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国士舘が河田闘志の踏ん張りテコに埼玉栄を振り切る、日体荏原は稀に見るハイスコアゲーム制して木更津総合を撃退・第38回全国高等学校柔道選手権男子団体戦レポート⑤準決勝

(2016年4月1日)

※ eJudoメルマガ版4月1日掲載記事より転載・編集しています。
国士舘が河田闘志の踏ん張りテコに埼玉栄を振り切る、日体荏原は稀に見るハイスコアゲーム制して木更津総合を撃退
第38回全国高等学校柔道選手権男子団体戦レポート⑤準決勝
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準決勝第1試合は国士舘高に埼玉栄高が挑戦

国士舘高 - 埼玉栄高
(先)稲垣由生 - 長濱快飛(先)
(次)本間壘 - 岩田歩夢(次)
(中)磯村亮太 - 今入晃也(中)
(副)河田闘志 - 蓜島剛(副)
(大)飯田健太郎 - 焼谷風太(大)

準決勝第1試合では第1シードの国士舘と埼玉栄が激突。盤面を解釈するポイントは両軍の絶対的なエースである国士舘・飯田健太郎と埼玉栄・蓜島剛の力関係と投入位置だ。飯田は大会最強の大駒だが、もしこの選手と「やれる」選手がいるとすれば無差別個人王者で昨年の全日本カデで飯田に勝利(GS「指導2」)した実績もある蓜島しかいない。7月の再戦では飯田が「指導2」で勝利しているが蓜島はサイズがある上に柔道が柔らかく、落ち際投げ際にも滅法強い。畳に立って組んでいる限りはアクシデント一発の可能性を常に孕む非常に怖い選手だ。

飯田の有利は動かないが、蓜島が、少なくとも飯田と引き分けに持ち込むところまでが現実的に手に届く高さにある選手であるのはまず誰もが認めるところであり、埼玉栄も当然ながらこの見立てに基づいて蓜島を副将に配置した。国士舘が大将に置くであろう飯田と蓜島を戦わせ、最低でも引き分けを得て自軍の大将を余らせたまま試合を終わらせてしまおうというプランだ。それまでの展開がどうあれ、そして相手の配置がどうあれ、蓜島が相手の全員を最後まで賄うことが勝利の唯一に近いシナリオというプラン。

一方の国士舘はこの形が本命というべき堅陣。前から順に意外性のある稲垣、パワーの本間、ここから磯村と河田の重量2枚を並べて大将飯田の前に堀を築く。磯村と河田の順番のみがオーダーの不確定要素であったが、より「壁」としての値が高く12月の松尾杯で蓜島と引き分けた実績もある河田を後ろに置いたことにこの試合の勝負どころは端的。

つまり、埼玉栄としては蓜島と飯田を直接対決させ、この1試合の勝敗がそのままチームの運命を決めるという「大一番」を演出したい。そしてそのただ1試合に勝利すべく、蓜島を少しでもフレッシュな状態で畳に送り込みたい。なんとか蓜島登場までに1人差のリードを作り出したいところ。

国士舘としては逆に、飯田と蓜島が体力的に同条件(ということはスコアは1人差ビハインド)で畳に上がるという、アクシデントの確率がもっとも高い状況で戦うリスクは絶対に避けたい。飯田-蓜島戦をそもそも実現させないことが最良のシナリオであり、もしこの対戦があるとしても、1人、2人と蓜島にぶつけて体力を削るだけ削っておくことが重要なミッションになる。蓜島は体力も技も閃きもある選手だが、これまでの試合を観察する限りでは例えば絶望的な状況からそれでも未知の力を体から引っ張り出すというような執念のあるタイプではない。蓜島の体が「もういい」と納得して緊急出動のスイッチを押せないないくらいに体力と精神力を摩耗させておくことが前衛に課せられたミッション。

