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グランプリ・デュッセルドルフ2017第1日5階級レポート

(2017年2月27日)

※ eJudoメルマガ版2月27日掲載記事より転載・編集しています。
第1日5階級(男子60kg級、66kg級、女子48kg級、52kg級、57kg級)レポート
グランプリデュッセルドルフ2017
■ 60kg級・ガンバットが落ち着いた戦いぶりでハイレベルトーナメント制す、スメトフ破る殊勲果たしたフェリペ・ペリムが3位入賞
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60kg級決勝、ガンバットはパピナシビリを組み止めて試合をスローダウン

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決勝、ガンバットがパピナシビリから浮落「技有」

(エントリー27名)

【入賞者】
1.GANBAT, Boldbaatar(MGL)
2.PAPINASHVILI, Amiran(GEO)
3.DASHDAVAA, Amartuvshin(MGL)
3.PELIM, Phelipe(BRA)
5.GARRIGOS, Francisco(ESP)
5.MCKENZIE, Ashley(GBR)
7.BESTAEV, Otar(KGZ)
7.KHYAR, Walide(FRA)

第1シードのイェルドス・スメトフ(カザスタン)、第4シードのガンバット・ボルドバータル(モンゴル)の両世界王者をはじめ、第2シードのダシュダバー・アマーツブシン(モンゴル)、第3シードのアミラン・パピナシビリ(ジョージア)と非常に役者が揃ったトーナメント。昨年の欧州王者ワリーデ・キア(フランス)のエントリーもあり、様相は準世界選手権と言ったところ。

優勝はガンバット。2回戦でマルセル・バイゾン(ドイツ)から左小内刈と縦四方固で2つの「技有」を奪って勝利、キアとマッチアップした準々決勝は試合中にキアが右足を負傷して棄権して勝ちを得、準決勝はダークホースのフェリペ・ペリム(ブラジル)をGS1分23秒に挙げた隅落「技有」で破って決勝進出。パピナシビリを畳に迎えた決勝も常にマイペース、相手の密着志向に応じず落ち着いて試合を進め、相手の隅返を見極めた浮落「技有」で勝負を決めた。勝ちぶりは決して派手ではなかったが、高速化激しい軽量級にあってジワリと前に出て組み手を作り、自分のスピードまで相手を引きずり降ろして体の力を生かすといういかにもガンバットらしい戦いぶり。内容低調ながら3位に入賞した僚友ダシュダバーとともに、久々モンゴルのベテラン2人がしっかり成績を残した大会であった。五輪前の2年間の過酷な国際大会連続派遣ですっかり「使い減り」した感あり、五輪代表も逃してしまった両者だが休養期間を経て少々復活の気配。

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3位決定戦、フェリペ・ペリムがフランシスコ・ガリーゴスを攻める。

というわけでガンバット、パピナシビリ、ダシュダバーという鉄板の強豪3人が表彰台に上がったわけだが、大会を通じて目立っていたのはこの一角に堂々食い込んで銅メダルを獲得した前述フェリペ・ペリムの活躍。初戦を勝ち抜くと2回戦では第1シードのスメトフを真向からの左大外刈「技有」で破る殊勲を挙げ、準々決勝ではアスレイ・マッケンジー(イギリス)をGS延長戦の末に左小外刈「技有」で破り、3位決定戦ではフランシスコ・ガリーゴス(スペイン)をこれも延長戦の末に見事な谷落「一本」で破った。ペリムは27歳と決して若くはないが、2015年のグランプリ・ザグレブ(5位)以来久々与えられたワールドツアー出場のチャンスを生かすべく集中力高く、随所にキラリと光る動きを発揮。倒したメンツの良さからしても3位入賞は妥当と言える。ブラジル勢はロンドン五輪直後も国内の序列再編期に燃えた新人たちが良い成績を残し続けた(そののち継続派遣で疲弊してしまったが)経緯があるが、今シーズンもその気配あり。以後も一定の注意を払っておく必要があるかと思われる。

スメトフは決して悪い出来ではなく随所にその身体能力の高さを見せたが、投げ際の詰めに欠けて五輪決勝以来の国際試合を飾れず。ペリムのブレイクのお膳立てをした格好とってしまい、評価の難しい大会だった。

キアは横三角を試みて相手の脇に右足を立てて突っ込んだところ、つま先が畳に引っかかったままガンバットに押し込まれて悶絶。足首か、悪くすると膝を痛めた様子で簡単に復帰できるケガではないと推測される。控えめに言って欧州選手権連覇は難しい状況。

入賞者と準々決勝と準決勝の結果、決勝ラウンドの戦評は下記。日本選手の派遣はなかった。

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60kg級入賞者。左からパピナシビリ、ガンバット、ダシュダバー、ペリム。

【準々決勝】

フェリペ・ペリム(ブラジル)〇優勢[技有・小外刈]△アスレイ・マッケンジー(イギリス)
ガンバット・ボルドバータル(モンゴル)〇棄権(1:42)△ワリーデ・キア(フランス)
ダシュダバー・アマーツブシン(モンゴル)〇GS指導1(GS4:44)△オタル・ベスタエフ(キルギスタン)
アミラン・パピナシビリ(ジョージア)〇優勢[技有・浮腰]△フランシスコ・ガリーゴス(スペイン)

【準決勝】

ガンバット・ボルドバータル(モンゴル)〇優勢[技有・隅落]△フェリペ・ペリム(ブラジル)
アミラン・パピナシビリ(ジョージア)〇崩袈裟固(2:46)△ダシュダバー・アマーツブシン(モンゴル)


【3位決定戦】

ダシュダヴァー・アマーツブシン(モンゴル)〇GS技有・隅返(GS1:01)△アシュレイ・マッケンジー(イギリス)
ダシュダヴァーが右、マッケンジー左組みのケンカ四つ。一貫してダシュダヴァーが前に出て捕まえようと試み、マッケンジーが肩車や背負投に潰れながら時間を消費しては、相手の突進に捨身技のカウンターを合わせるという展開。1分12秒、業を煮やしたダシュダヴァーの突進にマッケンジーがあっさり畳を割る。マッケンジーの「場外」かと思われたがこれは逆にダシュダヴァーに押し出しの「指導」。主導権を握りながら形上ビハインドとなってしまったダシュダヴァーだがしかし動ぜず手立てを変え、相手の前で組まずに反転して内股を入れ、振り向きながら奥襟を叩いて「サリハニ」状態を作り出すという手立てで相手を捕まえに掛かり、ここから隅返を狙うことを繰り返す。GS延長戦、ダシュダヴァーはこの組み手を数度繰り出すと1分過ぎに同じパターンでマッケンジーをついに捕まえて、隅返一発。踏み込み深くほとんど真捨身技と言って良いほどの角度で放った一撃は「技有」。ダシュダヴァーが戦術派マッケンジーを逃がさず、しっかり投げて実力差を見せつけた。

