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【ROAD TO 高校選手権】第30回松尾三郎杯争奪全国選抜高等学校柔道大会マッチレポート②準決勝~決勝

(2016年12月29日)

※ eJudoメルマガ版12月29日掲載記事より転載・編集しています。
【ROAD TO 高校選手権】第30回松尾三郎杯争奪全国選抜高等学校柔道大会マッチレポート②準決勝~決勝
■ 準決勝
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準決勝に臨む桐蔭学園高、先鋒には湯本祥真を起用

桐蔭学園高 - 国士舘高
(先)湯本祥真 - 三谷大
(次)千野根有我 - 斎藤泰樹
(中)佐藤虎太郎 - 長島光希
(副)村尾三四郎 - 渡辺将一
(大)関根聖隆 - 織茂友多郎

全国優勝候補に挙げられる桐蔭学園高と、前代まで圧倒的な強さで高校柔道界を席捲しながら今季は非常に苦しいラインナップの国士舘高の今期初対決。

ポイントゲッター賀持喜道を欠く桐蔭学園は関根聖隆、村尾三四郎、千野根有我のレギュラー3枚は動かさず。今大会選手を入れ替えながら戦ってきた残り2つの枠には湯本祥真と佐藤虎太郎の軽量2枚を同時起用した。サイズがあって攻めも奔放だが受けに脆さのある髙山康太ではなく、試合を作るのが上手く飛び道具的な一発もある軽量2人を揃えて投入したあたりに、チーム内の序列、そしてこの試合をどう位置付けるかが強く伺われる。

戦力的には明らかに桐蔭学園が上だが、国士舘は本来「食らいつく」育成が得手のチーム。圧倒的戦力を誇る代よりも、自身を挑戦者と位置付けてターゲットに対して「下から目線」で挑んでくるこういう代の国士舘の方が遥かに厄介と評する関係者もいるほどで、桐蔭学園としては今後を考えて出来ればここで国士舘を完璧に潰しておきたいはず。ほころびを見せて「やれる」感触を与えるのではなく、スコア的にも内容的にも完封して全国大会で待ち受ける再戦を精神的に有利に運びたいはずだ。このオーダーは、確実に計算の立つ村尾・関根の2枚が後衛に控える以上、たとえ軽量であってもここは失点のリスクなく、かつ足し算の一発を狙える2人を同時に突っ込んだと解釈できる。育成ではなく今季全体の流れを踏まえた、シビアに内容にこだわった布陣。

一方の国士舘は招待試合シリーズの慣例に従い、初戦で定めたベースの配列を動かさず。前2戦とオーダー、配列ともに同一で布陣した。

どこからでも得点が狙える桐蔭学園から見ると、対戦相性を考える限りリスク要因は次鋒戦での千野根のミスのみ。前衛3枚まで悪くてもタイスコア、出来れば1点以上のリードを得て後衛の大駒2枚に試合を託せば勝利自体は動かないはず。

一方の国士舘、普通に考えれば副将戦の失点は致し方なし。大将は同県出身で互いをよく知る因縁に期待して織茂友多郎に粘ってもらうとして、もし勝利を狙うのであればどうしても前衛3枚でリードを奪うしかない。しかし率直に言ってこれは相当にハードルが高い。総体の力関係からすればこの試合の課題は「どこまで食らいつけるか」というところに置いていると見るのが妥当だろう。

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準決勝、先鋒戦で桐蔭学園高・湯本祥真が国士舘高・三谷大から大外巻込「技有」

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千野根有我が斎藤泰樹を攻める

先鋒戦の軽量級対決は桐蔭学園・湯本祥真、国士舘・三谷大ともに右組みの相四つ。湯本は良いタイミングの右内股、三谷は寝技に持ち込んで得意の横三角を試みるなど中盤まで試合は目の離せない展開。どこからでも技の出る湯本のセンスを、ジワリと要所に攻撃姿勢を染みさせていく三谷の粘り強さが封じる形で試合はやや膠着、2分46秒双方に「指導」。

湯本丁寧に手順を踏むとかえって三谷のペースに捕まると踏んだか、残り42秒で手立てを変えて先に鋭く足先を引っかける大外刈。起こりは小さく鋭く、捕まえると決めは体を思い切り捨てて巻き込みこれは大外巻込「技有」。このポイントが最後まで残り、「技有」優勢で桐蔭学園が先制点を確保。

