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リオ五輪柔道競技78kg超級日本代表争い/トーナメント展望・第31回皇后盃全日本女子柔道選手権

(2016年4月16日)

※ eJudoメルマガ版4月16日掲載記事より転載・編集しています。
リオ五輪柔道競技78kg超級日本代表争い/トーナメント展望
第31回皇后盃全日本女子柔道選手権
■ 五輪代表争い
田知本愛(ALSOK)の代表選出が確定的な状況。ライバルとして山部佳苗(ミキハウス)の名前が挙げられるが、今大会に素晴らしい内容で優勝したとして、それでもようやく候補者として議論の俎上に挙げられるかどうかという状況ではないかと推測する。

最重量級を除く男女それぞれ6階級の日本代表は今月初めに行われた全日本選抜柔道体重別選手権の大会後に選考されたが、この際の強化委員会で出された「コーチ案」に一貫してあった方針は、これまでの世界選手権および国際大会の成績とターゲット選手への星取りという客観的なデータを挙げて、まず第一にその比較を以て選出の論拠とするというもの。五輪で戦うのはもちろん海外選手でのみあり、この方針は非常に論理的。国内大会での成績比較はたとえば強化委員会で「決定戦として設定した」との旨説明があった70kg級のように、国際大会での成績が拮抗している場合のみ行われたという形であった。

田知本は2014年チェリャビンスク世界選手権で3位、2015年アスタナ世界選手権では決勝まで勝ち進んで2位。昨年12月のグランドスラム東京は欠場したが、冬季欧州国際(グランドスラム・パリ)ではしっかり優勝を飾っている。このグランドスラム・パリではターゲット選手である現役世界王者ユー・ソン(中国)、ユーと激しく代表を争うマー・スース(中国)の2人にまとめて勝利しており、かつアスタナ世界選手権準決勝ではロンドン五輪から世界大会を3連覇したイダリス・オルティス(キューバ)を下してもいる。オルティスは大会によってまったく強さが違う出来不出来の激しい選手であるが、世界選手権で「手を抜く」ことは一切なくこの大会ではむしろ過去にないほどの凄まじい出来を見せていた。実はロンドン以降の4年間で「本気のオルティス」に勝利したのは世界を見渡してもこの田知本だけである。

少々主観が入り込んだのでデータに話を戻すと、手元で確認できる田知本のターゲット選手に対する星取りはユーに対してロンドン以降の2013年からこれまで3勝2敗(2011年の対戦でも勝利しておりこれを入れると4勝2敗)、マーに対して1勝0敗、オルティスに対して3勝1敗(うち世界選手権で1勝1敗)というもの。2013年以降敗れた海外選手はユー、オルティス、マリアスエレン・アルセマン(ブラジル)の3名で計4敗。

一方の山部はチェリャビンスク世界選手権で7位、アスタナ世界選手権では3位。昨年12月のグランドスラム東京は2敗して7位、冬季欧州国際大会は田知本と同じグランドスラム・パリに派遣されたが初戦で若手のマレーン・エルブ(フランス)に一本負けを喫してしまい入賞には絡めていない。ターゲット選手との2013年からの星取りは、ユーに0勝2敗、マーに1勝0敗、オルティスに1勝0敗。ちなみにオルティスとの対戦は2013年12月のグランドスラム東京であり世界選手権での対戦はない。敗れた海外選手は前述のエルブ、ユー、アルセマン、ヤスミン・クルブス(ドイツ)、エミリー・アンドル(フランス)の5名で計9敗。

これだけ実績、特に直近の国際大会の成績に差があれば、国内大会での比較論にまで話を進めることがそもそも難しいのではないだろうか。山部はグランドスラム東京の2敗で次のステージである冬季欧州国際の派遣がなくなってもおかしくない状況であったが、それでも送り込まれてチャンスを貰ったグランドスラム・パリで初戦敗退。ただでさえ田知本優位の状況、追いかける立場で迎えた二次予選でこの成績は決定的だ。

それでも敢えて、山部を推す論拠がないかを考えてみる。実績で水を空けられているのであれば、最高到達点の高さという食らいつき方がある。山部の武器は一種女子選手らしからぬ抜群の技の切れ味にあり、力関係に関係なく誰でも一発放る可能性がある。皇后盃で素晴らしい勝ち方で優勝すれば議論が揺れる余地があるのではないか。

