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グランドスラムパリ2017・最終日女子3階級(70kg級、78kg級、78kg超級)レポート

(2017年2月21日)

※ eJudoメルマガ版2月21日掲載記事より転載・編集しています。
最終日女子3階級(70kg級、78kg級、78kg超級)レポート
グランドスラムパリ2017
■ 70kg級・新井千鶴が逞しさ見せて優勝、培った地力テコに全試合で投技決める
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決勝は新井とズパンシックの対決

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決勝、新井がズパンシックから縦四方固「一本」

(エントリー21名)

【入賞者】
1.ARAI, Chizuru (JPN)
2.ZUPANCIC, Kelita (CAN)
3.VAN DIJKE, Sanne (NED)
3.RODRIGUEZ, Elvismar (VEN)
5.YOU, Jeyoung (KOR)
5.GAHIE, Marie Eve (FRA)
7.RODRIGUEZ, Sara (ESP)
7.NIIZOE, Saki (JPN)

序列最上位の新井千鶴(三井住友海上)が順当に優勝、国際大会における適性の高さを改めて示した。一方でグランドスラム東京大会の覇者である新添左季(山梨学院大2年)は準々決勝と敗者復活戦で立て続けに敗れてしまい、表彰台に手が届かなかった。

今大会の70kg級は競技が行われた14階級のなかで最も海外選手のレベルが高くないトーナメント。戦前には新井と新添による日本人決勝実現の可能性も大と予想されていた。

この低空飛行トーナメントが出現したそもそもの因は階級自体の層の薄さにある。現在の70kg級は田知本遥(ALSOK)とユリ・アルベール(コロンビア)の世界チャンピオン2人にキム・ポリング(オランダ)を加えた3人の実力が突出しており、その他の主要選手は何段か下がったところで複数の集団を形成している。つまりはこれら少数のチャンピオンクラスの出場がないだけでトーナメントのレベル自体がガックリ下がることになってしまうのだ。

このような階級の状況にあって、新井や新添は集団でドングリの背比べをしている選手たちとは異なる「技一発の威力」という別ルートからの登攀力を備えた稀有な存在である。しかし今大会ではこの共通項をもつ2選手の明暗がはっきりと分かれる形となった。新井と新添を分けたものは経験の差であり、その中で培われた地力の差であると喝破したい。ありきたりで面白味のない意見に聞こえるかもしれないが、単純だからこそ一朝一夕で埋まる差ではなく、かつ結果に及ぼす影響は甚大である。新井が世界に初めて注目されたのは2013年のグランドスラム東京大会、まさしく前述の登攀力によって階級最強選手ポリングを破って優勝を果たした時だ。しかしここから新井はケンカ四つの相手が苦手という弱点のせいもありブレイクし切れず、現在まで続く長い停滞期を迎えることになった。そして今大会の新井の対戦相手は決勝を戦ったズパンシック以外は右組みのケンカ四つ、まさしく苦手なタイプばかりの実は厳しい状況のはずであったが、それでも勝ち切ったことにその成長を認めたい。準決勝では「ケンカ四つ×パワーファイター」というまさしく鬼門のど真ん中に嵌り、序列を一気に登ってきているエルヴィスマール・ロドリゲス(ベネズエラ)から左内股で強引に「技有」を奪って勝利してもいる。依然としてケンカ四つ相手に具体的な攻めの手順が乏しいという弱点を残しているものの、それでも勝ててしまうのは、序列の沼から別ルートで抜け出すのでなく、そこに浸かったままライバルたちと正面から伍するだけの地力がいよいよ備わって来た証拠ではないだろうか。常にトップ登攀を期待されながら、線の細いまま泥沼の国際大会を戦い続けて来た経験は伊達ではない。今大会の戦いぶりも決して圧倒的なものではなかったが、技一発の威力で「ハシゴ」を掛けるのではなく、地力の高さで正面から突破して優勝を果たした意義ある勝利であったと評したい。対戦した相手の名前以上に、価値のあるタイトルであったのではないだろうか。

一方の新添はその高い登攀力でグランドスラム東京大会を制したが、今大会では階級の序列にすっかり飲み込まれてしまった形だ。特に印象的だったのが敗者復活戦のマリー イヴ・ガヒエ(フランス)戦で、ほんの2ヶ月前のグランドスラム東京大会では豪快な右内股「一本」で一蹴している相手に奥襟を持たれてなにもさせてもらえないまま縦四方固「一本」(2:48)で敗れてしまった。これはブレイク後に階級の序列に飲み込まれてしまいなかなか勝ち切れなかった新井が「いつか来た道」。五輪や世界選手権といった一発勝負の場はともかくとして、勝ち続けるためには地味だが確実な地力が必要となってくる。新添の持つ「技一発の威力」は大きな武器には違いないが、国際大会ではそれを持たずともライバルたちと戦っていけるだけの地力(=戦術性やパワーをミックスした総合力)が求められる。国内ではパワー派に位置づけられる新添であるからこそ、その必要性はむしろ高いはず。今後の継続派遣と、序列の泥沼の中で奮闘するという成長プロセスのプロデュースを強く求めたい。

新添に関してもう1つ。2度投げられて負けた準々決勝、そのいずれもが釣り手が伸びた状況のまま、それでも投げ切れると打って出た技であることが気に掛かる。高校時代に素晴らしい技の切れ味と柔道の質の良さで名を売った新添は、大学進学後もチームメイトや先輩たちたちの停滞傾向をよそに高校時代までの良い柔道で培った「伸びしろ貯金」を生かすがごとく正面からの大技一発で勝ちを重ね、一気にシーンのトップまで駆け上がった。しかし、この体勢から来るはずがないという相手の虚を突くような、体勢不利でもこちらの方が力があるからと理屈を力関係で押しつぶすような、こういう悪く言えば安易な技が新添の本質であったとは思えない。今後の新添の奮戦に期待するとともに、新添出世の最大の因であった柔道の「質」を注意深く観察していきたい。

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70kg級入賞者。左からズパンシック、新井、ファンダイク、ロドリゲス。

[準々決勝]

