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【リオ五輪柔道競技完全ガイド】【eJudo’s EYE】「ダイナミック柔道」の滑り出しは上々・リオデジャネイロ五輪柔道競技第1日総評

(2016年8月6日)

※ eJudoメルマガ版8月6日掲載記事より転載・編集しています。
【eJudo’s EYE】「ダイナミック柔道」の滑り出しは上々・リオデジャネイロ五輪柔道競技第1日総評
「ダイナミック柔道」の滑り出しは上々

まず、素晴らしい内容の競技第1日だったと総括したい。プレビューコラム「リオデジャネイロ五輪、柔道競技の位置づけは?」で書かせて頂いた通り、この五輪は、IJF(国際柔道連盟)が取り組んで来た「ダイナミック柔道」の総決算。異常なスピードと大胆さで為された一連のルール改革やシステムづくりは全て「ロンドン五輪がつまらなかった」危機感に端を発し、柔道競技が「柔道」らしい魅力的なものであること、具体的にはその最大の特徴である「投げ」を以て勝敗が決せられることを最終目的地とする旅路であり、戦いであった。ロンドン大会ではそれまでの2年間のチャレンジを否定するかの如く初日からリスクヘッジの利いた消極ゲームが連続したが、今大会はどうか。「投げ合う」方向にポジティブに変質した世界選手権やワールドツアーの傾向はこの大舞台にまっすぐ反映されるのか、それともやはり五輪は別物とばかりに戦術性の高い「負けないための試合」が展開されてしまうのか。

蓋を開けてみて。少なくとも第1日の競技内容は素晴らしかった。五輪という場を目指してコンディションを上げに上げて一段も二段も強くなった選手たちは、投げずば勝てず、抑えずば勝てず、極めずば次のステージへの進出なしとばかりに投げ合い、返しあい、自分たちの持ち味を存分にパフォーマンスした。ベスラン・ムドラノフ(ロシア)がキム・ウォンジン(韓国)の首を抱える強烈な大外刈に一旦仰け反りながら、逃げるのではなく高空の裏投に捉え返して畳に叩きつけた60kg級準々決勝、苦手なタイプのワリーデ・キアに間合いを詰められ「指導3」まで失いながらあくまで投げることでの逆転を狙い残り数秒に「有効」を得た地元ブラジルの先鋒フェリペ・キタダイによる60kg級2回戦、ツェンドチル・ツォグトバータル(モンゴル)に「有効」を先行されながら相手の支釣込足を敢えて呼び込んでの浮落「技有」で逆転したキム・ウォンジン(韓国)の60kg級2回戦。さらに初戦でタチアナ・リマ(ギニアビサウ)に大内刈「技有」を失いながら大内刈「技有」を獲り返して息を吹き返し、以後敗退した近藤亜美戦も含めて全ての試合で得意の裏投を決めて銅メダルまで辿り着いたガルバトラフ・オトコンツェツェグ(カザフスタン)など好試合、好役者は枚挙に暇がない。

この日のウィナー2人がともに全ての試合で投げを決めたムドラノフとパウラ・パレト(アルゼンチン)であることにこれは端的だ。

五輪という特別な場にふさわしい高圧のドラマ、というエモーショナルな側面からもこの日の戦いは良かった。ベストバウトであった48kg級敗者復活戦、ムンクバット・ウランツェツェグがサラ・メネゼスの腕を二度に渡る腕挫十字固で完全に破壊し、「参った」を拒否し続けたメネゼスの腕を捩じりあげてついに「一本」を獲得、そして試合が決まるや表情を変えて一転戦友を気遣い、一方地元の期待を一身に受けるロンドン五輪王者メネゼスが痛みと失意のため畳に突っ伏して立ち上がれなかったシーンなどはまさしくこの日のハイライト。決勝の延長戦で金メダルの夢を絶たれたイェルドス・スメトフが畳に額をつけたまま泣き崩れた絵、第1シードで参加したキム・ウォンジンが敗退も涙をこらえ、畳から降りて初めて感情を開放したプライドなど名場面数限りなし。26歳を過ぎてから序列をのしあがり、この日の決勝ではその人生の集大成のような濃い試合を披露して金メダルを獲得した30歳のパウラ・パレトが観客席に抱き上げられ、モミクチャにされながら涙を見せたシーンも素晴らしかった。

ロンドン大会ではオリンピックという場の「重さ」に耐えかねてリスクヘッジの利いたロースコアゲームを選択する選手が続出したが、今回はその場の重さと誇らしさはドラマを支える土台として正当に、存分に機能したと言える。

