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【eJudo’s EYE】グランドスラム・パリで見えた「観戦視点」からの新ルール所見

(2017年2月23日)

※ eJudoメルマガ版2月23日掲載記事より転載・編集しています。
【eJudo’s EYE】グランドスラム・パリで見えた「観戦視点」からの新ルール所見
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100kg級決勝、飯田健太郎がシリル・マレを内股で投げる。エキサイティングだったGSパリを象徴する絵となった。

国際柔道連盟試合審判規定の改正(試行)が行われてから初の大型国際大会であるグランドスラム・パリ大会が2月4日~5日に行われた。

大会は五輪後休養していた大物たちが一気に復帰しメンツ的にも内容的にも「リオ-東京期」がいよいよスタートしたと感じさせられる豪華なものであったが、この大会の最大のトピックはなんといっても、施行された新ルールの「実際」。2日間ほぼフルタイム試合に浸かって(一度に集中して見られるのは1面~2面が限界なので全試合見たわけでないが)試合を見ることで得たインプレッションをもとに、筆者の所見と感想をお伝えしたい。レポート執筆に追われて少々遅くなってしまったが何卒ご容赦願いたい。

ルール自体についてはIJFのリリース(ファンの皆様は出来ればこれにまず当たってもらいたい)のほか、全柔連による日本語訳も既に出回っているし、筆者があらためて触れるまでもないと思われる。なのでなるべくこれと被らない形で「見る」側の視点から発言していきたい。

一応ここでルールを確認しておく。ちなみにルール公開時各所で話させて頂いた通り、筆者は投げによる決着を目指して反則負け以外の本戦の「指導」差決着をなくし、かつ試合運営の便宜上ペナルティ決着ありの「第2ラウンド」を併用するというこのルールをかなり好ましく捉えている。ルールが発表された時点で「これは理由がない」とネガティブ評価を下した項目は男子の試合時間短縮のみである。

<改正の要点>
・試合時間を男女ともに4分に統一 (男子の試合時間の短縮)
・「有効」の廃止=攻撃スコアは「一本」と「技有」のみとする
・合わせ技「一本」の廃止
・「指導」3つ失陥で反則負け。
・本戦の試合決着は攻撃ポイントのみを対象。「指導」差の決着は反則負け(指導3累積)の場合のみ
・GS延長戦はペナルティ差での決着あり。ただし本戦の「指導」数は累積し、相手よりも多くの「指導」を受けた選手がその時点で反則負けとなる。
・ピストルグリップ、ポケットグリップそれ自体には反則を与えない。 (※筆者註:ただし防御のためのみに行うと見なされれば、すぐにそちらの文脈での反則が与えられる)
・「標準的でない組み方」の場合はただちに攻撃をしなければならない
・消極的試合姿勢(極端な防御姿勢も含む)はただちに「指導」だが、投げの準備行動とみなされる場合は45秒まで注視。
・「足取り」は1度目が「指導」、2度目が反則負け。

以降が本論、GSパリの試合から受けた所感である。

〇2ラウンド戦と解釈されるべき。

あくまで投げ(攻撃ポイント)で決める第1ラウンド、便宜上必ず勝者を決めるペナルティ決着ありの第2ラウンドと、新ルールは異なるポリシーのステージをミックスした「2ラウンド制」と喝破される。IJFの理想である「投げて、決める」本命ポリシーに特化した本戦と、現実的な運営も織り込んで「それでダメなら便宜上であっても勝者を決める」というGS延長戦の二段構えというところか。

理想(ポリシー)を押し出した一段目、現実(運営)を採った二段目。この2ラウンド戦という見方は現実の観戦感覚にかなりフィットするのでぜひ参考にしてもらいたい。

例えば、こちら(応援する対象)が力関係が上で投げの力に勝るいかにも日本人らしい正統派選手で、かつ泥臭く粘るスタミナ派が相手であれば「1ラウンド目(本戦)のうちに早く投げて決めてくれ」「万が一のペナルティ負けが起こる可能性がある第2ラウンド(GS延長戦)に持ち込ませないでくれ」とこういう感じである。ちなみに、単にラウンドを分けるのみでなくGS延長戦に本戦の「指導」累積を反映させたことは公平性(=強いものが勝つ)という意味からも得策、好バランスであると考える。

