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二連覇狙う原沢が代表候補の最右翼、直接対決の勝利に逆転選出賭ける七戸・平成28年全日本柔道選手権/リオ五輪100kg超級代表争い展望

(2016年4月28日)

※ eJudoメルマガ版4月28日掲載記事より転載・編集しています。
二連覇狙う原沢が代表候補の最右翼、直接対決の勝利に逆転選出賭ける七戸
平成28年全日本柔道選手権/リオ五輪100kg超級代表争い展望
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今年も全国から精鋭が日本武道館に集う

今大会の公式ポスターには原沢久喜(日本中央競馬会)と七戸龍(九州電力)の2人が大写し。昨年度の優勝者と準優勝者が竜虎相搏つ形のこのデザインに平成28年全日本柔道選手権の様相はまさしく端的。日本が世界に誇る最重量級の強者2人が柔道日本一の座を争い、そしてリオデジャネイロ五輪100kg超級のたったひとつしかない日本代表の座をめぐって戦う、これが今大会を貫く一大テーマだ。

大会展望に先立ち、まず「代表争い」という見出しで五輪代表の権利者である原沢と七戸のここまでの戦歴と現在の立ち位置を確認しておきたい。

■ 代表争い展望
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五輪代表候補は昨年度大会で決勝を争った原沢久喜と七戸龍の2人

世界選手権で2大会連続決勝進出を果たし国際的には「リネールの次」の座を確定していた七戸龍の頭を越えて、現在代表争いで大きくリードするのは原沢。

原沢は昨年の全日本選手権に初優勝。この「覚醒」が半月遅かった(同月初旬の選抜体重別は3位)ゆえ世界選手権の代表には惜しくも選ばれなかったが、以後はユニバーシアード(7月)優勝を皮切りに、グランドスラム・チュメン(10月)、グランドスラム・パリ(10月)、グランドスラム東京(12月)、そしてグランドスラム・パリ(2月)と連戦連勝。2014年12月のグランプリ青島、15年2月のヨーロッパオープン・ローマまでと合わせて実に国際大会7連勝中。

一方の七戸は2014年チェリャビンスク世界選手権決勝で、ここ数年崩れるシーンすら見せることのなかった絶対王者テディ・リネールを2度転がし、終盤には得意の大内刈であわや「有効」というシーンまで演出して大健闘。世界を驚かせたこの一番で国際的な存在感を一気に上げると、2015年アスタナ世界選手権でも当然のように決勝進出。ここ数年世界的に混迷していたリネール追撃の一番手の座を確定し、この時点ではリオ五輪代表の座は揺るぎないものと思われていた。

代表争いにおける2人の関係と地位が揺らぎ始めたのは28年度代表選考ステージが始まったグランドスラム東京。この大会の決勝で原沢は七戸をGS延長戦の末「指導」奪取で下して優勝を果たす。さらに2人が同時派遣されるというわかりやすい形で競わされることとなった2月の欧州国際大会(グランドスラム・パリ)ステージでは、七戸龍が準決勝でオール・サッソン(イスラエル)に担がれて一本負け、さらに3位決定戦も落として5位に沈む一方で、準決勝までを素晴らしい内容で勝ち上がった原沢は決勝も手堅く戦ってみごと優勝。同時出場の選考ステージ2大会で連続優勝を為した原沢がここに至って優位に立つ。

そして4月初旬の選抜体重別。準決勝まで連続一本勝ちで勝ち上がった原沢は決勝の直接対決で七戸から内股「有効」を奪って勝利、見事優勝を果たす。選考対象大会であるグランドスラム2大会で優勝(七戸は2位、5位)、さらに2つある最終選考会の一である選抜体重別に優勝、しかも直接対決で「投げる」という確固たる内容を以て勝利した原沢がついに頭1つのリードを得た、というのがここまでの流れだ。ほぼ代表権は原沢の手中にあるというのが一般的な評価であると言って良いだろう。ライバル七戸に直接対決で4連勝中という実績と相性もこの観測を強化する。

