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グランプリ・デュッセルドルフ第2日4階級(73kg級、81kg級、63g級、70kg級)レポート

(2016年3月13日)

※ eJudoメルマガ版3月13日掲載記事より転載・編集しています。
第2日4階級(73kg級、81kg級、63g級、70kg級)レポート
グランプリ・デュッセルドルフ
■ 73kg級・大野将平圧勝V、最強の敵アンチャンリンに完勝
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決勝の畳に上がる大野将平

(エントリー58名)

【入賞者】
1.ONO, Shohei(JPN)
2.ORUJOV, Rustam(AZE)
3.AN, Changrim(KOR)
3.SHAVDATUASHVILI, Lasha(GEO)
5.DRAKSIC, Rok(SLO)
5.NARANKHUU, Khadbaatar(MGL)
7.ESPOSITO, Antonio(ITA)
7.SAINJARGAL, Nyam-Ochir(MGL)

現役世界王者大野将平と日の出の勢いにあるアン・チャンリン(韓国)、五輪金メダル争いの主役と目される両雄の直接対決が準決勝で実現。

ここまでの大野の勝ち上がりは2回戦でエンリコ・パルラーティ(イタリア)から背負投「有効」と「指導」4つを奪っての勝利(4:09)、3回戦はダスタン・イキバエフ(カザフスタン)から右内股「技有」と4つの「指導」を奪って勝利を決め(4:14)、準々決勝では強敵サインジャルガル・ニャムオチル(モンゴル)を小外掛「技有」、大外刈「一本」と立て続けに投げつけて圧勝。他を寄せ付けない強さを見せつけてのベスト4入り。

一方のアンは2回戦でマーティン・ティブリン(ノルウェー)から小内刈「技有」に4つの「指導」を奪っての勝利(2:10)、3回戦はアルセル・マルガリートン(カナダ)から小外刈「有効」、背負投「一本」と連取して快勝(2:04)、準々決勝はロク・ドラクシッチ(スロベニア)を背負投「一本」(3:13)に斬り落とし、こちらも圧倒的な強さを見せつけて迎える準決勝の畳。

「はじめ」が宣せられるとアンが膝を一回屈伸して大一番がスタート。

大野が右、アンが左組みのケンカ四つ。アンが左背負投に入り込もうとするが大野の圧に頭を下げられて潰れ、続けて放った右一本背負投も大野が腹を出して耐えるとアンは自ら潰れてしまう。

続くシークエンスでは大野が組み立てを変えて引き手から持ち、釣り手で奥襟を掴むことに成功。アンは体をゆすって巴投に打って出るが大野完全に持ち上げて封じ「待て」。技を放っているのはアンだがここまで3度の攻撃はいずれも投げる可能性が感じられず、アンが手数の上では先行も地力はどうやら大野が上という様相。

大野、引き手で手首を持ち、次いで内側ながらも袖を掴むことに成功。釣り手で横襟を高く持って引きずり出しの内股を狙う形で横滑りを始めると、アンは苦し紛れに腰を入れて左技の形で対処。しかし大野は腰を入れ直して右内股、間合いが遠くアンは早々に畳に伏せようとするが、着地直前に大野がその体を乗り越えて回旋を呉れる。引き手の牽引が最後まで良く効いた一撃は「技有」。

リードを得た大野、両襟を握って相手を寄せると「巴十字」の大技。ほとんど極まったと思われたが、アンは畳に伏せて必死の防戦「待て」。

以後もペースは一貫して大野。組み力に勝る大野に対しアンは刻々手立てがなくなっていく印象で、残り1分30秒にはケンケンの大内刈、残り1分では右内股と得点の可能性漂う技を繰り出すのは全て大野。アンは残り30秒を過ぎてから一段攻撃スピードを増し、ここまで出せなかった「韓国背負い」をついに繰り出すがこれもあっさり潰されてしまう。クロージングの段階を迎えてどっしり構える大野に対しアンは激しく動いてチャンスを作ろうとするが、大野が両襟を持つと途端に動けなくなってしまい力の差は明らか。

