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【eJudo’s EYE】強すぎる大野の勝利、日本がつかみ取るべき事象の「核」は何か・リオデジャネイロ五輪柔道競技第3日(73kg級、57kg級)評

(2016年8月8日)

※ eJudoメルマガ版8月8日掲載記事より転載・編集しています。
【eJudo’s EYE】強すぎる大野の勝利、日本がつかみ取るべき事象の「核」は何か・リオデジャネイロ五輪柔道競技第3日(73kg級、57kg級)評
史上に残る「強さ」を絶賛、そして日本が掴み取るべきもの

最強ラインナップを揃えて決戦の地・リオに乗り込んだ男子日本勢に待望の「初日」が出た。73kg級日本代表・大野将平が圧勝でトーナメントを駆け抜け、見事金メダルを獲得。それも競技史上に残る圧勝劇であった。

良い勝ちかたであり、大野のパーソナリティである「強さ」を存分に発揮した凄まじい内容であった。絶賛して然るべき勝ちぶりかと思われるのでしばし思考を停止してそうさせて頂く。よろしければおつきあい願いたい。

絶対の優勝候補として全選手に最大級にマークされる中で5戦して4つの一本勝ちと1つの「技有」勝ちという完璧な結果。その技はどれもが仕掛けること自体ではなくあくまで「投げること」を目的とした骨ごと断つような大技ばかり。試合を直接決めた技は横四方固(一本)、内股(一本)、腰車(技有)、巴投(一本)、小内巻込(一本)と全てが違う技であり、この間マークした投技によるポイントは右内股「一本」、腰車「技有」、準決勝のファンティシェル戦での右内股を餌にしての巴投「技有」、さらに会場を驚かせた奇襲の、しかし本格派の立って仕掛ける左背負投「有効」、巴投「一本」、そして決勝の右内股「技有」に右小内刈「一本」と5種7本。技の幅の広さも出色であった。しかし例えば技巧派の業師タイプのように切ったり駆け引きをしたりする中でチャンスを探して相手の意表を突くというようなケレンとは無縁で、かつ総試合時間16分8秒の中で組み負けた場面はほとんどなし。全ての局面が大野のペースであり、相手が大野を畏怖しながら、それでも正面突破で陥落させられていく様はまるで中学生の大会に大人が1人紛れ込んでいるかのよう。最大のライバルであった選手(アンチャンリン)を完封したベテランを3度立て続けに投げるのだから、もはや誰にも止められない。曰く「五輪には魔物が棲む」というが、魔物とはまさしく大野本人に他ならない。規格外の強さであった。

優勝決定の瞬間の落ち着いた態度、丁寧な「礼」に真摯なコメントと、試合場だけでなく「畳の降り方」も素晴らしかった。競技にあっては二本しっかり持って練度の高い技で相手を投げつけ、畳外では、他入賞者たちの狂騒をよそに最高峰に立つ本人があくまで落ち着いた態度。日本の柔道とはこうだと世界に、そしてかくあるべきだと国内に、誰よりも雄弁に示してくれたのではないだろうか。

と、ひとまずこのあたりで一旦落ち着いて。ここまでの3日間、全ての階級に世界選手権覇者を送り込んで来た日本の中で五輪金メダルという目指す高みに登攀出来たのは大野だけ。ここは、何事か「違い」を導き出さねばならないはずだ。大野の柔道から敷衍して日本選手に必要なものが何かをはじき出さねばならない。

極小的、現実的にあくまで畳内の事象に絞ればやはり大野が「攻め続けた」ということに尽きる。相手が密着を志向しても先手を打って動くことでそもそもピンチを招くこと自体がなかったし、筋力負けしていないがゆえに組み勝って柔道をする場面が多かった。なおかつこれに攻めて攻め抜く天理柔道が染み込み、初戦の「始め」の声から最終戦の「それまで」の間全てに渡って大野の柔道をすることが出来ていた。

ただし、だからと言って畳内の大野の柔道の内容から帰納して「金メダルを取る選手」の錬成要件を見出して一般化するというのは、決しては間違ってはいないがその一方で本質を外している気がする。それはあくまで結果としてアウトプットされる事象であって、大野の勝利の因の捕まえるべき「核」ではない。

掌中に握るべきコアは、大野の「強さ」であり周囲との相対的な力関係の差であるべきではないだろうか。

繰り返し書かせて頂いている通り、五輪に勝つにはなんらか、最後にこれまでと異なる質の階段ひとつを登る、そのための上昇装置が必要である。怖いもの知らずの若さかもしれない、極度に尖った武器一発かもしれない、計算できない意外性かもしれない、曰く言葉にし難い異常な攻撃性かもしれない。