まとめにもう1回。「投げや抑えの攻撃ポイントで勝負を決める第1ラウンド」と「便宜上勝者を決めるためにペナルティ決着を認める第2ラウンド」、だ。


〇大前提として

投げで勝負を決めることを志向した好ルールであると考える。阿部一二三や飯田健太郎といった本格派が素晴らしい技で勝利したが、このお膳立てとして「投げずば勝てない」新ルールが果たした役割は率直に評価されるべきであろう。

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ピストルグリップに片手技と独自の世界を作り出して73kg級を制した橋本壮市


〇「組み合って投げる」から「投げて、決める」へ。

ロンドン-リオ期を貫いていたルールの精神は「二本組み合って、投げる」。柔道競技がリスクヘッジの効きすぎた組み手の徹底管理横行による「指導」奪取戦へと堕ちてしまっていた北京-ロンドン期の反動から生まれた、「組み合う」行為自体に初めてフォーカスした歴史的なポリシーである。組み合うことこそがその先にある「投げ合う」ことへと選手を誘導する最短距離と喝破した好ルールであったが、あくまで下地を準備した形の前代から今回は微調整。もちろん相変わらず組み合うことは推奨しているが、重心はより「投げる」側へと傾いた。

まず本戦の「指導」差決着を廃したことと、「投げの準備行動であれば45秒までは消極の反則を取らない」ということがもちろん大きい。しっかり二本持った状態から一発投げる技を持った選手は当然ながら有利だ。そして字句通りに行けば二本持ちあうことを嫌う「持たざるもの」が駆逐されていく論理であるが、少なくともパリ大会の様相はこの一面だけで切ることはまったく出来なかった。

まず上記に加えてピストルグリップとポケットグリップを認めたこと、さらに「標準的な組み手でない場合はすぐに攻めなければならない」の「すぐに」の解釈が緩和された(5秒程度)ことが大きい。この2つが相まって、組み手が生命線の技巧派であっても、勝負を決める技一発があれば十分戦えるという一面がむしろクローズアップされることとなった印象だ。

「王道(二本組み合っての)技でなくても、一発投げる武器があれば勝ち抜ける」。今大会これに最もかなう例が73kg級を圧勝で制した橋本壮市だろう。ピストルグリップを駆使した組み手管理を徹底しつつ、片手状態からの一発技で勝負を決め続けて、昨年「大野将平以外で最強」とされた強敵アン・チャンリンまでも投げて見事頂点まで辿り着いた。

というわけで2012-2016ルール下、結果を残しながらも閉塞感があった巧者・橋本壮市の、ルールが変わるなりの大ブレイクにこのポリシー変化を代弁させたい。合言葉は「組み合って、投げる」から「投げて、決める」だ(余談だが、片手であっても一方的に組み手を支配し、嫌がった相手から豪快に一発決めて見せる橋本の柔道を、いまもっとも尖った海外柔道サイトであるJudo crazyが「古賀稔彦を思わせる」と評したのは慧眼であった)。

また、後述するが、GS延長戦のルール設定(覚悟を決めてしまえば実はGSまでは粘りやすい×指導差を本戦から引き継ぐので結局ビハインドサイドは投げなければ勝てない)も、「投げる技さえあれば勝ち抜ける」というポリシーが強く実相に現れた部分である。力関係で上の選手が「指導」を取ってもそれだけでは勝てない。どんなに不利でもGSに持ち込んで、互いが消耗して力関係がリセットされた状態で一発投げるチャンスを狙える。大会を通じて、明らかに力が上のものが「指導」を取ってもそれが決勝点になりえず、目の光を失わない相手に粘られ続けるという「デスマッチ感」は半端ではなかった。投げれば、勝てるのだ。地力に劣っても最後に投げさえすれば勝ち抜けるのだ。しつこいようだがもう1度。「組み合って、投げる」から「投げて、決める」だ。