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国士舘高・稲垣由生と埼玉栄高・長濱快飛による先鋒戦

先鋒戦は国士舘の稲垣由生、抜き役を期待されて最前衛に突っ込まれた埼玉栄・長濱快飛ともに右組みの相四つ。長濱が奥襟を得て稲垣の頭を下げさせるが、稲垣組み負けた状態からスルリと払釣込足。東京都予選決勝で日体荏原高のポイントゲッター格を転がしまくった癖のある技だが、十分承知の長濱は瞬間迷わず前に出て被り返し自らの技に変換する。稲垣、そして仕掛け返した長濱ともに滑り崩れて「待て」。

続く展開で大事件。長濱が釣り手で上から背中を深く叩いて右大内刈、稲垣ガッチリ受け止めたが長濱の追い込みで体が伸びてしまい危機に陥る。しかしケンケンの攻防が続くうちに稲垣は腰を沈め直して体の安定を図り、長濱が体を捨てると同時に大内返を試みる。互いにギリギリのバランスでの投げ合いを制したのは稲垣、背を抱えた左引き手を落ち際に自ら離し、この左引き手を畳について体を支えると残るワンハンドで長濱の体を反時計回りにコントロール、相手を背中から畳に転がすことに成功。バウンドした長濱、慌てて立ち上がり場を作ろう。

当然稲垣のポイントかと思われたが、一瞬で体勢が入れ替わり続ける速い攻防のゆえか主審は判断を保留し三審の合議を招集。さらにケアシステム前のジュリーに確認に赴く。ここまでしっかり手続きを踏めば正当な判断が下されて然るべきだが、しかしまったく意外なことに、開始線に選手を戻した主審は堂々長濱の「有効」を宣告。

長濱は背から落ちており、一方稲垣が畳についたのは片手の掌のみ。正当な選択肢は稲垣の「有効」あるいは「ポイントなし」の2つみで、そもそも長濱の側がポイントの有無に関わる可能性がまったくない場面。ケアシステムの映像、ジュリー、さらにIJFルールには本来ない畳内の副審2人を入れてと二重三重の手当てにも拘わらずそれでも起こった、エクスキューズなしの大誤審。

しかしこの酷い誤審にも稲垣は全く顔色を変えることなく試合を継続。以後は前に出て背を深く抱くスクランブルを度々掛けながらチャンスを狙うが、長濱も内股一発で対抗し戦線は膠着。1分19秒に稲垣に「引き込み」の咎による「指導」1つ、2分0秒に長濱に「取り組まない」咎による「指導」1つが宣告されたのみでこの試合は終了。結局長濱が「有効」優勢で勝利し先制点は埼玉栄が得ることになる。

第2試合は畳に残った長濱に国士舘・本間壘がマッチアップ。気合十分の本間やや怒気を孕みながら両手を下げたほとんどノーガード状態で相手に歩み寄ると、長濱はファーストコンタクトで片襟の右背負投に打って出る。本間崩れかけ会場大いに沸くが、本間は長濱の背につくと前襟を握った右釣り手を効かせてローリング、ついてきた長濱の体が天井を向くと見るや左で後襟をひっつかんで畳に押し付ける。間を置かず体を下げてスペースを確保すると空いた空間に長濱を引きずり出してその体を死なせ、ガッチリ崩上四方固。そのまま20秒が経過し主審は「一本」を宣告。

ここまで開始から53秒。ほぼ「秒殺」と言って良い本間の一本勝ちで国士舘がスコアをタイに戻す。

しかし本間は続く試合を大枠優位に運びながら岩田歩夢を攻略出来ず。与えられたポイントは1分2秒双方に対して宣告された「指導」1つのみで3分が経過し、第3試合は引き分けに終わる。

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中堅同士の対決、埼玉栄高の今入晃也が国士舘高・磯村亮太から大内刈「技有」

