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グランドスラムパリ2017・最終日男子4階級(81kg級、90kg級、100kg級、100kg超級)レポート

(2017年2月16日)

※ eJudoメルマガ版2月16日掲載記事より転載・編集しています。
最終日男子4階級(81kg級、90kg級、100kg級、100kg超級)レポート
グランドスラムパリ2017
■ 81kg級・フランク・デヴィトがツアー初優勝、ロンドン-リオ期の強豪はまさかの全滅
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決勝、デヴィトがレフヴィアシビリから帯取返「技有」。

(エントリー36名)

【入賞者】
1.DE WIT, Frank (NED)
2.REKHVIASHVILI, Zebeda (GEO)
3.PIERRE, Baptiste (FRA)
3.NDIAYE, Pape Doudou (FRA)
5.SANTOS, Eduardo Yudi (BRA)
5.HONG, Suk Woong (KOR)
7.KRIVCHACH, Sergii (UKR)
7.NYAMSUREN, Dagvasuren (MGL)

一昨年の世界ジュニアチャンピオンであるフランク・デヴィト(オランダ)がツアー初優勝を果たした。もともと実力者ではあるものの、今回の優勝は想定外の大躍進と言うほかない。そもそもデヴィトがシニアカテゴリで注目されるようになったのは、昨年のグランドスラム・バクー大会において階級ナンバーワンの実力者である永瀬貴規(旭化成)を相手に残り6秒まで「技有」をリードする接戦を演じたからである。しかし、それ以降は故障明けのロイク・ピエトリ(フランス)に勝利したくらいで、階級の主役級の選手にはいずれも「一本」で跳ね返され続けてきた。今大会ではこれらの強豪が皆ことごとく序盤戦で敗れたため直接対決はなし、荒れたトーナメントに背中を押された感はあるが、優勝に至った最大の因はデヴィトの柔道スタイルの進化にあると考えられる。デヴィトのもともとの柔道スタイルは長い手足をいかして相手の背中を抱いて小外掛や釣込腰を狙うというもの。豪快ではあるが大味ゆえにカウンターを食らって敗れることも非常に多かった。

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準決勝、デヴィトがサントスから帯取返「一本」

今大会のデヴィトは5試合行ったうちの4試合を帯取返(所謂「ハバレリ」、近頃流行の兆しを見せている)によるポイントで勝利しており、もともとの柔道スタイルにクロスグリップからの帯取返が加わったことで一気に柔道の幅が広がったという印象だ。さらにこのクロスグリップスタイルは攻勢でされあれば組み方に寛容な新ルールとも合致している。この優勝でワールドランキングは5位まで上昇、今月末に行われるグランプリ・デュッセルドルフ大会にもエントリーしており、今大会で対戦のなかった強豪たち相手にも勝利を重ねることができるのか非常に楽しみだ。

今大会でデヴィトとともに目立っていたのが準優勝のゼベダ・レフヴィアシビリ(ジョージア)だ。この人は豪快な柔道スタイルをウリとするジョージアにあっては珍しい組み手を生命線とする戦術派。これまでは国内に階級を代表する強豪のアブタンディル・チリキシビリ(ジョージア)がいたために国際大会自体への出場自体が少なかったが、今大会では組み手の規制が緩和された新ルールの恩恵を最大限に受けて決勝戦に進出、2回戦では優勝候補の最右翼であったイヴァルロ・イヴァノフ(ブルガリア)を「指導1」のGS優勢(GS1:16)で下す活躍も見せた。今後も強豪として定着するかはまだわからないがが、73kg級の橋本壮市(パーク24)と並んで、投げの威力のある選手が有利と目されていた新ルール環境における戦術派の優位性を示してみせた。

プレビューでも書かせていただいたが、81kg級は現在序列再編の真っ最中。それを象徴するかのように前述のイヴァノフにセルジュ・トマ(UAE)、ヴィクトール・ペナウベル(ブラジル)といった優勝候補たちが次々と序盤戦で敗れていった。実は81kg級は全体としてのレベルは高いものの、怪物レベルのトップ選手の数はそこまで多くない混戦階級。団子状態の中から誰が抜け出すのか以後も注視していきたい。

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81kg級入賞者。左からレフヴィアシビリ、デヴィト、ピエール、エンジャイ。

【準々決勝】

ゼベダ・レフヴィアシビリ(ジョージア)○腕挫十字固(1:19)△バチスタ・ピエール(フランス)
パパ ドゥドゥ・エンジャイ(フランス)○優勢[技有・隅落]△セルギー・クリブチャッチ(ウクライナ)
エドゥアルド ユウジ・サントス(ブラジル)○優勢[技有・移腰]△ホン・スクウォン(韓国)
フランク・デヴィト(オランダ)○GS技有・帯取返(GS0:14)△ニャムスレン・ダグヴァスレン(モンゴル)

【準決勝】

ゼベダ・レフヴィアシビリ(ジョージア)○優勢[技有・肩車]△パパ ドゥドゥ・エンジャイ(フランス)
フランク・デヴィト(オランダ)○帯取返(0:35)△エドゥアルド ユウジ・サントス(ブラジル)

【3位決定戦】

バチスタ・ピエール(フランス)○谷落(1:52)△エドゥアルド ユウジ・サントス(ブラジル)
ピエールが左、サントスが右組みのケンカ四つ。片手の攻防が続き、サントスは右内股、ピエールは左内股に右一本背負投で攻めるが双方いずれの技も不十分。浅く腰を差して牽制しあうことが続き、1分52秒勝負に出たサントスがケンケンの右大内刈。次いで右内股に連絡するが、身を翻したまさにその瞬間ピエールは谷落に体を捨てる。これ以上ないほどタイミングがかち合い、サントス背中から畳に真っ逆さま「一本」。地元の大声援に見事応えたピエールが銅メダルを獲得した。

パパ ドゥドゥ・エンジャイ(フランス)○抱分(3:57)△ホン・スクウォン(韓国)
右相四つ。お互いに奥襟を狙い合うが、ホンは組み手争いのなかに左袖釣込腰や巴投を混ぜて手数を確保。ホンが左背負投でエンジャイを畳にはわせると、1分30秒にエンジャイに「指導」が宣告される。2分18秒、エンジャイがクロスグリップに釣り手を入れると、ホンは相手の釣り手を巻き込むようにして右大内刈を放つ。エンジャイは場外に向かって勢い良く転がり「技有」、ホンがリードを得ることに成功する。ここからエンジャイはペースを上げて追い上げに掛かり、2分51秒にホンに「指導」が与えられる。3分9秒、エンジャイの右小外掛にホンが右内股を合わせるがエンジャイが側転の要領で逃れてノーポイント。主審はここまでのエンジャイの攻勢を認めホンに2つ目の「指導」を宣告する。3分15秒、エンジャイはクロスグリップで帯を得ると引込返で「技有」を獲得、土壇場で追い付くことに成功する。観客の大歓声を受けて両者ともにヒートアップ。激しい技の応酬が繰り広げられる。残り10秒、ホンの左背負投をエンジャイが抱き止めると強烈な抱分。主審は「技有」を宣告するが、開始線に戻った時点で「一本」に修正される。地元選手の劇的な勝利に会場は大盛り上がり。

