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ワールドマスターズ2016・第2日4階級(73kg級、81kg級、63kg級、70kg級)レポート

(2016年6月8日)

※ eJudoメルマガ版6月8日掲載記事より転載・編集しています。
ワールドマスターズ2016・第2日4階級(73kg級、81kg級、63kg級、70kg級)レポート
■ 73kg級・橋本壮市が優勝、低調アンチャンリンは途中棄権で5位に留まる
【入賞者】
1.HASHIMOTO, Soichi (JPN)
2.GANBAATAR, Odbayar (MGL)
3.IARTCEV, Denis (RUS)
3.ORUJOV, Rustam (AZE)
5.AN, Changrim (KOR)
5.MUKI, Sagi (ISR)
7.SHARIPOV, Mirali (UZB)
7.VAN TICHELT, Dirk (BEL)

五輪の金メダル最有力候補・大野将平の唯一のライバルと目されるアン・チャンリン(韓国)が第1シードで参加。この選手の出来が最大の注目ポイントだ。

しかしアンは明らかな低調、その動きははっきり悪し。それでも2回戦では強敵ムサ・モグシコフ(ロシア)を右袖釣込腰込「有効」で下すが、「指導」を3つ(消極的×1、偽装攻撃×2)失なってしまうなど、まったくもってらしくない試合。迎えた2戦目の準々決勝ではモンゴル五輪代表に内定しているガンバータル・オドバヤルに「指導2」対「指導3」で競り負けてあっさり本戦トーナメントから脱落してしまった。あまりの不調ゆえかアンはこの時点で大会を棄権。敗者復活戦の対戦相手であるミラリ・シャリポフ(ウクライナ)も前戦で棄権していたため記録上はアンの勝利が残り、最終成績は7位だった。

毎大会畳を蹴るような瞬発力とどんな場面でも攻撃を辞めないタフさを披露し続けてワールドランキング1位まで上り詰めたアンだが、今大会の不出来はまったく意外。間違いなくブレイク後最悪の出来であった。いかなアンでも、過酷極まりない韓国の国内予選から僅か1ヶ月という肉体的疲労のさなかに高地グアダラハラで、そして既にワールドランキング1位をほぼ確定させているモチベーション薄い状況でこのレベルの大会を戦うのは難しかったと思われる。初戦敗退した日本の髙藤直寿や松本薫同様、五輪に向けて見せなくて良いものを見せてしまった大会であった。

決勝に進んだのは、アンに勝利したガンバータルと、日本代表の橋本壮市。

ガンバータルは2回戦で地元枠参加のサミュエル・アヤラ(メキシコ)から左体落「有効」、左内股「一本」(3:59)と連取して快勝。準々決勝は前述の通り優勝候補筆頭のアンを「指導3」の優勢で食い、準決勝は今大会の活躍に五輪代表選出を賭けるデニース・ヤルツェフ(ロシア)を右背負投「一本」(4:04)で退けて決勝進出決定。

一方の橋本は初戦で強敵サインジャルガル・ニャムオチル(モンゴル)と対戦。五輪代表を逸して失意のさなかにあるこの選手を「指導2」対「指導3」の優勢で凌ぎ、第3シード選手セージ・ムキ(イスラエル)との準々決勝は中盤に左への「一本大外」で「技有」を獲得、ここから「指導3」まで失うが逆転までは許さずなんとか勝ち抜け決定。アンと双璧の優勝候補と目された今季の欧州王者ルスタン・オルジョフ(アゼルバイジャン)を畳に迎えた準決勝は、オルジョフの側に2分20秒「積極的戦意に欠ける」との咎で「指導1」、4分13秒には片襟組み手による「指導2」と反則ポイントが2つ累積。直後橋本も偽装攻撃で「指導1」を失ったが、このまま試合終了まで戦い切り、反則累積差による優勢勝ちで決勝進出を決めた。

決勝はガンバータルが左、橋本が右組みのケンカ四つ。橋本が釣り手を下から持ち、ガンバータルが上から肘を差し込んでこれを殺すという形で試合がスタート。橋本は前に出ながら小外刈を入れ、巴投を試みるがガンバータル崩れず「待て」。