この「投げ合う」傾向は今後も続くのか。少なくとも数日続くようであれば胴元でありジャンルの興行主であるIJFの数年に渡る競技ディレクションは素晴らしい成果を挙げたことになる。以後を注目したい。


やはり五輪は別物、ワールドツアーは全く参考にならず

ロンドン五輪での観察をもとに、プレビューコラムでは「五輪で勝つ選手の条件」と題して、ワールドツアーや世界選手権と、五輪に出場する選手たちの状態がいかに異なるかを書かせて頂いた。そののっけに挙げた「普段の大会とは全く異なるハイコンディションでやってくる」「ワールドツアーの序列はあまり参考にならない」という項がズバリと、そして予想以上に増幅されて当たってしまった第1日だった。

コンディションの高低がダイレクトにパフォーマンスに影響する軽量級ゆえということもあるだろうが、60kg級、48kg級とも特にハイランカー達はまったくの別人。60kg級のムドラノフ、スメトフ、パピナシビリ、キタダイ、48kg級のパレト、ムンクバット、メネゼス、メストレアルバレスなど特に目立っていた選手は勿論のこと、畳に立つ全員が一段も二段もレベルが上がっていた。骨ごと太くなったのではと見た目がまったく変わってしまっている選手まで幾人も見受けられた。各階級評でも触れたいと思うが、髙藤や近藤の敗退は物凄く大雑把に言えば、周囲のあまりのレベルの跳ね上がりに普段あるべき相対的力関係が保てなかったと喝破できる。きちんと調整しても、全員がパワードスーツを着たような「強さのインフレーション」の中を勝ち抜くにはなお足りなかったのだ。ワールドツアー制度採用から2大会目、どうやらこのリオ大会で「五輪は全ての選手の絶対値が一段も二段も上がる」ことは当たり前のこと、飲み込んでおくべく前提として完全に定着しそうな気配だ。


多様性、審判傾向、その他もろもろ

全員のレベルが跳ね上がった。その上昇を作り上げる過程においては選手おのおのが自ら「何を以て戦うべきか」と自分の長所を再認識することになったはずだ。そして結果として出来上がったハイコンディションが掛け算されてやりたいことが畳上で実現されるようになった結果、少なくとも初日は投げを得意とする選手、後の先が得手の選手、足技が切れる選手、密着で「際」を引っ張り出す選手に寝技が得意の選手と多くの選手が個性を発揮し、柔道の勝利に至る方法論の多さが再確認された感がある。全試合のメモを見返してみたが、つまらない試合は0.5試合くらい(1試合微妙なのがあったので)だった。

そして多様性というキーワードに反応して話を引き継げば、パウラ・パレトとベスラン・ムドラノフの金メダリスト2人がともに30歳であるということにも触れなければいけないだろう。肉体的にも技術的にも要求されることが凄まじく多い現代柔道にあって、それも反射神経と身体能力が異常に要求されるはずの軽量級にあってこの年齢で世界の頂点に立ったことは非常に面白い。柔道の可能性、あるべきキャリアプランの多様性をあらためて感じさせる、競技者にもジャンルに自体にも希望を与えてくれる結果だった。

最後に第1日ということで審判傾向に触れる。この日目立ったのは「指導」の意外な遅さと、ツアーで頻発していた「判定取り消し」の意外な少なさ。インサイドに接触してみたが、少なくとも前者は企図された傾向の模様で、出来れば投げを以て試合を決めさせたいというここ数か月急加速した傾向が五輪の舞台でよりハッキリ姿を表したように見受けられる。60kg級の決勝は「指導」を与えれば本戦で決着がついてしまいそうな試合であったが、我慢した結果GS延長戦で劇的な投げを以て試合が決まった。もしこういうことが審判会議でエピソードとして紹介されると(これまでの世界選手権とかでもかなりあったと聞いている)、傾向が増幅されるのがこれまでの常。2日目、どのような方向に「指導」宣告ポリシーの針が振れるのか注目したい。後者についてはまだよくわからないが、これまでに「試合の流れをなるべく止めない」という方向性の議論があったこと、また選手を待たせて試合の流れを切ることに対する批判がフランス等からかなり出されている旨の情報から推測すると、ひょっとするとよほどハッキリしたものでない限りはなるべく訂正しないというポリシー(たとえば2014年にアナウンスされたまま有名無実化している「訂正は2段階以上の差異があった場合」に近い)があるのかもしれない。これは競技者に与える影響は少ないと思われるが、飲み込んで観察しておきたいポイントである。


文責:古田英毅
Text by Hideki Furuta

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