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第39回全国高等学校柔道選手権男子団体戦マッチレポート⑥決勝

(2017年4月7日)

※ eJudoメルマガ版4月7日掲載記事より転載・編集しています。
第39回全国高等学校柔道選手権男子団体戦マッチレポート⑥決勝
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優勝候補筆頭、第1シードからしっかり勝ち上がった桐蔭学園高

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大成高はエース東部直希を押し立て、決勝の畳まで辿り着いた

桐蔭学園高は第1シードからの決勝進出。図太い戦いぶりが特徴のエース関根聖隆を中心に1年生ポイントゲッター村尾三四郎と賀持喜道の本格派2枚に超大型の千野根有我、さらに66kg級の好選手湯本祥真ら多様なキャラクターを揃えた個性派チーム。この日は決して好調ではなかったがそれでも2回戦で天理高を二人残し、東海大静岡翔洋高を二人残し、そして大熱戦となった長崎日大高を一人残しとしぶとく戦い続けてベスト4入り。内容は苦戦続き、冬季招待試合シリーズの出来に比べるとどこか違和感のある戦いぶりだったが、準決勝ではついに全国大会モードの戦い方を掴んだか、強豪延岡学園高を相手に三人残しの圧勝。態勢を整えて決勝に臨む。

一方、招待試合シリーズで圧勝を続けた桐蔭学園高が同時期唯一敗れている(黒潮旗武道大会)強豪・大成高は第3シードからの勝ち上がり。絶対のエース東部直希の存在をテコにこの日はまず難敵白鴎大足利高を代表戦の末に下し、続いて九州学院高を三人残し、日体荏原高を一人残し、そして準決勝では優勝候補の一と目された崇徳高(広島)を代表戦の末に下してついに決勝の舞台まで辿り着いた。東部はこの日初戦からここまで7戦、GS延長戦を1試合と換算すれば既に8試合を戦っておりまさに大車輪の活躍。この決勝も東部の活躍がそのまま優勝のカギを握る。

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オーダー順が開示される

開示されたオーダー順は下記。

桐蔭学園高 - 大成高
(先)賀持喜道 - 三輪魁星(先)
(次)村尾三四郎 - 藤鷹裕大(次)
(中)千野根有我 - 大西陸斗(中)
(副)湯本祥真 - 弓削凛月(副)
(大)関根聖隆 - 東部直希(大)

総合戦力は桐蔭学園が上だが、こと抜き勝負ということでは大成にも十分チャンスあり。

盤面解読のポイントはなんと言っても大成の大将に座る東部直希の存在。ここまでの試合でわかる通り、東部の平然と複数枚抜きをやってのける突破力は異常なものがあり、桐蔭学園としては1枚でも多く東部に手当すべく前衛で「抜けるだけ抜く」ことが一大戦略。一方の大成はこれを少しでも防いで東部の敵を減殺することが戦術上最大の目当てとなる。

東部の対面に座るのは桐蔭学園の大駒・関根聖隆。前日の個人戦無差別準決勝では東部と関根が対戦し、関根が形上は「指導」差で勝利、しかし中途で東部の支釣込足が「一本」と判定される場面もあったという大接戦を演じている。東部の一撃は肘関節を極めながらのもので「一本」取り消しは妥当であったが、本来直後の形である東部が関根を抑え込んだ形から再開されるべき(審判のミスで開始線から再開された)ものであった。つまりは展開力では関根に分があり、しかし東部には一発で勝負をひっくり返す力があると解釈しておくべきだろう。試合はどちらに転んでもおかしくない。

ただしこれが両者がタイの状態で戦った場合。桐蔭学園としては関根を送り込む事態となる前に、東部に「一発の力」を失わしめるほどにダメージを負わせておきたい。賀持喜道と村尾三四郎で抜けるだけ抜き、巨漢千野根有我の圧力と試合運び巧みな湯本祥真の機動力で東部を消耗させ、出来ればここで試合を終わらせ、悪くても東部が足腰立たぬ状態まで追い込んでおきたいはずだ。

先鋒に起用する賀持は今大会まだ持ち味を発揮出来ていないが、不調というよりはパワーが足りず、サイズに跳ね返されて技の威力が出せていない感あり。逆に重たい相手でなければ相当の実力者からも一発取って来るだけの潜在能力はあり、この相性は大成の先鋒である同階級の三輪魁星や中堅の90kg級選手大西陸斗には十分噛みあう。三輪には前日の個人戦で優勢勝ち(「指導2」優勢)を果たしており、ここは得点を織り込んでも良いのではないだろうか。体格差なくば力を存分に発揮出来るというところでは村尾も同様で、東部登場以前の唯一の重量選手である弓削凛月が低身長で圧を掛けやすいタイプであることを考えれば大爆発の予感は十分。