[3位決定戦]
フェリペ・ペリム(ブラジル) ○GS谷落(GS2:04)△フランシスコ・ガリーゴス(スペイン)
左相四つ。試合開始からひたすら釣り手の絞り合いが続き、1分16秒両者に「指導」。これ以降も同様に投げの気配が感じられない組み手の攻防が続き、2分18秒には両者に2つ目の「指導」が追加される。双方後がなくなったことでさすがに技が出るようになるが、リスクの少ない捨身技や掛け潰れの技が続き、投げが決まる気配は相変わらず漂わず。このまま本戦の4分間が終了し勝負はGSの延長戦へ。GS36秒にペリムに「指導」が与えられるがこれは取り消し。最後はGS2分4秒にペリムが前技フェイントからの谷落で「一本」を奪って勝負を決めた。膠着した試合も最後は技で決着する、「投げたものが勝つ」という新ルールの特性が出た一番。ただしプロセスの退屈さには結果オーライと割り切りがたいものもまた感じさせた。

【決勝】

ガンバット・ボルドバータル(モンゴル)〇優勢[技有・浮落]△アミラン・パピナシビリ(ジョージア)
ガンバットは右、左右の利くパピナシビリは左構えで試合をスタート。パピナシビリ開始と同時に飛び掛かり、左を奥襟、脇と激しく行き来して元気いっぱい。しかしガンバットはあくまでゆっくり低く構えてジリジリ前進、一切自分のスピードでしか柔道を行わず次第にパピナシビリをペースに巻き込んでいく。試合はガンバットの意図通りに減速され1分13秒双方に「取り組まない」咎による「指導」。相手のフィールドであるスローペースに焦ったパピナシビリは左で背中を抱えて出し投げ様の左浮腰、ここから隅返に体を閃かせようと試みる。しかし前に崩されたガンバットは表情を変えず体を捨てる相手に被り、右釣り手を相手の体の内側に入れてこじりつつ、体ごと押し込んで「技有」。この時点で経過時間は1分57秒、以後もガンバットの我儘なスローペースにパピナシビリは試合を壊せず、奥襟圧力で「指導」1つを奪回するのがやっと。ガンバットはあくまで無表情のまま、最後は引き手一本で袖を握り、出足払で相手を危険距離から打ち払ってフィニッシュ。「技有」優勢で勝利を決めた。

■ 66kg級・豪快な腰技連発したマルグベラシビリが優勝、磯田範仁は惜しくも頂点に届かず
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66kg級決勝、マグベラシビリが磯田範仁から内股「技有」

(エントリー30名)

【入賞者】
1.MARGVELASHVILI, Vazha(GEO)
2.ISODA, Norihito(JPN)
3.FLICKER, Tal(ISR)
3.KHAN-MAGOMEDOV, Kamal(RUS)
5.OLEINIC, Sergiu(POR)
5.SHMAILOV, Baruch(ISR)
7.DOVDON, Altansukh(MGL)
7.VIERU, Denis(MDA)

実力的には優勝候補の筆頭と目されたダバドルジ・ツムルクフレグ(モンゴル)が初戦敗退。売り出し中のタル・フリッカー(イスラエル)に左背負投で2つの「技有」を奪われ、まったく良いところがなかった。形上良い組み手を得るも生命線の圧力が利かず失点の場面では棒立ち、受けの意外な脆さというこの選手の負の側面が露骨に出てしまった試合であり、ベテラン2人がひさびさ持ち味を発揮した60kg級のモンゴル勢とは対照的な結果。

優勝は第3シードのヴァスハ・マルグベラシビリ(ジョージア)。1回戦でマヌエル・シャイベル(ドイツ)を「指導3」の反則、2回戦でボジダール・テメルコフ(ブルガリア)をいわゆる「やぐら投げ」による「一本」、勝負どころの準々決勝はカマル・ハンマゴメドフ(ロシア)を左小外掛から繋いだ左大腰「一本」で一蹴し、準決勝は前述のフリッカーから左釣腰、右大腰、左釣込腰と3つの「技有」を奪う圧勝で決勝に進出。決勝では日本代表の磯田範仁(国士舘大3年)を密着志向で追い詰め、GS延長戦の右内股「技有」で優勝を決めた。左右が効き、密着に強く、腰技に威力を持つというこれぞジョージア系選手という勝ちぶり、決勝では磯田の粘戦に根負けしない集中力の高さも見せた。昨年の欧州選手権制覇以降はリオ五輪(初戦敗退)も含め振るわなかったが、休養期間を経た先日のグランドスラム・パリ大会では3位入賞としっかり結果も出しており存在感アップ。控えめに見てもツアーの上位定着は間違いないところで、23歳という年齢を考えれば今後階級の主役を張る存在に成長する可能性も十分かと思われる。

磯田は2回戦でシャーレス・チバナ(ブラジル)、準々決勝でグランドスラム東京で苦杯を喫した今大会第1シードのドフトン・アルタンスフ(モンゴル)と強敵との連戦をしっかり勝ち抜いたが、あと一歩及ばなかった。

入賞者、準々決勝と準決勝の結果、決勝ラウンドおよび磯田の全試合の戦評は下記。

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66kg級入賞者、左から磯田、マグベラシビリ、フリッカー、ハンマゴメドフ。

【準々決勝】

磯田範仁○GS技有・袈裟固(GS2:46)△ドフトン・アルタンスフ(モンゴル)
バルフ・シャミロフ(イスラエル)〇優勢[技有・大外刈]△セルジュ・オリエニッチ(ポルトガル)
タル・フリッカー(イスラエル)〇小外掛△(3:30)△デニス・ヴィエル(モルドバ)
ヴァスハ・マグベラシビリ(ジョージア)〇大腰(0:47)△カマル・ハンマゴメドフ(ロシア)

【準決勝】

磯田範仁○横四方固(3:18)△バルフ・シャミロフ(イスラエル)
ヴァスハ・マグベラシビリ(ジョージア)〇優勢[技有・釣腰]△タル・フリッカー(イスラエル)

【3位決定戦】
タル・フリッカー(イスラエル)〇優勢[技有・背負投]△セルジュ・オリエニッチ(ポルトガル)

フリッカー、オリエニッチともに左組みの相四つ。両袖の形が多くなり膠着気味であったが45秒フリッカーが突如加速、釣り手で片襟を差しながら長身の体を投げ出すように左背負投に打って出て「技有」獲得。以後も試合は組み手争いが主戦場、フリッカーに「指導」1つ、残り35秒では相手の背負投に足を掴んで対応してしまったオリエニッチにも足取りの咎で「指導」1つが宣告される。後のないオリエニッチ突進するがフリッカーはこれをもちろん予期済み、左背負投で迎え撃って背中に吸い付けるともろともゆったりと転がり「技有」追加。以降ポイントの積み上げなくタイムアップ。

