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【隔週刊・嘉納治五郎師範のひとこと】第5回

(2016年5月9日)

※ eJudoメルマガ版5月8日掲載記事より転載・編集しています。
【隔週刊・嘉納治五郎師範のひとこと】第5回
いかなる種類の試合にも共通であって、試合の最も大切なる目的は何かというと試合によってどれほど技術が上達したか、いかに体力が増したか、精神の修養とか工夫の力がどれほど進んだかというようなことを各自にも知り、指導者にも認めてもらう機会を作ることである
出典:「柔道試合審判規程の改正について」『柔道年鑑』 大正14年(1925)1月
(『嘉納治五郎大系』2巻,436頁)
 
前回の「嘉納治五郎師範のひとこと」では、柔道の目的に試合や競技が含まれていなかったことを紹介しました。では、試合は何のために行うのでしょうか。その回答のひとつを今回の「ひとこと」として取り上げました。

ここでは試合の目的を自分の成長度合いの把握、さらに指導者にもそれを知ってもらうこととしています。普段の稽古だけでは分かりにくいものを明らかにするための試合ということでしょう。

このことを示すエピソードが伝わっています。

嘉納師範のお弟子さんの一人に望月稔という方がいました。この方が若い頃、1日に2つの試合(大会)を掛け持ちし、それぞれ入賞しました。ところが、そのために師範と会う約束をうっかり忘れてしまいました。予定の時間を過ぎて慌てて師範の所にうかがうと、師範は時間に遅れたことを咎めることもなく「病気でもしたのか」と気遣われたそうです。その様子に安心した望月氏が2つの大会で入賞した話をすると、師範は以下のように一喝したそうです。

 おまえは試合というものを何と心得ておるか!試合というのは<試み合う>ということであって、
 自分の力がどれだけのものになったかということを試すためにあるんだ。
 一日に二度も試合をやらなきゃ自分の力が分からんのか。


何とも厳しい言葉です。時間に遅れたことへの戒めが含まれていないとも言えませんが、それでも師範の試合観がうかがえる貴重な証言ではないでしょうか(望月稔著『「道」と「戦」を忘れた日本武道に喝』より要約・引用)。

試合に関する師範の言説は、目的だけではなく試合態度や姿勢等についても数多く遺されています。それらも追々紹介していきたいと思いますが、今回の「ひとこと」と同じ資料内で、試合における優劣を判断する基準を、原則「修行上達の程度」と述べていることも併せて紹介しておきます(原文:「(試合は:筆者注)あくまでも修行の一方便であって、修行の道程においてどれほどまでおのれの力が進んだかを試みることを目的とするのである。してみれば、試合における優劣を判断する原則は、修行上達の程度の優劣でなければならぬ」)。

さて、ここで読者の皆さんにひとつ質問です。

俗に言う「柔道の競技(偏重)化」あるいは「勝利至上主義」というものは、いつ頃から始まったものだと思われますか?柔道がオリンピック種目に採用された東京五輪以降?第二次世界大戦の後?それとも、嘉納師範が亡くなった直後からでしょうか?

実は柔道が競技に偏重しはじめたのは嘉納師範が存命中からでした。講道館が創始された頃、試合は月次試合や紅白試合くらいしかありませんでした。ところが、その後、柔道修行者の爆発的な増加から試合の種類や数が増えることになり、その実態は師範が望むものとは異なっていきました。

嘉納師範が当時の状況を憂えていたことは、遺された言説から知ることが出来ます。今回取り上げた「ひとこと」もそうしたことを背景に持っていると言っても過言ではありません。しかし、師範の力を持ってしても、柔道の競技(偏重)化の流れを食い止めることは出来ませんでした。

現在、我々が嘉納師範の理想とした柔道を普及しようとした場合、それはかつて実在したものの復興、あるいは回帰の対象ではなく、講道館柔道の創始者であり柔道史上最大のカリスマである嘉納師範ですら実現できなかったものを目指しているということを心掛ける必要があると思います。

※読みやすさを考慮して引用は『嘉納治五郎大系』から行っています。


著者:元 敏季(ハジメ・トシキ)
1975年生まれ。柔道は中学校から始め、大学までは競技を中心に行うが、卒業論文を機に柔道の文化的側面に関心を持ち、大学院へ進学。凡そ10年、大学院・研究機関に所属するも、研究とは異なる分野の仕事に就き現在に至る。ライフワークとして嘉納治五郎に関する史料を蒐集・研究し、その成果を柔道振興のため発信しようとしている。

※ eJudoメルマガ版5月8日掲載記事より転載・編集しています。

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