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今入は合技の一本勝ち、応援席の歓声に応える

第4試合は中堅同士の対決、国士舘・磯村亮太が右、埼玉栄・今入晃也が左組みのケンカ四つ。

今入が奥襟を叩くと磯村あっさり頭を下げ、今入が左内股、さらに立ち戻って圧を掛けると磯村今度もあっさり自ら膝を屈する。

双方抜き役同士の対戦だが、思い切った左内股で先制攻撃を為した今入に対して磯村は以後も覇気なく、予想外に慎重な試合ぶり。片手の引き手争いを受け入れ、間合いを取り、安全な形を作ることに腐心する。確かに前回対戦(27年8月金鷲旗大会)では今入が内股と横四方固の合技「一本」で勝利しているが体格と双方の実力と柔道のタイプ、そして金鷲旗に双方が抱えたバックグランドを考えればこれは力の差というよりは場が煮えた末のアクシデントの範囲で考えるべきもので、磯村の消極性はまったく意外なもの。

2分5秒、磯村の側にのみ「取り組まない」咎による「指導」宣告。ここまでは磯村の柔道に少なくとも抜く意志は見られず。

この「指導」に動揺したか、磯村今度は今入に引き手の袖の外側を与え、かつ自身は釣り手で背中を抱えて相手の釣り手が内側で自由に動く危うい形を受け入れたまま試合を進行。磯村背筋を立てて間合いを確保し直そうとするが、距離のコントロール自在の形を得た今入は膝裏への膝車に小外刈、出足払、左大外刈と探りの技を細かく入れて呼吸を整えると、同じリズムで左小内刈と出足払の餌を巻いたうえでついに本命の左内股。ケンケンで追われた磯村、つま先立ちで体を開いて耐えるが今入は大内刈の形であくまで追うことを止めず突進。右向きに体を捩じろうとした磯村の上体を拘束したまま場外で背から落としこれは「技有」。

「一本」と思ったか今入そのまま立ち上がるミスを犯してしまうが、磯村の方も転がった体勢のまま主審を見やって動きを止めるミスの重ね塗り。今入の方が先に動き出し、左腕を確保して右に体を回り込ませ横四方固。もはや磯村動けず1分58秒合技の「一本」が宣告される。

自信満々に試合を進めた今入の快勝。対照的に抜き役を期待された磯村は全く期待外れの試合ぶり。もし引き分け志向であればそれに徹する道もあったと思われるが、「指導」を受けるなり今度は一転して相手の形を受け入れたまま試合を進めるなど戦術も中途半端。「ビビっていた」と評されても仕方のない試合であり、チームに与えた閉塞感は多大。一人差リードを得た埼玉栄に盤面大きく傾く一番であった。

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河田闘志と今入による第5試合

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引き分け寸前の残り30秒、河田が今入を小外掛「一本」に仕留める

第5試合は国士舘の副将河田闘志が出動。この試合が引き分けに終われば次戦は埼玉栄が待ち望んだ飯田と蓜島の直接対決の実現であり、まさに分水嶺となるべき一番。

河田は右、今入が左組みのケンカ四つ。今入は釣り手を突き、隙を見ての瞬間的な「襟隠し」、さらに状況を嫌った河田の意志につけ込んでの組み手のリセットと巧みに試合を構成。51秒には主審が的確な判断で今入の「襟隠し」に「指導」を与えるが、今入は直後開始された近接戦闘にもしっかり対応、さらに河田がこの接近戦から放った右内股をあっさり掛け潰れたことで以後の展望は今入に大きく開けた感あり。

今入が釣り手を内から持ち、河田は外から背を抱いてこれを潰しながら対峙。河田は大外刈に内股と放つが一貫してどれも踏み込み浅く、1分51秒には思い切った右内股から右小内刈に繋ぐ良い攻めを見せるもこれも今入は立ったまま捌いて耐えきる。あと1シークエンス徹底的に攻めれば「指導」奪取もありうるところまで場が煮えたが、河田はここで引き手争いと釣り手の巻き返し合いで時間を消費、ようやく仕掛けた内股も早い段階で掛け潰れ主審の決断を促すことが出来ない。

残り時間は34秒。このまま引き分けとなれば飯田-蓜島戦の現出であり、前述の通り意外性のある蓜島が体力十分の状態で対峙すれはどんな強者であっても事故の可能性が否定できない。まして舞台は全国大会の決勝進出を争うエース同士の直接対決というこれ以上ない沸騰した場。飯田が「組み合って狙う」正統派タイプであることも相性的に蓜島に対するシナリオの揺れをいや増す。