カマル・ハン マゴメドフ(ロシア)○浮腰(1:27)△バルフ・シャミロフ(イスラエル)
ハンマゴメドフが左、シャミロフが右組みのケンカ四つ。ハンマゴメドフは釣り手で相手の上腕を持つモンゴル組み手で試合をスタート。序盤はハンマゴメドフが立て続けにピンチ、まず20秒に右小外刈からの右内股を透かされる危機を腹ばいでなんとか逃れ、45秒にはシャミロフ得意の肩車で一瞬浮かされるも、今度も腹ばいで逃れてノーポイント。危機を回避したハンマゴメドフは1分18秒に大勝負、浅く脇を差し合っての攻防から一度右小外刈を打って、続いて本命の右浮腰を仕掛ける。右小外刈によって一瞬棒立ちになっていたシャミロフは形のようにきれいな軌道で勢い良く畳に叩きつけられ、主審は「技有」を宣告。当然これは「一本」に訂正となり、1分27秒ハンマゴメドフの勝利が決まった。序盤の攻防から判断するに、どうやらハンマゴメドフは一貫して小外刈で相手を剛体にしての技を狙っていた模様。非常に柔道らしい、素晴らしい投げのダイナミクスを披露したハンマゴメドフが見事3位を獲得した。

【決勝】
ヴァスハ・マグベラシビリ(ジョージア)〇GS技有・内股(GS0:09)△磯田範仁
磯田は左、左右の利くマグベラシビリは左構えの右組みで試合をスタート。しっかり持って自分の間合いで戦いたい磯田に対しマグベラシビリは構えを変えながら密着志向、磯田がやや嫌うと右体落に右背負投と技を積んで1分15秒磯田に「指導」。苦戦の磯田、得意の小外刈を良いタイミングで出せた場面は2分16秒の一撃のみ、左体落から展開した寝勝負も取り切れず、試合は形上拮抗も一貫して主導権はマグベラシビリが掌握。打開を期した磯田は残り40秒を切ってから両襟を高く握る組み手を展開、相手がこれを嫌気して光明見えたかに思われたが、マグベラシビリは左で背を叩いてからスイッチしての右体落というジョージア選手らしい組み立てでこれを突破。結局試合はマグベラシビリ優位のままGS延長戦へ。延長開始早々、マグベラシビリは奥襟を叩くなり右を脇に差し替えながら、回り込むような右内股。回旋に体が沿ってしまった磯田転がって「技有」。磯田の粘戦実を結ばず、マグベラシビリの優勝が決まった。

【日本代表選手勝ち上がり】

磯田範仁(国士舘大3年)
成績:2位

[2回戦]
磯田範仁○反則(4:57)△アレクサンドル・マリアク(フランス)
※関節を極めながら投げようとした行為によるダイレクト反則負け
磯田が左、マリアクが右組みのケンカ四つ。マリアクは釣り手で磯田の上腕を持ち距離を取って試合を展開、巴投や隅返の先制攻撃で「指導」奪取を狙う作戦。2分15秒、磯田は引き手の攻防に相手の意識を向けさせておき、膝裏に絶妙な左小外刈を打って相手を伏せさせる。マリアクが尻からうつ伏せに落ちたためにポイントにはならなかったが、この一撃で試合の流れは一気に磯田へ。しかし、マリアクもすかさず「投げることは出来ないが優位を演出できる」崩し技である股中への右体落で磯田を伏せさせ、形上は展開を譲らない。さらに続く展開でマリアクが場外に出ながら右内股、これまたすぐに手を離し投げる気はゼロであったが、主審は3分11秒磯田に「指導」を宣告。旧ルールであればピンチだが「指導2」までは試合が決まらぬ新ルールでは決定的な問題ではなく、磯田は以後も落ち着いてペース乱さず試合を続行。そして3分49秒、延長戦に向けて試合を流しに掛かったマリアクが磯田の釣り手を極めたまま右内股で掛け潰れ、これがダイレクトの「反則」となって唐突に試合は終わった。磯田は生命線である足技がキレており落ち着いた戦いぶり。スコア上はともかく大枠危なげのない試合ではあった。一方敗れたマリアクは全く新ルールに対応できておらず、「指導」で試合を拾おうという時代遅れの戦術。残り1分からはGS延長戦の有利をにらんでとりあえず手数を積もうという魂胆が見え見えであったが、ここに今IJFが神経過敏に取り締まっている腕を極めながらの技を混ぜ込んで自滅するというまったくの悪手。フランスの、シーンの最前線を走る強豪たちと「それ以外」の情報格差が見えた感ありの一番であった。

[3回戦]
磯田範仁○横四方固(3:20)△シャーレス・チバナ(ブラジル)
磯田が左、チバナが右のケンカ四つ。両者ともに腰を引いて相手の様子をうかがう慎重な立ち上がり。磯田は得意の左小外刈で相手を伏せさせると「国士舘返し」から抑え込みを狙うが、ここはチバナが足を絡んで耐えて「待て」。直後の展開、今度はチバナが飛びつきの腕挫十字固に打って出て反抗、磯田は反応良くこれを潰して回避。序盤から双方が持ち味を発揮する好試合である。1分30秒、組み手の攻防からチバナが得意の右背負投に飛び込むと、股中への侵入を許してしまった磯田は大きく崩れて顔面から畳に着地、主審はこの攻防にチバナの攻勢を認めて磯田に「指導」を宣告する。2分20秒、磯田は引き手争いから得意の左小外刈でチバナを畳に伏せさせ寝技を展開、「国士舘返し」で相手を引き込み、足を抜いて横四方固で抑え込む。チバナはブリッジで逃れようとするが肩が極まっており万事休す。20秒間抑え込んだところで主審が「一本」を宣告し、磯田の3回戦突破が決まった。

[準々決勝]
磯田範仁○GS技有・袈裟固(GS2:46)△ドフトン・アルタンスフ(モンゴル)
磯田が左、ドフトンが右組みのケンカ四つ。距離を取りたい磯田と密着したいドフトンという構図で試合が進行。磯田は釣り手のみを持っての左小外刈で何度もドフトンを伏せさせ「国士舘返し」からの縦四方固を狙うが、いずれの場面も足が抜けずに抑え込むことができない。磯田は試合の大半を支配するが、ドフトンが小さな山場を作った1分30秒と3分22秒にそれぞれ磯田に不可解な「指導」が宣告されるという不運。結局本戦では決着がつかず勝負はGSの延長戦へ。この時点で磯田のみに「指導2」が与えられており、ドフトンは「指導」2つまで失ってもよい状況。GS27秒、磯田はドフトンの右大内刈に左小外刈を合わせ、隅落の形でめくり返す。ポイントが想起される、というよりももはや「技有」が入らない理由が見つからない一撃だったが、これも不運なことにノーポイント。延長戦でも磯田は度々「国士舘返し」からの縦四方固を狙うがいずれも不発。GS1分50秒、磯田は左小外刈で一段深く入り込みドフトンを大きく崩して畳に伏せさせる。ここで磯田はこれまで狙い続けてきた得意の「国士舘返し」ではなく送襟絞の形でドフトンを転がすと、上に登りながら足を抜いて崩袈裟固。不十分な形であったために途中で逃がしてしまったが11秒抑え込んで「技有」を獲得する。これで試合終了、磯田が合計6分46秒におよぶ大消耗戦を制してドフトンにリベンジを果たした。圧倒的に攻めながらスコアでは不利をかこち続けるという、苦しい試合を勝ち切った磯田のメンタルの強さが光った一番。