【決勝】

フランク・デヴィト(オランダ)○GS技有・帯取返(GS0:54)△ゼベダ・レフヴィアシビリ(ジョージア)
デヴィトが右、レフヴィアシビリが左組みのケンカ四つ。組み手争いが続き、45秒に両者に「指導」が与えられる。1分過ぎにデヴィトが引き込んで腕挫十字固を狙うもレフヴィアシビリが立ち上がって「待て」。1分25秒、デヴィトがレフヴィアシビリの右背負投を押し倒して浮落「技有」を獲得する。しかし、ジュリーによる確認の結果このポイントは取り消し。ここからレフヴィアシビリが左右の組み手をスイッチしつつ捨身技を狙い、デヴィトが奥襟を持って右大外刈を狙う展開が続く。両者ともに惜しい場面が何度かあったものの決めきれず、本戦の4分間が終了。勝負はGSの延長戦へと持ち越される。この時点で両者のポイントはともに「指導1」。どちらかにポイントが入った時点で勝者が決する。GS45秒、デヴィトは背中を抱えての右大外刈でレフヴィアシビリを下がらせると、釣り手をクロスグリップに持ち替えて返す刀で帯取返に打って出る。しっかりと釣り手のロックが効いた一発にレフヴィアシビリは堪らず転がり「技有」。デヴィトが見事ツアー初優勝を果たした。

■ 90kg級・チェン・シュンジャオが「一本」連発で優勝、長澤憲大は配置の不運に飲み込まれる
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決勝、チェンがクルジェから得意の左「一本大外」で「一本」を奪う。

(エントリー33名)

【入賞者】
1.CHENG, Xunzhao (CHN)
2.CLERGET, Axel (FRA)
3.GWAK, Donghan (KOR)
3.ZGANK, Mihael (SLO)
5.STEWART, Max (GBR)
5.GVINIASHVILI, Beka (GEO)
7.TEKIC, David (GER)
7.USTOPIRIYON, Komronshokh (TJK)

リオデジャネイロ五輪で大ブレイクしたチェン・シュンジャオ(中国)がこの大会で畳に復帰、「一本」を連発する素晴らしい内容で優勝を飾った。チェンはリオデジャネイロ五輪でイリアス・イリアデス(ギリシャ)を始めとする強豪たちを「一本大外」で次々と投げつけて銅メダルを獲得、しかしそれ以前に目立った活躍がなかったこと(五輪直前のグランプリ・アルマティ大会で準優勝しているが強豪の出場は少なかった)や得意技が奇襲要素の強い「一本大外」であるで「五輪だけの一発屋」ではないかという議論が絶えなかった。その観点から見れば今大会はチェンにとって五輪での活躍がピンポイントの「まぐれ」ではなかったことを示す追試のような意味合いを持つ。ベスト4進出ができれば十分合格点であったが、序盤戦から「一本」を連発して見事優勝、2015年アスタナ世界選手権チャンピオンのガク・ドンハン(韓国)に一本勝ちするボーナス点まで得て、この追試に満点以上の120点で答えてみせた。

この日の勝ち上がりで特筆すべき点は2つある。1つ目は序盤戦を「一本大外」以外の異なる技で勝ち上がったことだ。2回戦から登場すると2回戦のニコロス・シェラザディシビリ(スペイン)戦に左背負投「一本」、3回戦のオーレリアン・ディエス(フランス)戦に隅落「技有」、準々決勝のコムロンショフ・ウストピリオン(タジキスタン)戦に左袖釣込腰「一本」でそれぞれ勝利、「一本大外」だけの一芸タイプではなくしっかりと柔道ができる選手であることを示してみせた。驚くべきことにこれらの技はすべて完成度が高く、なぜこの選手が五輪前まで無名だったのかが不思議なくらいである。2つ目は準決勝と決勝の強豪との対決に「一本大外」を決めて勝利したことだ。前述のとおり「一本大外」は奇襲要素の強い技であり、来ることがわかっている相手に対してはなかなか決めることが難しい。チェンのようにこの技が代名詞となっている選手であればなおさらである。しかし、チェンは準決勝のガク戦と決勝のアクセル・クルジェ(フランス)戦にこの技を決め手勝利してみせた(ガク戦は「一本大外」で「技有」からの崩上四方固「一本」)。準決勝で投げたガクは安定感抜群で投技によるポイント失陥がほとんどない選手、そのガクを投げたということはこの技が警戒されて研究されていても掛かる水準にあることの証左に他ならない。どうやらチェンの実力は本物、今年の世界選手権においても上位の争いに絡んでくることは必至である。ちなみに完全に余談であるが、Fighting Films社から発売されている『101 JUDO IPPONS 2012』において2012年のグランプリ・青島大会で優勝を決めて大会レベルに見合わぬ(強豪の参加はなく決勝も中国勢同士の対決だった)大げさなガッツポーズを披露する無名時代のチェンを見ることができる。当時から変わらぬチェンの大物ぶりは一見の価値ありなのでDVDをお持ちの方は是非ご確認いただきたい。

日本代表の長澤憲大(パーク24)は地獄とでも形容されるべきハードな組み合わせ配置に飲み込まれてしまい3回戦で敗退。階級屈指の強者であるベカ・グヴィニアシビリ(ジョージア)を相手に計6分3秒に亘る消耗戦を演じた末に「指導3」のGS反則(GS2:03)で敗れた。というわけで長澤が直接敗れた相手はグヴィニアシビリだが、長澤敗退の因はむしろ1回戦のナシフ・エリアス(レバノン)戦に求めるべきである。階級きっての曲者として知られるエリアスは今大会においても掛け潰れ、柔道着をはだけ、帯を緩めてとあらゆる手で試合の引き伸ばしを図り、結果長澤は次戦にグヴィニアシビリとの大一番を控えているにも関わらず計6分19秒もの消耗戦を強いられることになってしまった。この試合は「指導3」のGSで長澤が勝利したが、エリアスは敗れた後も満面の笑みで長澤に握手を求めるなど最後まで曲者ぶりを振りまく相変わらずの怪人ぶり。長澤に勝利したグヴィニアシビリも消耗激しく準々決勝でガクに背負投「技有」で敗れてトーナメントから脱落、3位決定戦でも格下のミハエル・ツガンク(スロベニア)相手に「指導1」のGS優勢(GS0:30)で敗れて表彰台を逃した。

81kg級から階級変更を敢行した2014年チェリャビンスク世界選手権チャンピオンのアブタンディル・チリキシビリ(ジョージア)は2回戦でクルジェを相手に左腰車を潰されて「技有」を失い、初戦敗退だった。チリキシビリの両組みによるアドバンテージは階級を上げても変わらなかったが、この階級では特に大柄というわけではないクルジェと比べてもサイズが一回り小さく、最大の強みである体の強さを活かしきれていない印象だった。

