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【リオ五輪柔道競技完全ガイド】日本にとってのリオ五輪は?五輪で勝てる選手の条件は?

(2016年7月21日)

※ eJudoメルマガ版7月21日掲載記事より転載・編集しています。
【リオ五輪柔道競技完全ガイド】日本にとってのリオ五輪は?五輪で勝てる選手の条件は?
■ 史上稀に見る結果期待出来る男子、実績十分も絶対性欠ける女子
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4月の選抜体重別直後、五輪代表内定会見に臨む選手とスタッフ

前述の「ダイナミック柔道の総決算」が国際柔道連盟からみたリオ五輪の位置づけとすれば、日本柔道にとってのこのオリンピックのテーマは間違いなく「お家芸の復活」(使い尽くされた表現でまことに恐縮だが)である。特にロンドン五輪で史上初の金メダルゼロという屈辱を味わった男子にとってはついにやってきた、待ちに待った捲土重来の機会だ。

「ゼロ」の屈辱から4年が経ち、リオ五輪に乗り込む男子代表7人のうち世界選手権の覇者は実に5人。しかもこの中には「送る意味がない」と2014年チェリャビンスク世界選手権で代表ゼロという荒療治を為すこととなった100kg級の羽賀龍之介、日本勢がそれまでまったく勝てなかった81kg級の永瀬貴規という昨年王者の栄冠を得たばかりの新進選手2人が含まれる。

まず強い集団、実力のある選手を養成し、その陣容を高い打点で五輪にぶつけるというのが井上ジャパンの一大方針。5階級で世界王者輩出という2015年までの結果を見る限り第一段階である「養成」はみごとに成功したといえる。ロンドン五輪前にもし男子代表監督が「全階級金メダルを狙います」と発言したとしたら「なるほど、では現実的には?」とあっさり流されてしまったと思うのだが、今や誰も笑わない。日本は、強い。大戦略は成功。あとは五輪という本番、短期決戦の「戦術」で勝利を得るのみ。

五輪を前に種々様々なジャンルの人々と接していて痛感させられるのは、柔道競技に対する社会の認識を更新する機会は4年に1回、五輪の場しかないということ。他ジャンルの、それもスポーツ好きの、しかもメディア側の人間から「日本柔道、女子は頑張っているけど男子が厳しいんだよね?」などと言われてしまうことはまったく珍しいことではない。4年前から認識が更新されていないのだ。彼らは現在男子日本代表のうち5人が世界チャンピオンであることなど勿論知らない。この間3度あった世界選手権の地上波放送がいずれもかなり観にくい枠で一般への露出が僅少であったことがその因の1つと思われるが、実力はあるのに評価されていないこの状況はまことに悔しいというほかない。認めさせるにはやはり五輪で勝つしかないのだ。

歴代五輪代表と比べても今回の男子代表の陣容は出色。史上稀に見る結果が期待できる最強チームと言って過言ではないのではないだろうか。日本男子柔道ここにありと大いにその存在感を示し、正当な評価を勝ち得てほしい。列島を撃ち抜く、社会に一大ムーブメントを起こすような大戦果を期待したい。

女子にとっては、ロンドン五輪後のいわゆる「全柔連問題」からのわかりやすい形での復権の機会である。しかし状況は決して楽観できない。近藤亜美、中村美里、松本薫、梅木真美とこの期間にタイトルを得た世界王者4人を擁するものの、もっとも完成度が高い中村の52kg級にはいまだ未対戦のマイリンダ・ケルメンディという最強のライバルがおり、さほど周囲のレベルが高くない57kg級の松本は不安定さが払拭出来ず、初の五輪に挑む近藤も同じく天才肌で爆発力はあるが蓋を開けてみるまでその出来が測れないところがある。梅木は昨年の戴冠が相当な運に恵まれてのものであったことが以後の大会からハッキリしてきており、かつ負傷のため大爆発を望むのが難しい状況。有望株の田代未来と田知本遥も含めて、今回の代表は「ラインには届く、しかし絶対ではない」選手ばかり。全階級のメダル奪取は現実的、金メダルは複数獲れても全くおかしくないが、ゼロでもそれはそれで論理的帰結と呑み込み得る難しいラインにある。どちらに転んでもおかしくないコインの裏表をことごとく「表」にするような、あと一歩の上積みが求められる。

■ 五輪で勝つ選手の条件は?
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フォーカス力の権化、78kg超級のイダリス・オルティス。2012年から世界大会を3連覇したが、この間いわゆる「ワールドツアー」の優勝はゼロである。

現行のワールドツアー制度施行後初めての五輪であったロンドン大会の戦いの様相をもとに、「五輪で勝つ選手」および五輪における競技進行の傾向を探ってみたい。「階級概況」や「戦力予想」はこれを前提に考えて頂きたい。

1.全員がハイコンディションでやってくる

まずひとつ確実に言えるのは、全ての選手が普段のワールドツアー大会、世界選手権とすら全く比べものにならないハイコンディションで大会に臨んで来るということ。体の強さが一段、二段と上がっており、これまでの序列があまり参考にならない。番狂わせが起こりにくい競技と言われている柔道競技にあってロンドン五輪の14階級中、前年度の世界選手権の覇者の金メダル奪取は僅か4階級であったことを改めて思い起こすべきだろう。

