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グランドスラムパリ2017・第1日男子3階級(60kg級、66kg級、73kg級)レポート

(2017年2月12日)

※ eJudoメルマガ版2月12日掲載記事より転載・編集しています。
第1日男子3階級(60kg級、66kg級、73kg級)レポート
グランドスラムパリ2017
■ 60kg級・髙藤直寿が全試合一本勝ちでハイレベルトーナメント制覇。永山、キア、ウロズボエフら爆発力あるジョーカーは上位に進めず。
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決勝、髙藤直寿がルトフィラエフを一本背負投で攻める

(エントリー41名)

【入賞者】
1.TAKATO, Naohisa(JPN)
2.LUTFILLAEV, Sharafuddin(UZB)
3.PAPINASHVILI, Amiran(GEO)
3.SAFAROV, Orkhan(AZE)
5.KIM, Channyeong(KOR)
5.TAKABATAKE, Eric(BRA)
7.LIMARE, Vincent(FRA)
7.PLAFKY, Moritz(GER)

リオ五輪銅メダリストの髙藤直寿(パーク24)が人材揃ったハイレベルトーナメントを全試合一本勝ちの圧勝で制した。初戦こそヴィンセント・マンクエスト(フランス)という明らかな格下相手にわざわざ得意の「際」を作りに行ってピンチを迎えるなどチャンスとリスクの収支バランス合わぬ危なっかしい戦いぶりであったが、この試合を一本勝ちすると以降は尻上がり。続く3回戦も一本勝ち、準々決勝ではリオ五輪で苦杯を喫したアミラン・パピナシビリ(ジョージア)を素晴らしい切れ味の小内刈「一本」、準決勝では第2シードのオルハン・サファロフ(アゼルバイジャン)との激しい投げ合いを一本背負投「一本」で制して決勝進出決定。山場のパピナシビリ戦とサファロフ戦を乗り越えて後は結果を残すのみの決勝、シャラフディン・ルトフィラエフ(ウズベキスタン)戦は左小内刈「技有」に崩袈裟固「一本」で圧倒。見事優勝の栄に輝いた。

この日は生命線である左小内刈の切れ味が抜群、良い時の髙藤の典型という試合であった。数々ある髙藤の長所のうち、相手の想像を超える変則技や空中バランスを生かした「際」が生きる突貫技などの変化球でなく、前後左右のコンビネーションを生かした足技という王道の組み立てを前面に押し出して勝ったことを高く評価したい。もともと髙藤最大の長所はどの方向にでも投げがある全方位性であり、これがもっとも生きるのはやはり組み合っての試合構成。才能を生かした変則技はあくまでこの土台の上に積み上げる「足し算」であるべきだ。かつて次々新技を繰り出してセンセーションを巻き起こした時期の髙藤が「次は“二本組んで投げる”ことを目指したい」とのビジョンを語っていたことがあったが、あれから2年。五輪は終わってしまったが、今大会はもっともその意図に叶う試合ぶりだったのではないだろうか。準決勝でサファロフに食った後述「四段重ねの攻防の末の払腰」は明らかに髙藤を研究していたがゆえの一撃であったが、それでも結果勝ち切ったのは髙藤が「組み合って投げる」地力の高さで相手の上を行ったからに他ならない。あくまで投げねば勝てないデスマッチ形式の新ルール下、非常に興味深い髙藤の圧勝劇であった。

一方才能溢れる異能者が揃ったAブロックでは、まさにその「自爆系」のタレントたちがことごとく脱落。ディヨロベク・ウロズボエフ(ウズベキスタン)とのドつき合いに敗れてしまった永山竜樹はともかく、以降の内容と運命はまさしく髙藤と対照的。ウロズボエフは無名選手のモリッツ・プラフキー(ドイツ)との3回戦で、相手の左腰車を受けた際に抱きかかえながら頭から飛び込んで縦回転で返そうという突貫技を試みたところ、プラフキーがザンタライア風の前転回避を決行。回転が終わった時にはプラフキーの方が「上にいた」という体で「技有」失陥、以後猛攻も「極端な防御姿勢」による「指導」獲得のみで、なんと予選ラウンド敗退に終わることとなった。密着一発技で売り出したワリーデ・キア(フランス)も3回戦のキム・チャンヨン(韓国)戦で「指導」2つをリードしながら迎えたGS延長戦のさなか、相手のクロス組み手に我慢出来ず強引に裏投決行、持ち上げたまま相手の体に乗り込まれて「技有」を失い畳を去ることになった。まさしくチャンスとリスクの「収支が合わなかった」ウロズボエフとキアの自爆に様相は端的、永山、ウロズボエフ、キア、ベキル・オズル(トルコ)と魅力的な才能が揃ったこのブロックからは、柔道的には大して面白味のないキム・チャンヨンが勝ち上がることとなってしまった。

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60kg級入賞者。左からルトフィラエフ、髙藤、サファロフ、パピナシビリ。

結果、表彰台には髙藤、ルトフィラエフ、サファロフにパピナシビリと「いつもの顔」が揃った。才能系の新鋭たちの陥落をよそに、地力ある超強豪選手がしっかり結果を得たという大会であった。

準々決勝と準決勝の結果、および決勝ラウンドと日本選手全試合の戦評は下記。


【準々決勝】
キム・チャンヨン(韓国)〇優勢[技有・浮落]△モリッツ・プラフキー(ドイツ)
シャラフディン・ルトフィラエフ(ウズベキスタン)〇GS反則[指導3](GS1:21)△エリック・タカバタケ(ブラジル)
オルカン・サファロフ(アゼルバイジャン)〇優勢[技有・内股]△ヴィンセント・リマール
髙藤直寿○小内刈(0:43)△アミラン・パピナシビリ(ジョージア)

【準決勝】
シャラフディン・ルトフィラエフ(ウズベキスタン)〇GS反則[指導3](GS1:21)△キム・チャンヨン(韓国)
髙藤直寿○一本背負投(3:50)△オルカン・サファロフ(アゼルバイジャン)

