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グランドスラム・バクー第1日5階級レポート

(2017年3月14日)

※ eJudoメルマガ版3月14日掲載記事より転載・編集しています。
第1日5階級(男子60kg級、66kg級、女子48kg級、52kg級、57kg級)レポート
グランドスラム・バクー
■ 60kg級・「握り」の巧さ駆使して志々目徹がトーナメント席捲、復活気配漂う圧勝V
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60kg級決勝、志々目徹がムフリディン・ティロヴォフからピストルグリップでの左内股で「技有」を獲得

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この日の志々目は全試合で袖口グリップを多用、試合を優位に進める

(エントリー14名)

【入賞者】
1.SHISHIME, Toru (JPN)
2.TILOVOV, Mukhriddin (UZB)
3.SAFAROV, Orkhan (AZE)
3.GERCHEV, Yanislav (BUL)
5.TAKABATAKE, Eric (BRA)
5.KYRGYZBAYEV, Gusman (KAZ)
7.SAGYNBAI UULU, Baiaman (KGZ)
7.DASHDAVAA, Amartuvshin (MGL)

志々目徹(了徳寺学園職)が素晴らしい内容で優勝を達成。ライバルと目されていた有力選手がことごとく敗れるなか、一人無人の野をゆくが如く抜群の安定感を発揮しての勝利だった。

今大会において志々目が表彰台の頂点への登攀を果たした要因をふたつ挙げてみたい。

ひとつ目は密着してくる相手への対処の巧さ。冬季欧州シリーズをご覧になった方ならば既にご存知と思うが、グランドスラム・パリ大会とグランプリ・デュッセルドルフ大会では技の威力を武器とする日本勢が密着志向の海外勢に持ち味である技の切れを塗りつぶされて敗れる場面が頻出した。対処の方法は選手によって異なるだろうが、志々目が選択したのは肩関節の柔らかさを生かして巧みに抱き込まれた肩を抜く高度な技術。今大会において志々目は技を警戒して密着してくるケンカ四つの中央アジア勢と連戦したが、いずれの試合でもこの技術を発揮して常に優位に立ち続けた。これが攻撃機会の増加に繋がり、今大会では先に「指導」を得て相手を追い込む場面も多く見られた。

ふたつ目は新ルールに対する素早い順応。1月から運用されている新ルールでは旧ルールに比べて許される組み手の幅が大きく広がり、これに噛み合った選手が好成績を残す例が多く見られている。志々目のような一発の切れ味で勝負するタイプには少々縁遠いように思われるが、志々目はピストルグリップとポケットグリップを巧みに駆使することで、警戒されて引き手をなかなか得られないという長年の課題を克服。加えて引き手の把持力が上がったことによって技の威力自体も強化された。これが最もよく発揮されたのが相手を2度左内股で投げた決勝のティロヴォフ戦で、1度目は引き手をピストルグリップ、2度目はポケットグリップに握り込んで技を仕掛けていた。試合運びは依然一種鷹揚でかねてより弱点とされて来た攻めの遅さが解消されたわけではないが、「指導」による本戦での決着が廃されたことでこの弱点はスコア上極小化。新ルールによって志々目の競技力は単純強化されたと解釈できるだろう。誰もが認める技一発の切れ味を持ちながら、組み手と手数で試合を塗りつぶされて形上の敗北を喫することが多かった志々目、しかしこの志々目の特性は法則通りに「一発投げがあれば勝てる」新ルールに噛み合う。今大会で対戦したのは格下の相手ばかりだったが、以降の躍進を予感させる素晴らしい優勝劇だった。

決勝ラウンドの結果、および決勝と日本選手全試合の戦評は下記。

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③60kg級上位入賞者。左からティロヴォフ、志々目、サファロフ、ゲルチェフ。

【敗者復活戦】
オルハン・サファロフ(アゼルバイジャン)○優勢[技有・大外刈]△バイアマン・サギンバイ=ウール(キルギスタン)
ヤニスラフ・ゲルチェフ(ブルガリア)○GS指導2(GS1:07)△ダシュダヴァー・アマーツヴシン(モンゴル)