そのままタイムアップ。この大一番は「技有」優勢で大野が制した。

内容は「技有」優勢という結果に収まらない一方的なもの。誰と戦っても怖じずに組み、組むことで動かし、そして相手を追い詰めて切れ味鋭い背負投に仕留め続けるアンが引き手を持ち合うことを忌避して「下から目線」で戦う様はその力関係を雄弁に物語っていた。引き手で袖の内側を僅かにつまむばかりの不十分な組み手で、しかも遠い間合いから浅く入られるにとどめたはずの内股で吹っ飛ばされたアンは以後「まともに受けたら確実に吹っ飛ぶ」との恐怖に縛られていたはず。希望があるとすれば「韓国背負い」であったのではないかと思われるが、大野はリード後釣り手で脇をついてこの技を完全封殺。ノーチャンスのまま5分間を「戦わされ続けた」アンは、ある意味アクシデントで片付けることの可能な早い時間の一本負けよりもさらに濃く大野の強さを刷り込まれたのではないだろうか。五輪に向けて打った布石としても完璧な一番であった。

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大野とオルジョフの決勝

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大野の大内刈をオルジョフが左小外掛に切り返す

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大野の内股が「技有」

決勝の相手は2015年度前半戦の主役であったルスタン・オルジョフ(アゼルバイジャン)。ここまでの勝ち上がりは2回戦でアリアクセイ・ラマンシク(ベラルーシ)を縦四方固「技有」、3回戦でディダー・カムザ(カザフスタン)を内股「一本」(0:42)、準々決勝は2回戦でデックス・エルモント(オランダ)を破ったナランクー・クハドバータル(モンゴル)に「技有」をリードされながら逆転の小外掛「一本」(3:59)で切り抜け、準決勝はラシャ・シャフダトゥーァシビリ(ジョージア)にこれも「有効」ビハインドを払巻込「技有」で跳ね返して決勝進出決定。

決勝は大野が右、長身のオルジョフが左組のケンカ四つ。オルジョフは長い体を曲げて釣り手の握りを脇下、背中、前襟と変えながら前進。大野先制攻撃の右内股は釣り手の位置が悪く力伝わらず、2度目の内股も投げ切るには至らず。しかし攻勢が認められ1分25秒オルジョフに「指導」。

2分を過ぎたところで大野が釣り手で脇を差し、体勢低く右大内刈。そのままほとんど「やぐら投げ」を狙うかのように前進するが、オルジョフは長身を利して左小外掛で被り返す。オルジョフは大野の右釣り手を上から抱え込んでロックしており、肩を固定されたまま体が反り返った大野は絶体絶命。しかし落ち際に引き手側の拘束が僅かに緩み、大野は右腕を残しながらも驚異的な身体バランスで身を捩じることに成功、なんとか失点は回避。

大野、オルジョフが引き手を嫌うとみるや敢えてしつこく持ちに行き、2分25秒オルジョフに「取り組まない」咎による「指導2」が宣告される。

攻防を引っ張るのは常に大野だが、オルジョフは長い腕で釣り手の位置を帯、背中、脇下と変えながら技を打ち返し、以後はなかなか差がつかない。しかし4分22秒、大野が前屈したオルジョフの間合いの中に飛び込んで右内股、縦回転で投げ切り決定的な「技有」。

もはや投げるしかないオルジョフは釣り手で上から帯をがっちり掴むスクランブル体制。しかし大野は下がりながら冷静に受け止め、結果長くこの形を続けたオルジョフに3つ目の「指導」。そのまま動きなく試合は終了となり、大野が「技有」優勢で勝利決定。みごと優勝を決めた。

大野は内容、結果ともに満点に近い形でミッション達成。73kg級の主役は自分とあらためて宣言したかのような素晴らしい強さであった。最近不調とはいえ階級屈指のパワーを誇るサインジャルガルをあっという間に二度叩きつけた準々決勝、現在ワールドツアーの最強選手であり唯一自らの牙城に迫る可能性があるアンをフルタイム圧し続けた準決勝の勝ちぶりの良さはまさしく圧巻であった。この勝利を以てリオ五輪日本代表の座はもはや確実と見て良いだろう。

敗れたオルジョフは、昨年前半戦で素晴らしい強さを見せながらも6月の欧州選手権で肘を痛めて戦線離脱、アスタナ世界選手権にも出場することが出来なかった。現在ようやく復活基調に乗ったところであるが、危険な選手であり続けていることを再度印象付けた大会。