とはいえ、七戸にまったく可能性がないかというと実はそんなことはないと思われる。この階級には絶対王者テディ・リネールの存在という特殊事情があるからだ。
リネールの打倒は大袈裟ではなく日本柔道全体の悲願。これまでの「選考評」での言葉を使えば「ターゲット選手」との戦歴と相性が、他階級とは比べものにならないくらい重いはず。七戸はこの2年間で既にリネールと公式戦で3度手を合わせており、1度は勝利にあと一歩というところまで追いつめた実績がある。少なくとも対リネール戦のビジョンを描き易いというということは間違いなく、そういった主観性をさしおいても、いずれも選考評価対象大会である2014年と2015年の世界選手権で銀メダル(原沢は世界選手権出場歴なし、公式戦でのリネールとの対戦歴なし)という実績は、これぞという場合に七戸を後押しする材料としては十分。強化陣が「一人代表」としてのプレッシャーを受けた世界大会出場の有無を重視する傾向があることも忘れてはならない。

まとめると、

原沢は国際大会7連勝中で、選考対象の直近3大会にも全て優勝、この間競争相手である七戸に2連勝している。ただし世界選手権の出場歴はない。

一方七戸は対象2年間でのワールドツアー優勝は、実は2014年7月のグランプリ・ウランバートルと2015年2月のグランプリ・デュッセルドルフ2大会のみ。ただし原沢が出ていない世界選手権には2大会連続で出場していずれも銀メダル獲得、しかし直近3大会ではいずれも同時出場した原沢の後塵を拝し、直接対決でも連敗中(通算では4連敗)。

直近3大会の様相で原沢が一気に抜け出したが、有事あった際には七戸にも「頑張れる」だけの選考材料は十分揃っているとまでは考えておくべきだろう。

率直な観測を述べれば。原沢の頭1つ以上抜けた優位は間違いなし。ただし七戸が直接対決で“良い形”で原沢を下して優勝を飾れば選考は大いに揉めるという見立てを提示しておきたい。七戸にもチャンスあり、ただ逆に言えば、同時に七戸には原沢を投げて(あるいは抑えて)今大会に優勝するしかリオへの道は残されていないということでもある。七戸の今年度における不調は12月のグランドスラム東京で負った膝の負傷によるものという観測も衆目の一致するところであるが、この負傷の不安を解消してコンディション的にも「リオで戦える」ことを証明するにはやはり今大会で優勝するしか道はない。前述の対リネール戦における戦歴と作戦遂行に一定以上の目途が立つというアドバンテージも、ここを証明しておかないと水泡に帰す。

決勝での直接対決の実現の有無、そしてその様相が大きく両者の運命を分けることになるだろう。最後にもう一度繰り返すが、「原沢が大きくリードして代表権を大方手中に収めている状況、ただし決勝の直接対決で七戸が良い形で勝利すれば、選考はどちらに転ぶかわからない」。対決の実現なれば、昨今ここまで熱量の高いカードも稀、柔道史上に残る大一番となるだろう。まずは実現を熱望する次第である。

■ 大会展望
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昨年度大会優勝、以降明らかに一皮むけた原沢が優勝候補の筆頭

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七戸は今大会の初優勝に、逆転での代表選出を賭ける

【有力選手】

優勝候補の筆頭は連覇を狙う原沢。しっかり組み、真っ向内股で相手を引っこ抜くその本格派スタイル、そして技の力感と美しさ、さらに海外選手相手にもその戦い方を変えずに戦い抜けるタフさはまさしく日本重量級が待ち望んだ、その王道に連なる選手と評して良いだろう。昨年度の全日本選手権を制してからの成長ぶりはまさしく「一皮剥けた」と評するにふさわしく、戴冠後は国際大会5大会を含む全6大会全てに優勝、全勝無敗でここまで走り抜けてきた。選抜体重別での圧倒的な勝ちぶりから考えると、単純な実力比べだけで言えば原沢を凌ぐ選手はもはや姿を消しつつあると言って良いのではないだろうか。全日本選手権という磁場、リオ五輪代表最終選考会というプレッシャー、そして周囲、特に当面の的である七戸からの徹底マークというこの大会ならではの変数のみがその立場を危うくすると考える。

対抗するのはやはり七戸。こちらは原沢とは対照的に組み際の技、長身を生かした間合いの出し入れの中で飛び込むスピード豊かな一発が魅力。絶対王者テディ・リネール(フランス)を唯一追い込んだ男として国際的にも、そしておそらく強化サイドの評価も非常に高い。ロンドン五輪での惨敗後、焼野原と言って良い状態であった日本重量級を牽引し、誰が出ても「リネールの次」あるいはそこに近い位置まで勝ち抜けるというところまでそのレベルを引っ張り上げたのは間違いなく七戸である。その功績にふさわしい勲章は、いまだ果たせぬ全日本柔道選手権制覇、そして五輪代表の座しかない。昨年12月の膝の負傷以降フルパフォーマンスを発揮出来る状態にはないが、この最終決戦で、そして何より「的」である原沢戦でどのような戦いを見せてくれるかまことに楽しみである。