【3位決定戦】

オルカン・サファロフ(アゼルバイジャン)〇優勢[技有・谷落]△エリック・タカバタケ(ブラジル)
タカバタケは左組み、左右の利くサファロフはまず右構えをベースに試合をスタート。極端に慎重な手先の組み手争いが続き、最初の1分で放たれた技はサファロフが組み際に撃った右体落一発のみ。58秒にタカバタケがサファロフの組み手を両袖に絞り落とすと、主審たまりかねて消極的との咎でタカバタケに「指導1」。以後は力関係に自信のあるサファロフが前進、タカバタケが座り込みの担ぎ技と組み手の切り離しでなんとか決着を先送りするという構図。残り1分、サファロフが左腕を肩越しクロスに入れ、返す刀で右体落を放つとタカバタケに2つ目の「指導」。最終盤にサファロフは再び左構えで左を肩越しに入れるクロス組み手、タカバタケが嫌うと相手の左袖を右、左と手繰って持ち替えて送り込み、最後は後ろ襟を右で引き落としなから右小外掛。奥脚まで届いたこの一撃から体を捨てて谷落「技有」。残り時間はほとんどなく、これが決勝点となってサファロフの勝利が決まった。

アミラン・パピナシビリ(ジョージア)○優勢[技有・浮落]△キム・チャンヨン(韓国)
右相四つ。パピナシビリがクロスグリップでキムを2度潰すと、1分48秒にキムに「指導」が与えられる。奮起したキムは肩車でパピナシビリを大きく崩すが、パピナシビリが腹這いで凌いでノーポイント。パピナシビリは以後もクロスグリップを効果的に利用して試合を優位に展開、3分3秒にはキムの右大外刈を透かして浮落「技有」を獲得する。以後パピナシビリは守勢に回る悪い癖が出て立て続けに2つの「指導」を失ったものの、なんとか試合終了。パピナシビリが「技有」優勢で順当に勝利、表彰台を確保した。

【決勝】

髙藤直寿○後袈裟固(3:11)△シャラフディン・ルトフィラエフ(アゼルバイジャン)
左相四つ。序盤は両者袖を絞り合う膠着状態が続く。1分過ぎからルトフィラエフが奥襟を持っての密着を狙うが、髙藤は組み際の左大内刈でこれを凌いでペースを崩さず。1分50秒、ルトフィラエフがクロスグリップを試みると髙藤は抱き付きの左大内刈で素早くリアクション。しかしルトフィラエフは帯取返風の支釣込足でこれを迎え撃ち、髙藤を大きく崩して畳に這わせる。2分0秒、髙藤が十分間合いを測って思い切った左内股、これでルトフィラエフに後方へのリアクションを強いると戻り際に力強く左小内刈を叩きこむ。仰け反ったまま髙藤の体を抱く形になったルトフィラエフ耐え切れず畳に落下「技有」。相手が良く見えている髙藤はさらにルトフィラエフが焦って組み付いてきたところに左一本背負投を合わせ、崩れた相手をガッチリ後袈裟固で抑え込む。ルトフィラエフが「参った」を表明し3分11秒試合決着。髙藤は全試合一本勝ちで優勝決定。

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決勝、髙藤がルトフィラエフを後袈裟固に抑え込む

【日本代表選手勝ち上がり】

髙藤直寿(パーク24)
成績:優勝

[2回戦]
髙藤直寿○崩袈裟固(2:41)△ヴィンセント・マンクエスト(フランス)
左相四つ。マンクエストが組み際に先手攻撃を仕掛け、髙藤がカウンターを狙う形で試合が進行。髙藤はマンクエストの低い右体落に反応良く左内股を合わせるが、しかし反対に透かされてしまい勢い良く腹から畳に落ちるピンチ。続いてマンクエストが釣り手をクロスに入れるとこれもスイッチを押されたかのように早いリアクションで裏投一発、しかし今度は右小外掛に切り替えされて自分が尻餅を着いてしまいあわやポイント失陥という危機を迎える。ここまでは小さいチャンスに大きなリスクを冒して自ら危機に陥っている印象、今後が不安になる危うい立ち上がり。しかし格上の相手と戦えていることに安堵したかマンクエストがやや鷹揚に組み手を展開すると、髙藤はすかさず右一本背負投に飛び込み「技有」を奪取。そのまま「秋本返し」から崩袈裟固で抑え込むと、腕を負傷したマンクエストが「参った」を表明。髙藤、やや空回りの印象はあったがしっかり「一本」で初戦突破を決めた。髙藤のストロングポイントは投げ際落ち際における競り合いの強さだが、それがもっとも生きるステージである一か八かの「際」を、その必要がない格下にまで作りに出てしまい周囲をハラハラさせた形の試合。髙藤の魅力と危うさが交互に顔を出した非常に「らしい」一番であった。

[3回戦]
髙藤直寿○崩袈裟固(2:21)△アルゲン・バキトベク ウウル(キルギスタン)
髙藤が左、バキトベクウウルが右組みのケンカ四つ。髙藤は両袖の左小内刈で「技有」を先行。相手に奥襟を持たれると抱き付きの左大内刈でこの形を打開し「技有」を追加する。髙藤はここから崩袈裟固で抑え込んで「一本」。格下を一蹴して悠々準々決勝へと駒を進めた。

[準々決勝]
髙藤直寿○小内刈(0:43)△アミラン・パピナシビリ(ジョージア)
左相四つ。髙藤は足技を飛ばしながら積極的に組み手を展開。袖の絞り合いからパピナシビリが一歩下がったところにタイミングよく左小内刈を打ち込むと、これが鮮やかに決まって「一本」。髙藤、五輪で苦杯を喫した因縁の相手パピナシビリをまったく問題にせず。僅か43秒の圧勝で準決勝進出決定。