3位にはアンと、隅返一辺倒の変則ファイターから脱して全方位性を獲得しつつあるラシャ・シャフダトゥアシビリ(ジョージア)が入賞。第3シードのヌグザリ・タタラシビリ(ジョージア)は初戦でトミー・マシアス(スウェーデン)に「指導1」の優勢で敗れ、大野の山でBシードに配されたディルク・ファンティシェル(ベルギー)も2回戦でダスタン・イキバエフ(カザフスタン)に「有効」をリードしながら肩車と背負投で2つの「技有」を奪われて敗れた。

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優勝の大野将平

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73kg級入賞者。左からオルジョフ、大野、シャフダトゥアシビリ、アン。

【準々決勝】

アン・チャンリン(韓国)○背負投(3:13)△ロク・ドラクシッチ(スロベニア)
大野将平○大外刈(1:53)△サインジャルガル・ニャムオチル(モンゴル)
ルスタン・オルジョフ(アゼルバイジャン)○小外掛(3:39)△ナランクー・クハドバータル(モンゴル)
ラシャ・シャフダトゥァシビリ(ジョージア)○優勢[指導3]△アントーニオ・エスポージト(イタリア)

【準決勝】

大野将平○優勢[技有・内股]△アン・チャンリン(韓国)
ルスタン・オルジョフ(アゼルバイジャン)○優勢[技有・払巻込]△ラシャ・シャフダトゥァシビリ(ジョージア)

【3位決定戦】

ラシャ・シャフダトゥァシビリ(ジョージア)○内股(4:06)△ロク・ドラクシッチ(スロベニア)
アン・チャンリン(韓国)○片手絞(2:26)△ナランクー・クハドバータル(モンゴル)

【決勝】

大野将平○優勢[技有・内股]△ルスタン・オルジョフ(アゼルバイジャン)

【日本代表選手勝ち上がり】

大野将平(旭化成)
成績:優勝

[2回戦]
大野将平○反則[指導4](4:09)△エンリコ・パルラッティ(イタリア)

[3回戦]
大野将平○優勢[技有・内股]△ダスタン・イキバエフ(カザフスタン)

[準々決勝]
大野将平○大外刈(1:53)△サインジャルガル・ニャムオチル(モンゴル)

[準決勝]
大野将平○優勢[技有・内股]△アン・チャンリン(韓国)

[決勝]
大野将平○優勢[技有・内股]△ルスタン・オルジョフ(アゼルバイジャン)

■ 81kg級・ボットーが昨年に続く優勝、躍進止まらぬイヴァノフは丸山剛毅倒して3位入賞
(エントリー62名)

【入賞者】
1.BOTTIEAU, Joachim(BEL)
2.MARESCH, Sven(GER)
3.IVANOV, Ivaylo(BUL)
3.RESSEL, Dominic(GER)
5.OTGONBAATAR, Uuganbaatar(MGL)
5.PAPUNASHVILI, Giorgi(GEO)
7.DE WIT, Frank(NED)
7.MOUSTOPOULOS, Roman(GRE)

第1シード配置のアントワーヌ・ヴァロアフォルティエ(カナダ)が初戦でほぼ無名のペドロ・カストロ(コロンビア)に左小外刈「一本」で敗れるという衝撃のスタート。手堅さが売りのフォルティエだが、右大外刈から繋いだ素晴らしい一撃の前に落城、屈辱の予選ラウンド敗退となった。

ただでさえ役者の少ないトーナメントはこれでさらに混沌の度を深めた。Aシード選手4人はいずれも破れ、決勝に進んだのはヨアキム・ボットー(ベルギー)とスヴェン・マレシュ(ドイツ)の2人。

ノーシード選手扱いのボットーは1回戦でコド・ナカノ(フィリピン)に一本背負投と小内刈の合技「一本」(1:44)で快勝。2回戦はエミハン・ユジェル(トルコ)から「指導」4つを奪って勝利(4:04)し、3回戦はフォルティエに勝ったペドロ・カストロを大外刈と崩袈裟固の合技(4:57)で一蹴。準々決勝はオトゴンバータル・ウーガンバータル(モンゴル)を横落「有効」で退け、迎えた準決勝は初戦でAシード選手シラズディン・マゴメドフ(ロシア)を内股「一本」で下したジョルジ・パプナシビリ(ジョージア)を右小外刈「有効」で破って決勝進出決定。

