PAGE TOP ↑

柔道1

柔道2
柔道4 柔道5

eJudoとは?情報募集・お問い合わせサイトマップ

グランドスラム・バクー最終日5階級(90kg級、100kg級、100kg超級、78kg級、78kg超級)レポート

(2016年5月22日)

※ eJudoメルマガ版5月22日掲載記事より転載・編集しています。
グランドスラム・バクー最終日5階級(90kg級、100kg級、100kg超級、78kg級、78kg超級)レポート
■ 90kg級・好調のマーカス・ナイマンが今季2度目の優勝、西山大希は無念の7位
(エントリー47名)

【入賞者】
1.NYMAN, Marcus (SWE)
2.KUKOLJ, Aleksandar (SRB)
3.CLERGET, Axel (FRA)
3.DENISOV, Kirill (RUS)
5.GROSSKLAUS, Ciril (SUI)
5.MEHDIYEV, Mammadali (AZE)
7.NISHIYAMA, Daiki (JPN)
7.ODENTHAL, Marc (GER)

本命と目された第1シードのキリル・デニソフ(ロシア)と第2シードの西山大希(日本)が揃って陥落。決勝へと勝ち進んだのはグランプリ・デュッセルドルフの優勝から好調を維持している第3シードのマーカス・ナイマン(スウェーデン)と、準決勝でデニソフをクロスグリップからの左大内刈「技有」で破った第4シードのアレキサンダー・クコル(セルビア)の2人となった。

ナイマンは2回戦から登場するとイブラハム・カラフ(ヨルダン)に「指導4」の反則(3:49)で勝利。3回戦でサマト・イェッセン(カザフスタン)を隅返からの横四方固「一本」(4:30)に仕留めると、準々決勝ではシリル・グロスクラウス(スイス)との激しい技の応酬を「指導2」対「指導3」で制して準決勝へと駒を進める。準決勝の相手は前戦で西山大希を延長戦の末に横四方固「一本」で破ったアクセル・クルジェ(フランス)。ナイマンは、強敵との接戦を制したばかりで疲れの残る相手を巴投と隅返の連発で完封。「指導4」反則による勝利(4:54)で決勝進出を決めた。

クコルは初戦となる2回戦をダビド・ルイズザイヤック(スペイン)を相手に崩上四方固「一本」(1:32)で勝ち上がると、3回戦ではアレクサンドル・マリュメク(エストニア)に右袖釣込腰「有効」による優勢で勝利。準々決勝ではマルコ・オーデンタール(ドイツ)を左への浮落「有効」からの腕挫十字固「一本」(4:34)に仕留めて準決勝の畳へと上がる。準決勝の相手は昨年のアスタナ世界選手権銀メダリストで11月のグランプリ済州以来、久々のワールドツアー参戦となるキリル・デニソフ。序盤はデニソフ優位の展開が続くが、試合時間の半分が経過した2分40秒、クコルはクロスグリップに釣り手を掴むと間を置かずに左大内刈に打って出る。巻き込む形で相手の左手をロックして体を預けると、デニソフは耐え切れず転がりクコルに値千金の「技有」。大きなリードを許したデニソフは一段ギアを上げてポイントを取り返しにかかるが、「指導2」まで積んだところで試合終了。投技一発で大金星を上げたクコルが決勝進出を果たすこととなった。

決勝戦はクコル、ナイマンともに左組みの相四つ。試合ではナイマンの真骨頂である巴投柔道が炸裂。クコルが少しでも良い組み手になると巴投、あるいは隅返で引き込んで得意の寝技で攻め立てる。クコルにほとんど何もさせないまま試合を進め、最後は隅返で寝技に持ち込み横三角からの横四方固で3分12秒「一本」まで辿り着く。ナイマンがその持ち味を十二分に発揮して今季2度めの優勝を決めた。

優勝したナイマンは自身のスタイルを最後まで貫き、巴投と隅返以外の技をほとんど仕掛けないままトーナメントの頂点へと上り詰めた。

準決勝でクコルに敗れたデニソフは初戦から乱取りとでも評すべき省エネ柔道を展開。圧倒的な実力差をテコにそのまま勝ち進むと思われたが、思わぬところで足をすくわれた形だ。敗れて回った3位決定戦では前戦までとは打って変わった丁寧な柔道を披露、敗者復活戦で西山大希に「指導2」で勝利しているグロスクラウスを左払腰「一本」で蹴散らし3位を確保した。