〇投げを持つものが最も有利も、「持たざるもの」がモチベーション失わぬ好ルール

机上のルール読み込みでは二本持って一発取り切る技を持つ「王道タイプ」が変わらず有利に思われた新ルールだが、先に書いた通り今回の様相は必ずしもこの一面だけで切ることは出来なかった。

大会を通じてむしろ目立ったのは、第2ラウンドであるGS延長戦に持ち込むことで力関係を乗り越えようとする「持たざるもの」の粘り。不用意な「指導1」失陥だけでも畳を降りねばならなかった前ルールと異なり、新ルールは「指導」2つまでは第2ステージへの進出が許される。お互いスタミナを消耗した、かつ「勝って当然」の相手がサドンデスの延長戦に持ち込まれてしまったことによるメンタル面の変化(焦り)が、例えば本戦開始早々の10秒とは劇的に試合の様相を変えるのは周知の通り。地力に劣っていても、本戦を「指導2」までで耐え抜けば、力関係がリセットされた双方消耗状態で戦えれば、そして威力ある投げ一発があれば十分勝ち抜けるチャンスがある。

と書くと粘りに粘って泥臭い一発を放り込んでくる韓国系ファイターをイメージされる方が多いと思うが、たとえば63kg級、頂点に君臨するクラリス・アグベニューやティナ・トルステニャクの超パワー派に、体力的には劣るが技一発の切れ味抜群の日本人、津金恵あたりが挑むとなればこういうルートが用意されたのは非常に面白いのではないだろうか。最初の4分では機関車のように突進して金棒を振り回すがごとく大技を連発するアグベニューのほうがもちろん強いが、どっちもドロドロ、ヘロヘロの状態になったとき体力に関係なく一発で勝負を決める鋭利な刀を持っているのは津金の方だ(もちろんそこで自滅しないスタミナがもっとも大事ではあり、これは今後の強化の最重要課題になると確信している)。これは面白くないわけがない。

最終的にはペナルティ差で勝つことが難しい(本戦の差が引き継がれるので)となれば、海外選手の稽古傾向も「互いが消耗したときに保有しておくべき、必ず決められる技の取得」へと動くのではないだろうか。これぞ「投げて、決める」新ルールのポリシーにかなう。

ここでもう一回繰り返すが「『組み合って、投げ合う』<『投げて、決める』」。あいつと組み合ったってどうせ勝てるわけないよ、という技とパワーがあるものだけが勝つ単純構図を、その優位性を確保しながらあくまで絶対ではない「優位」の位置に留め、柔道の「勝ち方の多様性」を残した好ルールだと考えたい。

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「スタミナ戦」派の代表格、ノーシードから57kgを制したクォン・ユジョン。


〇「スタミナ戦」頻発、最重要ファクターはパワーからスタミナへ

レポートでもこの言葉で書かせて頂いたが、今回トレンドの一として非常に目立ったのは「スタミナ戦」。前述2項と被るが、今後の国際柔道界は技の錬磨とともに「スタミナ」がこれまで以上に重視されることになるはずだ。

頻発した「スタミナ戦」実現の代表としてはノーシードから57kgを制した21歳のクォン・ユジョン(韓国)を紹介したい。これまで国際大会での勝利自体がほとんどないクォンだが、初戦はロラ・ベナロチェ(フランス)を相手にGS延長戦まで粘りに粘って最後は消耗し切った相手から腕挫十字固「一本」。勝負どころの五輪女王ラファエラ・シウバ戦は試合が始まるなり左片襟を差して釣り手一本を持ち続けたまま足技で浅く牽制、続いて引き手を握ると本命の左背負投に飛び込むという我儘な組み立てで僅か15秒の「一本」、最大の敵と目された芳田司との準決勝は「指導1」を失ったまま形勢不利が続いたがこれも粘りに粘ってビハインドのままGS延長戦を耐え切り、消耗戦の中で背負投に飛び込むと既に体力を失った芳田を伏せたところから無理やり押し込む「技有」獲得で勝ち抜けた。旧ルールであればシウバ戦の投げは「指導」(標準的でない組み手)、芳田戦は本戦「指導1」でそのまま敗戦である。変則技であっても投げがあれば勝てる、力関係が上の相手でも最後に決められる投げさえあれば体力で力関係を引きずり下ろし、スタミナ勝ちで勝利をモノにすることが出来るのだ。

