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グランプリ・デュッセルドルフ2017第2日4階級レポート

(2017年3月3日)

※ eJudoメルマガ版3月3日掲載記事より転載・編集しています。
第2日4階級(男子73kg級、81kg級、女子63kg級、70kg級)レポート
グランプリ・デュッセルドルフ2017
■ 73kg級・足技冴えたデニス・イアルツェフが優勝、日本勢2人は揃って初戦敗退
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73kg級決勝、デニス・イアルツェフがラシャ・シャフダトゥアシビリから小外掛「一本」

(エントリー32名)

【入賞者】
1.IARTCEV, Denis (RUS)
2.SHAVDATUASHVILI, Lasha (GEO)
3.MACIAS, Tommy (SWE)
3.CHAINE, Guillaume (FRA)
5.WANDTKE, Igor (GER)
5.BUTBUL, Tohar (ISR)
7.CONTINI, Marcelo (BRA)
7.ESTRADA, Magdiel (CUB)

優勝候補と目されていたデニス・イアルツェフ(ロシア)とラシャ・シャフダトゥアシヴィリ(ジョージア)が順当に決勝進出。決勝ではイアルツェフが得意の足技を駆使してシャフダトゥアシヴィリを圧倒、豪快な右小外掛「一本」(2:58)で勝利して優勝を飾った。この2人はリオデジャネイロ五輪の3位決定戦でも対戦しており、その際はシャフダトゥアシヴィリが勝利している。イアルツェフは五輪のリベンジを果たした形だ。この日のイアルツェフは初戦から得意の足技が冴えており、具体的なポイント獲得こそ2回戦のヤコブ・イェクミネク(チェコ)戦の左釣込足「一本」(1:14)のみだったものの、効果的に足を飛ばすことで詰将棋のように相手を追い詰めて勝利を重ねていた。

土井健史(ダイコロ)と立川新(東海大1年)の日本勢2人は揃って1回戦敗退。土井はサンジミヤタフ・バヤルツブシン(モンゴル)に「指導1」(GS1:33)、立川はギオーム・シェヌ(フランス)に浮落「技有」(GS0:21)でそれぞれ敗れた。両者はともに密着志向のパワーファイターを相手に間合いを詰められてしまい、自分の柔道をすることが出来ず。ともに好試合を繰り広げたグランドスラム東京と打って変わって、国際大会の適性を示したとは言い難い内容と結果だった。講道館杯以降好成績を収めていた2人がともに「3次予選」の欧州シリーズで結果を残せなかったことで大野将平(旭化成)と橋本壮市(パーク24)の絶対的優位が確定、グランドスラムパリ大会での橋本の圧倒的なパフォーマンスを考えると2枠使用の可能性も高い情勢だったが、大会後に大野が選抜体重別の出場回避を表明。世界選手権は橋本の代表選出が決定的な状況だ。

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73kg級入賞者。左からシャフダトゥアシヴィリ、イアルツェフ、マシアス、シェヌ。

【準々決勝】
ラシャ・シャフダトゥアシヴィリ(ジョージア)○優勢[技有・払巻込]△マルセロ・コンティーニ(ブラジル)
トハル・ブトブル(イスラエル)○GS指導2(GS1:11)△イゴール・ヴァンドケ(ドイツ)
トミー・マシアス(スウェーデン)○上四方固(4:00)△ギオーム・シェヌ(フランス)
デニス・イアルツェフ(ロシア)○優勢[技有・足車]△マグディエル・エストラダ(キューバ)

【準決勝】
デニス・イアルツェフ(ロシア)○大外返(1:03)△トミー・マシアス(スウェーデン)
ラシャ・シャフダトゥアシヴィリ(ジョージア)○反則[指導3](2:23)△トハル・ブトブル(イスラエル)

ギョーム・シェヌ(フランス)〇優勢[技有・内巻込]△トハル・ブトブル(イスラエル)
右相四つ。シェヌが首を抱えるように奥襟を叩くとブトブルの頭が下がる。シェヌは小内刈から大内刈で攻め、奥襟を叩いては密度高く前に出て相手のアクションをことごとく潰す。この一方的な序盤戦を経て34秒ブトブルに首抜きの咎で「指導」。以後もシェヌは奥襟を叩いては引き手を織り込み、組み手の技術でブトブルを翻弄。ブトブルは良い送足払を2度放ってセンスの良さを垣間見せるがシェヌは組み手で全てを塗りつぶす。1分6秒、シェヌは左袖釣込腰を仕掛けると自ら相手の腕の下を潜り右一本背負投に繋ぐ。シェヌ得意のこの連携は腕を深く首下に抱き込む内巻込の形で決まり、「技有」。以降シェヌは手先の組み手争いを交えながら試合ペースを減速させてブトブルの技を封殺。1分50秒双方に「取り組まない」咎による「指導」が与えられるが以降見るべき攻防はなし。巧さが地力を完封する構図のまま、時間となった。

トミー・マシアス(スウェーデン)○優勢[技有・抱分]△イゴール・ヴァンドケ(ドイツ)
右相四つ。マシアスが組み勝って幾度も隅返を仕掛けるが不発。ヴァンドケは不利をかこつも巴投からの寝技を駆使して「指導」を回避し、延命を図る。2分8秒、マシアスが抱きつきの小外掛に飛び込む見せ場を作るが、胴体の拘束が甘くヴァンドケは腹ばいで畳に落ち、この段階でも大枠の優位はポイントに繋がらず。2分43秒にヴァンドケが右背負投を仕掛けるとマシアスは抱き止めて抱分。足で隅返風にフォローを加えた一撃にヴァンドケは一回転して体側から畳に落ち「技有」。これ以降はここまでとは一転してヴァンドケが密着して際を作り、リードを守りたいマシアスが隅返でこれをしのぐという攻防が続く。3分20秒にヴァンドケが組み際の右大内刈を仕掛けるとマシアスは裏投で後の先を狙うが、ヴァンドケは右小内刈に連絡してマシアスを畳に押し倒す。ポイントが想起される一撃だったが、マシアスは体をひねって逃れノーポイント。残りの時間もヴァンドケが一方的に攻め続けたが、マシアスがこれを最後までしのぎきってタイムアップ。マシアスが先行逃げ切りに成功、「技有」優勢で表彰台を確保した。