[準決勝]
髙藤直寿○一本背負投(3:50)△オルカン・サファロフ(アゼルバイジャン)
左相四つ。互いに相手の出方を探り合う慎重な立ち上がり、打開を狙ったサファロフが左小外刈を仕掛けるも髙藤なんとか腹這いで伏せて「待て」。3分12秒、髙藤が左大内刈から返す刀で鋭い左小内刈、これが見事決まって「技有」。続くシークエンス、奮起したサファロフがパワーを生かすべく釣り手をクロスに叩き込むと髙藤は瞬間左大内刈で切り返す得意のリアクション。しかしサファロフは刈り足を外すなり右小外刈で蹴り返し、そのまま左払腰に切り返すという異次元の瞬間芸。釣り手をクロスに叩き入れてからここまで四段重ねの攻防がまさに一瞬、髙藤畳に転がりこれでサファロフが「技有」奪回。しかし髙藤は冷静、2分30秒に左大内刈でサファロフを崩すと、一呼吸置いて左小内刈。完全に虚を突かれたサファロフは後方に勢い良く転がり2つ目の「技有」。残り15秒、後のなくなったサファロフが釣り手をクロスに入れて強引に組み付くが、これをあっさり外した髙藤は間を置かずに左一本背負投、相手を背に張り付けたまま体ごとグシャリと押し込む。サファロフは背中から畳に沈んで万事休す、この技は映像による確認の末「一本」と認められ、髙藤の決勝進出が決まった。

[決勝]
髙藤直寿○後袈裟固(3:11)△シャラフディン・ルトフィラエフ(アゼルバイジャン)
左相四つ。序盤は両者袖を絞り合う膠着状態が続く。1分過ぎからルトフィラエフが奥襟を持っての密着を狙うが、髙藤は組み際の左大内刈でこれを凌いでペースを崩さず。1分50秒、ルトフィラエフがクロスグリップを試みると髙藤は抱き付きの左大内刈で素早くリアクション。しかしルトフィラエフは帯取返風の支釣込足でこれを迎え撃ち、髙藤を大きく崩して畳に這わせる。2分0秒、髙藤が十分間合いを測って思い切った左内股、これでルトフィラエフに後方へのリアクションを強いると戻り際に力強く左小内刈を叩きこむ。仰け反ったまま髙藤の体を抱く形になったルトフィラエフ耐え切れず畳に落下「技有」。相手が良く見えている髙藤はさらにルトフィラエフが焦って組み付いてきたところに左一本背負投を合わせ、崩れた相手をガッチリ後袈裟固で抑え込む。ルトフィラエフが「参った」を表明し3分11秒試合決着。髙藤は全試合一本勝ちで優勝決定。

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ウロズボエフが巴投で永山から「技有」先行

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永山得意の内股は惜しくも決まらず

永山竜樹(東海大2年)
成績:2回戦敗退

[1回戦]
永山竜樹○優勢[技有・小外刈]△フランシスコ・ガリーゴス(スペイン)
永山が右、ガリーゴスが左組みのケンカ四つ。永山は組み合うなり右小外刈で「技有」を獲得。ここからは左右の背負投でガリーゴスを攻めて主導権を掌握する。1分半過ぎに右背負投に浮技を合わせられる危ない場面があったが、ここは相手の上を転がってノーポイント。1分58秒には得意の右内股で「技有」を追加してリードを広げる。以後腰を抱いて密着を図るガリーゴスに押し込まれる場面もあったが、しっかりと試合を収めてタイムアップ。「技有」優勢で初戦を突破した。

[2回戦]
永山竜樹△優勢[技有・巴投]〇ディヨルベク・ウロズノエフ(ウズベキスタン)
異能者同士による注目の一番、トーナメント前半戦の山場。
永山が右、ウロズボエフが左のケンカ四つ。ウロズボエフは序盤から「飛び関節」を狙うなどらしさ十分。1分28秒、ウロズボエフが横落から巴投に連絡して「技有」獲得。永山は両足の巴投に引きずり出すような右内股とこちらもらしさ十分で反撃、得意の引きずりながら体を縦回転させる右内股でウロズボエフを思い切り投げるが、これは一回転してしまいノーポイント。直後、永山の組み手を嫌って引き込んだウロズボエフに「指導」が与えられる。残り1分を過ぎてから永山は右内股、そして飛び込むように浴びせる小外刈と再三相手を大きく崩すが、あと一歩でポイントの獲得には至らず。試合終了間際、組み合わずに伏せたウロズボエフに2つ目の「指導」。後のない永山は組み際の右大外刈で大きく踏み込みあわやという場面を作るが、二の矢として放った左小外刈をかわされてしまい試合終了。ポイント失陥以降は永山らしい攻めを見せたがあと一歩及ばなかった。

■ 66kg級・阿部一二三が無人の野を行く圧勝劇、明確な成長志向見えた内容に注目
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準決勝、阿部一二三がアントワーヌ・ブシャーから右背負投「一本」

(エントリー40名)

【入賞者】
1.ABE, Hifumi(JPN)
2.ARDANOV, Anzaur(RUS)
3.MARGVELASHVILI, Vazha(GEO)
3.SHIKHALIZADA, Nijat(AZE)
5.BOUCHARD, Antoine(CAN)
5.GANBOLD, Kherlen(MGL)
7.FLICKER, Tal(ISR)
7.OLEINIC, Sergiu(POR)

日本代表の阿部一二三(日体大1年)が圧勝。4試合をいずれも投技の「一本」で勝ち上がり、迎えた決勝ではこの日の台風の目となったアンザウル・アルダノフ(ロシア)から残り6秒で袖釣込腰「技有」を得て快勝。あくまで投げを目指す阿部らしい試合ぶりで12月の東京大会に続くグランドスラム2連覇を成し遂げた。