【準決勝】
志々目徹○反則(3:47)△グスマン・キルギズバエフ(カザフスタン)
※いわゆる「ブリッジ反則負け」
ムフリディン・ティロヴォフ(ウズベキスタン)○GS反則[指導3](GS2:21)△エリック・タカバタケ(ブラジル)

【3位決定戦】
オルハン・サファロフ(アゼルバイジャン)○崩袈裟固(3:40)△エリック・タカバタケ(ブラジル)
ヤニスラフ・ゲルチェフ(ブルガリア)○GS裏投(GS1:06)△グスマン・キルギズバエフ(カザフスタン)

【決勝】
志々目徹○優勢[技有・内股]△ムフリディン・ティロヴォフ(ウズベキスタン)
志々目が左、ティロヴォフが右組みのケンカ四つ。ティロヴォフは背中を叩いて密着を狙うが、志々目は釣り手のコントロール巧みにこれを脱して自分の形を作りだす。27秒、志々目の引き手を嫌ったティロヴォフに1つ目の「指導」。ここからティロヴォフは自身の釣り手で志々目の釣り手を絞る変則の組み手を開始。これによって膠着が生まれ1分34秒には両者に「指導」、この段階で早くも2つの「指導」を失ったティロヴォフは「指導2」後がなくなる。2分30秒、志々目はピストルグリップの形で引き手を確保、抱き込まれていた釣り手を抜いて左内股に飛び込む。相手を腰に乗せ、乗り越えるようにして投げると主審は「技有」を宣告。さらに残り30秒にも志々目は引き手をポケットグリップに持った左内股巻込で「技有」を追加、以降はティロヴォフの追撃をしっかりと収めて試合終了。ルールへの適応力の高さと巧みな釣り手さばき、素晴らしい柔道を披露した志々目が久々の優勝を果たした。

【日本代表選手勝ち上がり】

志々目徹(了徳寺学園職)
成績:優勝


[1回戦]
志々目徹○GS反則[指導3](GS0:36)△メフマン・サディゴフ(アゼルバイジャン)
左相四つ。両者奥襟を持ち合い横変形に構えて試合を進める。志々目は大枠で優位に立つものの、サディゴフの長い手足に間合いを狂わされ投げ切ることができない。1分10秒、志々目が左大外刈を仕掛けたところで主審はサディゴフに1つ目の「指導」を宣告。さらに3分6秒にはサディゴフの仕掛けた巴投に対して偽装攻撃の咎で2つ目の「指導」を追加する。残り30秒、志々目は引き手で相手の腰を深く抱き右方向への「やぐら投げ」に打って出る。相手を腰上まで抱え上げることに成功して場内大いに沸くが、釣り手が離れたため腹ばいで逃れられてしまいノーポイント。以降大きな動きがないまま試合はGSの延長戦へと突入する。延長戦が始まると志々目はペースを上げて先手攻撃により優位を確保。これを受けて主審はGS36秒にサディゴフに対して勝負を決する3つ目の「指導」を与える。技によるポイントこそなかったものの、大枠危なげなし。志々目が順当に初戦を突破した。

[準々決勝]
志々目徹○優勢[技有・隅落]△バイアマン・サギンバイ=ウール(キルギスタン)
志々目が左、サギンバイ=ウールが右組みのケンカ四つ。志々目は開始直後の22秒に強烈な左内股巻を放ち、ポイントこそ得られなかったものの、試合の空気を一気に自分のものにしてしまう。以後志々目の左内股を警戒したサギンバイ=ウールは背中を持って密着を試みるが、志々目は巧みに釣り手を抜いて技に入れる間合いを作り出し、常に優位。1分30秒、志々目は左大外刈で相手を崩すと押し込みながらめくり返して隅落「技有」を獲得。2分4秒には組み合わない咎で相手に1つ目の「指導」が宣告されてもはや試合は一方的。さらに2分24秒、志々目は左内股で相手を高々と回し投げて「技有」を追加し縦横無尽。残り27秒には2つ目の「指導」を奪ってそのまま試合終了。マイペースに大技を叩き込む、いかにも志々目らしい戦いぶりで準決勝進出決定。