後衛2枚に村尾三四郎と関根聖隆という今期切っての大駒2枚を置くことを考えれば、軽量の「足し算」カードである湯本で1点獲得したこの先鋒戦の意味は限りなく大きい。三谷はここまで全勝、戦力に劣る今代チームを必死に牽引して来たがついにここで力尽きた。

次鋒戦は桐蔭学園の千野根有我に斎藤泰樹がマッチアップ。千野根はいわずと知れた昨年の全国中学校大会最重量級の王者、一方の齋藤にも一昨年73kg級で準優勝の経歴がある。巨漢の1年生・千野根が右大外刈の鉈を振り上げ、齋藤がこれをその都度かわしながら右袖釣込腰で股中に潜り込もうという構図の攻防が続く。千野根の防壁は決して堅いものではなく、むしろ巨艦がその脆い横腹を晒し、よろけつつ船首の向きを変えて時折大砲を撃ってくるという体の危ういものであったが、齋藤の側には地力的にも技術的にもこれを崩すだけの力が練れていない。千野根に「指導」1つが与えられたのみで4分間が過ぎ去り、この試合は引き分けに終わる。

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村尾三四郎が渡辺将一を圧倒、「指導」4つを得て勝利。

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関根聖隆が一本背負投、織茂友多郎を攻め続ける。

中堅戦は桐蔭学園が73kg級の好選手佐藤虎太郎、国士舘は主将で90kg級の長島光希が出動。いよいよ後衛2枚の出動を次戦に控えて明らかにこの準決勝の分水嶺になる一番であったが、残り42秒で佐藤の鋭い大内刈が閃き、動き端を捉えられた長島はあるいは自滅かとも思われるほどあっさり、耐える間全くなく背中から畳に落下。主審はこれに「一本」を宣告。スコア2-0、計算上はともかくこの時点で事実上試合の行方は決した。

副将戦は村尾三四郎が淡々と、しかし着実に渡辺将一を圧倒。この日は一貫してやや元気なし、黒潮旗で見せたような「捕食」とでも言うべき貪欲かつ機敏な「一本」への姿勢は影を潜めていたがそれでも柔道自体の機動力は圧倒的。相手の回避手段を封じながら表情を変えずに攻め続け、かつ前に出続けて渡辺には次々場外の「指導」が累積。残り33秒、これも場外の咎で4つ目の反則が与えられ、一切の波乱なく村尾の勝利が決まった。この時点でスコアは3-0、桐蔭学園の決勝進出が確定。

大将戦は関根聖隆が左、織茂友多郎が右組みのケンカ四つ。今季ここまで絶対的な取り味を発揮して来た関根だがこの試合は慎重、59秒双方に「指導1」。

関根は一本背負投の形に腕を抱えた右大外刈、さらに左一本背負投と得意の組み立てで技を繋ぐが、織茂はことごとく凌ぐと自身のフィールドである寝技に引きずり込んで粘りに粘る。結果関根の技を散発に留めることに成功、この試合は織茂の粘戦が実る形で引き分け。スコア動かず3-0のままで5試合が終了、桐蔭学園が決勝へと駒を進めることとなった。

桐蔭学園高 3-0 国士舘高
(先)湯本祥真○優勢[有効・大外巻込]△三谷大
(次)千野根有我×引分×斎藤泰樹
(中)佐藤虎太郎○大内刈(3:18)△長島光希
(副)村尾三四郎○反則[指導4](3:33)△渡辺将一
(大)関根聖隆×引分×織茂友多郎

試合自体は桐蔭学園の完勝。先鋒戦から大将戦まで勝利自体が揺らぐ場面は一切なかった。

国士舘、この試合こそ完敗であったが保有戦力のレベルを考えれば今大会は大健闘。たとえ駒が揃っていなくても「国士舘」の名前のインパクトは良くも悪くも大きく、新チーム結成後最初のビッグゲームでもし早期敗退すれば今後に与える影響は計り知れないものがあったはず。シードに助けられた面はあるが、なんとか入賞ラインに踏みとどまって最低限の結果を残した、次に繋がる戦いであったと評しておきたい。齋藤、長島、渡辺らが線の細さを晒した面もあるが、桐蔭学園戦では織茂が今代切っての抜き役と目される関根と引き分けるなど上位対戦における粘戦への布石もひとつ打った。ノロウイルスの蔓延から主力が復帰して数日という厳しい状況での戦いだったとのことだが、関係者はひとまず胸をなでおろしているところではないだろうか。