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90kg級入賞者。左からクルジェ、チェン、ガク、ツガンク。

【準々決勝】

アクセル・クルジェ(フランス)○GS大外巻込(GS0:42)△マックス・スチュアート(イギリス)
ミハエル・ツガンク(スロベニア)○GS反則[指導3](GS1:40)△ダヴィド・テキック(ドイツ)
ガク・ドンハン(韓国)○優勢[技有・背負投]△ベカ・グヴィニアシビリ(ジョージア)
チェン・シュンジャオ(中国)○袖釣込腰(2:24)△コムロンショフ・ウストピリオン(タジキスタン)

【準決勝】

アクセル・クルジェ(フランス)○GS技有・隅落(GS1:17)△ミハエル・ツガンク(スロベニア)
チェン・シュンジャオ(中国)○崩上四方固(1:32)△ガク・ドンハン(韓国)

【3位決定戦】

ガク・ドンハン(韓国)○反則[指導3](3:13)△マックス・スチュワート(イギリス)
ガクが左、スチュワート右組みのケンカ四つ。スチュワートは引き手を持たせることを極度に嫌がり、牽制の出足払や引き手で裾を持っての右内股でひたすら決着を先送り。38秒、スチュワートに片手の咎による「指導」。しかしガクのほうも勝負が遅く、両袖で粘るスチュワートに対し体を使ってゆすり、間合いを作るのみで決定的な技がない。2分15秒双方に「指導」。ガクが左に餌を撒いておいての右一本背負投で大きくスチュワートを崩した直後の3分13秒、主審意を決して試合を止める。ここでスチュワートに3つ目の「指導」、反則負けが宣告されて試合が終わった。

ミハエル・ツガンク(スロベニア)○GS指導1(GS0:30)△ベカ・グヴィニアシビリ(ジョージア)
右相四つ。グヴィニアシビリが奥襟を得て圧を掛けると、ツガンクは巴投で引き込んで組み手をリセット。以降もグヴィニアシビリが奥襟を持って良い組み手になる度にツガンクが先制攻撃で掛け潰れるという展開が続く。2分20秒、グヴィニアシビリが奥襟を得ると同時にツガンクが右小内刈、グヴィニアシビリは大きく崩れるが腹這いで逃れる。3分間際、ツガンクが隅返で引き込むとグヴィニアシビリはここを起点に寝技を展開、足を抜いて抑え込みの形を作るが上体の拘束が甘く逃してしまう。グヴィニアシビリはここまでの強敵との連戦でかなり疲れている様子。両者ともにポイントがないまま本戦が終了、試合はGSの延長戦へともつれ込む。GS30秒、グヴィニアシビリが仕掛けた巴投が偽装攻撃と見なされ「指導」。GS優勢でツガンクの勝利が確定した。敗れたグヴィニアシビリは動きが悪く、持ち味のパワーを活かしきることが出来なかった。

【決勝】

チェン・シュンジャオ(中国)○GS大外刈(GS2:17)△アクセル・クルジェ(フランス)
右相四つ。お互いに警戒し合ってなかなか組み合わず、組み手争いに1分以上を消費。1分32秒、チェンの組み手を嫌ったクルジェに「指導」が宣告される。これ以降も組んでは絞り、絞られては切ってと組み手争いが継続する。2分43秒にクルジェの右払巻込をチェンが隅返で返すが、背中を着けることが出来ずポイントはなし。3分4秒、クルジェは引き手を得ると右浮腰でチェンを伏せさせ寝技を展開、ここはチェンが危なげなく守りきるが、「待て」の後の3分17秒にチェンに「指導」。以降ポイントの積み上げないまま本戦が終了し、勝負はGSの延長戦へともつれ込む。ポイントは両者が「指導1」で並んでおり、差がついた時点で勝敗が決する。延長戦が始まると両者とも一段ペースアップ、組み手が不充分であるためポイントには至らないが、組み際の技で惜しい場面を作り合う。GS1分40秒、左一本背負投で潰れたチェンに対してクルジェが寝技を展開。変形の逆十字絞で攻めるがチェンが凌ぎ切って「待て」。そして両者疲労困憊といった様子で開始線に戻った直後のGS2分17秒、組み際にチェン必殺の左「一本大外」が炸裂。クルジェは勢い良く畳に叩きつけられて「一本」。6分17秒に及ぶ消耗戦の末、チェンが見事優勝を果たした。

【日本代表選手勝ち上がり】

長澤憲大(パーク24)
成績:3回戦敗退


[2回戦]

長澤憲大○GS反則[指導3](GS2:19)△ナシフ・エリアス(レバノン)
左相四つ。エリアスの変則組み手の前に長澤はしっかり組むことが出来ず。まず1分15秒長澤に「指導」が与えられるが、長澤が十分な釣り手を得るとエリアスは引き込んで組み手をリセット、2分に今度は偽装攻撃の咎でエリアスに「指導」が与えられ、勝負は振り出しに戻る。ここからエリアスは左外巻込での掛け潰れを連発、しかし主審はこの手数を攻勢と認めて3分32秒に長澤に2つ目の「指導」が与えられる。結局本戦では勝負がつかず勝負はGSの延長戦へ。この時点で両者の「指導」は長澤が「2」でエリアスが「1」、エリアスは「指導」1つまで失っても大丈夫な状況だ。延長戦に入るとエリアスは帯をゆるく絞め、時には自ら柔道着をはだけてあの手この手で試合の引き伸ばしを図る。しかし時間が経過するに従ってエリアスはどんどん疲労していき、それに比例して長澤の圧が効き始める。審判が度々柔道着を直すように促すが、エリアスは直した傍から柔道着をはだけてしまい試合は泥沼化。GS1分40秒、長澤が奥襟を得るとエリアスが左背負投で露骨な偽装攻撃、主審は躊躇せずエリアスに「指導」を宣告する。これで両者の反則ポイント累積はともに「2」。疲労困憊のエリアスはもはや為す術なし、GS2分19秒にエリアスが横落で掛け潰れたところで3つ目の「指導」が与えられ、長澤の「指導3」による勝利が決まった。敗れたエリアスは笑顔で握手をして畳を去り、最後まで曲者ぶりを振りまく。長澤は勝利したものの6分間にわたって粘られてしまい、相当に体力を消耗させられてしまった。

[3回戦]