西山大希は2度敗れて無念の7位。この日は2回戦から登場するとアーロン・ヒルデブランド(ドイツ)を相手に組み手に拘り過ぎ、仕掛ければ相手が飛ぶ間合いを終始維持したまま「指導1」による優勢で勝利。続く3回戦もガントルガ・アルタンバガナを相手に「指導1」をリードされたまま終盤まで試合を流してしまい、残り25秒に組み際の左大外刈「一本」で辛うじて逆転勝ち。準々決勝のアクセル・クルジェ戦ではここまでギリギリのところで押しとどめていた低調さがついに顕在化。前2戦と同じく仕掛ければ相手が飛ぶ力関係と位置関係にも関わらず「指導1」を取り合ったまま試合を流してしまい勝負は延長戦にまで縺れ込む。この勝負は延長1分過ぎに左内股で掛け潰れたところを横三角で捲り返されての横四方固「一本」で決着。ここで本戦トーナメントからの脱落が決定した。敗れて回った敗者復活戦でも前戦までの低調ぶりは変わらず、開始早々に立て続けに「指導」2つを失い、これを取り返せないまま試合終了。終了間際に放った「韓国背負い」も内股や大外刈の撒き餌があればこそで、当然ながらまったく効かず。西山は組み手にこだわりすぎるあまり技の出が遅く、技を仕掛けても手を離してしまう悪癖がもっとも悪い形で発揮された結果、役者少きトーナメントで3位入賞すらできないという大失態。切れ味抜群の名刀を持ちながらそれをほとんど振るうことすらなく、畳を去ることとなった。

【準々決勝】

キリル・デニソフ(ロシア)◯優勢[有効・内股]△マーマダリ・メディヨフ(アゼルバイジャン)
アレキサンダー・クコル(セルビア)◯腕挫十字固(4:34)△マルコ・オーデンタール(ドイツ)
アクセル・クルジェ(フランス)◯横四方固(GS1:25)△西山大希(日本)
マーカス・ナイマン(スウェーデン)優勢◯[指導3]△シリル・グロスクラウス(スイス)

【準決勝】

アレキサンダー・クコル(セルビア)◯優勢[技有・大内刈]△キリル・デニソフ(ロシア)
マーカス・ナイマン(スウェーデン)◯反則[指導4](4:54)△アクセル・クルジェ(フランス)

【3位決定戦】

アクセル・クルジェ(フランス)◯優勢[有効・巴投]△マーマダリ・メディヨフ(アゼルバイジャン) 巴投2発
キリル・デニソフ(ロシア)◯払腰(2:10)△シリル・グロスクラウス(スイス) 左払腰

【決勝】

マーカス・ナイマン(スウェーデン)◯横四方固(3:12)△アレキサンダー・クコル(セルビア) 

【日本代表選手勝ち上がり】

西山大希(新日鐵住金)
成績:7位

[2回戦]
西山大希○優勢[指導1]△アーロン・ヒルデブランド(ドイツ)

[3回戦]
西山大希○大外刈(4:35)△ガントルガ・アルタンバガナ(モンゴル)

[準々決勝]
西山大希△GS横四方固(GS1:25)○アクセル・クルジェ(フランス)

[敗者復活戦]
西山大希△優勢[指導2]○シリル・グロスクラウス(スイス)

■ 100kg級・グビニアシビリが階級変更後初優勝、ウルフは3位確保で実力示す
(エントリー47名)

1.GVINIASHVILI, Beka (GEO)
2.CIRJENICS, Miklos (HUN)
3.PETERS, Dimitri (GER)
3.WOLF, Aaron (JPN)
5.BISULTANOV, Adlan (RUS)
5.FREY, Karl-Richard (GER)
7.BUZACARINI, Rafael (BRA)
7.FLETCHER, Benjamin (GBR)

五輪代表争いの渦中にあるカールリヒャード・フレイ(ドイツ)とディミトリ・ピータース(ドイツ)のドイツ勢2人がそれぞれ第1シードと第2シード、第3シードには巴投ファイターのマーティン・パチェック(スウェーデン)、第4シードにはチェリャビンスク世界選手権銀メダリストで今年に入ってから好調を維持しているホセ・アルメンテロス(キューバ)が配される好布陣。Bシードにも2013年リオデジャネイロ世界選手権王者であるベテランのエルカン・ママドフ(アゼルバイジャン)、切れ味抜群の業師ホルヘ・フォンセカ(ポルトガル)、インサイドワーク巧みなアドラン・ビスルタノフ(ロシア)と本格派から曲者まで多種多様な選手が揃いグランドスラムの名に恥じないハイレベルトーナメントとなった。ノーシードからはウルフ・アロン(日本)と昨年のワールドマスターズ90kg級の覇者ベカ・グビニアシビリ(グルジア)が表彰台を狙う。