今大会の66kg級は強豪の密度低し、他階級に比べればはっきりレベルの落ちるトーナメントで、第1シードに配された阿部の優勝自体は順当。しっかり仕事を果たした形であり、結果自体に驚くべきものはない。

ただしその内容は大いに評価されるべき。特筆すべきはこれまで脇差し、肩越しクロスと釣り手を変則に入れて力任せに相手を持ち上げる腰技を多用していた阿部が、前襟志向の正統派スタイルで戦い、そして勝ち切ったことだ。3回戦から準決勝までの3試合はいずれも好物の背中が持ちやすいケンカ四つであったが、安易に脇を差した場面は皆無。アビルカイル・マウレニン(カザフスタン)に袖を絞られた3回戦で決めた袖釣込腰と大外刈は両袖技であったが、準々決勝のヴァズハ・マルグヴェラシビリ(ジョージア)戦で見せた背負投2発、準決勝のアントワーヌ・ブシャー(カナダ)戦の背負投はいずれもしっかり前襟を掴んで投げ切った、オーソドックススタイルからの素晴らしい技であった。

体の力を生かしやすい「脇差し」を多用して国内でのしあがった阿部であるが、出世期以前はもともとしっかり襟を持って戦う担ぎ系の好選手であった。そして体の力に勝る海外勢を相手にするには攻撃防御を一つの形から行える「袖と襟」で戦えることに勝るスタイルはないはず。筆者は阿部が刹那的な脇差しスタイルに閉じこもる限り将来の展望は決して明るくないと考えていたが、このスタイルチェンジはその認識を覆すもの。意図してのことであれば、今後の伸びしろは間違いなく豊か。最大限に評価されるべきだろう。

2回戦と決勝で現出した右相四つでは相手の変則志向もあってまだまだしっかり組み合うというわけにはいかなかったが、決勝で相手のクロスグリップにすかさず反応した大内刈(取り消されたが「技有」を獲得した)などは、苦手の「相四つ密着タイプ」に対する研究の成果と観察される。現状の優位に甘んじず常に成長を続けることが現代柔道競技の必須要素であることは言うまでもなく、この一種キャラクターに似合わぬ研究志向は、それ自体が大いに買われるべきだ。投げ上げてから相手に「背中を着かせる」技術の高さはもともと阿部の長所の一であったが、足の使い方で回旋をフォローする技術を複数種見せた今大会はこの点にも向上あり。もう1つ言えば、新スタイルの試運転であった今大会に超強豪の参加がなかったことで、テストだけでなくしっかり結果も得ることが出来たという「運」もある。積み上げた実績はもちろんのこと、星のめぐりの良さ、そしてスタイルの変更を厭わぬ向上姿勢と首脳陣が評価すべき材料がまさしく揃った。世界選手権代表選出はほぼ決定と考えて良いだろう。

阿部以外に特筆すべき選手は見当たらないという印象のトーナメントであったが、敢えてということであれば橋口祐葵(明治大4年)を破って決勝まで進んだアンザウル・アルダノフ(ロシア)を挙げておくべきか。橋口戦は前戦までに延長2試合をこなした相手の消耗というアドバンテージがあり、準々決勝のニジャト・シハシサダ(アゼルバイジャン)戦は早々のポイント失陥というバックグランドを追い風に受けて力以上のものが出た逆転、準決勝のガンボルド・ケーレン(モンゴル)戦は相手のリアクション遅滞に付け込んだ巴投からの腕挫十字固と勝ちぶりは決して鮮やかではなかったが、並べてわかる通り倒したメンバーはなかなかのもの。次戦以降の活躍あるかに注目しておきたい。

準々決勝と準決勝の結果、および決勝ラウンドと日本選手全試合の戦評は下記。

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決勝、本戦終了直前に阿部一二三がアンザウル・アルダノフから袖釣込腰「技有」

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66kg級入賞者。左からアルダノフ、阿部、マグベラシビリ、シハリザダ。

【準々決勝】

阿部一二三○背負投(3:12)△ヴァズハ・マルグヴェラシビリ(ジョージア
アントワーヌ・ブシャー(カナダ) 〇優勢[技有・大外落]△セルジュ・オレイニック
アンザウル・アルダノフ(ロシア) 〇小外掛(0:28)△ニジャット・シハリザダ(アゼルバイジャン) 
ガンボルド・ケーレン(モンゴル)〇優勢[技有・大腰]△タル・フリッカー(イスラエル)

【準決勝】
阿部一二三〇背負投(1:12)アントワーヌ・ブシャー(カナダ)
アンザウル・アルダノフ(ロシア) 〇腕挫十字固(1:43)△ガンボルド・ケーレン(モンゴル)

【3位決定戦】

ヴァズハ・マグベラシビリ(ジョージア)〇送足払(0:43)△ガンボルド・ケーレン(モンゴル)
マグベラシビリが左、ガンボルド・ケーレンが右組みのケンカ四つ。手先の組み手争いが続き、26秒双方に「取り組まない」咎による「指導」。直後、ガンボルド・ケーレンが引き手で袖、釣り手で奥襟を叩いて自身の左にスライドしながら相手を引きずる積極行動。しかし引きずりつつ釣り手を脇に差し替えた瞬間、マグベラシビリの送足払がその動き際を捉える。技自体は確信に満ちたものではなく威力はさほどないように思われたが、スライドステップの着地際、そして組み手の持ち替えによる隙とあまりに条件揃ったタイミングの良さにガンボルド・ケーレンはガクリと大崩れ。自身の腕が脇を差していたことも仇となり、深く引きずり込まれてしまったこの一撃は「一本」。

