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【リオ五輪柔道競技完全ガイド・日本代表選手紹介】“ロンドン流”と“アスタナモード”、2つのスタイルの融合が金メダルのカギ・57kg級 松本薫

(2016年7月31日)

※ eJudoメルマガ版7月31日掲載記事より転載・編集しています。
【リオ五輪柔道競技完全ガイド・日本代表選手紹介】57kg級 松本薫
“ロンドン流”と“アスタナモード”、2つのスタイルの融合が金メダルのカギ
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連覇を狙う松本薫

Photo by eJudo

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ロンドン五輪で日本に唯一の金メダルをもたらした「野獣」が五輪の舞台に帰って来る。2015年アスタナ世界選手権を制し完全復活を遂げた松本薫、現役世界王者として堂々2度目のオリンピック出場である。

曰く「野獣」と食いつきやすいネーミングが先行する松本であるが、実力最盛期であったロンドン五輪の勝利時、この人の柔道の内容にまで踏み込んだ解説は実はあまり見られなかった。代名詞になるような技があるタイプではなく、そのあまりの強さの解釈と解説が難しかったのである。権威ある総合スポーツ誌が松本の金メダル獲得の際に見開き2ページを駆使して、ひたすら勝って良かった、美しかったとの内容しかない「散文詩」を掲載したときにはさすがに驚かされたものだが、そのくらいこの人の柔道は普段この競技に触れていない人たちにはわかりにくかったのだ。

本サイトは当日仮に「福見と中村の柔道は譜面を丹念に辿ったクラシック、松本の柔道はジャズ」と見立てて、松本の強さを「相手の弱点と見れば自分の形を崩してでも刃を入れる、相手の研究を常に超える融通無碍の殺戮本能」と評させて頂いた(参考:「【eJudo's EYE】ロンドン五輪第3日評」)が、このまさしく金メダルの原動力となった松本にしかない長所が、実は以後の一時期の停滞にそのまま密接に絡んでいる。

松本が体内に蓄える電圧は凄まじく高い。通電すべき回路を見つけた瞬間一気に電流が駆け抜けてその電圧に見合った凄まじい電力が得られる。突如飛び出す異次元の組み立てや傍目にはよくわからない技、なぜそうなるのかわからない選択は松本しか見出し得ない回路に突如ラインが繋がった、その電流のほとばしりであった。ただし、試合の中のどこでそれが見つかるかわからない。事前にシュミレーションしておくことも、周囲がアドバイスすることも、あまりの独自性ゆえ難しい。

そしてベテランとなって立場が変わり、負傷や手術、あるいは加齢を経た肉体的、精神的な下り坂に差し掛かると、試合の中でこの通電すべき「回路」を見つけられる瞬間が激減し、いきなり成績が残らなくなった。苦しい時に寄って立つべき技術やスタイルがなく、まったく歩留まりが利かなかったのだ。力が出せるかどうかは出たとこ勝負、高い試合力に頼り過ぎるあまり作り上げるべき必殺技の錬成を怠って来た戦術派のベテランの落日、その典型例とすら考えられる時期があったのだ。

しかし松本はアスタナ世界選手権で見事復活。ここで生み出した新スタイルは「組み合っている時間を増やし、手首を動かし続けて取り味のある足技を連続で仕掛ける」というもの。柔道は組んでいる時間が長ければ長いほど、その時間に比例して強者に優位が流れ込む競技である。一番強いんだから持ち続ければいい、組みながらの攻撃にもっとも効率の良い「釣り手の手首を使う」という最小の崩しを為せばよい、離さずに続けて仕掛けられる技である足技をベースにすればよい、それも内と外の「ぶっちゃけて使える実戦的な技」であればなお良い。組んで、手首を立てて右小外刈で、あるいは差し込みの右小内刈で獲り、その上で寝技で仕留める新スタイルはまさしく松本の立ち位置と個性にフィットしたもの。松本と組み合うことを過剰に怖がる他選手の傾向が「常に崩される」この方法論の優位を加速、ついに常時通電させるべき回路を見つけた現在の松本は、電流が抵抗器なくその柔道に流れ続けてている状態。意外性ではなく「強さが生み出した論理的帰結」とでもいうべき新スタイルで2度目の五輪金メダルを狙うという高みに到達しているのだ。

5月のワールドマスターズでは体調不良と、アスタナの成功体験にこだわり過ぎたゆえかこのスタイルの形のみをたどることに嵌って早期敗退を喫してしまったが、五輪における勝利のカギはまさしくここにあると見る。まずコンディションをしっかり整え、「組んで足技」という新スタイルの動力源である「電圧」をしっかり確保すること。そしてその上でかつての圧倒的な試合力と即興の「ジャズ」をここ一番いつでも解き放てるよう感覚を研ぎ澄ますこと。アスタナスタイルをベースに据えた、ロンドンスタイルの実践。これこそが五輪2連覇達成に至る唯一の道筋ではないだろうか。自ら選んだロジックの粛々たる実践と、それをいきなり超越する本来の殺戮性、これが二つながら発揮されたときが、松本の大願成就の時だ。

文責:古田英毅
Text by Hideki Furuta

※ eJudoメルマガ版7月31日掲載記事より転載・編集しています。

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