[準決勝]
磯田範仁○横四方固(3:18)△バルフ・シャミロフ(イスラエル)
左相四つ。磯田は左大外刈に右袖釣込腰と連続で技を出していきなり山場を演出。しかしこの攻防を受けてシャミロフは警戒を強め、ここからは試合やや膠着。1分38秒、組み負けていたシャミロフが片襟になると主審は見逃さず「指導」を宣告。しかし直後の1分58秒にはシャミロフの奥襟を嫌って防御姿勢を取った磯田にも「指導」が与えられ、試合はあっさり振り出しへと戻ってしまう。以後試合は一段ペースアップ、シャミロフが場外際で仕掛けた左大外刈に磯田が大外返を狙うと、シャミロフは磯田の帯を持って強引な右移腰に打って出る。あまりに強引な技だったために決まらなかったが、持ち上げられた磯田が円を描くように振り回されて畳に伏せる、背筋が寒くなるような一発だった。しかし磯田は全く怯む様子を見せずに片襟の左大外刈で相手の懐深くまで侵入、シャミロフが裏投を狙うと磯田は河津掛けの位置に足を当てて防御し、反対にシャミロフを伏せさせて「国士舘返し」から寝技を展開する。足を抜いて横四方固で抑え込むと上体を固められたシャミロフはなす術なし、磯田が横四方固「一本」で決勝進出を決めた。

[決勝]
磯田範仁△GS技有・内股(GS0:09)〇ヴァスハ・マグベラシビリ(ジョージア)

※前述のため戦評省略

■ 48kg級・渡名喜風南がしっかり優勝、世界選手権代表奪取の態勢整う
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48kg級決勝、渡名喜風南がクレモントを抑え込む。

(エントリー21名)

【入賞者】
1.TONAKI, Funa(JPN)
2.CLEMENT, Melanie(FRA)
3.MINSKER, Noa(ISR)
3.UNGUREANU, Monica(ROU)
5.NIKOLIC, Milica(SRB)
5.VAUGARNY, Melodie(FRA)
7.CHERNIAK, Maryna(UKR)
7.RISHONY, Shira(ISR)

日本代表の渡名喜風南(帝京大3年)がしっかり優勝。

昨年のグランドスラム東京から連続参戦していたジョン・ボキョン(韓国)とムンフバット・ウランツェツェグ(モンゴル)の強豪2人がツアーから去って、トーナメントにはこれぞという強敵が誰もいない状況。渡名喜にとっては勝利必須で逆に圧が掛かる大会であったが、全試合を一本勝ち(1試合を「指導3」の反則)という満点回答で見事表彰台の真ん中に立って見せた。

この日は立ち技から寝技の移行の早さが冴え、一本勝ちは全て抑え込みによるもの。4戦通じて相手に展開を渡す場面はほとんど全くなく、粘戦傾向の相手には判断早く戦術を変えて手数を取りに掛かるクレバーさも発揮。渡名喜の良さばかりが目立った大会であった。

入賞者、準々決勝と準決勝の結果、決勝ラウンドおよび渡名喜全試合の戦評は下記。

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48kg級入賞者。左からクレモント、渡名喜、ウングレアヌ、ミンスカー。

【準々決勝】

メラニー・クレモント(フランス)〇GS反則[指導3](GS1:03)△ミリカ・ニコリッツ(セルビア)
モニカ・ウングレアヌ(ルーマニア)〇優勢[技有・浮落]△マリナ・チェルニアク(ウクライナ)
ノア・ミンスカー(イスラエル)〇優勢[技有・袖釣込腰]△メロディ・ブガーニイ(フランス)
渡名喜風南○崩袈裟固(1:50)△シラ・リショニー(イスラエル)

【準決勝】

メラニー・クレモント(フランス)〇優勢[技有・大外刈]△モニカ・ウングレアヌ(ルーマニア)
渡名喜風南○反則[指導3](3:08)△ノア・ミンスカー(イスラエル)

【3位決定戦】

ノア・ミンスカー(イスラエル)○優勢[技有・裏投]△ミリカ・ニコリッチ(セルビア)
ミンスカーが左、ニコリッチが右組みのケンカ四つ。ニコリッチが奥襟を得て密着を狙い、ミンスカーが担ぎ技を仕掛けてこれをしのぐという構図。1分29秒主審はニコリッチの攻勢を認めてミンスカーに「指導」。1分50秒、伏せたミンスカーにニコリッチが被さって寝技を狙うとミンスカーは肩車風にニコリッチを持ち上げて投げる場面を作るが、これは寝姿勢の攻防と判断されてノーポイント。ここからは再び動的膠着、ニコリッチのパワーをミンスカーが掛け潰れていなす展開が続く。3分23秒、勝負を焦ったニコリッチがクロスグリップから強引な右釣込腰を放つとミンスカーは伏せたニコリッチを引き起こして裏投一発、「技有」を獲得する。引き続いての寝技の攻防が終わった時点で試合時間はほとんど残されておらず、そのままミンスカーが勝利した。

モニカ・ウングレアヌ(ルーマニア)〇小外掛(1:03)△メロディ・ブガーニイ(フランス)
ウングレアヌが左、ブガーニイ右組みのケンカ四つ。ウングレアヌが釣り手で背中を抱えるとブガーニイも脇を差して応じ、のっけから待ったなしの密着戦。ウングレアヌはいったん離れて抱きつきながら左大内刈を引っ掛け、さらに両脇に持ち替えて帯取返で持ち上げ転がし「技有」獲得。しかしこれはベアハグと判断された模様でポイント取り消し、44秒ウングレアヌにこの反則による「指導」。貴重なポイントを取り消されたウングレアヌだが力関係に自信があるのか動ずる様子は見えず、続く展開では左大外刈で相手を下げると踏み込み深く左小外掛に繋ぐ。相手の中心線まで掛け足が届く豪快な一発は「一本」。ウングレアヌの貫禄勝ち。

【決勝】

渡名喜風南○横四方固(0:57)△メラニー・クレモント(フランス)
左相四つ。小柄な渡名喜に長身のクレモントという対照的な2人の対決。渡名喜はまず両襟で相手を捕まえるところから組み手をスタート。すぐに引き手を袖に持ち替えると、一度右袖釣込腰を仕掛けてから相手の釣り手を抱き込んでほぼ一方的な形を完成、横変形に構える。この形を嫌ったクレモントは強引な左大外刈で打開を図るが、渡名喜は全く崩れず。攻撃準備整った渡名喜はステップを踏んで左小内刈から左大内刈の連続技、しかし左大内刈を空振りしてしまいバランスを崩す。機と見たクレモントここに巴投を仕掛けるが渡名喜は既に素早く体勢を立て直しており、相手の足を避けるとそのまま寝技を展開、めくり返して絡まれた足を抜き横四方固に抑え込む。完全に上体を固められたクレモントはほとんどもがくことすらできず万事休す。渡名喜が圧勝で優勝を決めた。