非常に役者の揃ったトーナメントを決勝まで勝ち上がったのは、共にノーシードからスタートしたミクロス・シルジェニックス(ハンガリー)とグビニアシビリの2人。

ワールドランク35位のシルジェニックスは完全なダークホース。大半の選手が2回戦が初戦となる中で1回戦から登場するとジャリル・シュクロフ(アゼルバイジャン)に左への浮落と横四方固による合技「一本」(1:24)で勝利。2回戦ではイェフゲニス・ボロダフコ(ラトビア)を右への浮落「一本」(4:15)に仕留めて3回戦に進出する。3回戦の相手は業師ホルヘ・フォンセカ。この強豪を相手にシルジェニックスは釣り手で相手の背中を掴むなり強引な右払腰を放つ。この技にフォンセカは思わずブリッジをしてしまい審判は「一本」を宣告、シルジェニックスはこれでプールファイナルへの勝ち上がりが確定。
準々決勝で畳に迎えるは第1シードのカールリヒャード・フレイ。開始早々に相手の左内股で「技有」を失うも、縺れ合った状態から相手の左大腰に右小外掛を合わせて驚きの「一本」(2:33)を獲得。続く準決勝の相手は格上には弱く格下にはめっぽう強い曲者アドラン・ビスルタノフ。この試合も開始早々に横車で「技有」を奪われるが右袖釣込腰「一本」(1:15)でまたもや逆転勝ち。並み居る強豪を尽く「一本」で破り見事決勝進出を果たした。

一方のグビニアシビリも1回戦からスタート。初戦でいきなり2014年チェリャビンスク世界選手権3位の難敵イワン・レマレンコ(アラブ首長国連邦)とマッチアップする厳しい組み合わせであったがこの難敵を右釣込腰と袈裟固の合技「一本」(2:00)で下すと、2回戦の相手は階級屈指の本格派で元世界王者のエルカン・ママドフ。グビニアシビリはこの強豪も右浮腰「一本」(3:08)で破り、3回戦はアヴァド・マージョフ(イラン)に裏投と横四方固の合技「一本」(4:49)で勝利。
迎えた準々決勝の相手は長身で奥襟が利き寝技も得意なドイツのベテラン、ディミトリ・ピータース。この試合ではピータースのパワーに苦戦するも、右奥襟を持った相手が重心を左側に移動したところで強引な左浮腰を放ち「技有」を獲得、ピータースの激しい追撃を凌ぎ切り準決勝進出を果たした。
事実上の決勝と目された準決勝の相手はウルフアロン。同世代でタイプの似た2人の対決は真っ向からの殴り合いとなるが、五輪出場のために負けられない立場のグビニアシビリの執念が勝り、右釣込腰と谷落の合技「一本」(3:26)で決勝進出を決めた。

共に素晴らしい出来で次々と強豪を撃破して決勝の畳へと勝ち進んだ2人だが、決勝戦はこの日逆転に次ぐ逆転で勝ち進んできたシルジェニックスにチャンスすら与えないままグビニアシビリの圧勝で終幕。場外際でシルジェニックスが展開を切ろうと右内股巻込で体を捨てたところをグビニアシビリが「待ってました」とばかりに抱き止めると相手の体を畳から根こそぎ引っこ抜くような豪快な裏投。シルジェニックスは背中からバウンドする勢いで畳に叩きつけられ文句なしの「一本」。試合時間は僅か36秒、グビニアシビリが階級変更後初めての優勝を決めた。

階級変更直後は体格とパワーの壁に阻まれて無名の選手にも遅れを取るような有様であったグビニアシビリだが、並み居る強豪を釣込腰や裏投といった大技で投げつけて優勝した今日の様子を見る限り、どうやら階級への適応は完了したようだ。今回の優勝で500ポイントを得てランキングもワールドマスターズ出場権内の15位まで上昇。この時点で五輪出場をほぼ確実とした。こうなれば五輪ではもちろんメダル候補。

ウルフは初戦となった2回戦でグリゴリ・ミナシキン(エストニア)に隅返で「有効」を奪われるも、左膝車「技有」、左内股「一本」と立て続けに奪って勝利。3回戦で曲者マーティン・パチェックを「指導2」対「指導3」の優勢で退けると、準々決勝はラファエル・ブザカリニ(ブラジル)を左内股「一本」で破って順当にベスト4進出を決めた。前述の通り準決勝でグビニアシビリの五輪への執念の前に敗れたものの、3位決定戦ではカールリヒャード・フレイに勝利して3位を確保。この試合はウルフが左組み、フレイが右組みのケンカ四つ。開始早々にウルフが前技フェイントからの谷落に入るとフレイは大きく飛んで転がり落ちる。この技は尻餅と判断されポイントにならないが、ウルフはこの技に感触を得たか以降も同様の形で攻め立てる。フレイの頭に十分谷落が刷り込まれたところで今度は同じ形から左内股を放つと、体が反応してしまい一瞬剛体となったフレイは豪快に吹っ飛んで「一本」。ウルフは最後をしっかり締めて3位入賞を果たした。昨年の世界選手権銀メダリストであるフレイをなで斬りにしたこの試合は痛快の一言。