一方のマレシュはBシードスタート。1回戦はジョサテキ・ナウル(フィジー)を「手三角」から最後は肩固に抑え込んで「一本」(2:15)、2回戦はロビン・パチェック(スウェーデン)をGS延長戦の末に右背負投「一本」(GS0:28)に沈め、3回戦はモハメド・アブデラル(ギリシャ)をこれもGS延長戦「指導3」(GS1:22)で下してベスト8入り。準々決勝はフランク・デビド(オランダ)を右小内刈「有効」で下し、唯一最大の勝負どころとなったイヴァルロ・イヴァノフ(ブルガリア)戦は「指導1」リードで迎えた残り1秒に左一本背負投で「技有」を獲得し勝利決定。今大会初のドイツ勢優勝を狙い、地元の大声援を受けて畳に上がる。

迎えた決勝は拮抗が続いたが、ボットーが終盤一気に抜け出して勝利。残り38秒、片襟を差す背負投の形から右大外刈にマレシュを捕まえ「技有」を獲得、このポイントを以て優勝を決めた。

ボットーはワールドツアー2度目のタイトル。アヴタンディル・チリキシビリ(ジョージア)を破った(微妙過ぎる判定であったが)昨年度大会に続きグランプリ・デュッセルドルフ大会2連覇を果たすこととなった。

グランドスラム・パリでも2位入賞を果たして評価上がる一方のイヴァノフは前述の通り準決勝でマレシュに敗退。しかし3位決定戦はオトゴンバータル・ウーガンバータル(モンゴル)を「指導2」で下して今大会も表彰台を確保。

このところ大会参加を続けて復帰のきっかけを探るレアンドロ・ギヘイロ(ブラジル)は初戦でニャムスレン・ダグワスレン(モンゴル)を背負投による「ブリッジ一本」で下したが、2回戦はモハメド・アブデラル(エジプト)に「指導2」対「指導3」であっさり敗退。いまだ上がり目は見えず。

日本の丸山剛毅はイヴァノフを乗り越えられず3回戦敗退。ワン・キチュン(韓国)は3回戦でドミニク・レゼル(ドイツ)に「指導2」を奪われた末に肩固「一本」で敗退、イ・センス(韓国)も同じく3回戦でロマン・モウストポウロス(ギリシャ)に「指導1」の優勢で敗れた。

【準々決勝】

ヨアキム・ボットー(ベルギー)○優勢[技有・横落]△オトゴンバータル・ウーガンバータル(モンゴル)
ジョルジ・パプナシビリ(ジョージア)○背負投(4:02)△ロマン・モウストポウロス(ギリシャ)
イヴァルロ・イヴァノフ(ブルガリア)○優勢[技有・小外掛]△ドミニク・レッセル(ドイツ)
スヴェン・マレシュ(ドイツ)○優勢[有効・小内刈]△フランク・デビド(オランダ)

【準決勝】

ヨアキム・ボットー(ベルギー)○優勢[有効・小外刈]△ジョルジ・パプナシビリ(ジョージア)
スヴェン・マレシュ(ドイツ)○優勢[技有・一本背負投]△イヴァルロ・イワノフ(ブルガリア)

【3位決定戦】

イヴァルロ・イワノフ(ブルガリア)○優勢[指導2]△オトゴンバータル・ウーガンバータル(モンゴル)
ドミニク・レッセル(ドイツ)○裏投(3:57)△ジョルジ・パプナシビリ(ジョージア)

【決勝】

ヨアキム・ボットー(ベルギー)○優勢[技有・大外刈]△スヴェン・マレシュ(ドイツ)

【日本代表選手勝ち上がり】

丸山剛毅(パーク24)
成績:3回戦敗退

[1回戦]
丸山剛毅○反則[指導4](4:48)△アブドラジズ・ベンアマル(チュニジア)

[2回戦]
丸山剛毅○優勢[有効・袖釣込腰]△ナーシス・エリアス(レバノン)

[3回戦]
丸山剛毅△優勢[有効・背負投]○イヴァルロ・イヴァノフ(ブルガリア)