とはいえサイズなく、絶対の抜き役もいない今期の国士舘は今後も苦戦必至。前代からレギュラー入りしていた清水雅義を敢えて外して戦力評価の「空白域」を残した形ではあるが、今大会の出場選手全員がバイプレイヤーとして輝くタイプであることを考えれば今後は清水の得点能力の絶対値、そして全員の気を抜くこと許されぬハードワークの有無が厳しく問われることとなるはずだ。

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兼藤仁士が袖釣込腰、内村秀資は体捌き良くかわす

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大野晃生が枇杷木勇樹を抑え込む

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神垣和也が吉村太一から右一本背負投「一本」

崇徳高 3-1 東海大仰星高
(先)兼藤仁士×引分×内村秀資
(次)枇杷木勇樹△上四方固(3:17)○大野晃生
(中)神垣和也○一本背負投(0:51)△吉村太一
(副)長岡季空○大外刈(0:58)△西野豊
(大)安井彪翔○浮落(2:42)△奥野友輝

先鋒戦は崇徳高・兼藤仁士の図太い戦いぶりに、内村秀資が持ち前の投げのセンスを武器に対抗して健闘。兼藤の左背負投、内村の左浮腰など双方良い技があったがこの試合は引き分けに終着。

次鋒戦は長身の枇杷木勇樹が右相四つの大野晃生の奥襟を叩いて引き寄せ、1分52秒大野に「極端な防御姿勢」の「指導1」。しかし大野の丁寧な対応の前に組み手の我慢が利かず、2分24秒片襟の咎で枇杷木も「指導」を受けてしまう。

とはいえ大枠の枇杷木優位は変わらず、少なくとも失点の可能性は低いと思われたが、残り1分を過ぎたもつれ際に大野がその背後から襲い掛かり、めくり返して横四方固。枇杷木は長い体を生かして激しく抵抗するが、大野は上四方固に連絡して手堅く抑え切り「一本」。試合時間3分17秒、東海大仰星がまことに貴重な先制点を挙げることに成功。

しかしさすが今代きっての強豪と前評判の高い崇徳、ポイントゲッターが出動した以後2戦はほとんど「秒殺」。神垣和也は吉村太一を右一本背負投「一本」に斬り落として表情も変えず、さらに長岡季空が西野豊に大外刈「一本」で畳を這わせてあっという間に逆転に成功する。この間の試合時間は合計僅かに1分29秒。

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長岡季空が西野豊から大外刈「一本」

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東海大仰星は大将奥野友輝が安井彪翔から払巻込「技有」

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安井が得意の「やぐら投げ」で奥野を攻める

大将戦は東海大仰星・奥野友輝が取る気満々、51秒に思い切った右払巻込で安井彪翔を転がし「技有」を獲得、そのまま後袈裟固の形に被さる。しかし安井必死に逃れてこれは「抑え込み」の宣告前に「待て」。

このまま試合が終わればスコアは2-2、辛勝ながら崇徳が逃げ切りに成功することとなる。当然ながら奥野は以後も果敢に攻撃を継続。一方の安井としては試合をまとめに掛かっても良いところであるが、ここで退いては全てを失うとばかりに2分42秒「やぐら投げ」の大技一発。前のめりの奥野はまともにこれを食って「一本」、結果スコア3-1で崇徳の勝利が決まった。

これまでの接戦を無力化するかごとく、あっという間に「二本」を獲って試合のステージを変えてしまった崇徳のエース2枚の攻撃力は見事。また、内容差決着を受け入れずあくまで投げに出、かつ「一本」を獲り切って逆転した安井彪翔の試合ぶりは、四番手、五番手の選手にも今代に掛ける使命感とプライドが染みていることを強く感じさせるものであった。