ガンバータルは「ケンカ四つクロス」の形で相手をいったん呼び込みつつ釣り手で背中を叩くが、橋本逆らわず時計回りに動きながら体捌き良く右小内刈、この動作に混ぜ込んで引き手の確保を狙う好対応。ガンバータルはこれを嫌って自ら一旦離れ、この攻防はリセット。互いに浅く刃先を合わせている格好、探り合いの序盤戦。

続く展開、ガンバータルは釣り手を曲げ伸ばししながら間合いを測り、この腕を畳んで距離を詰めるなり右への横落。しかし橋本は冷静に潰し、背について腹に右脚を差し込み寝勝負を挑む。相手の右横から手先を首に入れると、絞めを警戒したガンバータルの右手の一瞬の動きを見逃さずに両手で手首を握って引き出し、あっと言う間の腕挫十字固。腕を伸ばされたガンバータルは一瞬で負けを悟り、橋本の太腿を二度叩いて「参った」を表明する。これで橋本の一本勝ちが決定、試合時間は僅か1分8秒であった。探り合いのスローな展開からいきなりペースを上げた、その加速度自体でガンバータルを置き去りにした体の見事な勝利。

橋本は昨年のグランプリ青島大会に続く2度目のツアータイトル獲得、もちろんワールドマスターズは初制覇。望外のビッグタイトル獲得となった。切った張ったの組み手の「直し」を繰り返し、勝負技は組み際の一発。決して素晴らしい柔道というわけではなかったが、欧州チャンピオンのオルジョフと強国モンゴルで五輪代表を務めるガンバータルを倒しての優勝は大いに評価されるべき。大野将平、中矢力、秋本啓之と3人の世界王者を擁する日本の73kg級の強さを存分に表現したと言える、殊勲賞ものの優勝劇であった。

階級全体としてはやや低調な大会。第1シードのアンと、グランドスラム・バクーで素晴らしい出来であったシャリポフの主役級2人が途中で棄権し、欧州選手権から3大会目で相当疲労が蓄積しているはずのオルジョフ、そしてその相手役を務めたヴィクター・スクボトフ(UAE)とディルク・ファンティシエル(ベルギー)の2人もともに元気なし。ムキも本来の出来には遠く、1人気を吐いたヤルツェフも勝負どころのシャリポフ戦は不戦勝ちといまひとつ上り詰められず。その中で、チャンスを貰った橋本のモチベーションの高さと仕上がりの良さが他を大きく上回ったという形のトーナメントだった。

トーナメント全試合の結果は下記。


【1回戦】

ムサ・モグシコフ(ロシア)○小内刈(1:24)△アレックス ウィリアム・ポンボ シウバ(ブラジル)

【2回戦】

アン・チャンリン(韓国)○優勢[有効・袖釣込腰]△ムサ・モグシコフ(ロシア)
ガンバータル・オドバヤル(モンゴル)○内股(3:59)△サミュエル・アヤラ(メキシコ)

デニース・ヤルツェフ(ロシア)○優勢[技有・内股]△モハメド・モヘルディン(エジプト)
ミラリ・シャリポフ(ウズベキスタン)○優勢[指導2]△ピエール・ドュプラ(フランス)

ルスタン・オルジョフ(アゼルバイジャン)○腕挫十字固(4:27)△ヴィクター・スクボト(UAE)
ディルク・ファン ティシェル(ベルギー)○反則(3:43)△アルセル・マルガリートン(カナダ)
 ※「足取り」によるダイレクト反則負け

セージ・ムキ(イスラエル)○優勢[技有・袖釣込腰]△ウアリ・クルシェフ(ロシア)
橋本壮市(日本)○優勢[指導3]△サインジャルガル・ニャムオチル(モンゴル)


【準々決勝】

ガンバータル・オドバヤル(モンゴル)○優勢[指導3]△アン・チャンリン(韓国)
デニース・ヤルツェフ(ロシア)○不戦△ミラリ・シャリポフ(ウズベキスタン)
ルスタン・オルジョフ(アゼルバイジャン)○優勢[技有・浮落]△ディルク・ファン ティシェル(ベルギー)
橋本壮市(日本)○優勢[技有・大外刈]△セージ・ムキ(イスラエル)