新井千鶴○優勢[技有・足車]△サンネ・ファンダイク(オランダ)
ケリタ・ズパンシック(カナダ)○優勢[技有・大内刈]△マリー イヴ・ガヒエ(フランス)
エルヴィスマール・ロドリゲス(ベネズエラ)○GS指導2(GS1:21)△サラ・ロドリゲス(スペイン)
ヨウ・ジュヨン(韓国)○GS技有・浮落(GS0:22)△新添左季

[準決勝]

新井千鶴○優勢[技有・内股]エルヴィスマール・ロドリゲス(ベネズエラ)
ケリタ・ズパンシック(カナダ)○GS反則[指導3](GS4:29)△ヨウ・ジェヨン(韓国)

[3位決定戦]

サンネ・ファンダイク(オランダ)○小外掛(3:49)△ヨウ・ジェヨン(韓国)
ファンダイクが右、ヨウは左組みのケンカ四つ。ファンダイクは釣り手を横から背中に回し、柔道衣の背を握って手首の返しで距離を操作する得意の組み手。37秒、ファンダイクはこの形から得意の前技フェイントを効かせた独特の右小外刈、変調のタイミングに虚を突かれたヨウ真裏に転んでこれは「技有」。しかし奮起したヨウは釣り手で帯を掴み、左体落から体を捨てて1分18秒「技有」奪回。以後両者組み手にこだわり、2分0秒双方に「指導」。残り1分を過ぎるとヨウが少々加速、右「韓国背負い」に飛び込んだ直後の残り25秒でファンダイクに2つ目の「指導」が宣告される。GS延長戦が意識される時間帯だがファンダイクは退かずにここで勝負、残り11秒で右小外掛。頭は相手の体の前に、足は相手の裏においたこれまた変調の技で押し込むと、ヨウ全く反応出来ず真っ逆さま「一本」。激戦はファンダイクの勝利に終着。

エルヴィスマール・ロドリゲス(ベネズエラ)○優勢[技有・大外返]△マリー イヴ・ガヒエ(フランス)
右相四つ。ガヒエがクロスグリップや片襟の形から右大外刈を連発。ガヒエの技で終わる展開が続いたことで2分5秒、ロドリゲスに「指導」。直後の2分20秒、ガヒエが奥襟を得るとロドリゲスはクロスグリップの形でこれに対抗、ガヒエが強引に仕掛けた右大外刈を大外返で切り返して「技有」を獲得する。序盤ガヒエの先手攻撃に慌てたロドリゲスだが、リードを得たことでどうやら落ち着きを取り戻し、以降は引き手でガヒエの釣り手を落として反撃のきっかけを与えない。ガヒエのスタミナが切れてきたこともありここから試合は減速、ポイントの変動が無いままタイムアップ。

[決勝]

新井千鶴○縦四方固(3:10)△ケリタ・ズパンシック(カナダ)
左相四つ。お互いに相手の釣り手を絞り合った膠着状態が続く。1分20秒、新井はズパンシックに絞らせたまま低い左大外巻込を仕掛ける。ズパンシックは引き手を離してうつ伏せで逃れようとするが、新井の刈り足が深く掛かっておりそのま畳に転がる。主審は当初ポイントの宣告を行わなかったが、映像確認の結果この技は「技有」と認定される。これ以降もズパンシックは徹底して釣り手の絞り合いを仕掛け、再び試合は膠着状態。2分33秒、ズパンシックが左大外刈を空振りして伏せると、新井は後ろに捲り返して縦四方固。上体を完全に極められたズパンシックは動くことが出来ず、新井が「一本」で見事優勝を決めた。

【日本代表選手勝ち上がり】

新井千鶴(三井住友海上)
成績:優勝


[2回戦]

新井千鶴○内股(1:18)△メリッサ・エレン(フランス)
新井が左、エレンが右組みのケンカ四つ。エレンは長い腕を利し、釣り手を外から巻き付けて極端に体を開く変形柔道。ここからノーステップの右体落で作用足だけを低く送り込んで来る難剣タイプの選手だ。新井初弾は焦って受けてしまい、返す刀で放った払腰を掛け潰れる危ない場面があったが、以後はその作用足の襲来に出足払を合わせて崩すなど徐々に格の違いを見せ始める。1分18秒、新井緩やかにステップを切って角度と立ち位置を変え、作用足を相手の股中に置くなり脚を振り上げ左内股。掛けたと思った瞬間には吹っ飛んだエレンもろとも畳上で転がる鮮やかな一撃は、もちろん文句なしの「一本」。

[準々決勝]

新井千鶴○優勢[技有・足車]△サンネ・ファンダイク(オランダ)
新井は左、ファンダイクが右組みのケンカ四つ。長身のファンダイクは釣り手を横から背中に回して片手で対峙。引き手を持たぬまま大きく前技フェイントを効かせて右小外刈に打って出る。動き鋭く真裏を狙って食いついたこの一撃に新井は尻餅、危うくポイントを失いかける。ファンダイクさらに右体落で攻め、新井は直後内股と膝車で展開を持ち直そうとするが主審の決心はどうやら覆らず、「待て」を宣告すると新井に消極的との咎で「指導」。続くシークエンスでようやく二本持った新井は左内股、予期した相手が左足を引くとそのまま作用足をずらし左足車で膝を捕まえる。新井一気に投げに掛かり、ファンダイクは伏せかかるが体を捨てた新井は引き手の牽引を効かせて体勢を引き戻し、1分32秒決定的な「技有」獲得。これですっかり落ち着きを取り戻した新井、以降は危なげなし。投げ切ることこそ出来なかったがファンダイク得意のフェイント小外刈をことごとく内股で切り返し、タイムアップ。

[準決勝]