ニジャット・シハリザダ(アゼルバイジャン)○優勢[技有・一本背負投]△アントワーヌ・ブシャー(カナダ)
左相四つ。組み手争いが続いて48秒両者に「指導」。1分42秒、シハリザダはブシャーが奥襟を叩いてくるタイミングに合わせて右一本背負投、これで「技有」を得てリードに成功する。シハリサダは2分3秒にも豪快な裏投で相手を放り投げるが、これは尻餅とみなされノーポイント。勢い止まらぬシハリサダ、2分49秒には左大外巻込の豪快な一発。主審は「一本」を宣告するが、ケアシステムによる確認の結果これは「技有」に訂正。ここまで投げに投げまくったシハリザダは以降矛を収めて試合をまとめに掛かり、ブシャーの追撃をしっかり凌ぎ切って試合終了。

【決勝】
阿部一二三○優勢[技有・袖釣込腰]△アンザウル・アルダノフ(ロシア)
右相四つ。57秒、阿部がアルダノフのクロスグリップに右大内刈を合わせて「技有」を得る。このポイントは尻餅とみなされすぐに取り消されてしまったが、苦手とする右組みの密着タイプへの対抗策として用意してきた技術の模様、以後に期待を抱かせる立ち上がり。2分25秒には強引な右袖釣込腰でアルダノフを一瞬浮かせるが、引き手が切れてしまいノーポイント。以後も阿部は要所で的確に攻め続け、3分25秒には一度奥襟を狙ってからの右一本背負投でアルダノフを大きく崩す。これは上体の拘束が不十分であったために腹這いで逃れられてしまったが、直後主審はアルダノフに「指導」を宣告。残り6秒、阿部は両袖の右袖釣込腰でアルダノフを釣り上げると乗り越えるように回しきって決定的な「技有」を獲得。残り時間から考えればひとまずGS延長戦突入を受け入れても文句を言われない状況であったが、妥協せずあくまで投げの決着を狙った姿勢はまことに見事。阿部、12月の東京大会に続くグランドスラム2連覇達成。

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2回戦、阿部がキム・リマンから大外刈「一本」

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準々決勝、阿部はマルグヴェラシビリに右背負投、足を高く揚げて回旋をフォローし「技有」

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阿部、今度は足を体落様に落として投げの威力を増し背負投「一本」

【日本代表選手勝ち上がり】

阿部一二三(日体大1年)
成績:優勝

[2回戦]
阿部一二三〇大外刈(1:03)△キム・リマン(韓国)
右相四つ。キムは手先で組み手争い。しかし前のめりになって阿部に持たれかかると途端に後ろに飛びのいて逃げ、間合いの外に出ると軽くジャンプしてやる気自体はアピールすることを繰り返す臆病な試合運び。阿部は敢えていったん組ませて引き手を確保すると、相手が嫌って離れようとするところに作用足を差し込み、奥襟を叩き込みながら体落の角度で刈り込む右大外刈。キム腰を引いたまま畳に崩れ落ち「一本」。

[3回戦]
阿部一二三○大外刈(2:19)△アビルカイル・マウレニン(カザフスタン)
阿部が右、マウレニンが左組みのケンカ四つ。21秒、釣り手を絞られた阿部は強引な右袖釣込腰で「技有」を先行。背中を持たれた阿部が右背負投で掛け潰れると、主審は阿部に偽装攻撃の咎で「指導」を宣告する。しかし阿部はこの形さえ避ければ問題なし、両袖で場外に押し込むと圧を感じたマウレニンは堪らず膝を着いてしまい「指導」。さらに阿部が強引な右背負投で掛け潰れたところでマウレニンに2つ目の「指導」が与えられる。阿部は再び両袖で相手を場外際に追い詰めると、袖釣込腰様に上体を固めた豪快な右大外刈で「一本」。この試合も豪快な一本勝ちで準々決勝進出を決めた。

[準々決勝]
阿部一二三○背負投(3:12)△ヴァズハ・マルグヴェラシビリ(ジョージア)
阿部が右、マルグヴェラシビリが左のケンカ四つ。1分7秒に阿部が右背負投、内股風に足を高く揚げて決めの回旋を増す巧みなコントロールで投げ切り「技有」を獲得。しかし、ここから追い上げを図るマルグヴェラシビリの奥襟圧力に潰されてしまい、立て続けに2つの「指導」を失ってしまう。少々嫌な流れだったが、最後は体落風に足を畳に突き刺す右背負投で「一本」。難敵をいずれも得意の右背負投で2度投げつけて準決勝進出を決めた。阿部の長所の一である、足を使った決めの巧みさが良く出た試合。

[準決勝]
阿部一二三〇背負投(1:12)△アントワーヌ・ブシャー(カナダ)
阿部が右、ブシャーが左組みのケンカ四つ。長身のブシャー、腕の長さを利して外側から釣り手を巻き付けるように奥襟を叩く。阿部は全く怖じず、前襟を掴んでその懐の中で柔道を展開、45秒には肘抜きの右背負投であわやポイントという場面を作るなど落ち着いて試合を進める。1分12秒、またもやブシャーが外から釣り手で奥襟を叩いたその懐の中で阿部は前襟を掴み、ほとんど「釣り込む」という体で釣り手を高く効かせた右背負投。高空で体ごと回旋させた一撃見事に決まって豪快な「一本」。ブシャーは投げの衝撃かしばし座り込んで立てず。阿部この試合も圧勝で決勝進出決定。

[決勝]
阿部一二三○優勢[技有・袖釣込腰]△アンザウル・アルダノフ(ロシア)
右相四つ。57秒、阿部がアルダノフのクロスグリップに右大内刈を合わせて「技有」を得る。このポイントは尻餅とみなされすぐに取り消されてしまったが、苦手とする右組みの密着タイプへの対抗策として用意してきた技術の模様、以後に期待を抱かせる立ち上がり。2分25秒には強引な右袖釣込腰でアルダノフを一瞬浮かせるが、引き手が切れてしまいノーポイント。以後も阿部は要所で的確に攻め続け、3分25秒には一度奥襟を狙ってからの右一本背負投でアルダノフを大きく崩す。これは上体の拘束が不十分であったために腹這いで逃れられてしまったが、直後主審はアルダノフに「指導」を宣告。残り6秒、阿部は両袖の右袖釣込腰でアルダノフを釣り上げると乗り越えるように回しきって決定的な「技有」を獲得。残り時間から考えればひとまずGS延長戦突入を受け入れても文句を言われない状況であったが、妥協せずあくまで投げの決着を狙った姿勢はまことに見事。阿部、12月の東京大会に続くグランドスラム2連覇達成。