しかし現在の日本の選考システムは、こういった上昇装置を決定の項に加えることがほとんどできない。筆者は現在の選考システムを公平性・客観性と、強者の抽出装置としての機能という必要要素が高い位置でバランスしたものとしてかなりポジティブに評価しているが、良い悪いは別にして、システムの性格上こういう爆発要素を取り入れきれないということは事実だ。この「論理性の高い」選考システムからアウトプットされる代表者は、どうしても一種論理的な、王道柔道を展開するタイプの正統派が多くなる。相手に研究された上でなお、常にその強さをある程度以上発揮出来る王道タイプの選手が多くなる。

そして、こういう王道タイプ、自分の実力と相手の力の「高さ比べ」で勝利を得ていく型の選手たち、極端に偏向した上昇装置を体内に秘めるとは限らない正統派の強豪たちが今後五輪の舞台で勝つためには、大野くらいに周囲から圧倒的に抜け出していることが絶対条件となるのではないだろうか。現状の日本のシステム(育成メソッドを含む)が弾き出すタイプの代表であくまで勝負していくのであれば「大野くらいでないと勝てない」。このメルクマールは正面からみつめることすら怖いおそろしい現実の提示であるが、これが今回の大野の勝利から日本がつかみ取るべき、事象の核であると思われる。

強いだけでなく最後に勝つ選手を養成するという現在のアプローチはもちろん継続すべきであるが、最後に勝つ選手を「選ぶ」システムに関して議論を尽くすことも大事。議論をし、制度に反映しようともがくこと自体が、まだ実は現場が探り当てられていない五輪で勝てる選手の必要要件を探る、もっとも効率の良い方法ではないだろうか。恐れず、率直な議論を戦わせるべきだ。

ファンティシェルにしびれた!

ディルク・ファンティシェル(ベルギー)がまたやってくれた。2013年リオ世界選手権におけるファンティシェルの銅メダル獲得劇を覚えておられるだろうか。力が衰え始めたファンティシェルがツアーに皆勤し、地道にポイントを積み重ねて世界選手権本番ではシード権を得て超強豪との早期対決を回避、しぶとくレペチャージを勝ち抜いて、結果パワフルで若い選手たちが幅を利かせ始めていた81kg級にあって見事銅メダルを獲得した、ワールドツアー時代のベテランの勝ち方かくあるべしというストーリーであった。

しかしあれからさらに3年が経過。もはやツアーでの上位進出すら難しくなったファンティシェルに今回与えられた席は第1シード選手アン・チャンリンの直下。率直に言ってアンに踏みつぶされることが今回の役どころとばかり思い込んでいたが、やはりこの人はひと味違った。畳の上に上がった瞬間ハッキリわかる、ここ数年とは別人のような仕上がりの良さ。アンの左背負投の生命線である左襟を徹底して持たせず、なおかつ自分が攻める形を演出し続けてアンを精神的に追い詰める。窮したアンがそこだけ光るかのように空いている右襟に縋りつくのも無理はなく、アンは右襟を片手で持つ場合の必殺技である「韓国背負い」に身を躍らせる。しかしそここそがファンティシェルの罠、引きずり倒すように返して会心の「技有」獲得。あとはアンの攻撃をこの人ならではの手練手管でいなしにいなし、過去2戦2敗の相手に勝利のブザーを聞くに至った。

ファンティシェルはその後も奮闘、準決勝で大野将平に敗れはしたが、3位決定戦でマッチアップすべき相手の詰め込まれたプールDは大乱戦、結果転がり込んで来た相手は同じくベテランで手の内を知悉した、しかも現状ここまでが手一杯のはずの格下であるミクロス・ウングバリ。ファンティシェル、しっかり腕挫十字固「一本」で勝利し、32歳にして初の五輪のメダル獲得に辿り着いた。パワー全盛、一発のある若手が階級を席捲する中で見せたベテランらしい、魅力的な戦いぶりであった。

最後に、アンの敗退についても簡単に筆を割きたいと思う。ファンティシェルとの試合で明らかにパニックを起こしたアンの敗退は五輪という場の磁力に心の平衡を失った自分自身の問題でもあるが、上記の通り同時にファンティシェルという好役者の魅力を示すもの。そしてもっとマクロな視点で見れば、アンも五輪における「強さのインフレ」に呑み込まれた1人だったということだろう。再起に期待したい。