2.大会フォーカス力の高い選手が強い

ロンドン五輪では、シーンからほぼ消えたと思われていた選手が突如本番で復活することが多々あった。特に女子では57kg級のコリナ・カプリオリウ(ルーマニア)や52kg級のヤネト・ベルモイ(キューバ)などこれら「死んだフリ」枠の選手の活躍が目立ち、現代柔道における大会フォーカス度による競技力の振れ幅の大きさを強く意識させられたものだ。その点では普段から出来不出来が激しい、かつここぞという大会へのフォーカス力の高さを見せている最高到達点の高い選手に最大限の注意を払うべき。78kg超級のイダリス・オルティスや70kg級のユリ・アルベールなどはこの観点からの双璧であろう。日本選手では48kg級の近藤亜美、57kg級の松本薫が周囲から「その枠」の強者とみなされているのではないだろうか。

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ラシャ・シャフダトゥアシビリ(ジョージア)。ロンドン五輪ではノーマークから66kg級を制した。

3.上り調子×情報が少ない選手が面白い

上り調子の選手が強い、かつ情報が少ない「今出て来た」ばかりの新進選手が急加速するという傾向も1つ挙げておきたい。4年に1度しか行われない五輪は、ただでさえキャリアの中で上り調子の時期(年齢)にあるかどうかに成績が大きく左右される。そして相互研究が極端に進み、かつ誰もがフィジカルで一段二段と上がって来るという現場の状況極まり切った中では相手の予想を超える伸びを示す選手が強いのは当然のこと。マクロな視点でキャリア上の「旬」にあることと、ここ数か月で突如階段を駆け上がって来た短期スパンでの「上向き」にあるかどうか、この2項を掛け算出来る選手は注目しておくべき。たとえば81kg級のイヴァルロ・イヴァノフ(ブルガリア)や、同じく81kg級で欧州選手権を制したばかりのカサン・カルモルゼフ(ロシア)、60kg級でこれも欧州選手権を制したワリーデ・キア(フランス)らはこの枠に嵌る選手だろう。

4.具体的な上昇装置を持つ選手は「化ける」

「取り味のある一発技」のような上昇装置を体内に孕む選手も強い。また相互研究が過剰になり過ぎる中で、その研究の上を行く新たな「上積み要素」を持つ選手はやはり強い。
関係者や選手と五輪の展望を語っていると「本番で化けるとすればこの選手」というような見立てが必ず語られる。現場に近い立場の人間には、五輪本番という熱量高い触媒に反応しうる「元素」を持つ選手こそ怖いという共通認識があるということだ。普段の試合ぶりにこの、本番ギリギリでの化学変化を起こし得る要素があるかどうかを見極めて注目しておくべきだろう。

ロンドンにおいて3)と4)の項を満たしたのが、66kg級で金メダルを獲得したラシャ・シャフダトゥアシビリ、研究の上を行く「上積み要素」としてアドリブ性を如何なく発揮したのが57kg級の松本薫であったと言えるだろう。この項に適う選手は各階級評で紹介していくが、60kg級のディヨロベク・ウロズボエフ(ウズベキスタン)あたりはその代表格であるかと思われる。

5. 強者の長所がフィジカルの場合は優位継続

ロンドンにおいては全員のコンディションが上がり切っている中で、フィジカルの強い選手の優位が加速したということも忘れてはならない。特に序盤は番狂わせの多い大会であったが、強者とされた選手の中で優位を保ち得たのはいずれも平時からそもそもフィジカルで周囲を圧していた選手(例えば松本薫)であった。フィジカルの強い選手の有利が加速、強者がもともとフィジカルで周囲に負けていない場合は平時のアドバンテージ継続と、ひとつ考えておいて良いだろう。

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ガルバトラフ・オトコンツェツェグ(カザフスタン)。母国モンゴルを飛び出して大ブレイク。2016年春季にはかつて「目上」だったムンバット・ウランツェツェグに3連勝してみせた。

6.国籍変更選手に注目

もうひとつ。これは過去の五輪とは関係ない完全なみどころ予測であるが、国籍変更選手の活躍に注目しておいて欲しい。ワールドランキング制度の浸透により自身の五輪出場可能性を早々に見切り、移籍を為した選手が激増したのもこの4年間の新現象。そして移籍選手のモチベーションは往々にして異常なほど高く、これまでもツアーで意外な大物食いや祖国への「リベンジ」など面白いドラマを多数生んで来た。UAEに移籍した「モルドバ五人衆」の領袖であるセルジュ・トマとヴィクター・スクボトフ、世界王者ムンクバット・ウランツェグの「控え」を峻拒してモンゴルからカザフスタンに移り大出世したガルバトラフ・オトコンツェツェグ、イスラエルで1番手の座を降ろされるやイギリスに渡って復活を成し遂げたアリス・シュレシンジャー、逆にキム・ポリングが君臨するオランダからイスラエルに移籍してブレイク気配のリンダ・ボルダーなどはその代表格。

以上を参考にして、各階級の戦力分析を読み進めてもらいたい。


文責:古田英毅
Text by Hideki Furuta


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