[準決勝]
志々目徹○反則(3:47)△グスマン・キルギズバエフ(カザフスタン)
※いわゆる「ブリッジ反則負け」
志々目が左、キルギズバエフが右組みのケンカ四つ。キルギズバエフは背中を抱いて密着を狙うが、この試合でも志々目は釣り手のコントロール巧みに肩を抜いて自分の間合いを作り出す。35秒、志々目は前述の形で肩を抜くとすかさず左内股に飛び込み、相手をねじるように投げ切って「技有」を獲得。2分5秒にも同様の左内股で相手を大きく崩し、主審はキルギズバエフに「指導」を宣告。志々目はもはや勝負を決めるだけという情勢だが、直後の2分22秒にキルギズバエフに「サリハニ」の形で場外に押し出されてしまい、故意に場外に出た咎で「指導」を失陥。勢いを殺される形となり、このまま試合は最終盤まで進行する。残り15秒、志々目が左内股巻込を放つとキルギズバエフは顔面から畳に着地、確認の結果これが危険な回避と見なされ、主審がダイレクト反則負けを宣告することとなる。意外な形の決着で志々目の決勝進出が決まった。

[決勝]
志々目徹○優勢[技有・内股]△ムフリディン・ティロヴォフ(ウズベキスタン)

※前述のため戦評省略

■ 66kg級・髙上智史が奮戦も決勝で苦杯、タル・フリッカーがワールドツアー初優勝を飾る
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66kg級決勝、髙上智史がタル・フリッカーを右背負投で攻める

(エントリー16名)

【入賞者】
1.FLICKER, Tal (ISR)
2.TAKAJO, Tomofumi (JPN)
3.GIUNASHVILI, Lasha (GEO)
3.SHMAILOV, Baruch (ISR)
5.VIERU, Denis (MDA)
5.SHIKHALIZADA, Nijat (AZE)
7.GANBOLD, Kherlen (MGL)
7.KHOJASTEH, Alireza (IRI)

タル・フリッカー(イスラエル)が決勝で髙上智史(旭化成)を破って優勝。フリッカーにとっては初となるワールドツアーのタイトル獲得を果たした。中堅選手のフリッカーは決して地力が高いタイプではないが、今大会では不戦勝も含めてツアー常連選手との対戦が一度もないまま決勝へと進出。準決勝までの難敵との対戦で消耗していた髙上を「指導2」(GS0:49)で下して表彰台の頂点に立った。

組み合わせに恵まれたことはもちろんだが、フリッカー勝利の因をほかに求めるとまたしても新ルールへとたどり着く。戦術派のフリッカーはいち早く新ルールに対応しており、グランプリ・デュッセルドルフ大会では袖口グリップを駆使してトップ選手の一人であるダヴァドルジ・ツムルフレグ(モンゴル)を撃破。今大会の決勝でも長いリーチを生かして先に袖口を握り、髙上にほとんど自分の間合いを与えなかった。ダヴァドルジや髙上のような実力者がフリッカーにここまで戦力差を埋められてしまうことには、袖口グリップによって得られるアドバンテージの大きさを思い知らされずにはいられない。自身が使用するかどうかに関わらず、新ルールで解禁された「握り」への対応の重要性を思い知らされるフリッカーの優勝であった。

髙上は前述のとおり決勝でフリッカーに苦杯を喫して2位。1回戦から動きが悪く本調子とは言えない出来だった。さらにガンボルド・ケーレン(モンゴル)、ニジャト・シハリザダ(アゼルバイジャン)と曲者と連戦しなければならない厳しい位置に配されており、決勝に進出した時点でその消耗は既に相当なもの。一貫して非常に苦しい1日であった。ただし、2位という結果を残したことや準決勝で難敵シハリザダを破ったことを考えれば、評価を大きく落としたわけではないはず。トップを走る阿部一二三に追い付くことはさすがに難しいが、以後の国際大会派遣を目指して選抜体重別に望みを繋げることには成功したと見ておきたい。