【決勝】
デニス・イアルツェフ(ロシア)○小外掛(2:58)△ラシャ・シャフダトゥアシヴィリ(ジョージア)
右相四つ。お互いに警戒し合って厳しい組み手争いが続くが、イアルツェフが左袖釣込腰を仕掛けた直後の1分21秒にシャフダトゥアシヴィリに「指導」。ここからシャフダトゥアシヴィリは横変形に立ち位置をずらし、イアルツェフの腕を抱き込んで組み手を展開。しかしこの形はイアルツェフの得意な支釣込足の間合い、イアルツェフは過たず切れ味鋭い右の支釣込足でシャフダテュアシヴィリを畳に伏せさせまず展開上の優位を確保する。2分10秒、シャフダトゥアシヴィリが右小内刈を起点に左方向への浮落を狙うと、イアルツェフは反対に右への浮落の形で相手を押し込み「技有」奪取。残り1分間際、後のなくなったシャフダトゥアシヴィリがクロスグリップの右大外刈から相手の背中に回り込んで裏投を狙うが、イアルツェフは向きなおりながら首を抱いて左小外掛を仕掛ける。もつれた状態から右小外掛に連絡すると技を仕掛けたイアルツェフと棒立ちで受けてしまったシャフダトゥアシヴィリとがもろとも吹っ飛び、これは「一本」。遠間からの足技のイメージが強いイアルツェフが普段とは一味違った強引、かつ豪快な「一本」を奪って優勝を果たした。

【日本代表選手勝ち上がり】

立川新(東海大1年)
成績:1回戦敗退


[1回戦]
立川新△GS技有・浮落(GS0:21)○ギオーム・シェヌ(フランス)
立川が左、シェヌが右組みのケンカ四つ。シェヌは釣り手をひたすら巻き替えて圧を掛け、これに耐えかねた立川は畳に膝を着いてしまう。この展開が2度続いたことで27秒、立川に偽装攻撃の咎で「指導」。立川が前襟を得るとシェヌは腕ごと抱いて密着、立川は脇を差して勝負に出るが逆にシェヌの右大内刈で潰されてしまう。1分45秒、シェヌが釣り手を奥襟に持ち替えた際に立川が素早く左浮腰、相手を肩から勢い良く畳に落とす惜しい場面があったがポイントは得られず。2分1秒にはシェヌの奥襟を首抜きで回避した立川に2つ目の「指導」。展開を失い、打開を図った一発も不発に終わった立川は非常に苦しいところ。2分54秒、立川の釣り手を引き手で落としながら場外に押し込んだシェヌにブロッキングの咎で「指導」。以降は立川が前襟で間合いの確保を図り、シェヌが密着を狙うという構図のまま本戦が終了、勝敗の行方はGSの延長戦へと持ち越される。GS21秒、シェヌは奥襟を得ると右大内刈と右小外刈を仕掛けながら立川を場外際へと追い込む。ここで立川は足技を狙おうとしたか向き直って正対を図るが、その際に足が残ってしまいシェヌに覆いかぶさられる形で背中から畳に落下。映像による確認の結果これはシェヌの「技有」とみなされ、立川の初戦敗退が決まった。立川は強引に奥襟を叩いてくる相手に技術を塗り潰され、最後まで自分の柔道を見せることが出来なかった。

土井健史(ダイコロ)
成績:1回戦敗退


[1回戦]
土井健史△GS指導1(GS1:33)○サンジミヤタフ・バヤルツブシン(モンゴル)
土井が左、サンジミヤタフが右組みのケンカ四つ。サンジミヤタフはモンゴル選手らしく脇を差して密着を志向、土井は足技を仕掛けながらこれをしのぐという構図。1分10秒、土井が組み際に体落の形に足を掛けての左背負投に飛び込むとサンジミヤタフは勢いよく頭から落ちるが、腹ばいで逃れてポイントには至らず。土井は1分43秒にも左内股からの巴投でサンジミヤタフを後方に激しく投げ飛ばすが、尻餅で終わってしまいポイント奪取はならず。2分50秒、サンジミヤタフが背中を叩いてくるタイミングに合わせて土井が左小外刈、これも深く入った技だったが、相手の右内股に変換されてしまいまたもやポイントに結びつかない。なかなかポイントが奪えない土井だが、感覚がつかめてきたのかこのあたりから相手の密着を許さず自分の間合いで戦えるようになっており、見通しはむしろ上向き。結局本戦では決着がつかず両者ポイントがないまま試合はGS延長戦へ。GS50秒、サンジミヤタフが脇を掬っての右内股で土井の懐深くまで侵入するが、ここは土井がバランス良くこらえて「待て」。この技に手ごたえを得たサンジミヤタフは続く展開でも背中を叩いての右内股で土井を畳に伏せさせる。土井は左背負投を仕掛けて流れを変えようとするが、続く展開でサンジミヤタフが右内股を仕掛けたところで主審は試合をストップ。GS1分33秒、土井に「指導」が与えられて勝負が決した。グランドスラム東京大会2位の土井はまさかの初戦敗退。

■ 81kg級・アスラン・ラピナゴフが荒れたトーナメントを制す、佐藤正大は強豪イヴァイロ・イヴァノフを突破出来ず予選ラウンド敗退
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81kg級1回戦、グランドスラムパリで優勝を飾ったばかりの新鋭フランク・デヴィトが無名のティム・グラムコフに敗れる。

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2回戦、ラピナゴフが地元ドイツのニクラス・ブロッヘルから釣込腰「一本」

(エントリー37名)

【入賞者】
1.LAPPINAGOV, Aslan (RUS)
2.UNGVARI, Attila (HUN)
3.IVANOV, Ivaylo (BUL)
3.GOTONOAGA, Dorin (MDA)
5.MUENNICH, Benjamin (GER)
5.EGUTIDZE, Anri (POR)
7.BRIAND, Etienne (CAN)
7.AVALIANI, Ambako (GEO)

ここ最近の81kg級の傾向を反映して、今大会も有力選手が次々と敗れる非常に荒れたトーナメントとなった。もっとも象徴的なのはグランドスラムパリ大会の優勝者であるフランク・デヴィト(オランダ)の敗退。1回戦で無名のティム・グラムコフ(ドイツ)に、それも「技有」を3つ奪われるという完敗であった。このうち2つの「技有」はクロスグリップへのカウンター技によるものであり、現在の柔道競技における情報戦の激しさを改めて意識させられる結果であった。(デヴィトはグランドスラムパリ大会でクロスグリップからの帯取返を連発して優勝している。)

この荒れたトーナメントを制して表彰台の頂点に立ったのは第4シードのアスラン・ラピナゴフ(ロシア)。ラピナゴフはリオデジャネイロ五輪前後の空白期に台頭してきた新興勢力の一人で、昨年のグランドスラムチュメン大会に優勝して以来参加したワールドツアー大会全てで表彰台に登っているものの、階級のトップ選手との対戦がなかったためにこれまではあくまで有力選手の一人という位置づけだった。今大会でも強豪との対戦は準決勝のイヴァイロ・イヴァノフ(ブルガリア)戦のみだったが、これ以外の試合はすべて「一本」(不戦勝ち含む)で勝利しており、もはや完全に階級の強豪として定着したとみなすべきだろう。ラピナゴフの柔道スタイルは体の強さを生かしてじっくりと戦う堅実なもの、まだ23歳であり今後が非常に楽しみな選手の一人だ。

