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レベルの揃ったダンゴレース、爆発力は松本とシウバ・リオデジャネイロ五輪柔道競技57kg級展望

(2016年8月1日)

※ eJudoメルマガ版8月1日掲載記事より転載・編集しています。
【リオ五輪柔道競技完全ガイド】レベルの揃ったダンゴレース、爆発力は松本とシウバ・リオデジャネイロ五輪柔道競技57kg級展望
■ 階級概況
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57kg級実力推測マップ。シウバだけは序列に収まらぬ特別枠と考えるべき。

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国内外問わず美人選手が多いのもこの階級の特徴。パヴィア、カラカス、モンテイロ、松本が四強か。
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この階級の特徴として、ワールドツアーのどの大会でも役者が揃い、常に一定以上のレベルが保たれるということが挙げられる。ワールドツアーはどの時期どの場所でも選手が集まるわけでもなく、たとえば欧州の花形大会が終わった直後の3月、あるいは世界選手権直後の中央アジアシリーズなどは「これで本当にグランプリ?」というような低レベル×少人数大会があるのも事実。しかし役者の多い57kg級にはこの事態がない。なぜかというとこの階級にはベスト4レベルから十数人がひしめき合い、表彰台を伺わんとする層の中堅選手が密度高く詰まった大混戦状態にあるからだ。右に掲げた「推測マップ」の「Aグループ」にハシゴを掛けて往復し得る「A’グループ」(ここが物凄く多い)に括られる選手たちがそれだ。

かような構図にある57kg級でもっとも到達点が高い選手は間違いなく松本。かつてほどの絶対的な登攀力はないが、それでもその上り得る「高さ」においては他の追随を許さないものがある。「日本代表選手紹介」で書かせて頂いた通り、松本の高い電圧を柔道に通電させることが出来れば他の選手たちは追いつけないだろう。誰もが自分の為し得るもっとも高い力でやってきて、高さ比べをすると仮定すれば、その頂きにある選手は松本だ。

これを追うのがワールドマスターズ連覇者のドルジスレン・スミヤ(モンゴル)、激しい代表レースを戦う中で一段戦闘力が上がったように見受けられる上位常連のオトーヌ・パヴィア(フランス)、昨年秋季から今季の冬季欧州シリーズまで抜群の出来を示して突如存在感を上げたキム・ジャンディ(韓国)ということになるだろう。ただしこれはあくまで「ワールドツアー」の様相から考えられた区分け。A’グループの中で特に過去の実績の高いテルマ・モンテイロ(ポルトガル)とコリナ・カプリオリウ(ルーマニア)には一定の注意を払うべき。モンテイロは負傷で長期離脱しておりカプリオリウは例によって(銀メダルを獲得したロンドン五輪前もこの人はパッとしなかった)ここのところ目立った活躍なし。ただし化ける要素がある「死んだふり」枠の選手として考えておくべきだ。それでも良コンディションの松本を凌ぐような柔道に面白みのあるタイプではない。掛けられる梯子は1個、もう1つあってもその到達点はギリギリ松本の足元くらいまでだろう。ベスト4争いはダンゴレースである。

そしてこれらの序列と全く別系列の「特別枠」の選手として13年リオ世界選手権王者のラファエラ・シウバ(ブラジル)の名前を挙げないわけにはいかない。足技の切れ味と柔術系の関節技の威力抜群、2015年グランドスラム東京で松本薫を「跳び十字」で破ったことはファンの記憶にも新しいかと思われる。この選手はムラ気の野生児。強者を一発でなぎ倒して凄まじい出来で優勝を攫ったかと思えば、全く集中力を欠いて早期敗退を繰り返すこと多々。上記グランドスラム東京でもその後2敗して最終成績は5位であった。ただしこの選手、爆発力では唯一松本に迫る、あるいは超えるだけの燃料を体内に着実に蓄えている。地元開催ということでこの燃料が着火される可能性は大。

そしてこれまでの戦いの様相を見る限り、シウバは松本相手には絶対にポカをしない。「野生は野生を知る」とでもいうがごとく異常な集中力で立ち向かって来る。シウバの代名詞である自滅はこの対戦に限っては期待できない状況で、松本最大の難敵なこのシウバだと規定しておきたい。

