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【eJudo's EYE】選出は順当、炙り出された選考上の問題点は軒並み同じ方向指す・リオデジャネイロ五輪柔道競技男女6階級代表選考「各階級評」

(2016年4月6日)

※ eJudoメルマガ版4月4日掲載記事より転載・編集しています。
【eJudo's EYE】選出は順当、炙り出された選考上の問題点は軒並み同じ方向指す・リオデジャネイロ五輪柔道競技男女6階級代表選考「各階級評」
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【各階級評】

前段の「全体評」に引き続き、簡単に各階級評を試みる。階級によって選考の状況と説明すべき点はもちろん大きく異なり、割くべき字数と情報量もかなりの差がある点をご容赦頂きたい。具体的には字数のほとんどを60kg級と66kg級に割いた。

公開で行われた強化委員会の様子も改めてお伝えする。前提として会議の進行方式を説明しておくと、まず代表監督がコーチ会議の結果を受けた「コーチ案」として代表選手1名を挙げ、その推薦理由を説明。これに対して強化委員からの意見を求め、議論した上でコーチ案の承認を求めるというもの。

繰り返すが、選考にあって紛糾した階級はない。この強化委員会にあっては意見が割れる、あるいは紛糾した場合には多数決(過半数の賛同)を以て決定する、それでも決まらない場合には委員長裁定とする、との手順と手続きが冒頭明確に示されたが、この段階に至った階級はひとつもなかった。ざっくり言って、定められたルールに則って論理的に選考が行われたからである。全体評で伝えた通り、異見は「次回以降の制度の見直しを訴える」あるいは「一言苦言を呈す」という体のもので散発。実情を観察した上で選考の制度設計に意見を述べるのは強化委員としては当然のことでこれはむしろ建設的な行為だ。センセーショナルな見出しを以て、あたかも強化委員会の議題枠を超える異常な激論がかわされたかのように煽り立てる記事を見かけたが、これはミスリード。真面目な読者は惑わされないでもらいたい。

[60kg級]
日本代表選手:髙藤直寿
補欠選手:志々目徹

髙藤直寿が順当に選出された。13年リオ世界選手権1位、昨年は世界選手権に不出場ながらツアー最上位大会であるワールドツアー(5月)、ツアーきってのハイレベル国際大会であるグランドスラム・パリ(10月)、グランドスラム東京(12月)と全て圧勝優勝しており、つまりは過去の世界大会の実績に直近の国際大会の成績とほぼ文句のない内容。

以後の階級のやりとりを紹介する際のテンプレートになるかと思われるので、まず強化委員会におけるコーチ側による高藤の推薦理由とそれにまつわるやりとりを紹介したい。

強化委員会においては、もう1人の候補者で冬季欧州大会まで競らせて来た志々目徹との比較データとして直近3年間の国際大会の成績が挙げられた。髙藤は10戦エントリーして8回優勝、志々目は11戦エントリーして4つの優勝。併せて現役世界王者のイェルドス・スメトフ(カザフスタン)との対戦成績も参考データとして説明され、髙藤は2戦2勝、志々目は6戦2勝4敗。「よって『五輪で金を目指すうえでもっとも可能性がある選手』は髙藤と考える」というのがコーチ側からの推薦理由。

強化委員から出された異見は、1つが「選抜体重別における一本負けとグランプリ・デュセルドルフの欠場はマイナスではないのか?」というもの。至極当然の意見であり、ここに言及せずになんの強化委員会かという真っ当過ぎる苦言だ。(コーチ側からの説明は「これを含めて総合的に判断した」というものであった)
もう1つは、「志々目は欧州国際大会(グランドスラム・パリ)と選抜体重別の2つで優勝した。与えられたチャンス全て優勝したのに、高藤の過去の実績が上であることを理由に選ばれないということは、欧州派遣の時点で高藤の選出は決まっていたということなのか?であればその時点で内定を出すという形を採るべきなのではないか?」というもの。