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相変わらず業師ぶりを発揮する上川大樹、東京選手権は素晴らしい内容での優勝だった

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今年も九州選手権を圧勝した西潟健太

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一昨年度大会の覇者王子谷剛志

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優勝候補との声もあがる中量級の強者・加藤博剛

この2強を追うのは相変わらず技の切れ味抜群、東京選手権では素晴らしい内容で優勝を飾っている上川大樹(京葉ガス)、同じく今年も九州選手権を制した「ハンドル投げ」マスター西潟健太(旭化成)、一昨年の王者王子谷剛志(旭化成)の重量級勢3名というのが識者の共通した評ではないかと思われるが、加えて中量級の選手から加藤博剛(千葉県警)の名を挙げておきたい。

平成22年大会の覇者である加藤は今年の関東選手権を素晴らしい内容で制し、以後も稽古の様子などを伝え聞く限りでは相当な仕上がりを見せている模様。選手間の評判も非常に高い。代名詞は「加藤返し」からの抑え込みだが、間合いの出し入れ自在の立ち技も相当に癖があり、この「癖」はむしろ大型選手にこそ効果的に発揮されるというこれぞ全日本向けという特徴を孕む。今大会最大の不確定要素と考えておくべきだろう。

優勝争いに絡む選手ということで以上6名の選手の名をまず挙げさせて頂き、組み合わせをA~Dの4つに分けて簡単にトーナメントを展望してみたい。

【Aブロック】

上側の玉に王子谷、下側の山に加藤が配された。両者の対戦は勿論垂涎だが、加藤には3回戦で重量級の強者・上田轄麻(新日鐵住金)戦という山場が一つある。かつて、加藤の調子の良し悪しは重量級の、特に体に勢いのある若手本格派選手との対戦をモノサシとして測り得た。抜群と噂される加藤の仕上がりを見極めるに絶好のカードと言えそうだ。

王子谷-加藤戦は不確定要素満載だが、事前予測としては体格に大きく勝る王子谷の勝利を提示しておきたい。

【Bブロック】

上側の山に七戸。ベスト8進出は既定路線だが、初戦(2回戦)でライバル原沢の後輩、一昨年の学生体重別100kg級王者制野孝二郎(日本大)と対戦する可能性がある。もし実現なれば、先輩原沢のために七戸を「削る」ことを目的として決死の覚悟で畳に上がるであろうこの選手を、膝の負傷ゆえ今年まだ1試合も本来の出来を見せられていない七戸がどう退けるのかに注目したい。「まず初戦をどう入るかが非常に大事」と七戸自身も全日本選手権における初戦の意味の重さを十分意識している様子、ここで一本勝ちなれば「負傷前」のパフォーマンスへのリカバリーのきっかけになるであろうし、もたつくようであれば以後も厳しい戦いが続くのではないか。

下側の山からは、昨年1年生で学生体重別を制した大物・小川雄勢(明治大)の勝ち上がりに期待したい。初戦で小林督之(旭化成)か一戸勇人(北海道警)、3回戦は長澤憲大(パーク24)か田中大貴(新日鐵住金)と相手はいずれも強者、仮に勝ちぬいて準々決勝に進んだとしても選抜体重別における直接対決の様相を見る限り七戸攻略は難しいと思われるが、どこまで戦えるか注目して見守りたい。

【Cブロック】

上側に西潟健太、下側に上川大樹が配されたブロック。西潟は2回戦で尾原琢仁(筑波大)、上川は3日戦で近畿地区王者の小川竜昂(新日鐵住金)という好選手との対戦があるが、力関係に相性まで加味して両雄の準々決勝での対決は既定路線だ。

上川のある種繊細な投げの作りを西潟の左右にこだわらぬ傍若無人な「獣人」っぷりが塗りつぶす、と予想したいところだが、選抜体重別の対決では上川が出足払「有効」から抑え込んで完勝。この試合では上川の出来の良さもさることながら西潟の元気のなさが際立っていた。ここは延長線を引く形で上川の勝利を推す。