決勝ラウンドの結果、および決勝と日本選手全試合の戦評は下記。

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66kg級上位入賞者。左から髙上、フリッカー、グイナシヴィリ、シュマイロフ。

【敗者復活戦】
ラシャ・ギウナシヴィリ(ジョージア)○優勢[技有・浮腰]△ガンボルド・ケーレン(モンゴル)
バルク・シュマイロフ(イスラエル)○不戦△アリレザ・ホジャステー(イラン)

【準決勝】
髙上智史○GS小内刈(GS0:55)△ニジャト・シハリザダ(アゼルバイジャン)
タル・フリッカー(イスラエル)○縦四方固(2:23)△デニス・ヴィエル(モルドバ)

【3位決定戦】
ラシャ・ギウナシヴィリ(ジョージア)○優勢[技有・大内刈]△デニス・ヴィエル(モルドバ)
バルク・シュマイロフ(イスラエル)○優勢[技有・浮落]△ニジャト・シハリザダ(アゼルバイジャン)

【決勝】
タル・フリッカー(イスラエル)○GS指導2(GS0:49)△髙上智史
髙上が右、フリッカーが左組みのケンカ四つ。試合前半はお互いに背負投と肩車を掛け合う積極的な攻防が行われる。お互いにポイントを得られないまま試合が進行し、髙上が右背負投を放った直後の2分16秒にフリッカーのみに「指導」が与えられる。残り11秒で肩車で掛け潰れた髙上に「指導」が与えられたが、ほとんど前半と展開が変わらないまま本戦が終了。両者が「指導」1つずつを取り合った状態で試合はGSの延長戦へと持ち越される。延長戦に入ると髙上は得意の右背負投でラッシュを掛けるが、技の入りが浅く相手を崩すのみに留まる。どうやら髙上は準決勝のシハリザダ戦で相当消耗している様子。GS45秒、髙上はフリッカーの奥襟確保に合わせて巴投を仕掛けるが、腕の力が残されておらず引き込むような形になってしまう。これに対して主審は偽装攻撃の咎による「指導」を宣告し、髙上の敗戦が決定。ここまで難敵との連戦を勝ち抜いてきた髙上だが、最後でその疲れが出てしまい惜しくも優勝には手が届かなかった。

【日本代表選手勝ち上がり】

髙上智史(旭化成)
成績:2位


[1回戦]
髙上智史○反則[指導3](3:00)△ガッセム・ヌリザデ(イラン)
髙上が右、ヌリザデが左組みのケンカ四つ。ヌリザデは髙上の組み手を嫌って組み合おうとせず、53秒と1分39秒にヌリザデに2つの「指導」が与えられる。あとのなくなったヌリザデはここから密着柔道を開始、背中を抱いて前に出始め、2分13秒にこの形を嫌った髙上に「指導」。相手が組み合うようになったことで髙上にも投げのチャンスが生まれるが、今一つ煮え切らず要所で右背負投を打ちながら投げ切れないまま試合を流してしまう。結局、3分ちょうどに守勢であったヌリザデに3つ目の「指導」が与えられて試合終了。髙上は慎重な戦いぶりで「指導3」を奪い初戦突破、危なげない試合ではあったが、次戦以降難敵と連戦することを考えれば投げて決めておきたい試合であった。

[準々決勝]
髙上智史○横四方固(3:42)△ガンボルド・ケーレン(モンゴル)
右相四つ。髙上が一方的に右背負投や右方向への肩車で攻め続け、1分10秒にガンボルドに「指導」が与えられる。展開上のリードを得た髙上だが、直後の1分21秒に組み手の選択を誤り自ら畳に伏せてしまい「指導」を失陥。あっという間にスコアはタイに戻る。1分ほどの膠着を経た2分33秒、ガンボルドが奥襟を得ると髙上はすかさず右小内巻込に飛び込み、膝で相手の踵をとらえて「技有」を奪取。リードを許したガンボルドは追い付こうと前に出るが、残り33秒に髙上は狙いすました右背負投で2つ目の「技有」を追加する。そのまま寝技に移行して横四方固で抑え込むと、10秒経過したところでガンボルドが「参った」を表明。髙上がガンボルドを2度投げつける快勝で準決勝進出を決めた。