【敗者復活戦】

アン・チャンリン(韓国)○不戦△ミラリ・シャリポフ(ウズベキスタン)
セージ・ムキ(イスラエル)○小外刈(0:56)△ディルク・ファン ティシェル(ベルギー)

【準決勝】

ガンバータル・オドバヤル(モンゴル)○背負投(4:04)△デニース・ヤルツェフ(ロシア)
橋本壮市(日本)○優勢[指導2]△ルスタン・オルジョフ(アゼルバイジャン)

【3位決定戦】

ルスタン・オルジョフ(アゼルバイジャン)○不戦△アン・チャンリン(韓国)
デニース・ヤルツェフ(ロシア)○合技[小外掛・横四方固]△セージ・ムキ(イスラエル)

【決勝】

橋本壮市○腕挫十字固(1:08)△ガンバータル・オドバヤル(モンゴル)


■ 81kg級・ピエトリ消えて大会レベルは「グランプリ以下」、混戦を30歳の寝業師スティーブンスが制す
(エントリー17名)

【入賞者】
1.STEVENS, Travis (USA)
2.BOTTIEAU, Joachim (BEL)
3.ABDELAAL, Mohamed (EGY)
3.MOUSTOPOULOS, Roman (GRE)
5.KHUBETSOV, Alan (RUS)
5.NYAMSUREN, Dagvasuren (MGL)
7.MAGOMEDOV, Sirazhudin (RUS)
7.SILVA MORALES, Ivan Felipe (CUB)

※日本代表選手の派遣なし

主役級の参戦はロイック・ピエトリ(フランス)のみ。第1シードがランキング3位のアントワーヌ・ヴァロアフォルティエ(カナダ)、第2シードが同6位のヴィクトール・ペナウベル(ブラジル)と形上ハイランカーの参加はあるものの、ヴァロアフォルティエは大会皆勤をテコにランキング上位にあり続けるタイプで爆発力はさほどなく、ペナウベルもここ2年は低調で印象に残るパフォーマンスが出来ていない。このただでさえ人材少なきトーナメントにあって、しかもピエトリ、フォルティエ、ペナウベルの3人が枕を並べて初戦敗退。トーナメントの行方はまさしく混沌となる。

主役なき乱戦を決勝まで勝ち上がったのは第8シードのヨアキム・ボットー(ベルギー)と第7シード配置のトラヴィス・スティーブンス(アメリカ)。

ツアーの優勝が2回のみ、それがいずれもハイレベル大会グランプリ・デュセルドルフ(2015、2016)であるという不思議な経歴を持つボットーは1回戦で地元枠選手ヴィクトール・オチョア(メキシコ)を右小内刈「有効」で下して大会をスタート。準々決勝は前戦でヴァロアフォルティエを下したシラズディン・マゴメドフ(ロシア)を横四方固「一本」(4:22)で下し、準決勝では第5シード選手ニヤムスレン・ダグバスレン(モンゴル)に「指導」2つで競り勝って決勝進出決定。

一方のスティーブンスはいわずと知れた試合巧者の寝業師。2回戦はレバノンの怪人ナーシフ・エリアスを「指導2」対「指導3」の優勢で凌ぎ、準々決勝ではこのところ好調、前戦でペナウベルを倒して波に乗るイワンフェリペ・シウバモラレス(キューバ)を得意の腕挫十字固「一本」(4:04)に仕留める。これで調子づいたか、準決勝はロマン・モウストポウロス(ギリシャ)から左一本背負投「技有」、小外刈「一本」(3:34)と連取して圧勝。みごと最高峰大会ワールドマスターズの決勝へと勝ち残ることとなった。