もう一方の3位決定戦ではディミトリ・ピータースとアドラン・ビスルタノフが対戦。地力に勝るピータースがビスルタノフのしつこい組み手管理を右大外刈「有効」の投げ一発で粉砕、無事に3位を確保した。今大会の結果を以てワールドランクはフレイが2位、ピータースがの3位となり、ドイツの五輪代表争いはいよいよ5月の最終戦であるワールドマスターズへと持ち越しになる模様だ。五輪出場という観点からすると準優勝のシルジェニックスは300ポイントを得て大きく順位を上げたものの五輪自力出場には僅かに届かない24位。シルジェニックスは来週開催のグランプリアルマトイにもエントリーしており、その戦いぶりが注目される。

【準々決勝】

ミクロス・シルジェニックス(ハンガリー)◯小外掛(2:33)△カール リヒャード・フレイ(ドイツ)
アドラン・ビスルタノフ(ロシア)◯体落(0:42)△ベンジャミン・フレッチャー(イギリス)
ベカ・グビニアシビリ(ジョージア)◯優勢[技有・釣腰]△ディミトリ・ピータース(ドイツ)
ウルフアロン(日本)○内股(4:37)△ラファエル・ブザカリニ(ブラジル)

【準決勝】

ミクロス・シルジェニックス(ハンガリー)◯袖釣込腰(1:15)△アドラン・ビスルタノフ(ロシア)
ベカ・グビニアシビリ(ジョージア)◯合技[釣込腰・谷落](3:26)△ウルフアロン(日本)

【3位決定戦】

ウルフアロン(日本)◯内股(2:34)△カール リヒャード・フレイ(ドイツ)
ディミトリ・ピータース(ドイツ)◯優勢[有効・大外刈]△アドラン・ビスルタノフ(ロシア)

【決勝】

ベカ・グビニアシビリ(ジョージア)◯裏投(0:36)△ミクロス・シルジェニックス(ハンガリー)

【日本代表選手勝ち上がり】

ウルフアロン(東海大3年)
成績:3位

[2回戦]
ウルフアロン○内股(3:17)△グリゴリ・ミナスキン(エストニア)

[3回戦]
ウルフアロン○優勢[指導3]△マーティン・パチェック(スウェーデン)

[準々決勝]
ウルフアロン○内股(4:37)△ラファエル・ブザカリニ(ブラジル)

[準決勝]
ウルフアロン△合技[釣込腰・大内返]○ベカ・グヴィナシビリ(ジョージア)

[3位決定戦]
ウルフアロン○内股(2:34)△カールリヒャード・フレイ(ドイツ)

■ 100kg超級・役者揃ったトーナメントをカモーが制す、ジョージアとブラジルの五輪代表争いは未だ決着つかず
(エントリー30名)

1.KHAMMO, Iakiv (UKR)
2.MEYER, Roy (NED)
3.BOR, Barna (HUN)
3.MOURA, David (BRA)
5.BATTULGA, Temuulen (MGL)
5.TANGRIEV, Abdullo (UZB)
7.SILVA, Rafael (BRA)
7.VOLKOV, Andrey (RUS)

※日本代表選手の派遣なし

テディ・リネール(フランス)と日本勢を除くほぼ全ての有力選手が顔を揃えたハイレベルトーナメント。階級ナンバー3(五輪に限定すればではあるが)を賭けた戦いを制したのは、昨年のアスタナ世界選手権3位でグランプリ・デュッセルドルフ優勝以来もっか最も勢いのある選手である21歳のイアキフ・カモー(ウクライナ)。

カモーは1回戦のマルキ・エルメイディ(モロッコ)戦を左小外掛「有効」を奪ったうえでの「指導4」反則(4:57)で勝ち抜くと、2回戦はウサンジ・コカウリ(アゼルバイジャン)に「有効」ビハインドから左小外掛「一本」(3:28)で逆転勝ちを収める。準々決勝の相手はロンドン五輪銅メダリストで、怪我による長期離脱から復帰して以降調子の上がらないラファエル・シウバ(ブラジル)。ここ最近のシウバの出来であればカモーの一方的な勝利も考えられる組み合わせだが、シウバはどうやら復調傾向にあるらしく復帰直後とは全くの別人のような柔道を披露。カモーは、シウバの代名詞とも呼べる巨体による前進圧力と巧みなインサイドワークによる組み手管理の前に苦戦を強いられるが、シウバが右外巻込の形で伏せたところを抱分に捉えて「有効」を奪取する。具体的なポイントを失いもはや投げるか「指導」累積による反則勝ち以外に手がないシウバは、ギアを1段上げて「指導」を奪いにかかる。しかし、それが裏目に出てしまい動きの中で左腿を負傷、シウバの棄権(4:27)という意外な形でこの試合は決着した。
カモーの準決勝の相手は第1シードのバルナ・ボール(ハンガリー)を肩車「技有」で破って勝ち上がってきたダビド・モウラ(ブラジル)。重量級らしからぬ技のキレを持つ両者の対決は、カモーが片襟からの左背負投でモウラを2度投げつけ合技「一本」(4:55)で勝利、見事決勝進出を決めた。