長澤憲大△GS反則[指導3](GS2:03)○ベカ・グヴィニアシビリ(ジョージア)
長澤が左、グヴィニアシビリが右組みのケンカ四つ。両者警戒し合ってなかなか組み合おうとせず。1分間際にグヴィニアシビリが奥襟を得ると、長澤は脇を突いて下がりながら少しづつ釣り手の位置を上げてこの形を打開する。1分19秒、グヴィビニアシビリが肩車を仕掛けたところで長澤に「指導」。以降、長澤は釣り手で肩口を持つことで間合いをキープし、グヴィニアシビリに得意の密着を許さない。2分15秒に痺れを切らしたグヴィニアシビリが強引に奥襟を叩きに来ると、長澤は淀みのない動きで背中側に回り込んで谷落。ポイントが想起される一撃だったが、グヴィニアシビリは体を捻って腹這いで逃れる。これをきっかけにグヴィニアシビリは組み手の手順を変更、引き手で長澤の釣り手を絞り前傾姿勢にすると、釣り手を長澤の背中深くに叩き入れる。これには長澤は腰を引いて防御するしかなく、グヴィニアシビリが隅返に引き込んだ2分42秒に長澤に2つ目の「指導」が累積する。前戦でも6分間を戦っている長澤はこの段階で相当疲れている様子。3分30秒に長澤が組み際の左内股で勝負に出ると、グビニアシビリは待ってましたとばかりに腰を抱いて得意の裏投を仕掛ける。長澤は一瞬体が浮いてしてしまうが、腰を残してバランス良く凌ぎ切りノーポイント。この際長澤が覆い被さる形になったためジュリーによる確認が行われるが、長澤のポイントとは認められず、勝負はGSの延長戦へと突入する。長澤のみに「指導2」が与えられているため、グヴィニアシビリが「指導2」まで失っても試合は続行されるハンデ戦。延長戦に入るとグヴィニアシビリは密着志向を強めて裏投や右大腰を狙い、一方の長澤も釣り手で巧みに間合いを作りながら要所で左内股を仕掛け簡単には展開を渡さない。GS1分30秒には長澤が左内股でグヴィニアシビリの足を大きく跳ね上げる場面が現出、引き手が離れてしまい投げるまでは至らなかったが、直後のGS1分33秒にグヴィニアシビリに「指導」が宣告される。しかし、長澤の粘りもここまで。GS2分間際にグヴィニアシビリが釣り手で背中を得て圧を掛けると堪らず潰れてしまい、GS2分3秒、長澤に偽装攻撃の咎で3つ目となる「指導」が宣告され試合終了。長澤は健闘するもここで畳を去ることとなった。

■ 100kg級・モンスター飯田健太郎がパリで躍動、「一本」連発でグランドスラム初制覇
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決勝、飯田が大会4連覇を狙うシリル・マレから右内股「技有」

(エントリー36名)

【入賞者】
1.IIDA, Kentaro (JPN)
2.MARET, Cyrille (FRA)
3.LIPARTELIANI, Varlam (GEO)
3.FONSECA, Jorge (POR)
5.KORREL, Michael (NED)
5.MINASKIN, Grigori (EST)
7.FREY, Karl-Richard (GER)
7.KUMRIC, Zlatko (CRO)

高校3年生の飯田健太郎(国士舘高3年)が優勝、それも決勝以外の全試合を「一本」(「指導3」含む)で勝利するという素晴らしい内容でビッグタイトルを獲得した。この階級のグランドスラム・パリ制覇は現在現役の日本選手の中では初めて、まさしく偉業達成だ。

今大会の100kg級は強豪たちが五輪後の休養期間から一気に復帰したことで現出した、世界選手権にも比肩しうる超ハイレベルトーナメント。飯田の対戦相手も強敵、難敵ばかりだったが、すべての試合で正面から相手をねじ伏せて見せた。弱冠18歳でこの陣容のトーナメントを制したことだけでも驚きだが、真に驚嘆すべきは今大会における飯田の柔道スタイルである。高校カテゴリでの飯田のスタイルは「二本持って投げる」ことを突き詰めた素直なもの。そして飯田は強豪がひしめく今大会においてもこの柔道スタイルを貫き、小手先のテクニックに頼らず、投げること、投げを狙うことという本質的な強さで表彰台の頂点まで登りつめてみせた。決勝では本大会において無類の強さを誇ってきた(2014年から3連覇中)リオデジャネイロ五輪銅メダリストのシリル・マレ(フランス)を右内股「技有」で下しており、現在の時点で既に実力が世界トップレベルにあることは疑いない。成長の余白を十分残したオーソドックススタイルのままこれだけ強いのだから、ちょっと異次元の勝ちぶりだ。

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準決勝、飯田が豪快な右内股「一本」でフォンセカに逆転勝ち

飯田はこの日の6試合のうち4試合で最大の得意技である右内股を決めており、さらにそのすべてが異なるバリエーションの内股である。あくまで投げることで局面を打開する中学以来の飯田の良さが国際舞台でも存分に発揮されたと評するべきであり、準決勝のホルヘ・フォンセカ(ポルトガル)戦で見せた後の先を狙う相手に敢えてその技で乗り込む図太さ(この大内刈は返されて「技有」を奪われはしたが)や、全試合を通じて発揮された異次元のバランス感覚など、賞賛すべき点は尽きない。1回戦では一度抑え込んだ相手に逃げられてしまう場面があるなど相変わらずの線の細さも垣間見せたものの、姿勢よく組むだけで相手が崩れていく「組み力」の高さはもはや畳の外からは解析不能。

僅か1年前では同じ高校生に苦杯を喫することもあった(高校選手権団体戦決勝で藤原崇太郎に「有効」優勢で敗北)飯田だが、いまやその時とはまったくの別人。12月のグランドスラム東京と比べても同じ選手とはにわかに信じがたいほどの成長を見せている。大会ごとにメキメキ強くなるこの様子を見る限り、飯田はいまキャリア上何度か訪れる「伸びる時期」のまっさい中。ファンにとってはそれをウォッチすること自体がエキサイティングであり、後世から見ればいまは「モンスターの孵化」を現在進行形で共有出来る貴重な時代と言える。ぜひ継続しての試合観察をお勧めしたい。

史上に残る勝ちぶりの良さ、そしてあるいはこれが歴史の転換点になるのではという予感を感じたか見上手が揃った聖地ベルシー体育館の観客たちはヒートアップ、IJFの公式サイトは大会直後からトップピクチャーを飯田に差し替え「NEW INOUE」と絶賛してモンスター誕生の1日を最大級の賛辞とともに報じた。飯田健太郎という大きな才能を世界が知った、記念すべき1日であったと総括したい。

飯田以外に目立っていたのは優勝候補を次々と撃破して3位を獲得したフォンセカと、今大会から階級を上げるなり3位を獲得して早くも100kg級への適性を示したヴァーラム・リパルテリアニ(ジョージア)の2人だ。フォンセカは以前から階級きっての業師として知られていたが、これまでは序盤戦で強豪を豪快な「一本」で撃破するも体力と集中力が持続せずにトーナメントの途中で敗退する「荒らし屋」ポジションに甘んじてきた。今大会では背負投を展開を作る手段としても積極的に用いるようになり一気に安定感が増した印象だ。リパルテリアニは体重を増した分純粋に戦闘力が上がっており、得意とする巻き込み技の威力が増したのはもちろんのこと、敗者復活戦のカール リヒャード・フレイ(ドイツ)戦では豪快な横車で「一本」を奪うなど柔道の幅も広がってきている模様だ。