これは全階級を通したもっとも大きな問題の一つであり、異論としてまったくもって正当過ぎるほどに正当。世界選手権3位の成績を残した志々目が、グランドスラム東京という予選の篩を潜り抜けてなお欧州シリーズに派遣されるということはその時点での「挑戦権」が確保されているというメッセージと解釈されて当然であり、かつ髙藤の選出根拠として挙げられた大会の全てがこの欧州以前のものであること(以後の高藤の成績は欧州欠場と選抜敗退であり積み上げはゼロ)である以上、この部分の説明はあって当然然るべき。そして一貫して真摯に選手に対峙している現強化側がこの「制度上内定を(出したくても)出せない」という問題について葛藤していないわけがない。非常に痛いところを突かれたはず。次回以降の選考における制度設計の課題とする旨の回答があったが、これは単なる無難な「議論を終わらせるための答え」ではないはずだし、そうあってはならないはずだ。

とここまでが強化委員会のやりとり。以降は個人的な評となるが、実は志々目にも僅かながらチャンスは残されていたのではないかと思われる。ただしそれは「髙藤を上回るようなインパクトある内容を残した上で結果を残せば」というカギ括弧つきでだ。そして、手堅く順行運転で優勝し、最高到達点が高いが一発負けのリスクも匂わせる髙藤に対する「選択肢」としての存在感をある程度以上見せたグランプリ・デュッセルドルフはともかく、選抜体重別の決勝はむしろ悪し、志々目積年の課題が噴出した評価を下げる内容のものであった。

攻めるも内股、守るも内股、組み手のリセットも内股、掛け逃げも内股。全てを「内股的アクション」で解決し結果状況を悪くするのは志々目の悪い癖だが、この試合はこの攻撃以外の意図の技(と呼ぶべきかどうか判断分かれるところだが)があまりにも、ここ数年の志々目の試合の中でも特筆されるほど、多かった。極端なケースでは自らまっすぐ両手を畳についた倒立状態の技まで見られた。詳しくはマッチレポートに譲るが、IJFツアーであれば志々目には次々「指導」が累積したはずであるし勝敗が逆でも全くおかしくない試合。「攻めの遅さと安易な攻撃偽装で試合を壊すことなく、他の技を交えてしっかり試合を作りに掛かる」という1年以上に渡る志々目と所属の丁寧なアプローチが崩壊した試合であった。ギリギリまで掛けられた精神的圧力によりこの「なんでもとりあえず内股で解決」する悪癖が骨まで染みていることが表出した試合であり、星こそ残ったが、志々目が「勝敗を審判に委ねる」という一発勝負ギリギリの舞台でやってはならないことをもっとも大事な試合で為してしまったという一番でもあった。敢えて序列をひっくり返して一人代表として送り出すだけのものを見せた大会であったかどうかというと、これはやはり難しい。

ということであくまで個人的な評だが、志々目が最後に残した2大会の戦いは、髙藤逆転に必要と強化内に設定されていた「内容」というハードルを越えるところまで到達しなかったのではないか、つまり志々目の残した2大会の内容×成績は実は強化に対する「満額回答」ではなかったということと考える。

強化委員会においては、この60kg級が推薦理由説明のいわば緒戦となること、さらに以後の紛糾を避けるという観点から、客観的データに依拠して説明出来るものはまずこれのみで貫くという方針がコーチ側にあったのではないだろうかと推察する。結果、徹頭徹尾国際大会の実績を比較することに終始したこの階級の選考は極めて論理的なものになった。

内定にまつわる問題は真摯に次の制度設計に生かして貰いたい、というより、選抜体重別を予選レースと別立てにする(最終予選に含めない)問題と併せて、もはやここに踏み込まなければ代表選考の制度設計は成り立たないところまで来てしまっているだろう。

最後に。髙藤はグランプリ・デュッセルドルフの欠場により、実は代表選出に関して形以上の危機にあったということ、にも関わらず選抜体重別で一本負けを喫してしまったことを真摯に受け止めて身を処して欲しい。個人的にはこの大会の欠場判断は色々な意味で少々安易であったと考えるし、髙藤はこれを取り返すためにも今大会はしっかり勝つ必要があった。他の第一候補とは少々立場が違ったはずでは、と一言評しておきたい。

[66kg級]