しかし、「プレッシャーが掛かる一発勝負での高い到達点」というこの観点では、山部は二度の世界選手権で明らかにミソをつけてしまっている。チェリャビンスクでは2敗して7位に終わった後の団体戦で、アスタナでは準決勝で敗れた後の3位決定戦で吹っ切れたパフォーマンスを見せたが、「負けてから頑張り直す」と関係者が評したこの2大会に共通した戦いぶりが、敢えて田知本優位をひっくり返す難しい議論の援護射撃になるとは思えない。この先は私見だが、強化にはむしろ、うつむきながら畳に現れ驚くほどおとなしい試合ぶりで周囲をやきもきさせ、そして敗れた世界選手権の「頑張り直す」以前の戦いのほうの印象が強いのではないだろうか。選抜体重別の優勝は実績としては一つのリカバーだが、山部自身が「思い切りが足りなかった」と振り返ったように、自身の長所である投げの威力をアピールするような戦いぶりではなかった。

というわけで、田知本の圧倒的優位は動かず。実は五輪代表「争い」という視点でこの大会を捉えるのは難しく、どちらかというと、プレッシャーの掛かる場でどう戦うかという課題を与えられた代表候補田知本の「認定試験」という色合いが濃い。山部の逆転には空前絶後の出来での勝利、それにプラスしての予想を超えるアクシデントが必要だ。

■ トーナメントひとこと展望
田知本はCブロック、山部はBブロックに配されて対戦あるとすれば決勝。大雑把に言って、比較的癖のない、自身の実力が反映されやすいオーソドックスタイプの重量選手との連戦が予想される田知本に対し、山部の側には少々面倒な選手が揃ったという印象。

【Aブロック】

朝比奈沙羅が欠場しトーナメントの重心が下側の山に大きく傾いた。
その下側の山、山本沙羅と緒方亜香里が戦う2回戦が最大の山場。勝者がベスト4に進むと見てほぼ間違いないかと思われる。不確定要素は受けが柔らかく試合力のある泉真生。

【Bブロック】

山部は下側の山に配置。2回戦で烏帽子美久、3回戦では安松春香、準々決勝では滝川真央との対戦が濃厚。動きの良い安松はかえって山部の投技が効きやすいという見方もあるが、組み手と間合いの出し入れが上手く面倒な相手。重量級の強者で意外性もある烏帽子、下からの担ぎで粘る滝川は両者ともに不確定要素を孕む選手だ。勝ち上がり自体は間違いないが、「勝ちぶりの良さ」までが要求される立場の山部がどんな柔道を披露するかが非常に楽しみ。

【Cブロック】

田知本は下側の山に配置。初戦は高橋千尋、2回戦は畑村亜希か松延祐里、3回戦は日高美沙希か井坂希望との対戦が濃厚。それぞれ異なるキャラクターの選手だが、重量級相手に粘っこい試合が出来て足技の利く井坂以外はどちらかというと攻撃型。力的にも相性的にも田知本が揉める要素はほとんどないように思われる。

【Dブロック】
稲森奈見と市橋寿々華による準々決勝がもっとも実現性の高いカード。市橋の側には2回戦の月波光貴穂戦という厄介な試合があり、これがブロック中もっとも不確定要素の高い試合と見る。

【準決勝-決勝】

山部の相手の第一候補は山本沙羅。ケンカ四つではあるが、技一発で勝負に来る山本は山部にはやりにくい相手とは思われず、きちんと力が発揮できれば勝敗自体は揺るがない。緒方亜香里がマッチアップする可能性もあるが、緒方は負傷前の図太い柔道をまだ取り戻せておらず、どちらかというと一発飛んでしまう受けの脆さという負の要素が増幅されている感あり。山部の攻撃力に分がある。

一方の田知本、相手が市橋であれば順行運転での勝利が見込める。稲森の場合はここからが五輪代表の認定試験スタート、後の先が強い稲森に対して、一発投げることが出来なくてもきちんと先に攻めて状況を積む試合が出来るかどうかが焦点。

【決勝】

山部と田知本の対戦を予想する。
ここまで場が煮詰まれば、精神的に有利なのはもはや後がなく吹っ切れざるを得ない山部の側ではないだろうか。後の先が強い山部、何度も内股透で苦汁を飲まされたライバル山部に対して、田知本が勇気をもって攻め込めるかどうか、これが最大のみどころだ。

筆者は、ロンドン五輪代表争いの際、候補の誰もが煮え切らないと評されていたこの女子最重量級にあって代表選出の最大の焦点となるべきは、五輪で戦えるだけの「勇気のポテンシャル」を見せることが出来るかどうかだと書いた。

そのロンドンに出場叶わなかった田知本が4年の時を経て、この最後のステージでどんな試合を見せてくれるのか。片足を挙げただけで、投げようと踏み込めば踏み込むほど鋭い透かしの一刀を振るってくる怖い山部に対してどんな戦いを見せてくれるのか。

また、勝つしかない立場に追い込まれ「思い切りを出すためにやってきた」とこの苦しい2週間を振り返った山部が一体どんな吹っ切った試合を見せてくれるのか。熱戦を楽しみに待ちたい。


文責:古田英毅
Text by Hideki Furuta

※ eJudoメルマガ版4月16日掲載記事より転載・編集しています。

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