決勝の相手は第2シード配置から順調にトーナメントを決勝まで勝ち進んできたオランダの背負投ファイター、ロイ・メイヤー(オランダ)。この選手は昨年のグランドスラムパリ3位決定戦で七戸龍(日本)を右大内刈「有効」で破って以降評価が急上昇中、日本への遠征合宿を見た関係者の間でもその好調ぶりが話題に上っていた。メイヤーは2回戦から登場してヤルザン・シンキエフ(カザフスタン)を「指導3」優勢で下すと、準々決勝はバトトルガ・テムーレン(モンゴル)を相手の足取りによるダイレクト反則(1:42)で退け準決勝の畳に上がる。
準決勝の相手は階級きっての曲者アブドロ・タングリエフ(ウズベキスタン)。この試合は、体力の衰えを試合運びの巧みさと際の強さでカバーしているタングリエフを、メイヤーが担技の連発で完封する形となり「指導4」反則(4:27)で決着。スタミナとパワーをベースにした手数の多さという自身の持ち味を生かして決勝進出を果たすこととなった。

決勝戦はカモーが左、メイヤーが右組みのケンカ四つ。お互いに技を仕掛け合う展開も決定打が出ないまま試合が流れ、勝負はゴールデンスコアで争われる延長戦へと突入する。延長戦1分過ぎ、カモーは釣り手で相手の背中深くを握ると引き手で相手の脇を押し上げながら左への浮技に打って出る。深く潜りこまれたメイヤーは耐え切れず弧を描いて背中から畳に落ち「技有」。試合時間はGS1分10秒、カモーのグランドスラム大会初優勝が決定した。優勝したカモーは若干21歳ながら担技から腰技、足技まで全方位に技を持っており、そのどれもが非常に高い水準にある。裏投や浮技といった豪快な捨身技も持っておりこれからの活躍が非常に楽しみな有望株だ。今回の優勝でカモーは500ポイントを積みワールドランクは第3位、名実ともに階級ナンバー3の座を手中に収めた格好だ。

今大会のもう1つの注目トピックであった強豪国ジョージアとブラジルの五輪代表争いは、両国ともに候補者同士の直接対決は実現せず、決着がつかないまま以降の大会へと持ち越しとなった。ジョージアで五輪代表の座を争うのはロンドン-リオデジャネイロ期の前半に独特の裏投で活躍したアダム・オクルアシビリと、リネールとの取り口の良さから近頃注目されているレヴァニ・マティアシビリの2人。昨年来のオクルアシビリの低迷からマティアシビリの選出が有力視されているが、マティアシビリは密着志向の大型選手に相性が悪く未だ決定的な差をつけられずにいる。

一方のブラジルは前述のラファエル・シウバとシウバ不在時に重量級らしからぬ技の切れ味で強豪として定着したダビド・モウラが代表の座を争っている。復帰直後のシウバの不振とモウラの国際大会での安定した成績で一時はモウラの圧倒的有利と目されていたが、グランプリサムスンとパンナム選手権での直接対決を共にシウバが制したことで代表争いはどちらが選ばれてもおかしくない状況へと一変した。今大会でのシウバの出来を見る限り戦術のキモである巨体による圧力は戻ってきており、最後まで目の離せない状況となっている。今大会の負傷がどう影響するか、まずはその点に注目したい。

【準々決勝】

ダビド・モウラ(ブラジル)◯優勢[技有・肩車]△バルナ・ボール(ハンガリー)
イアキフ・カモー(ウクライナ)◯棄権(4:27)△ラファエル・シウバ(ブラジル)
※負傷による途中棄権
ロイ・メイヤー(オランダ)◯反則(1:42)△バトトルガ・テムーレン(モンゴル)
※足取りによるダイレクト反則負け
アブドロ・タングリエフ(ウズベキスタン)◯内股(0:28)△アンドレイ・ヴォルコフ(ロシア)

【準決勝】

イアキフ・カモー(ウクライナ)◯合技[背負投・背負投](4:55)△ダビド・モウラ(ブラジル)
ロイ・メイヤー(オランダ)◯反則[指導4](4:27)△アブドロ・タングリエフ(ウズベキスタン)

【3位決定戦】

バルナ・ボール(ハンガリー)◯不戦△アブドロ・タングリエフ(ウズベキスタン)
ダビド・モウラ(ブラジル)◯優勢[有効・一本背負投]△バトトルガ・テムーレン(モンゴル)