橋口祐葵(明治大4年)
成績:3回戦敗退

[1回戦]
橋口祐葵○GS指導2(GS0:29)△ボツィダル・テメルコフ(ブルガリア)
右相四つ。橋口は背中を叩いてくる相手に手を焼き、攻めの糸口を見つけられないまま3分近くを消費してしまう。3分20秒に両袖を得た橋口が隅返でテメルコフを伏せさせると、展開の差を見て取った主審はテメルコフに「指導」を宣告。このまま本戦の4分間が終了し、勝負はGS延長戦へと突入する。この時点で橋口が「指導」をリードしているため、相手に「指導」が入った時点で橋口の勝利が決定する。GS29秒、橋口の組み手を嫌ったテメルコフに取り組まない咎で「指導」が与えられ試合は決着。

[2回戦]
橋口祐葵○GS反則[指導3](GS1:00)△ディミトリ・ミンコフ(ベラルーシ)
右相四つ。明らかに橋口が格上、右袖釣込腰に右背負投と一発を狙い続けるが、力関係をよく理解したミンコフは片手の左背負投に袖釣込腰と橋口の体勢が定まる前に担ぎ技に座り込むことを続けて展開の先送りを図る。中盤以降橋口が一方的に持つ形も出来始めるが、ミンコフはあるいは完全に背中を向けて切り、あるいは先に掛け潰れてと粘り続けて試合を降りない。1分50秒ミンコフに「指導」、残り1分にも橋口の一方的な攻めに窮して掛け潰れたミンコフに偽装攻撃の「指導2」が与えられる。ミンコフは疲労で立ち上がれず、橋口あとは決めるだけの状況となったがこちらも少々疲労し投げ切れないまま試合は延長戦へ。GS1分0秒、右一本背負投に潰れたミンコフに偽装攻撃の「指導3」。ようやく試合決着。

[3回戦]
橋口祐葵△優勢[技有・小内巻込]○アンザウル・アルダノフ(ロシア)
右相四つ。橋口は左右の袖釣込腰で攻めるが、アルダノフの密着志向に苦戦を強いられる。2分7秒には相手の右小内巻込で「技有」を失陥、さらに袖口を握ったまま膠着した咎で「指導」ポイントまでも失ってしまう。残り1秒で逃げる相手に「指導」が与えられたのみで逆転の糸口見いだせないまま試合終了。橋口は予選ラウンドで畳を去ることとなった。

■ 73kg級・橋本壮市が優勝、独自の「世界」作って他をまったく寄せ付けず
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アン・チャンリンとの決勝を戦う橋本壮市

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決勝、橋本に足を蹴られて頭を抑えられたアンは自ら左内股を仕掛けた形を強いられてつんのめる

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橋本が被さって決め「技有」

(エントリー44名)

【入賞者】
1.HASHIMOTO, Soichi(JPN)
2.AN, Changrim(KOR)
3.BUTBUL, Tohar(ISR)
3.HEYDAROV, Hidayat(AZE)
5.BOBOEV, Giyosjon(UZB)
5.ORUJOV, Rustam(AZE)
7.KORVAL, Loic(FRA)
7.SAIYINJIRIGALA,(CHN)

日本代表の橋本壮市(パーク24)が素晴らしいパフォーマンスを披露して12月の東京大会に続くグランドスラム2連勝。変則組み手に一定の「枠」が用意された形の新ルール下で持ち味である組み手と技の連動が冴えに冴え、独自の世界を作って他をまったく寄せ付けず。常に姿勢良く、ピストルグリップを織り交ぜながら一方的に組み手を支配しては、片手で相手を引き込みながら体で押し込む独特の左袖釣込腰で投げまくり、全試合でこの技を決めて決勝に進出。

決勝では本トーナメント実力ナンバーワンのアン・チャンリン(韓国)と対戦。この試合はGS延長戦にもつれ込むが、橋本はケンカ四つのアンの左足を前から蹴り上げ、蹴り上げながら相手の上体を制して頭から投げ落とす異次元の技を慣行。無理やり自らが左内股を仕掛けた形を強いられた格好のアンはつんのめって前のめりに陥落、橋本が捩じり浴びせて「技有」を得(公式記録は内股透)、みごと優勝を決めた。

グランドスラム東京優勝時に「次は『橋本スペシャル』を見せる」と語っていた橋本。本人の談によるとこれは準決勝まで見せていた片手の袖釣込腰のようだが、決勝で見せた「セルフ内股透」も十分「スペシャル」の称号に値する技であり、常に進化することでしぶとく一線に生き残って来た橋本らしさが最も良く表れた一撃であった。

王様スタイルのイケイケ柔道で勝利を重ねながら同県内のライバル西山雄希が放つ光の前にホープとしての評価を奪われた高校時代、腰技と足技の切れ味に活路を求めたが同時に柔道の線が細くなって突き抜けられなかった大学時代、徹底した組み手の洗練で一線に生き残り続けたが結果ほどの評価を得られなかったシニア期。常に進化を続けて来た橋本が、この紆余曲折を経てなお進化を止めずついに独自の「世界」を得るに至った、その完成披露となる大会であったのではないだろうか。そのくらい圧倒的かつ魅力的な勝ちぶりであった。背負投の秋本啓之、寝技の中矢力、王道投技の大野将平と個性あるチャンピオンを次々輩出して来た日本の73kg級であるが、今大会で橋本が見せた独自のスタイルはこれに比肩し得るだけの面白さがある。休養中の大野将平の出方が気になるところであるが、橋本が今季の世界選手権代表資格を得、一気に頂点まで登攀するシナリオも十分あり得るのではないだろうか。