【日本代表選手勝ち上がり】

渡名喜風南(帝京大3年)
成績:優勝

[2回戦]
渡名喜風南○横四方固(2;32)△ガブリエラ・チバナ(ブラジル)
左相四つ。序盤は組み合うことを嫌ったチバナが左小内刈や座り込みの右一本背負投で手数を取りに掛かり、渡名喜は足を飛ばしながら大外刈で対抗。チバナが右背負投に座り込むと渡名喜は「秋本返し」で抑えに掛かるが取り切れず「待て」、経過時間は1分20秒。続く展開でチバナが組み合うことを嫌うと主審すぐさま「取り組まない」判断の「指導」を宣告、必死で拮抗を演出して来たチバナの意図はあっさり挫かれる。渡名喜は意気消沈したチバナをまず左一本背負投で転がし「技有」獲得。さらに相手の組み際の左小外刈を起点に再び「秋本返し」。今度は伏せかかる相手を馬乗りに制し、左に降りてしっかり抑え切る。チバナ動けず「一本」。

[準々決勝]
渡名喜風南○崩袈裟固(1:50)△シラ・リショニー(イスラエル)
渡名喜が左、リショニー右組みのケンカ四つ。両袖の形が続くが、渡名喜は敢えてそのまま組み手を直さず左大内刈に小外刈、左袖釣込腰で攻めて主導権を確保。1分過ぎ、渡名喜の左背負投をきっかけに試合は寝勝負へ。渡名喜は粘る相手をあくまで「秋本返し」でめくり続け、伏せた相手を跨いで左から抑え込む。リショニーは根負け、そのまま「一本」。

[準決勝]
渡名喜風南○反則[指導3](3:08)△ノア・ミンスカー(イスラエル)
渡名喜が左、ミンスカーが右組みのケンカ四つ。力関係の不利を良く知るミンスカーは左一本背負投に潰れては寝技に誘い、手数を稼ぎつつ結末を先送りしてチャンスを探す構え。渡名喜組み手を得ては小外刈などで攻めるが、あくまで組み合おうとしないミンスカーを見て的確に方針を転換。組み手不十分ながら大内刈から体落、さらに小外刈に大内刈と攻めをまとめて1分26秒ミンスカーに「指導」。渡名喜は以後もペースを落とさず立っては左体落を中心に大内刈と小外刈、寝ては「秋本返し」と攻めまくり、2分27秒にはミンスカーに「指導2」が宣告される。こうなればもはやミンスカーに渡名喜を止める手立てはなし。大内刈と体落で突進する渡名喜の前に畳を割り、3分8秒場外の咎で「指導3」。ここで試合は終了となった。

[決勝]
渡名喜風南○横四方固(0:57)△メラニー・クレモント(フランス)
※前述のため戦評省略。

■ 52kg級・阿部詩が大技連発、素晴らしい出来でツアー最年少優勝飾る
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52kg級決勝、阿部詩がアマンディーヌ・ブシャーから「技有」獲得

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準々決勝、阿部詩は志々目愛から内股「一本」

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3位決定戦、志々目愛がギリ・コーヘンから内股「一本」

(エントリー20名)

【入賞者】
1.ABE, Uta(JPN)
2.BUCHARD, Amandine(FRA)
3.FLORIAN, Alexandra-Larisa(ROU)
3.SHISHIME, Ai(JPN)
5.COHEN, Gili(ISR)
5.VALENTIM, Eleudis(BRA)
7.GUICA, Ecaterina(CAN)
7.NORDMEYER, Nieke(GER)

阿部詩(夙川学院高1年)と志々目愛(了徳寺学園職)、日本勢2人の出来の良さが際立った1日。

トーナメントは準々決勝で組まれた日本人対決を「一本」で制した阿部がそのまま圧倒的な強さを見せて優勝。初戦から準決勝までを全て投技で一本勝ち、決勝ではひたすら組み手争いに持ち込んで「指導」を狙うチェリャビンスク世界選手権48kg級銅メダリストの21歳アマンディーヌ・ブシャー(フランス)の粘りを正面から投げで粉砕、胸のすくような内股巻込「技有」で叩きつけて勝利を決めた。
IJFによると16歳の阿部の戴冠はワールドツアー史上最年少優勝とのこと。優勝という最高の結果、圧巻の内容に加え国際柔道史に名を刻む最年少記録達成とまさしく阿部は今大会の花形であった。

阿部はこれで国際柔道界のスターの座に躍り出た感あり、実力はもちろんのこと、国内の序列的にも8月のハンガリー世界選手権代表権獲得が現実的に見えて来たという印象だ。女子の「2枠行使」2階級の行方は混沌としているが、欧州シリーズの結果と将来性ある若手の存在を考えれば48kg級と52kg級の軽量2階級への適用は一つ妥当な線。であれば阿部の選出は既に当確圏内という読みすら可能だ。

前述の通りこの日は志々目も絶好調。阿部戦を除く全ての試合を一本勝ちして3位に入賞したが、阿部の光の前に序列的には現状維持に留まることとなってしまった。ただし試合内容はやはり素晴らしく、以後の国際大会派遣の価値は十分との評価を受けると予想する。本人にとっては悔しい結果であろうが、選抜体重別のモチベーションを保つ上でも、価値ある表彰台登攀劇であったと言えるのではないだろうか。

ブシャーは昨年噂された国籍変更の手を採らず、結局今回もフランスから出場。順当に2位入賞は果たしたものの躍進時の思い切りの良さは鳴りを潜め、組み手技術と先手攻撃で地力を水増しして力以上の結果を拾おうとするフランス女子若手グループの競技文化を悪い方向に発揮しているように思われた。78kg級のマドレーヌ・マロンガや70kg級のマリーイヴ・ガイがこの位相から一段抜け出しつつあることに比べ、今後に希望が持ちにくい内容であった。

入賞者と、準々決勝と準決勝の結果、決勝ラウンドおよび日本代表選手全試合の戦評は下記。

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52kg級入賞者。左からブシャー、阿部、志々目、フロリアン。

【準々決勝】

阿部詩〇内股(2:55)△志々目愛
アレキサンドラ ラリサ・フロリアン(ルーマニア)〇内股(2:52)△エカテリーナ・グイカ(カナダ)
ギリ・コーヘン(イスラエル)〇GS反則[指導3](GS1:23)△エレウディス・ヴァレンティン(ブラジル)
アマンディーヌ・ブシャー(フランス)〇優勢[技有・横落]△ニーク・ノルドメイヤー(ドイツ)

【準決勝】

阿部詩〇内股(0:43)△アレキサンドラ ラリサ・フロリアン(ルーマニア
アマンディーヌ・ブシャー(フランス)〇横四方固(2:16)△ギリ・コーヘン(イスラエル)