とはいえ、「リオ後」の81kg級の急激なレベル低下はかなり深刻。アヴタンディル・チリキシビリ(ジョージア)とロイック・ピエトリ(フランス)の世界王者2人が階級アップで抜け、新興勢力の旗手と見られたイヴァノフが突き抜けられず、もはや真に「強者」と呼べる選手は永瀬貴規とハサン・ハルモルザエフ(ロシア)ただ2人のみになってしまったのではないだろうか。表彰台の水準点であったアントワーヌ・ヴァロアフォルティエ(カナダ)もベテランの域に入りつつあり元気なく、ロンドン-リオ期に「門番」的存在であったもと世界王者キム・ジェブン(韓国)も引退。ロンドン後に台頭したチリキシビリや永瀬、ピエトリの輝きゆえに気づきにくかったが、この階級の層の厚さは結局北京-ロンドン期の強豪たちが支えていたに過ぎなかったのではないだろうか。どんなにレベルが下がった階級でも4年スパンで結局強豪が多数勃興するここ2クールの国際柔道界の傾向と現在の81kg級の極端な「薄さ」を考えれば、面白いのは今年。どの選手が出てくるか、毎大会目が離せない1年となりそうだ。

日本代表の佐藤正大(国士舘大4年)は勝負どころであった2回戦のイヴァノフ戦を突破できず予選ラウンド敗退。参加メンバー全体のレベルに比すれば表彰台に手が届く大会であったと思われるが組み合わせの悪さに泣くことになった。国内2番手である渡邉勇人(了徳寺学園職)が負傷で試合に出場出来ていないこともあり、現在国内の世界選手権代表レースは永瀬貴規(旭化成)の一人勝ち状態。日本は、永瀬以外に「なかなか勝てない中量級の壁」を破る選手が現れないまま冬季欧州シリーズを終えることとなった。

海外勢で目立っていたのは銀メダル獲得のアッティラ・ウングバリ(ハンガリー)。この日は4試合行ったうち3試合を片手絞「一本」で勝利するなど、立技から寝技への移行の上手さが際立っていた。73kg級から階級を上げたヌグザリ・タタラシヴィリ(ジョージア)は前述のウングバリに2回戦でに片手絞「一本」で敗れて予選ラウンド敗退だった。

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81kg級入賞者。左からウングヴァリ、ラピナゴフ、イヴァノフ、ゴトノアガ

【準々決勝】
ドリン・ゴトノアガ(モルドバ)○GS一本背負投(GS0:12)△エティエンヌ・ブリアン(カナダ)
アッティラ・ウングヴァリ(ハンガリー)○片手絞(3:30)△ベンヤミン・ミュニヒ(ドイツ)
イヴァイロ・イヴァノフ(ブルガリア)○GS内股透(GS0:11)△アンリ・エグティゼ(ポルトガル)
アスラン・ラピナゴフ(ロシア)○横四方固(2:18)△アムバコ・アヴァリアニ(ジョージア)

【準決勝】
アッティラ・ウングヴァリ(ハンガリー)○GS片手絞(GS0:42)△ドリン・ゴトノアガ(モルドバ)
アスラン・ラピナゴフ(ロシア)○GS技有・支釣込足(GS0:29)△イヴァイロ・イヴァノフ(ブルガリア)

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3位決定戦、ドリン・ゴトノアガがアンリ・エグティゼから送足払「一本」

【3位決定戦】

イヴァイロ・イヴァノフ(ブルガリア)○優勢[技有・背負投]△ベンジャミン・ミュニッチ(イギリス)
右相四つ。組み合うなりイヴァノフが鋭い右背負投一発、相手が回り過ぎてしまい「一本」こそ逃したもののこれで「技有」を獲得する。イヴァノフは続く展開でも右背負投で相手を畳に伏せさせ腕挫十字固を狙う。腕さえ外せば極まるところまで手順を進めるが、ここはミュニッチがしのぎきって「待て」。以降1分半過ぎには縦四方固、3分には巴投からの腕挫十字固、さらに続く展開では「秋本返し」からの崩袈裟固といずれもあと一歩で試合を決めることが可能なところまで登り詰めるが、いずれもギリギリでミュニッチが耐え切り「待て」。しかし時計の針は着実に進み続け、この「待て」の時点で残された試合時間は僅か14秒。結局このまま試合が終了、開始直後に奪った「技有」を守りきってイヴァノフが表彰台を確保した。

ドリン・ゴトノアガ(モルドバ)〇送足払(3:56)アンリ・エグティゼ(ポルトガル)
右相四つ。互いに相手に良い形を与えることを恐れて釣り手を抑え合い、29秒主審は両袖で防御したとの判断で両者に「指導1」。以後も双方切り離し合い、組み合わず、率直に評して非常に見苦しい試合。特にゴトノアガは腰を引き、下を向いて間合いを取って切り離すことを続けまったく攻める気配が見えない。1分33秒業を煮やした主審が双方に「取り組まない」咎による「指導2」を与えるが以降も切り離し合いは収まらず、2分24秒にはエグティゼの右外巻込を左一本背負投で切り返したゴトノアガが自ら両手を離して畳にうずくまるという醜態。続いてエグティゼがゴトノアガの左一本背負投を潰して抑え込むが完遂する技術がなく2度逃して「待て」、試合は泥沼化の様相。残り30秒を切り、エグティゼが左にスイッチ。これまでも度々見せていたこの左組みを起点にケンカ四つの形で左払腰、左内股と浅く技を入れて攻める姿勢を演出し、相手の反則を狙う。さらに放った左払腰(空回りしてほとんど大車となった)から左内股に繋ぐと、ここでゴトノアガは釣り手を巻き返して四指で後襟を握る。この作りが終わったところでツイと右足を振り上げると、エグディゼは誘われて踏み込み腰を差し合う形で左払腰を探る。ここにゴトノアガが放った右小外刈がかち合ってしまい、タイミングピタリの送足払を入れた形となる。後襟を握った釣り手の拘束も良く効き、奥足まで届いた一撃にエグディゼたまらず吹っ飛び「一本」。決まり技が派手で結果オーライとなった試合だが、両者反則負けの制度があれば双方を早々に畳から退場させるべき低調な試合。数年ルールを逆行させたような抑え合い、切り合い、リスク管理に終始した低調ゲームには、強豪国との情報格差が色濃く感じられた。

【決勝】
アスラン・ラピナゴフ(ロシア)○棄権△アッティラ・ウングバリ(ハンガリー)
この日絶好調のウングバリがなぜか棄権。ラピナゴフが戦わずして優勝を決めた。

【日本代表選手勝ち上がり】

佐藤正大(国士舘大4年)
成績:2回戦敗退


[1回戦]
佐藤正大〇優勢[技有・袖釣込腰]△ヴィニシアス・パニーニ(ブラジル)
右相四つ。ともに片襟を交えながら相手に持たせず一方的に組もうとする、少々組み手に癖のあるタイプ。パニーニはいなし、横変形にずれ、左構えにスイッチして「ケンカ四つクロス」の形で腕を抱き込んでと常に角度を変えながら佐藤に対峙。佐藤は座り込みの右背負投で対抗するが距離が遠くいずれもポイントの気配なし。1分49秒、釣り手をクロスに置き続けたパニーニに「指導」。直後パニーニは釣り手を片襟に差して右大外刈、佐藤は立ったまま耐え、相手が戻ると間合いを整え両袖の右袖釣込腰に飛び込む。伏せかけられたが縦回転の勢いが勝り2分34秒これは「技有」。以後パニーニ激しく前に出てくるが、佐藤は手先を絡ませていったん減速させ、それでも出てくる際には右袖釣込腰を合わせて状況を完全掌握。そのままタイムアップ。