敗れた東海大仰星。ラインナップ自体の充実はもちろんのこと、ここ数年続く柔道の大きさと戦いぶりの筋目の良さを今年も引き継いで、非常に好感の持てるチームであった。準決勝では結局3点を失ったが、試合経過からわかる通りその試合ぶりはまことに骨太。前代、前々代が一年間でたどった成長曲線を考えるとこれからの伸びしろも十分とみる。まずは難敵・神戸国際大附高が待ち受ける近畿ブロック大会での戦いぶりに注目したい。

■ 決勝
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決勝に臨む崇徳高の面々

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桐蔭学園は朱雀杯、黒潮旗に続く決勝進出

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決勝が開始される

今大会のメインテーマである「桐蔭学園vs崇徳」が決勝戦で過たず実現。高校柔道ファンならば絶対に見逃せない、ともに全国優勝候補に挙がる有力2チームの今代初対決だ。

開示されたオーダー順は下記。

崇徳高 - 桐蔭学園高
(先)枇杷木勇樹 - 湯本祥真
(次)兼藤仁士 - 千野根有我
(中)神垣和也 - 佐藤虎太郎
(副)長岡季空 - 村尾三四郎
(大)安井彪翔 - 関根聖隆

さすがは今季初対決と言うべきか、長岡季空と村尾三四郎のエース対決をはじめ、「やってみないとわからない」カードが目白押し。双方の抜き役がバイプレイヤーとマッチアップした神垣和也-佐藤虎太郎の中堅戦、関根聖隆-安井彪翔の大将戦はそれぞれが1点ずつを挙げる可能性が高いとまでは言えるが、それ以外の3戦は相性と地力が複雑に相関する、新人戦期の現時点ではなかなか予想が難しいカード。

先鋒戦は枇杷木勇樹の長身を生かした「上から目線」のスタイルが嵌って持ち前の大技一発の切れ味を発揮出来るか、あるいは軽量ながら大型選手へのカウンター攻撃に長けた湯本祥真が大味な枇杷木の組み手を封殺、さらに一発潜り込むことが出来るかどうか。次鋒戦は腰が重く対重量選手用の武器としても機能する高低差の効いた担ぎ技が得手の兼藤仁士が超大型の千野根を崩すか、あるいは千野根の体格と体力がこれを弾き返す返すレベルにあるかどうか。副将戦は村尾の体力とパワーに裏打ちされた噛みつくような機動力が長岡をも一発絡め取るレベルにあるのか、それともここまで相手を全く寄せ付けず一方的な「一本」を連発している長岡が村尾の巧みな釣り手操作を機能させないままこの試合も投げ切り、今代最強の抜き役の座を掴むのか。

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枇杷木勇樹が湯本祥真に小外掛で追いすがる

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湯本の左背負投が枇杷木を捉え「一本」

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千野根有我が兼藤仁士を攻める

興味つきない一番の先鋒戦は崇徳・枇杷木勇樹、桐蔭学園・湯本祥真ともに右組みの相四つ。長身の枇杷木が圧を掛け、やりとりの中でこれをまともに食う形を受け入れてしまった湯本が体を屈してしまい、56秒湯本に「極端な防御姿勢」による「指導」。

枇杷木は以後も伸びやかな柔道を披露、直後の1分7秒には右大外刈を振り回し、たまらず下がった湯本を走って追いかけて左小外掛。湯本はすんでのところで完全拘束を逃れて身を捩じるが場外に吹っ飛んで「待て」。枇杷木、攻勢。

しかし続くシークエンスでこの状況は急転。優位を背に受けた枇杷木が二階から振り下ろすように再び組み付くと、湯本は動きを急加速、カウンターの左背負投に潜り込む。本来の組み手とは逆の左で捕まえたこの技、「一本」獲り切る以外に勝利はなしとばかりに腰を高く持ち上げて投げ切った一撃に双方もろとも転がり、主審は迷わず「一本」を宣告。試合時間1分16秒、桐蔭学園が最高の形で先制点を挙げる。

次鋒戦は崇徳・兼藤仁士、桐蔭学園・千野根有我ともに右組みの相四つ。千野根は定石通り引き手から組み手をスタート、一方の兼藤は相手の釣り手を絞って腰を低くスタンスを定める。1分過ぎに兼藤が右大内刈から左袖釣込腰と技を繋ぐが千野根は潰して「待て」。千野根は常に姿勢良くその試合ぶりに破綻の気配は僅少だが、先手攻撃を許し続けると展開を失うとみたか、低く構える兼藤を激しく前に引きずり出してチャンスを作り出そうと試みること数度。千野根の巨漢らしからぬ機動力の高さという中学以来の長所が発揮された場面だが、肝心の具体的な技がなかなか出ず1分49秒双方に「指導」。