【決勝】

イアキフ・カモー(ウクライナ)◯GS優勢[技有・浮技](GS1:10)△ロイ・メイヤー(オランダ)

■ 78kg級・オランダ勢2人が揃って決勝進出、梅木真美は序列に収まり3位を確保
(エントリー20名)

1.STEENHUIS, Guusje (NED)
2.VERKERK, Marhinde (NED)
3.MALZAHN, Luise (GER)
3.UMEKI, Mami (JPN)
5.GIBBONS, Gemma (GBR)
5.TURKS, Victoriia (UKR)
7.POGORZELEC, Daria (POL)
7.POWELL, Natalie (GBR)

国内の五輪代表を争っているフッシェ・ステインハウス(オランダ)とマリンダ・フェルケルク(オランダ)が揃って順当に決勝に進出。概ね階級の序列通りにトーナメントが進行した。

第1シード配置のステインハウスは2回戦から登場するとアレナ・カチロフスカヤ(ロシア)を袈裟固「一本」(2:39)で下し難なく初戦を突破する。準々決勝はヴィクトリア・タークス(ウクライナ)を「指導1」による小差で退け準決勝へ進出。
準決勝の相手は梅木真美(日本)。この試合は互いに決め手となるような技が出ないまま「指導1」を奪い合った末に延長戦に突入する。延長開始直後、両者が奥襟を持ち合うがっぷり四つの形から、梅木が首抜きの致命的なミスを犯し審判は過たず「指導」を宣告。延長戦開始僅か13秒でステインハウスの「指導2」GS優勢(GS0:13)による勝利が決定した。

2009年ロッテルダム世界選手権覇者でこれまでに3度世界選手権の表彰台に登っているマリンダ・ファルケルクは、初戦となる2回戦でマルタ・トルトメリーノ(スペイン)に右袖釣込腰と右外巻込の合技「一本」(2:57)でまず勝利。準々決勝ではジェンマ・ギボンズ(イギリス)を「指導1」の小差で破り、準決勝ではワールドツアー皆勤者のルイーズ・マルツァーン(ドイツ)と対峙。互いに「指導1」を取り合っての残り時間30秒に右一本背負投「有効」を奪い、このポイントによる優勢で決勝進出を果たした。

オランダの代表争いという観点から大きな注目を集めた決勝戦であったが、フェルケルクが畳に現れず手を合わせることなくステインハウスの優勝が決定。ステインハウスとフェルケルクの今年に入ってからの直接対決の結果は、1勝1敗でどちらも「指導」1つ差によるものとほとんど差がない。五輪のシード権争いを考慮すると今大会の優勝者に与えられる500ポイントは決して軽いものではなく、この点を考慮すると欧州選手権におけるステインハウスの準優勝、フェルケルクの7位という結果を以て既にステインハウスが代表に決定している可能性もある。オランダの五輪代表争いは明確な決着がつかないまま最後まで様々な憶測を呼びそうだ。また、同じく五輪代表争いの観点から注目されたイギリスの代表争いも、ナタリー・ポウエル(イギリス)、ジェンマ・ギボンズ(イギリス)が共に表彰台に上ることなく敗退、次戦以降に持ち越しとなりそうだ。

梅木は初戦となる2回戦でヤレニス・カスティージョ(キューバ)を横三角からの崩上四方固「一本」(2:07)で下すと、準々決勝ではナタリー・ポウエルを小外掛「技有」から横四方固に抑え込み合技「一本」(2:39)で準決勝に進出。準決勝では前述の通り優勝したステインハウスに接戦で敗れたが、3位決定戦ではギボンズに横三角からの崩上四方固「一本」(1:33)で勝利し表彰台を確保した。昨年のアスタナ世界選手権で強豪たちが次々と陥落していくなか、組むこと自体の強さを以て優勝した梅木であるが以降は低調、階級内の序列に収まった印象。しかし、立ち技での決め手にかける一方でグランドスラム東京でのケイラ・ハリソン(アメリカ)との試合や今大会のステインハウスとの一番を見る限り、世界選手権優勝の原動力となった組み合う力は十分階級最上位に通用するレベルにある。組み合った状態から得意の寝技に持ち込む引き出しを積み上げ、五輪の表彰台に立つことを期待したい。

【準々決勝】

フッシェ・ステインハウス(オランダ)◯優勢[指導1]△ヴィクトリア・タークス(ウクライナ)
梅木真美(日本)◯合技[小外掛・横四方固](2:39)△ナタリー・ポウエル(イギリス)
ルイーズ・マルツァーン(ドイツ)◯大腰(2:53)△ダリア・ポゴジャレッツ(ポーランド)
マリンダ・フェルケルク(オランダ)◯[指導1]△ジェンマ・ギボンズ(イギリス)