[準決勝]
髙上智史○GS小内刈(GS0:55)△ニジャト・シハリザダ(アゼルバイジャン)
髙上が右、シハリザダが左組みのケンカ四つ。髙上が二本持って右背負投を狙い、シハリザダが片手からの捨身技を狙うという構図で試合が進行する。1分すぎにシハリザダが巴投で伏せると髙上は寝技を狙い、一度は崩袈裟固で抑え込むがすぐに逃してしまう。危うく取られかけたことでシハリザダは警戒を強め、ここからは得意とする泥臭い粘戦を志向。髙上はこれに嵌ってしまい、両袖で攻められた2分40秒に1つ目の「指導」を失う。残り40秒、髙上は右背負投でシハリザダを逆に落として転がすように投げる。ポイントが想起される一撃だったが、この際足を触ったと判断されて髙上に2つ目の「指導」が追加されてしまう。曲者シハリザダを相手に本戦終了目前で「指導2」を失う厳しい展開となったが、髙上はあくまで落ち着いて試合を継続、延長戦に入ると少しづつ髙上の圧が効き始め、GS31秒にはシハリザダに1つ目の「指導」が与えられる。この時点ですでにシハリザダは陥落寸前といった様子。GS55秒、髙上は相手が背中を抱いてきたタイミングで切れ味鋭い右小内刈に飛び込み、背中からシハリザダを畳に叩き落として「一本」を獲得。組み合って投げを狙うことで苦しい展開を打開する、非常に髙上らしい試合であり、本戦での「指導」決着を廃止した新ルールが生み出した素晴らしい決着であった。

[決勝]
髙上智史△GS指導2(GS0:49)○タル・フリッカー(イスラエル)

※前述のため戦評省略

■ 48kg級・ブラジルから出場の小山亜利沙がワールドツアー初参戦、素晴らしい出来で優勝飾る
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48kg級決勝、小山亜利沙がミリカ・ニコリッチから左小外掛「技有」を奪う

(エントリー11名)

【入賞者】
1.KOYAMA, Stefannie Arissa (BRA)
2.NIKOLIC, Milica (SRB)
3.MINSKER, Noa (ISR)
3.RISHONY, Shira (ISR)
5.CESAR, Taciana (GBS)
5.CHERNIAK, Maryna (UKR)
7.ALIYEVA, Leyla (AZE)
7.POP, Alexandra (ROU)

ブラジルから出場した帝京大3年の小山亜利沙(アリサ=ステファニー・コヤマ)が、強豪3人を連続で破る素晴らしい内容で、ワールドツアー初出場にして初優勝を果たした。小山は1回戦こそ無名選手のアイシャ・グルバヌリ(アゼルバイジャン)にわずか7秒で「一本」級の右小外掛「技有」を奪われる厳しい立ち上がりだったが、この試合を横四方固「一本」(1:54)の逆転で勝ち抜くと以降はワールドツアー上位の強豪を連続撃破。準々決勝ではマリーナ・チェルニアク(ウクライナ)を豪快な左背負投「一本」(2:38)、準決勝ではタシアナ・セザル(ギニアビサウ)を右袖釣込腰「技有」からの崩上四方固「一本」(3:19)でそれぞれ下して決勝進出。迎えた決勝の相手は近頃上り調子の若手パワーファイター、ミリカ・ニコリッチ(セルビア)。21歳の小山と22歳のニコリッチという若い2人による対決となった。小山は序盤こそ相手のパワーに押されてしまい守勢に回ったが、2分すぎに組み際の左小外掛で「技有」を得て以降は試合の主導権を完全に掌握、終盤にも同様の左小外刈で2つ目の「技有」を追加して優勝を飾った。これまでワールドツアー出場の機会がなかった小山だが、今大会の優勝によって国際大会における適性の高さと強さを示して存在感大いにアップ。