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100kg級入賞者。左からマレ、飯田、リパルテリアニ、フォンセカ。

【準々決勝】

ホルヘ・フォンセカ(ポルトガル)○袖釣込腰(0:21)△カール リヒャード・フレイ(ドイツ)
飯田健太郎○内股(1:38)△ヴァーラム・リパルテリアニ(ジョージア)
シリル・マレ(フランス)○GS足車(GS0:13)△グリゴリ・ミナシキン(エストニア)
ミハエル・コレル(オランダ)○優勢[技有・背負投]△ズラトコ・クムリッチ(クロアチア)

【準決勝】

飯田健太郎○内股(3:36)△ホルヘ・フォンセカ(ポルトガル)
シリル・マレ(フランス)○優勢[技有・隅落]△ミハエル・コレル(オランダ)

【3位決定戦】

ヴァーラム・リパルテリアニ(ジョージア)○優勢[技有・内股巻込]△マイケル・コレル(オランダ)
右相四つ。リパルテリアニは引き手で袖を確保し横変形に立ち位置をずらして布陣。力関係を確認すると40秒、釣り手の肘を上げ、両手を残す形でクルリと反転し右内股巻込。いったん止めたはずが巻き込まれる、この選手独特のタイミングをコレル読み切れずに嵌って転がり「技有」。以後は拮抗もコレルは2分を過ぎるころからリパルテリアニのやり口に慣れ始め、引き手で袖、釣り手で奥襟あるいは脇下を持って積極的に攻撃を積む。2分28秒にはリパルテリアニに「指導」、コレルさらに強気の組み手であおりを入れるとリパルテリアニ膝を屈し、残り44秒には「取り組まない」咎の「指導2」が宣告される。リパルテリアニは陥落寸前と思われたが、残り19秒に背を抱かれると体を沈めて抱分一発、あわやポイントというこの大技の余波で残り時間を耐え切り、タイムアップ。

ホルヘ・フォンセカ(ポルトガル)○横四方固(2:52)△グリゴリ・ミナシキン(エストニア)
右相四つ。24秒にフォンセカが右一本背負投でまず先制攻撃。1分3秒には再びこの技でミナシキンを大きく崩す。ポイントの獲得には至らなかったものの、主審はフォンセカの攻勢を認めてミナシキンに「指導」を宣告。ミナシキンはフォンセカの技を警戒し、腰を引いて釣り手で上腕を持つ「モンゴル組み手」を展開する防戦シフト。1分58秒に再びフォンセカが右背負投を仕掛けると、ミナシキンに2つ目の「指導」が与えられる。2分30秒、フォンセカは引き手を得ると鋭い右背負投で「技有」を獲得、そのまま横四方固に抑え込む。「一本」を告げるブザーが鳴ると、フォンセカは親指を立てて小さくガッツポーズ。業師フォンセカ、今回は試合内容だけでなくしっかり結果も得た格好。堂々の3位を獲得した。

【決勝】

飯田健太郎○優勢[技有・内股]△シリル・マレ(フランス)
右相四つ。まずマレが奥襟と引き手を得て十分な形を作ると、飯田は引き手で脇を突いて対峙。マレの右払腰を潰して寝技を展開、横に転がして抑え込みを狙うがここはマレが凌ぎ切って「待て」。以降も飯田は引き手でまず脇を突き、これを起点に奥襟を狙う王道の手順で組み手を展開する。2分間際、マレが引き手で飯田の釣り手を落として奥襟を得る十分な組み手を完成。しかし飯田は横変形の形で凌ぎつついったん顎を乗せてマレの釣り手の位置を下げ、形上は組み負けつつも驚異的なバランスの良さを発揮し姿勢を崩さず。2分14秒に意を決したマレが強引な右外巻込、飯田は上体を巻き込まれながらも下半身でしっかりと堪えて崩れず。しかし直後の2分23秒この攻防を受けて飯田に「指導」が宣告される。どうやらここが勝負どころと読んだ飯田は奮起、マレの背中を叩いて奥襟を確保すると強烈な右内股で「技有」を獲得する。経過時間は2分40秒、残り時間は1分20秒。リードを許したマレはペースを上げて追い上げに掛かるが、飯田は引き手でマレの釣り手を落してしっかり自分の形を作り出し動ぜず。飯田が奥襟を得るとマレは左組みにスイッチ、腰を抱いて飯田の右内股を誘い、裏投で最後の勝負に打って出る。しかし飯田は抱え上げられながらも空中でバランスを取ってマレに覆い被さる形で着地、そのまま表情を変えずに寝技で時間の消費を図る。「待て」が掛かった時点で残り時間は僅か18秒。飯田は逃げずに正面から組み合うことで残りの時間を凌ぎ、タイムアップ。結果「技有」優勢で飯田の勝利が決まった。獲得した「技有」は「一本」級の大技、試合は一貫して姿勢良く組み合う飯田に脅威を感じたマレが組み合うことを嫌って自ら流れを失うというもので、4分間通じて飯田にはどこからでも一発投げる危険な香りが漂い続け、一方のマレに得点の気配はほとんどなし。まさしく完勝であった。

【日本代表選手勝ち上がり】

飯田健太郎(国士舘高3年)
成績:優勝


[1回戦]

飯田健太郎○縦四方固(1:15)△セドリック・オリバー(フランス)
右相四つ。オリバーが右払巻込で掛け潰れると飯田は横に転がして寝技を展開、絡まらせておいた足を抜いて縦四方固に抑え込む。腹筋で起き上がられてしまい一度この抑え込みは解けるが、相手の腕を抱くように抱え直すと再度抑え込んで「一本」。飯田が初戦を圧勝で突破した。

[2回戦]

飯田健太郎○反則[指導3](3:11)△エルハン・ママドフ(アゼルバイジャン)
右相四つ。飯田は引き手で襟を持ち、悠揚奥襟を得ては釣り手を振り立てて大技を狙う。ママドフは飯田とがっぷり持ち合うことを明らかに嫌い、組み際の左腰車で威嚇するも飯田余裕を持って突き飛ばし、動ぜず。ママドフが飯田の釣り手を絞り切ると主審見逃さず「指導」。続いてママドフ組み手の一手目に飯田の右片襟を握って間合いを取るも、攻撃姿勢ないまま状況をウォッチしてしまい1分48秒2つ目の「指導」失陥。飯田はここから組み際の大内刈に一足の内股、大きく踏み込んでの右大外刈と大技を連発。ペース緩やかながらすべて具体的に投げを狙ったこの攻撃にママドフは圧力を感じて防戦一方。3分過ぎ、引き手で襟を握った飯田は大内刈を入れながら釣り手で奥襟を確保、続いて本命の右大外刈。ママドフ身を捩じって回避するが、「待て」が掛かると疲労で立ち上がれない。主審はママドフの開始線復帰を待って3つ目の「指導」を宣告。飯田、もと世界王者を危なげなく下してベスト8入り決定。

