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ドラマは最終章の決勝に凝縮、優勝奪還の山部と立ち上がれず涙の田知本・第31回皇后盃全日本女子柔道選手権大会戦評

(2016年4月19日)

※ eJudoメルマガ版4月19日掲載記事より転載・編集しています。
ドラマは最終章の決勝に凝縮、優勝奪還の山部と立ち上がれず涙の田知本
第31回皇后盃全日本女子柔道選手権大会戦評
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開会式。昨年度大会王者の田知本愛を先頭に精鋭37名が入場。

体重無差別で女子柔道日本一を争う第31回皇后盃全日本女子柔道選手権は17日、横浜文化体育館(横浜市)で、今年も全国10ブロックの予選を勝ち抜いた精鋭37名が集って開催された。

大会を貫く大きなテーマは昨年度王者の田知本愛(推薦・ALSOK)と準優勝者の山部佳苗(推薦・ミキハウス)の対決、そして五輪代表争いの行方。言うまでもなく今大会はリオデジャネイロ五輪柔道競技78kg超級の最終選考会を兼ねており、皇后盃の行方は代表争いに直結することになる。

国際大会の圧倒的な実績から代表の最右翼と目される田知本、直近の国際大会に連敗しながらも2週間前の選抜体重別を制して今大会の優勝に僅かな望みを掛ける山部とそれぞれの事情を背景に、ともに2回戦からの登場となった候補2人は序盤戦をしっかりと勝ち上がる。

ベスト4に勝ち上がったのは、梅津志悠(九州・三井住友海上)、山部佳苗、田知本愛、市橋寿々華(大阪府警)。

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準々決勝、梅津志悠が緒方亜香里から大内刈「有効」

梅津は、選抜体重別2位で東京都予選優勝者・朝比奈沙羅(東海大2年)の欠場を受けて大混戦となったAブロックからの勝ち上がり。まず2回戦で秋場麻優(北海道・環太平洋大1年)から内股で2つの「有効」を奪った末に崩袈裟固で一本勝ち(4:10)、3回戦は佐俣優依(帝京大3年)を「指導1」対「指導3」の優勢で破り、迎えた準々決勝では緒方亜香里(関東・了徳寺学園職)と対戦。平成25年大会王者、今日も尻上がりに調子を上げて来て優勝争いに絡む気配十分のこの強敵に対ししかし梅津は引かず、「指導1」ビハインドの57秒に右大外刈で勝負に出る。緒方が梅津を腹に載せて持ち上げて返そうとすると体を入れ替え、着地すると大内刈に切り返して「有効」奪取、そのまま抑え込んで崩袈裟固「一本」を得るに至った。高校を卒業したばかりの新人梅津、同じ78kg級の超大物・緒方を食って見事準決勝進出決定。

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2回戦、山部佳苗が烏帽子美久から払腰「有効」

山部の初戦は異常に気合いの入った試合ぶり、2回戦から強敵烏帽子美久(東京・JR東日本)を得意の払腰「有効」から横四方固に抑え込み、僅か52秒で一蹴。しかし3回戦では菅原歩巴(東北・盛岡農高教)の図太い柔道を抜けず、「指導2」対「指導1」で6分間が終了、旗判定3-0でなんとか勝利を収めるという辛勝。準々決勝の藤原恵美(関東・筑波大4年)戦も、どちらも拮抗のまま試合を壊せず、双方に得点の予感ないまま藤原が「指導2」、山部が「指導1」を失って試合終了。旗判定は3本が揃い、山部が準決勝進出決定。

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2回戦、田知本愛が髙橋千尋から払腰「有効」

田知本は2回戦で初出場の髙橋千尋(監督・国際武道大4年)から4分58秒に奪った左払腰「有効」で勝利という立ち上がり。ここぞと見るや瞬時に相手の体に乗り込む技の切れ味はさすがだが、相当に慎重な試合ぶりであった。3回戦も70kg級の松延祐里(東京・JR東日本)を詰めきれず判定3-0という辛勝に終わったが、準々決勝はケンカ四つの井坂希望(関東・千葉県警)が奥襟を叩いた瞬間釣り手を巻き返し、この日初めてまともに相手に力が伝わる形を作るなり得意の左足車一閃。1分37秒「一本」で試合を決め、気を良くして準決勝の畳に向かう。