【3位決定戦】

志々目愛○横四方固(3:17)△ギリ・コーヘン(イスラエル)
志々目が左、コーヘンが右組みのケンカ四つ。志々目はガチャガチャと動き回るコーヘンの粘戦スタイルに手を焼きなかなか十分な形をつくることができない。それでも要所で技を仕掛け続け、1分44秒に両袖の左内股を仕掛けたところでコーヘンに「指導」。以降も組み方を変化させ続けることで決定的な場面を先送りするコーヘンを捕まえ切れない時間帯が続くが、2分24秒に十分な組み手を作り出すとすかさず豪快な左内股で「技有」を奪う。志々目は以降も全く攻めの手を緩めず、直後の展開では右小外掛で掛け潰れた相手を「腹包み」でめくり返して横四方固「一本」。この試合も素晴らしい内容で勝利を決め、表彰台を確保した。

アレクサンドラ ラリッサ・フロリアン〇燕返(1:18)△エレウディス・バレンティン(ブラジル)
フロリアンが左、バレンティンが右組みのケンカ四つ。どちらも長身、やや腰高だが実績のあるフロリアンが安定感に勝る印象。フロリアンが左で背中を叩くとバレンティンは低い右体落を繰り出して対抗するが、フロリアンは左内股に切り返して動ぜず。圧を感じたバレンティンは打開を期して牽制の右出足払、しかしフロリアンはこれを素晴らしいタイミングの燕返に切り返す。まさしく攻防一致、日本でもなかなかお目に掛かれない鮮やかな足技は文句なしの「一本」。

【決勝】
阿部詩○優勢[技有・内股巻込]△アモンディーヌ・ブシャー(フランス)
右相四つ。ブシャーは組み手争いを仕掛けて粘戦を志向するが、阿部は全く付き合わず強引な右内股巻込でブシャーを畳に伏せさせ、技自体の圧力で相手を追い詰める。1分間際、あくまで戦線を釣り手の絞り合いに持ち込もうとするブシャーに対して阿部が再度強引な右内股巻込。ブシャー一度は伏せかけるが死に体となったところに強烈な回旋を食らい、たまらず背中から落ちて「技有」。もはや投げるしか道のないブシャーだが、常に技一発の威力を匂わせる阿部と正面から組むことが出来ず。釣り手の絞り合いでいたずらに時間を消費してしまい2分11秒に両者に「指導」が与えられる。以降も様相変わらず、2分55秒にはブシャーのみに2つ目の「指導」。ブシャーは巧妙に攻勢を装うが誰の目にも阿部の優位は明らか。阿部は最後まで攻撃姿勢を崩さず、残り1秒にも右内股巻込でブシャーを一回転させる(回りすぎてノーポイント)という一方的な戦いぶりのまま優勝を決めた。敗れたブシャーは最後までスクランブルを仕掛けることもなく、組み手争いのみを続けて畳を去った。48kg級でのシニアデビュー時には思い切りのよい試合を見せていたブシャーだが、組み手で武装することに時間を消費して地力を失う、フランスの若手の問題点を象徴するようなスケールの小さい柔道。小手先だけで結果を拾おうとする覚悟なき戦術派を、阿部が正面から技で粉砕した胸のすくような勝利だった。

【日本代表選手勝ち上がり】

阿部詩(夙川学院高1年)
成績:優勝

[2回戦]
阿部詩〇大外刈(1:28)△アリエル・ベザエル(イスラエル)
阿部が右、ベザエル左組みのケンカ四つ。阿部は右袖釣込腰の形に袖を流しながらの右内股で攻め、2度目に放ったこの技で25秒「技有」獲得。さらに組むことを嫌がる相手が釣り手を自ら切った、その切り際に右袖込腰を押し込み「技有」を追加。阿部が引き手を抱き込み釣り手で脇を差すとベザエル変則組み手で耐えて「指導」。直後の1分28秒、阿部再び引き手で相手の腕を抱き込みながら右大外刈、見事決まって「一本」。

[準々決勝]
阿部詩○内股(2:55)△志々目愛
阿部が右、志々目が左組みのケンカ四つ。両者気合十分といった様子で序盤から攻撃志向全開。24秒に志々目が切れ味鋭い左内股を放つが阿部はこれをまたいで回避する。直後の42秒、今度は阿部が両袖からの強引な右袖釣込腰、志々目は大きく崩れながらも左内股の形で足を引っ掛け頭から落ちてポイント失陥を免れる。開始1分でお互いに見せ場を作った格好だが、以後も攻撃志向は衰えずむしろ加速。1分20秒には志々目が強引なケンケンの左内股で阿部を追い込み場外に弾き出す。続く展開で志々目が左背負投を仕掛けると主審は志々目の攻勢を認めて阿部に「指導」を宣告。ここまでは手数で勝る志々目がやや優勢という印象。ビハインドを負った阿部はペースを上げて強引な攻めにシフトチェンジ、突進するように組みつくことで志々目に精神的なプレッシャーを掛け続ける。この戦法が功を制したか志々目は目に見えてペースダウン、この試合初めて組み手争いによる膠着状態が生まれる。2分55秒、阿部は両袖の右袖釣込腰を何度か見せた後、釣り手を襟に持ち替えると一気に速度を上げて強烈な右内股に飛び込む。膠着状態からいきなり叩き込まれた一撃に志々目は反応が間に合わず、頭から一回転するように畳に落ちて「一本」。阿部が絶好調の志々目に完勝、みごと準決勝進出を決めた。

[準決勝]
阿部詩○内股(0:43)△アレクサンドラ ラリサ・フロリアン(ルーマニア)
阿部が右、フロリアンが左組みのケンカ四つ。試合が始まるなり阿部は抱きつきの右大内刈を仕掛け、窮したフロリアンは右外巻込で場外に逃れる。この攻防で阿部を警戒したフロリアンは両袖で腰を引いて防御姿勢、膠着状態が続いたことで30秒に両者に「指導」が与えられる。直後の展開、フロリアンが阿部の釣り手を引き手で抑えながら左釣り手で背中を叩くと、阿部は回りながら釣り手の拘束を外し、脇を掬っての右内股に飛び込む。ケンケンで追いながら腰を入れていき、最後は腰の上を通すように畳に叩きつけてフィニッシュ。文句なしの「一本」で阿部が決勝進出を決めた。

[決勝]
阿部詩○優勢[技有・内股巻込]△アモンディーヌ・ブシャー(フランス)
※前述のため戦評省略

[2回戦]
志々目愛○内股(0:19)△アレシャ・クズネツォワ(ロシア)
志々目が左、クズネツォワが右組みのケンカ四つ。志々目は両襟を得ると左小外刈を打ちながら引き手を袖に移動させ、右大内刈で相手の動きを止めた後に作用足を高々と上げる左内股。これが見事決まって「一本」。志々目はわずか19秒で初戦を突破。

[準々決勝]
志々目愛△内股(2:55)○阿部詩
※前述のため戦評省略

[敗者復活戦]
志々目愛〇大外刈(3:19)△エカテリーナ・グイカ(カナダ)
左相四つ。グイカ両袖で粘着するが志々目は身を起こしながら小外刈を叩き込み鮮やか「一本」。ここまで僅か28秒だったが、主審は開始線に選手を戻すと技の評価を「技有」に訂正して試合は続行となる。以後も志々目はペースを崩さず試合を展開、3分19秒に釣り手で片襟を掴むと両手を抱き込むように操作しながら左大外刈「一本」。