迎えた決勝は、ボットーの側に「取り組まない」行為(0:42)と消極的試合姿勢(1:48)、さらに場外(2:04)と合計3つの「指導」、一方のスティーブンスにも偽装攻撃(0:52、4:12)で2つの「指導」が与えられるという、到底エキサイティングとはいえない展開。しかし残り20秒となったところでもはや疲労でフラフラと見えたスティーブンスがひと勝負。ボットーに頭を下げられて組み負けた形から、組み手を切らずに敢えて深く握り返して間合いを詰めると得意の隅返に身を躍らせる。体を捨てる方向は巴投気味の真裏、相手の体の裏に抜いた脚を蹴り上げる動作は引込返、自ら後転することで相手の裏に抜けるという寝勝負スパイスの利いたこの技にボットー頭から前に崩れてフリーズ、スティーブンスは後転して相手の裏に抜けることで回旋を作り出して決めに掛かる。脱げ掛けたボットーの上衣がその頭を固定するという幸運にも助けられ、横倒しに相手が倒れたこの技に対する判定は「有効」。

直後、畳を背にしたボットーの膝をスティーブンスが正対の形から乗り越えようと試みるが、残り時間に絶望したかボットーはあまりやる気なし。中途半端にスティーブンスを押し返しながら伏せて「待て」を狙うが、半ばパスを終えていたスティーブンスの右手は既に股中から相手の膝裏を抱えており、残った左で後ろ襟を引っ張ると横四方固の形が完成。「抑え込み」の宣告から10秒を過ぎたところでボットーがあきらめ「参った」、これでスティーブンスの優勝が決まった。

30歳となったスティーブンスのツアー優勝は2014年2月のグランプリ・デュッセルドルフ以来。以降のタイトルはパンナムオープン・マイアミ、2015年パンナム競技大会の2つのみで、ツアー(グランプリ以上)の決勝進出は今年1月のグランプリ・ハバナただ1度だけ。優勝したデュッセルドルフではこれぞという強豪との対戦は1試合もなく、以降挙げた試合はいずれもツアーの狭間の低レベル大会、対戦相手は水準以下の相手か不調期の選手ばかりで、到底強者として評価出来るような成績ではない。つまりは大会の喫水線が下がった時にしぶとく成績を残して来た数年間だったわけだが、今回はこの属性がワールドマスターズという最高ランクにある大会でも「効いてしまった」と総括出来る。こう言ってはなんだが、同日に優勝した橋本のタイトルの価値まで引き下げてしまうような役者少なきトーナメント、そして低調な内容であった。

ピエトリはアスタナ世界選手権後ツアーに3回(12月グランドスラム東京、5月グランプリ・アルマティ)出場したこととなるが、これでなんと3大会連続の初戦敗退。もともと担ぎ技による連続攻撃を組み立ての中核とする選手でコンディション調整が大事なタイプであることは理解するが、さすがに大会を避け過ぎ(グランドスラム・バクーなど複数大会を直前でエントリー取り消し)、そして負け過ぎ。永瀬貴規とアヴタンディル・チリキシビリ(ジョージア)で構成する「3強」構図に穴の空きかねない不出来の大会であった。

【1回戦】

ナーシフ・エリアス(レバノン)○横四方固(5:00)△イワン・ヴォロベフ(ロシア)

【2回戦】

シラズディン・マゴメドフ(ロシア)○合技[内股・後袈裟固](2:01)△アントワーヌ・ヴァロワ フォルティエ(カナダ)
ヨアキム・ボットー(ベルギー)○優勢[有効・小内刈]△ヴィクトール・オチョア(メキシコ)
アラン・クベトソフ(ロシア)○優勢[指導1]△ロビン・パチェック(スウェーデン)
ニヤムスレン・ダグバスレン(モンゴル)○優勢[指導2]△ラズロ・チョクナイ(ハンガリー)
イワン フェリペ・シウバ モラレス(キューバ)○反則(0:39)△ヴィクトール・ペナウベ(ブラジル)
 ※「足取り」によるダイレクト反則負け
トラヴィス・スティーブンス(アメリカ)○優勢[指導3]△ナーシフ・エリアス(レバノン)

ロマン・モウストポウロス(ギリシャ)○袈裟固(4:22)△オトゴンバータル・ウーガンバータル(モンゴル)
モハメド・アブデラル(エジプト)○GS有効・浮落(GS0:24)△ロイック・ピエトリ(フランス)