[3回戦]

飯田健太郎○縦四方固(4:00)△ラファエル・ブザカリニ(ブラジル)
右相四つ。飯田まず引き手で襟を掴み、奥襟を降らせながらの右大内刈で先制攻撃。さらにこの技から右大外刈に乗り込んでブザカリニを大きく崩す。以後は一貫してしっかり組みたい飯田と、あらゆる手段を駆使してこれを防ぎ、展開を流しながらチャンスを探すブザカリニという構図。ブザカリニは反転して切り、巻き込み潰れて切り、片襟の背負投に潰れ、浮技でリセットしと展開を先送りするが、飯田は表情も変えず落ち着いて前進。飯田優位は明らか、右大内刈をきっかけに縦四方固で抑えかけた直後の1分58秒にはブザカリニに消極的との咎で「指導」が与えられる。最終盤、飯田が引き手で襟を掴み、釣り手を叩き入れながら大内刈。ブザカリニが耐えると右内股に連絡して「技有」、そのまま縦四方固に連絡して一本勝ち。

[準々決勝]

飯田健太郎○内股(2:22)△ヴァーラム・リパルテリアニ(ジョージア)
飯田は右、リパルテリアニも右組みベースの相四つで試合がスタート。開始早々リパルテリアニが右外巻込、インパクトが後から襲来する独特のタイミングの技に、一度は止めた飯田巻き込まれ掛かるがなんとか踏みとどまってしっかり寝技を展開。飯田は以後この技に慣れた様子で、悠揚二本持って小外刈、大内刈と落ち着き払って試合を構成。2分22秒、飯田が右払腰。リパルテリアニ受け止めて裏投に持ち上げようと体を反らすが飯田は内股に切り替えて斜めに押し込み、グシャリと投げ切り「一本」。リパルテリアニ呆然、しばし負けを受け入れられない様子。飯田は全試合一本勝ちでベスト4進出決定。

[準決勝]

飯田健太郎○内股(3:36)△ホルヘ・フォンセカ(ポルトガル)
右相四つ。この日大物ばかりを倒して来たフォンセカは一発屋の業師から一皮むけた印象、今大会躍進の因である右背負投の連続攻撃で手数を取りに掛かる。飯田はこの日の主戦武器である奥襟を叩き入れながらの右大内刈を軸に一貫して組み手二本の確保を狙い、徐々に圧を感じたフォンセカは明らかな掛け潰れが増え始める。中盤にはフォンセカに首抜きの「指導」。2分46秒、飯田はまたもや奥襟を叩きながらの右大内刈。フォンセカ露骨に返しを狙うが飯田構わず突っ込み、ここはフォンセカの裏投が決まって「技有」。残り時間は僅か1分14秒、しかし絶体絶命のはずの飯田落ち着いて引き手を掴み出足払、さらにまたもや右大内刈で攻める。片手技の掛け潰れで時間を流していたフォンセカはこの大内刈で場外まで転がされ、もはや疲労で立てない状況。続く展開、フォンセカが組み際に片襟を差した右背負投に座り込むと飯田はかわして釣り手で奥襟を確保、持つなり右内股を閃かせる。ケンケンで追ったこれまでの技と一転、飛び込みながら跳ね上げ、跳ね上げながら体を捨てる高速の一撃は鮮やかに決まって「一本」。失意のフォンセカはしばし畳に突っ伏し呆然、飯田みごとな逆転勝ちで決勝進出決定。

[決勝]

飯田健太郎○優勢[技有・内股]△シリル・マレ(フランス)
※前述のため戦評省略

■ 100kg超級・王子谷剛志が七戸龍との日本人対決を制して優勝、グランドスラム連勝を果たすも内容は振るわず
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100kg超級決勝、王子谷が必死の形相で七戸を攻める

(エントリー29名)

【入賞者】
1.OJITANI, Takeshi (JPN)
2.SHICHINOHE, Ryu (JPN)
3.SILVA, Rafael (BRA)
3.ULZIIBAYAR, Duurenbayar (MGL)
5.SADIKOVIC, Harun (BIH)
5.TUSHISHVILI, Guram (GEO)
7.JABALLAH, Faicel (TUN)
7. VOLKOV, Andrey (RUS)

王子谷剛志(旭化成)が七戸龍(九州電力)との決勝を制して優勝、年末の東京大会に続くグランドスラム2連勝を果たした。結果だけを見ると1回戦以外を「一本」(「指導3」含む)で勝利する好内容だが、課題であった攻めの遅さは依然解消されたとは言い難く準決勝のラファエル・シウバ(ブラジル)戦と決勝の七戸戦は延長戦の末の「指導3」決着。五輪銀まだリストの原沢久喜(中央競馬会)の持つ大きなアドバンテージを考えると世界選手権代表を争うライバルは2枠目出場を狙う73kg級の橋本壮市(パーク24)や100kg級の飯田健太郎(国士舘高3年)、あるいはグランドスラム東京を素晴らしい内容で制した60kg級の永山竜樹(東海大2年)であり、特に前者2選手の活躍と比較すると今回の内容はどうしても見劣りせざるを得ない。しっかりと成績を残しながらも、他階級のライバルの素晴らしすぎる内容のために世界選手権の代表争いでは半歩後退という厳しい結果であったと言える。王子谷の持ち味は高校時間から一貫して志向し、2014年の全日本選手権で頂点に達した重機を思わせるような突破力であるはずだ。本戦での「指導」決着がない新ルールはじっくり攻める現在の王子谷にとってスコア上決定的な不利とはならないが、それに甘んじずに本来の王子谷らしい攻撃志向を取り戻せるかが今後のキャリアを左右する最重要ポイントになるかと思われる。

一方の七戸も五輪代表争い以後の休養モードからいまだ抜け出せておらず、準決勝では格下のウルジバヤル・デューレンバヤル(モンゴル)に大内返「技有」を奪われるなど今ひとつ精彩を欠いていた。この試合で見せた時間ギリギリでの「技有」獲得とGS延長戦での勝ち越し劇には変わらぬ地力の高さが確認出来たが、グランドスラム東京に続いて今大会でも優勝を逃したことで国内の序列はもはや五輪前の「原沢と僅差の2番手」という位置ではない。ワールドランキング10位以内に日本選手3人が同居する過酷な状況ではあるが、今後の七戸の奮起に期待したい。