一方大成の前衛4枚は桐蔭学園に比べるとやはりスケールが落ちる。直接対決でチームが勝利した黒潮旗でも代表戦含めて挙げた3点のうち東部以外の得点は大西が賀持から挙げた後の先の隅落「有効」による優勢勝ち1つのみであり、かつこの試合も全体としては賀持が攻めており次回対戦の優位が約束されるようなものでは決してなかった。今季一貫して発揮している周辺勢力の「なかなか負けない」個性と、この日失点あれど非常に切れている大西陸斗の奮闘に期待したいところ。東部はここまで2日で11戦を戦っているが一戦必勝の態勢で送り出せば十分に働けるはず。東部と関根の直接対決1試合に勝負のステージを限定し、この1試合の勝敗がそのままチームの優勝を決める状況を作ることこそ大成勝利唯一のシナリオ。前衛4枚のミッションは、桐蔭の4枚を一人一殺で消し去っていくこと、それが果たせずとも1人でも敵の数を減らして東部に繋ぐことだ。

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先鋒戦は引き手を先に得た側に展開が振れる構図、三輪魁星が賀持喜道の袖を制して押し込む。

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賀持が左内股で値千金の「有効」奪取

先鋒戦は桐蔭学園・賀持喜道、大成・三輪魁星ともに左組みの相四つ。賀持が引き手を得つつ前に出ると三輪思わず場外まで下がり、26秒三輪に場外の「指導」。続く展開では釣り手を片襟深くに入れた三輪の前に賀持がスリップして潰れ「待て」。ここで三輪が引き手で袖を一方的に持つと賀持激しく嫌うが三輪あくまで離さず、賀持は場外まで下がりながらの左大外刈で展開を流してしまい今度は賀持に場外の「指導」。ここまでの試合を見る限りどうやら両者の戦いの生命線は引き手にあり、先にこれを確保した側に極端に展開の針が振れる模様。

1分44秒、賀持が引き手で袖を確保すると、軸足から踏み込みながら釣り手を掴んで左内股。賀持のステップは遠心力を生み出し、振り回されて引き出される格好となった三輪たまらず前隅に転がる。倒れてから素早く腹這いに体勢を戻したが、主審は副審のゼスチャーを確認した上でこの技に「有効」を宣告。

三輪は以降奮起、足技を撃ちながら再三接近を図るが賀持は巧みに組み手をコントロール、三輪は形を整えることに時間を消費してしまいなかなか決定的な技が出ない。やや試合が膠着した2分56秒双方に「指導」。桐蔭学園ベンチからは「待っちゃダメ!」と賀持に激しい叱咤が飛ぶが以降は大枠三輪が強気に組み、賀持が守る展開。賀持は両手を突いて相手を間合いに入れず、この露骨なクロージングに対し残り3秒で「指導3」が宣告されたものの試合はここで終了。あと一歩まで攻め込みながら届かなかった三輪は無念の表情で畳を去る。この試合は賀持の「有効」優勢に終着、桐蔭学園がまず一人抜きで先制に成功。

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第2試合、賀持が藤鷹裕大を大内刈で大きく崩す

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長身・藤鷹の左内股が決まり「一本」、大成があっという間に1人を抜き返す

続く第2試合は畳に残った賀持、大成の次鋒藤鷹裕大ともに左組みの相四つ。開始早々の組み際に賀持が鋭い左大内刈で勢いよく転がすが、藤鷹持ち前の粘りで着地寸前に伏せてノーポイント。

藤鷹は前戦終盤の賀持の消耗を見てか、奥襟を叩いての圧力を徹底志向。引き手で襟、釣り手で奥襟を叩くことに成功すると身を捩じる賀持を上下にあおって潰し、47秒賀持に「極端な防御姿勢」で「指導」。賀持は身長185センチの藤鷹の上背を持て余し気味。

賀持は相手の釣り手を落とそうとするが、藤鷹あるいはいったん切って、あるいはいったんクロスに入れて戻してと奥襟へのアプローチをあくまで止めず。2分20秒、藤鷹引き手で襟、釣り手で奥襟を確保すると作用足を一瞬振り上げる形のステップを入れ、思い切りよく左内股。