小山は国内においては近藤亜美(三井住友海上)や大学の同期でもある渡名喜風南(帝京大3年)と同学年のライバルとして長年にわたってしのぎを削ってきた。最近はこの両者に水を開けられていたが、ブラジルからの出場という選択肢を選んだことで一気にこの先の展望が拓けた形だ。現在ブラジルの48kg級はロンドン五輪金メダリストのサラ・メネゼス(ブラジル)が52kg級に階級を上げたことにより、ナサリア・ブリヒダ(ブラジル)やガブリエラ・チバナ(ブラジル)がいるものの、実質的な空白地帯となっている。今大会のパフォーマンスを見る限り、小山がブラジルの1番手として以降のハイレベル大会に派遣される可能性は非常に高い。国内カテゴリの空気感で戦わなければならない日本勢にとっては厄介な相手だが、柔道ファンとしては小学生時代からのライバルである近藤や、大学の同期である渡名喜との大舞台での対戦に大いに期待したいところだ。

決勝ラウンドの結果、および決勝の戦評は下記。

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48kg級上位入賞者。左からニコリッチ、小山、ミンスカー、リショニー。

【敗者復活戦】
ノア・ミンスカー(イスラエル)○GS(GS0:32)△レイラ・アリエワ(アゼルバイジャン)
マリーナ・チェルニアク(ウクライナ)○GS反則[指導3](GS0:52)△アレクサンドラ・ポップ(ルーマニア)

【準決勝】
ミリカ・ニコリッチ(セルビア)○優勢[技有・袖釣込腰]△シラ・リショニー(イスラエル)
アリサ=ステファニー・コヤマ(ブラジル)○崩上四方固(3:37)△タシアナ・セザル(ギニアビサウ)

【3位決定戦】
ノア・ミンスカー(イスラエル)○優勢[技有・背負投]△タシアナ・セザル(ギニアビサウ)
シラ・リショニー(イスラエル)○反則(2:39)△マリーナ・チェルニアク(ウクライナ)
※関節を極めて相手を投げたことによる「反則負け」

【決勝】
アリサ=ステファニー・コヤマ(ブラジル)○[技有・小外掛]△ミリカ・ニコリッチ(セルビア)
小山が左、ニコリッチが右組みのケンカ四つ。序盤はニコリッチが背中を叩いて強引な右内股を連発し、小山が脇を差してこれを凌ぐという構図で試合が進行。59秒にニコリッチが右袖釣込腰を仕掛けると主審は小山に「指導」を与える。2分15秒、ニコリッチが奥襟を得た瞬間に小山がタイミングよく左小外掛、密着していたニコリッチは堪らず背中から倒れ落ちて主審は「技有」を宣告する。ここからは小山が担ぎ技を連発して攻勢を維持、3分8秒にはニコリッチの右内股の入り際に再度左小外掛を合わせて2つ目の「技有」を追加する。小山はこれ以降も攻勢を維持したままニコリッチの追撃を振り切って試合終了。ワールドツアー初出場の小山が見事優勝を果たした。

※日本代表選手の出場はなし

■ 52kg級・アレクサンドラ=ラリサ・フロリアンがワールドツアー初優勝
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52kg級決勝、アレクサンドラ=ラリサ・フロリアンがレカ・プップを出足払で伏せさせる

(エントリー13名)

【入賞者】
1.FLORIAN, Alexandra-Larisa (ROU)
2.PUPP, Reka (HUN)
3.STANGAR, Anja (SLO)
3.VAN SNICK, Charline (BEL)
5.MENEZES, Sarah (BRA)
5.COHEN, Gili (ISR)
7.MAMMADALIYEVA, Gultaj (AZE)
7.PIENKOWSKA, Karolina (POL)

アレクサンドラ=ラリサ・フロリアン(ルーマニア)が念願のツアー初優勝を達成した。第2シードのフロリアンは準々決勝から登場すると、準々決勝でシャーリン・ファンスニック(ベルギー)を「指導3」(GS1:05)、準決勝でサラ・メネゼス(ブラジル)を「指導3」(2:43)でそれぞれ撃破。48kg級から階級を上げたばかりの強豪2人をいずれも長いリーチを生かした組み手で完封して決勝進出を決めた。