選手としてはこの志向(力関係が上の相手を、畳に居続けること自体で自分の手の届くところまで引きずりおろす)は当然のことで、とにかく大会全体としては「指導」を失っても試合をあきらめないという畳にしがみつくような試合姿勢が目立った。残り1分で試合を半ば投げてしまうような選手も多かった旧ルールと比べて、実はこのあたりもエキサイティングな試合の創出に貢献している。

この「スタミナ戦」志向にやられてしまったのが66kg級の橋口祐葵と90kg級の長澤憲大の2人。橋口は初戦で無名のブルガリア選手相手に「指導1」をリードするも粘られ続け、試合を決める2つ目の「指導」を得たのはようやくGS延長戦29秒、2試合目も相手が橋口の袖釣込腰が飛んでくる前に片手技を仕掛けて粘りに粘り本戦で「指導2」を得るも決着はGS1分0秒の「指導3」奪取を待たねばならなかった。結果スタミナを失った橋本は3回戦でアンザウル・アルダノフの密着志向に苦戦、小内巻込「技有」失陥で畳を去ることとなる。長澤憲大は1回戦で「レバノンの怪人」のナシフ・エリアスの体とパワーを生かしたほとんど意味不明な粘りに6分19秒の消耗戦を演じることとなり、肝心の次戦ベカ・グヴィニアシビリ(ジョージア)戦に力を残せず。この試合はGS延長戦含めた6分3秒の激戦の末に「指導3」で敗れた。ちなみに長澤と大消耗戦を戦ったグヴィニアシビリもバテバテ、次戦のガク・ドンハン戦を落とすと3位決定戦は完全に格下のミハエル・ツガンク(スロベニア)に「指導1」で敗れている。

というわけで、大会全体を通じて目立ったのは、能力要素としての「スタミナ」の存在感のアップ。発表当初筆者の脳裏に浮かんだのは「デスマッチルール」という言葉であったが、実際に試合を見てみて、この言葉は「2ラウンド戦」あるいは「投げて、決める」とともに新ルールを表す的確なキャッチフレーズであると考える。投げを磨くことはもちろんだが、これまで以上に「引き延ばすことへの希望」を持って食らいついてくる相手に対し一定以上試合が揉めることは大前提として考えるべき。投げに行く、引き延ばされても、逃れられても最後はスタミナ勝ちして投げ切る。王道のヒットマンタイプ、技巧派、体力を生かした圧力ファイター、どんなタイプであってもこのルールにおいて下地にすべき最大の要素は間違いなく「スタミナ」。瞬発力(技)はもちろんだが、どんなに疲労していてももう1回走り出せる持久力を養うことが肝要だ。

ちなみにこれは余談であるが、本戦が1分短縮されたにも関わらず、外から見る限り、不思議なことに男子選手のGS延長戦突入時の疲労度はこれまでとさほど変わらないと感じられた。結局本戦ラスト1分の消耗が激しいということか、どうなのか。特に90kg級は6分程度の試合(これまでならGS1分程度)でも皆バテバテ、次戦への影響が顕著であった。このあたりは現場の声をぜひ聞いてみたいところだ。


〇危惧された「変則組み手からの大技連発」について

ルール発表当初、ジョージア系選手を意識した「一方的な変則組み手からの大技連発(で試合にならないのでは)」への危惧がささやかれたが、今回は極端な偏向を為した選手もあまりおらず、全体としてさほど気にならなかった。

この端的な形は肩越しのクロスグリップではないかと思われるのでこれへの観察を簡単に述べる。審判が一貫して「攻撃しているかどうか」をしっかり見るのでやはり安易には使えないということが一つ(クロスを作っては自主的に辞めて戻す場面も、いままで通りに目立った)。そしてこの先が重要だが、互いにクロスグリップの強力さは良く分かっているので、トップ選手はカウンター技の存在を前提に試合を組み立てているということだ。レポートに書かせて頂いた髙藤直寿対オルハン・サファロフの準決勝の「四段重ねの攻防」(サファロフのクロスグリップに髙藤は瞬間大内刈で対応、しかしサファロフはこれを予期済みで小外刈で蹴って払腰に繋いだ)などは端的で、クロスグリップは一方的な形や技の創出ではなく、むしろ攻防の加速スイッチとして機能する場面が多かったように思われる。ピストルグリップやポケットグリップなども含め、今後も強すぎる組み手の形には定番の対応手段が用意され、これが攻防の「スイッチ」として働くような変化が起こっていくのではないだろうか。