本日初めて、国士舘サイドがバックグランドの優位なく綱渡りの勝負を覚悟せねばならない十数秒であったが、ここで状況一変。河田相手に釣り手を上から殺させた窮屈な状態を受け入れて近距離に接近し、まず引き手の袖を確保。持つなり今度は釣り手を持ち替えて背中を叩き、文句なしの形で今入を固定。そして間を置かずに前技のフェイントを入れた谷落一発。

相手の重心を捕まえた手ごたえあったか、河田の動きは確信に満ちていた。引き手を下から小さく固めて固定、身を十分反らしたこの一撃はあっという間に決まってこれは文句なしの「一本」。

試合時間2分36秒、河田の「一本」で第5試合は終了。国士舘がスコアをタイに戻し、埼玉栄のエース蓜島を引きずり出すことに成功する。

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埼玉栄の副将・蓜島剛が河田闘志を相手に猛攻

注目の第7試合は河田、蓜島ともに右組みの相四つ。

双方引き手で襟を持ち合って試合開始。蓜島が引き手を袖に持ち替えると河田が嫌い、幾度か組み手はやり直し。

収着した形は、蓜島が釣り手を高く握り、河田は前襟を握った釣り手を蓜島の首下に当ててその前進を阻むというもの。蓜島は相手を揺すりながら右払腰、さらに両襟から釣り手を動かして間合いを作って右大外刈と続けて攻めるが河田良く耐え、機を見て右大外刈も見せるなど対抗。河田、中盤には蓜島の右釣り手の袖を掴んであくまで離さない粘りを見せ、珍しい左袖釣込腰も繰り出して拮抗を図る。

残り時間1分が近くなったところでここまで大枠優位の蓜島は一段ギアを上げ右足車に右大外刈、右内股と連続攻撃。これは掛け潰れてしまったが直後の2分13秒ついに河田に「指導1」が宣告される。

続く展開、しかし河田は釣り手を高く持つことに成功して拮抗を継続。残り30秒を切ったところで蓜島が大外刈と支釣込足、抗する河田はここで退いては全てを失うとばかりに右大外刈を2連発。残り時間わずかながらこれぞ蓜島が欲しかったはずの「組んでの撃ち合い」の展開である。蓜島は大内刈に大外刈、支釣込足と連発して場内大いに沸くが、耐え切った河田は釣り手を相手の首下に入れて突進。蓜島を場外まで押し出して、拮抗の形を保ったままなんとかこの攻防を終息させる。

この時点で残り時間はわずか7秒。河田は下がらず相手の袖を浅く持つことで間合いを確保、蓜島に投げ一発の作りを行う時間はもはや残されておらずタイムアップ、この試合は引き分けとなる。期待の蓜島、1試合で畳から退場。

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大将同士の対決。飯田健太郎の内股を焼谷風太がかわし、場内大いに沸く。

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飯田健太郎の内股「一本」で試合は決着

残る試合は大将同士の一番のみ。しかしエースを消費した埼玉栄と最強の大駒を残した国士舘では状況の差が明らか。

国士舘・飯田健太郎は前に出てケンカ四つの焼谷風太をジワジワ追い込む。ケンケンの片手内股を入れながら状況を煮えさせ、47秒には引き手を得るなり足を高々と上げて右内股。これは透かされた、と言うより腰を切られた後に相手の外側で足が上がってしまい効かず。しかし場内大いに沸く。

続く展開、両襟を得た飯田が右内股。焼谷が手を突いて耐えた形そのまま、首を固定し体を捨てて乗り込み「一本」。

経過時間47秒、飯田の一本勝ちで最終戦は終了。激戦7試合、準決勝第1試合はスコア1人残しを以て国士舘の勝利に収着した。

国士舘高○一人残し△埼玉栄高
(先)稲垣由生△優勢[有効・大内返]○長濱快飛(先)
(次)本間壘○崩上四方固(0:53)△長濱快飛(先)
(次)本間壘×引分×岩田歩夢(次)
(中)磯村亮太△合技[内股・横四方固](1:02)○今入晃也(中)
(副)河田闘志○谷落(2:36)△今入晃也(中)
(副)河田闘志×引分×蓜島剛(副)
(大)飯田健太郎○内股(1:27)△焼谷風太(大)