正直、57kg級のライバル達のレベルは他階級ほど高くはない。松本が不覚を取るとすれば一に自分の問題、二に絶好調でやって来たシウバとガチンコ勝負をする場合がもっとも確率の高いシナリオだろう。

また蛇足ながらこの階級の特徴として「美人」選手が多いということも挙げておきたい。モンテイロ、パヴィア、ヘドウィグ・カラカス(ハンガリー)、松本薫(海外では美人選手の評価が定着している)がその4強。視聴の際はこのあたりにもぜひ注目してもらいたい。

■ 有力選手
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2連覇を狙う松本薫
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松本薫(日本)
MATSUMOTO Kaori
28歳 1987/9/11
組み手:右 WR 5位
所属:(金沢学院東高→帝京大→フォーリーフジャパン→)ベネシード
得意技:小外刈、袖釣込腰、寝技

ロンドン五輪金メダリスト。2010年東京世界選手権、2015年アスタナ世界選手権王者
「北京-ロンドン期」の4年間に高いフィジカルと異常なまでの集中力、そして相手の弱点と見れば自分の形を崩してでもチャンスを逃さず殺しに掛かるアドリブ性で業界を席捲、最強選手として業界に君臨した。

ロンドン五輪後に右腕を手術し2013年の世界選手権には欠場。以後やや低迷したが2015年アスタナ世界選手権では自身の「強さ」を前提に、組み合い続けて取り味のある足技で崩すという新スタイルを披露。自身の高出力エネルギーを初めてキャリアで初めて全ての攻防に染みさせることに成功し、見事3度目の世界チャンピオンとなった。

【おもな戦績】
2009年 ロッテルダム世界選手権 5位
2010年 東京世界選手権 優勝
 ※この年国際大会7大会に全て優勝
2011年 パリ世界選手権 優勝
2012年 ロンドン五輪 金メダル
2014年 チェリャビンスク世界選手権 2回戦敗退
2015年 アスタナ世界選手権 金メダル

【最近の戦績】
2016年2月 グランプリ・デュッセルドルフ優勝
2016年4月 全日本選抜体重別選手権 3位
2016年5月 ワールドマスターズ 予選ラウンド敗退

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ドルジスレン・スミヤ(モンゴル)
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ドルジスレン・スミヤ(モンゴル)
DORJSUREN Sumiya
25歳
WR:1位 組み手:左
得意技:背負投、一本背負投

体幹の強さを生かし、持つべきリソース全てを左右の担ぎ技による先手攻撃に注ぎ込んで来る。
決して技が切れるタイプではないが、相手の巧さを前進と先手攻撃で塗りつぶしてしまう泥臭い戦いが身上。
ロンドン以後、松本との対戦成績は松本の3勝1敗。(通算4勝1敗、1敗=2015年GPウランバートル、横車「有効」でドルジスレンが勝利)
直近の対戦であるアスタナ世界選手権では松本が小内刈「有効」で勝利、ただし他の勝利はいずれも「指導」差で少々面倒な相手である。かつてと異なり後半ムリが利く試合も見せており、展開に付き合い過ぎてしまうと危険。

参考動画:2016年ワールドマスターズ サンネ・フェルハーヘン戦
担ぎ技は色々なアレンジあり。この試合では変形の「韓国背負い」を見せている。

【おもな戦績】
2013年、2015年ワールドマスターズ 優勝(連覇)
2015年 アスタナ世界選手権 3位

【最近の成績】
2015年12月 グランドスラム東京 3位
2016年2月 グランドスラム・パリ 2位
2016年4月 アジア選手権 1位

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オトーヌ・パヴィア(フランス)。今大会で引退の可能性濃厚。
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オトーヌ・パヴィア(フランス)
Automne PAVIA
27歳
WR:6位 組み手:右
得意技:内股、出足払

かつては「顔はキレイだが柔道は汚い」階級切っての戦術派であった。ただし後輩エレン・ルスヴォの猛追もあってかスタイルを変えつつあり、投げを志向する試合も増えている。
2015年は以降映えない成績と試合ぶりが目立ち五輪代表の座が危うくなりかけたが、どうやら立ち直ったところ。
不十分な組み手からでも仕掛けてくる「崩し技」の内股と、懐の深さを利用した出足払が上手い。踏み込んでも、引きながらでも打ってくるこの出足払には特に注意が必要。