[2回戦]
佐藤正大△GS反則[指導3](GS2:16)○イヴァイロ・イヴァノフ(ブルガリア)
佐藤が左、イヴァノフが右組みのケンカ四つ。イヴァノフが隅返と右背負投で先制攻撃を仕掛け、1分4秒には両手で相手の組み手を切った咎で佐藤に「指導」。直後の1分15秒、イヴァノフの肩車で佐藤が肩から落ちる危うい場面があったが、映像による確認が行われた結果これはノーポイント。続く展開で佐藤が片襟であおりながら左背負投を仕掛けると、これを耐えたイヴァノフは佐藤の釣り手を取って腕挫十字固を狙う。あと一歩で極まる形だったが、ここは佐藤がしのぎきって「待て」。2分41秒には再び巴投で引き込んだイヴァノフに偽装攻撃の咎で「指導」が宣告される。ここから両者組み合っての膠着状態が続き、3分37秒に両者に2つ目の「指導」が追加される。しかし、本戦終了と同時に佐藤の「指導」が取り消され(厳密には一度イヴァノフの「指導」が取り消されたのち、これが佐藤に変更された)、延長戦が開始された時点での累積警告は佐藤が「1」でイヴァノフが「2」。イヴァノフに「指導」が与えられれば決着だが、佐藤は「指導」1つまで失っても試合が続けられる状況だ。延長戦が始まるとイヴァノフがまず隅返で攻め、短い膠着状態が続いたGS40秒には佐藤に2つ目の「指導」が宣告される。これで反則累積はともに「2」。勝負どころとみたイヴァノフはペースを上げてラッシュ。佐藤も左背負投を打って対抗するが手数の差は明らかで、GS2分16秒に佐藤に3つ目となる「指導」が与えられて決着。佐藤は最大の勝負どころと目されたこの試合を乗り越えることができず、無念の予選ラウンド敗退となった。
スコア推移で見れば典型的な「指導」の取り合いの手数ゲーム。グランドスラム東京ではイヴァノフと対戦した渡邉勇人が自身の長所である投げを仕掛け続け、相手の長所である「際」を呼びさまして一種派手な決着を迎えたという経緯がある。ともに敗戦も、内容は良くも悪くも対照的であった。

■ 63kg級・アグベニューが圧勝、鍋倉那美が3位決定戦で津金恵下して表彰台に食い込む
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63kg級決勝、アグベニューの組み手の強さに窮したトライドスが左大外刈に打って出るが掴まれた腕が残って体勢を崩す

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アグベニューは大外落で引き戻し「一本」

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2回戦、津金恵が渡邉聖未から大外返「一本」

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鍋倉と津金の3位決定戦

(エントリー23名)

【入賞者】
1.AGBEGNENOU, Clarisse (FRA)
2.TRAJDOS, Martyna (GER)
3.TRSTENJAK, Tina (SLO)
3.NABEKURA, Nami (JPN)
5.RENSHALL, Lucy (GBR)
5.TSUGANE, Megumi (JPN)
7.OBRE, Stefania Adelina (ROU)
7.SILVA, Mariana (BRA)

リオデジャネイロ五輪金銀メダリストのティナ・トルステニャク(スロベニア)とクラリス・アグベニュー(フランス)がグランドスラムパリ大会に引き続き揃って参戦、マルティナ・トライドス(ドイツ)も参加し世界選手権の表彰台クラスがズラリと揃った豪華なトーナメントとなった。

これを勝ち抜いて表彰台に登ったのはアグベニュー。ライバルで天敵のトルステニャクが準々決勝で敗れるなか相変わらず安定した強さを見せ、圧倒的な内容で優勝を決めた。アグベニューは体の強さだけでなくそれを生かす組み立ての引き出しが豊富で、かつオーソドックスな形の技でなくても理合を実現するための勘どころをしっかり抑えて投げ切ることが多い。これは「投げ」の構造そのものへの理解度が高いということに他ならず、同系統のパワーファイターと比べると選手としての完成度が数段高い印象だ。今大会の「一本」量産にはそのあたりが透けて見えるものが多く、ファンにはぜひ「追っかけ視聴」をお勧めしたい。

一方のトルステニャクは準々決勝で鍋倉那美(三井住友海上)に敗れてトーナメントから脱落。トルステニャクの日本人選手に対する相性の悪さはもはや病と評してよいレベルであり、2014年グランドスラムパリ大会で田中美衣に勝利して以来3年間勝利できていない。日本勢がアグベニューに7年間勝利できていないことと合わせて、トルステニャク、アグベニュー、日本勢の三竦み状態が当分続きそうだ。

鍋倉は決して好調というわけではなく1回戦のマリアン・ウルダバエワ(カザフスタン)戦では格下の相手に「技有」を奪われるなど苦戦したが、準々決勝では前述のとおりトルステニャクから左大外落「技有」を奪ってこのカード2戦連続の勝利(昨年のグランプリブダペスト大会でも勝利している)を果たした。続く準決勝ではトライドスに小内刈「技有」で敗れたものの、日本勢同士の対戦となった3位決定戦では津金恵(筑波大3年)を「指導2」(GS1:51)で破って表彰台を獲得している。不調でもこの陣容でしっかりと結果を残したことはさすがと言うべきで、今ひとつ勝ちきれなかったものの(実力的にはトライドスには勝利の可能性十分であったはず)五輪王者トルステニャクを倒して表彰台に登ったことで、国内の序列決定に1つ大きな材料を得たという形だ。

津金は前述のとおり鍋倉に敗れて5位。鍋倉とは対照的にこの日は好調で、2回戦では学生カテゴリにおけるライバルでもある渡邊聖未(フィリピン)を大外返「一本」(1:23)で一蹴。準々決勝でもアグベニューを相手に「指導2」つを奪われながらも延長戦までもつれ込む大健闘を見せ、最後は小内刈「技有」(GS0:34)で屈したもののこの日唯一アグベニューに「一本」を奪わせなかった。3位決定戦では鍋倉に敗れたが、この試合でも勝利した鍋倉より敗れた津金のほうが攻撃姿勢を出しており、今後の活躍に期待が持てる試合ぶりだった。

全体的なパフォーマンスは津金が上、内容で順位を採点するとすれば表彰台に上がるべきは津金の方ではなかったかと思われるが、目に見える結果が残ったのは鍋倉。五輪代表を務めた田代未来の選抜体重別出場回避が決定し、しかも以下決定的な選手がいないこの階級の混迷をそのまま表すかのような内容と結果であった。