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2回戦、町純香が稲森奈見の裏投を切り返し浮落「技有」

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3回戦、市橋寿々華が橋高朱里から得意の「ハンドル投げ」で「有効」

Dブロックは、市橋の逆側の山が荒れた。2回戦では勝ち上がり候補の稲森奈見(関東・三井住友海上)が町純香(九州・光仁会病院)に得意の裏投を狙われ、いずれもこの技に対する切り返しの浮落で「技有」「有効」と連続失陥。2度目のポイントの際に町がそのまま横四方固で抑えて一本勝ちを果たし、大アップセットが完成した。3回戦ではその町を63kg級の選抜体重別王者・能智亜衣美(関東・筑波大3年)が図太い柔道で完封、旗判定3-0で勝利を収める。

市橋は1回戦で新添左季(山梨学院大3年)を誘い込んでその内股を透かし、支釣込足「技有」からの横四方固で一本勝ち(3:48)、まずは文句のない立ち上がり。山場の2回戦では月波光貴穂(東京・帝京大3年)を判定2-1の優勢、3回戦は橋高朱里(北信越・金沢学院大3年)を浮落「有効」優勢、そして準々決勝はここまで大健闘の能智を旗判定3-0で下してベスト4入り決定。常に両足を畳から離さず相手を追い詰めていく「ハンドル柔道」は相変わらずの安定感、決して爆発的ではないが、スコア以上に危なげのない勝ち上がり。

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準決勝、山部佳苗が梅津志悠を足車「一本」に仕留める

準決勝第1試合は梅津、山部ともに右組みの相四つ。

山部は体格と力関係の差を織り込んで強気の両襟で前進。梅津支釣込足を閃かせるが、山部は前進を止めず仕掛けた梅津の方が吹っ飛んで伏せ「待て」。

梅津釣り手が良く動く。この右釣り手を振って支釣込足、大外刈と立て続けに仕掛けると、三の矢の右内股から巻き込みを狙って潰れ「待て」。経過時間は28秒。

ここまでは梅津が健闘、しかし続くシークエンスであっさり試合は決着。両襟でまず距離を詰めた山部が万全の組み手から得意の右足車、膝を止められた梅津は山部の力をまともに受けて一回転「一本」

体格差に怖じずに王道の「投げに行く柔道」から試合に入った梅津はこの試合も自分の良さを存分に発揮。しかし山部にとっては小さい相手が組んで勝負に出てくれるという、戦い易い試合となってしまった。

高校時代から強豪として名を売った梅津であるが、この日の活躍は間違いなくキャリアナンバーワンの存在感。卒業して所属を変えるなりのこの大活躍、以後が非常に楽しみな選手だ。

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準決勝、田知本愛が市橋寿々華を左払腰で攻める

準決勝第2試合は田知本と市橋、東海大の同門同期の2人による重量級対決。
田知本が左、市橋が右組みのケンカ四つ。田知本両襟で前へ、市橋がこれを「人」の字で組み止め続け、動きは少ないが消耗は多いこれぞ重量級というクラシカルな展開。出足払での蹴り合いが続いた57秒。双方に「指導1」。中盤、田知本が両襟の左払腰に引き手で袖を得ての左体落と立て続けに攻撃、市橋が小外刈と支釣込足で応じるとこの攻防をきっかけに田知本の圧がまともに利く形となり、市橋の頭が下がる。「待て」で開始線に戻った市橋は息を荒げて疲労の色が明らか、どうやら分水嶺が訪れたかに思われたが田知本はここで仕切り直した市橋の圧を受け入れてしまい、またもや山場を作ることが出来ない。

双方引き手の手を握り合わせるなどわかりやすい形の膠着が続いた4分32秒双方に「指導2」。残り30秒を過ぎると双方明らかに無理をせず、離れて対峙する時間が増えてそのままタイムアップ。評価のしどころの少ない試合であったが、「田知本の前進を市橋が止める」という田知本がやや前のめりであった大局、そして先手志向が買われる形で旗判定は3-0。田知本が優勢で辛くも勝利を収め、決勝へと駒を進めることとなった。