【準々決勝】

ヨアキム・ボットー(ベルギー)○横四方固(4:22)△シラズディン・マゴメドフ(ロシア)
ニヤムスレン・ダグバスレン(モンゴル)○反則[指導4](3:28)△アラン・クベトソフ(ロシア)
トラヴィス・スティーブンス(アメリカ)○腕挫十字固(4:04)△イワン フェリペ・シウバ モラレス(キューバ)
ロマン・モウストポウロス(ギリシャ)○優勢[有効・裏投]△モハメド・アブデラル(エジプト)

【敗者復活戦】

アラン・クベトソフ(ロシア)○不戦△シラズディン・マゴメドフ(ロシア)
モハメド・アブデラル(エジプト)○優勢[指導2]△イワン フェリペ・シウバ モラレス(キューバ)

【準決勝】

ヨアキム・ボットー(ベルギー)○優勢[指導2]△ニヤムスレン・ダグバスレン(モンゴル)
トラヴィス・スティーブンス(アメリカ)○小外刈(3:34)△ロマン・モウストポウロス(ギリシャ)

【3位決定戦】

ロマン・モウストポウロス(ギリシャ)○優勢[指導2]△アラン・クベトソフ(ロシア)
モハメド・アブデラル(エジプト)○GS大内刈(GS0:43)△ニヤムスレン・ダグバスレン(モンゴル)

【決勝】

トラヴィス・スティーブンス(アメリカ)○横四方固(5:00)△ヨアキム・ボットー(ベルギー)
 

■ 63kg級・田代未来が好内容で優勝、ワールドランキング3位に上げて認定期間終える
(エントリー17名)
【入賞者】
1.TASHIRO, Miku (JPN)
2.FRANSSEN, Juul (NED)
3.VAN EMDEN, Anicka (NED)
3.YANG, Junxia (CHN)
5.TSEND-AYUSH, Tserennadmid (MGL)
5.UNTERWURZACHER, Kathrin (AUT)
7.KATIPOGLU, Busra (TUR)
7.VALKOVA, Ekaterina (RUS)

ワールドランキング上位4名が出場を回避、同5位の五輪日本代表・田代未来が第1シードに配された。形的にも、そして実力的にも間違いなく優勝候補の筆頭だ。

田代はその状況を楽しむかのように快進撃。1回戦はヒルデ・ドレクスラー(オーストリア)を左小外刈で崩して肩固「一本」(3:44)、準々決勝は寝技を武器に再躍進中のヤン・ジュインシア(中国)を左内股「有効」からの腕挫十字固「一本」(3:56)で返り討ち、唯一の勝負どころと目された準決勝のアニカ・ファンエムデン(オランダ)戦は「指導2」対「指導1」で手堅く勝ち抜けて順当に決勝進出を決めた。

逆側の山から勝ち上がったのはノーシード選手、ランキング15位のユール・フランセン(オランダ)。2回戦は対戦予定であった第3シード選手ツェデフレン・ムンクザヤ(モンゴル)のエントリー取り消しにより不戦勝、準々決勝では対戦濃厚と思われたエドウィッジ・グウェン(イタリア)を2回戦で食ったエカテリーナ・バルコワ(ロシア)を横四方固「一本」(3:34)、そして準決勝では第2シードのカトリン・ウンターヴルツァハー(オーストリア)を「指導3」の優勢で下し、昨年10月のグランドスラム・パリ以来キャリア3度目のワールドツアー大会ファイナリストの座を勝ち得ることとなった。

決勝は左相四つ。地力は田代が明らかに上、引き手で袖を制してこれでもかと前に出続ける。フランセンは袖釣込腰の奇襲や組み手が出来上がる前に裏に抜けだす大外刈などでなんとかポイントを拾おうとするが、下げられながら技を仕掛けることを強いられる状況ではいずれも全く効かず。1分23秒には田代に両袖を抑えられるとその前進に耐えかねて自ら膝を屈してしまい、偽装攻撃の「指導1」失陥。以後も田代が大枠優位、フランセンが組み合う前の奇襲技で試合の決着を先送りするという構図で時間が推移する。