新井千鶴○優勢[技有・内股]△エルヴィスマール・ロドリゲス(ベネズエラ)
新井が右、ロドリゲスが左組みのケンカ四つ。新井は上から釣り手を持って場外際で強引な左内股、この技は崩しが甘くロドリゲスが凌いで「待て」。続く展開ではロドリゲスが新井の背中を抱えると、新井は左背負投にかけ潰れてこの形をいったんリセットする。互いが一つ優位な形を作りあったこの時点から試合はいったん膠着、引き手の探り合いが続き1分10秒に両者に「指導」。そして直後の1分24秒、新井は組み手争いの中で自ら場外に出るミスを犯して2つ目の「指導」を失ってしまう。新井は試合時間2分半を残してもはや後のない状況。続く展開、ロドリゲスが右背負投で掛け潰れると新井は淀みなく寝勝負に持ち込み、横に引き込んで縦四方固。しかしこの抑え込みは上体の拘束が甘く「技有」止まり。さらにこの「技有」もジュリーによる確認の結果取り消されてしまい、新井にとっては非常に嫌な流れ。しかし新井は落ち着きを失わず、2分29秒に勝負技の左内股。ロドリゲスはこれを跨いで回避しようとするが、新井はその着地の際に合わせて強引に押し込み決定的な「技有」獲得、試合時間2分30秒にしてついにリードに成功する。奮起したロドリゲスは得意の右袖釣込腰で攻めるが、新井は反対に絞めを狙って時間を消費。3分35秒には新井を場外に押し出したロドリゲスに2つ目の「指導」が与えられ流れはもはや完全に新井。新井は残りの時間を釣り手を突いて凌ぎ切りタイムアップ。苦手なケンカ四つの相手に苦労を強いられたが、しっかり決勝進出を決めた。


[決勝]

新井千鶴○縦四方固(3:10)△ケリタ・ズパンシック(カナダ)
※前述のため戦評省略

新添左季(山梨学院大2年)
成績:7位


[1回戦]

新添左季○足車(2:25)△リューシー・ペホー(フランス)
ともに長身痩躯の若手対決は左相四つ。新添が長い腕を伸ばして奥襟を叩くと、ペホーは横変形にずれて対峙。この形を受け入れた新添はいったん低く構えて相手の釣り手を下げると伸びあがるように左大外巻込、これが決まって25秒「技有」。さらに新添は1分20秒にも左大外巻込で「技有」を追加して完全に試合を支配する。ペホーは横変形で新添の釣り手を噛み殺すが具体的な技が出せず、長くこの形が続いた末に新添が勝負を決めるべく左足車。これが見事に決まって「一本」、技の衝撃か地元で初戦敗退のショックかペホーはしばし立てず、畳にうずくまる。

[2回戦]

新添左季○GS反則[指導3]△マリア・ポーテラ(ブラジル)
新添が左、ポーテラ右組みのケンカ四つ。ポーテラは新添の投げを警戒、片手のまま体を開き、浅い出足払のみで試合を構成する。新添が引き手を持ちに行くと明らかに嫌い続け、主審これを見て的確に片手の咎でポーテラに「指導」。しかしポーテラめげずに以後も片手柔道を続け、中盤新添に左内股で持ち上げられて潰れたところで2つ目の「指導」失陥。以後も新添攻め続けるが消耗したか技に切れ味がなく、さながら脂の巻いた日本刀で叩くが如し。ポーテラの極端な防御志向もあり決定打ないまま試合はGS延長戦へと移る。GS46秒、新添が両襟から放った内股にポーテラ伏せるとあまりの疲労にそのまま正座してしばし立てず。主審両者を開始線に戻してポーテラに3つ目の「指導」を宣告する。

[準々決勝]

新添左季△GS技有・浮落(GS0:22)○ヨウ・ジュヨン(韓国)
左相四つ。ヨウは組み合うことを嫌い「巴十字」を仕掛けて先制攻撃。新添釣り手で奥襟を掴むが、瞬間ヨウは回旋鋭く外巻込。新添は高く釣り手を持っていたぶん逃れられずに深く引きずり込まれ、これは「技有」。新添は続くシークエンスで大内刈を入れながら奥襟を攻略、ヨウは横変形にズレて新添の釣り手を顎で噛み殺して耐える。一見ヨウのディフェンスがしっかり固まっている状況だが新添はそのまま内股巻込。釣り手が伸び切って効かないはずの状況で仕掛けた、リーチの長さが武器の新添らしい一撃に虚を突かれたヨウ思い切り転がってこれは「技有」。以後は新添が両手を出して一度に二本を狙う積極的な組み手を展開、終盤は力の差が出始めてヨウは巻き込み潰れに座り込みの担ぎ技で展開を流すしかない状況に追い込まれる。本戦終了直前、ヨウに偽装攻撃の「指導2」が与えられ、試合はGS延長戦へ。ヨウは焦り明らかで陥落寸前、新添は自信満々奥襟を叩き、ヨウがこれを噛み殺す横変形の形が再び現出。新添ここから、もっとも遠い位置である相手の右足を狙っての左小外刈に打って出る。これまた独特の距離感を持った新添らしい面白い技だが、今度は釣り手が伸び切っていたことが仇となる。ヨウは新添の刈り足が膝裏に振れるやいなやスピードアップ、時計回りに左体落の形で回転。伸び切った釣り手が引きずり込まれた新添は万事休す、「技有」失陥で試合終了。ポイント獲得も失陥も新添の特徴ゆえ。興味深い一番であった。

[敗者復活戦]

新添左季△縦四方固(2:48)○マリーイヴ・ガヒエ(フランス)
新添が左、ガヒエが右組みのケンカ四つ。ガヒエが奥襟を得て上下にあおりを呉れると新添は堪らず畳に膝をついてしまい、26秒新添に偽装攻撃の咎で「指導」。ガヒエは以降も奥襟を叩いてしつこく右釣込腰を狙い続ける。新添は腰を切って必死に堪えるが、新添が腰を入れたタイミングでガヒエが右への浮技。新添は尻餅をつきながらも辛うじてポイント失陥を免れる。以降ガヒエは引き手で片襟を得てから奥襟を叩き、新添を懐に抱き込む我儘な組み手を展開。新添はパワーのあるガヒエの徹底した組み手管理の前に為す術なく、一方的な防戦を強いられる。2分12秒、場外際での組み手の攻防でガヒエが自ら場外に出ると、主審はガヒエに故意に場外に出た咎で「指導」を宣告。試合の主導権は依然ガヒエだが、新添はポイントの上では追い付くことに成功する。しかし、続く展開でガヒエが奥襟を得ると新添は思わず伏せてしまい、そのまま後ろに捲られて縦四方固で抑え込まれてしまう。ほとんどもがくことも出来ないまま20秒が経過。ガヒエが終始新添を圧倒してグランドスラム東京のリベンジを果たした。新添は、あるいは前戦で負傷でもしたのかと疑われる元気のない試合ぶり。