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決勝、山部と田知本は「人」の字で止め合い相譲らず

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田知本攻めるが山部はあくまで崩れない

優勝候補同士の直接対決実現となった決勝は昨年と同カード。山部が右、田知本が左組みのケンカ四つ。

山部組み付いて内股で先制攻撃、以後数合のやりとりを経て山部が釣り手で上から、田知本が下から持ち合ってガッチリ互いの前進を止め合う形となる。山部が腰を切る前技の踏み込み、応じた田知本が腹を出して弾くというやりとりがあって再び双方不動の止め合い。主審は53秒、両者に「指導1」を宣告。

奮起した山部猛然と前に出て奥襟を叩くが、田知本ガッチリ止めてこちらもジワリと前進。得点の気配の薄いスタティックな展開だが、山部が右体落、引き続き大外刈を探って刈り足を伸ばす牽制、さらに右の足車と散発ながら「狙う」技を続ける。田知本が相手の右足車を受けて引き手を切り、仕掛けた山部が潰れたところで主審は試合を止める。1分43秒田知本に「指導2」。

以後は組み手の作り合い、位置の取り合い、そしてそれに引き続いての散発的な攻め合い。田知本が支釣込足に払腰と仕掛けて技数としてはやや分がある印象だが、山部は攻防のディティールまで集中力が行き届いており、崩れる場面はほとんどなし。

しかし残り2分を切ったところからジワリとペースは田知本。残り1分34秒では強烈な支釣込足で山部の脚を蹴り、一段勝負の針を自身に傾けた印象。山部ここで譲ってはならじと腰を切るフェイントを2度入れ、前進して立て直しを図る。

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残り50秒、左膝を痛めた田知本は「待て」が掛かっても立ち上がれない緊急事態

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ガクリと膝を折った田知本を山部容赦なく押し込み隅落「技有」

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合技「一本」で山部の勝利が確定

そして両者の運命分かれたのは残り50秒。田知本が出足払で自らの足を思い切り振り、山部が左払腰で蹴り返した直後「待て」が掛かると田知本はうずくまったまま立てない。主審に促されて立ち上がろうとするが左脚に力が入らない模様で苦悶の表情、開始線に戻ることすらままならない。

会場戸惑う中「始め」が宣告されると田知本は左足を引きずり、この段に至って負傷、それも重症であることが明らかとなる。場内はどよめき、異様な雰囲気に包まれる。

それでもこのまま立って試合を終えれば五輪代表が手に入る可能性大の田知本、必死の形相で前へ。両襟で相手を組み止め、これまでと同様組み合い、止め合ったまま時間の消費を図る。

しかしやはり怪我は重症。相手の前進と圧に耐え切れず自らガクリと膝を折って畳に崩れると、山部は容赦せず上半身を制しながら一歩進んで真裏に押し込み「技有」。そのまま横四方固に抑え込む。足の利かない田知本はもはや抗すること叶わず、ついに6分2秒合技の「一本」が宣告される。