松本薫敗退、ひとまず解釈を試みる

初戦から集中力高く、前戦ではオトーヌ・パヴィアとベストバウトものの大熱戦を繰り広げて勝利したばかり。なおかつマッチアップするドルジスレン・スミヤとの過去の対戦の様相に危険要素はほとんどなく、おそらく国際大会をウォッチしているものであればあるほどこの試合には危険を感じなかっただろう。シナリオを誤ることがあるとすれば、ドルジスレンの先手担ぎ掛け潰れ攻撃に付き合い過ぎることによる「指導」失陥だけだ。

しかし訪れた結果は背負投「一本」による完敗。ここ数年間先手掛け潰れ攻撃のツールとして機能して来た「ドルジスレンの背負投」と全くイメージと違う速さと力強さで為された一撃に松本は一瞬棒立ち。踏ん張りの利いた片襟の左背負投を股中に受けてあっという間に一回転、五輪連覇の夢を断たれることとなってしまった。

現時点ではなんとも分析のしようがないのだが、気負い過ぎたようにも見えたし、上記外から見た感想の通りにドルジスレンの背負投のこれまでのイメージとのギャップゆえに思い切り食ってしまったとも考えられる(国際大会をウォッチしている人であればあるほど、そのイメージのギャップに驚かれたことと思われる)。ケンカ四つの相手に引き手一本というどこに着地するかわからないエアポケット状態で「出て」しまったゆえに掴まれながらの一発を食うというのはこの業界の「あるある」のひとつでもあり、ここは一回組み手をやりなおす安全策を取るべきだったという意見もあるはずだ。

ここでは、ドルジスレンの背負投のイメージギャップをテコに、これも五輪特有の「強者のインフレ」に呑み込まれた一典型と解釈しておきたい。ドルジスレンはワールドマスターズを2連覇しているが、ここは絶対に勝ちたいと決意した超強豪相手に勝利したことは実はなく、それが証拠に世界選手権でパフォーマンス出来たことはほとんどない。しかしツアーで上位にあり続け、ワールドマスターズを「勝たせて」貰っているうちに自信をつけたのであろう。良い意味での勘違いが、五輪銀メダルという高みまで彼女を引っ張り上げた。モンゴルチームの全体的な低調はここ数年トップチームをあまりに試合に引きずり出し過ぎたツケと個人的に解釈しているが、その中で珍しく「出続けること」「成績を残し続けること」のポジティブな成果が感じられたドルジスレンの快進撃であった。

本日のベストバウト、審判傾向、その他もろもろ

大会3日目のベストバウトを挙げてみたい。「ベスト」と掲げながら複数になってしまうがご容赦。いずれもトーナメント後半戦なので日本でも放送があったかもしれないが、見逃した方はぜひ探してみてほしい。事後検索して探し当てても十分楽しめる試合と思う。

57kg級準々決勝 松本薫対オトーヌ・パヴィア(フランス)戦。
試合時間7分を超える熱戦。パヴィアはこれまでの松本戦と異なり、自身のリソースと勇気を畳に居残るためではなく「勝つために」最後の一滴まで絞り切って戦った。まさしく熱戦と呼ぶにふさわしい、息詰まる試合。

57kg級準決勝 ラファエラ・シウバ(ブラジル)対コリナ・カプリオリウ(ルーマニア)
意地と意地のぶつかり合い。7分間を超える激戦の末、観客の大声援に背中を押されたシウバが大外刈で乾坤一擲の大勝負。カプリオリウも引かずに裏投で応じ投げ合いとなるが、シウバがケンケンで真裏に回り込むとついにカプリオリウの膝がカクリと折れて「技有」。
釣り手を落とされているにも関わらずもはやここで決めるしかないとばかりに勝負に出たシウバの度胸、逃げずにむしろチャンスと応じたカピリオリウの強気、「不良少女対女ボス」とでもいうべき柔道スタイルと風貌の差もスパイスとして利き、非常に面白い試合だった。

73kℊ級準決勝 大野将平対ディルク・ファンティシエル戦
大野ワールド全開。ナンバーツーであるアン・チャンリンを完封した難敵3度投げつける快勝。


審判傾向について。初日に発覚し、2日目にエクストリームなまでに拡張された「指導」の遅さは、エスカレートしたり定着するのではなく「行き過ぎたものがその反動で揺り返す」方向に振れたように思われる。本日は少々揺り戻した印象。

もうひとつ審判について。今大会は特定少数の審判員が極端に頻度高く起用される傾向にあるように見受けられるが、日本から参加されている大迫明伸審判員の登場回数が少々異常である。今日は下手をすると3試合に1回くらい主審をされていたのではないか。信頼おけるものを重用するというポリシーのゆえであろうが、選手たち同様最後まで頑張ってほしい。


文責:古田英毅

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