■ 78kg級・地元フランスのチュメオが優勝、佐藤は大消耗戦の末に決勝で苦杯
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決勝、佐藤がチュメオの左大外刈に大外返を狙う

(エントリー14名)

【入賞者】
1.TCHEUMEO, Audrey (FRA)
2.SATO, Ruika (JPN)
3.STEENHUIS, Guusje (NED)
3.CAMARA, Sama Hawa (FRA)
5.PARK, Yujin (KOR)
5.APOTEKAR, Klara (SLO)
7.MALONGA, Madeleine (FRA)
7.POWELL, Natalie (GBR)

リオデジャネイロ五輪銀メダリストで地元フランスのオドレイ・チュメオ(フランス)が優勝、佐藤瑠香(コマツ)は決勝で試合時間8分5秒に及ぶ大消耗戦の末に敗れて準優勝だった。

優勝したチュメオは五輪銀メダリストとしての凱旋出場、ここまで地元フランス勢に優勝者が出ていないなかで見事表彰台の真ん中に立って面目を保った(結果としてフランス勢の優勝者はチュメオのみだった)。この日のチュメオは持ち味であるテディ・リネール(フランス)を思わせるような組み手管理が冴えており、先に引き手を得てからリズムよく動き回る王道の組み立てで相手を翻弄した。準決勝のパク・ユジン(韓国)戦は最もチュメオの良さが出た試合で、組み手争いから引き手を得ると相手側に一度畳み、開き際に片襟の右大外刈を打って相手を崩し、最後は向き直って来た相手を奥襟を叩きながらの大外落「一本」(0:23)の秒殺で仕留めてみせた。78kg級は頂点に君臨していたケイラ・ハリソン(アメリカ)の引退を契機とした序列再編成のまっさい中、決勝の佐藤戦こそ煮え切らない内容であったが、チュメオがその中で「序列第一位」にあらためて名乗りを上げた格好の大会となった。

佐藤は攻撃手段の豊富さという長所を存分に発揮して準決勝までの若手選手との連戦を勝ち抜いたが、決勝では打って変わって戦術面の貧弱さという悪い面が出てしまい「指導3」(GS3:05)で敗れた。佐藤の戦い方はこの階級の主要選手の例に漏れず直感に頼った野性的なもの。チュメオが押せばあっさり畳を割ることに気づいた佐藤はそこに勝機を見出したが、あまりに繰り返し場外に押し出し続けたために反対に「指導」を失ってしまった。技による決着を企図したルール改正の直後で主審が過剰にこの点に気を遣ったであろうことや会場が「アウェー」であったことなどでチュメオへの「指導」が遅かった(これまでであれば先にチュメオに「指導」が与えられていた可能性が高い)というエクスキューズはあるものの、またもや思考停止に陥って敗れたと評されても仕方のない一番であった。前述の通り佐藤の強さは立って良し寝て良しの豊富な攻撃手段の保有によるものであり、組んで腰技や大外刈を狙うだけのパワーファイターが跋扈しているこの階級にあってこれは大きなアドバンテージだ。しかしその一方、佐藤は試合中に周りが見えなくなってしまい自ら手札を捨てるような猪突猛進に陥ることでこれまでに何度も試合を落として来てもいる。今回はこの長所と悪癖の落差が際立った大会であったと総括出来るのではないだろうか。決勝に進出してチュメオと互角の勝負をしたことで国内の序列は変わらず1番手のままだが、世界選手権で入賞を狙うためには戦術面での視野の狭さを克服することが変わらぬ課題であると言える。

大量参加した若手選手についてもコメントしておきたい。若手選手の中で最も成績が良かったのはサマハワ・カマラ(フランス)。相変わらずのパワー柔道であったがこの日は地元の大歓声を背に受けて一段と勢いが増しており、サラ・ムゾウグイ(チュニジア)やクララ・アポテイカー(スロベニア)といったライバル達を次々に撃破して見事3位を獲得した。カマラの国内のライバルであるマデリーン・マロンガ(フランス)は佐藤に横四方固「一本」(GS1:07)で敗れて決勝ラウンドに進めておらず、フランス若手一番手の座はどうやらカマラに移ったと見てよさそうだ。アポテイカーは長身を利した得意の「サリハニ」戦法で強豪フッシェ・ステインハウス(オランダ)を破る殊勲を上げたが、佐藤とカマラに連敗して表彰台を逃した。パク・ユジンは前述のとおり準決勝でチュメオに大外落「一本」で一蹴されると3位決定戦でもステインハウスに敗れて表彰台には手が届かず。グランドスラム・東京大会では準優勝を果たしたが、今大会では早速階級上位の壁に弾き返された形だ。アンナマリア・ワグナー(ドイツ)は両組みを披露するなど面白い戦い方を見せたが1回戦で佐藤の前に「技有」を3つ奪われて敗れた。前述のとおり現在78kg級は序列再編のただなかにあるが、それに合わせたかのように将来有望な若手選手が一気に現れて来た状況。ここに名前を挙げた選手たちには今後も注目が必要だ。

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78kg級入賞者。佐藤、チュメオ、ステインハウス、カマラ。

[準々決勝]

クララ・アポテイカー(スロベニア)○GS反則[指導3](GS1:40)△フッシェ・ステインハウス(オランダ)
佐藤瑠香○GS横四方固(GS1:07)△マデリーン・マロンガ(フランス)
オドレイ・チュメオ(フランス)○反則[指導3](1:40)△サマ ハワ・カマラ(フランス)
パク・ユジン(韓国)○優勢[技有・釣込腰]△ナタリー・ポウエル(イギリス)

[準決勝]