日本代表選手:海老沼匡
補欠選手:髙上智史

海老沼匡が順当に選出。冒頭コーチ側より、対象期間における海老沼の国際大会の成績(世界選手権を含む8大会出場し5回の優勝)と敗れた対戦相手が紹介され、併せて髙上の成績(13大会に出場して6度の優勝)と敗戦歴(8名)、および特記事項としてターゲット選手であるダバドルジ・ツムルクフレグ(モンゴル)と戦っての星取りが1勝4敗であることも説明された。

またさらに併せて、この日の選抜体重別に優勝した阿部一二三が、講道館杯で敗れてグランドスラム東京への進出権を失ったこと(筆者注:つまりこの時点で五輪代表レースから脱落していたこと)、よって欧州国際大会への派遣も為されなかったこと、つまりは今回の選考の対象にならないことも説明された。

これに対し強化委員1名から、「完璧に負けた選手を選ぶことに問題はないのか。今日の負け方はあまりに酷い。この内容でオリンピックに選んで良いのか。選考期間をワールドマスターズ(5月)まで延ばした方が良いのではないか」との厳しい意見が出された。これに対しては山下泰裕強化委員長から「意見は良く分かる。私も今日の戦いを見て、本当にこれでオリンピックを戦えるのか?という気持ちが抑えられなかった」旨のコメントと、「今後(次回の選考から)しっかり考えていく」との答えがあった。

ここまでの話し合いがあったところで、コーチ案の諾否が問われる。改めて異議申し立てを行う委員はなく、海老沼の代表選出が決定した。

ここまでが強化委員会の内容の要約。以後は個人的な評である。

海老沼選出はルールに則る限り妥当過ぎるほど妥当。世界選手権3連覇の過去の実績と、敗れたとはいえ直近の世界選手権で代表を務めたという「一番手」の序列、加えてグランドスラム・パリにおける世界王者アンとターゲット選手ダバドルジという強豪2人を投げ飛ばしての圧勝Vという直近の成績がある。一方グランドスラム東京に優勝し選考レースに2番手として辛うじて踏みとどまっていた髙上智史は欧州シリーズ(グランプリ・デュセルドルフ)を欠場し、この選抜体重別も優勝できずで積み上げはなし。よって欧州シリーズ終了時点の序列がそのまま保持された形となった。

ただし海老沼、あの負け方の悪さは頂けない。確かに「全体評」で書いた通りこの選抜体重別は、予選という形を採りながら権利があるものとないものが戦うという全くもって不当なもので、海老沼たち「事実上の内定」を得るまでにリソースを注ぎ込んで来た第一候補にとってはこの場に引っ張り出されること自体が本質的には不可解な「ハンデ戦」。荒れることが織り込まれた大会ではあるが、それでもやはり負け方が悪かった。現行制度に則る限り海老沼選出は妥当過ぎるほど妥当だが、強化委員会での発言にもあった通り周囲に残した負の印象は大きい。海老沼が昨年世界選手権で4連覇を逃したこと、グランドスラム東京で敗れた(2位)ことなどを考えると、マクロな目で見て力が落ちて来ているのではないかという観察を引き起こしてしまうのは致し方ないのではないだろうか。

総括のひとつは、この階級も欧州国際大会終了時点で内定を出すべきであったということ。仕切りの悪さゆえに、そしてこの制度はおかしいと理解しながら大人の事情で看過し続けたがゆえに、スーパーハイレベル大会で圧勝Vを飾ったばかりの海老沼を五輪本番前に傷つけ、のみならず社会一般の目から見た柔道ジャンルのイメージをも傷つける(勝ったものを選ばない不公正な競技であるとの誤解)こととなってしまった。

もうひとつ、「勢いのある上がり目の選手を選べるシステムを確立しておくべきではないか」との制度設計上の議論が巻き起こることは必定。上位システムであるIJFの制度上難しいものがあるが、これに関しては今回の騒動を幸として議論を尽くすほかはない。

さらに最後に。当たり前だが阿部が選ばれなかったことに関して海老沼にはなんの責任もない。海老沼を貶めるのではなく、阿部の素晴らしい強さを称えることがこの「大会」(事実上予選ではないので)に対する正しい評価なのではないだろうかと提案しておきたい。