〇「一本」の評価は辛く、「技有」は下側に甘く(今大会の傾向)

ルール上は「一本」の評価はそのまま、「技有」はこれまでの「技有」と「有効」を包含することとなった。

これはさほど混乱なくそのまま字句通りに適用されたと感じられた。敢えて言えば、大会全体を通じた「技有」評価に「上に辛く、下に甘い」傾向があったと感じる。平たく言い換えると、「一本」と思われた投げが「技有」と判断されることと、「有効」に届くかどうか微妙な「効果」級の投げが「技有」と宣告されることが多かった印象だ。

前者は「一本」の価値を上げること(「ビッグポイント」と「スモールポイント」の差異化)、後者は「投げ技で試合を決めるべき」というルールの背後にある大ポリシーが切所で審判、あるいはジュリーの背中を押したと解釈しておきたい。これは勿論あくまで今大会のみの傾向であろうし、今後修正されていくのではと考える。すべての試合を抜き出すことは不可能だが、参考までに思いつくままいくつかそれらの場面を挙げておく。

「一本」が辛かった代表的なシーンとしては投げたほうも投げられたほうも「一本」と信じ切っていたが「技有」であった73kg級の3回戦橋本壮市対アレキサンダー・ターナー(アメリカ)戦(https://www.judobase.org/#/competition/contest/gs_fra2017_m_0073_0053)を嚆矢として、以下。

飯田健太郎vsシリル・マレ(フランス)
https://www.judobase.org/#/competition/contest/gs_fra2017_m_0100_0067
※これが「一本」なら飯田は全試合一本勝ちの偉業達成であった

キム・チャンヨン(韓国)vsワリーデ・キア(フランス)
https://www.judobase.org/#/competition/contest/gs_fra2017_m_0060_0050
※自滅でポイントなしはありうるが、技の効果ありとするなら「一本」級。

サム・ファン ヴェステンド(オランダ)vsルドルフェ・アフロ(コートジボワール)
https://www.judobase.org/#/competition/contest/gs_fra2017_m_0073_0030
※4つの「技有」のうち少なくとも2つは「一本」級ではないか。

ヤスミン・クルブス(ドイツ)vsエルデンビレグ・ガンディマー(モンゴル)
https://www.judobase.org/#/competition/contest/gs_fra2017_w_0p78_0002
※アフターでコントロールを失ったと見られたか。ただこれまでは「一本」でも文句のないところと思われ判断分かれるところ。

逆にこれまでなら「有効」も怪しいが、「技有」評価であった試合もいくつか。

橋口祐葵vsアンザウル・アルダノフ(ロシア)
https://www.judobase.org/#/competition/contest/gs_fra2017_m_0066_0054

チン・ダガ(中国)vsマク・ホン ニン(香港)
https://www.judobase.org/#/competition/contest/gs_fra2017_m_0066_0018

ルスタン・オルジョフ(アゼルバイジャン)vsホセ・フェルナンデス(ポルトガル)
https://www.judobase.org/#/competition/contest/gs_fra2017_m_0073_0049

近藤亜美vsメロディ・ブガーニイ(フランス)
https://www.judobase.org/#/competition/contest/gs_fra2017_w_0048_0023
※1回目の払巻込が該当。2回目の背負投と取得ポイントは同じ「技有」である。

新井千鶴vsケリタ・ズパンシッック(カナダ)
https://www.judobase.org/#/competition/contest/gs_fra2017_w_0070_0035

七戸龍vsウルジバヤル・デューレンバヤル(モンゴル) https://www.judobase.org/#/competition/contest/gs_fra2017_m_p100_0031
※七戸の側が該当。