オドレイ・チュメオ(フランス)○大外落(0:24)△パク・ユジン(韓国)
佐藤瑠香○GS技有・小内巻込(GS1:53)△クララ・アポテイカー(スロベニア)

[3位決定戦]

フッシェ・ステインハウス(オランダ)○GS指導2(GS1:38)△パク・ユジン(韓国)
ステインハウスが左、パクは右組みのケンカ四つ。パクは右小外刈と右払巻込、ステインハウスは角度のないところからの左大内刈と左内股、それに「サリハニ」様に足を差し入れる左小内刈の3つを組み合わせて投げに掛かる。しかしどちらの選手も決定力と精度に欠け、相手をある程度崩すも投げ切るところまで辿り着かない。2分48秒、ステインハウスが股中に左体落を置いた形で相手を伏せさせたところでパクに「指導」。以後も双方同種の攻めと失敗を繰り返し続ける。ともにケンケンで追いかけても相手が崩れるところまで脚がついていかず、体を捨てれば肝心のところで手が離れるという泥沼の消耗戦。試合は延長にもつれ込み、ステインハウスが大内刈に小内刈、内股と3つ技をまとめたGS1分38秒パクに「指導2」が宣告されてようやく試合は決着。体は強いが相手に応じてギアを変えられない、戦術の幅が狭い、投げのダイナミクスの精度が低く一定以上の体力やバランスのある相手を仕留めるロジックに欠ける、と78kg級の平均的選手傾向が非常に良く表れた試合。

サマ ハワ・カマラ(フランス)○GS袈裟固(GS3:25)△クララ・アポテイカー(スロベニア)
右相四つ。リーチのあるアポテイカーに対してカマラは左構えで組み手を展開、引き手で襟を持ちいったん距離を取ってから奥襟を狙う。41秒、カマラの仕掛けた左袖釣込腰が偽装攻撃と見なされ「指導」。以後はカマラが組み際に先手攻撃を仕掛け、アポテイカーが寝技を狙う展開が続く。カマラが抱き付きの右大内刈でアポテイカーを伏せさせると、アポテイカーも負けじと右内股でカマラを畳に這わせ、両者全く譲らず。1分40秒頃からは横変形組み手での攻防が現出、この形から何度かアポテイカーが強引な右払巻込を試みるが、カマラは余裕を持ってこれを受け切る。結局大きな動きがないまま本戦の4分間が終了、勝負はGSの延長戦へと持ち越される。この時点で累積警告はカマラへの「1」のみ。カマラに「指導」が与えられると勝負が決まるが、アポテイカーは「指導1」までは失っても良い状況だ。延長戦に入るとカマラが先手攻撃で主導権を奪いに掛かるが、アポテイカーも要所で技を繰り出し展開を譲らない。GS2分、カマラが釣り手を巻き替えながらの右大内刈から左小外掛に連絡してアポテイカーを大きく崩す。ポイントが想起される一撃だったが、アポテイカーは身を捻ってなんとか回避しまたもやスコアに差はつかず、この時点で両者ともに相当疲労している様子。GS3分間際、我慢の効かなくなったアポテイカーは真裏への隅返で勝負に出るが、カマラは腰を切ってこれを回避する。潰れた時点で既にカマラの袈裟固の形が完成しており、アポテイカーは万事休す。カマラが袈裟固「一本」で3位を獲得した。

[決勝]

オドレイ・チュメオ(フランス)○GS反則[指導3](GS3:05)△佐藤瑠香
右相四つ。組み合ったまま技を仕掛けない膠着状態が続き、51秒に「指導」が与えられる。続く展開でもお互いに釣り手を絞り合って技を仕掛けないまま時間が経過。1分59秒、両者に2つ目の「指導」。早くも両者後がなくなってしまう。チュメオが先に引き手を得て良い組み手を作るが、技の出が遅く佐藤に立て直す時間を与えてしまい、やはり以後も試合は膠着。3分41秒にはチュメオが仕掛けた片襟の右大外刈を佐藤が大外返で返し掛ける場面が訪れるが、上体の拘束が不十分でこれも不発。このまま本戦の4分間が終了し、勝負はGSの延長戦へと突入する。延長戦でも様相は変わらず、両者ともに組み手での優位確保にひたすら注力。全く技が出ないまま試合が進行する。GS1分14秒、佐藤が圧を掛けて前に出るとチュメオはあっさりと場外に出てしまい「待て」。主審はインカムでジュリーに確認するが「指導」は与えられず。1分37秒、佐藤は奥襟を得て良い形を作るが、少し煽るとチュメオが潰れてしまい「待て」。主審は再度インカムでジュリーに確認するが、今度も「指導」は与えられず。佐藤優位の時間帯が続くが、技での決着を望むIJFの方針と地元チュメオの「地の利」ゆえか、なかなか「指導」が与えられない。2分10秒、佐藤が圧を掛けて押し込むと再びチュメオは場外に出て回避。主審は両者に柔道着を正すよう指示を与え、その間にジュリーによる確認が行われる。流石に「指導」が宣告されるかと思われたが、ここの場面も主審はスルー。3分5秒、佐藤が圧を掛けてチュメオを場外際に追い込むと、チュメオはまたしてもあっさりと畳を割る。この攻防は佐藤の押し出しと判断され、佐藤に「指導」が宣告されて勝負あり。チュメオが地元フランスで優勝を飾った。結局、本戦終盤の大外刈と大外返での攻防以外に「投げ」が想起される場面はなく、グランドスラムの決勝戦としては物足りない試合だった。

【日本代表選手勝ち上がり】

佐藤瑠香(コマツ)
成績:準優勝


[1回戦]