以上で66kg級選考評は終了。

しかし別立てでもう一つ。長くなってしまうが、意外にも一大トピックとなってしまった「なぜ阿部を選ばないのか」についてきちんと書いておきたい。ネット上の通りすがりに「なんで一二三を選ばへんねん!」と一声叫んで去る人の多さを、無視するわけにはいかないだろう。選考システム自体を改めて説明することになるのでかなりの字数が要るがご容赦頂きたい。

なぜ阿部が選ばれないのか。それは、この1年間大事な節目でことごとく敗戦を喫し、既に五輪の挑戦権自体がなかったからである。

ざっくり言って、世界大会出場に至る道は、①講道館杯(出場には国内の予選を勝ち抜くか、事前に決められたハードルをクリアして強化選手に選ばれておく必要がある)に出場してグランドスラム東京の進出権を得る(今年の66kg級の講道館杯からの選出枠は1名のみ)→②グランドスラム東京(4名出場可能、選手選抜に際しては世界選手権出場者などのアドバンテージが事前に設定されている)に出場して勝利し、冬季欧州国際大会派遣の権利(1名~3名程度、階級の状況によって異なる)を得る→③欧州国際大会で一定以上の成績を収める→④欧州国際大会で得たアドバンテージを以て、少なくとも選考の俎上に乗って他候補選手と差のない状態で選抜体重別に出場する、という一本道ルートしかない。

今年阿部が零れ落ちたのは最初期段階の講道館杯(3位)。第一次予選で既に代表候補から外れてしまっていたということであり、以後第二次(GS東京)、第三次(欧州国際大会)予選には出場することすら出来ていない。

講道館杯で優勝するしか「予選第2回戦」である出場枠4名のグランドスラム東京に進む権利はない。これは事後曖昧に決められたわけでは勿論なく、大会前に示されていた (66kg級は3枠を世界選手権代表2人と、3番手評価のグランドスラムパリ代表1人に振り分け、残りの1枠を講道館杯出場者から選抜することとなっていた)明確な基準であり、ここに曖昧さはない。この試合を落とした時点で阿部の五輪出場の目は完全に潰えていた。

付け加えてもう1つ言っておくが、強化は阿部登場からの2年間に渡り、そのハシゴを外したことなどただの1度もない。阿部は2014年の講道館杯優勝によりグランドスラム東京進出、この大会も優勝して勝ち進んだグランプリ・デュッセルドルフではしかし予選ラウンドでダバドルジ・ツムルクフレグに敗れてメダルなし。それでも参加を許され勝てば世界選手権代表の選抜にチャンスのあった2015年4月の全日本選抜体重別では高市賢悟に一本負け。さらに序列3番手を掛けて派遣された7月のグランプリ・ウランバートル決勝では再びダバドルジに敗退、一方同じ文脈で7月のグランドスラム・チュメンに派遣されていたアジア選手権王者髙上智史はしっかり優勝しておりこれで序列3番手の座は髙上に確定、阿部は4番手となり12月のグランドスラム東京進出の66kg級における自動選出枠である「3」から滑り落ちた。さらにこの4つ目の枠を争った講道館杯では準々決勝で丸山城志朗に敗れ3位、この時点で次のステージへの進出がなくなり同時に五輪挑戦権も失った。

つまり阿部はこの1年間で、代表レースの節目となる大会で既に4回負けており、勝者が参加した3つのステージ(アスタナ世界選手権、GS東京、冬季欧州国際)には出場すら出来ていないのだ。阿部が選ばれない理由は単純明快。絶対に勝たなければいけないところで負け続けたからである。

だからもし、2015年11月6日以降、あるいは今大会の直前に阿部を紹介するにあたって彼に「リオ五輪出場に可能性を残す」という修飾句を冠した番組や記事があったとしたら、万が一そう説明して煽り立てる事前記事や番組があったなら、読者は怒っていい。掛け値なしに怒っていい。それは嘘をついているか、取材不足か勉強不足の完全なるミスリードだからだ。「いや、確率的には阿部の上位にいる5人が全員重症を負って五輪に出られなくなる可能性だってある」と抗弁したとして、彼らが情報を受けとる側の印象を想像できないわけはないから、これを免責理由とするのはあまりに不誠実だ。