いったん持ち上がった賀持、僅かに左足を畳に着けて逃れようとするが藤鷹は長い右腕でいったん畳を押さえて滞空時間を確保、高い位置から巻き込んで体を捨てると賀持は藤鷹の背中で押さえつけられるように激しく畳に落ちる。一瞬あって主審は「一本」を宣告、自ら転がって立ち上がりながらこれを見届けた藤鷹は思わず拳を突きあげる。

試合時間は2分20秒、大成が1人を抜き返すことに成功。

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第3試合の次鋒対決、村尾三四郎が藤鷹から左小内刈「有効」

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村尾は鮮やかな左大外刈で藤鷹に宙を舞わせ「一本」

タイスコアで迎えた第3試合は桐蔭学園のポイントゲッター、次鋒村尾三四郎が登場。左相四つの藤鷹に対し18秒両手の牽引を利かせて左大外刈、斜めに刈り込んだこの技から内股、さらに小内刈と素早く技を連絡して転がし早くも「有効」奪取。

以後も村尾は強気、藤鷹は生命線の奥襟を果敢に叩くが村尾はすかさず圧をずらすと引きずり出しての内股、足車、大外刈と次々大技を繰り出して相手を崩し、1分25秒、藤鷹に「指導1」。以後も藤鷹が奥襟を狙い、村尾がいなしては大技で投げに掛かるという構図が続くが、2分31秒頃合い良しとばかりに村尾が左大外刈で勝負に出る。両袖のまま腕をまとめて刈りこんだ鋭い一撃、一度は耐えられてバランスを崩したがそのまま引き寄せるように刈り上げると藤鷹の長い体は吸い込まれるように高く宙を舞う。村尾がたたらを踏んでフォロースルーの体勢を整える横で藤鷹がバウンドする勢いで畳に落ち、これは文句なしの「一本」。

村尾の素晴らしい一撃で桐蔭学園は再び1人差のリードを確保。続く第4試合は大成から中堅大西陸斗が畳に送り込まれる。

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第4試合、大成の中堅大西陸斗が村尾から小外刈「技有」、これで大成が主導権を奪回するかに思われた。

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村尾が大西から逆転の左大内刈「一本」

村尾が左、大西は右組みのケンカ四つ。この日好調の大西はこの試合も躍動、奥襟を叩いて村尾の頭を下げさせ、右内股で積極攻撃。大西の思い切りの良い内股を受けて、村尾も奮起、56秒素晴らしいタイミングの出足払で大西を大きく浮かせ、反撃開始。

しかし勝負が動き始めたこの時間帯を制したのは大西。組み手を争いながら一瞬で右足を相手の左足裏に絡みつかせ、村尾が崩れると胸を合わせて一気に乗り込む。乗り込んだ勢いでそのまま前転した大西の後ろで主審が腕を真横に挙げ、この小外刈は「技有」。試合時間は1分10秒、「一本」が宣告されてもおかしくない強烈な一撃だった。

ビハインドの村尾は表情を変えず、しかし攻撃姿勢は明らかに加速。2分を過ぎたところで村尾思い切った左内股、これに大西思わずまっすぐ下がってしまい、機と見た村尾はケンケンの大内刈に切り替えて迫力の追撃。ほとんどその腰が相手の股中に入ろうかというところまで深く追い込み、大西たまらず真裏に倒れて劇的「一本」。

試合時間2分6秒、逆転負けの大西は思わずその場に屈してガッカリ。村尾、藤鷹に続いて同学年の難敵に一本勝ち、2人抜きを果たして桐蔭学園のリードは「2」となる。

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第5試合、村尾は大成の副将弓削凛月から左大外刈「技有」。このポイントでついに3人抜きを達成。

第5試合は畳に残った村尾に、左相四つの弓削凛月が対峙。弓削は袖を殺しては得意の担ぎ技を狙うが心得た村尾は巧みに潰し、圧を掛け続ける。

40秒過ぎ、弓削が村尾の釣り手を絞らんと粘着。しかし村尾はいったん巻き込み動作で左手を流してこれを剥がし、剥がすなり手を戻すと相似の動作で今度は相手の右肩を抱えて左大外刈。プログラムされた動きの早さに弓削ついていけず、気づいた時には村尾の刈り足は決定的な位置。弓削勢いよく転がってこれは「技有」、経過時間は45秒。