佐藤瑠香○優勢[技有・谷落]△アンナ マリア・ワグナー(ドイツ)
右相四つ。ワグナーが奥襟を得ると佐藤は片襟の形で防御してしまい、12秒、早くも佐藤に片襟の咎で「指導」。再びワグナーは奥襟を叩きに掛かるが、佐藤は首抜きの右大外刈でこれを回避。ここからワグナーはいったん左組みにスイッチして佐藤の背中を持つが効なく、再び右に戻して奥襟を狙う。しかしこれを予期した佐藤が先に引き手を得てこれを封じ、釣り手を絞られたワグナーは体を振って切り離そうとするが佐藤両手を狭く保ってあくまで離さず粘着に次ぐ粘着。窮したワグナーは場外際で左組みにスイッチ、しかし左手を離したタイミングを狙って佐藤が思い切り右への谷落。片手のワグナー堪らず転がって「技有」。佐藤はそのまま場外で横四方固に抑え込むが、これは途中で逃げられてしまい「技有」。この辺りから佐藤は相手に慣れてきたようで、以後は相手の釣り手を絞ってまったく反撃の隙を与えない。組み手に窮した相手が再度左組みにスイッチしようとすると、今度は肘抜きの右背負投で「技有」を追加し、もはや相手の思考パターンは佐藤の掌中。以降も佐藤がワグナーの釣り手を落とし続けて試合終了。佐藤は盤石の内容で初戦を突破。

[準々決勝]

佐藤瑠香○GS横四方固(GS1:07)△マデリーン・マロンガ(フランス)
右相四つ。佐藤長身の相手に対し先に引き手を確保する好スタート。しかしマロンガ両袖に持ち込んで耐え、技が止まった両者に「指導」。以後も両袖で「押し相撲」の様相が続くが体格に勝るマロンガが押し込みながら足を出し続け、佐藤は2つ目の「指導」を受けてしまう。直後佐藤が立ったままの右背負投、背中の上を転がったマロンガ畳に伏せ、ここから長い寝勝負を経て佐藤が抑え込むに至るがマロンガ長い体を捩じって逃れ「待て」。終盤佐藤が支釣込足で転がすが惜しくもノーポイント、結局試合はGS延長戦へ。佐藤が延長戦で「指導」を奪回、勢いを得て前に出るとマロンガは焦って不十分な体勢から右大外刈。佐藤これを引き落として返すと釣り手を効かせてめくり、あっという間に横四方固。GS1分7秒、熱戦は「一本」で決着。

[準決勝]

佐藤瑠香○GS技有・小内巻込(GS1:53)△クララ・アポテイカー(スロベニア)
右相四つ。身長なんと187センチのアポテイカーに対し、佐藤これしかないとばかりに先んじて引き手の袖を抑えて前進に次ぐ前進。アポテイカーは支釣込足を軸に右大外刈と右足車で対抗するが、中盤以降佐藤は釣り手で顎を突き上げながらの右大内刈、右大外落、左一本背負投に右内巻込とあらゆる手立てで攻めまくり、2つの「指導」を獲得。しかしいずれも決め切れず、残り37秒で佐藤も偽装攻撃の「指導」を受けて試合はGS延長戦へ。延長戦は意地の張り合い、双方フラフラになりながらそれでも攻め続ける大消耗戦となる。GS1分50秒、佐藤が肘抜きの右背負投で相手を崩すと、右小内巻込に繋ぐ。消耗ゆえかお互いたたらを踏みながら出来上がったこの形の深さは決定的、佐藤が体を捨てると疲れ切ったアポテイカーついに陥落。「技有」で試合終了。

[決勝]

佐藤瑠香△GS反則[指導3](GS3:05)○オドレイ・チュメオ(フランス)
※前述のため戦評省略

■ 78kg超級・朝比奈沙羅が山部佳苗との直接対決を制して優勝、世界選手権代表へとまた一歩前進。
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決勝、朝比奈が右払巻込で山部を攻める

(エントリー23名)

【入賞者】
1.ASAHINA, Sarah (JPN)
2.YAMABE, Kanae (JPN)
3.KIM, Minjeong (KOR)
3.ANDEOL, Emilie (FRA)
5.BISSENI, Eva (FRA)
5.KALANINA, Yelyzaveta (UKR)
7.PAKENYTE, Santa (LTU)
7.SLUTSKAYA, Maryna (BLR)

朝比奈沙羅(東海大2年)が山部佳苗(ミキハウス)との決勝に「指導3」の反則で勝利して優勝、東京大会に続くグランドスラム2連勝を達成した。この日の朝比奈は膝車や支釣込足といった足技が冴えており、リオデジャネイロ五輪金メダリストのエミリー・アンドル(フランス)やキム・ミンジョン(韓国)といった階級を代表する強豪たちにもこの足技を駆使して勝利、逆サイドに陣取ったマリアスエレン・アルセマン(ブラジル)を除く優勝候補全員を倒すという素晴らしい内容での優勝劇だった。78kg超級は体格の大きさに比して足腰の弱い選手が多く、足技の強化という選択肢はこの傾向に合致する。今大会を見る限り朝比奈の足技は階級トップの選手たちにも通用する域に達しており、これをテコに階級の序列を一気に駆け上がる可能性も十分とみる。第1次予選の講道館杯、第2次予選のグランドスラム東京、そして第3次予選の今大会とここまで選考対象試合のすべてを制したことで朝比奈は現在世界選手権代表レースの1番手、どころか「独走」していると評価されるのが正当。4月に行われる選抜体重別でしっかりと結果を残して、余計な議論が起こる余地なく出場を決めたいところだ。

一方の山部は相変わらずの「格下に対する強さ」を存分に発揮し、序盤戦は秒殺連発。強豪との対戦一切ないまま決勝に勝ち進み、しっかり準優勝を果たした。冬に強くなり春にピークを迎える例年通りの調整は順調な模様。五輪から今大会まで得意の右払腰がほとんど決まっていないこと(グランドスラム東京大会において本人も「最近払腰が決まらない」とコメントしている)がメンタル面にどのような影響を及ぼすかが気になるが、4月に行われる選抜体重別と皇后盃では再び強い山部を見せてくれると期待したい。世界選手権代表は今大会に出場した2人に今月末のグランプリ・デュッセルドルフ大会で復帰する田知本愛(ALSOK)を加えた3人までが選出圏内。現状では長期間戦線離脱していた田知本が出遅れているが、最後まで気を抜くことのできない激しい戦いとなりそうだ。