「阿部はあんなに勝っているじゃないか」という一般ファンの意見に対しては、報道のされ方によるイメージの刷り込みが大き過ぎるのではないかと指摘したい。簡単にいって阿部は「勝てば大きく報道される立場」であり負けても一般メディアに報じられることはほぼない。一方チャンピオンの海老沼は「負けることがニュースになる立場」の選手であり、彼の敗退は常にこの競技としては最大限の扱いを以て報じられる。現実的な勝敗と形作られているイメージにかなりのギャップがあるように感じられる。

2年(前々年の講道館杯を起点の大会ベースでは1年半)も勝ち続けないと五輪に挑戦すら出来ないのか!という怒りの声があるとしたら、これはもう仕方がない。上位システムであるIJFルールに則って、強豪ひしめく日本からたった1人だけの代表をフェアに選ぶというのは、残念ながらそういうことなのである。現行ルールが設定された段階で、筆者も関係者も嘆息し危惧した、強豪国ゆえのきつい縛りだ。

とはいえ、では例えば「勝ったから五輪に選ばれるかもしれない」と関係者が選考結果に胸ときめかせたであろうことが、情報不足あるいは勉強不足と片付けられて良いかというと全くそんなことはないと考える。最終予選に出場しているのだから権利があると考えてしまうのは社会から見れば当たり前と言えば当たり前。現行の選抜体重別という制度は理不尽、かつわかりにくいこと極まる。資格のないものを「最終選考会」などという決定的な名を冠した大会に出してはいけない。要は制度設計の不備なのである。期待を持たせてしまうだけ関係者にとってもこれは酷だ。

つまり彼らはどうしても選抜体重別を最終選考会として実施しなければいけない、そして選手を紹介するに当たり「可能性が全くない」と本当のことを言うことが憚られるという「大人の事情」の犠牲者である。制度設計の不備と、これに気付きながら(私が知り得る限り強化の現場はこの問題にかなり前から着目しているし、苦しんでいると理解している)問題を放置して先送りした連盟全体の問題である。制度矛盾に毅然と対応出来ず問題を先送りした結果、柔道ジャンルが不当に傷つけられてしまったことはまことに悔しく、残念でならない。

一応まとめを試みる。

「なんで阿部一二三が選ばれないのか」=この1年間、勝負どころでことごく負けて来て、既に権利を失っていたから。
「なぜ負けた海老沼が選ばれるのか」=勝負どころでしっかり勝ち、圧倒的なアドバンテージを積み上げに積み上げ、既に代表を事実上確定させていたから。
「問題点は何か」=「最終選考会」という名前を冠した大会に権利のないものを出場させること≒既に代表が事実上決まっているのに内定を出す制度がなくまったく意味のない「最終選考会」をわざわざ開催せねばならないこと≒単に順番が最後の大会に過ぎない予選の一試合に「最終選考会」という大仰な冠を被せて社会の誤解を生みやすくしていること≒立場とモチベーションがまったく違う選手を対等に争わせるという「荒れる設定」を為していること、等々、等々。

筆者は機会あるたび、代表選考における選抜体重別の存在の理不尽さ、かみ合わなさに声を挙げて来たつもりだ。「もはや、なぜ開催しなければいけないのかを説明しなければ納得できないレベル」と発言したこともある。筆者ごときが書くくらいだから、少なくとも現場に関わる多くの柔道人がこの問題意識を共有しているはずだ。真摯に選手に向かい合ってきた現強化体制の前に、自身の権限を大きく超えて立ちはだかる「制度」の壁と矛盾、それを余すことなく浮き彫りにした軽量2階級の選考だったと総括したい。

[73kg級]
日本代表選手:大野将平
補欠選手:中矢力(ALSOK)

[81kg級]
日本代表選手:永瀬貴規
補欠選手:丸山剛毅

この2階級は予選最後の大会である選抜体重別の第1シード選手、つまり五輪代表レースの最有力選手であった2人が順当に優勝。このことからコーチ案に異存なければ決定としたい、との旨山下委員長より提案があり、強化委員からの異議表明もなし。波風なくすんなり大野と永瀬の代表が決定した。

全体評で「現行制度下で、第一候補としてここまで辿り着く選手は全員がモンスター」との旨書かせて頂いたが、なおかつ、このハンデ戦であっさり他を退けたこの2人の力は超弩級。怪物を越えたスーパーモンスターと評して差し支えないかと思われる。