奮起した兼藤は大内刈に右背負投で地から這い上がるようにしぶとく攻め、一方ここで退くわけにはいかない千野根は引き手で襟、釣り手で背中を叩く万全の形で圧力。しかしやはり攻撃が遅く、兼藤が担ぎ技を仕掛けてこの形をなんとか脱出。なかなか決定的な場面が訪れない。

残り1分、兼藤が素晴らしいタイミングで支釣込足を閃かせるが両襟を握って仁王立ちの千野根は体の強さで弾き返して揺らがず。最終盤、兼藤は右一本背負投を立て続けに仕掛け、さらに追いかけて右背負投を試みる連続攻撃に打って出て、残り13秒千野根に2つ目の「指導」。しかし大勢は動かず、いつ壊れてもおかしくない、そしてどちらにとっても危険な香り漂い続けた緊迫の試合は結局引き分けに終着。スコア1-0、桐蔭学園のリード継続。

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神垣和也が佐藤虎太郎から大外刈「一本」

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長岡季空が村尾三四郎を袖釣込腰で思い切り担ぐ。村尾が着地寸前で身をひねって逃れたこの攻防が試合の分水嶺となる。

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中堅戦は崇徳のポイントゲッター神垣和也が登場、桐蔭学園は前代から度々団体戦に出場していた73kg級の好選手・佐藤虎太郎が迎え撃つ。

神垣が左、佐藤は右組みのケンカ四つ。開始早々神垣はいきなり相手を捕まえて自信満々、佐藤が試合を落ち着かせる前に両袖のまま佐藤の体を固定し、左大外刈で刈り取り豪快な「一本」。試合時間僅か41秒、巧者佐藤を問題にせぬ神垣の取り味に会場はやや騒然。試合は1-1のタイスコアとなる。

そして迎えるエース対決、副将戦は長岡季空と村尾三四郎ともに左組みの相四つ。
15秒、長岡が右袖釣込腰。居合抜きのごとく準備モーション少ないこの技に村尾一瞬で引っこ抜かれ、高い打点で長岡の腰に載せられる。長岡は間を置かず両足を畳につけたまま放り投げ、会場全体が「一本」を想起して息をのむ。しかし吹っ飛んだ村尾回転を増してギリギリで腹這いに着地、「待て」。

「秒殺」を免れた村尾、以後はさすがに慎重になり結果として両袖で絞り合う攻防が増える。長岡は再度の一発を狙って右袖釣込腰、これで展開が切れた1分3秒村尾に「指導1」。

続く展開、互いに組み合うと村尾の側の圧がうまく掛かり、長岡の頭が下がる。村尾はそのまま潰すと横三角から寝技を展開、獲り切れなかったがこのあたりから落ち着きを取り戻した様子で以後は双方互角の戦い。2分58秒には村尾が組み手争いから鋭い左送足払一発、大きく崩れた長岡は腹這いで難を逃れる。長岡奮起して両袖から左大外刈を狙うが、これは村尾が得意の横三角に変換して収束。終盤村尾が大きく陣地を回復した形であったが結局ポイントの積み上げはなく、この試合は引き分けに終わった。

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長岡攻めるが村尾がその柔道に慣れ、この試合は引き分けに終わる。

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大将戦は関根聖隆が大外刈と一本背負投で快走

迎えた大将対決は崇徳・安井彪翔が右、桐蔭学園・関根聖隆が左組みのケンカ四つ。ここまでスコア1-1、内容いずれも「一本」という拮抗であるが、今期全国屈指の取り味を発揮している大駒・関根とまとめ役として置かれたはずのバイプレイヤー安井がタイスコアでマッチアップする時点で勝敗ほぼ決した感あり。序盤は引き手争いが続いて46秒双方に片手の咎で「指導」が与えられるが、以後は関根がやり取りを拒否して右一本背負投、左大外刈から左背負投と一方的に攻め続ける。安井は都度寝技に持ち込んで展開の減速を図るしぶとさを見せるが、関根が左大外刈に左大内刈と技を繋げた直後の1分58秒安井に「取り組まない」咎による「指導2」。安井今度は図太く釣り手を突いて膠着を図るも関根はこれを巧みに外して大外刈を連発、2分49秒には消極的との咎でついに安井に3つ目の「指導」が宣告される。