日本人2人以外に目立っていたのは3位を獲得したウルジバヤル・デューレンバヤル。2014年世界ジュニアのチャンピオンだが、2015年以降シニアの舞台ではまったく成績を残せていなかった。同期のイアキフ・カモー(ウクライナ)らに完全に若手の旗手の座を奪われた格好であったが、今大会ではこれまでの停滞が嘘であるかのように快進撃。ダヴィド・モウラ(ブラジル)、ユーリ・クラコベツキ(キルギスタン)、ファイセル・ヤバラー(チュニジア)と名だたる強豪ばかりを連続で撃破してベスト4に進出、準々決勝では前述のとおり七戸に敗れたものの見事3位を獲得した。これまでウルジバヤルは坊主頭の好青年風の容姿であったが、今大会からはサイドを刈り込んだ気合の入った髪型にイメージチェンジ。ロンドン-リオ期の強豪たちが一様に煮え切らないないパフォーマンスを見せるなかで容姿、戦いぶりとも一段抜けた存在感を示していた。

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100kg超級入賞者。左から七戸、王子谷、シウバ、ウルジバヤル。

【準々決勝】

七戸龍○大外刈(0:34)△ハルン・サディコビッチ(ボスニア・ヘルツェゴヴィナ)
ウルジバヤル・デューレンバヤル(モンゴル)○崩上四方固(1:56)△ファイセル・ヤバラー(チュニジア)
王子谷剛志○大外刈(3:34)△グラム・ツシビリ(ジョージア)
ラファエル・シウバ(ブラジル)○優勢[技有・内股]△アンドレイ・ヴォルコフ(ロシア)

【準決勝】

七戸龍○GS崩上四方固(GS0:35)△ウルジバヤル・デューレンバヤル(モンゴル)
王子谷剛志○反則[指導3](GS0:21)△ラファエル・シウバ(ブラジル)

【3位決定戦】

ラファエル・シウバ(ブラジル)○内股(3:50)△ハルン・サディコビッチ(ボスニア・ヘルツェゴヴィナ)
シウバが右、サディコビッチが左組みのケンカ四つ。シウバが右内股で攻め続け、技の出ないサディコビッチに1分32秒「指導」。続く展開で奮起したサディコビッチが形上奥襟を得るもシウバの圧力と組み手管理の前に技を出すことが出来ず、またしてもシウバの右内股で展開が終わり以後の様相定まった感あり。組み手争いが続いた2分54秒にはサディコビッチに2つ目の「指導」が与えられ、試合はスコア上も完全にシウバのペース。追い詰められたサディコビッチは組み際の技で攻め立てるが、シウバの巨体はまったく揺るがず。シウバは3分50秒、両襟の右内股で浴びせ倒すようにサディコビッチを投げて「一本」を獲得。相変わらずの安定感を見せて3位を獲得した。

ウルジバヤル・デューレンバヤル(モンゴル)○横四方固(2:27)△グラム・ツシビリ(ジョージア)
ウルジバヤルが右、ツシビリが左組みのケンカ四つ。ツシビリは左背負投でウルジバヤルを伏せさせ横三角で寝技を展開、捲り返すところまで手順を進めるが足が外れてしまい「待て」。手ごたえを得たツシビリは再び左背負投、しかしウルジバヤルは姿勢良く耐えると反対にツシビリを場外へと押し出し、主審はこの攻防を受けた40秒、ツシビリに場外の咎による「指導」を宣告する。直後の展開ツシビリは引き手でウルジバヤルの釣り手を引きつけると、背中を抱いて「上手出し投げ」の要領でウルジバヤルを潰す。この際にウルジバヤルは肘を痛めた模様。主審はこの攻防に「関節を極めてながら投げた」との疑いありとインカムで映像の確認を求め、しばし試合が中断する。結局反則の宣告はなく試合は再開、1分27秒にツシビリが先程と同様の形でウルジバヤルを伏せさせると、ウルジバヤルにも1つ目の「指導」。2分過ぎ、脇を差し合った状態からツシビリが肩越しの左釣込腰。しかしウルジバヤルはこれを透かして低い右浮腰で切り返し決定的な「技有」奪取。そのまま横四方固で抑え込んで勝利を決めた。ウルジバヤルは長い停滞から脱し、久々の表彰台登攀。

【決勝】

王子谷剛志○GS反則[指導3](GS1:01)△七戸龍
右相四つ。お互いに奥襟を狙うが、持った傍から相手に切られてしまい組み合えないまま試合が進行。40秒にがっぷり四つの形が出来ると王子谷が右大外巻込を試みるが、ここは七戸が足を引いて技に入らせず。1分間際、奥襟を得た七戸が組み際の右大内刈で王子谷を大きく崩すが、王子谷は体を捻って腹這いで回避する。1分16秒、今度は王子谷が左袖釣込腰で七戸の股中まで潜り込むも、これも釣り手が切れてしまい不発。ここからは再び組み手争いが続いて2分8秒には両者に「指導」。しかし以降も試合は膠着、3分12秒には両者に2つ目の「指導」が追加される。結局このまま本戦の4分間が終了、試合はGSの延長戦へともつれ込む。GS1分1秒、七戸が王子谷の前進圧力に屈して畳を割ると、主審は七戸に場外の咎で3つ目の「指導」宣告。王子谷が「指導3」で勝利してグランドスラム連覇を達成した。

【日本代表選手勝ち上がり】

王子谷剛志(旭化成)
成績:優勝


[1回戦]

王子谷剛志〇優勢[技有・支釣込足]△ウラジスラフ・チェルピツキ(ベラルーシ)
右相四つ。チェルピツキは序盤王子谷の苦手な左組みの形で対峙するが、王子谷が内股で自ら潰れ、さらに双方に片手の「指導」が宣告されるに至り手ごたえを得たか、意を決して本来の右にスイッチ。がっぷり組み合った王子谷はこれで望む形を作り上げたかに思われたがしかしなかなか技が出ず、ようやく決意を固めて乗り込んだ右大外刈は投げ切れず自ら手を放して前のめりに崩れ「待て」。一方チェルピツキの方は巻き込みを浅く仕掛けては自ら潰れることで展開を保っており、様相は掛け潰れ合いとなる。低調な試合であったが、最終盤に王子谷がクルリと体を入れ替えるとチェルピツキが大きく崩れる。伏せたかに思われたが王子谷寝技を意識して早々に脇を差しており、これが効いて辛うじて横倒しを確保、「技有」。結局この場面では抑え切れず、以後も見るべき攻防ないまま「技有」優勢で試合終了。

[2回戦]

王子谷剛志〇横四方固(0:51)△アンドレ・ブライトバルト(ドイツ)
右相四つ。ガップリ組み合うと相手の頭が下がり、王子谷がもっとも好む形が出来上がる。王子谷呼吸を整えて右大外刈、これは投げ切れなかったが、戻ったところにブライトバルトが左への浮技よろしく左脚を伸ばして座り込んでくる。おそらく肩車を狙ったと思われるが王子谷は間合いに入れずに右小内刈で潰し、被り浴びせて「技有」。そのまま横四方固に抑え込んで「一本」。初戦とは打って変って気合の入った快勝。

[準々決勝]