村尾は腰の重い弓削に対して以降無理をせず。弓削は組み手争いの中であるいは引き手を一方的に掴み、あるいは奥襟を持ち、あるいは釣り手で片襟を差してと時折優位な形を作るが、肝心の担ぎ技が潰されてやや一人相撲の感あり。1分56秒には左背負投を掛け潰れて偽装攻撃による「指導1」失陥、終盤には守勢になった村尾を攻め込んで残り7秒で「指導2」まで奪回するがここで試合は終了。村尾は「技有」による優勢勝ちで3人抜き達成、桐蔭学園は「東部に何枚手当するか」という一大ミッションにほぼ満額回答、畳に残る村尾を含めて実に4枚を盤上に置く大戦果を以て前衛の「作り」を終了する。

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村尾が大成の大将・東部直希を出足払で大きく崩す

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東部が村尾から払巻込「技有」

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東部再度の払巻込も「技有」、合技「一本」で東部が村尾を下す

この試合を引き分ければ優勝決定の村尾、一方優勝にはここから4枚すべてを抜き去る以外に術のない東部直希による第6試合はともに左組みの相四つ。東部は釣り手をクロスに入れては戻す強気の組み立てで相手を固定に掛かるが、村尾はスイッチを押されたかのように鋭い出足払一発。これで東部を大きく崩して伏せさせると得意の横三角で攻め立てる。足技で崩して寝技で時間を消費する、東部相手にはこれしかないという戦い方をしっかり踏む形。これは試合時間30秒で「待て」。

東部はしかし表情を変えず。釣り手でまず奥襟、村尾が首を抜くといったんクロスで圧を掛けてまた戻し、相手の頭が下がれば細かく足技で蹴り崩してと、こちらもしっかり攻略の手順を踏む。圧の掛かる状況での足技に耐え切れず潰れた村尾に対し、45秒偽装攻撃による「指導」。

直後村尾が奥襟を叩くと東部は得意の「腕固を施しながらの支釣込足」を狙うが予期した村尾は慌てて釣り手を引っ込める。いったん釣り手を収めた村尾が再び釣り手を高く入れると、東部今度は突如スピードアップして左払巻込。これが決まって「技有」、経過時間は1分2秒。

これが決勝4戦目の村尾はこの一撃でやや緊張の糸が切れた感あり。直後東部は釣り手をいったんクロスに入れ、脚を振り上げて一瞬村尾の崩れを待つと再び払巻込。タイミングをずらした崩しが利いて村尾は先んじて畳に降りた東部にやや遅れて落下、その体にアフターで東部の背中が押し付けられ2つ目の「技有」。試合時間1分22秒、東部が合技「一本」で見事村尾を抜き返す。

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千野根有我が東部に怖じず、果敢に攻撃

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東部の支釣込足を千野根が待ち構えて振り返し「有効」

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勝負を掛けるべく東部は引き手で千野根の首を抱き密着

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東部の裏投が豪快に決まり「一本」

続いて畳に上がるは桐蔭学園が誇る超大型選手・千野根有我。この第7試合は千野根が右、東部が左組みのケンカ四つ。冬季に比べて機動力が一段上がった千野根は丁寧な組み手と足技を駆使して、手堅く東部を圧殺。大内刈、そして膝裏に足先を入れた膝車と的確に技を積み、圧力が効いた形で1分29秒東部に「指導1」。

引き分けでも優勝が決まる状況の千野根だが、直後引き手で襟を得て思い切った右内股、しっかり戦い切ろうという覚悟が見える試合ぶり。しかし2分が近づくところで東部がいよいよ釣り手で背中の高い位置を抱えて勝負を掛けてくると思わず潰れてしまい、1分56秒千野根に偽装攻撃の「指導」。さらに東部は距離を詰めて左内股、これは千野根が逆に跳ね上げ返すが、じわじわと東部の圧が効き始めている印象あり。

2分45秒、東部が相手の腰を抱いての支釣込足、頃合い良しとばかりに一気に勝負に出る。しかし千野根はこの攻撃を予期しており、片足になった東部に対し「ハンドル投げ」の罠を張って迎撃。東部が行った、と思ったその瞬間には待ち構えていた千野根が既に最後の「決め」に出ているという早い展開、東部ひっくり返って「有効」。

残り時間は1分15秒、桐蔭学園はあと一歩で悲願の全国制覇達成。しかしビハインドを負った東部は最短距離で勝負を決めることを決意、試合が再開されるなり腰を抱いて接近し、千野根思わず内股で掛け潰れて逃れ「待て」。