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63kg級入賞者。左からトライドス、アグベニュー、トルステニャク、鍋倉。

【準々決勝】
鍋倉那美○優勢[技有・大外落]△ティナ・トルステニャク(スロベニア)
マルティナ・トライドス(ドイツ)○小内刈(0:53)△ステファニア アデリナ・ドブレ(ルーマニア)
クラリス・アグベニュー(フランス)GS小内刈(0:32)△津金恵
ルーシー・レンシャル(イギリス)○大内刈(4:00)△マリアナ・シウバ(ブラジル)

【準決勝】

マルティナ・トライドス(ドイツ)○優勢[技有・小内刈]△鍋倉那美
クラリス・アグベニュー(フランス)○棄権(2:51)△ルーシー・レンシャル(イギリス)

【3位決定戦】
ティナ・トルステニャク(スロバニア)〇不戦△ルーシー・レンシャル(イギリス)
前戦の負傷でレンシャルが畳に姿を現さず、トルステニャクが戦わずして3位を確保。

鍋倉那美○GS指導2(GS1:51)△津金恵
右相四つ。釣り手の絞り合いから試合がスタート。鍋倉が強引な巴投を仕掛けるが津金は腹ばいで着地してノーポイント。鍋倉はさらに右内股、津金は足を上げてこれを回避する。1分間際には、津金が右足車で鍋倉を押し込むがこちらも背中を付けるには至らずポイントなし。ここからはお互いに釣り手を絞りあった状態から不十分な技を仕掛け合うこととなり試合は減速、3分45秒主審は津金に「指導」を宣告。結局本戦の4分間では決着がつかず、試合はGSの延長戦へもつれ込むこととなる。延長に入ると後のない津金がペースを上げ、それに引きずられる形で鍋倉もペースアップ。技数は増えたがポイントが想起されるような「投げ」はないという状況が続く。横変形組み手での膠着状態が続いたGS1分51秒、主審が両者に「指導」を与えて試合は決着。「指導1」対「指導2」のGS優勢で鍋倉が勝利した。鍋倉は勝利したものの組み手管理にこだわり過ぎて投げの気配が感じられず、一方敗れた津金は積極的に投げを狙っていた。結果にこだわった鍋倉に形上の勝ち星がついた試合だが、評価の難しい一番であった。

【決勝】

クラリス・アグベニュー(フランス)〇大外落(0:32)△マルティナ・トライドス(ドイツ)
左相四つ。双方まず引き手で襟を高く握り、突き合い押し合いながら釣り手で高い位置の確保を狙う。ここから引き手で袖を掴んだアグベニューが両袖を抱き込む形で相手の釣り手を抑えると、早めに動くべきと判断したトライドスは先に体だけ相手の後方に進出する形で左大外刈。しかし崩れず迎え撃ったアグベニュー、腕を残したまま抜けていったトライドスの左袖を両手で握ると左背負投の形で自身の真前に体を捨てる。引き戻されたトライドスたまらず畳に落下、アグベニューの体の下で畳に沈み「一本」。

【日本代表選手勝ち上がり】

鍋倉那美(三井住友海上)
成績:3位


[2回戦]
鍋倉那美○横四方固(3:42)△マリアン・ウルダバエワ(カザフスタン)
鍋倉が右、ウルダバエワが左組みのケンカ四つ。開始10秒、鍋倉は右内股で押し込むように投げて「技有」を獲得する。そのまま絡まれた足を抜いて横四方固を狙うが、ここはウルダバエワが耐えて「待て」。続く展開でもウルダバエワの隅返を起点に鍋倉が寝技を展開、足さえ抜ければ抑え込める状態まで歩を進めるが今度も耐えられて抑え込むことが出来ない。1分37秒、鍋倉が右内股を仕掛けるとウルダバエワは大きく崩れながらも踏みとどまって裏投で返しに掛かる。両者の我慢比べとなるが、ウルダバエワは鍋倉の軸足を刈りながら内股返へと連絡、鍋倉は背中から勢い良く転がってしまい「技有」失陥。ここぞで決め切れず、直後に失点するという明らかに悪い流れ。焦った鍋倉は右内股を連発、しかし2分13秒には相手に股中で右内股を透かされて頭から突っ込み、「頭突っ込み」の反則あるいは内股透で「技有」を失うべき形で転がる失態。しかし、おそらくは「着地した後の返し技は認めない」との新条項適用により主審がノーポイントで試合を流し、鍋倉は命拾い。3分10秒、ウルダバエワが隅返を仕掛けると鍋倉はこれを避けて寝技を展開、「腹包み」の要領でめくり返して横四方固で抑え込む。完全に肩を固められたウルダバエワは動くことが出来ず、20秒抑え込んだ鍋倉が「一本」獲得。鍋倉、初戦は辛勝。

[準々決勝]
鍋倉那美○優勢[技有・大外落]△ティナ・トルステニャク(スロベニア)
鍋倉は右、トルステニャクは両組み。トルステニャクは左で背中を叩いての左大腰から右大内刈、左釣込腰から右で奥を叩き直しての右内股と左右を利かせ、まさしく唸る勢いで攻める。右内股に続いて左内股を繰り出す場面もあり、もはやほぼ完全な左右両利き。鍋倉は両袖で勢いをいったん殺し、体を相手の左側にずらしての右内股で反抗してチャンスを伺う。1分41秒、鍋倉は組み際に引き手で袖、釣り手で奥襟を叩く好機を得ると、釣り手を片襟に入れ直しながら背負投崩れの右大外落。体を小さくまとめて密着したまま斜めに体を捨てるとトルステニャク右後隅に落ちて「技有」。怒気を発したトルステニャク左内股で攻め、続いてパワーで解決を図るべく離れた位置から両脇を差して飛び込む。鍋倉これを右内股で吸収するが主審当然ながら試合を止めてトルステニャクにベアハグの「指導」。以降もトルステニャクは左、右と構えを変えながら右外巻込、左釣腰、左釣込腰に右方向への隅返と大技で攻め続けるが鍋倉敢えて過剰反応せずに冷静に対応を続け、トルステニャクの反撃は「指導」1つに留まる。そのままタイムアップ、五輪王者トルステニャクは苦手の日本選手にまたも苦杯。

[準決勝]
鍋倉那美△優勢[技有・小内刈]〇マルティナ・トライドス(ドイツ)
鍋倉が右、トライドス左組みのケンカ四つ。序盤は拮抗、トライドスの左内股巻込を鍋倉が前に突き潰して寝勝負を繰り広げ「待て」。続く展開、トライドスは長い左腕で樽を抱えるように背中を深く掴むおなじみの形から、「サリハニ状態」よろしく左足を差し入れて相手を止めて左大内刈と左内股を狙う。ここからまず浅く左内股、一回鍋倉に耐えさせておいて本命の左小内刈に連絡。これがトライドスのもっとも得意な技、長い足で引っ掛けながら相手の左膝に体ごと乗っかるように押し込むと鍋倉相手を抱えた形のまま両足を揃えて後に崩れ、59秒「技有」。以後トライドスは接近と離脱を巧みに使い分けて鍋倉に勝負をさせず。トライドスが両襟を掴んで圧を掛けた残り1分10秒には鍋倉に「指導1」が与えられてスコアは一方的。このまま見るべきチャンスなく時間となって、トライドスの決勝進出が決まった。トライドスはもっとも好む形から、もっとも得意な変則の左小内刈でポイントを挙げた快勝だった。