残り1分が近くなるとともあれゴールの見えたフランセンはやや復活、両袖の技に活路を見出して2度袖釣込腰で田代を崩す。しかし田代は実力の差を教え込むかのごとく、伏せたフランセンを「腰絞め」で絞め上げて試合展開に強烈な楔を打ち込む。これは「待て」となったが、命拾いしたフランセンの集中が切れたこのタイミングを田代は見逃さず、組み際に左小外刈を入れて決定的な「技有」奪取。その後は寝技で攻め続けフランセンに逆襲を狙う舞台すら与えずあっさりフィニッシュ、「技有」優勢で手堅く勝利を決めた。

田代はワールドマスターズ連覇達成。ランキングの上位4名が欠けて優勝が既定路線というプレッシャーに負けずキッチリ表彰台の真ん中まで辿り着いた地力とメンタル、そして調整力の高さは見事。取り口が合う相手とはいえ、ツアー上位の常連ファンエムデンがハナから負けを受け入れて戦ったかのような準決勝、そして組むだけで相手が下がってしまった決勝などは田代の身体に染み込んだ「強さ」のレベルが昨年から一段上がっていると、あらためて実感させられる内容だった。

この優勝で田代はワールドランキング3位に浮上。実は今大会での入賞を避けて途中棄権する(ランキング5位)、あるいは準決勝以降の試合を回避しておけば(ランキング4位)、五輪本番では天敵であるクラリス・アグベニュー(フランス)との対戦を決勝まで先送りし、準決勝で取り口の合うティナ・トルステニャク(スロベニア)と戦うという好組み合わせを獲得することも可能だった。しかし、敢えてこれを為さずに優勝という結果を獲ったということは田代の将来性への評価の高さと、そして五輪で狙うは金メダルのみという強化陣の意気込みを強く感じる。上り調子で迎える五輪、ぜひとも素晴らしい結果を得てもらいたい。

3週間前のグランドスラム・バクーで素晴らしい出来を見せて復活を印象付けたアリス・シュレシンジャー(イスラエル)は初戦敗退。ブスラ・カツポルグ(トルコ)に「指導3」優勢で食われ、対戦濃厚だったファンエムデンや田代との手合わせをせぬままあっさり畳を去った。

銅メダルは順当にヤンとファンデムデンが獲得。ヤンは田代戦以外の全ての試合で寝技で勝利を決めており、はっきり上り調子。齢27歳にしてキャリア最好調期を迎えつつあるという印象だった。

【1回戦】

マリアナ・シウバ(ブラジル)○優勢[指導2]△アンドレア・グティーエレス(メキシコ)

【2回戦】

田代未来○肩固(3:44)△ヒルデ・ドレクスラー(オーストリア)
ヤン・ジュインシア(中国)○崩袈裟固(1:57)△マリセット・エスピノーサ(キューバ)
ブスラ・カツポルグ(トルコ)○優勢[指導3]△アリス・シュレシンジャー(イスラエル)
アニカ・ファンエムデン(オランダ)○片手絞(2:30)△ミア・ヘルマンソン(スウェーデン)
カトリン・ウンターヴルツァハー(オーストリア)○崩上四方固(1:50)△マリアナ・シウバ(ブラジル)
ツェンド アユシュ・ツェレンナドミド(モンゴル)○浮落(3:39)△カタリナ・ヘッカー(オーストリア)
ユール・フランセン(オランダ)○不戦△ツェデフレン・ムンクザヤ(モンゴル)
エカテリーナ・バルコワ(ロシア)○優勢[指導2]△エドヴィッジ・グヴェン(イタリア)

【準々決勝】

田代未来○腕挫十字固(3:56)△ヤン・ジュインシュア(中国)
アニカ・ファンエムデン(オランダ)○優勢[指導2]△ブスラ・カツポルグ(トルコ)
カトリン・ウンターヴルツァハー(オーストリア)○縦四方固(1:30)△ツェンド アユシュ・ツェレンナドミド(モンゴル)
ユール・フランセン(オランダ)○横四方固(3:34)△エカテリーナ・バルコワ(ロシア)