[3位決定戦]
志々目愛○横四方固(3:17)△ギリ・コーヘン(イスラエル)
※前述のため戦評省略

■ 57kg級・ダークホースの地元ストルが優勝、ドルジスレンは戦闘モード切り替え切れず決勝で苦杯
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57kg級決勝、地元ドイツのストルが五輪銀メダリストのドルジスレンを破る

(エントリー21名)

【入賞者】
1.STOLL, Theresa(GER)
2.DORJSUREN, Sumiya(MGL)
3.ROGIC, Jovana(SRB)
3.UDAKA, Nae(JPN)
5.KONKINA, Anastasiia(RUS)
5.MEZHETCKAIA, Daria(RUS)
7.BENARROCHE, Lola(FRA)
7.GNETO, Priscilla(FRA)

ダークホースの地元選手テレサ・ストル(ドイツ)が優勝。組み合わせ配置の良さと対戦が予期された強豪が次々消える巡りの良さにも背中を押され、2回戦でティムナ・ネルソンレヴィー(イスラエル)を抱きつきの右小外刈、準々決勝でダリア・メセトカイア(ロシア)を右内股、準決勝はヨワナ・ロジェ(セルビア)を右小外掛と、全試合をGS延長戦の末の「一本」で勝利して決勝進出。

迎えた本トーナメント最強選手ドルジスレン・スミヤ(モンゴル)との決勝はこれまたGS延長戦に縺れ込んだが、あくまで投げ切って勝ってきたこれまでの試合姿勢が切所で生き、明らかに「指導」差での勝ち抜けを狙う相手に右内股一発。思わず返そうとしたドルジスレンが腰砕けでよろけると、畳に引き落として谷落「技有」を獲得、見事ワールドツアー初優勝を決めた。

ストルは21歳、2015年世界ジュニア選手権5位、2016年欧州U-23選手権1位、昨年のグランドスラム・アブダビでは2位入賞の実績がある。スタミナがあり、投げへの執念があり、互いに消耗した後に仕掛ける一発を保有してとどうやら新ルール対応の条件を満たす選手。今後のツアーでは上位常連に定着する可能性が十分あるのではないだろうか。タイプはまったく違うが、新ルール下突如グランドスラム・パリというビッグタイトルを獲得したクォン・ユジュン(韓国)がこれも新ルールを存分に駆使しての勝利であったことは面白い。57kg級はさながら新ルール対応の品評会の場と化している感ありだ。

一方ドルジスレンは自身のスタイルチェンジの機微と、新旧ルールの狭間に落ち込んで苦杯を喫したという形。もともと担ぎ技で手数を稼ぐ典型的「指導」奪取ファイターであったドルジスレンだが、昨年から投げの力を増して明らかにレベルアップ。松本薫を一発で叩きつけたリオ五輪準決勝はファンの記憶にも鮮やかであるかと思われる。

しかしこの日の勝ち上がりはストルとはまさしく対照的、初戦の一本勝ちの後はプリシラ・ネト(フランス)にGS延長戦「指導1」、さらに宇髙菜絵には大膠着戦の末の「指導2」対「指導3」と強敵相手に反則累積差の辛勝続き。肉体的消耗に加えこの来歴が戦い方に影響を与えないはずはなく、決勝は完全にかつての戦い方である先手掛け潰れによる「指導」奪取戦を志向することとなっていた。それでも戦術を徹底すれば最終的な勝ち逃げは可能であったと思われるが、「指導」1つをリードして迎えたGS延長戦、相手の内股に思わず反応して抱き着き、後の先の技を狙ってしまった。レベルが上がって投げを決めまくった2016年スタイルの肉体的記憶ゆえと思われるが、強豪相手の辛勝連発とGS延長戦突入で肉体は既に消耗し切っており、おそらく頭で描いた動きに体がついてゆかず、腰砕けでよろけて「技有」を失うこととなってしまった。

比較的戦いやすい相手にGS延長戦で投げを決め続けて来たストル、一方難敵相手に「指導」で勝ちあがったドルジスレン。肉体的消耗度の差はもちろん、それまでの勝ちあがりの内容が決勝の作戦志向に与えた影響は大きかった。そして新ルールへの適性に、スタイル確定の有無。決勝は勝負の様々なアスペクトが見えた、ストーリーとして非常に面白い一番であった。

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3位決定戦、宇髙菜絵がダリア・メセトカイアから大外刈「一本」

日本勢は宇髙菜絵が3位、石川慈は初戦敗退。宇高は豪快な大外刈一発で観衆を魅了するも技出しの遅さで「指導」を積み重ねるという、正負ともに自身の特徴が良く表れた戦いぶり。反則裁定の是非を超え、パフォーマンスに比して妥当な成績であったと評しておきたい。

入賞者と、準々決勝と準決勝の結果、決勝ラウンドおよび日本代表選手全試合の戦評は下記。

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57kg級入賞者。左からドルジスレン、ストル、ロジェ、宇髙。

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回戦、宇髙がユリア・コバルチックから大外刈「一本」

【準々決勝】

ドルジスレン・スミヤ(モンゴル)〇GS指導1(GS2:28)△プリシラ・ネト(フランス)
宇髙菜絵〇GS反則[指導3](GS1:16)△アナスタシア・コンキナ(ロシア)
テレサ・ストル(ドイツ)〇GS内股(GS2:02)△ダリア・メセトカイア(ロシア)
ヨワナ・ロジェ(セルビア)優勢[技有・隅落]△ロラ・ベナロチェ(フランス)

【準決勝】

ドルジスレン・スミヤ(モンゴル)〇反則[指導3](2:41)△宇髙菜絵
テレサ・ストル(ドイツ)〇GS小外掛(GS1:01)△ヨワナ・ロジェ(セルビア)


【3位決定戦】

アナスタシア・コンキナ(ロシア)○優勢[技有・内巻込]△ヨワナ・ロギッチ(セルビア)
ロギッチが右、コンキナが左組みのケンカ四つ。コンキナが奥襟を得て左内股で攻めるが、ロギッチも脇を突いて凌ぎつつ要所で技を仕掛けて展開を渡さない。1分14秒にロギッチが左内巻込、潰れたコンキナを強引に回し切って「技有」獲得。失点したコンキナは組み際に右袖釣込腰を仕掛けて追い上げを図るが、リードを得たロギッチは早い段階で逃げ切り体勢に入っており以降なかなか試合は動かない。2分12秒にロギッチに極端な防御姿勢の咎で「指導」、3分5秒にも2つ目の「指導」が宣告される。以降もロギッチは試合姿勢を改めず明らかに逃げ続けるが主審は「指導」を与えず(途中に偽装攻撃らしき場面もあった)タイムアップ。結局ロギッチが序盤に得た「技有」を守り抜いて3位を獲得した。敗れたコンキナは試合の大半をコントロールしながら技一発に泣くこととなった。