【準決勝】

フッシェ・ステインハウス(オランダ)◯GS優勢[指導2](GS0:13)△梅木真美(日本)
マリンダ・フェルケルク(オランダ)◯優勢[有効・一本背負投]△ルイーズ・マルツァーン(ドイツ)

【3位決定戦】

ルイーズ・マルツァーン(ドイツ)◯優勢[有効・袖釣込腰]△ヴィクトリア・タークス(ウクライナ)
梅木真美(日本)◯崩上四方固(1:33)△ジェンマ・ギボンズ(イギリス)

【決勝】

フッシェ・ステインハウス(オランダ)◯棄権△マリンダ・フェルケルク(オランダ)

【日本代表選手勝ち上がり】

梅木真美(環太平洋大4年)
成績:3位

[2回戦]
梅木真美○崩上四方固(2:07)△ヤレニス・カスティージョ(キューバ)

[準々決勝]
梅木真美○合技[小外掛・横四方固](2:39)△ナタリー・ポウエル(イギリス)

[準決勝]
梅木真美△GS指導2(GS0:13)○フッシェ・ステインハウス(オランダ)

[3位決定戦]
梅木真美○三角絞(1:33)△ジェンマ・ギボンス(イギリス)

■ 78kg超級・山部佳苗が優勝、しっかり結果を残すも内容は消化不良
(エントリー21名)

1.YAMABE, Kanae (JPN)
2.YU, Song (CHN)
3.ANDEOL, Emilie (FRA)
3.CHEIKH ROUHOU, Nihel (TUN)
5.PAKENYTE, Santa (LTU)
5.SLUTSKAYA, Maryna (BLR)
7.KAYA, Belkis Zehra (TUR)
7.ORTIZ, Idalys (CUB)

ユー・ソン(中国)にイダリィス・オルティス(キューバ)と2人の世界王者が参戦し、エミリーアンドル(フランス)やニヘル・シェイキロウホウ(チュニジア)にベルキスゼラ・カヤ(トルコ)、ヤスミン・クルブス(ドイツ)と役者の揃ったトーナメント。その中を、五輪のシード権獲得を狙って参加した日本の山部佳苗が優勝を果たした。

山部は2回戦から登場するとカロリン・ヴァイス(ドイツ)を相手に「指導2」対「指導3」で辛勝。終始組み手で圧倒しながらもドイツの3番手であるヴァイスを相手に投げることが出来ぬままの低調な滑り出しとなった。

準々決勝では早くもロンドン五輪金メダリストでそこから世界大会を3連覇した強豪イダリィス・オルティスと対戦。この試合は山部が右、オルティスが左組みのケンカ四つ。山部は序盤に「指導」1つ分のリードを得るが、後半失速し追いつかれてしまう。最終的にはオルティスの偽装攻撃による「指導」によって「指導2」対「指導3」で勝利したが前戦に続いて投技によるポイントは無し。序盤の「指導」もオルティスが意外な顔を隠さず、少々幸運なものであった。結果だけ見れば金メダリストに勝利という素晴らしい成果に見えるが、オルティスは大会によって出来不出来が激しくワールドツアーでの優勝は僅か1回。フォーカスした大会以外ではほとんど「乱取り」と呼べるような試合を展開することも多く、今大会でも山部に敗れて回った敗者復活戦で格下のマリーナ・スルツカヤ(ベラルーシ)に横四方固「一本」であっさり破れている。山部との試合もこの文脈の中で捉えられるべきで、スルツカヤに「一本」負けするコンディションのオルティスを相手に返し技を恐れ投げに行けず、相手の「乱取り」に付き合ったうえでの「指導」1差での勝利は今後を占う上ではむしろ大マイナスポイントと言って差し支え無いだろう。準決勝の相手は山部が得意としているアフリカの浮技女王ことニヘルシェイキロウホウ。取り口が合うこの相手に対しては山部は自信を持って試合を進め、相手の浮技の入り際に左浮落を合わせて「技有」を奪うと、そのまま横四方固に抑え切り合技「一本」(1:02)。しっかり決勝進出を決めた。

もう一方の山を勝ち上がってきたのは第1シード選手、アスタナ世界選手権の覇者で巨体ながら左右の技が切れるユー・ソン。初戦となった2回戦では長身の背負投ファイター、テッシェ・サベルコウルス(オランダ)から左大外刈「有効」を奪い、横四方固「一本」(4:00)で退ける。準々決勝ではベルキスゼラ・カヤを右内股「技有」からそのまま崩袈裟固に抑え込んで合技「一本」(3:10)で一蹴。準決勝は変則の大内刈が得意なエミリー・アンドルを「指導2」による優勢で危なげなく下し、余裕をもって決勝進出を果たした。

