフ3位と、シニアの大会でも十分に通用することを示し、今大会でもダークホースと目された素根輝(南筑高2年)と対戦。

この試合は山部が右、素根が左組みのケンカ四つ。開始41秒、両者に「取り組まない」咎による「指導」。その後、組み姿勢のいい山部が圧力をかけながら前に出ると、素根は下がりながらも右一本背負投、体落など手数で対抗。素根が不十分な組み手ながら先に仕掛け、山部はプレッシャーをかけるも技を出せないという展開が続く。終盤両者に「取り組まない」咎で再び「指導」、試合はそのままGS延長戦に突入することとなった。

この延長は史上稀に見る大消耗戦。トータルタイム10分を過ぎて疲れの顕著な山部に対し、素根がペースを変えずに体落、一本背負投で攻め続け、10分54秒ついに左背負投で山部を横倒しにして劇的な「技有」奪取。若い素根が山部との激戦を制し、決勝進出を果たすこととなった。

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素根と稲森の決勝戦

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素根が稲森から「技有」奪取

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素根は高校2年生で選抜体重別優勝の偉業を達成

【決勝】

素根輝(南筑高2年)〇GS技有・体落(GS2:05)△稲森奈見(三井住友海上)

素根が左、稲森右組みのケンカ四つ。
開始早々、稲森が右内股をで先制攻撃、素根は左背負投で応戦。稲森はその後も右内股、右大外刈、右小外刈と連続で仕掛け、1分18秒には袖を絞って掴む素根に「指導」が与えられる。素根は前戦の疲労ゆえか動きに精彩を欠き、その後も山部は右払腰、潰して腕挫脚固、さらに右払腰と連発で攻め込んで2分35秒には再び素根に「指導」。後のなくなった素根が左払腰に打って出ると、展開を掌握した稲森は待ち構えて小外掛で崩すが、素根がうつ伏せに逃れて惜しくもポイントはなし。

稲森優位の展開であったがGS延長戦に入ると素根が息を吹き返し、左大内刈を連発すると稲森に「指導」。さらに素根は、焦り気味に繰り出す稲森の技を落ち着いてさばくと、GS2分6秒、絶妙なタイミングで左体落。疲労しきった稲森はついに陥落、これは「技有」。会場は16歳の偉業にどよめき、高校2年生になったばかりの素根が選抜体重別初優勝を飾ることとなった。

1回戦4分48秒、準決勝10分54秒、決勝では6分5秒。国内のシニアトップ選手を相手に20分以上も戦い続け、見事初優勝を勝ち獲った素根。特段に技が切れるわけではないが、受けの強さとスタミナ、そして何より気持ちの強さが最大の長所と言っていいだろう。準決勝の山部、決勝の稲森との試合は、まさに我慢比べであったが、最後まで気持ちを切らさずに戦い続けたことはまさしく称賛に値する。組み手で劣勢でも技を出し続けてチャンスを作り出し、そしてものにしてしまう勝負強さも特筆もの。皇后盃には出場権がなく(※欧州シリーズから帰国直後の九州地区予選で敗退)、自力で世界選手権代表権を得ることは難しい情勢だが、2020年東京オリンピックに向けてさらなる飛躍を期待したい。

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【入賞者】
優勝:素根輝(南筑高2年)
準優勝:稲森奈見(三井住友海上)

素根輝選手のコメント
「優勝はしましたが、実力的にはまだまだです。ただ、絶対に負けたくない、勝ちたいという気持ちで戦いました。自分は本当にまだまだなので、もっと経験を積んで強くなって、2020年の東京オリンピックで金メダルを獲りたいと思います」

【1回戦】

山本沙羅(ミキハウス)〇優勢[技有・大外巻込]△朝比奈沙羅(東海大3年)
稲森奈見(三井住友海上)〇小外掛(1:15)△後藤美和(日光警備保障)
山部佳苗(ミキハウス)〇GS技有・払腰(GS1:39)△冨田若春(コマツ)
素根輝(南筑高2年)〇GS指導2(GS0:48)△井上愛美(JR九州)

【準決勝】

稲森奈見(三井住友海上)〇優勢[技有・背負投]△山本沙羅(ミキハウス)
素根輝(南筑高2年)〇GS技有・背負投(GS6:54)△山部佳苗(ミキハウス)

【決勝】

素根輝(南筑高2年)〇GS技有・体落(GS2:05)△稲森奈見(三井住友海上)


取材・文:eJudo編集部/古田英毅

※ eJudoメルマガ版4月14日掲載記事より転載・編集しています。

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