宇髙菜絵〇大外刈(0:38)△ダリア・メセトカイア(ロシア)
右相四つ。宇高先に引き手で袖を確保、釣り手で奥襟へのアタックを繰り返しながら得意の右大外刈を狙う。メセトカイア良いタイミングの送足払で抗するが宇高は動ぜず、以後も釣り手を降らせる「奥襟アタック」を断続的に繰り返す。38秒、この形から奥襟を得た宇髙が釣り手をひっかぶせるように右大外刈。まともに食ったメセトカイア背中から激しく畳に落ち、勢いそのままもう一段転がる。勿論これは文句なしの「一本」。開始線に戻った宇髙は万が一のポイント評価降格に備えてか軽くジャンプを繰り返し、まだまだ力が余っている様子。

【決勝】
ドルジスレン・スミヤ(モンゴル)○GS技有・谷落(GS0:55)△テレザ・ストル(ドイツ)
ドルジスレンが左、ストルが右組みのケンカ四つ。引き手争いが続き、試合時間の半分が経過するまでポイントが想起されるような技はひとつもなし。2分33秒には業を煮やした主審がさすがに試合に介入、強いて差をつけるならという体でストルに「指導」が与えられる。明らかに手数を稼ぐ意図ながらここまでドルジスレンが左背負投を散発していたことが評価材料になった模様。3分23秒、ドルジスレンがこの試合で初めて本気で投げることを企図した左袖釣込腰を仕掛けるが、予期したストルは余裕を持ってこれを防ぐ。結局本戦では決着がつかず、試合はGSの延長戦へ。延長戦に入ってもドルジスレンはマイペース、「指導1」のリードを背に担ぎ技で手数を稼ぎ、明らかに反則累積決着狙い。GS55秒、横移動で場外に向かう動作からストルが右内股を狙うとドルジスレンが一瞬早く反応して谷落を仕掛ける。しかし、ストルがバランスよく作用足を外すとドルジスレンは腰砕けのような格好になってしまい万事休す。最後は死に体のドルジスレンをストルが引き落とすように畳に沈めて谷落「一本」。ストルが地元開催の大会で強豪ドルジスレンを破って見事優勝を決めた。破れたドルジスレンは旧ルールであれば本戦終了時点で勝っていたはず、一流選手ゆえの反応の良さが仇になった形ではあるが、総体としてはまたもや「投げたものが勝つ」という新ルールの特性が際立った一戦だった

【日本代表選手勝ち上がり】

宇髙菜絵(コマツ)
成績:3位

[2回戦]
宇髙菜絵○大外刈(2:01)△ユリア・コバルチック(ポーランド)
右相四つ。宇高の右大外刈を徹底警戒するコバルチックは両方の手を順番に切っては組み、組んでは離れ、常に片手状態で腰を引いて徹底的に結末の先送りを図る。宇高は序盤切り合いに巻き込まれて組み手をリセットされることも多かったが、引き手を先に掴んでは残った釣り手で奥襟を狙うことを徹底、次第にコバルチックは手詰まりとなっていく。1分35秒、宇髙が右大外刈で相手の膝裏を捕まえるとコバルチックはガクリと崩れ「技有」。これで試合の大勢は決し、2分1秒宇高は釣り手を奥襟に叩き入れながら右大外刈、豪快な「一本」。

[準々決勝]
宇髙菜絵○GS反則[指導3](GS1:16)△アナスタシア・コンキナ(ロシア)
宇髙が右、コンキナが左組みのケンカ四つ。コンキナは手先で組み手を探り、自分が一方的に組める形以外は全て拒否して切り離す構え。宇高これに序盤付き合ってしまうが1分30秒過ぎから両襟を掴んで無理やり接近、右小外刈に股中への体落と技をまとめて1分43秒コンキナに「取り組まない」咎の「指導」。しかし以後も試合は大きく動かず、2分19秒には双方に「取り組まない」咎での「指導」が宣告されて累積警告は宇髙が「1」、コンキナが「2」。後のなくなったコンキナさすがにここから加速するが、結局自分が一方的に持てないときはリスクを避けていったん離れる極端なヒットアンドアウェイに堕する。スコアは動かず、試合はGS延長戦へもつれ込むこととなる。コンキナは奥襟に釣り手を降らせての「サリハニ状態」を交えながら機を伺うが宇高は隙を見せず、しかし宇髙の方も攻めの手立てに欠けGS1分16秒双方に「取り組まない」咎による「指導」。反則累積差で宇高の勝ち抜け決定。

[準決勝]
宇髙菜絵△反則[指導3](2:40)〇ドルジスレン・スミヤ(モンゴル)
山場の一番は宇髙が右、ドルジスレンが左組みのケンカ四つ。両者が手先の組み手争いに陥ると見るや主審迅速に動き30秒双方に「取り組まない」咎の「指導」。以後も両者が持っては切り、持たれては切る我儘かつ慎重な組み手の駆け引きが続き、片手状態が長く続いた1分28秒双方に「取り組まない」咎の「指導2」。ここで双方いったん奮起、宇髙は小外刈、ドルジスレンは良いタイミングの出足払を放って打開を図るが、数合手を合わせると試合はまたしても膠着。その中でドルジスレンが引き手を離さず持ち続けると、2分40秒主審は宇高のみに消極的との咎で「指導3」を宣告。試合を決めた「指導」は敢えて差をつけるなら、という形。少々酷な判定であったがさりとて宇高が積極的に攻めていたわけではなく、少なくともドルジスレンの側への「指導」は考え難かった。宣告直後「なぜこちらに反則が」とアピールする宇髙の姿には既視感あり、またしても悪癖である攻めの遅さで実力を発揮出来なかった試合だった。

[3位決定戦]
宇髙菜絵〇大外刈(0:38)△ダリア・メセトカイア(ロシア)
※前述のため戦評省略

石川慈(コマツ)
成績:2回戦敗退

[2回戦]
石川慈△優勢[技有・払巻込]○ローラ・ベナロシェ(フランス)
石川が右、ベナロシェが左組みのケンカ四つ。ベナロシェが右一本背負投を仕掛けると石川は引き込んで寝技を展開、得意の形で横に返しに掛かるがベナロシェがしぶとく耐えて「待て」。石川は続く展開でも巴投から引き込んで寝技を狙うが、今度も亀で耐えられてしまい取れる形まで持っていくことが出来ない。直後の45秒、ベナロシェは左小外掛を引っ掛けながら奥襟を得ると左大内刈を絡ませたまま引き手を確保、石川が腰を引いて防御姿勢を取るとすかさず左払巻込で巻き込んで「技有」を獲得する。リードを奪われた石川はペースを上げて追い上げを図るが、相手が釣り手を突いて距離を取るため思うように攻め切れず、ベナロシェが先に掛け潰れて終わる展開が続いたことで2分13秒には石川の側に「指導」が宣告される。後のない石川は巴投で引き込んでの寝技を連発するがいずれも不発、結局このまま試合が終了して石川の初戦敗退が決まった。



文:古田英毅
戦評:林さとる/古田英毅

※写真は権利者の許諾を得て掲載しています

※ eJudoメルマガ版2月27日掲載記事より転載・編集しています。

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