勝負を決め得る「2差」の反則累積を得た関根は以後も攻撃の手を緩めず、座り込みの左袖釣込腰に左背負投であくまでポイント奪取を狙う。残り23秒で安井が背負投に入り込んで抵抗を見せるが、関根が寝技に持ち込んでめくり返し、この攻防を以て試合終了。関根が「指導3」対「指導1」の反則累積差で僅差の優勢勝ちを果たし、ここで桐蔭学園の優勝が決まった。

桐蔭学園高 2-1 崇徳高
(先)湯本祥真○背負投(1:16)△枇杷木勇樹
(次)千野根有我×引分×兼藤仁士
(中)佐藤虎太郎△大外刈(0:40)○神垣和也
(副)村尾三四郎×引分×長岡季空
(大)関根聖隆○優勢[僅差]△安井彪翔

いくつも分岐点のある試合であったが、要所の一瞬一瞬をしっかり自分のものとした桐蔭学園に軍配が上がることとなった一番。湯本の背負投はもちろんのこと、村尾が長岡の袖釣込腰をすんでのところで回避した攻防、神垣・長岡の2枚による「秒殺」で相手の戦意を喪失させる崇徳の必勝パターンを崩したあの瞬間が非常に大きかったのではないだろうか。この決勝1試合はもちろんのこと、今季の高校柔道界の行方までを左右しかねない重要な攻防であった。

現時点で今代の優勝候補最右翼とされる崇徳のポイントゲッターである長岡が全試合を早い時間の「一本」で終わらせ、さらに今代切っての抜き役である村尾をも抜き去り、かつ優勝という結果をも得たとなれば以後に与える影響はまことに大。高校生の成長は勢いに左右される部分が非常に大きく、連続「秒殺」で崇徳の絶対性加速となれば朱雀杯以来関東で出来上がりつつあった今代の序列がすべてひっくり返され、そのまま崇徳が一気に抜け出す可能性すらあった。あの一発以後村尾が普通に戦い、さらに優位の時間帯も作り出して試合を終え、なおかつチームの勝利までも呼び込んだことを考えれば、あの一瞬が持つ意味は大きい。一方の長岡としてはなんとしても決め切り、この決勝を勝利して自軍に対する周囲の恐怖感を一段高めておくべきであったはず。非常に悔まれる一撃であった。

最後に両チームに対する評を試みる。

まず桐蔭学園。エース格の賀持喜道の負傷欠場を乗り越えての松尾杯制覇は見事であった。賀持なく、かつ村尾の調子が上がらない中にあって代替選手として入った湯本、佐藤、そして高山の危機感と使命感溢れる奮戦により今代の長所であるチームワークの良さがさらに一段上がった感あり。戦力の底上げを行いつつ結果も得たということでこの日は文句なしの1日であったのではないだろうか。高松正裕監督の采配は就任時とは対照的に終始静かなものであったが、これは急きょ賀持を欠くこととなった危機感以上に、今代でどうしても全国制覇をせねばならぬとの覚悟の表出とみる。この日明らかに一段位相が上がった桐蔭学園が、再び賀持抜きで戦う26日の水田杯でどのような戦いを見せてくれるか大いに注目したい。