ちなみに、強化委員にはコーチ作成の資料が配布されており(傍聴の報道陣には配布なし)、60kg級や66kg級同様全階級に対象選手のランキング、成績、勝率などのデータが示されていた模様。無風階級であるこの2階級も同様である。これはこの先を読み進める上での前提条件として理解しておいてもらいたい。

[90kg級]
日本代表選手:ベイカー茉秋
補欠選手:西山大希

状況、強化委員会の進行とも60kg級と相似。コーチ側から候補でありオリンピック出場に必要なポイントを保持しているベイカー茉秋と西山大希の国際大会の戦績(ルール改定後、ベイカー7戦4勝、西山4戦2勝)、勝率などのデータが示され、上位であるベイカー推薦の旨が表明された。異論はほとんどなく、ベイカーの代表選出が決定。

以下は個人的な評。コーチ側からは一貫して積み上げた国際大会の実績をもとに説明が為され、ベイカー選出はこの観点から妥当。だが、これも60kg級同様、実はグランドスラム・パリを制した西山には僅かながら可能性があったのではないかと推測する。しかしパリ大会に勝ち、選抜体重別に優勝してなお、強化が設定したハードルへの満額回答には届かなかったということだろう。例えば直接対決でベイカーに鮮やかな一本勝ちを収めて優勝すれば議論が揺れる可能性は十分であったのではと思われるが、この試合は後半ベイカーに攻めに攻め込まれて「指導1」対「指導2」の逃げ切りによる辛勝。マクロな状況で見て、ベイカーがこの試合のスコア的には届かなかったが、その猛攻で西山選出の可能性を潰したという形に解釈をして良いのではないかと思われる。

[100kg級]
日本代表選手:羽賀龍之介
補欠選手:ウルフアロン

順当に羽賀が選出された。アスタナ世界選手権優勝という実績、直近の国際大会の成績ともに他をあまりにも大きく引き離しており、もはや他に候補者はいない状況。よって羽賀選出は全くもって妥当。強化委員会においてもコーチ以外の強化委員からの発言は、羽賀の負傷の状況を確認する声のみであった。

欧州国際大会への派遣が為されない段階で事実上の内定、「上がり」と目されていた羽賀が、選抜体重別欠場にも関わらず波風なく選出。ある意味「最終選考会と冠づけての選抜体重別実施」の意味の薄さを、もっとも端的に表現した階級ともいえる。

[48kg級]
日本代表選手:近藤亜美
補欠選手:浅見八瑠奈

新旧世界チャンピオン同士が、最終章である選抜体重別まで競り合った階級。浅見が衝撃の初戦敗退を喫し近藤は優勝と結果は明暗。この結果が反映される形で近藤が代表に選出された。

[52kg級]
日本代表選手:中村美里
日本代表選手:志々目愛

選考上、48kg級と52kg級は男子の73kg級および81kg級と同様「第1シード選手が優勝した階級」ということになる。52kg級も波風立つことなく、中村の選出が決まった。異論を差しはさむ余地のない順当な選出。

[57kg級]
日本代表選手:松本薫
補欠選手:芳田司

昨年の世界選手権と今季のグランプリ・デュセルドルフを圧倒的な成績で制し、過去の実績に直近の国際大会の成績と全て揃えた松本薫が順当に選出された。選抜体重別では観客席の「待て」の声を審判の発声と勘違いするミスを犯し準決勝敗退に終わったが、欧州終了の時点で事実上内定と考えられたアドバンテージはやはり圧倒的だった。

芳田司は昨年のグランドスラム・チュメニとグランドスラム東京を制すも、これで強豪の仲間入りを果たしたというべきか、徹底マークを受けた冬季欧州国際大会(グランドスラム・パリ)は予選ラウンド敗退、よって松本と代表を競る高みには惜しくも届かず。ただしこの選抜体重別優勝で「次代のエース」の座をいよいよ確定させた感あり。現行制度下においては、台頭するのが1年早ければ十分選考レースを揉めさせるだけの存在になり得たのではないかと思われる。