どうしても「一本」取るしかない難しいミッションを果たした山部は笑顔で立ち上がる。一方抑え込まれて立てない田知本はそのままの姿勢で悔し涙。

田知本が担架で運ばれ、山部の勝利が宣告される。第31回皇后杯全日本女子柔道選手権大会は意外な形で決着。山部が2年ぶり3度目の皇后盃制覇を果たすこととなった。

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準決勝までは率直に言って熱量少なき大会。山部と田知本の主役2人の勝ち上がりも決して良いとは言えず、審判傾向によっては、というよりも2人の決勝進出というシナリオ的な前提条件が審判の頭の中に刷り込まれた「アドバンテージ」がなければもっと揉めたはずの試合多く、途中敗退も十分あり得た内容であった。2人の低調、皇后盃の行方自体よりも五輪代表争いに注目が集まる状況、そしてその肝心の五輪代表争いはもはや田知本の選出がほぼ確定的というバックグラウンド。さらに2人を追う立場の若手2人が優勝争いに絡まず(朝比奈沙羅は負傷で不在、稲森奈見は早期敗退)となればこの盛り上がりの少なさもわからないでもないが、決勝では予測をはるかに超えるドラマがセットされていた。あたかもそれまでの試合に掛かるべき全ての熱量が決勝に凝縮されたかのようだ。コーチ陣は田知本の勝利、あるいは山部の優勢勝ち、はたまた山部の一本勝ち、あらゆる事態を想定して選考の準備をしていたであろうと思われるが、さすがに「直接対決における田知本の負傷、立ち続けられずに一本負け」という事態は想像し得る範疇になかったのではないだろうか。ロンドンから4年の長きに渡って続いた五輪代表レース、その最後のゴールとなるべき試合で、これ以外にはないという異常なシナリオでほぼ手中に収めていた代表権を手放すこととなった田知本の心中は察するに余りある。歓喜の表情で立ち上がる山部、動けず涙したまま搬送される田知本という絵は勝負の厳しさという一言だけでは表現できない、あまりに残酷な対比であった。

大会終了後に開催された強化委員会の結果、大方の予想を覆して五輪代表は山部に決定。選考についての評は既に書いたのでそちらに譲り、ここでは「もう試合が怖くなくなった」ときっぱり語った日本代表・山部の活躍に期待すると書くにとどめる。

大会全体を通しては、梅津と能智の若い2人の活躍が目立った。試合ごとに調子を上げて来ていたもと王者緒方、王者山部を相手に危険な場面なく安定感を見せつけた藤原の活躍もあったが、若さと「攻めること」への貪欲さを買ってこの2人を敢闘賞に挙げておきたい。

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2年ぶり3度目の皇后盃を手にした山部佳苗

【入賞者】

優 勝:山部佳苗(ミキハウス)
準優勝:田知本愛(ALSOK)
第三位:梅津志悠(三井住友海上)、市橋寿々華(大阪府警察)

山部佳苗選手のコメント
「自分が出来る全てをここで出そうと思っていました。何が何でも『一本』を取ろう、どんなことをしても取ろうと思っていた。絶対優勝するという強い気持ちでやってきたので、勝てて本当にうれしい。今日初めて会社の方々が応援に来てくれて、その前で結果が出せたこともうれしいです。去年は声援が聞こえていたのに、一歩引いてしまった。『今年は行かないと』と思えました。1年間、去年なぜ一歩いけなかったのかとずっと悔しくて、その思いがあったから勝てたのだと思います。(-田知本選手の負傷については?)相手がどうであろうと自分は一本勝ちしかない。残り50秒、どうやって『一本』を取ろうとばかり考えていて夢中でしたし、そのためには手段を選んではいられない。やりづらさは全くありませんでした。(-グランドスラム東京、グランドスラムパリとは戦いぶりが違いましたが?)あれは『畳の上にあがるのが怖い』という自分に負けてしまいました。結果を恐れていたし、これでもしオリンピックが決まってしまったら?変な試合をしてしまったら?と全てが怖かった。稽古する畳ですら怖かった。パリで負けたあと、それを受け入れられたのが大きい。もう怖くありません。どんな状態でも薪谷コーチが話を聞いてくれて、色々な本を読んだりビデオを見たりして、これまで自分が怖さをため込んでしまい、回りに出せていなかったことがわかった。受け入れられるようになったから、もう怖くない。0.1%でも可能性があるなら代表を掴みとって、金メダルを狙いたい※」

※コメントは試合終了時、五輪代表決定前のもの

【準々決勝】

梅津志悠(三井住友海上)○崩袈裟固(2:19)△緒方亜香里(了徳寺学園職)
山部佳苗(ミキハウス)○優勢[判定3-0]△藤原恵美
田知本愛(ALSOK)○払腰(1:37)△井坂希望(千葉県警察)
市橋寿々華(大阪府警察)○優勢[判定3-0]△能智亜衣美(筑波大3年)

【準決勝】

山部佳苗○足車(0:45)△梅津志悠
田知本愛○優勢[判定3-0]△市橋寿々華

【決勝】

山部佳苗○合技[隅落・横四方固](6:02)△田知本愛

※ eJudoメルマガ版4月19日掲載記事より転載・編集しています。

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