偽装攻撃と取られてもおかしくないこの攻防が伏線となったか、続いて腰を抱いて来た東部に対し千野根は立ったまま内股、大外刈と仕掛けて応戦。ところがこれが命取り、東部が釣り手で腰を抱いたまま引き手を伸ばすと、その手が頭ひとつ大きい位置にある千野根の首を捉える。千野根がまずい、と感じる一間で東部呼吸を整えると裏投の大技。小外掛の形で揚げた膝が千野根の重心を浮かせる形で作用、千野根は放物線を描く勢いで真っ逆さまに畳に落ち文句なしの「一本」。日本武道館はどよめきに包まれる。

試合時間は3分24秒、東部が鮮やかな逆転勝ちで2人抜き決定。最大3人差あった桐蔭学園のリードはついに「1」まで詰まる。

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東部はこれ以上ないほど深く、柔道衣ごと湯本祥真の後帯を掴む

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そのまま抱分に身を躍らせ、「一本」

東部の大技の余韻攻めやらぬ中で開始された第8試合は東部が左、桐蔭学園の副将湯本祥真が右組みのケンカ四つ。66kg級の湯本は動き良し、反時計周りの動きをベースに釣り手を下から持って右内股、右背負投と着実に、しかも思い切って技を積む。

東部は湯本の攻撃をいったん敢えて受け入れ、1分11秒には湯本の右背負投を待ち構えて抱き留め、返しに掛かる。危機を感じた湯本がもろとも潰れこれは「待て」。

東部このあたりから前に出始めて作戦変更、これまでの後の先狙いではなく、先んじて相手を固定して体重差が効く形と投げをハッキリ志向して試合を進行。まず「ケンカ四つクロス」の左内股で湯本を振り潰すと、次の展開では釣り手を背中越しに、正中線を超える位置でガッチリ帯を握り込んで隅返。これは中途で拘束が緩み、東部が湯本の正面で潰れて「待て」。

しかし手ごたえを得た東部はこの作戦を継続。定石通り反時計周りでいなしてくる湯本の右腕を再び「ケンカ四つクロス」で捕まえると、袖を手繰って接近、釣り手を背中に回して湯本の帯を掴む。正中線を超えたその位置はほとんど横帯、樽に箍を嵌めるがごとく深く抱え込んだこの体勢に弛みも隙間も一切なし。このまま抱分に体を捨てるとまともにその体重を食った湯本はまったく逆らえず、もろとも宙を舞って凄まじい速さで畳に落ちる。勢いそのまま畳にバウンド、立ち上がった湯本が見据える先で主審の手が高々と上がりこの一撃はもちろん「一本」。

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関根聖隆の攻撃の起点は片襟、あるいは一本背負投の形に腕を抱えた左大外刈

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東部が裏投を狙えば抱かせたまま大内刈か小内刈で楔を入れ、

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前に踏ん張れば背負投に連絡して攻め続ける

試合時間2分13秒、東部ついに3人抜きを達成。双方1人ずつを抜き合い、さらに3人ずつを抜き合った激戦は大将同士による最終戦へともつれ込むこととなる。

第9試合は桐蔭学園・関根聖隆、大成・東部直希ともに左組みの相四つ。東部は釣り手で奥襟を叩きに行くが関根は手で突いてブロック、まず左一本背負投を見せると続いて左の「一本大外」の大技、さらに裏投を狙った東部に体を抱かせたまま左小内刈に連絡する。どちらが一発取ってもおかしくない激しい攻防、地鳴りのような歓声の中「待て」が掛かってこの展開は収束。経過時間は15秒。

関根は組み手厳しく両袖の左大外刈、さらに片襟の左背負投と一方的に技を積む。奮起した東部が釣り手で奥襟を叩くことに成功するが、関根は立ったまま踏ん張り左一本背負投に変換、直後の58秒東部に「指導1」。

以降も東部は前に出るものの技は散発、というよりも構造的に手数を出しやすい関根の片手の担ぎ技に手を焼きなかなか反撃に出る形自体が作れない。ならばと東部片手の左大外刈で関根を腹這いに崩すが、続く展開では関根は両手で相手を突きながら前へ。東部丁寧に対応しようとすることで陣地を下げられてしまい、押し出される形で場外へ。これを受けて1分44秒、東部に場外の「指導2」宣告。関根はついに優勝に直結する「2差」のポイントを得ることに成功。

リードを得た関根はこの時間帯こそ大事とばかりに左一本背負投、さらにいったん片襟の大外刈を晒しておいての左背負投と大技を積む。いずれもしっかり投げに出た技で、「指導」2つを積んだ前段から攻撃減速の気配はなし。

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東部が関根の一本背負投を待ち構えて裏投、関根危うく身を翻して腹這い