準々決勝と準決勝の結果、および決勝ラウンドと日本選手全試合の戦評は下記。

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73kg級入賞者。左からアン、橋本、ブトブル、ヘイダロフ。

【準々決勝】

ルスタン・オルジョフ(アゼルバイジャン)〇優勢[技有・隅落]△サイインジガラ(中国)
アン・チャンリン(韓国)〇優勢[技有・背負投]△ギション・ボボエフ(ウズベキスタン)
橋本壮市○優勢[技有・袖釣込腰]△ヒダヤト・ヘイダロフ(アゼルバイジャン)
トハル・ブトブル(イスラエル)〇反則[指導3]△ロイック・コーバル(フランス)

【準決勝】
アン・チャンリン(韓国)〇優勢[技有・背負投]△ルスタン・オルジョフ(アゼルバイジャン)
橋本壮市○優勢[技有・袖釣込腰]△トーハル・ブトブル(イスラエル)

【3位決定戦】

トハル・ブトブル(イスラエル)〇GS技有・小内刈(GS1:21)△ギション・ボボエフ(ウズベキスタン)
ブトブルが左、ボボエフ右組みのケンカ四つ。ブトブルが左背負投を仕掛けるとボボエフは右内股、ブトブルは返す刀で浮技と序盤から激しい攻め合い。戦線やや膠着した2分51秒ブトブルに「指導」が与えられるが、以後はブトブルが左背負投に打点の高い右一本背負投で主導権確保、しかし要所でボボエフが攻め返して拮抗を演出するという甲乙つけがたい展開。終盤ボボエフに「指導1」、スコアがタイとなったところで試合はGS延長戦へ。延長1分21秒、ブトブルが左腰車。ボボエフが耐えると左小内刈に連絡して乗り込み、両者ひとつの物体となって畳に落下「技有」。散発の大技で取り逃し続けたが、最後はしっかり理のある連絡技で投げに成功、ブトブルが見事3位の座を勝ち取った。

ヒダヤト・ハイダロフ(アゼルバイジャン)○GS技有・背負投(GS0:38)△ルスタン・オルジョフ(アゼルバイジャン)
オルジョフが左、ハイダロフが右組みのケンカ四つ。腰を引いての腹の探り合いが続き、2分54秒に両者に「指導」。以後も互いを良く知る同国選手対決ということもあり、一貫して浅く斬り合う乱取りのようなペースで試合が進行。2分15秒にはオルジョフが裏投でハイダロフを持ち上げるが、投げきれずに下ろしてしまいノーポイント。2分34秒には故意に場外に出た咎でオルジョフに2つ目の「指導」が与えられる。ここからオルジョフはペースを一段上げて追い上げを図るが、ハイダロフが凌ぎ切る形で本戦が終了。試合はGS延長戦へともつれ込む。この時点での累積警告はハイダロフが「1」でオルジョフが「2」。オルジョフに「指導」が与えられれば試合が終わるが、ハイダロフは1つまでなら「指導」を失っても試合が続けられる状況である。GS38秒、オルジョフが背中を持って小外掛を狙うと、ハイダロフは覆いかぶさってくるオルジョフの懐に潜り込んで右背負投。決定的な深さまで侵入を許してしまったオルジョフは逃れること叶わず側面から落ちてしまい「技有」。国際的な序列からすればやや信じがたいアップセット、同国のエースを下したハイダロフが3位を獲得することとなった。


【決勝】
橋本壮市○GS技有・内股透(GS0:26)△アン・チャンリン(韓国)
橋本が右、アンが左組みのケンカ四つ。組み手争いが続き、52秒両者に「指導」。1分23秒、橋本が両足の巴投を仕掛けるとアンは一瞬空中に浮くが腹這いで落ちてノーポイント。以降は釣り手のみでの攻防が続くが、橋本が終始圧を掛けて前に出ていたことで2分59秒にアンに2つ目の「指導」が与えられ、まさに組み手の魔術師橋本の面目躍如といったところ。3分40秒には組み手争いから橋本が左一本背負投でアンを担ぎ上げる。これはポイント獲得が想起される投げだったが、上体の拘束が甘かったためにポイントには至らず。結局このまま本戦が終了し、試合はGSの延長戦へと突入。この時点で橋本が「指導1」でアンが「指導2」。アンに「指導」が与えられれば試合が終わるが、橋本は「指導」1つまでなら失っても大丈夫な状況である。そして勝負は意外なほど早く決着。GS20秒にアンが奥襟を持って腰を入れながら圧を掛けると、橋本は自身の体を相手の背中側に置いたまま、アンの左足首を前から左足で蹴り上げる異常行動。直前の自身のアオリ行動でアンの重心はこの左足にあり、支えを失ったアンは左内股を「仕掛けさせられた」形で左を上げたまま前につんのめる。ほとんど同時に橋本が腰を切りながら体を浴びせるとアンは捩じられて一回転「技有」。これで勝負は決した。公式記録による決まり技は内股透である。直前に橋本は釣り手を持ち替えて、脇を通して後襟を四指で握っておりこれが非常に効いた。これら相手の裏から上体を制しに掛かる作り、直前に相手の裏に回り込んだ軸足の動き、蹴りとタイミングを合わせての上体牽引と突っ込み、と状況証拠を検証すればこれは「練習して来た技」であると考えるのが妥当。グランドスラム東京時のインタビューで話していた「橋本スペシャル」とはあるいはこれであろうか。ピストルグリップやポケットグリップを駆使した組み手と連動した技、体を同時に突っ込むことで成立させる片手袖釣込腰と「スペシャル」の候補が複数見えたこの日の締めは、橋本らしさの究極とでもいうべき面白い一撃。橋本、全試合で投技によるポイントを得ての快勝でグランドスラム大会2連勝を飾った。