【敗者復活戦】

ヤン・ジュインシュア(中国)○崩袈裟固(1:48)△ブスラ・カツポルグ(トルコ)
ツェンド アユシュ・ツェレンナドミド(モンゴル)○反則[指導4]△エカテリーナ・バルコワ(ロシア)

【準決勝】

田代未来○優勢[指導2]△アニカ・ファンエムデン(オランダ)
ユール・フランセン(オランダ)○優勢[指導3]△カトリン・ウンターヴルツァハー(オーストリア)

【3位決定戦】

ヤン・ジュインシュア(中国)○合技[内股・横四方固]△カトリン・ウンターヴルツァハー(オーストリア)
アニカ・ファンエムデン(オランダ)○優勢[指導2]△ツェンド アユシュ・ツェレンナドミド(モンゴル)

【決勝】

田代未来○優勢[技有・小外刈]△ユール・フランセン(オランダ)
 

■ 70kg級・ポリングが3連覇達成、役者揃った激戦階級を制す
(エントリー17名)

【入賞者】
1.POLLING, Kim (NED)
2.GRAF, Bernadette (AUT)
3.ALVEAR, Yuri (COL)
3.KIM, Seongyeon (KOR)
5.CONWAY, Sally (GBR)
5.TSEND AYUSH, Naranjargal (MGL)
7.PEREZ, Maria (PUR)
7.PORTELA, Maria (BRA)

※日本代表選手の派遣なし


ベスト4に残ったのはキム・ポリング(オランダ)、キム・センヨン(韓国)、ユリ・アルベール(コロンビア)、ベルナデッテ・グラフ(オーストリア)という錚々たるメンバー。このまま五輪の準決勝が行われてもまったくおかしくない素晴らしい陣容だ。

決勝に進んだのはポリングとグラフ。

第1シードのポリングは2回戦でバーバラ・マティッツ(クロアチア)を上四方固「一本」(3:51)で下す好滑り出しを見せると、準々決勝はマリア・ポーテラ(ブラジル)に「指導3」対「指導1」の優勢で手堅く勝利。続く準決勝ではキム・センヨンと大激戦、キムに差し込みの右小内刈で2つの「有効」を奪われて敗戦濃厚だったが、2分38秒にクロス組み手からの左大内刈「技有」で逆転、そのまま横四方固に抑え込むとキムが「参った」を表明し勝負あり(3:09)。2013年大会(優勝)、2015年大会(優勝)に続く3大会連続ファイナリストの権利を勝ち得ることとなった。

一方のグラフは2回戦でジョウ・チャオ(中国)に横四方固で一本勝ち(2:41)、準々決勝は前戦でケリタ・ズパンシック(カナダ)を破ったマリア・ペレス(プエルトリコ)を「指導3」対「指導1」の優勢で下し、最大の山場であるユリ・アルベールとの準決勝は敢えて相手に腰を抱かせた状態から強引に仕掛けた左払腰「技有」を以て勝ち抜け。見事決勝まで勝ち残ることとなった。

ヨーロッパを代表するパワーファイター同士の対決となった決勝はポリングの圧勝。右釣込腰から振り返りながらの大内刈で、谷落を狙っていたグラフを嵌めて1分31秒「有効」奪取。そのまま抑え込むと1度は「有効」で逃げられながらもあくまで相手を立たせず崩上四方固で抑え切って「一本」(2:10)獲得。見事ワールドマスターズ3連覇を決めた。

ひところ低調だったポリングはこれで3月のグランプリ・サムスンに続く今季2度目のタイトル獲得。絶頂期の2013年、2014年シーズンにはまだまだ及ばないが、五輪の主役級として十分働けるだけの復調ぶりと評して良いだろう。

選手間の高い評価をグランプリ・デュセルドルフ優勝という形でついに具体的な成績に結実させたグラフは、今大会で再びその実力を証明。もはや五輪の表彰台の有力候補と考えておくべきと思われる。