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試合終了、国士舘は煮え切らぬ試合のままそれでも順当に決勝進出決定

試合を決めたのは分水嶺の今入戦、まとめの蓜島戦と重要2戦を賄った河田の活躍。埼玉栄のプラン完遂を水際の今入戦で阻み、シナリオを戻さんとした強敵蓜島をしっかり止めて事実上試合を終わらせた。

とはいえ国士舘にとってはまたしても上積み要素の少ない試合。遂に準決勝までを消費しながらやはり波に乗ることは出来なかったと総括すべきであろう。結果としてしっかり勝った試合ではあるが、稲垣の誤審による敗退という不運、本間の第2戦における意外なおとなしさと前衛2枚の試合には「上がり目」要素はなく、覇気のない磯村の試合ぶりは明らかなマイナス。残り30秒で劇的な一本勝ちを収めた河田も開始からの攻めと組み立ては背に負ったミッションに比して決して褒められたものではなく、厳しく見れば瞬間芸が嵌った「結果オーライ」の勝利である。物凄く出来が良いわけではないが「強いから」「勝ってしまう」というこれまでの3戦の延長線上にある一番であったと捉えておくべきだろう。

埼玉栄は岩田の引き分け獲得に今入の一本勝ち、そして河田戦の粘りと見せ場を作った好試合であったが、もっとも欲しい絵であった飯田-蓜島戦が作り出せなかったという目的完遂の有無一点でこれは完敗。あと一段階段を上った上で勝負したかった、悔しい試合であった。

最後に準決勝第1試合の総括として、先鋒戦の誤審について一言。これはエクスキューズなしの誤審であり、徹底検証すべきケースである。誤解がないように申し添えるが、これはこの一場面の審判の不手際を指摘して個人の責任を追及するという低い位相の勧善懲悪的な感情で書くのではない。このケースが、審判制度の設計に関わる大きな問題と考えるからだ。

そもそもケアシステム(ビデオチエック)の導入の最大の目標として説明されたのは「誤った側にポイントを与えるような決定的なミスの根絶」だ。ビデオを用意して、ジュリーをつけて、しかもIJFルールにはない副審2人を畳に入れるという変則の手厚い運用まで行って、なおまさしくもっとも忌避すべき「誤った側にポイントを与える」、想定上最悪のミスが起こってしまうのか。試合の推移を見ているだけでは到底想像できない、なぜ起こってしまったのかまったくもって理解に苦しむ。被害を受けたのが勝ったチームであり、結果的にチームの勝敗に影響しなかったからと言ってウヤムヤにして良い問題ではない。審判団の懲罰云々という低い次元の問題ではなく、当事者を聴取しての詳細調査とそのリリースが必要であると強く訴えておきたい。

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先鋒同士の対決、日体荏原高の先鋒大吉賢が70キロ以上の体重差を跳ね返し、木更津総合高・黒部健太から裏投「一本」

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大吉の3試合目、長澤大雅から左内股「技有」

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兼原潤が意地を見せ、大吉から小外掛「有効」を奪う

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大吉は4人目の兼原も裏投「一本」に仕留める大活躍

日体荏原高 - 木更津総合高
(先)大吉賢 - 黒部健太(先)
(次)長井晃志 - 大淵泰志郎(次)
(中)百々雄弥- 長澤大雅(中)
(副)ハンガルオドバートル -兼原潤(副)
(大)藤原崇太郎 - 山下魁輝(大)

日体荏原は今大会まだ試合をこなしていない73kg級の強者大吉賢をついに投入し先鋒に配置。そして次鋒には直前の準々決勝で4戦をこなしたばかりの長井晃志、中堅には2回戦で5戦、準々決勝で先鋒を務めて1戦を戦ったばかりの百々雄弥を配置した。