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東部が左払巻込、関根が残したところで終了ブザーが鳴り響

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桐蔭学園、12年ぶり2度目の高校選手権制覇成る

ならばと東部は関根の左一本背負投を待ち構えて裏投一発。関根の体が仰け反り、観客席には歓声と悲鳴が交錯するがこれは落ち際に関根が振り向き、仕掛けた東部が先に背中を着く形でブレイク。

関根以後も背負投で手数を積むが、もはや最短行動で投げを打つしかない東部は過程を飛ばして釣り手をクロスに入れ、密着を志向。関根は手を前に出して突き、突いては背負投を繰り出すことを続け、これに対応し続けさすがに疲労した東部はいったん減速。関根の左一本背負投を東部が絞技を晒しながら返そうとした3分18秒に主審が試合を止め、東部
に「指導3」を宣告することとなる。

桐蔭学園ベンチからは「(東部は)まだ死んでないよ!」と関根に激しい激励一発。その言葉通り東部が前に出始め、ここに至って関根はついに「手を前に出す」突き放しのペースが減速、明らかな守勢となる。東部を突き切れずに圧着を受け入れ、東部が釣り手をクロスに入れて大外刈を放つとその振り上げに合わせて思わず膝を屈してしまう。主審は「待て」を宣告、しかし反則宣告はなく試合は継続される。こに時点で残り時間は14秒。

再開すると東部は前へ。ここに至って関根ははっきりクロージングに舵を切り、手を出したまま距離を取って東部の周囲を後重心で旋回。息の上がった東部はこれを追い切れないが、主審残り8秒で試合を止めて関根に「取り組まない」咎による「指導1」を宣告。

東部再開と同時に前進、釣り手で奥襟を掴むと大外刈から左払巻込に連絡して体を捨てる。関根の体が浮き上がり場内どよめくが、東部は後に左脚を大きく張った関根の体を捕まえきれず、関根が腹這いに落ちてノーポイント。同時に終了ブザーが鳴り響いて、ついに熱戦決着。この試合は僅差の優勢で関根が勝利し、同時に桐蔭学園高が12年ぶり2度目の高校選手権王者の座を獲得した。

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優勝決定直後、選手たちを称える桐蔭学園高・高松正裕監

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大成高・石田輝也監督は笑顔で東部の健闘をねぎらう

桐蔭学園高○一人残△大成高
(先)賀持喜道○優勢[有効・内股]△三輪魁星(先)
(先)賀持喜道△内股(2:00)○藤鷹裕大(次)
(次)村尾三四郎○大外刈(1:37)△藤鷹裕大(次)
(次)村尾三四郎○大内刈(2:06)△大西陸斗(中)
(次)村尾三四郎○[技有・大外刈]△弓削凛月(副)
(次)村尾三四郎△合技[払巻込・払巻込](1:22)○東部直希(大)
(中)千野根有我△裏投(3:24)○東部直希(大)
(副)湯本祥真△抱分(2:13)○東部直希(大)
(大)関根聖隆○優勢[僅差]△東部直希(大)

東部の技に関根が倒れ込み、同時に終了ブザーが鳴った直後日本武道館に巻き起こった大きく、そして長い拍手がこの試合を何より雄弁に物語る。9試合を戦い抜いて引き分けはただの1試合もなし。抜いて抜かれて、互いが譲らず攻め合い、投げ合った大会史上に残る素晴らしい決勝戦だった。特にこの日だけで11試合、大会通算15試合を戦い抜いた東部の働きはまさしく賞賛に値する。勝ったのは桐蔭学園だが、大会MVPとして記憶されるべきは間違いなく大成のエース・東部直希だろう。その取り味はもちろん、特筆すべきはその肉体と精神のスタミナ。大成高・石田輝也監督は戦前のインタビューで「そこは譲れない」と大前提としての稽古の「量」に対するポリシーを語っていたが、その錬磨のほどが垣間見える凄まじい働きぶりだった。

そしてこの日大車輪の活躍を見せた桐蔭学園・関根聖隆の奮闘も素晴らしかった。後の先の技で強豪を抜きまくった東部に待ちかまえられてもなお「一本大外」の大技の鉈を振るい続ける姿には鬼気迫るものがあった。3人を抜き去った1年生村尾三四郎の強さはもちろん賞賛されるべきだが、一種才能と能力を適正に発揮したという体の怪物・村尾に比して、心と体のリソースを絞り尽くすようにして戦った関根と東部の戦いぶりはそれを一段超える迫力があった。いずれもチームの大黒柱として戦い抜いた総試合数は関根が2日で9戦、東部は実に14戦。武道館に鳴り響いた大拍手は、その敢闘精神と畳にかじりつくような勝利への執念それ自体に与えられたものではないだろうか。シーズン開幕前に人材不足と評された2年生世代だが、圧倒的な才能ではなくその「闘う姿勢」自体で観客を熱狂させたこの2人の戦いぶりは、一種この世代らしい、そして高校生らしい素晴らしい到達点として大会史上に刻まれるべきであろう。