王子谷剛志○大外刈(3:34)△グラム・ツシビリ(ジョージア)
王子谷が右、ツシビリが左組みのケンカ四つ。王子谷が奥襟を得て両襟で圧を掛けるとツシビリは腰を引いて防御姿勢。27秒にツシビリに極端な防御姿勢の咎で「指導」が宣告される。直後の展開、ツシビリが王子谷の釣り手を手繰って背中を持つと、王子谷はこの形を嫌って畳に伏せる。これは偽装攻撃と見なされ51秒に王子谷にも「指導」。ここからはお互いに攻め合うもポイントが生まれない動的膠着。2分49秒に王子谷が強烈な右支釣込足を放つが、あと一歩押し込みが足りずノーポイント。3分34秒、ツシビリが右構えになった一瞬の隙に王子谷が得意の右大外刈。乗り越えるように刈り切るとツシビリは背中から畳に落ちて「一本」。

[準決勝]

王子谷剛志○反則[指導3](GS0:21)△ラファエル・シウバ(ブラジル)
右相四つ。王子谷が左袖釣込腰で先制攻撃を仕掛けるが、ここはシウバが余裕を持って防ぐ。続く展開、王子谷が奥襟を得て二本持った十分な形を作ると、シウバは両襟で対抗。1分1秒、シウバに極端な防御姿勢の咎で「指導」が与えられる。(※ジェスチャーは片襟だが、明らかに両襟で組んでいたため誤りと思われる。)ここからは両者が奥襟を持っての膠着状態が継続、2分10秒に両者に対して消極的の咎で「指導」、シウバは試合時間を2分残して早くも「指導2」で後がなくなってしまう。以降も膠着状態が続くが、「指導」の気配を読んだシウバは釣り手を離して強引な右大外巻込を仕掛ける。王子谷は体勢を崩されながらもシウバの背中に覆いかぶさる形で着地、残ったシウバの手を極めながら回り込み、崩上四方固で抑え込む。これで試合は決着かと思われたが、拘束を強めようと手を持ち替えたタイミングで逃げられてしまい「待て」。結局試合はGSの延長戦へと突入する。この時点で両者の指導は王子谷が「1」でシウバが「2」。シウバに「指導」が与えられえば即決着だが王子谷は「指導」1つまで失ってもよい状況だ。GS21秒、組み手争いから王子谷が圧を掛けて前に出るとこれを嫌ったシウバは真っ直ぐ下がって場外へ出てしまい、主審はシウバに「指導」を宣告。「指導3」で王子谷の決勝進出が決まった。

[決勝]

王子谷剛志○GS反則[指導3](GS1:01)△七戸龍
※前述のため戦評省略

七戸龍(九州電力)
成績:準優勝


[1回戦]

七戸龍○GS反則[指導3](GS0:44)△レヴァニ・マティアシビリ(ジョージア)
七戸が右、マティアシビリが左組みのケンカ四つ。43秒、七戸が遠い間合いから右大内刈を仕掛けるとマティアシビリが大内返で迎え撃ち、この攻防は両者がもつれるように腹這いで畳に落ちてノーポイント。直後の展開ではお互いが組み手を嫌い合い、1分5秒に両者に「指導」。ここから試合は膠着、釣り手のみを持った状態でマティアシビリが押し込むと、1分35秒に七戸に2つ目の「指導」が累積する。直後、七戸は片手の右大内刈でマティアシビリを伏せさせると腕挫十字固を狙う。流れるような華麗な動きだったが、腕を伸ばすことが出来ずに不発。3分16秒、七戸の引き手を嫌ったマティアシビリに2つ目の「指導」が与えられてポイントは五分、このまま本戦が終了して勝負はGSの延長戦へ。七戸が奥襟を得て押し込むとマティアシビリは引き手を取られまいとそのまま後退。GS47秒にマティアシビリに組み合わない咎で3つ目の「指導」が宣告されて決着した。七戸はやや低調な立ち上がり。

[2回戦]

七戸龍○崩袈裟固(2:18)△メッシ・カタンガ(フランス)
七戸が右、カタンガが左組みのケンカ四つ。カタンガの力が相当強いらしく、七戸は間合いを取って慎重な組み手を展開。カタンガが抱き付くように七戸に組み付くと、七戸は腰を引いて防御姿勢。この動作に対して主審は53秒に七戸に「指導」を宣告する。しかし、1分30秒に七戸の引き手を嫌ったカタンガにも「指導が」与えられ、さらに1分44秒には手を握った咎でカタンガに2つ目の「指導」。リードを許したカタンガは抱きついて勝負に出るが、今度は七戸がタイミング良く支釣込足で転がして「技有」、そのまま崩袈裟固で抑え込んで「一本」を獲得した。

[準々決勝]

七戸龍○大外刈(0:34)△ハルン・サディコビッチ(ボスニア・ヘルツェゴヴィナ)
右相四つ。七戸が引き手を得るとサディコビッチは左構えで後退。七戸は遠間から作用足を引っ掛けるとハンドル操作を効かせて右大外刈。この技が見事決まって「一本」、七戸は34秒の「秒殺」で準決勝進出を決めた。

[準決勝]

七戸龍○GS崩上四方固(GS0:35)△ウルジバヤル・デューレンバヤル(モンゴル)
右相四つ。七戸は組み手の優位にこだわるあまり何度も形をリセットしてしまう悪い癖が出、40秒に引き手を切ったところで七戸のみに「指導」が与えられる。直後にウルジバヤルが右一本背負投を仕掛けたものの、それ以降は試合が膠着。1分40秒主審は両者に「指導」を宣告する。これで七戸は早くも「指導2」で後のない状況。2分30秒、引き手を得た七戸が得意の右大内刈を仕掛けるが、反対にウルジバヤルに大内返で返されてしまい「技有」を失う。最早投げるしかない七戸だが、組もうとするとウルジバヤルに上手くいなされてしまい技を仕掛けることが出来ない。このまま残り30秒まで経過するが、ここで七戸が二本持つ良い形が完成。七戸はウルジバヤルの右体落の戻りばなに乾坤一擲の右内股に打って出る。相手の股を割くように跳ね上げるとウルジバヤルは体側から落下、主審は「技有」を宣告する。勝利目前で追い付かれたウルジバヤルはショックのためか暫く立ち上がれず。このまま本戦の4分間が終了、勝負はGSの延長戦へと持ち越される。この時点で両者の「指導」は七戸が「2」でウルジバヤルが「1」。七戸に「指導」が与えられると決着だが、ウルジバヤルは「指導」1つまでは失っても良い状況だ。GS35秒、七戸はウルジバヤルの右一本背負投を潰すと乗り越えるように捲り返して崩上四方固で抑え込む。ウルジバヤルは観念したか全く動かず、20秒抑え込んだところで主審が「一本」を宣告する。七戸が逆転勝利で決勝へと駒を進めた。

七戸龍△GS反則[指導3](GS1:01)○王子谷剛志
※前述のため戦評省略



本文:林さとる (編集:古田英毅)
戦評:林さとる/古田英毅

※写真は権利者の許諾を得て掲載しています

※ eJudoメルマガ版2月16日掲載記事より転載・編集しています。

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