この日、一貫して低調なパフォーマンスを見せてしまっている山部にとって勝利そのものがプラス評価になるユー・ソンとの戦いはいわば一発逆転が狙えるボーナスステージ。内容ある熱戦に期待したいところであったが、なんとユーは決勝戦を棄権。山部は戦わないまま表彰台の真ん中に立つこととなった。この優勝で500ポイントを得た山部のランキングは5位、ワールドマスターズの結果次第で五輪でのAシード配置が狙える位置まで上り詰めることに成功した。

山部の今大会への参加の目的は2つあったはず。1つ目は入賞してポイントを獲得し、五輪出場の足場を固める(そしてシード圏内を確保する)こと。この点について山部は優勝という最高の結果を以てミッションを達成したと言えるだろう。そして、もう1つの目的は五輪代表としての覚悟と姿勢を、その戦いぶりを通して示すということであったはず。この観点から言えば、今大会はかつての山部とほとんど変わらない姿を見せてしまったと評するほかはない。初戦のヴァイス戦のような慣れない相手との対戦や、準々決勝のオルティス戦のような自身が格上と規定した相手との対戦では怖がって全く技が出せず、一方準決勝のシェイキロウホウ戦のように自身が得意な、あるいは格下と規定した相手に対しては強気の柔道であっさり勝利する。この格上には弱く、格下には弱い柔道では強豪が全員最高のパフォーマンスで臨むであろう五輪で勝利することは難しいのではないだろうか。決勝戦でユー・ソンに戦ってもらえなかったことは不運であるが、この結果は、「勝負」は自分のしたい時にできるのではなく、いま目の前にある戦いを常に全力でものにするしかないというその本質を端的に示してもいる。少なくとも今大会での山部の慎重すぎるパフォーマンスは、代表選出時の「もう怖くない」という言葉に期待した柔道ファンや関係者を満足させるものではなかった。仮に「2敗したグランドスラム東京や1回戦負けを喫したグランドスラムパリに比べれば、どうやら落ち着いて試合が出来たのはないか」という評があったとして、これは五輪日本代表に与うる評としては少々目線が低すぎるであろう。

以上を以て、山部の今大会は結果を得るも、内容を示すことが出来なかった残念な大会と総括すべきであると考える。

またもや低調なパフォーマンスを見せてしまった山部であるが、本番はあくまでリオデジャネイロ五輪であり、山部には誰もが認める世界一と評して良いであろう技の切れがある。山部には自身が五輪代表の座を争った相手が「あの」田知本愛であることを今一度思い出してほしい。田知本は言うまでもなく世界屈指の強者であり、海外選手の誰もが格上と規定して戦ってくる選手。その田知本との真っ向からの殴り合いを制して五輪代表の座を掴んだのだから、山部には自身を強者と定義した上で、強敵相手にこそ勇気を持って真っ向から向かっていく試合を期待したい。

【準々決勝】

ユー・ソン(中国)◯優勢[技有・横四方固]△ベルキス ゼラ・カヤ(トルコ)
エミリー・アンドル(フランス)◯反則(2:26)△サンタ・パケニケ(リトアニア)
※足取りによるダイレクト反則負け
山部佳苗(日本)◯優勢[指導3]△イダリィス・オルティス(キューバ)
ニヘル・シェイキロウホウ(チュニジア)◯合技[浮技・縦四方固](4:00)△マリーナ・スルツカヤ(ベラルーシ)

【準決勝】

ユー・ソン(中国)◯優勢[指導2]△エミリー・アンドル(フランス)
山部佳苗(日本)○合技[浮落・横四方固](1:17)△ニヘル・シェイキロウホウ(チュニジア)

【3位決定戦】

ニヘル・シェイキロウホウ(チュニジア)◯上四方固(2:18)△サンタ・パケニケ(リトアニア)
エミリー・アンドル(フランス)◯優勢[有効・大内刈]△マリーナ・スルツカヤ(ベラルーシ)

【決勝】

山部佳苗(日本)○不戦△ユー・ソン(中国)

【日本代表選手勝ち上がり】

山部佳苗(ミキハウス)
成績:優勝

[2回戦]
山部佳苗○優勢[指導3]△カロリン・ヴァイス(ドイツ)

[準々決勝]
山部佳苗○優勢[指導3]△イダリス・オルティス(キューバ)

[準決勝]
山部佳苗○合技[浮落・横四方固](1:17)△ニヘル・シェイキロウホウ(チュニジア)

[決勝]
山部佳苗○不戦△ユー・ソン(中国)


取材・文:古田英毅/小林さとる

※ eJudoメルマガ版5月22日掲載記事より転載・編集しています。

→eJudoトップページに戻る
→「ニュース・マッチレポート」に戻る
→「書評・DVD評」に戻る




supported by KAYAC 運営会社サイトポリシー  RSS copyright (c) 2005 ejudo all rights reserved.