【Dブロック】

上側の山は31歳となったもと選手権者高橋和彦(新日鐵住金)、100kg級の長身選手下和田翔平(京葉ガス)、そして百瀬優(旭化成)が配されたマッチレース。2回戦で実現濃厚な下和田-百瀬は、無差別で戦い抜くには線の細い下和田に百瀬の「組み手にこだわる圧力行動」が噛み合って百瀬の勝利と見るが、準々決勝の予想は難しい。年を経るごとに柔道の面白さが増して良い意味での不確定性のある髙橋、一方若い頃からその溢れるパワーを組み手を通じてアウトプットするという一種老成した柔道を披露して来た百瀬という構図だが、このところ百瀬の側に元気がない。「出力」の源であるパワーや貪欲さを失いつつあるという印象であるが、例えばライバル上川との試合ではスポット的にイキイキしたところを見せることもありこの試合でどちらの目が出るかが1つの見もの。ベテラン高橋の面白さを若い百瀬の老成が塗りつぶすと考え、事前予測としては百瀬を推しておくが、勝敗の行方は予想つき難し。

下側の山の勝ち上がり候補は勿論原沢であるが、初戦が厄介。垣田恭兵(旭化成)もしくは吉永慎也(新日鐵住金)という大会きっての曲者2人が過たずその直下に配された。原沢は「大きい相手のほうがやりやすい」と公言する典型的な本格派であり、一方の垣田と吉永はまさしく無差別でこそその個性を発揮できる試合巧者。原沢が大事な初戦で、担ぎも出来て後の先も上手いこの2人をどう追い詰めるか、注目である。

ベスト4進出者には、原沢を推す。

【準決勝-決勝】

準決勝は王子谷-七戸、上川-原沢の2カードの実現濃厚。

王子谷の下から突き上げるような前進行動は、七戸にとっては厄介。ただし、両者ともに本調子ではなかった選抜体重別において、より我慢が利いたのは七戸。沈下ラインを最低限に押しとどめたその精神力と五輪代表奪取に掛けるモチベーションの高さ、そして今年の王子谷の元気のなさを乗算してここは七戸の勝ち上がりを推したい。

逆側の山は、選抜体重別の直接対決で2度投げつけた勝ちぶりの良さから延長線を引いて、原沢の勝ち上がりを予想する。上川得意の「際」をもどっぷり塗りつぶした原沢の地力の高さは、アクシデントの現出をもはやゆるさぬレベルにあると見る。

決勝はこれまでの戦いぶりから考えれば原沢が有利。選抜体重別で投げているという直近の結果、そして直接対決4-0という圧倒的な星取りもさることながら、何よりグランドスラム東京でもっともわかりやすい形で見えた「組んで勝負したい原沢」「究極的には(両者にチャンスのある)組み合いを嫌い、組み際に勝負したい七戸」という構図がその因である。七戸が組み直し、次の攻撃行動のために取る「助走」は空間的にも時間的にも細かい空白を生み、その隙間に原沢の前進行動が染みていく。原沢の、自身の地力を信じ切った前のめりは、今のところ七戸の側にとっては相性が悪い。攻撃のための行動がそのまま原沢の優位を吸い込んでしまう感ありだ。

原沢の確信的な前進と「持つ」ことへのこだわりは、地力とスタイルに対する自信ばかりではなくこの構図を読み切った作戦行動としての側面も色濃い。これは七戸サイドも重々承知しているはずで、これを跳ね返す具体策としていかなる手立てを用意してくるのかが今対戦最大の焦点。七戸個人の地力と技量もさることながら、大枠の構図を何らか動かさねばならぬ立場にあってどのような作戦を考え、そして投入してくるのか。ここが最大のみどころではないだろうか。

この決勝には五輪代表権の獲得が掛かるが、原沢にとっては久しく現れていない全日本選手権連覇者という柔道史上の栄誉に連なる人生幾度もないチャンスであり、七戸にとっては悲願の全日本選手権初優勝に挑む場でもある。五輪代表争いを抜きにしても、全日本選手権という伝統ある場にふさわしい、熱量と迫力のある戦いの実現を望みたい。

文責:古田英毅
Text by Hideki Furuta

※ eJudoメルマガ版4月28日掲載記事より転載・編集しています。

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