[3位決定戦]
鍋倉那美○GS指導2(GS1:51)△津金恵
※前述のため戦評省略

津金恵(筑波大3年)
成績:5位


[1回戦]
津金恵〇優勢[技有・内股透]△リア・ライマン(ドイツ)
津金が右、ライマン左組みのケンカ四つ。ライマンは引き手を嫌って後重心、津金は下がる相手を出足払、右内股、大外刈、送足払と攻め続ける。引き手不十分ゆえいずれも技自体は浅く、1分過ぎに放った右内股も長身の相手に空回りしてしまうが直後の1分6秒ライマンに「指導」。以後ライマンがやや奮起、長い足を利して大内刈などを仕掛けて攻撃姿勢を見せると、この気配を察した津金は敢えて相手の左内股を呼び込み、股中で透かして浴びせ2分31秒決定的な「技有」奪取。ライマン残り36秒で左内股を仕掛けるが津金はこれもかわすと寝勝負に持ち込み、立たせないままタイムアップまで辿り着く。

[準々決勝]
津金恵○大外返(1:23)△キヨミ・ワタナベ(フィリピン)
右相四つ。26秒、津金は組み際に一段加速して右内股、相手を乗り越えるようにして押し込み「技有」を獲得する。ポイントを奪われた渡邊は巴投で引き込んで得意の寝勝負を仕掛けるも、津金がしっかり対応して「待て」。続く展開で渡邊は先に引き手を得て奥襟を狙うが、津金が先に引き手で袖を得ると打開を狙って強引な右大外巻込に打って出る。しかし、不十分な形から仕掛けたこの技に津金はすかさず反応、体を外に開きながら渡邊の懐に飛び込み強烈な大外返で畳に叩きつける。めり込むような一撃に渡邊はしばし立ち上がれず、津金が圧巻の「一本」で準決勝進出を決めた。

[準決勝]
津金恵△GS技有・小内刈(GS0:34)○クラリス・アグベニュー(フランス)
津金が右、アグベニューが左組みのケンカ四つ。津金は釣り手を突いて距離を取ろうとするが、アグベニューのパワーの前に間合いを詰められてしまう。53秒、津金に首抜きの咎による「指導」。ここから津金は奮起、力関係とパワー差を考えると組み合うこと自体がリスクだが、敢えて自分から組みつき積極的に技を仕掛けることで紙一重で展開を渡さない。2分24秒、アグベニューが背中を抱いての左体落を仕掛けると津金は大きく崩れて畳に落ちるが、かろうじて腹ばいで落ちてノーポイント。2分40秒、津金の予想外の粘りにより動きが雑になったアグベニューは強引な左外巻込で掛け潰れる。津金はすかさず寝技を狙うが、ここはアグベニューが耐えて「待て」。両者が開始線に戻ると主審はこれまでのアグベニューの立技での攻勢を認めて津金に2つ目に「指導」を宣告する。この時点で経過時間は3分0秒、試合時間を1分残してついに津金は「指導2」失陥で後がなくなってしまう。以降もアグベニューは背中を抱いて密着を狙うが、津金は安易に腰を抱かずあくまで前襟でこれを凌ぎ続ける勇気ある対応。3分30秒からは津金が奥襟を得て右内股で攻める展開も現れ、依然劣勢ではあるものの少しずつ津金が主導権を握る時間帯が増え始める。GS34秒、アグベニューは肩越しに津金の背中深くを掴むと左小内刈から釣り手の拘束を利かせて津金を浴びせ倒す。アグベニューの体と打点である津金の左足はかなり遠いように見えたが、肩を完全に落とされた津金はたまらず畳に沈んで「技有」。津金は大健闘、しかし最後はアグベニューが格の違いを見せつけて勝利を得た。

[敗者復活戦]
津金恵○内股(2:11)△マリアナ・シウバ(ブラジル)
右相四つ。シウバが右大外刈の気配を見せると津金先んじて大外落に乗り込む。これは相手の体だけが残った形で決まらなかったが、津金は気力充実の気配。津金が組み手を得、いったん体をゆすって間合いを作って万全の構えになると、シウバは先んじて右背負投に座り込んでリセット。以降も片襟、クロス、掛け潰れと津金に十分な組み手を与えないまま攻めの形を演出しようと腐心。しかし津金はあくまで冷静、大外刈に大内刈で陣地を確保してじっくりチャンスを伺う。2分11秒にシウバが左足を踏み込んで支釣込足、津金を左前隅にずらすとそのまま左で背中を抱える。しかし前に送り出されて窮屈な格好にされたはずの津金は相手を背に負ったまま背負投宜しく右前隅に体を捨てる。シウバが崩れると見るや右足を上げて内股の形でフォローし鋭く回旋、「一本」。理合さえ満たせば形を選ばぬ、かつての津金の一番良いところが出た大胆な技であり、接近さえすれば問題なしとの「上から目線」の自信が伺われる面白い一発であった。

[3位決定戦]
津金恵△GS指導2(GS1:51) ○鍋倉那美
※前述のため戦評省略

■ 70kg級・新井千鶴が圧勝で優勝、新添左季はマリーイヴ・ガイに連敗も3位を確保
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70kg級決勝、新井千鶴がマリーイヴ・ガイから内股「技有」

(エントリー23名)

【入賞者】
1.ARAI, Chizuru (JPN)
2.GAHIE, Marie Eve (FRA)
3.MANSOUR, Lola (BEL)
3.NIIZOE, Saki (JPN)
5.SCOCCIMARRO, Giovanna (GER)
5.VAN DIJKE, Sanne (NED)
7.DIEDRICH, Szaundra (GER)
7.RODRIGUEZ, Sara (ESP

新井千鶴(三井住友海上)がグランドスラムパリ大会に続いて圧勝、素晴らしい出来で優勝を飾った。結果はもちろん何より評価すべきはその内容。パリ大会のレポートでも書かせていただいたとおり、新井は国際大会の序列を「技の威力」でハシゴを掛けることではなく強豪たちと正面からぶつかることで少しづつ登攀。その結果、かつて苦手だったケンカ四つ、パワーファイターといった属性を持つ相手でも正面からねじ伏せるだけの地力を手に入れた模様だ。加えて最近は寝技の取り味も大幅に増してきておりまさに全方位のオールラウンダーといった感すらある。今大会の対戦相手は全員がケンカ四つだったが、1回戦以外の全試合で「一本」を奪うという文句なしの出来。なかでも圧巻だったのは決勝戦で、おそらく階級トップレベルの膂力を誇るマリーイヴ・ガイ(フランス)を相手にそのパワーと正面から対峙、一方的に試合を進めて「技有」2つを奪った末の横四方固「一本」(3:35)で勝利してみせた。今大会では技がありながらパワーファイターにそれを塗りつぶされて敗退する日本選手が続出、そんな状況にあって「地力を養う」ことの大切さを改めて思い起こさせる新井の圧勝劇だった。