アレクサンドル・ヴァカビアク(ベラルーシ)vsジャン セバスチャン・ボンヴォワザン(フランス)
https://www.judobase.org/#/competition/contest/gs_fra2017_m_p100_0006
※1回目の膝車「技有」が該当

 
〇泥試合の決着「両者反則負け」の山下案は面白し

「指導」決着の横行について、山下泰裕氏が「両者反則負けを認めれば解決する」と発言したとのこと。パリ大会は全体的には非常にエキサイティングで、問題になったいつまでたっても試合が終わらずかつ「指導」決着という事態が立て続けに起こったのは女子78kg級と78kg超級の終盤戦。これは特に78kg級の、体の力は強いが戦術性と相手を仕留める技の精度に決定的に欠けるという平均的な選手特性が新ルールに噛み合っていないということの表出と観察する。一段このクラスタから抜け出したケイラ・ハリソン(引退)やマイラ・アギアールら「理」と技術を併せ持った選手の不出場もこの絵を加速した。

互いに大消耗、しかし繰り出す手立ては「自分がもっとも得意な形」の一本やり、あと一歩というところで手を放し、追い掛けては足がついていかず膝を屈し、そのくせ体の力はあるから回避能力だけは備わっているというGS延長戦の無限ループのような試合ぶりは、たしかに目を覆いたくなる惨状ではあった。これはルール自体の問題というより階級特性をバックグランドとした局所的現象と解釈してしばしウォッチと勝手に納得していたが、氏の「両者反則負け」案は非常に面白い。この場合は、GS延長戦でありながら、そのポリシーである「便宜上必ず勝者を決める」に本戦の理想ポリシーである「投げて、決める」を形を変えて介入させるということになる。

これは議論の俎上にあがること自体が「試合を決定づける技や論理を得なければならない」という選手の切迫感を加速する、興味深い策であると考える。今の選手はルールに則った技術や戦術の取得に熱心で対応力があるゆえ8月の世界選手権まで様相がある程度変わる可能性も、もちろんある。この惨状を糧として選手が変わっていくのか、78kg級の理なき「アニマル」状態は骨身に染み着いたものでやはりルールの介入があるべきなのか。泥試合でも「もういいや」と畳から目を離さず、今後も粘り強く観察していきたい。

〇溝口紀子さんの文章を土台にルールを考える

そういえば、グランドスラムパリの直後、溝口紀子さんがYahoo!ニュースに「柔道の新ルールは日本人に有利か?東京五輪に向けてパワー柔道の潮流」(https://news.yahoo.co.jp/byline/mizoguchinoriko/20170215-00067721/)と題する解説を投稿してくれていた。

もう少しルールについて思うところを述べたいのだが何を起点に説き起こしていくか悩んでいたところ、いましがたこの記事の存在を思い出した。幸いというべきか、この所見、私が得たインプレッションと多少異なるところがある。同じイベントについての意見の相違は課題設定として非常にわかりやすいと思うので、以下はその稿の意見を起点に話を進めさせて頂きたい。


〇ルール変更の“協定”、45秒注視ルールはひとまず機能

まず「ペナルティー(指導・反則)を与えるタイミングが遅くなった(中略)ので混乱があったようだ」とのこと。それは「指導」は遅いはずで、これはある意味ルール通り。「攻撃準備と見なされれば45秒間は『指導』を採らずに注視」という項が今回のルール変更の中心核。試合時間の短縮や反則負けの「指導3」変更など、今回の改革のほとんどはこの項とバーターで行われたと解釈されるべきもので、これを抜きにしては今回のルールは語れない。試合時間短縮や「指導」での本戦決着なしなどの大変更はまさしくそれがフレーム自体を取り換えるような大変更であるがゆえに選手にも関係者にもしっかり周知されており、さほどの混乱はなかった。実相としてすべての関係者に注目されていたのは間違いなく、このフレーム変更を担保する「消極の反則をむやみに取らずに、45秒注視がしっかり行われるか」という点にあった。溝口さんの今回の稿(この項が主要な変更点として挙げられていない)と同じく当方も12月のルール変更リリースの速報ではここを敢えて省かせて頂いたが、これはリリース即日で、解釈の曖昧さでいい加減な情報を流すリスクを避けたから。(なにしろいい加減な噂の流布に危機感を抱いたIJFが発表を前倒ししたというのがリリースの経緯なのだから、ここは理解頂きたい)