■ 63kg級・トルステニャクが安定感示し優勝、因縁対決はシュレシンジャーがゲルビを「一本」で下す
(エントリー38名)

【入賞者】
1.TRSTENJAK, Tina(SLO)
2.SCHLESINGER, Alice(GBR)
3.TSEDEVSUREN, Munkhzaya(MGL)
3.VALKOVA, Ekaterina(RUS)
5.BERNHOLM, Anna(SWE)
5.GERBI, Yarden(ISR)
7.DREXLER, Hilde(AUT)
7.KRSSAKOVA, Magdalena(AUT)

※日本代表選手の出場なし

決勝に進んだのはティナ・トルステニャク(スロベニア)とアリス・シュレシンジャー(イギリス)の2人。

現役世界王者トルステニャクのこの日の勝ち上がりは2回戦でキム・セルジ(韓国)を「指導1」優勢、3回戦でマリセット・エスピノーサ(キューバ)を縦四方固「一本」(4:00)、準々決勝でヒルデ・ドレクスラー(オーストリア)を「指導2」優勢、準決勝でツェデフスレン・ムンクザヤ(モンゴル)を「指導2」優勢というもの。抜群の出来ではないが手堅く勝利を重ねて、しぶとく今大会も決勝進出。

シュレシンジャーはBシードからのスタート。2回戦でテイラー・キング(ルクセンブルグ)を大腰「一本」(2:15)、3回戦はイザベル・プチェ(スペイン)を僅か34秒の腕挫十字固「一本」に仕留め、準々決勝はシード選手マルティナ・トラジドス(ドイツ)が早々に消えた混戦ブロックの勝者マグダレナ・クルサコワ(オーストリア)を大内刈と内股で二度投げつけ合技「一本」(1:43)で勝利。そしてトーナメント全体を通じた最注目対決、かつての同僚で世界選手権金メダリストのヤーデン・ゲルビ(イスラエル)を迎えた準決勝も勢いは止まらず、背負投「有効」、腕挫十字固「一本」(3:32)と連取して快勝。全試合一本勝ちという素晴らしい成績で決勝まで勝ち上がってきた。

決勝はトルステニャクが右、シュレシンジャーが左組みのケンカ四つ。拮抗の序盤を経てトルステニャクがペースを掴み、終盤スタミナの落ちたシュレシンジャーを寝技で攻め続けてさらに追い詰める。残り1分を切ったところでシュレシンジャーが苦し紛れに放った「巴十字」を捌くとそのまま被り、絡まれた脚を引き抜いて横四方固。そのまま抱き着いて離さず、一本勝ちで優勝を決めた。

アスタナ世界選手権を制したトルステニャクは12月のグランドスラム東京でマルティナ・トラジドス(ドイツ)に敗れて2位、さらにグランドスラム・パリでも田代未来とアニカ・ファンエムデン(オランダ)に連敗して5位と一時の圧倒的な強さに陰りが見えている。今大会の出来も決して良いものではなかったがそれでもしっかり結果を残し、改めてその地力の高さを見せつけた形。

準決勝でシュレシンジャーに敗れたゲルビは失意ゆえか3位決定戦も落として最終順位は5位。

第2シードのトラジドスは初戦で敗退。無名のブスラ・カツポルグ(トルコ)にGS延長戦に持ち込まれた末に裏投「有効」(GS1:58)でトーナメントから脱落した。カツボルグは次戦でローランカーのオーストリア選手にあっさり敗れており、この負けにエクスキューズはなし。パリ大会でクラリス・アグベニュー(フランス)に秒殺されたあの衝撃冷めやらぬ中、退潮傾向を一段強く印象づけた大会となってしまった。大躍進した2015年の上昇ベクトルを、いまのところは引き継げていないと観察しておくべきだろう。


【準々決勝】

ティナ・トルステニャック(スロベニア)○優勢[指導2]△ヒルデ・ドレクスラー(オーストリア)
ツェデフスレン・ムンクザヤ(モンゴル)○袈裟固(3:09)△エカテリーナ・バルコワ(ロシア)
アリス・シュレシンジャー(イギリス)○合技[大内刈・内股](1:43)△ブスラ・カチポグル(トルコ)
ヤーデン・ゲルビ(イスラエル)○内股(2:05)△アンナ・ベルンホルム(スウェーデン)