決勝の相手は反対側のプールABをノーシードから勝ち上がってきたレカ・プップ(ハンガリー)。48kg級に続いて21歳のフロリアンと20歳のプップという若い2人による決勝となった。この試合は開始直後の9秒にフロリアンが左内股で奪った「技有」がそのまま決勝点となり決着。先月行われたグランプリ・デュッセルドルフ大会で素晴らしいパフォーマンスを見せたフロリアンが好調を維持して見事優勝を飾った。

フロリアンの柔道スタイルはルール変更の前後で全く変わっておらず、奥襟を得て圧を掛けながら得意の左内股を狙うというオーソドックスなもの。試合を見る限りそれほど変則組み手を多用している印象はなく、今年に入ってからの躍進の因は単純に地力がついてきたからと考えて良いだろう。一方敗れたプップは今年に入って48kg級から階級を上げてきた選手で、今大会ではワールドツアーベスト8の常連であるギリ・コーヘン(イスラエル)と準決勝で対戦、横四方固「一本」(2:46)で破っている。どちらも荒削りながら今後階級の中心選手に育っていく可能性があり、継続して観察する必要がありそうだ。

決勝ラウンドの結果、および決勝の戦評は下記。

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52kg級上位入賞者。左からプップ、フロリアン、スタンガル、ファンスニック。

【敗者復活戦】
アニャ・スタンガル(スロベニア)○崩袈裟固(1:56)△グルタイ・ママダリエワ(アゼルバイジャン)
シャーリン・ファンスニック(ベルギー)○片手絞(3:01)△カロリーナ・ピンコヴスカ(ポーランド)

【準決勝】
レカ・プップ(ハンガリー)○横四方固(2:46)△ギリ・コーヘン(イスラエル)
アレクサンドラ=ラリサ・フロリアン(ルーマニア)○反則[指導3](2:43)△サラ・メネゼス(ブラジル)

【3位決定戦】
アニャ・スタンガル(スロベニア)○優勢[技有・背負投]△サラ・メネゼス(ブラジル)
シャーリン・ファンスニック(ベルギー)○腕挫十字固(2:30)△ギリ・コーヘン(イスラエル)

【決勝】
アレクサンドラ=ラリサ・フロリアン(ルーマニア)○優勢[技有・内股]△レカ・プップ(ハンガリー)
フロリアンが左、プップが右組みのケンカ四つ。試合が始まるなりフロリアンは場外際で強烈な左内股を放ち、わずか9秒で「一本」級の「技有」を獲得する。早々にリードを奪われたプップは色をなして追い上げに掛かるが、フロリアンは長いリーチを生かして距離を取り、相手を技の掛かる間合いに入らせない。57秒、主審はプップの攻勢を認めてフロリアンに1つ目の「指導」を与える。これ以降もプップの追撃をフロリアンが凌ぐ展開が続き、3分7秒には釣り手のみの攻防を行っていた両者に対して組み合わない咎で「指導」が宣告される。「技有」リードのフロリアンは同時に「指導2」を失って後がなくなるが、先に左内股を仕掛けることで攻撃の意思を示して予防線を張り、要所でカウンターを狙うことで試合を流してタイムアップ。フロリアンが開始早々に奪った「技有」を守りきってワールドツアー初優勝を果たした。

※日本代表選手の出場はなし

■ 57kg級・コマツ所属のレン・チェンリンがヨワナ・ロギッチとの決勝を制してグランドスラム初優勝
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57kg級決勝、レン・チェンリンがヨワナ・ロギッチから左内股「技有」を奪う

(エントリー12名)

【入賞者】
1.LIEN, Chen-Ling (TPE)
2.ROGIC, Jovana (SRB)
3.KOWALCZYK, Julia (POL)
3.NELSON LEVY, Timna (ISR)
5.PRUDENCIO, Gilmara (BRA)
5.NISHANBAYEVA, Sevara (KAZ)
7.SHAHIN, Leyla (AZE)
7.KAJZER, Kaja (SLO)