というわけでその後1月のIJFセミナーにヨーロッパオープンでの運用を経て迎えた今回。テクニカルファウルである「場外」や「極端な防御姿勢」、あるいは「足取り」「取り組まない」などは相変わらず迅速確実に適用されており、ルール上「遅くなった」のはやはり消極的の「指導」だけで、かつ私としては特にテクニカルファウルが遅いという傾向は感じなかった。ひょっとすると最終日の78kg級後半戦におけるGS延長戦の「どっちも投げようにも決まらない」泥試合を指しての「遅い」指摘かもしれないが、私個人としては前述のようにこれは階級特性による局所的現象で、いずれも大会全体の所見に一般化するようなものではないのではないと考えている。長々書いてしまったが、結果として今大会を全体で見て、早すぎる消極的「指導」はほとんどなかった。つまりフレーム変更のエンジンである「攻撃の準備行動であれば45秒は注視」という選手と胴元の“協定”は順守されたと考える。


〇「選手が主導権を奪回」-審判と選手の関係性-

次に「新ルールによって、試合の流れを審判に依存する傾向に拍車がかかることにもなる。」との発言を土台に語りたい。私としてはまったく逆の意見で、このルール変更はむしろ、選手が審判から勝負の主導権を奪回したものだと考える。試合の実相からは「指導」が直接勝敗に影響せず、選手がそんなもの関係ないとばかりに投げ合いを繰り広げるその切迫感や恐怖感がひしひし感じられた。見る側としてもその意味と恐ろしさが骨身に染みてほとんど戦慄したものである。旧ルール(2012-2016)では審判がおかしなミスをして不可解な「指導」を1つ宣告したらそれで試合が終わってしまう可能性もあったが、今回は「指導」2つまでは認められるのでこの手のミスは本戦の試合結果に直接的な影響を与えない。さらに45秒注視ルールがあるので「消極」の指導も滅多にない。攻撃姿勢でありさえすればテクニカルファウルも滅多に与えられない。つまり本戦においては理屈上、選手が自分の力(投げることや抑えること)で試合を決める可能性が広がったと考えたい。GS延長戦になったところで、本戦の「指導」差は引き継がれるから、総体的には強いものが勝つ。つまり審判が的確に反則を見極めなければいけないのは今までと一緒、審判の判断が試合の流れに一定の影響を与えるのは今までも一緒。そしてこれだけ審判の介入要素が減じた中で「試合の流れを審判に依存する傾向に拍車がかかる」とはちょっと言い難いのではないだろうか。机上のルールが指し示す方向とも、試合で現れた実相とも少々異なると感じた。

「従前のルールでは『技あり』の評価であったのが、『一本』の評価になっていた」。前述した通り、これも私の大会全体を通じた印象と少々異なる。これは前段で具体的な試合を挙げて書かせて頂いた通り。


〇「パワーの時代」から一段進化、スタミナと並ぶ必須要素は「投げる技術」

「後半、相手のスタミナが切れた所を仕留めるスタミナ型の選手は不利なルールといえる。今後、世界柔道はますます先手必勝の「パワー柔道」の潮流になるだろう。」とのコメントに関して。これも私は意見が異なる。最初の一文に関してはまさしく私も試合を見る前、ルールを文言として読み下している段階では相似の想定をしていた。しかし本論で述べた通り、実際に試合を見ると「指導2までの失陥ならGS延長戦に進む権利あり」というルールを最大限に生かした選手が図太く畳に居残る消耗戦が非常に多かった。頻発していた。後半の一文に関しては、パワーはもちろん大事だが、敢えてフォーカスするならどちらかというと「投げる技術」(「一本」取れなくても、相手が万全の状態に斬り込む力がなくても)の錬磨の必要性が濃く出た試合内容であったと思う。パワーファイターが揃いに揃ったがまったく勝負がつかなかった78kg級を見るに、「この先はますますパワー」と正面切っていう度胸は、私にはない。むしろパワー化が行きつくところまで行きついて全員にパワーが備わっていることが前提となった2012-2016期を経て、国際柔道界にまた新しいステージが姿を現しつつあると感じたのだが、いかがであろうか。