ローテーションを組んで大吉を突っ込む一方、長井、そして百々には抜き役として徹底して仕事をさせるという作戦方針が明らか。決勝に向けて「取り置く」優先順位をハッキリ規定した、具体的には長井と百々が損耗しても絶対に藤原の力を削がせないという強い意志の表れたオーダーだ。

木更津総合は前戦の消耗を勘案してか、後衛2人は動かさずに前衛を微調整。巨人・黒部健太を先鋒に、次鋒に大淵泰志郎を前出しして強敵日体荏原に対峙。

開始された準決勝第2試合、序盤戦はようやく出場機会を与えられた大吉賢のワンマンショー。

先鋒戦は身長差22センチ、体重差実に72キロの黒部を相手に開始15秒まず小内巻込「有効」、さらにこの技で「一本」級の投げを披露して(場外により「待て」)空間を支配すると、1分26秒には黒部の内股の戻りに裏投に入り込み豪快な「一本」。12月の松尾杯で裏投「技有」、腕挫十字固「一本」と大吉が快勝しているカードではあるが、想像を越える出来。あまりの一方的な試合内容と技の豪快さに以降の流れは完全に日体荏原のものとなる。

大吉、続く第2試合は体重110キロの大淵泰志郎に対し左相四つ横変形で構え、相手の釣り手を噛み殺し続ける。大淵が釣り手を持ったまま一段さらに外側にズレて巻込技を狙う動き、しかし大吉はその位置関係のズレを利して背中に回り込むや再び鮮やかな裏投「一本」。試合時間はなんと僅か30秒。

第3試合は大吉が左、長澤大雅が右組みのケンカ四つ。1分4秒に大吉が左内股、体を開いた長澤が片手を畳に着いて尻餅で耐えるとその動きに乗せて強く押し込み「技有」。主審が一度は「一本」を宣告したこの一撃で趨勢確定、この試合は大吉が「技有」優勢で勝利して3人抜きを達成。

木更津総合は副将の兼原潤が畳に上がる。兼原は身長183センチ体重128キロの巨漢、大吉の裏投は十分警戒しているはずだがあまりの体格差ゆえかファーストコンタクトで吸い寄せられるように釣り手で上から大吉の背を叩いてしまう。大吉このアクションに合わせてすかさず裏投、攻防一致の素早い技にあっという間に兼原転がり12秒「有効」。

このままでは終われない兼原は42秒に捩じり倒すような右小外掛、返そうとした大吉と同体に近い形で畳に落ち、これは兼原の「有効」。

これでスコアはタイ。ようやく大吉の快進撃止まるかと思われたが、またしても得意の裏投が決まる。1分8秒に兼原が引きずり出すような両襟の右内股、横についた大吉スルリと背中に入り込む。真裏方向への力は人間には耐えられない、あまりにもこの法則に忠実、まっすぐ「真裏」に投げたこの一撃に巨漢山下耐える材料なく引っこ抜かれてあっという間に畳に陥落「一本」。

試合時間僅か35秒。大吉ついに4人を抜き去り、木更津総合は大将山下魁輝の出動となる。
山下は前日に6戦、直前の準決勝では代表戦までを含めた3連戦を戦ったばかりだが疲労の色は見えず。開始20秒に得意の出足払を閃かせ「技有」獲得、そのまま横四方固に抑え込んで合技の一本勝ち。ようやく大吉の快進撃止まる。

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木更津総合は大将山下魁輝が猛反撃、長井晃也から支釣込足「一本」

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山下魁輝が百々雄弥から小外刈「一本」

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ハンガルオドバートルが山下魁輝から組み手とは逆の左内股「一本」

そしてここからは山下が大活躍、日体荏原の心胆を寒からしめる。

続いて畳に上がるのは日体荏原の次鋒、エース格の長井晃志。長井は巧みに距離を取り、さらに袖を浅く持って間合いを作り出すことで山下のパワーをずらし続けるが、28秒に山下相手を抱いての支釣込足。体が固定された長井が崩れるとその腕を半ば極めながら抱えて押し込み、捻じ伏せるような「一本」。