[63kg級]
日本代表選手:田代未来
補欠選手:津金恵

世界選手権で2大会連続銅メダリストの田代未来が順当に選出された。選抜体重別は敗れたが、実績、国際大会の成績ともに追従するライバルが全くいない状況では異論の差しはさみようがない妥当な裁定。講道館杯と選抜体重別に優勝した能智亜衣美は唯一のシニア国際大会出場であるグランドスラム東京で予選ラウンド敗退に終わっており、現在のワールドランキングは93位。能智に関してコーチ側からは「ランクがない(低い)ので選考の俎上に上げられなかった」との説明が為された。現行の制度上これは致し方なし。

強化委員から意見が出されたのは、バックアッパーの確保について。補欠に選抜された津金恵のワールドランキングはこの日の時点で58位、少なくとも五輪直接出場枠に絡める状況ではなくまずは大陸枠入りを目指すという位置である。「もし1人怪我したら日本が五輪に選手を送れない」というこの状況に対する危惧は至極当然。

谷本歩実と上野順恵が覇を競い、かつ若手世代が次から次と勃興し世界ジュニアは直近7大会で実に優勝6回に2位1回、未来の展望明るいと思われていた63kg級だが気づけばあっという間にこの状況。次代を継いだはずのエース阿部香菜が想像以上に早く引退、なかなか軸が定められない状況の中にあって強化側が大抜擢した田代が期待通りに奮闘することでなんとか形を保って来たわけだが、その田代のみが突出して他がついてこれない現在の状況は今後に相当な不安がある。津金の国際大会連続派遣は喫緊の課題として実施が確認されたが、階級全体に対する厚い強化策が必要だ。

[70kg級]
日本代表選手:田知本遥
補欠選手:新井千鶴

コーチ側が「選抜はこの階級の決定戦として設定した」と語ったそのセリフが全て。甲乙つけがたい成績で選抜体重別を迎えたライバル2人が決勝で雌雄を決するというこれ以上ないシナリオで、結果勝利を収めた田知本が代表を手中に収めた。

強化委員会においては新井の2年以上に渡るトータルの高い実績をどう考えるかという質問も出されたが、「対戦相手、結果を考えた上での総合的判断」との説明が為され、直接対決における田知本の3戦3勝(筆者注:2014年講道館杯、2015年選抜体重別、2016年選抜体重別)のアドバンテージも判断材料としての提示があった。コーチ案には隙少なく、選出は妥当なものであったと評したい。

[78kg級]
日本代表選手:梅木真美
補欠選手:佐藤瑠香

コーチ提出案はアスタナ世界選手権を制した梅木真美の選出。この大会以後梅木はほとんど成績を残せておらず今回の選抜体重別にも敗れたが、冬季欧州大会に派遣された選手が梅木のみで対抗馬不在という状況下にあってはこの選出はやむなし。国際大会にあって顕著な成績が残したものがいないという階級の低調ぶりと梅木の世界選手権優勝という圧倒的な実績の乗算で、言葉は悪いが消極的選択の結果梅木の代表が決定されたと総括出来る。

強化委員の1人からは梅木の世界選手権優勝のアドバンテージを認めながらも、その際の対戦相手のレベルに対する(筆者注:荒れた大会であり、予想された超強豪との対戦はことごとく実現しなかった)疑問、さらにこの日素晴らしい出来で優勝を飾った前代の世界選手権代表・佐藤瑠香になぜ冬季欧州国際大会の派遣資格が与えられなかったのかとの疑義が呈された。
この日の優勝者である佐藤の出来は圧倒的、あまりにインパクトが強かったゆえこの疑問も当然。成績と内容に波があり過ぎる佐藤の落選は当時にあっては十分ありうべき選択かと思われたが、ここに至って照射し直せば確かに考える余地は十分あったかとも思われる。コーチ側からは佐藤のグランドスラム東京の成績(2敗して5位)と内容に鑑みてとの返答があり、ここにおいても63kg級同様2番手選手の派遣による「可能性のある選手の複数保有」が課題として確認され、議論は終了した。

かくてこの日の段階で決まった選手は男女それぞれ6階級、計12名。男女ともに全階級のメダル獲得、相当量の金メダルが期待出来る充実の陣容だ。心から健闘を祈りたい。


文責:古田英毅
Text by Hideki Furuta

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