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【隔週刊・嘉納治五郎師範のひとこと】第15回

(2016年10月10日)

※ eJudoメルマガ版10月10日掲載記事より転載・編集しています。
【隔週刊・嘉納治五郎師範のひとこと】第15回
審判者なるものは単に規程に拠りて勝負を判定するだけではならぬ。勝負中試合者の挙動が柔道の修行者として適当の挙動であるかどうかということを始終注意していて怠らず指導していかねばならぬ。
出典:「講道館柔道臨時講義 柔道乱捕勝負審判法について」
 国士3巻24号 明治33年(1900)9月 (『嘉納治五郎大系』3巻101頁)
 
今回も引き続き審判についての「ひとこと」を紹介します。

前回は審判というものは「神聖」であり、誤審があっても、変更できるのは当の審判員のみであること。また、誤審と思われることがあっても試合者は不幸だと思って、その判定を受け入れなければいけないという師範の言葉を紹介しました。

そこで、筆者は、なぜ師範がこのようなことを言ったか、2つの理由を推測しました。そのうちの1つ「教育の場としての試合」が今回のお話になります。

冒頭の文は講道館柔道において明文化された最古の審判規定についての解説から引用したものです。ここでは、審判員の役割をルールに基づいて試合を裁くことに加えて、試合者の挙動が柔道修行者として適当かを注意深く見て、何かあれば指導することとしています。

規定による勝負の判定とは別のものとして述べられていますから、当然、勝敗以外のことであり、規定の範囲内ではありません。審判規定の具体的な条文としても、触れられていません。にもかかわらず、「ねばならぬ」と審判員の義務としています。
 
規定に記載されていない「指導をする」という行為。実行するためには、審判にある種の特殊な権限が必要であり、それを担保するのが審判の「神聖性」だったのではないでしょうか。もちろん、「指導する」という行為の目的は試合が「教育の場」を兼ねていたら・・・。断言をするだけの史料は提示出来ませんが、当たらずとも遠からずではないかと思います。

さて、前回、身内ひいきと評されていたという話を紹介した飯塚国三郎十段ですが、次の様なエピソードも残しています。

飯塚十段が審判をしている試合で、体格差がある選手が対戦しました。大きい方が「技あり」をとりましたが、その後は逃げ回り、逆に小さい方は攻め続けましたが、ポイントがないまま試合は終了。今の感覚ですと、「技あり」をとっている大きい選手が勝ちになります。ところが、飯塚審判員は小さい選手の勝ちとしたそうです。他の審判が大きい方が勝ちではないかと進言しましたが、飯塚十段は小さい方が柔道精神に適った試合をしたので勝ちであると言ったそうです。
身内に甘いという普段の審判態度を併せて、この件を師範に話した人がいたそうですが、師範は「お前たちのとやかく言うことではない」と、その言を退けたそうです。
 
純粋な競技として考えた場合、ルールに適わない判定は、許されないでしょう。師範に直訴した人もそう考えたに違いありません。
ですが、師範にとって、修行者の態度が不適切であれば、指導することこそ、審判員の本来の役割の1つだったはずです。恐らく師範は柔道の急速な普及と意図しなかった過度の競技化の狭間で複雑な思いを持っていてことでしょう。そんなとき自分の本来の意図に適った審判を行った飯塚十段を思わずかばったのかもしれません。

付言となりますが、戦後の昭和26年に改正された審判規定の第31条の項目に「『技あり』をとってもその試合者が見苦しい試合をしたときは必ずしも『優勢勝』とはならない」という文が加えられています。
嘉納師範の精神とそれを実行した飯塚の判断が改めて明文化された・・・ともとれますが、同時にルールに組み込まれたことにより、審判の神聖性とその背後にある「教育の場としての試合」が失われていく過程ともとれるかもしれません。

※読みやすさを考慮して引用は『嘉納治五郎大系』から行っています。

著者:元 敏季(ハジメ・トシキ)
1975年生まれ。柔道は中学校から始め、大学までは競技を中心に行うが、卒業論文を機に柔道の文化的側面に関心を持ち、大学院へ進学。凡そ10年、大学院・研究機関に所属するも、研究とは異なる分野の仕事に就き現在に至る。ライフワークとして嘉納治五郎に関する史料を蒐集・研究し、その成果を柔道振興のため発信しようとしている。

※ eJudoメルマガ版10月10日掲載記事より転載・編集しています。

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