2015年にイケメン選手アスレイ・マッケンジー(イギリス)と結婚。子供が欲しい、とのことで今大会を限りに引退との情報アリ。松本は取り口が噛み合うようで、対戦成績は松本の4勝0敗。

参考動画:Automne Pavia Compilation
※女子のまとめ動画はほとんどないが、さすがにパヴィアは人気アリ。

【おもな戦績】
2012年 ロンドン五輪 3位
2014年 チェリャビンスク世界選手権 3位
2015年 アスタナ世界選手権3位
欧州選手権で3度(2013年、2014年、2016年)優勝
【最近の成績】
2016年2月 グランドスラム・パリ5位
2016年3月 グランプリ・トビリシ5位
2016年4月 グランプリ・サムスン2位
2016年4月 欧州選手権 1位
2016年5月 グランプリ・アルマティ3位

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ラファエラ・シウバ(ブラジル)。ムラ気だが爆発力では唯一松本を凌ぐ。
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ラファエラ・シウバ(ブラジル)
Rafaera SILVA
24歳
WR:12位 組み手:左
得意技:出足払、寝技

ブラジルのファベーラ(貧民街)から柔術を通じて発見されたムラ気の天才肌。強豪をまったく寄せ付けずに圧勝することもあれば、逆にメンタルコントロールを失って畳上でオロオロ、B級選手にあっさり敗退することもある情緒不安定な選手。切れ味鋭い出足払に小外刈、そして柔術ベースの寝業が武器。出来不出来が激しすぎるが、最高到達点で松本に迫るのはこの選手しかいないのではないか。地元開催ということもあり、メンタル面の脆弱さが克服されるとなれば間違いなくこの選手が松本最大のライバル。

参考動画:2015年グランドスラム東京 松本薫戦
いわゆる「跳びつき十字」

【おもな戦績】
2011年パリ世界選手権 2位
2013年リオ世界選手権 金メダル

【最近の成績】
2015年 グランドスラム東京 5位 (松本に勝利)
2016年1月 グランプリ・ハバナ3位
2016年2月 グランドスラム・パリ3位
2016年2月 グランプリ・デュセルドルフ5位(松本に敗退)
2016年3月 グランプリ・トビリシ 1位
2016年5月 グランドスラム・バクー 5位(芳田司に敗退

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キム・ジャンディ(韓国)
Photo from IJF

<キム・ジャンディ(韓国)
KIM Jandi
24歳 1991/6/15
左組み WR2位
浮落、隅落、大外刈
パワーファイター。韓国の軽量級というと背負投系のイメージが強いが、この選手はほとんど担ぎ技は使わず奥襟を持って相手を振り回す柔道をする。
この手の選手の例に漏れず、相手の技を待っての後の先がも非常に得意。

【おもな戦績】
2016年グランドスラムパリ1位

【最近の成績】
2015年10月 グランプリ・タシケント 1位
2015年10月 グランドスラム・アビダビ 1位
2015年11月 グサンプリ・済州 1位
2016年2月 グランドスラム・パリ 1位
2016年2月 グランプリ・デュセルドルフ 5位 ※松本薫に敗退
2016年4月 アジア選手権 2位
2016年5月 ワールドマスターズ3位

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コリナ・カプリオリウ (ルーマニア)
Photo by eJudo

コリナ・カプリオリウ (ルーマニア)
Corina CAPRIORIU
29歳
WR:4位 組み手:左
得意技:腰車、大腰

最近は低調だがこれが怖い。
ワールドツアーの成績からすると全盛期は2010年ごろ、ロンドン五輪前も全く映えない状態でシーンからほとんど消えかかっていたが、本番始まるや絶好調で銀メダルを獲得。ロンドン大会を代表する「死んだフリ」枠の選手であった。
スタイルは、背中を持ち、首を抱いてくるパワー柔道。全盛期の相手の駆け引きを力で塗りつぶしてしまうようなパワーは衰えてきているが、もう一つの持ち味である戦術性の高さは健在。

【おもな戦績】
2011年 パリ世界選手権 3位
2012年 ロンドン五輪 2位
2015年 アスタナ世界選手権 2位

【最近の成績】
2015年12月 グランドスラム東京 初戦敗退
2016年2月 グランプリ・デュセルドルフ初戦敗退
2016年3月 グランプリ・トビリシ 7位
2016年4月 欧州選手権 初戦敗退