【日本代表選手勝ち上がり】

橋本壮市(パーク24)
成績:優勝

[2回戦]
橋本壮市○優勢[技有・袖釣込腰]△トリスタン・アヴァリアニ(フランス)
右相四つ。橋本は引き手から持って袖を落とす丁寧な組み立てで試合を展開、42秒にまず左袖釣込腰で「技有」を奪う。片手を殴るように畳に叩きつけながら先に体を捨てる面白い一撃だった。以降橋本は持ち味である組み手のテクニックで相手をまさしく完封、まったく攻め込む隙を与えない。2分過ぎに左袖釣込腰を仕掛けるとアヴァリアニに「指導」。橋本、3分36秒には右体落で「技有」を追加してタイムアップ。常に姿勢良く、その背筋を伸ばした姿勢をほとんど崩すことすらないまま圧勝で初戦を突破した。

[3回戦]
橋本壮市○上四方固(1:44)△アレキサンダー・ターナー(アメリカ)
右相四つ。ターナーが先に奥襟を得るも、橋本はそれを全て落として自分の組み手に変換。1分21秒には前戦に引き続き片手の左袖釣込腰、送り込んだ左を自らの脇に収納しながら体を捨てた豪快な一撃は「技有」。「一本」と勘違いした橋本は背中で相手を制した状態から一度立ち上がろうとするが、相手も同じく試合終了と思ったようで逃げようとせず。一瞬間が空いた後で改めて上四方固で抑え込んで「一本」。橋本がまたしても圧勝で準々決勝進出を決めた。

[準々決勝]
橋本壮市○優勢[技有・袖釣込腰]△ヒダヤト・ヘイダロフ(アゼルバイジャン)
右相四つ。ヘイダロフはまず引き手で襟を掴み、遠間から釣り手をクロスに入れてはまた離れる曲者柔道。展開を先送りして、一方的に組めた時だけ勝負に出れば良いという体でまともに組み合おうとしない。しかし橋本落ち着き払って姿勢良く柔道を展開、面倒なクロスグリップは全てきちんと外し、粘りつくように引き手を確保し、あるいは両手で突いて小細工を封じてと位押しに圧力を掛けながら前へ。橋本の落ち着きの前に自滅した形のヘイダロフにまず「取り組まない」咎による「指導」、さらに片襟の「指導2」が累積。直後橋本引き手で袖、釣り手で奥襟を得てまたもや片手の左袖釣込腰。相手が遠間に逃げることを織り込んで早いタイミングで体ごと押し込み「技有」を得る。以後も全く相手を寄せ付けず、左一本背負投で尻餅を着かせ、腕挫十字固を狙ってと縦横無尽。息も切らさぬという体で時間を使い切り、ベスト4入り決定。

[準決勝]
橋本壮市○優勢[技有・袖釣込腰]△トーハル・ブトブル(イスラエル)
右相四つ。15秒、橋本はまたもや片手の左袖釣込腰で技有を奪う。40秒には相手の左背負投で大きく崩されるが、バランス良く腹這いで着地。以降は組み手で相手を完封してほとんどまともな技を掛けさせず、2分間際にはブトブルの側に組み合わない咎での「指導」が与えられる。3分20秒に再度片手の左袖釣込腰で「技有」を追加すると、以降はしっかり試合を収めてタイムアップ。終始落ち着いた試合運びで決勝進出を決めた。

[決勝]
橋本壮市○GS技有・内股透(GS0:26)△アン・チャンリン(韓国)
橋本が右、アンが左組みのケンカ四つ。組み手争いが続き、52秒両者に「指導」。1分23秒、橋本が両足の巴投を仕掛けるとアンは一瞬空中に浮くが腹這いで落ちてノーポイント。以降は釣り手のみでの攻防が続くが、橋本が終始圧を掛けて前に出ていたことで2分59秒にアンに2つ目の「指導」が与えられ、まさに組み手の魔術師橋本の面目躍如といったところ。3分40秒には組み手争いから橋本が左一本背負投でアンを担ぎ上げる。これはポイント獲得が想起される投げだったが、上体の拘束が甘かったためにポイントには至らず。結局このまま本戦が終了し、試合はGSの延長戦へと突入。この時点で橋本が「指導1」でアンが「指導2」。アンに「指導」が与えられれば試合が終わるが、橋本は「指導」1つまでなら失っても大丈夫な状況である。そして勝負は意外なほど早く決着。GS20秒にアンが奥襟を持って腰を入れながら圧を掛けると、橋本は自身の体を相手の背中側に置いたまま、アンの左足首を前から左足で蹴り上げる異常行動。直前の自身のアオリ行動でアンの重心はこの左足にあり、支えを失ったアンは左内股を「仕掛けさせられた」形で左を上げたまま前につんのめる。ほとんど同時に橋本が腰を切りながら体を浴びせるとアンは捩じられて一回転「技有」。これで勝負は決した。公式記録による決まり技は内股透である。直前に橋本は釣り手を持ち替えて、脇を通して後襟を四指で握っておりこれが非常に効いた。これら相手の裏から上体を制しに掛かる作り、直前に相手の裏に回り込んだ軸足の動き、蹴りとタイミングを合わせての上体牽引と突っ込み、と状況証拠を検証すればこれは「練習して来た技」であると考えるのが妥当。グランドスラム東京時のインタビューで話していた「橋本スペシャル」とはあるいはこれであろうか。ピストルグリップやポケットグリップを駆使した組み手と連動した技、体を同時に突っ込むことで成立させる片手袖釣込腰と「スペシャル」の候補が複数見えたこの日の締めは、橋本らしさの究極とでもいうべき面白い一撃。橋本、全試合で投技によるポイントを得ての快勝でグランドスラム大会2連勝を飾った。



本文:古田英毅
戦評:古田英毅/林さとる

※写真は権利者の許諾を得て掲載しています

※ eJudoメルマガ版2月12日掲載記事より転載・編集しています。

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