地力に自信があるゆえか相手が良く見え、地力に勝るゆえか相手のほうが勝手に焦ってミスをするという場面も多々。こうなればここまで練って来た技の切れ味が生きないわけはなく、現在の新井はここ数年の我慢がことごとく良い方向に生きる好スパイラルにある。間違いなく選出されるであろう世界選手権での活躍が非常に楽しみだ。

もう1人の日本代表・新添左季(山梨学院大2年)は3位決定戦を制して表彰台を確保。一応の結果は残したものの、準々決勝ではまたしてもガイに為す術なく大内返「一本」(1:40)で敗れている。グランドスラムパリ大会に続いて新添は技の威力、リーチの長さといった自身の長所を全てガイのパワーで塗りつぶされてしまう完敗。新添の試合ぶりは新井のそれとはまさに対照的であり、自分の世界で柔道さえ出来れば強いがそれが崩されると脆いという、海外で勝ちきれない日本人選手にありがちなパターンに当てはまる。こ得意の左内股に頼るあまり単調になってしまう悪い癖も顔を出しており、3位という結果の一方で課題多き大会となった。とはいえ派遣1シーズン目でIJFツアー欧州シリーズ2大会連続入賞、グランプリ・デュセルフドルフの表彰台登攀は大戦果。大物新添が次代に布石を打った形の大会であった。

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70kg級入賞者。左からガイ、新井、マンスール、新添。

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3位決定戦、新添がサンネ・ファンダイクから内股「技有」

[準々決勝]
新井千鶴○縦四方固(2:58)△スザンドラ・ディードリッヒ(ドイツ)
サンネ・ファン ダイク(オランダ)○GS大外刈(GS2:16)△ローラ・マンスール(ベルギー)
マリー イヴ・ガイ(フランス)○大内返(1:40)△新添左季
ジョヴァンナ・スコッシマロ(ドイツ)○大外刈(2:29)△サラ・ロドリゲス(スペイン)

[準決勝]
新井千鶴○内股(1:51)△サンネ・ファン ダイク(オランダ)
マリー イヴ・ガイ(フランス)○裏投(2:11)△ジョヴァンナ・スコッシマロ(ドイツ)

【3位決定戦】

ロラ・マンスール(ベルギー)〇優勢[技有・背負投]△ジョバンナ・スコッシマロ(ドイツ)
右相四つ。上背に勝るスコッシマロが右大外刈で攻めるが、腰高で不安定。双方が相手を怖がりながら組み手を展開するためなかなか良い形が出来上がらない。44秒、マンスールが組み際に左背負投、片襟を差して座り込んだこの技が決まって「技有」。これ以後もマンスールは左右の担ぎ技で攻撃、一方のスコッシマロは釣り手が低いまま体だけ反転する、形だけの払腰や大外刈を連発。意図的に肘を上げて間合いを詰めているわけではなく単に釣り手を上げる技術がない模様で、距離が空いたまま右手が相手の襟に低く残ってまったくもって利かず。後半マンスールは疲労して3分17秒偽装攻撃の「指導」を受けるがスコッシマロの技術の低さに助けられ、釣り手を抑え続けるだけで試合を塩漬けることに成功。特段見るべき攻防もなくそのままタイムアップとなった。スコッシマロは70kg級の下位選手の典型、体はあるがその技は見た目の形をなぞるだけで、ダイナミクスの成立に何が必要かを捉えていない「だいたい」の技。決勝ラウンドを戦うレベルの選手には見えなかった。

新添左季○GS技有・内股(GS0:25)△サンネ・ファン ダイク(オランダ)
新添が左、ファンダイクが右組みのケンカ四つ。新添が上から奥襟を持ち、ファンダイクが下から脇を差す形で試合が進行。新添が一方的に左内股で攻めるが、ファンダイクが脇を突いて距離を取るため投げ切るまでには至らない。1分43秒、守勢のファンダイクに「指導」。以降も全く同じ展開のまま本戦が終了、試合はGSの延長戦へと持ち越される。この時点でファンダイクのみに「指導1」が与えられており、新添は「指導」1つまで失ってもよい状況だ。GS25秒、場外際でファンダイクが手数を稼ぐための浅い右浮腰を仕掛けようとするとそれに合わせて新添が左内股。ちょうど両者の技がかち合う形となりファンダイクは背中から転がり落ちて「技有」。決して冴えた戦いぶりとは言えなかったが、格下をしっかり下した新添が3位を確保した。

【決勝】

新井千鶴〇横四方固(3:36)△マリーイヴ・ガイ(フランス)
新井が左、ガイが右組みのケンカ四つ。ガイ激しく奥襟を叩くが新井は冷静に対処、背中を持ち返して引き手を求めつつ、左内股で攻める。続く展開ではガイが先に引き手を確保。奥襟を叩いて前に出るが新井は引き手を外側から持ち返し、ガイを呼び込みながら相手の前進ステップを掬う形で左内股。タイミングでパワー差を無力化するこれぞ「足技」の内股、着地を抜き上げられたガイ耐えられず宙を舞い1分25秒「技有」。失点したガイはこれしかないとばかりに奥襟を確保、力任せに新井の頭を下げさせようとするが新井は正面から対峙して釣り手を外側から高く持ち続ける。するとガイはこれを嫌い、釣り手をいったん離して持ち替えるミス。新井見逃さず膝裏めがけて左大外刈を叩き込み2分1秒「技有」追加。回転し過ぎて「一本」を逃したという体の強烈な一撃だった。新井は続く展開でも谷落で尻餅を着かせるなどパワー自慢のガイを翻弄。3分15秒にはガイが鋭い右内股、新井崩れかけるが外側に移動して透かし、なんとここから一瞬で立ち直って振り向きざまに左大内刈。ポイントにはならなかったがガイはかわしようなく、体を開いたまま浴びせられてノーガード状態。新井労せず横四方固に抑え込み「一本」。新井はまさしく完勝、地力の強さゆえに相手が勝手にミスを犯し、よって自身の技が決まりやすいという好スパイラル。昨季までとはまったく違う逞しい戦いぶりは、一段大きな階段を登ったと感じさせるものであった。