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関根聖隆の手に優勝杯が、湯本祥真の手に大優勝旗が握られる

優勝した桐蔭学園、武道館に至るまでの戦いぶりに比すれば、この全国大会は初戦から苦戦続きであった。その中にあって1人図太い戦いを続け、チームに安心感と具体的な得点を与え続けた関根の働きはやはり大きい。前評判の高いチームが全国大会で意外なほど「うまく行かない」試合を繰り広げ、疑心暗鬼から失速していく様は高校柔道ではむしろ頻発する現象だが、その際勝利の条件となるのは、それでも図抜けて力を発揮する大黒柱が存在するかどうか。東海大浦安高の初優勝(2012年)時、それまでの道のりと打って変わって意外なほどに大人しくなった「悪ガキ」の仲間たちをよそに一人大活躍を見せたベイカー茉秋が端的な例である。関根の存在は、このロールにぴたりと嵌った。

「全国大会の疑心暗鬼」を克服するもう1つの条件は、そこで指揮官が嘘をつかないこと。高松正裕監督は状況に蓋をせず「全国大会はこういうものだから」と選手に現状を認識させ、常に次の戦いの目当てを現実的に語って「最後に勝っていればいい」とチームを鼓舞し続けた。「前日に『いけるっしょ』と言っていた村尾や千野根はまだ若い。体で食らわないとわからないものもあるから、そこからが勝負でした」と淡々と語る様には、栄光も辛酸も経験し尽くした高松監督の競技者としての経験値の高さがにじみ出ていた。

そしてもう1つ。高松監督の言葉を受け止め、試合の中で成長する力が選手に備わっていたことが実は非常に大きいのではないだろうか。桐蔭学園は今代のスタート時、決して圧倒的な優勝候補ではなかった。「成長する力」と速度が他校よりひとつ抜きんでていたことにより半年を経て第1シード評価に辿り着くに至ったと観察するが、今大会においても潜在能力はともかくとして、スタート時における真正の競技力は実はそこまで圧倒的なものではなかったのではないだろうか。苦戦は実は妥当なものだったと見る。その中にあっても、受け入れ、立て直し、決勝で1年生3人がそれぞれ得点を挙げる(千野根は逆転を食らったが)ところまでメンタルが持ち上がる、この「成長する力」、前を見るチームの性格の発揮こそを優勝の最大の要因と考えたい。過去の経験値や成功体験に捕らわれて己を見失うようなチームであれば、少なくとも準々決勝の長崎日大戦で武道館を去ることになっていたのではないだろうか。10月以来桐蔭学園の試合を数多く観察して来たが、勝ちぶりはともかくもっとも「強い」試合はこの大会の後半戦であった。勝ち方を仕込まれた単なる自動装置ではない、個性豊かな今代桐蔭学園チームらしい登攀路と、到達点であったと評したい。

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胴上げで宙を舞う高松監督

最後に今大会の総括と、今後の高校柔道界の展望を簡単に述べたい。

特筆すべきトピックとして九州勢の活躍を挙げておく。ベスト4入りした延岡学園高を筆頭に、長崎日大高、国東高と3校がベスト8に入った。それぞれに羽田野竜輝、山口貴也、中島大貴と明確なエースがおり、しかも皆柔道の質が良く伸びしろ豊かだ。昨年まで九州の顔として活躍した大牟田高も骨太、かつこれから迎え入れる新1年生に有望株が揃っており、今後その高い育成力をテコに相当なレベルまでチームを鍛え上げて来るのではないかと思われる。となれば、今年の金鷲旗大会はファン待望の「九州勢上位揃い踏み」が期待出来るのでないだろうか。桐蔭学園、大成、崇徳の3強に挑む九州連合軍という絵は九州人ならずとも胸が高鳴るものがある。ぜひ九州勢各校には一層の奮起と錬磨を期待したい。

対照的に、昨年まで猛威を振るった東京勢の凋落もひとつ挙げておくべきだろう。第3代表・日体荏原高のベスト8入りという健闘があり、また斉藤立という柱になり得る選手を獲得する国士舘の復権が期待される状況ではあるが、大枠での「有力選手の地方分散」という中学世代で進行する構図が、先んじて具体的な成績として表出した大会であったと言えるのではないだろうか。