【準決勝】

ティナ・トルステニャック(スロベニア)○優勢[指導2]△ツェデフスレン・ムンクザヤ(モンゴル)
アリス・シュレシンジャー(イギリス)○腕挫十字固(3:32)△ヤーデン・ゲルビ(イスラエル)

【3位決定戦】

エカテリーナ・バルコワ(ロシア)○合技[引込返・崩上四方固](0:59)△ヤーデン・ゲルビ(イスラエル)
ツェデフスレン・ムンクザヤ(モンゴル)○優勢[指導2]△アンナ・ベルンホルム(スウェーデン)

【決勝】

ティナ・トルステニャック(スロベニア)○横四方固(3:24)△アリス・シュレシンジャー(イギリス)

■ 70kg級・グラフ爆発、全試合一本勝ちで優勝飾る
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新井千鶴とベルナデッテ・グラフによる決勝

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グラフの大内返「一本」で試合終了

(エントリー34名)

【入賞者】
1.GRAF, Bernadette(AUT)
2.ARAI, Chizuru(JPN)
3.ALVEAR, Yuri(COL)
3.VARGAS KOCH, Laura(GER)
5.BOLDER, Linda(ISR)
5.CONWAY, Sally(GBR)
7.BERNABEU, Maria(ESP)
7.CORTES ALDAMA, Onix(CUB)

決勝に進んだのは新井千鶴とベルナデッテ・グラフ(オーストリア)の2名。

第4シード配置の新井は2回戦でアンカ・ポガニック(スロバニア)に「指導2」の優勢勝ち、3回戦はミーガン・フレッチャー(イングランド)に出足払「有効」の優勢、準々決勝はマリア・ベルナベウ(スペオン)に内股「有効」による優勢で勝利してベスト4入り。第1シード選手ラウラ・ファルカスコッホ(ドイツ)を畳に迎えた準決勝は開始早々に支釣込足で転がし、縦四方固に抑え込んでこの日初めての一本勝ち。気を良くして決勝の畳に上がる。

一方のグラフの勝ち上がりはまさしく出色。Bシードからスタートすると2回戦はマリア・ペレス(プエルトリコ)を支釣込足「一本」(3:15)、3回戦はツェンド アユシュ・ナランジャルガル(モンゴル)を裏投「一本」で下し、準々決勝は強敵サリー・コンウェイ(イギリス)から内股「有効」、裏投「一本」(3:40)と連取して快勝。準決勝では世界戦選手権覇者ユリ・アルベール(コロンビア)を片手絞「一本」(0:42)で秒殺、全試合一本勝ちで決勝進出決定。

決勝は左相四つ。横変形に構えたグラフは引込返で先制攻撃、以後も体の強さをタテに優勢。グラフの横変形に対応を迷った新井は釣り手を肩越しに探る曖昧な組み手、これが主審のセンサーに引っかかり、49秒新井にクロス組み手の咎で「指導1」が宣告される。

なかなか間合いに入っていけない新井、再開すると釣り手を肩越しに入れて「小内払い」の牽制。続いて間を置かずに左大内刈、さらに頭を下げて内股に切り替えるがそれでもグラフが崩れぬとみると再び大内刈に技を戻す。しかし間合いが遠いまま仕掛けた一連の技はいずれも効かず、「とりあえず頭を下げる」内股アクションによってさらに距離を遠ざけてしまった末にケンケンに打って出た新井の体はこの時点で既に伸び切ってしまいバランスが取れていない。しっかり腰を下げて迎え撃ったグラフ、新井を抱いて裏投の形で放り投げこれは文句なしの「一本」。

グラフ、見事全試合一本勝ちで優勝決定。アスタナ世界戦選手権(5位)以来試合出場を控え、じっくり仕上げてきた戦略が実った格好である。混戦下にある70kg級の有力選手として再び存在感を示した大会となった。