【日本代表選手勝ち上がり】

新井千鶴(三井住友海上)
成績:優勝


[2回戦]
新井千鶴〇GS技有・隅落(GS0:51)△アンナ・ベルンホルム(スウェーデン)
左相四つ。しかしベルンホルムほぼ完全な右組みの形となって右手一本で片手対峙、時折新井の引き手をかいくぐっては左をクロスの形に叩き入れながら、本来の左組みへのスイッチを図る。試合は終始新井が圧倒、両襟の左内股で潰した1分25秒にはベルンホルムに「指導1」。さらに片手の左小内刈で転がし、左大内刈で倒れた相手にポイント成立を狙って体ごと乗り込むこと2度、寝技でも「腰絞め」に横三角と攻めに攻めまくる。具体的なポイントに至らずも、長い寝勝負が終わった残り12秒でベルンホルムに「指導2」。直後新井が左小内刈で転がしたところで本戦は終了、試合はGS延長戦へ。本戦終盤の攻防に手ごたえを得た新井は左小内刈で相手を転がし続け、ベルンホルムはもはや精神的に死に体。唯一の武器であるクロス組み手の左内股巻込に打って出るが、低空で放たれたこの技を新井余裕をもってめくり返し「技有」。これで勝負あり。地力に勝る新井の完勝であったが、これだけ一方的に攻めていてもGS延長戦を戦わねばならない新ルールの恐ろしさ、強気の両襟組み手に活路を見出した新井の精神的成長、しかし両襟ゆえに回旋が足りず取り切れない技術的課題と色々なものが見えた一番。

[準々決勝]
新井千鶴〇縦四方固(2:09)△スザンドラ・ディードリッヒ(ドイツ)
新井が左、ディードリッヒが右組みのケンカ四つ。両袖の形になるとディードリッヒ出足払を駆使して巧みに新井に場外を背負わせ、回り込もうとする新井に蓋をし続ける。この策が功を奏し、主審は新井に両袖で防御した咎で42秒「指導」を宣告。出だしで油断した格好の新井はここから落ち着いて試合を再構築、釣り手を持って前進するとディードリッヒは下がりながら巻き込みに潰れ「待て」。精神的に優位に立った新井は追い込みながら二段の出足払でディードリッヒを転がし、伏せた相手を釣り手を効かせてめくり返す。足を絡ませておき、相手の上側に体を乗り込ませ、腕を固め、足を引き抜いてと粛々手順を進行し、最後は相手の左腕に食いつく形の縦四方固で「一本」。

[準決勝]
新井千鶴○内股(1:51)△サンネ・ファンダイク(オランダ)
新井が左、ファンダイクが右組みのケンカ四つ。新井は組み手巧みに間合いを管理、左足車で2回ファンダイクを畳に伏せさせる。新井は釣り手が非常に利いており、釣り手の返しだけでファンダイクを完全にコントロール。1分51秒、ファンダイクが低い右小外刈を仕掛けると、新井は後ろ回りさばきで腰を切り、ぶら下がる形で膝を着いたファンダイクを跳ね上げる。新井が相手の体を乗り越えるようにしてハンドル操作を加えるとファンダイクは背中からペタンと畳に落ちて「一本」。展開から決めまで文句のつけようのない、まさしく快勝。

[決勝]

新井千鶴〇横四方固(3:36)△マリーイヴ・ガイ(フランス)

※前述のため戦評省略

新添左季(山梨学院大2年)
成績:3位


[2回戦]
新添左季○棄権(3:42)△バーバラ・ティモ(ブラジル)
※負傷により相手が棄権
新添が左、ティモが右組みのケンカ四つ。組み際にティモが先制の右背負投、新添は形上崩れこそすれど、余裕を持ってこの技をしのぐ。新添は長いリーチを利用して遠間から自分の形を作っては得意の左内股で度々ティモを畳に伏せさせ、1分40秒に仕掛けられた組み際の左一本背負投も懐でさばいてまったく動じない。2分12秒、新添が左内股を試みた直後ティモに「指導」。2分39秒、場外際でティモが右外巻込を仕掛けるが新添はまたもや余裕をもって懐で処理、長い手足を生かして相手の技をことごとく無力化する。3分1秒には新添の引き手を嫌ったティモに2つ目の「指導」。3分30秒、ティモが抱きつきの右小外掛を仕掛けると新添は左大内刈に切り替えして「技有」を獲得。投げられた際にティモは頭を打ったようでそのまま棄権。終始自分のペースで戦った新添が順当に初戦を突破した。


[準々決勝]
新添左季△小外掛(1:40)〇マリーイヴ・ガイ(フランス)
新添が左、ガイが右組みのケンカ四つ。グランドスラム東京では新添が内股「一本」、続くグランドスラムパリではガイが一方的に勝利しているという背景のある一番。新添組みながら左内股を仕掛けるがガイは動ぜず。ガイが奥襟を掴むと新添は頭が下がってしまい、苦しい形を逃れるべく左内股巻込に潰れる。主審これは見逃さず、50秒「極端な防御姿勢」のゼスチャーで新添に「指導」を宣告。新添は支釣込足を起点に良い位置を持とうとするが、ガイに奥襟を掴まれると思わず防御に傾倒、釣り手で脇を差して頭を下げるもっとも悪い形で対応してしまう。これを受けて1分28秒またもや「極端な防御姿勢」の判断が下り新添に「指導2」。続く展開もガイが奥襟を掴むと新添は脇を差して我慢、ひとまず腰の差し合いの形で大内刈様に左足を差し入れるが、予期したガイは時計周りに体を捌いて小外掛。中途半端に入っていた左足が致命傷、新添背中から真っ逆さまに畳に落ちて「一本」。
遮二無二投げを狙うことが魅力であり怖さの新添だが前回対戦の一方的な敗戦で怖じたか、この試合はひとまず展開を先送りして畳に居残ろうとする刹那的な柔道。技一発の威力で力関係を飛び越えた初対戦を再現しようとの気概は感じられず、この試合もガイの圧勝であった。

[敗者復活戦]
新添左季○優勢[技有・内股]△サラ・ロドリゲス(スペイン)
新添が左、ロドリゲスが右組みのケンカ四つ。引き手争いが続き、31秒両者に「指導」。直後の35秒、新添は組みつきながらの左「ケンケン内股」でロドリゲスを乗り越えるように投げて「技有」を獲得する。ロドリゲスは右一本背負投に肩車でチャンスを見出そうとするが、新添は全く動ぜず、相手に技を仕掛けられたことなど忘れたかのように左内股で一方的に攻め続ける。2分2秒、新添は左内股でロドリゲスを伏せさせると素早く押し込んで「技有」を追加。そのまま移行した崩袈裟固はすぐに解かれてしまったが、試合はワンサイドゲームとなる。いよいよ後のないロドリゲスはここから追い上げを掛けるが、新添は釣り手を突き、懐で相手を空回りさせてと全くつけ入る隙を与えない。結局このまま時間が経過し続け、左一本背負投で掛け潰れたロドリゲスを新添が抑え込み掛けたところで試合が終了。新添が圧勝で3位決定戦進出を決めた。

新添左季○GS技有・内股(GS0:25)△サンネ・ファン ダイク(オランダ)
※前述のため戦評省略



文:林さとる(編集:古田英毅)
戦評:林さとる、古田英毅

※写真は権利者の許可を得て掲載しています

※ eJudoメルマガ版3月3日掲載記事より転載・編集しています。

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