そしてファイナリストの2人以上に、その怖さを見せつけたのがアルベール。ハイレベル大会になぜか紛れ込んでしまったランキング31位のモイラ・ドゥベリエ(ニュージーランド)を大外刈で「秒殺」(0:09)した2回戦、メダル争いに割って入らんとするサリー・コンウェイ(イギリス)を崩上四方固「技有」で退けた準決勝も凄かったが、見せ場はなんといっても3位決定戦。右相四つのツェンドアユシュ・ナランジャルガル(モンゴル)に左構えで対峙、ツェンドアユシュが奥襟を叩くと避けるどころかこれを受け入れるなり構えを右にスイッチしながら接近、釣り手で奥襟を叩き返す。このアクションで生まれた反時計回りの回旋運動に相手を引きずり込むと、中途で得意のクロス組み手を作りながら右の大外巻込一閃「一本」。回転軸の中心に自身の軸を巻き寄せられたツェンドアユシュは全く抗うことが出来なかった。まったく迷いのないその流れるような体捌きからは、この技術がアドリブではなく自家薬籠中の物となっていること、そして自身がもっとも得意とする「相四つクロス」に至る過程と決めを磨きに磨き上げていることが伺われた。70kg級は大混戦、本番で一歩抜け出すためには通り一遍でない具体的な上昇装置を持つことが必須と思われるが、アルベールにはこの点がしっかり見えている、それが十分に透けて見える全4試合だった。

トーナメント全試合の結果は下記。


【1回戦】

マリーイヴ・ガヒエ(フランス)○大外刈(0:32)△イリヤナ・マルツォク(ドイツ)

【2回戦】

キム・ポリング(オランダ)○上四方固(3:51)△バーバラ・マティツ(クロアチア)
マリア・ポーテラ(ブラジル)○優勢[指導1]△アンドレア・プー(メキシコ)

ツェンド アユシュ・ナランジャルガル(モンゴル)○払腰(4:00)△マリア・ベルナベウ(スペイン)
キム・センヨン(韓国)○優勢[有効・小内巻込]△マリーイヴ・ガヒエ(フランス)

ユリ・アルベール(コロンビア)○大外刈(0:09)△モイラ・ドゥベリエ(ニュージーランド)
サリー・コンウェイ(イングランド)○釣込腰(3:33)△オニキス・コルテスアルダマ(キューバ)

ベルナデッテ・グラフ(オーストリア)○横四方固(2:41)△ジョウ・チャオ(中国)
マリア・ペレス(プエルトリコ)○優勢[技有・大外返]△ケリタ・ズパンシック(カナダ)

【準々決勝】

キム・ポリング(オランダ)○優勢[指導3]△マリア・ポーテラ(ブラジル)
キム・センヨン(韓国)○合技[袖釣込腰・袖釣込腰](2:02)△ツェンド アユシュ・ナランジャルガル(モンゴル)
ユリ・アルベール(コロンビア)○優勢[技有・崩上四方固]△サリー・コンウェイ(イングランド)
ベルナデッテ・グラフ(オーストリア)○優勢[技有・小外掛]△マリア・ペレス(プエルトリコ)

【敗者復活戦】

ツェンド アユシュ・ナランジャルガル(モンゴル)○優勢[指導2]△マリア・ポーテラ(ブラジル)
サリー・コンウェイ(イングランド)○横四方固(3:18)△マリア・ペレス(プエルトリコ)

【準決勝】

キム・ポリング(オランダ)○横四方固(3:09)△キム・センヨン(韓国)
ベルナデッテ・グラフ(オーストリア)○優勢[技有・払腰]△ユリ・アルベール(コロンビア)

【3位決定戦】

ユリ・アルベール(コロンビア)○大外巻込(2:35)△ツェンド アユシュ・ナランジャルガル(モンゴル)
キム・センヨン(韓国)○優勢[技有・谷落]△サリー・コンウェイ(イングランド)

【決勝】

キム・ポリング(オランダ)○崩上四方固(2:10)△ベルナデッテ・グラフ(オーストリア)


文責:古田英毅
Text by Hideki Furuta

※ eJudoメルマガ版6月8日掲載記事より転載・編集しています。

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