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テルマ・モンテイロ(ポルトガル)
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テルマ・モンテイロ(ポルトガル)
MONTEIRO Telma
30歳 1985/12/27
右組み WR7位
右背負投、右一本背負投、右袖釣込腰

2007リオ大会、2009年ロッテルダム大会、2010年東京大会、そして2014年チェリャビンスク大会と世界選手権で4度銀メダルを獲得しているベテラン。全盛期には松本の敵役として非常な存在感を示した。2010年東京大会で松本の寝技から「腹ばい逃げ」を為した選手といえばご記憶のファンも多いかと思われる。左構えで左袖を得た形からの右担ぎ技が主な武器。昨年10月のグランドスラム・パリで優勝して以降、負傷のため長く国際大会には出場せず。今年6月のグランプリ・ブタペストで復帰して3位に入賞している。

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ザブリナ・フィルツモザー(オーストリア)
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ザブリナ・フィルツモザー(オーストリア)

FILZMOSER Sabrina
35歳 1980/6/12
右組み WR15位
隅落、隅返、浮落、右大外刈

2005年カイロ世界選手権、2010年東京世界選手権の銅メダリスト。2008年、2011年と欧州選手権も2度制覇している。
35歳の大ベテランながら階級随一のパワーは健在。
奥襟や背中を持って圧を掛け、相手の技を隅落や浮落で返すことが得意で、現在のスタイルからは後の先の選手と規定される。

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ネコダ・スミスデヴィス(イギリス)
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ネコダ・スミスデヴィス(イギリス)
SMYTHE-DAVIS Nekoda
23歳 1993/4/22
右組み WR13位
右払腰、右大腰、右大内刈
昨年末から国際大会を荒らしまわっている若手のパワーファイター。奥襟や背中を持っての右払腰、右大腰が主な武器だが、引き手で脇を差しての大内刈も得意。左袖釣込腰や右一本背負投もまれに用いる。

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マーティ・マローイ(アメリカ)
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マーティ・マローイ(アメリカ)
MALLOY Marti
29歳 1986/1/23
右組み WR3位
右一本背負投、左小外刈刈

2013年リオ世界選手権銀メダリスト。
代名詞と呼べる技もなく、ダンゴ状態の57kg級でもかなり地味な存在であるが、2014年世界選手権では腕挫十字固で松本薫を破る大戦果を挙げた。立技から寝技への移行が巧い。松本戦のイメージからすると意外であるが「寝技対寝技」で勝ち抜く寝業師のタイプではなく、意外なほど寝勝負で勝った試合が少ない。移行で有利を作れるかどうかが命。

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ミリアム・ローパー(ドイツ)
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ミリアム・ローパー(ドイツ)
ROPER Miryam
33歳 1982/6/26
右組み WR16位
左小外掛、左小外刈、浮落
柔道スタイルはフィルツモザーと似ているが、上背とパワーはさほどなく背中はあまり持たずに奥襟密着の形で戦う。組み際の左小外掛、左小外刈が得意。また、相手の技を待っての浮落で勝った試合が多い。

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キャサリン・ブーシェミン ピナード(カナダ)
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キャサリン・ブーシェミン ピナード(カナダ)
BEAUCHEMIN-PINARD Catherine
21歳 1994/6/26
右組み WR10位
右払腰、浮落、横車
若さを活かしたパワー柔道。スタミナがあり試合終盤まで元気にガツガツと相手を攻める。基本的には自分から積極的に技を仕掛けていくスタイルだが、返し技の横車も持っている。寝技も得意。

■ シード予想
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57kg級シード予想。シウバがいない段階では左側が少々重め。

松本はパヴィアと準々決勝、ドルジスレンかモンテイロと準決勝を戦う可能性が濃厚。
決して楽な組み合わせではないが、57kg級の人材密度を考えれば十分呑み込める位置。

問題は最大級の爆発力を誇る天才・シウバがノーシード選手であることで、この選手がどこに配されるかで運命は全く変わってしまう。前述の通り、他の山であればポカを発動することもあるがこと松本戦に限ってはこれはありえない。ドローを見守りたい。


文責:古田英毅
協力:林さとる

※ eJudoメルマガ版8月1日掲載記事より転載・編集しています。

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