前述のアンドルやアルセマンら五輪から復帰した強豪たちは一様に動きが悪く、パフォーマンス冴えず。もともと大会ごとの出来に波のある選手が多い階級ではあるが、男子超級の惨状と合わせて超級選手のコンディション管理の難しさが際立った大会だった。イダリィス・オルティス(キューバ)とユー・ソン(中国)の2人はグランプリ・デュッセルドルフ大会にもエントリーしておらず復帰時期は未定。世界選手権に向けてどの段階で復帰してくるのか、国内のみならず海外の動向にも注目していきたい。

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78kg超級入賞者。左から山部、朝比奈、アンドル、キム。

[準々決勝]

エミリー・アンドル(フランス)○GS反則[指導3](GS1:02)△サンタ・パケニテ(リトアニア)
朝比奈沙羅○横四方固(3:42)△キム・ミンジョン(韓国)
山部佳苗○横四方固(0:35)△マリナ・スルツカヤ(ベラルーシ)
エヴァ・ビッセニ(フランス)○送足払(1:18)△イェザベータ・カラニナ(ウクライナ)

[準決勝]

朝比奈沙羅○横四方固(0:53)△エミリー・アンドル(フランス)
山部佳苗○優勢[技有・燕返]△エヴァ・ビッセニ(フランス)

[3位決定戦]

キム・ミンジョン(韓国)○優勢[技有・袖釣込腰]△エヴァ・ビッセニ(フランス)
キムが左、ビッセニが右組みのケンカ四つ。双方組み手不十分、効果的な技を放つことも出来ず40秒両者に「取り組まない」咎による「指導」。キムが奥襟を叩くとビッセニの頭が下がるが、続いてのキムの左内股はビッセニが抱きかかえたままもろとも潰れて展開に差はつかない。1分38秒またもや「取り組まない」咎で両者に2つ目の「指導」。以後も双方中途半端な技が続くが逆に決定的なミスもなく、主審は敢えて反則裁定を採らずに投げによる決着の生成を待つ。残り10秒を切ってキムが両袖をしっかり確保。焦ったビッセニが前に出るとキムは迎え撃って左前隅に転がり込むように左袖釣込腰、これが決まって「技有」。「待て」が掛かったところで残り時間は3秒のみで、ビッセニは万事休す。このままキムの勝利が決まった。

エミリー・アンドル(フランス)○GS反則[指導3](GS1:13)△イェザベータ・カラニナ(ウクライナ)
右相四つ。地力に勝るアンドルが釣り手で奥、引き手で相手の釣り手を落とす万全の形を作って終始圧倒。2メートルを超える長身のカラニナの頭を下げさせて前に出続ける。51秒、防戦一方のカラニナに「指導」。アンドルが右大外刈を仕掛けた直後の2分31秒にカラニナに2つ目の「指導」が宣告される。後のなくなったカラニナは押し潰すような右内股でアンドルを伏せさせると横に捲って絞めを狙う。しかしここはアンドルが凌ぎ切って「待て」。この頃からアンドルに疲れが見え始め、カラニナ優位の膠着状態が続いた3分48秒にはついにアンドルにも「指導」。このまま本戦が終了し、試合はGSの延長戦へと持ち越される。この時点で両者の「指導」はアンドルが「1」でカラニナが「2」。カラニナに「指導」が与えられると勝負が決まるが、アンドルは「指導」1つまでは失っても大丈夫な状況だ。アンドルの疲労もあり、延長戦でも試合終盤と同様の膠着状態が出現。お互い申し訳程度に技を仕掛けるもののどれも浅く決定打からは程遠い。GS1分13秒、アンドルが釣り手をクロスグリップに叩き入れて右大内刈から外巻込を放つと、主審はカラニナに3つ目となる「指導」を宣告。アンドルが満身創痍になりながらも表彰台を確保し、五輪王者としての体面を保った。

[決勝]

朝比奈沙羅○反則[指導3](3:41)△山部佳苗
右相四つ。山部は右大内刈を打ちながら猛然と組み付き、奥襟を持って右払腰で先制攻撃、どうやら気合い充分な様子。一方の朝比奈は慌てずに引き手で山部の脇を突いていったん距離を取る。ここから膠着状態が続き、39秒に両者に「指導」。「始め」の声がかかると山部は最短距離で朝比奈に接近、再び右大内刈を放ちつつ奥襟を狙う。どうやらこの形が山部の対朝比奈戦における組み手の方針の模様。ここから再び試合は膠着、散発ながらお互い技は出すものの相手を崩すまでには至らない。2分10秒、主審は技数で上回っていた朝比奈の優位を認め、山部に2つ目の「指導」を追加。山部は再び右大内刈を出しながら組み付くが、朝比奈は落ち着いてこれを捌く。朝比奈が右膝車で山部を崩すと試合は3度目の膠着タームへと突入。山部が奥襟を持って有利な形を作るが、朝比奈が脇を突いて守るため攻め切れない。朝比奈は強引な右膝車で山部の奥襟を外すと、右払巻込で掛け潰れて展開をリセット。「待て」ののち開始線から試合が再開されるが、意外にも山部はこれまでとは打って変わっては元気なくゆったりとした組み手を展開する。短い膠着が続き、朝比奈が右払巻込を仕掛けようとしたところで主審は試合を中断。3分41秒、山部に3つ目となる「指導」が
宣告され、朝比奈がグランドスラム東京に続く優勝を決めることとなった。

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準決勝、朝比奈が五輪王者のアンドルに横四方固「一本」。

【日本代表選手勝ち上がり】

朝比奈沙羅(東海大2年)
成績:優勝


[1回戦]

朝比奈沙羅○横四方固(2:51)△クセニア・チビソワ(ロシア)
朝比奈が右、チビソワが左のケンカ四つ。朝比奈は長身のチビソワに奥襟を持たれて懐に抱き込まれてしまう苦しい形。しかし朝比奈は組み負けつつも前後に相手を揺さぶって機を窺い、1分25秒にチビソワが釣り手を持ち替えようと手を離した瞬間に右膝車を仕掛ける。浴びせるように押し込んだこの技は「技有」となり、朝比奈がリードを獲得。2分20秒、朝比奈は潜り込むように釣り手を巻きかえると、窮屈な間合いを利用して前技フェイントの右小内刈を仕掛ける。足はほとんど掛かっていなかったものの、チビソワは大きく崩れて尻餅をついてしまう。朝比奈はすかさず押し込んで「技有」を得ると、そのまま足を抜いて横四方固。完璧に上体を固めたこの抑え込みにチビソワはもがくこともすら出来ず。横四方固「一本」で朝比奈の初戦突破が決まった。