そして、先ほど九州勢を評す際に使った「伸びしろ」という言葉で敢えて切るとすれば。実は柔道の質からして、もっとも伸びしろを孕むのは優勝した桐蔭学園でないかと思われる。全国優勝という成果を得てただでさえ一段次元が上がるチームが、タレント揃いで、しかも伸びしろ豊か。ここで走らせてしまうと、村尾や賀持が最上級生となる来年度は手のつけられないチームに成長する可能性がある。ここは他校の奮起に大いに期待したいところ。

大混戦大会は、史上稀に見る熱戦となった決勝で大締め。大会参加選手すべての健闘を称えて、第39回大会男子団体戦のレポートを終えたい。

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優勝の桐蔭学園高

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準優勝の大成高

【入賞者】

優 勝:桐蔭学園高(神奈川)
準優勝:大成高(愛知)
第三位:延岡学園高(宮崎)、崇徳高(広島)
第五位:長崎日大高(長崎)、国東高(大分)、東海大仰星高(大阪)、日体荏原高(東京)

最優秀選手:関根聖隆(桐蔭学園高)
優秀選手:村尾三四郎(桐蔭学園高)、東部直希(大成高)、羽田野竜輝(延岡学園高)、神垣和也(崇徳高)

桐蔭学園高・高松正裕監督のコメント
「初戦から厳しい戦いが続きましたが、主将の関根を中心に生徒が本当によく頑張ってくれました。選手の時よりも何倍も嬉しいです。(-だいぶ疲れた様子ですね?)全国大会で優勝するというのは甘くないなと痛感した大会でした。ずっと苦戦続き、特に初戦はかなり雲行きが怪しい出だしでした。そのままにしておいたら私も生徒も良くない。苦しい状況を言葉にして、しっかり話をし続けました。(-初戦を終えてなんと話したのですか?)村尾や千野根には『こんなものだから』『ここからがきついよ』と。ただ、最初がきつかったのでその分引き締まったところもあるし『最後に勝ってればいいんだから』という感じですね。この2人の1年生は昨日『いけるっしょ』と言ってるくらいだったのですがまだやはり若い(笑)。苦労して、体で食らって初めてわかることもあるので、そこからが勝負。もう1回チーム一丸になってやろうと話し合いました。関根がメンタル面の話を選手に直接してくれて、円陣を組んで、そのリーダーシップは頼もしかったですね。ただ、関根は昨日の個人戦でかなり疲れていて、朝起きたら膝は痛いし指は腫れてるしのっけに『東部とやれる状態じゃない』とか言い出して(笑)、そこからのスタートでしたからなかなか大変な一日でした。(-関根選手について?)畳の中では本当に信頼しています。昔から決勝に弱いところがあって、昨日はそれが出てしまったと思うのですが、ようやくやりきったなと思います。決勝の大将戦は良い試合でした。(-監督として初の全国制覇についてもう少し?)最初の年に強いチームを預かって3位、以降3年間なかなか結果が出なくて、そんな中で今回非常に良いメンバーが『揃っちゃった』。そろそろ監督としてしっかりやらないとという危機感もありましたし、特に県大会は凄まじい緊張。今日の10倍くらいは緊張していました。(-今後のチームについて?)優勝を目指し、苦労してたどりついて、こうすれば勝てるというラインが見えた大会だったと思います。それをチームにしっかり伝えてやっていきたい。まずは金鷲旗で、勝ちます」

大成高・石田輝也監督のコメント
「今日は東部さまさま。それに尽きます。ただ1人ではやっぱり難しかった。他の選手もかなり強くなっているのですが、もう少し東部に負担を掛けない試合が出来るようにならないと。(-初戦が大苦戦でしたね?)『甘くないだろ?』と話すところからでしたね。今後はまず周囲の底上げ、プラス東部をもう一段レベルアップすることです。チームを一段大きくして、全国大会に帰ってきます。(-なかなか初優勝に届きませんね?)良いチームが出来た時も、詰めがまだまだ甘いし、抜き勝負、点取りと試合形式に応じた戦い方がまだ染みていない、勝たせてあげることが出来ないのはそこに尽きます。ただ、短所を潰して柔道を小さくするのではなく、良いところを伸ばすという方針は変えません。夏に、もう1回チャレンジします」


文責:古田英毅
Text by Hideki Furuta

※ eJudoメルマガ版4月7日掲載記事より転載・編集しています。

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