敗れた崇徳だが、今大会ではその前評判の高さの所以であった長岡と神垣の取り味の高さが遺憾なく発揮された。兼藤の図太さも他校にとっては両エース以上に嫌なはずで、控え目に言って間違いなく「四つ角」以上の実力があるチームである。形上失点しているのは枇杷木だが、この選手が歩留まり志向ではなく明らかに攻撃カードとして育成されていることも買える。まだまだ雑なところはあるが、柔道の筋目よく昨年来スポット的ながら技一発の切れ味を随所で発揮して来た枇杷木は、地力が一定以上の水準に達すれば「耐えられる」どころか一気に上位対戦におけるポイント獲得カードとして機能して白黒の目をひっくり返す可能性すらある。決め技のタイプが同僚たちとは系列の違う、上から目線の刈り、跳ね技であることも注目ポイントだ。チームを地力高くまとめるだけではなく他校の予測を超える「伸びる駒」を育成しなければ頂点に達しえないことは、香川大吾をギリギリで伸ばし切ることでインターハイを制覇した経歴のある加美富章監督はよくわかっているはず。ひとまず目先の戦いを「やれてしまう」戦術も熟知している同監督が、敢えて未完成の柔道をさせたままジッと自軍の選手たちの試合を見守るさまは他校の監督には脅威だ。例年冬の関東遠征で一段グンと伸びる崇徳が水田杯と若潮杯でどのような試合を演じるか、どこで頂点登攀に必要な「破れ」を作って来るのか、引き続き注目して見守っていきたい。

というわけで桐蔭学園と崇徳の地力の高さが確認出来たことが今大会の第1トピック。桐蔭学園の関根と村尾、崇徳の長岡と神垣の大駒としての絶対値の高さがいよいよ明らかになった大会であったと総括できる。

全体的に低調と評される新年度の高校柔道であるが、今大会はこの2チームのほかにも東海大仰星の筋目よくかつ骨の太い戦いぶり、今期超低空飛行の東京勢にあってこの一線だけは譲れぬとばかりにベスト4に辿り着いた国士舘の意地、いよいよ全国で戦う水準に達した「栃木のリネール」浅沼亮太の豪快な技と周囲の奮闘でベスト8に辿り着いた白鴎大足利の活躍と、非常にみどころ多く面白い大会であった。上位校のほとんどが水田杯、あるいは若潮杯への転戦を為す。この3戦を経てどのチームが抜け出すのか、どの選手が伸びしろを見せるのか、引き続きレポートを続けたい。

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優勝の桐蔭学園高

【入賞者】

優 勝:桐蔭学園高(神奈川)
準優勝:崇徳高(広島)
第三位:東海大仰星高(大阪)、国士舘高(東京)

優秀選手:湯本祥真、関根聖隆(桐蔭学園高)、長岡季空(崇徳高)、大野晃生(東海大仰星高)、三谷大(国士舘高)

高松正裕・桐蔭学園高監督のコメント
「直前で賀持がケガをして今日の試合に出られなくなってしまったわけですが、そこで関根が『これじゃ優勝出来ないじゃないか』というわけです。キャプテンなのに(苦笑)。ミーティングで、果たして本当にそうなのか?今まで不利だと言われた試合を逆転して勝ってきたのはあきらめない気持ちを作って来たからじゃないか?と問いかけて『団体戦は取るもの、引き分けるもの、全員が役割をしっかり果たせば勝てるんだ』ということをあらためて教えて、それで臨んだ試合でした。派手な試合で勝ったのではなく、粘り強く戦えたこと、その上で結果が出たことは収穫です。力的には4-0、5-0で勝てる相手でもふとしたことで2-2、1-1の苦しい試合になってしまうのが高校柔道。その中でどう勝っていくかを、こういう試合の中で、この冬のシリーズで学んでほしいですね。とにかく1試合でも多く戦って、学ぶことが大事だと思っています。黒潮旗(※2位)は学校の試験の週で、結果からすれば『稽古しなくてもここまで出来た』ことと『稽古しないと勝てないでしょ?』ということを学んだのが収穫でした(笑)。以後このシリーズに向けて合宿を組んで、三部練で鍛え上げてきました。選手だけではなくチームが一丸になっていることを肌で感じます。(-賀持選手を欠いての優勝は大きいのでは?)そうですね。こういう戦い方が出来たことは良かったし、『これに賀持が入るのか』と他校が(プレッシャーを)感じてくれれば良いですかね(笑)。まずは26日の水田杯を、しっかり戦います」

【準々決勝】

東海大仰星高(大阪) 4-1 日体荏原高(東京)
崇徳高(広島) 3-0 埼玉栄高(埼玉)
桐蔭学園高(神奈川) 3-1 白鴎大足利高(栃木)
国士舘高(東京) 3-2 木更津総合高(千葉)

【準決勝】

桐蔭学園高 3-0 国士舘高
崇徳高 3-1 東海大仰星高


【決勝】

桐蔭学園高 2-1 崇徳高



文責:古田英毅

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