[2回戦]

朝比奈沙羅○反則[指導3](3:31)△ラリサ・セリック(ボスニア・ヘルツェゴヴィナ)
右相四つ。組み合うなり朝比奈が支釣込足でセリックを伏せさせる。さらに右内股で伏せさせると48秒にセリックに「指導」。セリックは左構えからの右外巻込で反抗を試みるが、朝比奈は全く動じず。1分50秒、右外巻込で潰れたセリックに偽装攻撃の咎で2つ目の「指導」。以後も試合の様相変わらず、3分間際にセリックに3つ目となる「指導」が与えられるが、これはすぐに取り消し。そして3分31秒、外巻込で掛け潰れたセリックに偽装攻撃の咎で3つ目の「指導」が宣告されて勝負あり。

[準々決勝]

朝比奈沙羅○横四方固(3:42)△キム・ミンジョン(韓国)
朝比奈が右、キムが左組みのケンカ四つ。キムはまず右構えで試合を開始、自らの左釣り手で朝比奈の釣り手を落とすと、右引き手で朝比奈の襟を持って敢えて完全な右相四つの形を作り出す。朝比奈がこの形に応じて引き手を袖に持ち替えると、キムも引き手を襟から袖へと移動、面倒な引き手争いをすることなく、一方的に得意の左袖釣込腰を仕掛けられる両袖の形を完成させる。準備行動を終えたキムは朝比奈の右大内刈で一度畳に伏せるが、立ち上がると同時に左袖釣込腰、完全に懐への侵入を許した朝比奈は堪らず転がってしまいここれは「技有」。「一本」でもおかしくない強烈な一撃だった。キムは同様の形から再び袖釣込腰を狙うが、これはさすがに朝比奈が読み切って不発。ここからキムは完全な左組みに戻して組み手を展開、リードを奪われた朝比奈は間合いを詰めて反撃のきっかけを作りたいが、キムの釣り手管理が厳しくなかなか十分な形を作れない。1分過ぎ、キムが奥襟を得て圧を掛けると朝比奈は前技フェイントからの右膝車。キムは大きく崩れるが腹這いで逃れる。この技に手応えを得た朝比奈は、1分40秒に両襟から同じ理合で支釣込足、今度はしっかりと押し込んで「技有」を獲得。ここからは両者が警戒し合って試合は減速、2分39秒には両者に取り組まない咎で「指導」が与えられる。朝比奈が両襟で攻めると3分4秒にはキムに2つ目の「指導」。後のなくなったキムは奥襟を持って左大外刈と左大内刈で朝比奈を攻め立てる。3分21秒、朝比奈が脇を差して腰を切る動作を見せると、キムはこれに反応して支釣込足を放つ。しかし朝比奈はこれを一歩踏み出して回避、左への浮落でキムを押し倒して「技有」を奪う。朝比奈はそのまま横四方固で抑え込み「一本」を獲得。強者キムとの対戦を逆転勝ちで制して、ベスト4入り決定。

[準決勝]

朝比奈沙羅○横四方固(0:53)△エミリー・アンドル(フランス)
右相四つ。アンドルが奥襟と引き手を得た万全の形から右内股を放つが朝比奈は全く動じず。朝比奈が両襟を持って右膝車を放つと、体の伸び切ったアンドルは一瞬浮いて尻から畳へと落ちる。朝比奈は両手の拘束を緩めずに押し込んで横四方固。アンドルは必死にもがくが万事休す。朝比奈が五輪王者アンドルを一蹴して決勝進出を決めた。

[決勝]

朝比奈沙羅○反則[指導3](3:41)△山部佳苗
※前述のため戦評省略

山部佳苗(ミキハウス)
成績:準優勝


[2回戦]

山部佳苗○支釣込足(0:19)△サンドラ・ジャブロンスキッタ(リトアニア)
右相四つ。山部が支釣込足を放つとジャブロンスキッタは膝から崩れ落ちるように畳に転がり「一本」。僅か19秒の「秒殺」で山部が初戦を突破した。

[準々決勝]

山部佳苗○横四方固(0:35)△マリナ・スルツカヤ(ベラルーシ)
右相四つ。山部は右大内刈で押し込んで「技有」を奪うと、すかさず横四方固で抑え込み「一本」。35秒のこれも「秒殺」で準決勝進出決定。

[準決勝]

山部佳苗○優勢[技有・燕返]△エヴァ・ビッセニ(フランス)
右相四つ。ビッセニは横変形に構えるが、山部は足を飛ばしながら正対する位置へとビッセニを誘導。25秒、ビッセニが脇を差してきたタイミングに合わせて山部が右払腰。体を浴びせて投げに掛かるが間合いが遠く決め切れない。ここからビッセニは両袖を持って膠着を演出するが、前の展開が山部の技で終わっていたこともってか1分1秒主審はビッセニのみに消極的の咎で「指導」を宣告。以降は山部優位での動的膠着が現出、ビッセニが片襟に奥襟と釣り手の位置を変えながら山部の攻めを凌ぎ続ける。中途でビッセニの巴投から山部が抑え込みに入るチャンスが生まれるが、絡まれた足を抜くことが出来ず「待て」。3分間際、山部の右大外刈の戻りばなにビッセニが左出足払を放つと、山部はこれを透かして燕返で切り返す。軸足もろとも刈られたビッセニは勢い良く体側から落ちて「技有」。以降後のなくなったビッセニはペースを上げて山部に追いすがるが、山部はこの追撃を余裕を持って凌ぎ切る。

[決勝]

山部佳苗○反則[指導3](3:41)△朝比奈沙羅
※前述のため戦評省略


本文:林さとる (編集:古田英毅)
戦評:林さとる/古田英毅

※ eJudoメルマガ版2月21日掲載記事より転載・編集しています。

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