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【隔週刊・嘉納治五郎師範のひとこと】第22回

(2017年1月23日)

※ eJudoメルマガ版1月23日掲載記事より転載・編集しています。
【隔週刊・嘉納治五郎師範のひとこと】第22回
最初はゆっくりと練習すべきであるが、後には、自然と速度を早め、しまいには真剣の時に役に立つように練習しておかなければならぬ。
出典:「柔の形・緒言」柔道1巻2号 大正4年(1915)2月(『嘉納治五郎大系』3巻,179頁)
 
「乱取と形は車の両輪」、よく耳にする言葉です。

嘉納師範の存命中、「投の形」「固の形」「柔の形」「極の形」「五の形」「古式の形」「剛(柔)の形」「精力善用国民体育」の8種の形が講道館で制定されました。このうち師範が詳細な解説を残しているのは、「柔の形」と「精力善用国民体育」の2つになります。「精力善用国民体育」制定前は「柔の形」、「精力善用国民体育」制定後は、同形を最初に学ぶべき形としていることからも、この2つの形は他の形に比べて、重要度が高いものであったことが推測されます。

「柔の形」は一教から三教まであり、各教が5本、計15本からなっています。衣服を着たまま、また、道場以外でも行えることを前提にしているため、道衣を掴まず、投げないことが特徴です(※1)。最近までは昇段の際、女子のみが初段からその修得が義務づけられていたため、「女子の形」というイメージが強いのではないでしょうか(現在は男女同じで、「柔の形」は四段昇段時必修となっています)。

ところが、この形で受が行う動きには目を突く(両眼突)、両目の間を打つ(斜打)、拳であごを突き上げる(突上)、胸を押す(胸押)、手をつかむ(片手捕・両手捕)など、非常に武術的なものが多くあります。当初「体操の形」という名前が付けられていたという「柔の形」ですが、取は受の武術的な攻撃を「柔の理」で制するわけです。
そして、そういった内容の「柔の形」を練習する際の心得が今回の「ひとこと」となるわけです。

もちろん、「柔の形」には、乱取で、使わない筋肉を使う等のいわゆる「体育」としての機能も期待されていたわけですが(※2)、「真剣の時に役に立つ」ことも、その目的に含まれていたのでしょう。真剣勝負はイレギュラーが前提です。そのためか、解説も今ほど画一的ではない部分もあり、<その場でかわせないときは、一歩引いてもいい>あるいは<相手の手が離れないときはそのまま引きつける>といった説明がされた箇所もあります。
現在行われている、形競技では、こういった内容は許されないかもしれませんが・・・。

師範も危険であること、あるいは覚えにくいという理由で、最初はゆっくり練習することを推奨しているわけですが、いつまでもゆっくり練習していたら、実際の場合役に立たないとも言っています。ここでいう「実際の場合」とは、もちろん、武術的な何でもありの実戦であることは言うまでもないでしょう。

ただ、こういった実戦を想定した「柔の形」の稽古が実際にどれほど行われていたかは、不明です。師範から薫陶を受けた小谷澄之十段・大滝忠夫九段は、その著書で、今回の「ひとこと」と同じ引用元から(直接の教えがなかったことも予想されます)、「柔の形」の練習の早さについて言及していますが、結論は原則「正確を旨として緩徐に行うべき」としています。
 「極の形」で、当身が不十分であれば、反復練習をさせ、なかなか終わらない(醍醐敏郎十段談)等、形の指導を厳しく行ったと言われる大滝九段ですら、こういった結論を出したわけですから、推して知るべしでしょう。
 
今回の「ひとこと」、もしかしたら師範の願望の1つに過ぎないのかもしれません。ですが、競技や昇段試験以外の形のあり方、ひいては、講道館柔道の多様性を考える上で、示唆に富んでいるのではないでしょうか。


※1乱取の基礎として、この形をするときは倒れる練習をすることが出来るとも言っています。
※2師範が、体育を目的としてこの形をするときは左右引き続き行うべきとの発言をしている点も 
 興味深いところです。「柔の形」の簡略版とでも言うべき、「精力善用国民体育・柔式」も左右行う 
 ことを奨励していることから、本来は左右両方やるべきなのかもしれません。
※読みやすさを考慮して引用は『嘉納治五郎大系』から行っています。

著者:元 敏季(ハジメ・トシキ)
1975年生まれ。柔道は中学校から始め、大学までは競技を中心に行うが、卒業論文を機に柔道の文化的側面に関心を持ち、大学院へ進学。凡そ10年、大学院・研究機関に所属するも、研究とは異なる分野の仕事に就き現在に至る。ライフワークとして嘉納治五郎に関する史料を蒐集・研究し、その成果を柔道振興のため発信しようとしている。

※ eJudoメルマガ版1月23日掲載記事より転載・編集しています。

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