〇「偽装攻撃」、「アンドルに言わせるか」、「judobaseは凄い」などその他

「とはいえ技の攻防が激しくなることで技のかけ逃げ(偽装攻撃)も、ますます巧妙になり」
技の攻防が激しくなると偽装攻撃が増える、これは私には因果関係が理解できなかったのでノーコメント。ただし、胴元側が「とにかくルールをわかりやすくして、一貫して実際攻めているかどうかを見極めるのだ」とルールの改正から運用からそれこそ顔色を変えて徹底的に取り組んでいる状況にあって、この一文が、想定なのか、それとも試合を見て実際に「巧妙な偽装攻撃の頻発」を見て取ったからかは気に掛かるところ。ひとつの技術が有用となればトレンドとして一気に広がるのはここ数年の傾向。もし端的なシーンがあるのであれば後学のためぜひお知らせ願いたい。

おまけとして、溝口さんが紹介して下さったweb上ムービーのエミリー・アンドルのインタビューについて。「先週、新ルールに慣れるため試合に出たので今回は混乱はなかった」とのことだが、これはやや皮肉の感あり。五輪女王アンドルは前週のヨーロッパオープン・ソフィアと今大会ともに出来はグズグズで、必死ではあったが慣れるも何もそもそも自分の柔道が出来るコンディションではなかったように見受けられた。前述「このルールでは柔道が面白くない、潰れる」批判の矢面に立つことになってしまった立場の彼女に、ルール対応を語らせるとは現地メディアもいささか酷である。

最後にもう1つおまけを。溝口さんはこの記事を自らレコメンドする直前のツイートで「Super!パリの試合みれます」と一般ファンにIJFの生中継サイトであるIppon.tvを紹介してくださっている。Ippon.tvは遥か北京-ロンドン期からIJF主催の国際大会を全て中継して来て(2015年と2016年の青島大会が現地のネット規制で中継寸断状態であったが)いる定番中の定番サイトで国際柔道ファンは毎大会これにかじりつくのが常識となっている。溝口さんに乗っかる形であらためて紹介。一般ファンに視聴を強く勧めたい。

そしていつも通りの順行運転で今回も試合を4面同時(+解説つきのメイン画面)してくれたippon.tvはもちろんだが、今回真に「Super!」と呼ぶべきものがあるとすれば、これも定番サイトのおなじみjudobaseであった。充実ぶりは毎大会変わらないが、今回は当日の試合が終わるなり編集が終わったゲームから次々動画をアップするという速度戦、凄まじい仕事ぶりであった。しかも昨年の欧州シリーズからビッグイベントで実施されている、IJF/全柔連フォーマットに相似した「記録付き」。ボタン1つで投げが決まったシーン、反則シーンにジャンプすることが出来る。デュセルドルフ大会でもやってくれると思うので、ぜひ注目しておいてもらいたい。我々の仕事はどこまでいっても主観であり、結局はインプレッションでしかなく、語るべきものを得るためには粛々試合を「見る」行為を積み上げるしかない。意見の相違は当然でむしろあったほうが良いくらいだが、語るからには見るのは当然。だから現地に赴くし、ippon.tvにもかじりつくし、新聞や雑誌が来ない高校カテゴリの招待試合にも足を運ぶ。通りいっぺんの当たり障りのない意見をとりあえず述べるだけでは実相を大きく外すこともあるだろうし、見上手が揃ったファンの目をごまかすことは到底出来ないからだ。そういう我々のいまもっとも強い味方がこのjudobase。リアルタイムで見逃した方、ぜひお目当ての選手の試合をjudobaseで見てください。おすすめです。

というわけで、グランドスラム・パリを見ての「観戦視点での」のルール所見は以上。「ブリッジ一本」の判断などその後大きな問題になっているものもあるが、これは経緯を注視して、要すればまた発言したいと思う。長文にお付き合いいただき、心から感謝したい。


文責:古田英毅
Text by Hideki Furuta

※ eJudoメルマガ版2月23日掲載記事より転載・編集しています。

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