新井は優勝こそならなかったがひとまず結果を出したという大会。田知本遥がグランドスラム・パリで2位入賞していることを思えば、最低限のハードルを越えたとは言える。

ただし内容は決して高く評価出来るものではなかった。それぞれの場面でやりたいことと釣り手の形が噛み合わないことが非常に多く、攻防ともになかなか形にならない。ケンカ四つのベルナベウ戦で釣り手で外側を持って距離を詰められないまま足技に出、さらに技の中途で釣り手を離して背中を抱えてしまおうと試み、ために自らバランスを失った場面などにこの傾向は端的。また、グラフ戦では距離が詰まっておらず力の伝わらない状況にあるのに早く投げてシークエンスを終わらせてしまおうとばかりに内股で頭を下げて自らの体勢を悪化させ、さらにバランス負けしているのにケンケン大内で体を捨てに掛かってしまった。世界選手権の敗戦場面で見せた悪い癖をまたもや見せたと評されても致し方ないのではないだろうか。技の成立要件が整っていないのに「目を瞑って体を捨てる」のは勇気ではなく一種思考停止の蛮勇、むしろメンタルの弱さを見せているように見受けられる。

組み手とアクションの連動性のなさ、「目を瞑って体を捨てる」メンタルの弱さともに新井が昨年から見せ続けている課題そのもの。これだけ悪い出来でありながら決勝まで進出する新井の強さはむしろ高く買われるべきなのかもしれないが、課題の払拭ならない状態での勝利では「上がり目」と評価することは難しい。世界選手権から半年、グランドスラム東京から2か月が経過したが上向きのベクトルを見せることが出来なかった、良くも悪くも平常運航の大会であった。

大物新井、いまだその力を開放する道筋は得られず、満々と湛えられた「水」は目詰まりを起こした水路の中途で溜め置かれたたまま。才能発揮はいつになるのか、本人の努力と所属の奮闘に期待したい。

世界選手権を3度制している今大会の主役・アルベールは準決勝を落としたが3位決定戦を手堅く勝って表彰台は確保。五輪最大の不確定要素の1人であるボルダーをしっかり弾き出したこの一番はさすがであった。

グランドスラム・パリの覇者キム・センヨン(韓国)は3回戦でオニキス・コルテスアルダマ(キューバ)に縦四方固「有効」で敗退。第3シードのコンウェイは前述の通り準々決勝でグラフに敗れ、最終成績は5位に留まった。

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2位入賞の新井千鶴

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70kg級入賞者。左から新井、グラフ、アルベール、ファルカスコッホ。

【準々決勝】

ラウラ・ファルカス・コッホ(ドイツ)○優勢[有効・浮落]△リンダ・ボルダー(イスラエル)
新井千鶴○優勢[有効・内股]△マリア・ベルナベウ(スペイン)
ユリ・アルベール(コロンビア)○優勢[技有・内股]△オニキス・コルテス・アルダマ(キューバ)
ベルナデッテ・グラフ(オーストリア)○裏投(3:40)△サリー・コンウェイ(イギリス)

【準決勝】

新井千鶴○縦四方固(0:45)△ラウラ・ファルカスコッホ(ドイツ)
ベルナデッテ・グラフ(オーストリア)○片手絞(0:42)△ラウラ・ファルカス・コッホ(ドイツ)

【3位決定戦】

ユリ・アルベール(コロンビア)○優勢[技有・大内刈]△リンダ・ボルダー(イスラエル)
ラウラ・ファルカス・コッホ(ドイツ)○片手絞(3:06)△オニキス・コルテス・アルダマ(キューバ)

【決勝】

ベルナデッテ・グラフ(オーストリア)○大内返(1:05)△新井千鶴


【日本代表選手勝ち上がり】

新井千鶴(三井住友海上)
成績:2位

[1回戦]
新井千鶴○優勢[指導2]△アンカ・ポガニック(スロベニア)

[2回戦]
新井千鶴○優勢[指導2]△ミーガン・フレッチャー(イギリス)

[準々決勝]
新井千鶴○優勢[有効・内股]△マリア・ベルナベウ(スペイン)

[準決勝]
新井千鶴○縦四方固(0:45)△ラウラ・ファルカスコッホ(ドイツ)

[決勝]
新井千鶴△大内返(1:05)○ベルナデッテ・グラフ(オーストリア)

文責:古田英毅
写真:Gabi Juan
Text by Hideki Furuta
Photo by Gabi Juan

※ eJudoメルマガ版3月13日掲載記事より転載・編集しています。

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