山下はまだ止まらない。日体荏原の中堅、ケンカ四つの百々雄弥を相手に引き手を得るなり一歩横にスライド、顔で前技のフェイントを入れながら足を閃かせ鮮やかな出足払「一本」、ここまで僅か1分0秒。

ついにスコアが1人差まで詰まる緊急事態。日体荏原は副将のハンガルオドバートルが出動することとなる。

ハンガル、ここまで3人を抜いた山下ともに右組みの相四つ。ハンガルは気合十分、試合が始まるなり「やぐら投げ」紛いに腹を突き出して山下を持ち上げ突進、前技で投げ返そうとした山下の体を時計係の机に落とし「待て」。

50秒を過ぎたところで山下釣り手で奥襟を叩き、引き手を下げて十分な形。ハンガル応じて右相四つガップリで双方抱き込み合う体となるが、呼び込んだハンガルはそのまま組み手と逆の左内股。右と左に大技を放つハンガル得意の一撃、前段の形が王道過ぎる右相四つの形であったこともあり山下この技に対応出来ず豪快に宙を舞う。

主審の手が高々とあがりこれは文句なしの「一本」。ついに山下の快進撃ストップ、この試合はスコア2人残しで日体荏原の勝利となった。

日体荏原高○二人残し△木更津総合高
(先)大吉賢○裏投(1:26)△黒部健太(先)
(先)大吉賢○裏投(0:30)△大淵泰志郎(次)
(先)大吉賢○優勢[技有・内股]△長澤大雅(中)
(先)大吉賢○裏投(1:07)△兼原潤(副)
(先)大吉賢△合技[出足払・横四方固](0:35)○山下魁輝(大)
(次)長井晃志△支釣込足(1:28)○山下魁輝(大)
(中)百々雄弥△小外刈(0:54)○山下魁輝(大)
(副)ハンガル オドバートル○内股(0:52)△山下魁輝(大)
(大)藤原崇太郎

日体荏原・大吉と木更津総合・山下による奪一本ショー、史上稀に見る撃ち合いは日体荏原が制した。

日体荏原は初出場の大吉が4勝1敗の大活躍、これで決勝を前に藤原以外の登録全員を畳に送り出したこととなる。全員に試合を経験させ、前日個人81kg級を制した藤原の体力を温存してと文句のない勝ち上がり。稀に見る乱戦も豪快な「一本」続きであったこと、ハンガルが大会屈指の大駒山下を「一本」で制してとむしろチームが勢いづく内容であった。

特筆すべきはハンガルの出来。時折団体戦に出場していた前代から1月の東京都予選までは「モンゴル選手特有の体の強さ」という紋切型のパーソナリティはむしろ意外なまでにこの選手には見られず、出来不出来の激しいムラ気や一発の威力と裏腹の受けの脆さが際立つ選手であった。しかしこの日は日本武道館独特の雰囲気が噛み合ったのか、それとも急激に力を伸ばしたのか、完全に波に乗っている。戦前小久保監督が挙げた勝利の要素としての「ハンガルの大駒級の活躍」が満たされつつあると捉えられ、チームとしてはこれ以上ない形での決勝進出だ。

一方の木更津総合。ベスト4入りを果たして力尽きたというわけではないだろうが、副将までの4人は前戦までと打って変わって淡白な試合ぶり。大吉の強さは勿論大きな材料だが、根拠なしに自軍の勝利を前提に戦えてしまう、前代から続くあの太々しさがこの試合に限っては消失しているように感じられた。

その中にあって個人戦で6戦、団体戦で10試合と実に計16試合を戦い切った山下の活躍は見事の一言。今年の高校選手権2日間を通じてもっともインパクトを残した選手を1人挙げるとすれば間違いなくこの山下だろう。大会MVP級の活躍であった。

かくして決まった決勝カードは東京勢同士の対決、

国士舘高 -  日体荏原高

となった。


文責:古田英毅
Text by Hideki Furuta

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