優勝候補と目されていたコマツ所属のレン・チェンリン(台湾)が決勝でヨワナ・ロギッチ(セルビア)を左内股「技有」で下して勝利。初のグランドスラム制覇を達成した。

参加選手は12名のみ、両者ともに準々決勝からの登場となったが、その勝ち上がり方はまさに対照的。この日のレンは「横三角」からの寝技が良く決まり、準々決勝でギウマラ・プルデンシオ(ブラジル)を崩上四方固「一本」(1:47)、準決勝でセヴァラ・ニシャンバエワ(カザフスタン)を崩上四方固「一本」(2:10)と全試合一本勝ちでで決勝に進出。一方のロギッチは今ひとつ決め手に欠け、準決勝でカヤ・カイゼル(スロベニア)を「指導2」(GS1:48)、準決勝でユリア・コヴァルツィク(ポーランド)を「指導3」(GS3:33)と全試合延長戦までもつれ込んだ末の「指導」獲得で勝ち上がった。特に準決勝のコヴァルツィク戦では合計7分半にも及ぶ大消耗戦を戦う羽目になり、決勝を前に大きく体力を削られることになってしまった。迎えた決勝もこの両者の勝ち上がりが試合内容に反映された格好、積極的に攻めるレンに凌ぐロギッチという構図となり、妥当な帰結としてレンが優勝を果たした。

レンは今大会を制したことでワールドランクが一気に5位まで上昇(今年から大会ごとの獲得ポイントが2倍となり、昨年までのポイントは実質半減している)、このままいけばシード選手として世界選手権に出場できる可能性が高い。自身初となる世界選手権の表彰台に向けて大きく前進した形だ。敗れたロギッチは初戦から動きが固く、格下には負けられないという執念を見せて決勝まで勝ち進んだものの、最後は好調レンの前に力尽きた。

決勝ラウンドの結果、および決勝と日本選手全試合の戦評は下記。

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57kg級上位入賞者。左からロギッチ、レン、コヴァルツィク、ネルソン=レヴィ。

【敗者復活戦】
ギウマラ・プルデンシオ(ブラジル)○袈裟固(1:55)△レイラ・サヒン(アゼルバイジャン)
ティムナ・ネルソン=レヴィ(イスラエル)○G小外掛(0:52)△カヤ・カイゼル(スロベニア)

【準決勝】
レン・チェンリン(台湾)○崩上四方固(2:10)△セヴァラ・ニシャンバエワ(カザフスタン)
ヨワナ・ロギッチ(セルビア)○GS反則[指導3](GS3:33)△ユリア・コヴァルツィク(ポーランド)

【3位決定戦】
ユリア・コヴァルツィク(ポーランド)○大内刈(2:36)△ギウマラ・プルデンシオ(ブラジル)
ティムナ・ネルソン=レヴィ(イスラエル)○横四方固(2:32)△セヴァラ・ニシャンバエワ(カザフスタン)

【決勝】
レン・チェンリン(台湾)○優勢[技有・内股]△ヨワナ・ロギッチ(セルビア)
レンが左、ロギッチが右組みのケンカ四つ。地力に勝るレンは奥襟を得て間合いを詰めようとするが、ロギッチが釣り手で肩口を突くためなかなか十分な形を作ることが出来ない。ロギッチは組み負けつつも要所で技を仕掛けて「指導」を回避、お互いにポイントがないまま3分すぎまで試合が進行する。3分15秒、レンは後ろ回りさばきで相手を振り回しながら遠心力を利用して左内股に入り決定的な「技有」を獲得。ここから守勢に回ってしまい最終盤に「指導」2つを失ったものの、残り時間の短さにも救われてそのままタイムアップ。レンが「技有」を守り切って見事優勝を果たした。

※日本代表選手の出場はなし


文:林さとる
編集:古田英毅

※ eJudoメルマガ版3月14日掲載記事より転載・編集しています。

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